【科学的根拠に基づく】末期白血病の症状から緩和ケア、家族の支援まで|穏やかな最期を迎えるための完全ガイド
がん・腫瘍疾患

【科学的根拠に基づく】末期白血病の症状から緩和ケア、家族の支援まで|穏やかな最期を迎えるための完全ガイド

末期白血病という診断は、患者様ご本人だけでなく、そのご家族にとっても、計り知れないほどの衝撃と不安をもたらすものです。未来への見通しが立たない中で、これから何が起こるのか、どのような苦痛が伴うのか、そして残された時間をどのように過ごせば良いのかという問いが、心に重くのしかかります。この記事は、そのような困難な状況に直面されているすべての患者様とご家族のための、信頼できる道標となることを目指しています。本稿では、世界保健機関(WHO)が定義する緩和ケアの理念に基づき15、単に症状を解説するだけでなく、その苦痛を和らげ、穏やかな時間を過ごすための具体的な方法を、科学的根拠に基づいて網羅的に解説します。ここで提供される情報は、米国のNCCN(National Comprehensive Cancer Network)や日本血液学会といった国内外の最高権威の診療ガイドライン232、そして最新の医学研究に基づいています。この記事を通して、ご自身の、あるいは大切な方の身体に起こる変化を正しく理解し、利用可能な医療や支援について知ることが、先の見えない不安を和らげ、尊厳ある日々を送るための第一歩となることを願っています。これは、決して希望を捨てるための情報ではなく、残された時間をより良く生きるための「力」を得るためのガイドです。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源のみが含まれており、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性も示されています。

  • 日本血液学会: 本稿における各種白血病の診断、治療、および管理に関する記述は、同学会が発行する「造血器腫瘍診療ガイドライン」に基づいています32
  • National Comprehensive Cancer Network (NCCN): 急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)に関する症状や治療の選択肢についての記述は、同機関が発行する患者向けガイドラインを主要な参考資料としています2
  • The Leukemia & Lymphoma Society (LLS): ホスピスケアや終末期における意思決定支援に関する指針は、同団体が公開した資料に基づいています4
  • 国立がん研究センター がん情報サービス: 日本における白血病の最新の罹患数・死亡数統計、および緩和ケアの基本的な考え方については、同センターが提供する情報を参照しています5
  • 日本緩和医療学会 (JSPM): 疼痛管理、鎮静、小児緩和ケアに関する専門的な指針は、同学会が発行する各種ガイドラインに基づいています18

要点まとめ

    • 白血病における「末期」とは、治癒を目指す治療が困難になった状態を指し、苦痛緩和を目的とする積極的なケアへの移行を意味します。
    • 末期の主な症状は、骨髄不全による重度の貧血、出血傾向、感染しやすさ(易感染性)です。これらは輸血や感染対策で対応します。

  • 緩和ケアは「がんと診断されたときから」開始されるべきもので、QOL(生活の質)の向上に寄与することが科学的に示されています。
  • 医療用麻薬は、専門家の管理下で適切に使用すれば依存することは稀であり、痛みをコントロールするために非常に有効な手段です。
  • 「人生会議(ACP)」を通じて、終末期にどのような医療を望むかを事前に家族や医療者と話し合っておくことが、本人の意思尊重と家族の負担軽減に繋がります。
  • ご家族は、患者様の支えであると同時に、自分自身の心身の健康を守るために、公的支援や専門家のサポートを積極的に利用することが重要です。

第1部:末期白血病を理解する

白血病の終末期について考えるとき、まずその言葉が医学的に何を意味するのか、そしてご自身やご家族がどのような状況に置かれているのかを正しく把握することが、不安を和らげる第一歩となります。

1.1. 白血病における「末期」とは何か?

一般的に「末期」という言葉は、胃がんや肺がんといった固形がんにおけるステージ4のように、明確な病期分類を連想させます。しかし、血液のがんである白血病には、このようなはっきりとしたステージ分類が存在しません1。白血病における「末期」とは、病気の進行段階を示す言葉というよりも、治療の目標が変化した状態を指します。具体的には、治癒を目指すための強力な化学療法や骨髄移植といった治療が、効果を示さなくなった(治療抵抗性)、あるいは副作用などの理由で続けることが困難になった状態です23。この段階では、全日本病院協会のガイドラインにも示されているように、医療の主たる目的が「がんを治すこと」から、「がんに伴う様々な身体的・精神的な苦痛を和らげ、生活の質(QOL: Quality of Life)を可能な限り高く維持すること」へと移行します2。これは決して「治療の諦め」を意味するものではありません。The Leukemia & Lymphoma Society (LLS)も強調するように、むしろ、患者様が自分らしく、尊厳を保ちながら穏やかな時間を過ごせるよう、医療チームが総力を挙げて支援する、積極的なケアの始まりなのです4

1.2. 日本における白血病の現状:最新統計データ

患者様やご家族が直面している病気が、社会全体でどのような位置づけにあるのかを客観的に知ることは、状況を理解する一助となります。以下に、国立がん研究センターが公開している最新の統計データに基づき、日本における白血病の現状を示します5。これらのデータには、厚生労働省の人口動態統計も反映されています5

表1: 日本における白血病の主要統計
統計項目 データ 出典
年間罹患数 (2021年) 14,808例 (男性 8,597例、女性 6,211例) 国立がん研究センター がん情報サービス5
年間死亡数 (2023年) 9,869人 (男性 6,095人、女性 3,774人) 国立がん研究センター がん情報サービス5
5年相対生存率 (2009-2011年診断例) 44.0% (男性 43.4%、女性 44.9%) 国立がん研究センター がん情報サービス5

これらの数値は、白血病が決して稀な病気ではなく、多くの人々が闘病している現実を示しています。特に高齢化に伴い、罹患者数は増加傾向にあると指摘されています7。生存率は病型や年齢によって大きく異なりますが8、医療の進歩により改善し続けていることも事実です。

1.3. 病型で異なる終末期の様相:AML, ALL, CML, CLL

「白血病」と一括りにされがちですが、その性質は病型によって大きく異なり、終末期に至る経過や直面する問題も様々です3

急性骨髄性白血病 (Acute Myeloid Leukemia, AML)

特に高齢者に多く、進行が非常に速いのが特徴です3。PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の資料にもあるように、治療に反応しない場合、数週間から数ヶ月単位で病状が悪化することがあります9。終末期には、骨髄の機能が極度に低下し、重篤な感染症やコントロール不能な出血が直接的な生命の危機につながりやすくなります1

急性リンパ性白血病 (Acute Lymphoblastic Leukemia, ALL)

小児では治癒率が高い一方、成人、特に高齢者では治療抵抗性や再発が大きな課題となります3。NCCNのガイドラインによると、ALLに特徴的な問題として、白血病細胞が脳や脊髄を覆う髄液の中に浸潤(中枢神経系浸潤)するリスクがあり、頭痛や意識障害などの神経症状を引き起こすことがあります10

慢性骨髄性白血病 (Chronic Myeloid Leukemia, CML)

分子標的薬の登場により、多くの患者様が病状をコントロールし、長期生存が可能になりました3。しかし、薬剤が効かなくなったり、病気が急激に進行する「急性転化(Acute Blast Crisis)」を起こしたりすると、急性白血病と同様の状態となり、終末期医療へと移行します。

慢性リンパ性白血病 (Chronic Lymphocytic Leukemia, CLL)

欧米に比べて日本では稀な病型です7。NCCNのガイドラインによれば、進行は非常に緩やかで、多くの場合、長期間にわたり無治療で経過を観察します(Watch and Wait)11。終末期には、免疫機能が著しく低下し、重い感染症を繰り返すことが主な問題となります。また、稀に悪性度の高いリンパ腫に変化(Richter症候群)することもあります11

このように、病型ごとの特徴を理解することは、今後の経過を予測し、適切なケアを考える上で非常に重要です。

第2部:身体的苦痛を理解し、和らげる:症状別ガイド

末期の白血病における身体的苦痛の多くは、骨髄で正常な血液細胞が作られなくなる「骨髄不全」と、増殖した白血病細胞が様々な臓器に浸潤することによって引き起こされます14

2.1. 骨髄不全による3大症状

骨髄の機能が失われると、赤血球、血小板、白血球という生命維持に不可欠な3つの血液細胞が減少し、それぞれ特徴的な症状が現れます。

2.1.1. 重度の貧血(赤血球減少)

体中に酸素を運ぶ赤血球が不足すると、全身が酸欠状態になります。これにより、体を少し動かしただけで息が切れる、心臓がドキドキする(動悸)、常に体がだるく起き上がれないほどの倦怠感、めまいといった症状が現れます10。終末期にはこれらの症状が極度に強まり、日常生活を著しく制限します。対処法としては、症状緩和を目的とした赤血球輸血が行われますが、頻繁な輸血は心臓への負担などの問題も生じるため、その必要性やタイミングは慎重に判断されます3

2.1.2. 出血傾向(血小板減少)

血液を固める役割を持つ血小板が減少すると、出血しやすく、また一度出血すると止まりにくくなります10。具体的には、皮膚に赤い点々(点状出血)や青あざ(紫斑)ができやすくなる、軽い刺激で鼻血や歯茎からの出血が起こる、といった症状が見られます12。進行すると、消化管からの出血(吐血や下血)や、最も重篤な合併症である脳出血を引き起こす危険性が高まります。日常生活では、転倒を防ぐ環境整備や、柔らかい歯ブラシを使うなどの口腔ケアが重要になります。症状が強い場合には、血小板輸血が行われます3

2.1.3. 易感染性(白血球/好中球減少)

細菌やウイルスから体を守る白血球(特に好中球)が減少すると、免疫力が著しく低下します。これは、末期白血病において最も生命を脅かす問題の一つです3。健常者であれば問題にならないような僅かな細菌でも、肺炎や敗血症といった重篤な感染症を引き起こす可能性があります。38度以上の発熱は「発熱性好中球減少症」と呼ばれる緊急事態であり、直ちに医療機関での対応が必要です10。感染予防のため、手洗いの徹底、人混みを避ける、加熱不十分な食品を避けるといった日常生活での注意が極めて重要となります。

2.2. 白血病細胞の臓器浸潤による症状

増殖した白血病細胞は血液の流れに乗って全身を巡り、様々な臓器に浸潤して機能障害を引き起こします。

  • 肝臓・脾臓の腫大: 白血病細胞が肝臓や脾臓に溜まることで、これらの臓器が腫れ上がります。お腹が張る(腹部膨満感)、食欲がなくなる、腹痛といった症状が現れます1
  • 骨の痛み: 骨の中心にある骨髄で白血病細胞が異常に増殖することで、骨の内側から圧力がかかり、持続的で強い痛み(骨痛)が生じることがあります1
  • リンパ節の腫れ: 首や脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れることがあります12
  • 中枢神経系(CNS)浸潤: 特に急性リンパ性白血病(ALL)で注意が必要ですが、白血病細胞が脳や脊髄に浸潤すると、激しい頭痛、吐き気・嘔吐、視力障害、けいれん、意識障害といった重篤な神経症状を引き起こすことがあります10。これらの症状は緊急の対応を要します。

第3部:緩和ケアとホスピス:穏やかな時間を支える医療

末期白血病のケアにおいて中心的な役割を担うのが「緩和ケア」と「ホスピスケア」です。これらは、患者様とご家族が直面する様々な苦痛を和らげ、穏やかな時間を支えるための重要なアプローチです。

3.1. 緩和ケアとは?「診断されたときから」始まるサポート

多くの方が「緩和ケアは、がんが末期になり、もう治療法がなくなった時に始めるもの」というイメージを持っているかもしれません。しかし、これは正確ではありません。世界保健機関(WHO)や日本の国立がん研究センターは、緩和ケアを「がんと診断されたときから」早期に開始すべきものであると定義しています15。緩和ケアの目的は、がん治療に伴う副作用や、がん自体が引き起こす痛み、倦怠感、吐き気といった身体的な苦痛、そして不安や抑うつ、孤独感といった精神的な苦痛を和らげることです15。2025年に発表された最新のシステマティックレビューによると、血液がんの患者様が早期から緩和ケアを受けることで、QOL(生活の質)が向上し、抑うつや不安が軽減されることが科学的に示されています16。Journal of Palliative Medicineに掲載された論文でも、急性骨髄性白血病患者における早期緩和ケアの重要性が強調されています13。つまり、緩和ケアは抗がん剤治療などと対立するものではなく、むしろ治療と並行して行われることで、患者様がより良い状態で治療を継続し、自分らしい生活を送ることを支えるための医療なのです。

3.2. 症状緩和の実際:エビデンスに基づくアプローチ

緩和ケアでは、患者様が最もつらいと感じる症状に対して、医学的根拠に基づいた様々な方法でアプローチします。

表2: 主要な苦痛症状に対する緩和的介入
症状 薬物療法(薬剤例) 非薬物療法
疼痛(骨痛など) ・非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)
・医療用麻薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)
・鎮痛補助薬(プレガバリンなど)
・放射線治療
・体位の工夫
・マッサージ、リフレクソロジー17
呼吸困難 ・医療用麻薬(モルヒネ)
・抗不安薬
・酸素療法
・安楽な姿勢の保持
・送風(顔に風を当てる)
悪心・嘔吐 ・各種制吐剤(メトクロプラミド、ドンペリドンなど) ・消化の良い食事
・環境整備(不快な臭いを避ける)
・アロマセラピー17
せん妄 ・抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピンなど)18 ・安心できる環境作り
・昼夜のリズムを整える
・家族による穏やかな声かけ

これらの介入は、日本緩和医療学会などの専門学会が作成したガイドラインに基づいて行われます18。特に医療用麻薬に対して「依存する」「寿命が縮まる」といった誤解や不安を抱く方がいますが、専門家の管理下で痛みの治療に用いる限り、そのようなことは起こりません15。不安な点は、遠慮なく医師や薬剤師に相談することが重要です。

3.3. 日本におけるホスピスケア

ホスピスケアは、緩和ケアの一つの形態であり、特に生命が終末期にあると判断された患者様を対象とします。一般的に、積極的な治癒を目指す治療は行わず、苦痛の緩和とQOLの維持に完全に焦点を当てたケアが提供されます4。The Leukemia & Lymphoma Societyの資料によると、多くのホスピスでは、予測される余命が6ヶ月以内であることが入所の目安とされています20。提供されるサービスは、医師や看護師による24時間体制の疼痛管理、精神的・スピリチュアルなケア、家族へのサポート(カウンセリングや死別の悲しみをケアするグリーフケアを含む)など、学際的なチームによる包括的なケアです21。日本医師会のガイドブックにもあるように、日本では専門の「緩和ケア病棟(ホスピス)」に入院する形が一般的ですが、近年では、訪問診療や訪問看護チームのサポートを受けながら、住み慣れた自宅で最期まで過ごす「在宅ホスピスケア」を選択する方も増えています22。ほうせんか病院のような国内最大規模の緩和ケア病棟を有する施設では、患者様の尊厳を重視したケアが実践されています24。どこで最期の時を過ごしたいかという希望は、患者様にとって非常に大切な自己決定の一つです。

第4部:患者様とご家族が共に歩むために

終末期という時間は、患者様ご本人だけの問題ではありません。最も身近で支えるご家族にとっても、心身ともに大きな負担がかかる、困難な道のりです。この時期を穏やかに過ごすためには、患者様とご家族、そして医療チームが一体となって歩むことが不可欠です。

4.1. 最期の迎え方を決める:人生会議(ACP)と事前指示書

患者様ご本人の意思が尊重された医療を実現するために、日本でも「人生会議(ACP: Advance Care Planning)」の重要性が強調されています。これは、東京都健康長寿医療センターも推進するように、もしもの時に備えて、ご自身が望む医療やケアについて、前もって考え、家族や医療者と繰り返し話し合い、共有するプロセスです27。その話し合いの結果を文書として残すのが「事前指示書(リビング・ウィル)」です2。具体的には、以下のような項目について意思表示をしておきます。

  • 心肺停止になった際に、心臓マッサージや人工呼吸器などの蘇生措置を望むか。
  • 食事が摂れなくなった際に、胃ろうや点滴による栄養補給を望むか。
  • 苦痛が強い場合に、意識が低下しても苦痛を和らげるための鎮静(セデーション)を望むか。

これらの意思決定は非常に重いものですが、判断能力があるうちに自らの希望を伝えておくことは、残された家族が「本人はどうしたかったのだろう」と苦悩し、難しい決断を迫られる負担を軽減することに繋がります2

4.2. ご家族ができること、知っておくべきこと

ご家族は、患者様にとって最も重要な精神的支柱であると同時に、ケアの担い手でもあります。しかし、The Leukemia & Lymphoma Societyの指摘によると、その役割は時に「ケアギバー・バーンアウト(介護疲れ)」と呼ばれる燃え尽き状態を引き起こすことがあります28

  • コミュニケーション: 患者様が話したいときには耳を傾け、話したくないときには静かに寄り添うことが大切です。無理に励ますのではなく、ただそばにいるだけで安心感を与えることができます15
  • 精神的サポート: 患者様が抱える不安や恐怖、怒りといった感情を受け止め、共有することが重要です。ご家族自身も、自らのつらさを医療ソーシャルワーカーや臨床心理士などの専門家に相談することをためらわないでください29
  • 社会資源の活用: 日本には、医療費の負担を軽減する「高額療養費制度」や、介護サービスを利用できる「介護保険制度」など、様々な公的支援があります。地域の「がん診療連携拠点病院」の相談支援センターでは、これらの制度に関する情報提供や手続きの支援を行っています。

ご家族が自分自身の心と体を大切にすることが、結果的に患者様をより良く支えることに繋がるのです。

4.3. 死が近づいているサインと看取りのケア

死が間近に迫ってくると、身体にはいくつかの特徴的な変化が現れます。これらのサインを知っておくことは、ご家族が動揺せず、穏やかにその時を迎えるための準備となります19

  • 意識レベルの低下: 眠っている時間が長くなり、呼びかけへの反応が鈍くなります。
  • 呼吸の変化: 呼吸が浅く速くなったり、時々止まったりする(チェーン・ストークス呼吸)ことがあります。喉の奥でゴロゴロと音がする(死前喘鳴)こともありますが、これは本人の苦痛ではないとされています。
  • 食事や水分の摂取量の減少: 体が必要としなくなるため、自然な経過として食事や水分をほとんど摂らなくなります。
  • 手足の冷感や皮膚の色の変化: 血圧が低下し、循環が悪くなることで手足が冷たくなり、紫色になることがあります。

これらの変化は、身体が死に向けて自然な準備をしているプロセスです。ご家族は、患者様が苦痛を感じていないかを見守りながら、口の中を湿らせる口腔ケア、楽な姿勢を保つための体位交換、そして穏やかな声かけやマッサージなどで、安らかな環境を整えることができます19

4.4. 大切な人を亡くした後のために:遺族ケア(グリーフケア)

大切な人を亡くした後に遺された家族が経験する深い悲しみや喪失感は、「悲嘆(グリーフ)」と呼ばれます。これは病気ではなく、愛する人を失ったことに対する自然で正常な反応です28。このつらい時期を乗り越えるために、様々なサポートが存在します。

  • 遺族会: 同じような経験をした人々と気持ちを分かち合う場です。
  • カウンセリング: 専門家(臨床心理士など)による個別のサポートです30
  • 医療機関によるサポート: 多くの緩和ケア病棟やホスピスでは、患者様が亡くなった後も、定期的に遺族を対象としたケアや相談会を実施しています4

一人で抱え込まず、これらの支援を積極的に利用することが、悲嘆のプロセスを歩む上で大きな助けとなります。

結論

本記事では、末期白血病と診断された際に直面する様々な課題について、科学的根拠に基づき、包括的に解説してきました。病気の進行に伴う身体的症状、それを和らげるための緩和ケア、そして患者様とご家族が共に穏やかな時間を過ごすための精神的・社会的サポートについて、具体的な情報を提供しました。末期白血病という診断は、確かに厳しい現実です。しかし、正しい知識を持つことは、先の見えない暗闇の中に確かな光を灯します。どのような症状が起こりうるのか、それに対してどのような対処法があるのかを知ることで、過度な不安は軽減されます。利用できる医療や支援制度を理解することで、孤独感は和らぎます。そして、ご家族と医療チームと共に、これからの時間をどう過ごしたいかを話し合うことで、残された一日一日をより尊厳ある、意味深いものにすることが可能です。この記事が、困難な道を歩む患者様とご家族にとって、信頼できる伴走者となり、穏やかな最期を迎えるための一助となることを心から願っています。どうか、一人で抱え込まず、担当の医師や看護師、緩和ケアチームとの対話を続けてください。

よくある質問

Q1: 緩和ケアを始めると、治療を諦めることになり、寿命が縮まるのではありませんか?

A1: いいえ、それは誤解です。近年の多くの研究で、がんと診断された早期から治療と並行して緩和ケアを受けることで、QOL(生活の質)が向上し、むしろ生存期間が延長する可能性も示唆されています16。緩和ケアは治療を妨げるものではなく、むしろ患者様がより良い状態で治療を続けるための支えとなる医療です15

Q2: 痛みの治療で使う医療用麻薬(オピオイド)は、中毒になったり依存したりするのが怖いのですが。

A2: がんの痛みに対して、医師の管理のもとで適切に医療用麻薬を使用する場合、精神的な依存や中毒になることは極めて稀です15。痛みがあるときにだけ効果を発揮するように作用するため、娯楽目的の乱用とは全く異なります。痛みを我慢することはQOLを著しく低下させますので、不安な点は医師や薬剤師に相談し、適切に痛みをコントロールすることが重要です。

Q3: 家族として、何をしてあげれば良いのか分からず、無力感に苛まれます。

A3: ご家族が感じる無力感は、大切な人を思うからこその自然な感情です。何か特別なことをする必要はありません。ただそばにいて、手を握り、話に耳を傾けるだけで、患者様にとっては大きな安心感に繋がります15。また、ご家族自身の心と体の健康を保つことも非常に重要です。つらい気持ちは医療ソーシャルワーカーやカウンセラーに相談し、一人で抱え込まないようにしてください29

免責事項本記事は、信頼できる情報源に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の治療法や医療機関を推奨するものではありません。患者様一人ひとりの病状や体調は異なり、最適な治療やケアも個別に判断される必要があります。本記事の情報を参考にしつつ、最終的な医療上の判断については、必ず担当の医師や医療専門家と十分に相談の上で行ってください。

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  29. 緩和ケア普及のための地域プロジェクト. これからの過ごし方について. [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://gankanwa.umin.jp/pdf/mitori02.pdf
  30. ナース専科. 第13回 家族ケア・遺族ケア|がん患者さんの家族も緩和ケアの対象です. [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://knowledge.nurse-senka.jp/227046/
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