この記事の科学的根拠
この記事は、以下に示す最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。提示される医学的指導は、すべてこれらの情報源に由来するものです。
- KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes): この記事におけるグローバルスタンダードな治療戦略は、腎臓病領域の国際的権威であるKDIGOが発表した最新の診療ガイドラインに基づいています2。特に患者中心のケアや最新の薬物療法の考え方は、このガイドラインに準拠しています。
- 一般社団法人 日本腎臓学会 (JSN): 日本国内の具体的な治療方針、食事基準、専門医への紹介基準などは、日本のCKD診療における最高権威である日本腎臓学会発行の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」10および「CKD診療ガイド2024」12を根幹としています。
- The Lancet誌: SGLT2阻害薬の腎保護効果に関する解説は、世界的に最も権威のある医学雑誌の一つであるThe Lancetに掲載された大規模なメタアナリシスの結果8を引用しており、その科学的信頼性を担保しています。
- 厚生労働省 (MHLW)及び日本透析医学会 (JSDT): 日本人の食塩摂取量の現状や、CKDが進行した場合の国内の透析医療の実態に関するデータは、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」38や日本透析医学会の統計報告33といった公的な一次情報源に基づいています。
要点まとめ
- CKDステージ3は腎機能が中等度に低下した状態ですが、正しい治療と自己管理で進行を大幅に遅らせることが可能な、極めて重要な段階です。
- ステージ3は「3a」(eGFR 45-59)と「3b」(eGFR 30-44)に分かれ、特に3bからはたんぱく質やカリウムの食事制限が強化されるなど、治療戦略が大きく異なります。
- 治療の基本は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の三本柱です。特にSGLT2阻害薬は、糖尿病の有無にかかわらず腎臓を保護する効果が証明され、新たな標準治療となっています。
- 食事療法では「減塩」「たんぱく質制限」「カリウム制限」「リン制限」が中心ですが、過度な制限はサルコペニア(筋肉減少)を招く危険性もあり、専門家との相談が不可欠です。
- 日本では、進行度に応じて「特定疾病療養受療制度」や「自立支援医療」などの公的医療費助成制度を利用でき、経済的負担を軽減することが可能です。
第1章:慢性腎臓病(CKD)とステージ3の基礎知識
ご自身の状態を深く理解するため、まずは基本から確認していきましょう。腎臓が私たちの体でどのような役割を果たし、CKDとはどのような病気なのかを知ることが、治療への第一歩となります。
腎臓の重要な働きとは?
腎臓は単に尿を作るだけの臓器ではありません。そら豆のような形をした握りこぶし大の臓器ですが、生命を維持するために24時間休むことなく働き続ける、非常に重要な役割を担っています。主な働きは以下の通りです1。
- 老廃物の排泄: 血液をろ過し、体内でできた老廃物や余分な塩分を尿として体外に排出します。
- 水分・電解質の調整: 体内の水分量や、ナトリウム、カリウム、カルシウムといった電解質のバランスを常に一定に保ちます。
- 血圧の調整: 血圧をコントロールするホルモンを分泌します。
- 血液を作るホルモンの分泌: 赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンを作ります。
- 骨を強くするビタミンの活性化: カルシウムの吸収に必要な活性型ビタミンDを作ります。
慢性腎臓病(CKD)とは何か?
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは、何らかの原因で腎臓の働きが慢性的に低下していく、すべての腎臓病の総称です。日本腎臓学会の定義によると、「腎障害を示唆する所見(例:蛋白尿)が明らかである」または「腎機能の指標であるGFR(糸球体濾過量)が60 mL/分/1.73m²未満に低下している」状態が3ヶ月以上続く場合に診断されます10。日本の成人におけるCKD患者数は約1,450万人と推定されており、成人の約8人に1人が該当する「新たな国民病」とも言われています1。
CKDのステージ分類:あなたはどこにいる?
CKDの進行度は、腎機能の指標である「GFR(糸球体濾過量)」の値によって、G1からG5までの5つのステージに分類されます。GFRは、腎臓が1分間にどれくらいの血液をろ過して尿を作れるかを示す値で、腎機能の最も重要な指標です。健康な人のGFRは約100 mL/分/1.73m²であり、年齢とともに自然に低下します。医療現場では、血液検査で測定した血清クレアチニン値と年齢、性別から計算した「eGFR(推算糸球体濾過量)」が一般的に用いられます2。
【重要】CKDステージ3とは?:中等度の腎機能低下
CKDステージ3は、eGFRが30~59 mL/分/1.73m²に低下した状態で、「中等度の腎機能低下」と定義されます3。これは健康な人の腎機能の約半分以下にまで低下していることを意味します。この段階ではまだ自覚症状がないことも多いですが、放置すれば腎機能はさらに低下し、透析や腎移植が必要となる末期腎不全へと進行する危険性があります。逆に言えば、このステージ3の段階で適切な治療と生活習慣の改善を行うことが、腎機能の悪化を食い止め、将来の透析を回避するための鍵となるのです。
ステージ3aと3bの決定的な違い
CKDステージ3は、さらに「ステージ3a」と「ステージ3b」の二つに細分化されます。これは、両者で管理目標や治療方針が大きく異なるため、非常に重要な分類です。多くの患者さんや非専門医は「ステージ3」と一括りに捉えがちですが、この違いを明確に理解することが、適切な自己管理への第一歩となります。
eGFRの値が45 mL/分/1.73m²を境に、治療戦略が一段階厳しくなります。特に、たんぱく質やカリウムといった食事制限が本格的に開始されるのがステージ3bの大きな特徴です4。また、日本腎臓学会が定める専門医への紹介基準においても、eGFRが45未満(ステージ3b以降)は原則として紹介が推奨されています5。ご自身のステージが3aなのか3bなのかを主治医に確認し、それに合った対策を講じることが極めて重要です。
項目 | ステージ3a (eGFR 45-59 mL/分/1.73m²) | ステージ3b (eGFR 30-44 mL/分/1.73m²) | 根拠(ガイドライン等) |
---|---|---|---|
腎機能の状態 | 軽度~中等度の低下 | 中等度~高度の低下 | 3, 6 |
自覚症状 | ほとんどないことが多いが、貧血などが出始めることがある | 貧血、倦怠感、むくみなどの症状が現れやすくなる | 3 |
食事療法(たんぱく質) | 0.8~1.0 g/kg標準体重/日 | 0.6~0.8 g/kg標準体重/日(制限が強化される) | 4 |
食事療法(食塩) | 6 g/日未満 | 6 g/日未満 | 4 |
食事療法(カリウム) | 原則制限なし | 2,000 mg/日以下(制限が開始される) | 4 |
薬物療法の焦点 | 血圧・血糖管理、蛋白尿抑制が中心 | 合併症(貧血、電解質異常、骨代謝異常)の管理がより重要になる | 6 |
専門医への紹介 | 40歳以上は生活指導・診療継続が基本(蛋白尿等の条件による) | 原則として紹介が推奨される | 5 |
第2章:CKDステージ3の症状と診断
CKDは「静かなる病気」とも呼ばれ、ステージ3の段階では特徴的な症状が現れにくいことが多いため、気づかないうちに進行していることがあります。だからこそ、僅かな体のサインを見逃さず、検査結果を正しく理解することが重要になります。
気づきにくい初期症状:見逃してはいけないサイン
腎機能が半分程度に低下しても、自覚症状がないことがほとんどです。しかし、以下のような症状がみられる場合は、腎機能低下のサインかもしれません3。
- むくみ(浮腫): 特に足のすねや甲を指で押したときに、へこんだまま戻らない。
- だるさ・疲れやすさ(倦怠感): 腎性貧血や老廃物の蓄積が原因。
- 血圧の上昇: 腎臓の血圧調整機能が低下するため。
- 夜間の頻尿: 尿を濃縮する力が低下するため。
- 尿の異常: 尿が泡立つ(蛋白尿)、色が濃い、血が混じる(血尿)。
これらの症状は他の病気でも見られるため、自己判断は禁物です。気になる症状があれば、必ず医療機関を受診してください。
診断に使われる重要な検査とその見方
CKDの診断と進行度の評価には、主に血液検査と尿検査が行われます。
- 血液検査: 最も重要な項目は「血清クレアチニン値」です。クレアチニンは筋肉で作られる老廃物で、本来は腎臓から排泄されます。腎機能が低下すると、血液中のクレアチニン値が上昇します。この血清クレアチニン値と年齢、性別を用いてeGFR(推算糸球体濾過量)を計算し、腎機能のステージを判断します6。
- 尿検査: 尿中の「たんぱく質(蛋白尿)」や「アルブミン(アルブミン尿)」の有無と量を調べます。これらは腎臓が傷ついていることを示す重要なサインです。腎臓のフィルター機能が壊れると、本来は血液中に留まるはずのたんぱく質が尿に漏れ出てきます。蛋白尿が多いほど、腎機能が将来的に悪化する危険性が高いことがわかっています。
日本腎臓学会のガイドラインでは、腎機能の指標であるGFR(G1~G5)と、腎障害の指標であるアルブミン尿の程度(A1~A3)を組み合わせた「CGA分類」を用いて、重症度を評価し、将来の末期腎不全や心血管疾患のリスクを予測します7。主治医から検査結果の説明を受ける際には、ご自身のeGFRの値だけでなく、蛋白尿の有無や程度についても確認することが大切です。
第3章:腎機能の悪化を食い止めるための治療戦略
CKDステージ3の治療目標は、残された腎機能を最大限に守り、末期腎不全への進行を可能な限り遅らせることです。そのためには、「食事療法」「運動療法」、そして「薬物療法」という三つの柱を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠となります。
薬物療法:最新の知見に基づくアプローチ
薬物療法は、腎臓の負担を直接的に軽減し、進行の原因となる高血圧や糖尿病などを厳格に管理するために行われます。
高血圧の管理:腎臓を守るための最重要課題
高血圧は腎機能悪化の最大の危険因子の一つです。高い圧力が腎臓の細い血管(糸球体)にダメージを与え続けるため、血圧を厳格に管理することが極めて重要です。国際的なKDIGOガイドライン2024では、収縮期血圧(上の血圧)を120 mmHg未満に保つことが推奨されています8。一方、日本のガイドラインでは原則として130/80 mmHg未満を目標とし、特に高齢者では個々の状態に合わせて目標値を設定することが推奨されています9。ご自身の最適な降圧目標については、必ず主治医と相談してください。
治療には、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬である「ACE阻害薬」や「ARB」が第一選択薬として用いられます。これらは血圧を下げるだけでなく、腎臓を保護する作用も持っています8。
【注目】SGLT2阻害薬:CKD治療の新たな標準
近年、CKD治療に革命をもたらしたのが「SGLT2阻害薬」です。元々は糖尿病の治療薬でしたが、その後の大規模な臨床研究により、糖尿病の有無にかかわらず、CKDの進行を抑制し、心不全や心血管死亡の危険性を著しく低下させることが証明されました。世界で最も権威ある医学雑誌の一つであるThe Lancetに2022年に掲載されたメタアナリシス(複数の研究を統合した信頼性の高い解析)では、SGLT2阻害薬の使用により、腎疾患が進行するリスクが37%、心血管死亡や心不全による入院のリスクが23%も減少したと報告されています810。
この強力なエビデンスに基づき、日本腎臓学会も2022年に発表した勧告で、糖尿病の有無を問わず、CKD患者への積極的な使用を推奨しており11、これはKDIGOガイドライン202412などの国際的な潮流とも完全に一致しています。SGLT2阻害薬は、腎臓内の圧力を下げるなど複数のメカニズムで腎臓を保護すると考えられており13、今やCKD治療の新たな標準薬と位置づけられています。
その他の薬物療法
腎機能が低下すると、様々な合併症が現れます。これらを管理するための薬物療法も重要です。
- 腎性貧血の治療: 腎臓からのエリスロポエチン産生が低下し、貧血になります。ヘモグロビン値を目標範囲に保つため、鉄剤やESA製剤(エリスロポエチン製剤)、HIF-PH阻害薬などが用いられます。
- 電解質・ミネラル管理: 血液中のカリウムやリンの濃度が上昇したり、血液が酸性に傾いたり(代謝性アシドーシス)します。これに対し、カリウム吸着薬、リン吸着薬、重曹などの内服薬が処方されます。
第4章:毎日の生活が治療になる:食事療法と運動療法
薬物療法と並行して、日々の生活習慣を見直すこと、特に食事と運動は、CKDの進行を抑える上で極めて重要な役割を果たします。これらは患者さんご自身の努力が求められるため、最大の挑戦であると同時に、治療の最大の武器とも言えます。
食事療法:正しい知識で賢く取り組む
なぜ食事療法が重要なのでしょうか。それは、食事の内容が腎臓への負担に直接つながるからです。食事を適切に管理することで、老廃物の産生を減らし、高血圧や電解質異常といった合併症を防ぐことができます。
基本の4本柱:減塩・たんぱく質制限・カリウム制限・リン制限
- 減塩(食塩制限):
- 目標値: 日本腎臓学会のガイドラインでは、1日6g未満が厳格に推奨されています4。減塩は血圧を下げ、蛋白尿を減らす効果があり、腎臓保護の基本中の基本です。
- 日本の現状: 厚生労働省の令和5年「国民健康・栄養調査」によると、日本人の平均食塩摂取量は1日9.8g(男性10.7g、女性9.1g)であり3814、目標値から大きくかけ離れています。漬物や味噌汁、麺類など、日本の伝統的な食文化には塩分の多いものが多く、減塩は多くの患者さんにとって大きな壁となります。
- 実践的な工夫: 患者さんからは「味がしなくて食事が楽しくない」といった悩みがよく聞かれます15。しかし、工夫次第で美味しく減塩は可能です。昆布や鰹節からとった「出汁(だし)」のうま味を効かせる、香辛料やハーブ、お酢やレモンなどの酸味を利用する、加工食品やインスタント食品を避ける、ラーメンやうどんの汁は飲まない、といった具体的なテクニックが有効です16。
- たんぱく質制限:
- 目標値: たんぱく質の過剰摂取は、老廃物(尿素窒素)を増やし腎臓に負担をかけます。目標値はステージによって異なり、ステージ3aでは0.8~1.0g/kg標準体重/日、ステージ3bではより厳しい0.6~0.8g/kg標準体重/日とされています4。この違いを意識することが重要です。
- サルコペニアとの両立: 特に高齢者において、過度なたんぱく質制限はサルコペニア(筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する状態)のリスクを高めるため、注意が必要です17。エネルギー不足にならないよう、たんぱく質を調整した治療用特殊食品などを活用し、必要なカロリーをしっかり確保することが大切です。また、肉、魚、卵、大豆製品など、必須アミノ酸をバランス良く含む「良質なたんぱく質」を選ぶことも推奨されます。
- カリウム・リン制限:
患者さんの声:食事療法のリアルな悩みと乗り越え方
多くの患者さんが「食べたいものが食べられない悲しみ」「家族と別の食事を作る手間」「外食や旅行への不安」といった、深刻な悩みを抱えています1519。大切なのは、完璧を目指しすぎないことです。管理栄養士と相談しながら、時には息抜きの日(リフレッシュデー)を設けるなど、精神的な負担を減らし、治療を長く続けていくための工夫を見つけることが、成功の鍵となります15。
運動療法:安静から「腎臓リハビリテーション」へ
かつてCKD患者さんには「安静第一」が推奨されていましたが、現在ではその考え方は完全に覆されています。筑波大学の山縣邦弘教授をはじめとする専門家の研究により、適度な運動が腎機能の維持や改善、さらには生命予後の向上に有効であることが明らかになりました120。この考え方は「腎臓リハビリテーション」と呼ばれ、治療の重要な柱とされています。
- 推奨される運動: ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を中心に、無理のない範囲での筋力トレーニングを組み合わせることが理想的です。週に3~5日、1回30分程度を目安に、ややきついと感じる手前で継続することが推奨されます17。
- 注意点: 運動を始める前には、心臓などに問題がないか、必ず主治医に相談してください。体調が悪い日や、過度に疲れている日は無理をせず休むことも大切です。
第5章:知っておくと安心:日本の公的医療費助成とサポート
CKDは生涯にわたる治療が必要となるため、医療費は患者さんとご家族にとって大きな経済的負担となり得ます。幸い、日本では患者さんの負担を軽減するための様々な公的制度が整備されています。これらの制度を正しく理解し活用することは、安心して治療を続ける上で非常に重要であり、この記事が提供する最も実用的な情報の一つです。
制度名 | 主な対象者 | 助成内容(自己負担上限額/月) | 申請に必要な主なもの |
---|---|---|---|
特定疾病療養受療制度 | 人工透析を必要とする慢性腎不全患者 | 原則1万円(高所得者は2万円) | 医師の意見書、保険証など |
自立支援医療(更生医療) | 身体障害者手帳を持つ18歳以上で、腎移植や人工透析などにより障害の軽減が見込める者 | 所得に応じ0円~2万円など(「重度かつ継続」に該当) | 身体障害者手帳、医師の意見書など |
重度心身障害者医療費助成制度 | 身体障害者手帳1・2級など(自治体により等級や所得制限が異なる) | 医療費の自己負担分を助成(内容は自治体により異なる) | 身体障害者手帳など |
ステージ3の段階では、これらの制度の直接の対象とならない場合がほとんどですが、病状が進行した場合に備え、このような制度が存在することを知っておくだけでも、将来への安心感につながります。
身体障害者手帳の取得について
腎機能障害によって身体障害者手帳を取得することができます。認定基準は血清クレアチニン値やeGFRによって定められており、等級によって受けられる福祉サービスが異なります24。一般的にCKDステージ3では認定基準に満たないことが多いですが、これも将来のための情報として知っておくと良いでしょう。認定基準は変更されることもあるため、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で確認することが重要です。
専門家との連携:チーム医療の重要性
CKDの治療は、一人の医師だけで完結するものではありません。KDIGOガイドラインでも、多職種によるチームアプローチが推奨されています2。かかりつけ医を中心に、腎臓専門医、管理栄養士、薬剤師、看護師などが連携し、あなたを多角的にサポートする体制が理想です。日本腎臓学会は、かかりつけ医から腎臓専門医へ紹介すべき基準を明確に定めており、その中には「eGFRが45 mL/分/1.73m²未満(ステージ3b以降)」などが含まれます525。ご自身の状態が専門医の診察を必要とする段階にあるかどうか、主治医とよく相談してみましょう。
まずは今日の夕食から、お味噌汁の汁を半分残すことから始めてみませんか?具体的な食事プランについては、主治医に相談の上、管理栄養士の指導を受けることを強くお勧めします。また、ご自身の医療費負担について不安な点があれば、お住まいの市区町村の福祉担当窓口や、加入している健康保険組合に問い合わせてみましょう。
よくある質問
Q1. 痛み止めの薬(NSAIDs)は飲んでもいいですか?
ロキソプロフェンやイブプロフェンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、腎臓への血流を減少させ、腎機能を悪化させる危険性があるため、自己判断での服用は絶対に避けるべきです。痛みがある場合は、必ず主治医に相談し、アセトアミノフェンなど、より腎臓への影響が少ないとされる薬剤を処方してもらうようにしてください。
Q2. 将来、必ず透析になりますか?
いいえ、必ずしもそうではありません。CKDステージ3は、末期腎不全への進行を防ぐための治療介入が最も効果を発揮する重要な時期です。本記事で解説した食事療法、運動療法、そして血圧や血糖の厳格な管理、SGLT2阻害薬などの適切な薬物治療を継続することで、腎機能の低下速度を大幅に遅らせ、生涯にわたって透析を回避できる可能性は十分にあります。日本の透析導入患者の原因疾患第1位は糖尿病性腎症です26。これは、CKDの早期段階からの包括的な管理がいかに重要かを示唆しています。
Q3. サプリメントや健康食品は飲んでも大丈夫?
安易な使用は非常に危険です。健康に良いとされるサプリメントでも、カリウムやリンを多く含んでいたり、腎臓に負担をかける成分が含まれていたりすることがあります。また、海外からの輸入製品には、表示されていない有害物質が含まれている事例も報告されています。いかなるサプリメントや健康食品、漢方薬などを利用する場合も、必ず事前に主治医や薬剤師に相談し、許可を得てください。
Q4. CKDステージ3でも妊娠・出産は可能ですか?
可能です。しかし、CKDのある女性の妊娠は、妊娠高血圧症候群や早産、胎児の発育不全などの危険性が高まるため、ハイリスク妊娠と位置づけられます。妊娠によって腎機能が悪化する可能性もあります。妊娠を希望する場合は、必ず事前に腎臓専門医と産科医に相談し、計画的に妊娠・出産に臨むことが不可欠です。専門医による緊密な管理のもと、無事に出産されている方もたくさんいらっしゃいます。
Q5. 高齢者でも厳しい食事制限は必要ですか?
結論
慢性腎臓病(CKD)ステージ3は、決して絶望的な状況ではありません。むしろ、ご自身の体と向き合い、未来を変えるための行動を起こすことができる「希望の段階」です。腎機能が完全に失われたわけではなく、適切な治療と生活習慣の改善によって、その進行を大きく遅らせることが科学的に証明されています。本記事を通じて、ステージ3aと3bの具体的な違い、食事や運動の重要性、SGLT2阻害薬といった最新治療の可能性、そしていざという時に頼れる公的制度の存在をご理解いただけたことと思います。最も大切なことは、一人で悩みを抱え込まず、主治医や管理栄養士、薬剤師といった専門家と良好なパートナーシップを築くことです。正しい知識を武器に、そして希望を持って、これからの治療への力強い一歩を踏み出してください。JapaneseHealth.org編集委員会は、あなたの健康な未来を心から応援しています。
参考文献
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