【科学的根拠に基づく】耳の中や裏の痛い「できもの・しこり」– 放置は危険？考えられる病気と正しい治し方
耳鼻咽喉科疾患

【科学的根拠に基づく】耳の中や裏の痛い「できもの・しこり」– 放置は危険？考えられる病気と正しい治し方

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耳の中にできた痛いしこり。「ただのおできだろう」と軽く考えていませんか？しかし、その症状の裏には、外耳炎や粉瘤（ふんりゅう）、稀には注意すべき病気が隠れている可能性もあります。リモートワークで一日中イヤホンを着けていたり、マスクの紐が当たったりすることで、耳のトラブルは誰にとっても身近な問題となっています2838。この記事を最後まで読めば、あなたのその「できもの」の正体を見極めるための知識、危険なサイン、そして次に何をすべきかという具体的な行動計画まで、すべてが科学的根拠に基づいて理解できます。

医学監修：
林 伸和 医師（東京大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授、日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」作成委員長）13

執筆者： JHO (JapaneseHealth.org) 編集部

最終更新日：
2025年6月19日

私たちの編集プロセスとエビデンスに基づく基盤

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  • 公式な診療ガイドライン：日本皮膚科学会（JDA）13、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会（AAO-HNSF）8、および米国家庭医学会（AAFP）9が発行する臨床診療ガイドラインに基づいています。
  • 基礎となる科学研究：PubMed45などの主要な医学文献データベースを通じてアクセス可能な、The Lancet、The New England Journal of Medicine (NEJM)、JAMA、The BMJなどの査読付き学術雑誌に掲載された研究を引用しています。
  • 公式な公衆衛生データ：厚生労働省（MHLW）11や国立感染症研究所（NIID）33などの日本の政府機関が発表する公式報告書や統計データを参照しています。

この記事の要点 (Key Takeaways)

  • 耳のできものには、細菌感染による「外耳炎」や「おでき」、皮膚の下に袋ができる「粉瘤」など多様な種類があり、自己判断は危険です。
  • 主な原因は耳かきのしすぎや長時間のイヤホン使用などによる皮膚の微小な傷からの細菌感染であり、黄色ブドウ球菌が代表的な原因菌です1424。
  • 激しい痛み、急速な増大、発熱、顔の動きにくさなどのサインは、直ちに専門医の診察が必要な危険な兆候である可能性があります。
  • 治療は、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会などの国際的なガイドラインで推奨される通り、点耳薬などの局所療法が基本です。安易な抗菌薬（飲み薬）の使用は避けるべきです89。
  • 症状に応じて、耳鼻咽喉科、皮膚科、形成外科のいずれかを受診する必要があります。この記事では、どの科を選ぶべきかの具体的なガイドを提供します。

第1章：耳のできもの・しこりの正体は？考えられる主な病気

この章の目的は、自己判断の危険性を伝え、専門家がどのように鑑別診断を行うかを読者に理解してもらうことです。耳のできものと一言で言っても、その正体は様々です。専門医は、見た目の特徴、痛みや腫れの有無、経過などを総合的に判断して鑑別します11722。

1.1. 外耳道炎（がいじどうえん）と耳せつ（じせつ：耳のおでき）

定義と症状: 耳かきやイヤホンによる微小な傷から細菌が感染して起こる皮膚の炎症です。多くの場合、強い痛みを伴うのが特徴です20。炎症が外耳道の一部に限局して膿が溜まったものを「耳せつ（耳のおでき）」、外耳道全体に広がったものを「びまん性外耳道炎」と呼びます。

原因菌: 主な原因菌は、私たちの皮膚に普段から存在する常在菌である黄色ブドウ球菌や、湿った環境を好む緑膿菌などです24。

1.2. 粉瘤（ふんりゅう） / アテローム

定義と症状: 粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物（嚢胞壁）ができ、その中に垢（角質）や皮脂が溜まってできる良性の腫瘍です17。通常は痛みを伴いませんが、細菌が感染すると赤く腫れ上がり、強い痛みを伴う「炎症性粉瘤」になります。この状態は、見た目がおできと非常に似ています1。

特徴: 中央に黒い点（開口部）が見られることがあります。無理に自分で押し出すと、特有の臭いを持つ粥状の内容物が出ることがありますが、日本形成外科学会が指摘するように、原因である袋が皮膚の下に残っている限り、再発を繰り返してしまいます1735。

1.3. その他の良性のできもの

先天性耳瘻孔（せんてんせいじろうこう）: 生まれつき耳の付け根あたりに見られる小さな穴で、胎児期に耳が形成される過程の名残です16。普段は無症状ですが、穴から細菌が侵入し感染すると、赤く腫れて痛むことがあります2。

耳介偽嚢腫（じかいぎのうしゅ）: 柔道やレスリングなどの格闘技選手に多く見られる、いわゆる「餃子耳」「柔道耳」です。耳介への繰り返しの摩擦や打撲により、軟骨と皮膚の間に液体が溜まり、腫れ上がった状態を指します49。

1.4. 注意すべき、または悪性の可能性も考慮すべき疾患

悪性外耳道炎: 主に糖尿病患者さんや免疫力が低下している高齢者に見られる重篤な感染症です。新潟大学大学院の高橋邦行医師らの研究によると、この疾患は緑膿菌が原因で、外耳道の炎症が周囲の骨（側頭骨）にまで広がるものです18。激しい耳の痛み、持続する耳だれ、顔面神経麻痺などを伴うことがあります。

聴器がん（外耳がんなど）: 発生頻度は100万人に1人程度と極めて稀ですが、治りにくい耳だれや出血、進行性の聴力低下、持続する痛みを伴う場合は、その可能性も念頭に置く必要があります1。

第2章：なぜできる？耳のできものの主な原因とリスク因子

この章の目的は、原因を体系的に理解することで、読者が自身の生活習慣を見直し、効果的な予防策に繋げられるようにすることです。

2.1. 直接的な原因：細菌感染のメカニズム

できものの多くは、私たちの皮膚や鼻の中に日常的に存在する常在菌である「黄色ブドウ球菌」が、皮膚のバリア機能が壊れた小さな傷などから侵入し、病原性を発揮することで発生します24。

【専門家コラム】薬剤耐性菌(MRSA)という隠れた脅威

MRSA（メチシリン耐性黄色ブドウ球菌）とは、多くの抗菌薬が効かなくなった黄色ブドウ球菌のことです45。厚生労働省の薬剤耐性（AMR）ワンヘルス動向調査年次報告書によると、日本の医療機関で分離される黄色ブドウ球菌のうち、依然として高い割合でMRSAが報告されており、医療現場における重要な課題です1146。医師から処方された抗菌薬を自己判断で中断したり、安易に抗菌薬を求めたりしないことが、自分自身の体を守るだけでなく、将来の日本の医療を守ることにも繋がります。

2.2. 現代生活に潜むリスク因子

  • 耳掃除のしすぎ: 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も注意喚起している通り、外耳道の皮膚は非常に薄くデリケートです。過度な耳掃除は皮膚に微小な傷を作り、感染の最大の原因となります14。
  • イヤホン・ヘッドホンの長時間使用: 最近、リモートワークでヘッドセットを一日中着けているせいか、耳の不快感を感じる、というご相談が増えています。イヤホンで耳を塞ぐと、耳の中が高温多湿になり、細菌が繁殖しやすい環境が作られます2836。
  • マスクによる摩擦と蒸れ: マスクのゴム紐が長時間当たる耳の後ろは、摩擦による接触皮膚炎を起こしやすく、皮膚のバリア機能が低下した部位は二次的な細菌感染の温床となり得ます38。
  • ピアス: ピアスホールは皮膚に開いた人工的なトンネルであり、不衛生な管理は常に感染のリスクを伴います2。

2.3. 体の内側にあるリスク因子

糖尿病、慢性的なストレス、睡眠不足、栄養不良などで体の抵抗力が落ちている状態では、通常なら問題にならない常在菌にも感染しやすくなります2。また、米国家庭医学会（AAFP）のガイドラインでも指摘されているように、アトピー性皮膚炎や慢性的な湿疹など、もともと皮膚のバリア機能が低下している人は、外からの刺激や細菌に対して脆弱です9。

第3章：【重要】その症状、何科へ行くべき？受診の目安と診療科の選び方

この章の目的は、読者が抱える最大の疑問「どこに行けばいいのか？」に対して、明確かつ論理的な答えを提供し、不安を具体的な行動へと導くことです。

3.1. 緊急または早期に受診すべき危険なサイン（チェックリスト）

  • □ 痛みが非常に激しく、夜も眠れない
  • □ できものが急速に大きくなっている、または周囲に赤みや腫れが広がっている
  • □ 発熱、悪寒、倦怠感など、全身の不調を伴う
  • □ 耳だれ（膿や液体が出る）や出血がある
  • □ めまい、顔の動きにくさ（顔面神経麻痺）、聞こえにくさを感じる
  • □ 2週間以上経っても改善しない、または悪化する一方である

これらのサインが一つでも当てはまる場合は、自己判断せず、速やかに医療機関を受診してください。

3.2. 症状で選ぶ診療科ガイド

日本の医療システムでは、まず地域のクリニック（診療所）を受診し、必要に応じて専門的な基幹病院へ紹介されるのが一般的な流れです2。あなたの症状に応じて、以下の診療科を最初に検討するのが合理的です。

耳鼻咽喉科（じびいんこうか）を最初に受診すべき場合

  • 主な症状: 耳の「中」の痛み、聞こえにくさ、耳だれ、耳鳴り、めまいを伴う場合2。
  • 理由: 耳鼻咽喉科医は、耳鏡や内視鏡を用いて鼓膜や外耳道の奥まで詳細に観察できる耳の専門家です。聴力検査なども可能であり、耳の機能に関わる問題全般に対応できます。

皮膚科を最初に受診すべき場合

  • 主な症状: 耳介（耳の外側の見える部分）や耳の後ろのできもので、主な症状が皮膚の赤み、かゆみ、腫れであり、聞こえの問題がない場合。見た目がニキビや湿疹に近い場合5。
  • 理由: 皮膚科医は、あらゆる皮膚疾患の診断と薬物治療の専門家であり、粉瘤や毛嚢炎、湿疹などを正確に鑑別できます。

形成外科を最初に受診すべき場合

  • 主な症状: 痛みのない粉瘤や先天性耳瘻孔の根治手術を希望する場合。傷跡をできるだけきれいに治したいと考えている場合5。
  • 理由: 形成外科医は、できものの外科的切除と、整容面（見た目の美しさ）を最大限に考慮した縫合・治療の専門家です。

（ここに「あなたの症状に合った診療科選びのフローチャート」の画像を挿入）

第4章：専門医が行う治療法のすべて

この章の目的は、医療機関で行われる標準的な治療法を、国際的および国内の診療ガイドラインという最高レベルのエビデンスと共に正確に解説することです。

4.1. 薬物療法

局所療法（塗り薬・点耳薬）

治療の原則: 合併症のない急性外耳道炎や軽度の毛嚢炎に対しては、局所療法が第一選択となります。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会（AAO-HNSF）はその診療ガイドラインの中で、経口（全身）抗菌薬ではなく、局所抗菌薬の点耳薬を第一選択として強く推奨しています8。これは、全身への副作用を避け、薬剤耐性菌の発生リスクを低減するという、現代の感染症治療における重要な原則に基づいています9。

薬剤の種類: 抗菌薬含有の点耳薬や軟膏、炎症を抑えるステロイド、またはその両方を含む配合剤が用いられます。これらの有効性は、AAO-HNSFやAAFPのガイドラインで示されています89。

内服療法（飲み薬）

適応の判断: 感染が皮膚の深層に及んでいる、腫れが非常に強く周囲に広がっている、発熱などの全身症状を伴う、あるいは免疫不全などの基礎疾患があるといった場合に、医師の判断で選択されます9。

薬剤の選択: 原因菌として最も可能性の高い黄色ブドウ球菌に有効な抗菌薬が処方されます。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」で推奨される薬剤が参考にされることがあります13。

4.2. 外科的処置・手術

切開排膿（せっかいはいのう）: 膿がパンパンに溜まったおでき（耳せつ）や炎症性粉瘤に対して行われます。局所麻酔の後、小さく切開して膿を排出させます。膿による圧力が取り除かれるため、処置後に痛みが劇的に改善することが多いです1。

粉瘤・耳瘻孔摘出術: 日本形成外科学会が示すように、炎症を繰り返す粉瘤の根本的な治療は、原因となっている袋状の構造（嚢胞壁）を外科的に完全に摘出することです1617。内容物を自分で押し出すだけでは、袋が皮膚の下に残っている限り、いずれまた垢や皮脂が溜まり、再発のリスクが極めて高いのです。炎症が治まった後に根治的な手術を行うのが原則です。

4.3. 家庭でできるセルフケアと絶対にやってはいけないこと

推奨されるケア

  • 医師の指示に従い、処方された薬を正しく使用する。
  • 患部を清潔に保つが、洗いすぎたり、強くこすったりしない。
  • 痛みが強い場合は、市販の解熱鎮痛薬（アセトアミノフェンやイブプロフェンなど）を一時的に使用することも可能ですが、必ず医師や薬剤師に相談してください44。

【警告】絶対に自分で潰したり、針で刺したりしないでください！

不潔な操作は、細菌をさらに皮膚の奥深くや周囲の組織に押し広げ、炎症を悪化させる原因となります。最悪の場合、細菌が血流に入り込み、全身に広がる「菌血症」という重篤な状態を引き起こすリスクもゼロではありません。必ず専門家による清潔な環境下での処置を受けてください。

第5章：再発させないための予防策

この章の目的は、読者が日々の生活の中で実践できる、科学的根拠に基づいた具体的な予防法を提示することです。

耳の衛生管理の最適化

  • 耳掃除は「しない」を基本に: 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が推奨するように、耳垢には自浄作用があり、本来は自然に排出されます。気になる場合でも、月に1～2回、耳の入り口から1cm程度の見える範囲を綿棒で優しく拭う程度に留めましょう14。
  • 水分の管理: 入浴や水泳の後は、耳を傾けて水分を出し、タオルの角やドライヤーの冷風で優しく乾燥させることが重要です。

ライフスタイルの見直し

  • イヤホンの衛生: 使用後にアルコール含有のウェットティッシュなどでこまめに清掃・消毒し、長時間の連続使用を避け、時々外して耳を休ませましょう36。耳を完全に塞がない骨伝導イヤホンや、耳への圧迫が少ないヘッドホンなどを選択肢として検討するのも良い方法です37。
  • マスクの工夫: マスクは毎日清潔なものに交換してください。ゴム紐で耳が痛くなる場合は、後頭部で固定する補助グッズなどを活用し、特定の部位への圧迫を避ける工夫が有効です39。

全身の免疫力を維持する

バランスの取れた食事、質の良い十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理は、皮膚のバリア機能を正常に保ち、感染症への抵抗力を高めるための最も基本的な土台となります。

結論：耳のできものは体からの重要なサイン。正しい知識で早期に対応を

要点の再確認: 耳のできものには、外耳炎から粉瘤まで様々な種類があり、その原因や対処法も異なります。見た目だけで自己判断することは、症状の悪化や重症化のリスクを伴います。

最終的な提言: 痛みや腫れ、あるいは治らない・大きくなるといった違和感が続く場合は、決して放置したり、自己流で対処したりせず、ためらわずに専門医（まずは耳鼻咽喉科か皮膚科）を受診してください。この記事で得た正しい知識を、不安を安心に変えるための第一歩とし、専門家への相談という次の一歩を踏み出すことが、あなたの健康を長く守るための最も賢明で確実な方法です。

よくある質問（FAQ）

Q1. 耳のできものに、市販のニキビ薬や抗菌薬の軟膏を塗っても良いですか？

A1. 軽度の毛嚢炎（ニキビ様の赤いできもの）であれば、市販の抗菌薬含有軟膏が一時的に効果を示す場合があります6。しかし、原因が全く異なる粉瘤や、鼓膜に近い外耳道の炎症には効果がないばかりか、不適切な薬剤の使用が症状を悪化させる可能性もあります。特にステロイド含有薬は、細菌感染をかえって悪化させるリスクがあるため、自己判断での使用は非常に危険です。まずは専門医による正確な診断を受けることが最優先です。

Q2. 痛みはないのですが、しこりがだんだん大きくなっている気がします。放置しても大丈夫ですか？

A2. 痛みがなくても、粉瘤などの良性の腫瘍は時間と共に徐々に増大することが一般的です34。大きくなってから手術を受けると、それだけ切開範囲が広くなり、傷跡も大きくなる可能性があります。また、極めて稀ではありますが、悪性腫瘍の可能性も完全に否定することはできません。気になるしこりがある場合は、痛みがなくても一度、皮膚科や形成外科で専門家の診察を受けることを強くお勧めします。

Q3. 子どもの耳にできものができました。大人と違う注意点はありますか？

A3. お子さんの場合、大人とは異なる視点が必要です。まず、生まれつきの「先天性耳瘻孔」の感染である可能性があります2。また、風邪などをきっかけに起こる「急性中耳炎」が外耳道に影響を及ぼしていることも考えられます。お子さんは症状を正確に伝えられなかったり、気になって自分で触ってしまったりして悪化させやすいため、早めに小児科または耳鼻咽喉科を受診してください21。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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