はじめに
こんにちは、JHO編集部です。今日は、眼の健康において極めて重要とされるテーマである網膜剥離について、できるだけ詳しく解説いたします。網膜剥離とは、眼球内の奥に位置する網膜が本来あるべき位置から剥がれてしまう状態を指し、進行すると深刻な視力低下や永久的な視力喪失を招くリスクがあります。一見すると穏やかな症状から始まる場合が多いため、病気の進行に気づかないまま放置してしまう人も少なくありません。しかし、網膜剥離は進行が早いケースがあり、最悪の場合、数時間から数日のうちに不可逆的な視力喪失をもたらす可能性があります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、どのような初期兆候が出たときに専門医に相談すべきか、またどのような予防策や早期発見のポイントがあるのか、そして近年の研究からわかってきた知見などを含めて、総合的にお伝えいたします。視力は日常生活を営むうえで非常に重要な要素ですので、些細な異常を見逃さないことが大切です。
専門家への相談
本記事の内容は、複数の公的機関や医療機関の情報を参照しておりますが、最終的には読者の皆さまがご自身の眼の状態に合った判断をすることが不可欠です。わずかな兆候でも心配があれば、眼科の専門医に相談してください。とくに網膜剥離を疑う症状がある場合、時間をおくほど視力が回復しにくくなる可能性があります。この記事で紹介する情報はあくまでも一般的なものであり、個別の症状や状況に対応できるのは実際の診察を行う専門家のみです。
重要: 本記事は医療専門職免許をもつ医師による直接のアドバイスではありません。ここで提供する情報はあくまでも参考情報であり、診断や治療は必ず医師の指示に従ってください。
網膜剥離の注目すべき兆候
網膜剥離は初期段階では症状が軽微な場合が多く、そのため「大したことはないだろう」と見過ごされがちです。しかし実際には、少しずつ剥離が広がるにつれて視野が侵され、最終的に深刻な視力障害を引き起こします。ここでは、代表的な兆候を挙げながら、なぜこれらの症状が起こるのかを詳しく説明します。
視界の中の黒い点
網膜剥離の初期段階では、視界の中に急に黒い点(飛蚊症のように見える浮遊物)が増えることがあります。これらの黒い点は、
- 小さな斑点状
- 細長い線状
- ゆらゆら動く影状
など、さまざまなパターンで認識されることがあります。加齢や生理的な飛蚊症でも黒い点が見える場合はありますが、突然多量に増えたり、光を閉じても残像のように見えたりする場合には、網膜のどこかに裂傷が生じている可能性があります。裂傷が生じた部分から液体が入り込み、網膜がさらに剥がれやすくなるリスクが高まります。
目の中で光が閃く
視界の端や暗い場所で、カメラのフラッシュのような光や星がきらめくように見える「閃光(せんこう)視」が現れる場合があります。これは、網膜が物理的に刺激されて神経が誤作動を起こし、光として感じている状態です。目を閉じても光が見えるような場合には、網膜に亀裂や裂孔が生じていることを示すサインの可能性があります。加齢や強度近視がある人などでは、硝子体が網膜を強く引っ張ることがあり、こうした症状が起こりやすいと言われています。
周辺視野の低下と暗い影
網膜剥離が進行すると、周辺(周り)の視野から徐々に暗い影が張ってくるように感じることがあります。これはしばしば「カーテンがかかったような視野障害」と表現され、
- 周辺から中心へ向かって影が広がる
- 一部が黒く見えなくなる
といった症状が現れます。暗い影や視野の欠損に気付いたら、それはすでにある程度網膜が剥がれている段階と考えられます。さらに進行すれば、中心部の視野まで影響が及び、高度の視力低下を引き起こすため、早めの受診が不可欠です。
網膜剥離は痛みを伴うのか?
「網膜が剥がれる」と聞くと痛そうなイメージが湧くかもしれません。しかし、網膜自体には痛覚を感じる神経がほとんどないため、痛みがないまま進行するケースが多いのが特徴です。痛みがない分、患者自身も深刻度を実感しにくく、気づいた時にはかなり視野が侵されているという事態も珍しくありません。実際に、網膜剥離の初期症状を放置し、短期間のうちに深刻な視野障害へと進行してしまう例が報告されています。
痛みがないからといって安心は禁物です。急に視界に黒い点が増えたり、光が閃いたりした場合は、すぐに専門家へ相談することが賢明です。
どのタイミングで医師に相談すべきか?
上記のような兆候がみられても、必ずしも網膜剥離とは限らないケースもあります。しかし、少なくとも網膜に問題が生じている可能性は否定できません。放置していて自然に治癒する病態ではないため、「おかしいな」と思った段階で早めに専門医の診察を受けることが重要です。具体的には次のようなタイミングで受診を検討すべきです。
- 飛蚊症(黒い点や浮遊物)が急激に増えた
- 視界の周辺部に影のような部分が広がってきた
- 暗い場所や目を閉じていても閃光が見える
- 視力が急に低下した、または物がゆがんで見える
網膜剥離の治療は、早期であればあるほど視力回復の可能性が高まります。一方で、診断が遅れると視力へのダメージが大きく、完全な回復が困難となる例も多く報告されています。そのため、疑わしい症状があれば即受診が基本です。
予防策
網膜剥離は多くの場合、加齢や強度近視が大きなリスクファクターとされています。加齢変化による硝子体の液化が進むことで網膜が引き伸ばされ、裂孔が生じやすくなると言われています。完全に予防することは難しいものの、以下のポイントを心がけることでリスク低減が期待できます。
- 定期的な眼科検診
年齢を重ねるとともに、網膜や硝子体の状態に変化が起きやすくなります。とくに家族歴がある場合や強度近視の場合は、半年~1年に一度は眼底検査を受け、異常の早期発見に努めることが推奨されます。 - 目の外傷を避ける
スポーツや事故などで眼に強い衝撃が加わると、網膜に亀裂が入りやすくなります。サングラスや保護メガネなどを適切に使用し、衝撃から目を守る工夫が必要です。 - 生活習慣の見直し
全身の健康管理は目の健康にも大きく寄与します。喫煙や過度な飲酒は血流を妨げ、網膜への栄養供給が不足する原因となる場合があります。栄養バランスのとれた食事や適度な運動を通じて、血流を良好に保つことが大切です。 - 近年の研究動向
2021年にScientific Reports誌で発表されたByunらの研究(doi:10.1038/s41598-021-86768-2)では、強度近視の患者が網膜剥離を発症した場合、手術後の視力回復に差が出ることが示唆されています。特に網膜が広範囲に剥がれたケースでは、剥離範囲が比較的狭いケースよりも術後成績が思わしくない傾向があり、強度近視のある方は日頃から一層の注意が必要だと考えられます。
網膜剥離治療における最新の見解
網膜剥離の治療は、剥離範囲や原因(裂孔の位置や大きさ、外傷の有無など)によって方法が異なります。レーザー治療や冷凍凝固術による裂孔の封止、硝子体手術による網膜の復位など、複数の選択肢があります。いずれも早期発見・早期治療が視力保護の鍵となるため、自覚症状が出たら時間を置かずに受診しましょう。
近年では、網膜剥離の発生率や治療成績について新たなエビデンスも蓄積されています。2023年にはBMC Ophthalmology誌において、Wangらによる世界規模での網膜剥離(裂孔原性網膜剥離)に関する大規模メタ分析(doi:10.1186/s12886-023-02877-5)が発表され、世界的にみても高齢化や近視人口の増加に伴って症例数が今後増える可能性が示唆されています。この研究では、人口構成や生活習慣の違いがある国・地域によって発症率が異なる点も注目されており、日本のように近視の有病率が高い社会では特に早期発見・定期検診の重要性が一層強調されます。
症例報告と臨床データから学ぶリスク
網膜剥離は必ずしも高齢者だけの病気ではなく、強度近視やスポーツによる外傷、糖尿病網膜症などの別の眼疾患を持つ若年層や中年層にも起こりえます。実際の臨床現場からは、下記のような事例が報告されています。
- 強度近視があり、パソコン業務の多い40代男性
飛蚊症の増加に気付いたものの仕事が忙しく受診を先延ばしにし、視野に広い暗い影が出てはじめて受診。診断時にはすでに網膜中心部付近まで剥離が達しており、視力の完全回復は難しかった。 - スポーツ外傷による網膜剥離を起こした若年層
サッカーでの接触プレー中に頭部に衝撃を受けた際、眼にも打撃があり軽い出血を伴う外傷を負った。症状が軽いので安静にしていれば治ると思っていたところ、数日後に飛蚊症が増加。受診後すぐにレーザー治療を行ったが、網膜中心に近い部分がわずかに剥がれかけていた。
こうした事例からもわかるように、年齢を問わず網膜剥離のリスクは潜在的に存在します。痛みや大きな自覚症状がなくとも、視野の変化や飛蚊症の増加を感じたら速やかに専門医の診断を受けることが何より重要です。
予防と早期発見のさらなるポイント
先述した定期検診や保護具の使用のほか、以下のような点にも注意することで網膜剥離のリスク低減や早期発見に役立ちます。
- 強い光の刺激を避ける
日差しの強い屋外ではサングラスを着用し、紫外線や強光から眼を守る習慣をつけることが推奨されています。これにより、網膜にダメージが蓄積するのをある程度防ぐ効果が期待できます。 - 視野チェックの習慣化
朝起きた時やパソコン作業の合間など、意図的に一度目を閉じてから片眼ずつ視野を確認する習慣をつけると、異常に早く気付きやすくなります。簡単な方法としては「片眼を手で覆い、壁の形や照明の形状がゆがんで見えないか」などをチェックすることが挙げられます。 - 糖尿病や高血圧など全身疾患の管理
網膜は細かな血管網が発達している組織であり、全身的な血流障害があると眼底のトラブルリスクも増加します。したがって、糖尿病や高血圧などを持つ場合は、主治医の指示に従い適切なコントロールを行うことが大切です。
網膜剥離と併発しやすい他の眼疾患
網膜剥離だけでなく、他の眼疾患と併発するケースにも注意が必要です。なかでも以下のような疾患との関連が指摘されています。
- 緑内障
眼圧が高まると視神経が障害されますが、強度近視による眼球形状の変化は緑内障のリスクも高めると言われています。網膜剥離が進行したり治療後に網膜状態が脆弱になったりすると、視神経周辺への負担も大きくなる可能性があります。 - 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、血糖コントロール不良によって網膜の血管に生じる障害で、増殖膜が形成されると網膜剥離を引き起こすこともあります。血糖値の管理が不十分だと、網膜剥離の手術を行っても再剥離のリスクが高くなると報告されています。 - 白内障
水晶体が濁って視力低下をもたらす白内障は、高齢者に多く見られる疾患の一つです。白内障の手術後に網膜剥離のリスクが若干上がるという報告もあり、術後のフォローアップが重要になります。
近年の専門家の見解
網膜剥離の研究は日々アップデートされており、外科的治療の進歩や術後経過、再剥離率の低減など、多角的なアプローチが試みられています。国際学会や専門誌では、硝子体手術の技術向上や新しい手術器具の開発が報告されており、これらの進歩により患者の視力予後が向上する可能性が示唆されています。一方で、高齢者や強度近視の人々が増える社会では、網膜剥離の症例がますます増加することが予測され、早期発見と定期的な検診の重要性が再認識されています。
専門家コメント(一般論)
近年のガイドラインでは、網膜剥離の原因や進行度、患者の年齢や合併疾患を総合的に判断し、最適な治療法を選択することが推奨されています。眼科医の多くは、飛蚊症や閃光視といった初期症状を軽視しないよう呼びかけており、とくに強度近視の方や糖尿病など血管障害リスクが高い方には、こまめな受診を促しています。
結論と提言
本記事では、網膜剥離の兆候、症状、予防策、そして近年の研究動向について詳しく解説しました。とくに、
- 視界に突然増加する黒い点(飛蚊症)
- 目を閉じても感じる閃光視
- 周辺視野から広がる暗い影
- 痛みを感じないまま進行する特徴
これらの点が網膜剥離を早期に疑う重要なサインとなります。また、強度近視や外傷、全身疾患の管理不良など、網膜剥離を招きやすいリスク要因を持つ場合は、なおさら注意が必要です。防げる視力障害を未然に防ぐためには、症状が出る前からの定期検診と、疑わしいサインを見落とさない慎重さが欠かせません。
さらに、近年の研究(2021年Byunら、2023年Wangら)によって、強度近視や高齢社会における網膜剥離のリスク増大、手術成績の向上などが明らかにされています。治療技術は年々進歩しているものの、視力を最大限に保護するためには早期発見が何よりも大切です。痛みがなくても、わずかな異常を見逃さず、自己判断で放置せずに専門医に相談してください。
最終的なアドバイス
- 本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状や治療については必ず医療の専門家にご相談ください。
- 視力に関する問題は早期対応が極めて重要です。些細な変化でも放置せず専門医に診てもらいましょう。
- 加齢や生活習慣、全身疾患などによってリスクが高まることを理解し、定期的な検診を受ける習慣を身につけましょう。
- 既往症や家族歴がある場合は、主治医と相談のうえ、検診の頻度を増やすなどの対策を行いましょう。
参考文献
- Retinal Detachment – National Eye Institute – アクセス日: 21/02/2022
- Retinal detachment – Mayo Clinic – アクセス日: 21/02/2022
- Retinal Detachment – Cleveland Clinic – アクセス日: 21/02/2022
- Retinal Detachment – University of Michigan Health – アクセス日: 21/02/2022
- Retinal detachment – Health Navigator New Zealand – アクセス日: 21/02/2022
- Retinal detachment – Better Health Channel – アクセス日: 21/02/2022
- Detached Retina – American Academy of Ophthalmology – アクセス日: 21/02/2022
(以下、新たに言及した研究)
- Byun JHら (2021) Comparison of outcomes of rhegmatogenous retinal detachment surgery in patients with high myopia. Scientific Reports, 11(1): 7416. doi: 10.1038/s41598-021-86768-2
- Wang Xら (2023) The global incidence of rhegmatogenous retinal detachment: a systematic review and meta-analysis. BMC Ophthalmology, 23(1): 223. doi: 10.1186/s12886-023-02877-5
本記事で取り上げた情報は、主に近年の臨床研究や公的医療機関のウェブサイトを参考にしていますが、日々新たな知見や治療法の進歩が報告されています。少しでも違和感を覚えたら、症状を自己判断せず、必ず眼科医の診断と助言を仰ぐようにしてください。これがご自身の視力を守るための最も確実な方法です。今後も定期的な検診と最新情報のチェックを習慣づけ、健康な視生活を続けられるよう心がけましょう。