本稿の科学的根拠
本稿は、提供された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。
- 世界保健機関(WHO): 本稿における糖尿病の世界的定義と公衆衛生上の重要性に関する記述は、世界保健機関の公式ファクトシートに基づいています2。
- 日本糖尿病学会: 診断基準、治療目標(例:HbA1c 7.0%未満)、生活習慣改善の指針、薬物療法開始のタイミング、インスリン治療の適応など、本稿の根幹をなす日本の臨床ガイドラインは、同学会の「糖尿病標準診療マニュアル」および公式ウェブサイトの情報に基づいています13。
- 米国糖尿病協会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD): 心血管・腎保護を目的とした薬剤選択のパラダイムシフトや、個別化された治療目標の設定に関する国際的なコンセンサスは、これらの学会が共同で発表した報告書に基づいています4。
- JPHC研究(多目的コホート研究): 日本人における白米の過剰摂取リスクや魚食の予防効果に関する具体的なデータは、国立がん研究センターが実施したこの大規模疫学研究の成果を引用しています56。
要点まとめ
- 糖尿病治療の目標は、合併症を予防し健康寿命を延ばすことであり、一般的な血糖管理目標はヘモグロビンA1c(HbA1c)を7.0%未満に保つことです。
- 治療の基本は常に「食事療法」と「運動療法」であり、まず2~3ヶ月間この生活習慣改善に取り組み、その効果を評価することが標準的な手順です。
- 生活習慣改善のみでHbA1cが目標値まで下がらない場合に薬物療法を開始しますが、診断時に著しい高血糖や症状がある場合は、直ちに薬物療法が必要です。
- 現代の薬剤選択は、単に血糖値を下げるだけでなく、心臓や腎臓を保護する効果を持つ「SGLT2阻害薬」や「GLP-1受容体作動薬」が重視される傾向にあります。
- 日本人においては、白米の過剰摂取が糖尿病リスクを高める一方、魚、特に青魚の摂取がリスクを低減させることが大規模研究で示されており、食事管理において重要な視点となります。
基盤となる治療:診断と生活習慣管理の優先
薬物療法を検討する以前に、すべての2型糖尿病治療は正確な診断と、最も強力な治療法である生活習慣の改善から始まります。この初期段階が、その後の治療経過を大きく左右します。
スタートラインの画定:日本の糖尿病診断基準
治療について議論する上で、まず客観的な出発点となるのが「診断」です。日本糖尿病学会が定める診断基準は、以下の通りです1。
以下のいずれかの血糖値が確認された場合、「糖尿病型」と判定されます。
- 早朝空腹時血糖値:126 mg/dL 以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値:200 mg/dL 以上
- 随時血糖値:200 mg/dL 以上
そして、別の日に行った再検査で再び上記のいずれかの基準を満たすか、あるいは同時に測定したヘモグロビンA1c(HbA1c)が 6.5% 以上である場合に、糖尿病と正式に診断されます。このHbA1cは、過去1~2ヶ月の平均的な血糖状態を反映する重要な指標です。
最初で最も強力な処方箋:食事と運動
2型糖尿病と診断されたすべての人にとって、治療の第一歩であり、最も根幹をなすのが食事療法と運動療法です7。薬物療法は、この生活習慣改善を補うためのものであり、決してその代わりにはなりません。
食事療法:何を、どう食べるか
日本の食文化に即した食事指導は、特に重要です。2024年の日本糖尿病学会のガイドラインでは、特に過体重や肥満を伴う患者において、エネルギー摂取量を制限することが、HbA1c、コレステロール、血圧の改善に有効であるという強力な科学的根拠に基づいて推奨されるようになりました8。
- 食べる順番の工夫:食物繊維が豊富な野菜を先に食べ、次におかず(タンパク質)、最後に炭水化物を摂る「ベジタブルファースト」は、食後の血糖値の急上昇を穏やかにする効果的な方法です3。
- 炭水化物制限の考え方:極端な制限は推奨されませんが、2024年のガイドラインでは、6~12ヶ月の短期間であれば、緩やかな炭水化物制限が血糖管理に有効であることが示されました。ただし、合併症がある場合や特定の薬剤を使用している場合は推奨されず、専門家による適切な指導が不可欠です8。
- バランスの重要性:特定の食品を排除するのではなく、多様な食品からバランス良く栄養を摂ることが基本です。
運動療法:なぜ、どう行うか
運動は、筋肉でのブドウ糖利用を促進し、インスリンの働きを良くする(インスリン抵抗性の改善)ことで、血糖値を直接的に改善します1。
- 推奨される運動:ウォーキング(1回15~30分を1日2回、週3日以上)などの有酸素運動に加え、筋力トレーニング(レジスタンス運動)を組み合わせると相乗効果が期待できます1。
- 安全への配慮:運動は、空腹時血糖値が 250 mg/dL 以上の場合や、尿中にケトン体が出ている場合、重度の合併症がある場合には禁止または制限が必要です。必ず主治医と相談の上で開始することが極めて重要です1。
重要な観察期間:2~3ヶ月間の生活習慣改善効果の評価
薬物療法をすぐに開始するのではなく、まず2~3ヶ月間、集中的に食事療法と運動療法に取り組む期間を設けるのが標準的なアプローチです3。この期間は、単なる「待ち時間」ではありません。これは、患者自身が自分の生活を見直し、積極的に治療に参加することで、病状を管理できる可能性を試す「治療的試行期間」と捉えるべきです。この期間に生活習慣の改善だけで血糖値が目標値まで下がれば、薬物療法の開始を遅らせる、あるいは回避できる可能性も十分にあります。医師にとっても、この期間は患者の生活習慣への取り組み度合いや、身体が非薬物療法にどう反応するかを評価する重要な診断的機会となります。この2~3ヶ月という期間が、その後の治療の方向性を決める最初の分岐点となるのです。
転換点:薬物療法を開始する臨床的指標
生活習慣の改善に最大限取り組んだ後、次の段階として薬物療法を検討します。その判断は、主に血液検査の結果、特にHbA1cの値に基づいて行われます。
主要な評価指標:ヘモグロビンA1c(HbA1c)を理解する
HbA1cは、赤血球中のヘモグロビンが血液中のブドウ糖とどれだけ結合しているかを示す指標で、過去1~2ヶ月間の平均血糖値を反映します。日々の血糖値の変動に左右されないため、長期的な血糖管理状態を評価するのに非常に信頼性の高い指標です。糖尿病治療における合併症予防のための一般的な血糖管理目標は、HbA1cを 7.0% 未満に保つことです4。この数値が、生活習慣改善や薬物療法によって目指すべき中心的な目標となります。
「標準的な道筋」での薬物療法開始
多くの患者にとって、薬物療法開始のタイミングは明確です。前述の2~3ヶ月間の集中的な食事・運動療法に取り組んだにもかかわらず、HbA1cが目標である 7.0% 未満に下がらない場合、薬物療法を開始することが推奨されます3。これが、利用者の「いつから薬を飲むのか」という問いに対する最も標準的な答えとなります。生活習慣の改善だけでは、長期的な合併症を防ぐために必要な血糖管理を達成できないと判断される時点が、薬物療法の開始点です。
「緊急的な道筋」:直ちに薬物療法が必要な状況
一方で、診断と同時に、あるいは2~3ヶ月の観察期間を待たずに薬物療法を開始すべき状況も存在します。これは、高血糖が身体に与える危険性が大きく、生活習慣の改善だけで対処するには危険と判断される場合です1。
- 著しい高血糖:診断時の血糖値が極めて高い場合(例:空腹時血糖値が 250 mg/dL を超える、あるいは随時血糖値が 300 mg/dL を超えるような場合)1。
- 高血糖による症状の存在:口渇、多飲、多尿、体重減少といった明らかな糖尿病の症状がある場合。
- 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)や高血糖高浸透圧症候群(HHS):インスリンの極端な不足により体内にケトン体という有害物質が蓄積したり、極度の脱水状態に陥ったりする、生命に関わる緊急状態。この場合は直ちにインスリン治療が必要です1。
- その他の状況:重症の感染症、大きな手術、妊娠中など、身体に大きなストレスがかかり、血糖管理が困難になる場合も、速やかな薬物療法(多くはインスリン)が必要となります3。
このように、治療開始のタイミングには、生活習慣改善の効果を見極める「標準的な道筋」と、高血糖の重症度から直ちに介入が必要な「緊急的な道筋」の二つの論理的な経路が存在します。
標準目標を超えて:個別化された治療目標の原則
7.0% という目標は万人に適用される絶対的なものではありません。最新の国際的なガイドラインは、治療目標を患者一人ひとりの状況に合わせて個別化することの重要性を強調しています4。
- より緩やかな目標(例:HbA1c <8.0%)が設定される場合:高齢者、重篤な併存疾患(末期がん、重症心不全など)を持つ方、重症低血糖の危険性が高い方、認知機能や身体機能に制限がある方など、厳格な血糖管理による危険性が利益を上回る可能性がある場合です9。
- より厳格な目標(例:HbA1c <6.5%)が検討される場合:若年者、罹病期間が短い方、心血管疾患がない方、そして低血糖の危険性が低い薬剤で治療可能な場合など、長期的な合併症予防の利益が大きいと考えられる場合です10。
以下の表は、薬物療法を開始する主なきっかけをまとめたものです。
経路 | 臨床シナリオ | 典型的なアクション | 根拠 |
---|---|---|---|
標準的な道筋 | 新規の2型糖尿病診断。無症状または軽度の症状で、HbA1cは基準値以上だが著しい高値ではない。 | 2~3ヶ月間、集中的な食事・運動療法を実施する。 | 生活習慣改善の強力な効果を最大限に活用し、患者の自己管理能力を高めるため。 |
標準的な道筋(フォローアップ) | 2~3ヶ月の生活習慣療法後も、HbA1cが 7.0% 以上(または個別目標値以上)である。 | 経口薬による薬物療法を開始する。 | 生活習慣改善だけでは、長期合併症予防に必要な血糖目標を達成できないため。 |
緊急的な道筋 | 著しい高血糖(例:血糖値 >250−300 mg/dL)、明らかな症状、ケトーシスの存在下での診断。 | 診断と同時に薬物療法(経口薬および/またはインスリン)を開始する。 | 高血糖のレベルが代謝的に危険であり、生活習慣改善のみでの管理は安全でないため。 |
薬局をナビゲートする:現代の糖尿病治療薬ガイド
薬物療法を開始すると決まったら、次に「どの薬を選ぶか」という問いに直面します。現代の薬剤選択は、単に血糖値を下げるだけでなく、心臓や腎臓といった重要な臓器を保護するという、より包括的な視点で行われます。
第一選択薬:二つの薬剤の物語(メトホルミン vs. DPP-4阻害薬)
世界の多くのガイドラインでは、ビグアナイド薬に分類される「メトホルミン」が第一選択薬として推奨されています7。その理由は、長い使用実績、安価な薬価、単独使用では低血糖の危険性が非常に低いこと、そして心血管疾患の危険性を低減する可能性が示されているためです。一方で、日本では「DPP-4阻害薬」が第一選択薬として頻繁に処方される傾向があります11。これは、メトホルミンで時に見られる消化器系の副作用(下痢など)が少なく、忍容性が非常に高いことなどが背景にあると考えられます。
新しいパラダイム:血糖値を下げる以上の効果を持つ薬剤
近年の糖尿病治療における最も大きな進歩は、治療の考え方が「血糖中心」から「合併症中心」へと移行したことです。つまり、血糖値を下げるだけでなく、糖尿病患者の最大の死因である心血管疾患や、生活の質を著しく損なう腎臓病から患者を守る薬剤を積極的に選択するようになったのです4。この新しい哲学は、2025年の米国糖尿病協会(ADA)ガイドラインで導入された「心血管・腎・代謝(CKM)ヘルス」という新しい用語にも象徴されています9。この新しいパラダイムの中心に位置するのが、「SGLT2阻害薬」と「GLP-1受容体作動薬」という二つのクラスの薬剤です。これらの薬剤は、心血管疾患、心不全、または慢性腎臓病を持つ、あるいはその危険性が高い患者において、血糖降下作用とは独立して臓器を保護する効果が証明されています4。
主な経口薬クラスの概要
以下の表は、日本糖尿病学会のアルゴリズムなどを参考に、主要な経口糖尿病薬の特徴をまとめたものです12。特にSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬が持つ心臓・腎臓保護効果が、現代の薬剤選択においていかに重要視されているかを示しています。
薬剤クラス | 代表的な薬剤名 | 作用機序(簡易) | HbA1c低下作用 | 体重への影響 | 心臓保護 | 腎臓保護 | 主な副作用・留意点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ビグアナイド薬 | メトグルコ | 肝臓での糖新生を抑制 | 中 | 変化なし~減少 | あり | あり | 消化器症状、稀に乳酸アシドーシス |
SGLT2阻害薬 | ジャディアンス、フォシーガ | 尿中に過剰な糖を排泄 | 中 | 減少 | 非常に強い | 非常に強い | 尿路・性器感染症、脱水、ケトアシドーシス |
DPP-4阻害薬 | ジャヌビア、トラゼンタ | 食事に応じたインスリン分泌を促進 | 中 | 変化なし | なし | なし | 副作用は少ない、稀に関節痛や水疱性類天疱瘡 |
GLP-1受容体作動薬(経口) | リベルサス | インスリン分泌促進、食欲抑制 | 強 | 減少 | あり | あり | 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢) |
スルホニル尿素(SU)薬 | アマリール | 膵臓を刺激しインスリン分泌を強制 | 強 | 増加 | なし | なし | 低血糖、体重増加 |
先進的治療と注射療法
経口薬だけでは管理が不十分な場合や、より強力な効果が必要な場合には、注射療法が選択肢となります。これには、インスリンと、近年目覚ましい進歩を遂げているGLP-1受容体作動薬が含まれます。
新たなフロンティア:GLP-1およびGIP/GLP-1受容体作動薬
このクラスの薬剤は、血糖値が高い時にだけインスリン分泌を促し、食欲を抑制する効果を持つ注射薬です。重要なのは、これらがインスリンではないという点です3。特に注目されているのが、GIPとGLP-1という二つのホルモンに作用するデュアルアゴニスト「マンジャロ(チルゼパチド)」です13。日本人を対象とした臨床試験では、従来の治療で効果不十分だった患者において、HbA1cを平均で2.4%~2.8% 低下させ、体重を 5 kg~10 kg 減少させるという、極めて高い効果が示されました14。この画期的な効果は、糖尿病治療と肥満治療の境界を曖昧にするほどのインパクトを持っています。しかし、その一方で、治療費が高額になるという現実的な課題も存在します14。
インスリンの誤解を解く:いつ、なぜインスリンが必要か
「インスリン注射は治療の最終段階」という考えは、過去のものです。現代医療において、インスリンは適切なタイミングで用いるべき、安全で非常に効果的な治療ツールです。日本糖尿病学会は、インスリン治療が必要となる状況を明確に定義しています1。
- 絶対的適応:1型糖尿病、糖尿病昏睡・ケトアシドーシス、重篤な肝・腎障害、妊娠中。これらの状況ではインスリンが必須です。
- 相対的適応:複数の経口薬を使用しても血糖管理が不十分な場合(例:HbA1cが 9.0% を超える)、著しい高血糖にケトン体を伴う場合など。
多くの患者が抱く「痛そう」「一生やめられない」といった不安も、現代の治療では大きく軽減されています。注射針は極めて細く、ペン型の注入器によって手技は簡便化されており、痛みはほとんどありません3。インスリンは、枯渇した体内のホルモンを補充する自然な治療法であり、病状が改善すれば経口薬に変更できるケースも少なくありません。
日本人特有の視点:食事、リスク、そして予防
糖尿病のリスクや予防を考える上で、日本人の食生活には特有の課題と利点が存在します。
米のジレンマ:主食と糖尿病リスクのバランス
世界的に健康食と認識される和食ですが、その主食である白米の過剰摂取が、特にアジア人において2型糖尿病のリスクを高めることが科学的に示されています。2024年の日本糖尿病学会のガイドラインでも、白米の摂取がリスクを上昇させることが明記されています15。あるメタアナリシス研究では、白米の消費量が多い中国人と日本人で、2型糖尿病リスクとの間に強い関連が見られました16。さらに、日本の大規模コホート研究(JPHC研究)では、1日に3杯以上(約420g以上)の米飯を摂取する女性は、摂取量が少ない女性に比べて糖尿病の発症リスクが有意に高くなることが報告されています5。これは、文化的な主食が、皮肉にも主要なリスク因子となり得るという、日本人特有の「食のパラドックス」を示しています。
魚の力:JPHC研究からの洞察
一方で、同じJPHC研究は、日本人にとって非常に肯定的な知見も提供しています。魚介類、特にアジ、イワシ、サンマ、サバといった脂の多い青魚を多く摂取する男性は、ほとんど食べない男性に比べて糖尿病の発症リスクが約3割低いことが示されました1718。魚に含まれる良質なタンパク質やn-3系不飽和脂肪酸が、インスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられています19。
糖尿病を意識した和食のための実践的ステップ
これらの科学的根拠を統合すると、日本人にとって実践的かつ文化的に配慮した、以下の食事戦略が導き出されます。
- 白米の量に注意する:茶碗を少し小さくするなど、一食あたりの量を意識的に減らす。
- 玄米や全粒穀物を取り入れる:白米の一部を玄米や雑穀米に置き換えることで、食物繊維やマグネシウムの摂取量を増やし、リスクを低減できます15。
- 魚の摂取を優先する:特に旬の青魚を積極的に食卓に取り入れる。
- 「ベジタブルファースト」を徹底する:食事の最初に野菜や海藻を食べることで、米の摂取による血糖値の急上昇を緩和する3。
このアプローチは、海外の一般的な食事指導をそのまま持ち込むのではなく、「米というリスクを管理しつつ、魚という利点を最大化する」という、日本人特有の食生活に最適化された予防戦略です。
よくある質問
血糖値がいくつになったら、薬を飲み始めるべきですか?
インスリン注射は「治療の最終手段」なのでしょうか?
それは過去の考え方です。現代の医療では、インスリンは「適切な時期に使用すべき、安全で効果的な治療法」と位置づけられています1。体内でインスリンを作る力が著しく低下した場合や、経口薬だけでは血糖管理が難しい場合、また感染症や手術などで一時的に血糖値が非常に高くなった場合などに必要となります。インスリンは枯渇したホルモンを補充する自然な治療であり、必ずしも一生続けるものではなく、状態が改善すれば経口薬へ変更できることもあります。
日本人の食事で特に気をつけるべきことは何ですか?
結論
「血糖値がいくらになったら薬を飲むべきか?」という問いへの最終的な答えは、「普遍的な一つの数値ではなく、あなたの身体の状態、生活習慣、そして人生の目標に基づいて、主治医と共同で決定される個別化された判断である」ということです4。本稿で詳述したように、治療の開始には、生活習慣改善の効果を見極める「標準的な道筋」と、高血糖の重症度から判断される「緊急的な道筋」があります。使用する薬剤の選択も、単に血糖値を下げるだけでなく、心臓や腎臓を守るという長期的な視点から、個々の危険性に応じて行われます。薬物療法は、治療の終わりではなく、新たなスタートです。それは、生活習慣改善という土台を補強し、合併症のない健康な人生という目標を達成するための強力なツールです。最新の医学的知見を理解し、自身の身体と向き合い、そして主治医と緊密なパートナーシップを築くこと。それこそが、糖尿病という長い付き合いになるかもしれない病気を乗りこなし、豊かな人生を送り続けるための最も確実な道筋と言えるでしょう1。
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