この記事でわかること
- 胸水(きょうすい)と、しばしば混同されがちな肺水腫(はいすいしゅ)との根本的な違いを明確に理解できます。
- 「漏出性」と「滲出性」という科学的な分類に基づき、心不全やがん、肺炎など、胸水がたまる多岐にわたる原因を体系的に学べます。
- 息切れや胸の痛みといった初期症状から、病院で行われる超音波検査や胸腔穿刺、胸水分析といった専門的な診断プロセスまで、一連の流れを詳しく知ることができます。
- がんによる悪性胸水に対する胸膜癒着術やカテーテル治療、感染症に対する薬物療法や外科的アプローチなど、原因別に最適化された最新の治療選択肢について、日本のガイドラインと国際的なエビデンスを基に深く掘り下げて解説します。
- 胸水と診断された後の生活上の注意点や、原因ごとの予後(見通し)について、現実的かつ正確な情報を得ることができます。
胸水とは?肺水腫との違いを理解する
胸水とは、肺を覆っている「胸膜(きょうまく)」という二層の薄い膜の間に、異常な量の液体が溜まった状態を指します。肺は、胸壁の内側を覆う「壁側胸膜(へきそくきょうまく)」と、肺自体の表面を覆う「臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)」という2枚の膜に包まれており、この2枚の膜の間の空間を「胸膜腔(きょうまくくう)」と呼びます。正常な状態でも、この空間にはごく少量の液体が存在し、肺が呼吸のたびにスムーズに伸縮するための潤滑油のような役割を果たしています1。病的な胸水とは、この液体の産生と吸収のバランスが崩れ、胸部X線写真などで確認できるほど過剰に溜まってしまう状態のことです。
ここで重要なのは、しばしば混同されがちな「肺水腫(はいすいしゅ)」との違いです。胸水が肺の“外側”(胸膜腔)に液体が溜まるのに対し、肺水腫は肺の“内側”、つまり酸素交換を行う肺胞(はいほう)という小さな袋の中に液体が溜まる状態です。原因や治療法が全く異なるため、この違いを理解することは非常に重要です。
特徴 | 胸水 (Pleural Effusion) | 肺水腫 (Pulmonary Edema) |
---|---|---|
液体が溜まる場所 | 胸膜腔(肺の外側、胸壁との間) | 肺胞(肺の内側) |
主な原因 | がん、感染症、心不全、肝硬変など多岐にわたる | 心不全(特に左心不全)、腎不全、高血圧など |
主な症状 | 息切れ、胸の重苦しさ、咳 | 突然の激しい息切れ、ピンク色の泡状の痰を伴う咳 |
治療の方向性 | 原因疾患の治療、胸水の排出(穿刺、ドレナージ) | 利尿薬、酸素療法、心機能の改善 |
胸水の主な原因:なぜ胸に水が溜まるのか?
胸水の原因を特定するための最初の重要なステップは、溜まった液体(胸水)の性質を調べることです。臨床現場では、胸水をタンパク質や特定の酵素(LDH)の濃度に基づいて、大きく「漏出性(ろうしゅつせい)」と「滲出性(しんしゅつせい)」の2種類に分類します。この分類によって、その後の診断の方向性が大きく変わってきます2。
漏出性胸水:体液バランスの乱れが原因
漏出性胸水は、胸膜自体には直接的な炎症や病変がなく、全身の体液バランスが崩れることによって発生します。主に、血管内の水分を血管内に留めておく力(膠質浸透圧)が低下したり、血管内の水分を外に押し出す力(静水圧)が上昇したりすることが原因です3。
- 心不全: 漏出性胸水の最も一般的な原因です。心臓のポンプ機能が低下すると、血液がうまく送り出せずにうっ滞し、血管内の圧力が上昇します。この圧力が毛細血管から胸膜腔へ液体を押し出し、胸水が溜まります。通常、両側に溜まることが多いのが特徴です3。日本では、2020年時点で約55万人の心不全患者がいると推定されています4。
- 肝硬変: 肝臓は血液中の主要なタンパク質であるアルブミンを生成します。肝硬変になるとアルブミンの産生が減少し、血液の膠質浸透圧が低下します。これにより水分が血管から漏れ出しやすくなります。また、腹水(お腹に水が溜まる状態)が横隔膜の小さな穴を通って胸膜腔に移動することもあります3。
- ネフローゼ症候群・腎不全: ネフローゼ症候群では、腎臓から大量のタンパク質が尿中に失われ、血液中のアルブミンが減少します。腎不全では、体内の余分な水分を十分に排泄できなくなり、全身の体液量が増加して胸水を引き起こします5。
- 低アルブミン血症: 重度の栄養失調など、他の原因で血液中のアルブミンが極端に低下した場合にも漏出性胸水が見られます5。
滲出性胸水:炎症や病変が直接的な原因
滲出性胸水は、胸膜自体が炎症を起こしたり、がん細胞に侵されたりすることで、血管の透過性が高まり、タンパク質や血球成分を多く含む液体が漏れ出すことによって生じます。また、リンパ管が詰まって胸水の吸収が妨げられることも原因となります2。
- がん(悪性腫瘍): 滲出性胸水の最も重要かつ頻度の高い原因の一つで、「悪性胸水」または「がん性胸膜炎」と呼ばれます。肺がん、乳がん、卵巣がん、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍が胸膜に転移(播種)し、炎症やリンパ管の閉塞を引き起こすことで胸水が溜まります3。
- 感染症:
- 肺塞栓症: 肺の血管に血栓が詰まる病気で、これによる炎症反応が胸膜に及び、胸水を引き起こすことがあります3。
- 膠原病(自己免疫疾患): 関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が、胸膜に炎症(胸膜炎)を引き起こし、胸水の原因となることがあります。
これらの原因の頻度を日本の状況に当てはめて理解することは、臨床的に非常に有益です。
主な原因 | 分類 | 日本における頻度・特記事項 | 出典 |
---|---|---|---|
がん(悪性腫瘍) | 滲出性 | 滲出性胸水の最多原因。悪性胸水のうち肺がんが約40%、乳がんが約25%を占める。日本の肺がん罹患率は人口10万人あたり99.2例(2021年)。 | 8 |
心不全 | 漏出性 | 漏出性胸水の最多原因。日本の心不全の総患者数は約55万人(2020年調査)。 | 4 |
肺炎 | 滲出性 | 一般的な感染症の原因。肺炎は日本の死因の上位を占め、特に高齢者で注意が必要。 | 9 |
結核 | 滲出性 | 減少傾向にあるものの、他の先進国より罹患率は依然として高い。リンパ球優位の胸水では常に鑑別に挙がる。 | 3 |
肝硬変 | 漏出性 | 漏出性の重要な原因。腹水を伴うことが多い。 | 3 |
胸水の症状:どんなサインに注意すべきか?
胸水の症状は、溜まっている液体の量、溜まる速さ、そして背景にある原因疾患によって様々です。最も一般的な症状は以下の通りです。
- 息切れ(呼吸困難): 最も頻度の高い症状です。胸水が肺を圧迫し、息を吸うときに肺が十分に広がるのを妨げるために起こります。必ずしも胸水の量が息切れの程度と比例するわけではありません10。
- 胸の痛み: 特に深呼吸や咳、くしゃみをしたときに増強する鋭い痛みが特徴で、「胸膜性胸痛」と呼ばれます。これは炎症を起こした2枚の胸膜がこすれ合うことで生じます。
- 乾いた咳: 肺への圧迫や胸膜の刺激によって咳が出ることがあります。
- 発熱: 肺炎や結核など、感染症が原因の場合によく見られます6。
ここで臨床的に重要な観察点があります。多くの人は「水が多ければ多いほど痛い」と考えがちですが、実際にはその逆の経過を辿ることがあります。初期段階で胸膜に強い炎症があり、まだ胸水の量が少ないときは、膜同士が擦れる痛み(胸膜性胸痛)が強く感じられます。しかし、胸水が増えてくると、その液体がクッションの役割を果たし、2枚の膜が直接こすれ合うことがなくなります。その結果、胸の痛みはむしろ軽減したり消失したりすることがあります。その代わり、肺が圧迫される度合いは強まるため、息切れの症状がより顕著になってきます10。この経過を知ることは、痛みが和らいだからといって安心せず、他の症状の変化に注意を払う上で非常に重要です。
胸水の診断プロセス:病院で行われる検査
胸水の診断は、まず液体の存在を確認し、その性質を特定し、最終的に根本原因を突き止めるという段階的なプロセスで進められます。
診察と画像検査
- 問診・身体診察: 医師は症状や既往歴を詳しく聞き、聴診器で呼吸音を確認します。胸水が溜まっている部分では、呼吸音が聞こえにくくなります。また、胸を指で叩く打診では、正常な「コンコン」という澄んだ音ではなく、「ポクポク」という鈍い音(濁音)がします1。
- 胸部X線(レントゲン)検査: 最も基本的な画像検査です。少量の胸水でも、肺の一番下の隅(肋骨横隔膜角)が鈍くなることで確認できます。量が多い場合は、肺の下方が真っ白な影として写ります3。
- 胸部超音波(エコー)検査: 現在では、胸水の存在を確認し、特に後述する胸腔穿刺を安全に行うためのゴールドスタンダードとされています。ごく少量の胸水も検出でき、液体が固まっていないか(性状評価)、そして最も重要なこととして、針を刺すのに最も安全で確実な場所(深さや肋骨との位置関係)をリアルタイムで特定できます。これにより、穿刺の成功率が格段に向上し、気胸(肺に穴が開く合併症)などのリスクを大幅に低減できます3。
- 胸部CT検査: より詳細な断層画像を提供します。胸水によって隠れている肺の病変(がんなど)を評価したり、液体が袋状に分かれている(被包化)か、あるいは固形腫瘍なのかを区別したりするのに非常に有用です3。
胸腔穿刺と胸水分析
- 胸腔穿刺(きょうくうせんし): 画像検査で診断がつき、一定量の胸水が確認された場合に行われる処置です。通常は超音波で安全な場所を確認しながら、局所麻酔をした上で、胸壁から細い針を刺して胸水を抜き取ります。この手技には、抜き取った液体を検査に提出する「診断目的」と、多くの量を抜くことで肺の圧迫を解除し、息切れを楽にする「治療目的」の二つの側面があります3。
- 胸水分析: 採取された胸水は検査室に送られ、以下の重要な項目が分析されます。
- 生化学検査: タンパク質とLDHの濃度を測定し、漏出性か滲出性かを鑑別します。
- 細胞数・分画: 白血球や赤血球の数を数え、その種類(好中球、リンパ球など)を調べることで、感染症、結核、がんなどの原因を推定します。
- 微生物学検査: グラム染色や培養を行い、原因となっている細菌を特定します。
- 細胞診: 胸水中にがん細胞が含まれていないかを顕微鏡で調べます1。
漏出性と滲出性の鑑別に世界中で用いられているのが「Lightの基準(Light’s Criteria)」です。これを正確に理解することが質の高い診断の基本となります。
基準項目 | 滲出性と判定される条件 |
---|---|
胸水/血清 タンパク質比 | > 0.5 |
胸水/血清 LDH比 | > 0.6 |
胸水LDHの絶対値 | 血清LDH正常上限値の2/3を超える |
判定: 上記3項目のうち、1つでも満たせば「滲出性胸水」と判断される。 |
注記: Lightの基準は滲出性胸水を見逃さない感度は非常に高いですが、心不全患者が利尿薬を使用している場合など、一部の漏出性胸水を誤って滲出性と判定してしまうことがあります。臨床的に矛盾がある場合は、血清と胸水のアルブミン濃度の差を測定するなど、追加の指標を用いて総合的に判断します3。
胸水の治療法:最新の国際・国内ガイドラインに基づく選択肢
胸水の治療は、単に水を抜くだけでなく、その根本原因を治療することが大原則です。治療法は近年大きく進歩しており、患者さん一人ひとりの状態に合わせた個別化治療が重視されています。特に、英国胸部学会(BTS)が2023年に発表した最新の包括的ガイドライン11と、日本の各学会の指針を統合的に理解することが、最適な治療選択につながります。
基本方針:原因疾患の治療と症状緩和
治療の根幹は、胸水を引き起こしている病気そのものを治療することです。例えば、心不全が原因であれば利尿薬などで心臓の負担を減らし、肺炎が原因であれば適切な抗菌薬で感染を制御します1。息切れなどの症状を和らげるためには、治療的胸腔穿刺で溜まった胸水を抜くことが最も迅速で効果的です。かつては合併症(再膨張性肺水腫)を恐れて一度に抜く量を1000~1500mL程度に制限すべきという考え方もありましたが12、最新の知見では、厳格な量の制限はなく、患者さんが胸の圧迫感や激しい咳などの症状を訴えるまで、あるいは全ての胸水を抜ききるまで安全に施行できるとされています3。
悪性胸水(がん性胸膜炎)の専門的治療
悪性胸水(Malignant Pleural Effusion: MPE)は、がんが進行した段階でみられる病態であり、治療の主目的は根治ではなく、息切れのコントロール、入院や繰り返す穿刺の回数を減らすことによる生活の質(QOL)の改善です13。主な治療選択肢は以下の通りです。
- 胸腔ドレナージ後胸膜癒着術: 胸腔にチューブ(ドレーン)を留置して胸水を完全に排出した後、そのチューブから薬剤(タルクという粉末が最も一般的)を注入します。この薬剤が意図的に胸膜に炎症を起こさせ、2枚の胸膜を癒着させることで、胸水が溜まるスペースを物理的になくしてしまう治療法です。成功すれば、胸水の再発を長期間抑えることができます。通常、数日間の入院が必要です3。日本ではタルクの他にOK-432という薬剤も用いられます14。
- 留置カテーテル(Indwelling Pleural Catheter: IPC): 細く柔らかいカテーテルを胸腔内に留置し、体の外に出ているカテーテルの先端に専用のボトルを繋ぐことで、自宅で患者さん自身やご家族が定期的に胸水を抜くことができる治療法です。入院期間を短縮でき、外来ベースでの管理が可能になります15。
癒着術とIPCのどちらを選択するかは、患者さんの状態と希望を考慮した重要な判断となります。
特徴 | 留置カテーテル (IPC) | 胸膜癒着術 (Talc Pleurodesis) |
---|---|---|
メカニズム | 自宅で定期的に胸水を排出 | 薬剤で胸膜を癒着させ、胸水が溜まる空間を閉鎖 |
息切れ改善効果 | 非常に良好 | 非常に良好(癒着が成功した場合) |
治療場所 | 短期入院または外来で留置、管理は在宅 | 数日間の入院が必要 |
主な利点 | 「肺捕捉」の患者にも有効、在宅管理、柔軟性が高い | 一度の治療で済む(理想的な場合)、カテーテル管理不要 |
主な欠点 | カテーテル関連感染症のリスク、在宅でのケアが必要 | 「肺捕捉」には無効、術後に痛みや発熱の可能性 |
ガイドライン上の推奨 | 肺が広がる患者では癒着術と同等の第一選択。肺が広がらない患者(肺捕捉)での第一選択。 | 肺が十分に広がる患者ではIPCと同等の第一選択。 |
ここで重要な概念が「肺捕捉(trapped lung)」です。これは、胸水を完全に抜いても、分厚い線維性の膜が肺を覆っているために肺が十分に膨らむことができない状態です。この状態の患者さんに癒着術を行っても効果がなく、強い痛みを引き起こすだけになってしまいます。そのため、肺捕捉の患者さんにはIPCが最適な治療法となります3。
感染による胸水(膿胸)の治療
膿胸は重篤な感染症であり、迅速かつ積極的な治療が必要です7。
- 抗菌薬投与: 全身への抗菌薬投与が治療の基本です。日本感染症学会(JAID)と日本化学療法学会(JSC)のガイドラインでは、原因菌や重症度に応じた具体的な薬剤選択が推奨されています16。
- 胸腔ドレナージ: ほとんどの膿胸や複雑な肺炎随伴性胸水では、チューブを胸腔に留置し、膿を完全に体外へ排出することが不可欠です3。
- 高度な治療法: ドレナージだけでは膿がうまく排出できない場合(膿が固まっていたり、多数の小部屋に分かれている場合)、以下の治療が検討されます。
最新のBTSガイドライン2023では、RAPIDスコア(腎機能、年齢、膿の性状、感染源、栄養状態などを評価)を用いて患者さんの死亡リスクを層別化し、治療方針の決定や予後の説明に役立てることが妥当であると確認されました11。
胸水と診断された後の生活と予後
胸水の予後(病状の見通し)は、その根本原因に大きく左右されます。
- 悪性胸水 (MPE): 予後は一般的に厳しいとされています。MPEと診断されてからの生存期間の中央値は3ヶ月から12ヶ月と報告されています17。しかし、これはあくまで統計的な平均値であり、元となるがんの種類、病期、全身状態、そして化学療法や分子標的薬、免疫療法などの全身治療への反応性によって、個々の患者さんの予後は大きく異なります。
- 感染症による胸水: 膿胸を含め、適切な抗菌薬とドレナージによって迅速に治療されれば、予後は一般的に良好です6。
- 心不全による胸水: 予後は心不全自体のコントロール状況と連動します。心不全治療が奏効すれば、胸水も良好に管理できます。
特に悪性胸水の治療においては、生活の質(QOL)を最大限に高めることが最優先の目標となります。息切れを効果的にコントロールし、入院期間を短縮し、患者さんが可能な限り質の高い時間を過ごせるように支援することが、現代の医療における重要な考え方です13。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 胸水を抜く処置(胸腔穿刺)は痛いですか?
処置の前に、針を刺す部分の皮膚と、その奥の組織に局所麻酔薬を十分に注射します。そのため、最初の麻酔の注射でチクッとした痛みを感じる程度で、処置中の痛みはほとんどありません。水を抜いている最中に、胸の圧迫感が軽くなったり、少し咳が出たりすることがありますが、通常は強い痛みを感じることはありません。
Q2: 一度に抜ける胸水の量に制限はありますか?
最新の医療ガイドラインでは、一度に抜く量に厳密な上限は設けられていません。全ての胸水を抜ききるか、あるいは処置中に患者さんが強い咳や胸の不快感を訴えるまで安全に続けることができます3。症状の出現は、圧迫されていた肺が再び膨らんでいるサインであり、医師が適切に判断します。
Q3: 胸水は再発しますか?
再発の可能性は、根本原因によります。肺炎のように完治可能な病気が原因であれば、治療が成功すれば再発しません。しかし、心不全や肝硬変、そしてがんのような慢性的な病気が原因の場合、胸水は再発する可能性が高いです。特に悪性胸水はほぼ必ず再発するため、再発を防ぐための胸膜癒着術や、自宅で管理できる留置カテーテルといった治療が検討されます。
Q4: 胸膜癒着術と留置カテーテル(IPC)、どちらが良いですか?
結論
胸水は、それ自体が独立した病気ではなく、体内で起きている何らかの異常を知らせる重要なサインです。その原因は心不全のような全身性の疾患から、肺炎のような感染症、そしてがんまで多岐にわたります。したがって、最も重要なことは、正確な診断プロセスを経て根本原因を突き止め、それに応じた適切な治療を行うことです。現代の医療では、超音波を用いた安全な診断手技や、悪性胸水に対する胸膜癒着術、留置カテーテルといった生活の質(QOL)を重視した治療法など、多くの進歩が見られます。もし息切れや原因不明の胸の痛みといった症状に気づいたら、決して自己判断せず、専門の医療機関を受診してください。医師との信頼関係のもと、前向きに治療に取り組むことが、より良い結果への第一歩となります。
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