【科学的根拠に基づく】膀胱結石の危険性、原因、最新治療、費用、再発予防のすべて|専門ガイドラインを徹底解説
腎臓と尿路の病気

【科学的根拠に基づく】膀胱結石の危険性、原因、最新治療、費用、再発予防のすべて|専門ガイドラインを徹底解説

ある日突然、下腹部に激しい痛みを感じたり、排尿の最後にツーンとした不快感が走ったり、あるいは血尿が出たりして、不安に思われているのではないでしょうか。その症状、もしかしたら膀胱結石が原因かもしれません。膀胱結石は、単に痛みを引き起こすだけでなく、放置することで深刻な健康問題に繋がる可能性があるため、正しい知識を持つことが非常に重要です。この記事は、日本泌尿器科学会(JUA)や欧州泌尿器科学会(EAU)といった国内外の権威ある専門機関が発行した最新の診療ガイドラインと、信頼性の高い学術研究に基づいて作成されています12。この記事を最後までお読みいただくことで、膀胱結石に関するあなたの疑問や不安がすべて解消され、ご自身の健康状態を理解し、適切な次の一歩を踏み出すための確かな指針を得られることをお約束します。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源のみが含まれており、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示しています。

  • 日本泌尿器科学会 (JUA), 日本尿路結石症学会 (JSUR), 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 (JSER): 本記事における日本の標準的な診断法、治療法(特に経尿道的膀胱砕石術:TUL)、保険診療、および再発予防策に関する記述は、これらの学会が共同で策定した『尿路結石症診療ガイドライン 第3版』に基づいています1
  • 欧州泌尿器科学会 (EAU): 治療法の選択肢、詳細な科学的根拠のレベル、特殊な病態(例:神経因性膀胱)に関する解説、および合併症のリスクデータは、世界的な基準を示す『EAU Guidelines on Urolithiasis』に基づいています2
  • 米国泌尿器科学会 (AUA): 食事療法や代謝評価に関する詳細な推奨事項は、同学会のガイドラインを参考にしています11
  • European Urology誌に掲載されたメタアナリシス: 各治療法(TUL, ESWL, PCCL)の有効性を客観的に比較するためのデータは、複数の研究を統合・分析したこの最も信頼性の高い研究に基づいています26
  • 名古屋市立大学大学院によるQOL研究 (Journal of Endourology): 結石が患者の生活の質(QOL)に与える精神的・社会的影響に関する記述は、日本語版QOL評価票(J-WISQOL)を検証したこの研究に基づいています17
  • Mayo Clinic / Cleveland Clinic: 症状、診断、治療法に関する一般の方向けの分かりやすい解説や、代替医療に関する見解は、これらの世界的に評価の高い医療機関が提供する情報を参照しています18

要点まとめ

  • 膀胱結石は、激しい痛みや繰り返す尿路感染症の原因となるだけでなく、放置すると腎機能障害や稀にがんのリスクを高める可能性がある危険な状態です2125
  • 主な原因は前立腺肥大症などによる排尿障害であり、生活習慣病との関連も深いため、膀胱結石は「現代病」の一つとされています32
  • 日本の標準的な治療法は、保険が適用され体への負担が少ない内視鏡手術「経尿道的膀胱砕石術(TUL)」です2034
  • 5年再発率が約50%と非常に高いため、治療後も根本原因の解決と生活習慣の改善が不可欠です33
  • 再発予防で最も重要なのは、結石の種類に関わらず「1日2リットル以上の水分摂取」を心がけ、尿を薄く保つことです24

第1部:膀胱結石とは? – 放置が招く5つの深刻な危険性

尿路結石は、腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿の通り道にできる硬い結晶の塊です。その中でも、膀胱にできた結石を「膀胱結石」と呼びます。日本泌尿器科学会などの報告によると、尿路結石全体のうち膀胱結石が占める割合は約5%とされていますが、その影響は決して小さくありません26。症状がないからといって、あるいは痛みが我慢できるからといって放置することは、様々な深刻な事態を招く可能性があります。

1-1. 膀胱結石の基本

膀胱結石は、尿中に含まれるカルシウム、シュウ酸、尿酸といった成分が過飽和状態になり、結晶化して形成されます。多くの場合、腎臓でできた小さな結石が尿管を通り膀胱へ落下し、何らかの原因で排出されずに膀胱内で成長して大きくなります。あるいは、膀胱内で直接形成されることもあります。その根本には、次に解説するような危険な状態が隠れていることが多いのです。

1-2. 膀胱結石を放置してはいけない5つの理由

膀胱結石を放置することは、時限爆弾を抱えているようなものです。日本や欧州のガイドライン、そして多くの臨床研究が、以下の5つの深刻な危険性を指摘しています22125

  1. 激しい痛みと生活の質の著しい低下
    排尿時の焼け付くような痛み、特に排尿の終わりに感じる鋭い痛み、下腹部の鈍痛、頻尿、残尿感など、多彩な症状が日常生活を著しく脅かします。名古屋市立大学大学院の岡田淳医師らが主導した日本語版の尿路結石症患者QOL評価票(J-WISQOL)を用いた研究では、身体的な苦痛だけでなく、痛みへの恐怖から仕事や社会生活に支障をきたし、将来への不安を抱くなど、精神的な健康にも深刻な影響が及ぶことが科学的に示されています17
  2. 繰り返す難治性の尿路感染症
    結石の表面は細菌にとって格好の隠れ家となります。抗生物質を服用しても、結石内部に潜む細菌を完全に除去することは困難なため、慢性的な膀胱炎や、高熱を伴う重篤な腎盂腎炎を繰り返し引き起こす原因となります。特に高齢者や免疫力が低下している方では、感染症が敗血症という命に関わる状態に進展する危険性もあります21
  3. 尿閉(にょうへい):尿が全く出なくなる緊急事態
    結石が膀胱の出口(膀胱頸部)や尿道を完全に塞いでしまうと、「尿閉」という状態に陥ります。これは尿意があるのに全く排尿できない、非常に苦しい状態です。腎臓で作られた尿が排出できないため、膀胱がパンパンに張り、放置すれば腎臓に圧力がかかり、急性腎不全を引き起こす可能性のある、救急受診が必要な緊急事態です21
  4. 不可逆的な腎機能障害
    長期にわたる尿路の閉塞や、繰り返す重度の感染症は、腎臓そのものに持続的なダメージを与えます。腎臓は一度機能を失うと、現代の医学では回復させることができません。結石を放置した結果、腎機能が徐々に、あるいは急速に悪化し、最終的には腎不全に至り、生涯にわたる人工透析や腎移植が必要になるという最悪のシナリオも決して稀ではないのです25
  5. 膀胱がんとの関連性
    これは長期的な危険性ですが、結石が膀胱の粘膜を慢性的に刺激し続けることで、細胞ががん化し、特に扁平上皮癌という種類の膀胱がんのリスクを高める可能性が指摘されています。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでは、この因果関係についてはまだ議論の余地があるとしながらも、無視できない危険性として言及しています2

第2部:なぜ結石ができるのか? – 科学的根拠に基づく3大原因

膀胱結石ができる背景には、明確な医学的理由が存在します。それを理解することは、治療と再発予防の第一歩となります。

2-1. 膀胱結石の成り立ち:3つのタイプ

膀胱結石は、その成り立ちによって大きく3つのタイプに分類されます221

  • 二次性結石(最も一般的): 成人における膀胱結石の大部分(45~79%)がこのタイプです2。前立腺肥大症(BPH)、神経因性膀胱、尿道狭窄など、何らかの病気が原因で尿がスムーズに排出できなくなり、膀胱内に尿が常に残る状態(残尿)が続くと、その溜まった尿(尿停滞)の中で結石成分が結晶化し、徐々に成長して形成されます。根本的な原因疾患の治療が不可欠です。
  • 上部尿路からの落下(Migratory)結石: 腎臓や尿管でできた比較的小さな結石が、尿の流れに乗って膀胱まで落ちてくるタイプです。通常であれば尿と共に体外へ排出されますが、前述のような排尿障害が存在すると、結石が膀胱内に留まり、そこを「核」として雪だるま式に大きくなっていきます2
  • 異物性結石: 膀胱内に留置された尿道カテーテルや、過去の手術で体内に残された吸収されない縫合糸、あるいは稀に体内に入り込んだ異物などを核として、その周りに結石成分が付着して形成されるタイプです21

2-2. 日本における疫学:増加する「現代病」

日本の尿路結石の患者数は、この40年間で約3倍に増加しており、今や男性の7人に1人、女性の15人に1人が生涯に一度は罹患すると推定されています19。日本泌尿器科学会(JUA)が主導する全国疫学調査によると、この増加の背景には、食生活の欧米化(動物性タンパク質や脂肪の摂取増)、肥満、高血圧、糖尿病といった生活習慣病の蔓延が強く関連していることが指摘されています3。膀胱結石の予防は、メタボリックシンドローム全体の予防にも繋がり、より広い視点での健康維持に貢献すると言えるでしょう。

2-3. 結石の成分:あなたの結石は何でできている?

結石の成分を分析することは、再発予防戦略を立てる上で極めて重要です。主な結石成分には以下のようなものがあります22

  • シュウ酸カルシウム: 最も一般的な結石成分です。
  • リン酸カルシウム: 感染や尿のアルカリ化と関連します。
  • 尿酸: プリン体の多い食事(肉類、ビールなど)や、酸性尿と関連します。国際的なデータでは、成人の膀胱結石の約50%は尿酸結石であると報告されています22
  • リン酸マグネシウムアンモニウム(ストラバイト): 尿路感染が原因で形成される感染結石です。
  • シスチン: 遺伝的な代謝異常が原因でできる稀な結石です。

手術で摘出した結石は、専門機関で分析され、その結果に基づいて個々人に最適化された食事指導が行われます。


第3部:診断の最前線 – 確定診断に至るまでの全プロセス

膀胱結石が疑われる場合、泌尿器科では系統的な検査を行い、診断を確定します。Mayo Clinicなどの医療機関が示すプロセスは、世界的な標準となっています18

3-1. 問診と身体診察

まず医師は、どのような症状(排尿時の痛み、血尿、頻尿など)がいつからあるか、過去に尿路結石と診断されたことがあるか、前立腺肥大症などの持病はないかなどを詳しく聞き取ります。下腹部を触診し、圧痛の有無や膀胱の張り具合を確認することもあります。

3-2. 検査の種類と目的

問診に続き、客観的な証拠を得るために以下の検査が行われます。

  • 尿検査: 尿中に血液(潜血)や白血球(感染の兆候)が混じっていないか、尿のpHが酸性かアルカリ性かなどを調べる、最も基本的な検査です18
  • 画像検査の比較:
    • 超音波(エコー)検査: 欧州泌尿器科学会のガイドラインでは、体に害がなく簡便であるため、第一選択の検査として推奨されています2。プローブを腹部に当てるだけで、膀胱内の結石の有無や大きさ、腎臓の状態(水腎症の有無)などを確認できます。ただし、Clinical-SUPの情報によれば、その検出感度は20~83%と、検査者の技術や患者の体型によってばらつきがあるという限界も指摘されています21
    • X線(KUB)検査: 腹部のレントゲン撮影です。結石の位置や大きさを確認するのに有用ですが、尿酸結石や小さな結石は写らないことがあります18
    • CT検査: 最も感度と特異度が高い、いわば「ゴールドスタンダード」の検査です。ミリ単位の小さな結石や、X線に写らない種類の結石も確実に捉えることができます18。近年では、被ばく線量を大幅に低減した低線量CT(LD-CTKUB)の有効性が複数の研究を統合したメタアナリシスによっても証明されており、安全性への配慮も進んでいます27
  • 膀胱鏡検査(Cystoscopy): 最終的な確定診断や、原因精査のために行われる重要な検査です。尿道から細い内視鏡(カメラ)を挿入し、膀胱の内部を直接モニターで観察します。これにより、結石の大きさ、数、形状を正確に確認できるだけでなく、結石の原因となっている前立腺肥大の程度や、膀胱がんなどの他の病気の有無も同時に調べることができます18

第4部:【本記事の核心】膀胱結石の治療法 完全ガイド

膀胱結石の治療は、結石の大きさや数、原因となっている病気、そして患者さんの状態を総合的に判断して決定されます。腎臓から落ちてきた小さな結石は、水分を多く摂ることで自然に排出されることもありますが、多くの膀胱結石、特に排尿障害によって膀胱内で形成された二次性結石は、自然排出が期待できないため、積極的な治療が必要となります2

4-1. 日本の標準治療:経尿道的膀胱砕石術 (TUL)

現在、日本における膀胱結石治療の第一選択、すなわち標準治療とされているのが、内視鏡を用いた「経尿道的膀胱砕石術(Transurethral Ureterolithotripsy、略してTUL)」です34。この治療法が標準とされる理由は、高い有効性と安全性が確立されていることに加え、日本の健康保険制度が適用されるため、患者さんの経済的負担が比較的少ないことが挙げられます20

  • 手技: 麻酔(腰椎麻酔または全身麻酔)をかけた後、尿道からカメラ付きの内視鏡を膀胱まで挿入します。モニターで結石を直接見ながら、ホルミウム・ヤグレーザーなどの強力なレーザーファイバーを用いて、硬い結石を砂状になるまで細かく砕きます。砕かれた破片は、特殊な器具で回収するか、尿と共に洗い流します34。ホルミウムレーザーを用いた治療の有効性は、複数の研究を統合したメタアナリシスでも高く評価されています35
  • 有効性と入院期間・費用: TULは非常に高い確率で結石を完全に取り除くことができ、その有効性は多くの研究で証明されています26。体への負担が少ないため回復も早く、入院期間は通常2~5日程度です。費用は、保険適用3割負担の場合、手術料や麻酔料、入院費などを合わせて、おおよそ10万円から15万円程度が目安となりますが、これは病院の施設基準や処置内容によって変動します。また、高額療養費制度を利用することで、自己負担額をさらに抑えることが可能です20
  • 合併症: どんな手術にも危険性は伴います。EAUのガイドラインによると、TULの合併症として、術後の尿道損傷や、長期的には尿道が狭くなる尿道狭窄(2.9~19.6%)などが報告されています2。その他、術後の血尿や感染症のリスクもありますが、経験豊富な専門医が行うことで、これらの危険性を最小限に抑えることができます。

4-2. その他の治療選択肢:開腹手術と体外衝撃波

TULが標準治療ですが、状況によっては他の方法が選択されることもあります。

  • 開腹手術(経皮的膀胱砕石術 / 開放手術): 結石が非常に大きい(例えば直径4cm以上など)場合や、TULでの破砕が困難な場合に選択されます2。「経皮的膀胱砕石術(PCCL)」は、下腹部の皮膚から膀胱へ直接小さな穴を開け、そこから太い内視鏡を挿入して結石を砕く方法です。TULより短時間で巨大な結石を処理できる利点がありますが、日本では膀胱結石に対して保険適用外のため、高額な自費診療となります21。「開放手術」は、文字通り下腹部を切開して膀胱から直接結石を取り出す、最も古典的で確実な方法ですが、体への負担が最も大きく、入院期間も長くなります2
  • 体外衝撃波破砕術 (ESWL): 体の外から衝撃波を結石に集中させて砕く、最も低侵襲な治療法です。しかし、複数の研究を統合・分析した信頼性の高いメタアナリシスによると、膀胱結石に対するESWLの成功率はTULよりも低いことが報告されています26。さらに、日本ではこの治療法も保険適用外のため、膀胱結石に対しては原則として行われません21

4-3. 薬物溶解療法

尿酸結石やシスチン結石といった、特定の成分でできた結石に対しては、薬物による溶解療法が選択肢となることがあります。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム配合剤などの内服薬を用いて、酸性に傾いた尿をアルカリ化することで、結石を徐々に溶かしていく治療法です。ただし、効果が出るまでに時間がかかること、そして最も一般的なシュウ酸カルシウム結石には全く効果がないことを理解しておく必要があります2

【表B-3】膀胱結石の治療法 徹底比較表

JUAおよびEAUガイドライン、各種研究報告に基づき、各治療法の特徴をまとめました122126

治療法 手技の概要 主な対象 日本での保険適用 入院期間(目安) メリット デメリット・合併症
経尿道的膀胱砕石術 (TUL) 尿道から内視鏡を入れレーザーで砕石 ほとんどの膀胱結石 適用 2~5日 体への負担が少ない、回復が早い、高い成功率 尿道損傷、尿道狭窄、血尿、術後感染
経皮的膀胱砕石術 (PCCL) 下腹部に穴を開け内視鏡で砕石 大きな結石、TUL困難例 適用外 3~7日 太い内視鏡が使え、手術時間が短い 創部の痛み・感染、日本では高額な自費診療
開放手術 (Open) 腹部を切開し膀胱から直接摘出 非常に巨大な結石 適用 7~14日 どんな結石も確実に除去できる 体への負担が大きい、入院が長い、創部痛、傷跡
体外衝撃波破砕術 (ESWL) 体外から衝撃波で砕石 (他治療が困難な一部の症例) 適用外 日帰り~1泊 最も低侵襲 成功率が低い、複数回必要、自費診療
薬物溶解療法 内服薬で結石を溶かす 尿酸結石、シスチン結石 適用 外来治療 手術が不要 対象結石が限られる、効果に時間がかかる

第5部:再発率50%の壁を破る – 明日から実践できる究極の予防策

膀胱結石の治療において、手術で結石を取り除くことはゴールではありません。むしろ、そこが新たなスタート地点です。なぜなら、尿路結石は5年以内に約50%の人が再発するという、非常に再発率の高い病気だからです33。根本的な原因である排尿障害の治療や、食生活・生活習慣の見直しを行わなければ、何度でも結石は作られてしまいます。

5-1. すべての結石に共通する最も重要な予防策:水分摂取

結石の再発予防において、最も重要かつ効果的な方法は、結石の種類に関わらず「十分な水分を摂ること」です。日本および世界のすべての主要なガイドラインが、食事以外に1日2リットル以上の水分(水やお茶が望ましい)を摂取し、1日の尿量を2~2.5リットル以上に保つことを強く推奨しています24。そのメカニズムは非常に単純で、尿の量を増やすことで尿中の結石成分(シュウ酸、カルシウム、尿酸など)の濃度を薄め、それらが結晶化するのを防ぐのです。東北大学泌尿器科などの専門機関は、「結石は夜、寝ている間に作られる」という概念を提唱しており、就寝前のコップ一杯の水分補給が特に重要であると説明しています36

5-2. 食事療法:科学的根拠に基づく戦略

水分摂取と並行して、結石の成分に応じた食事療法が重要になります。以下に、JUAおよびEAUのガイドラインに基づいた、科学的根拠のある食事指導のポイントをまとめます2531

【表B-4】結石予防のための食事ガイド(JUA/EAUガイドライン準拠)

栄養素/食品 推奨事項 理由と科学的根拠
シュウ酸 過剰摂取を避ける(ほうれん草、タケノコ、紅茶、チョコレート等)。茹でるなどの調理法を工夫する。 尿中のシュウ酸はカルシウムと結合し、最も一般的なシュウ酸カルシウム結石の主成分となります22
カルシウム 適度に摂取する(1日800-1200mg目安)。食事と一緒に摂ることが重要。 腸管内でシュウ酸と結合し、便として体外へ排出させることで、シュウ酸の体内への吸収を抑えます。カルシウム不足は逆に結石のリスクを高めます
プリン体 過剰摂取を避ける(レバーなどの内臓肉、肉類、魚卵、ビール等)。 体内で代謝されて尿酸となり、尿酸結石の原因や、シュウ酸カルシウム結石の形成を促進する「核」となります22
動物性タンパク質 過剰摂取を避ける。 尿中のカルシウムと尿酸の排泄を増やし、結石を抑制する物質であるクエン酸の排泄を減らしてしまいます。
塩分(ナトリウム) 摂取を控える(1日6g未満目標)。ラーメンのスープを飲まないなどの工夫を。 尿中へのカルシウム排泄を増加させ、結石のリスクを高めます30
クエン酸 積極的に摂取する(レモン、オレンジ等の柑橘類、梅干し等)。 尿中でカルシウムと結びつき水に溶けやすい複合体を形成することで、結石の結晶化を強力に抑制します。
食物繊維 積極的に摂取する(野菜、海藻、きのこ類)。 腸内環境を整え、シュウ酸や脂肪酸の吸収を調整する働きが期待されます。

5-3. 生活習慣の改善

食事以外の生活習慣も再発予防に大きく関わります。肥満は高尿酸尿症や高シュウ酸尿症のリスクを高めるため、適正体重を維持することが重要です3。ウォーキングなどの適度な運動は、全身の代謝を活発にし、結石の排出を助ける効果も期待できます25。そして何より、排尿を我慢しない習慣をつけ、膀胱内に尿が長時間溜まるのを防ぐことが、膀胱結石予防の基本中の基本です。


第6部:生活の質(QOL)との向き合い方

膀胱結石は、単に身体的な痛みだけでなく、患者さんの心の健康や社会生活にも大きな影を落とします。

6-1. 結石が心身に与える影響

前述の日本語版QOL評価票(J-WISQOL)を用いた研究では、結石患者さんが抱える苦悩が4つの側面(社会的影響、感情的影響、健康への影響、活力への影響)から明らかにされています17。いつまた痛みに襲われるかという不安から旅行や趣味を諦めたり、痛みのせいでイライラして家族に当たってしまったり、仕事に集中できなくなったりと、その影響は多岐にわたります。海外の研究では、尿路結石症がうつ病や不安障害のリスクと関連している可能性も示唆されており、精神的なケアの重要性が認識されつつあります38

6-2. 治療後の生活と注意点

TULなどの手術後、一時的に尿管ステントという管を体内に留置することがあります。これは尿の流れを確保し、術後の回復を助けるための重要な処置ですが、頻尿や血尿、残尿感といった不快な症状を伴うことがあります24。これらの症状はステントを抜去すれば改善しますので、自己判断で治療を中断したりせず、医師の指示に従うことが大切です。また、治療が終わった後も、定期的に泌尿器科を受診し、超音波検査などで再発の兆候がないかを確認していくことが、長期的な健康維持の鍵となります37


よくある質問

膀胱結石は自然に排出されますか?

腎臓や尿管から落下してきた数ミリ程度の小さな結石であれば、十分な水分摂取により自然に排出される可能性はあります。しかし、膀胱結石の多くは前立腺肥大症などによる排尿障害が原因で膀胱内で直接作られ大きくなるため、自然に排出されることは困難です。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでも、症状のある結石や排尿障害を伴う結石は積極的な治療の対象とされています2

治療は痛いですか?

経尿道的膀胱砕石術(TUL)などの手術は、腰椎麻酔や全身麻酔のもとで行われるため、手術中に痛みを感じることはありません。ただし、術後に一時的に尿管ステントを留置した場合、その異物感による頻尿や排尿時の不快感が出ることがあります。これらの症状はステントを抜けば改善します24

手術の費用は総額でどのくらいかかりますか?

日本で標準的に行われるTULの場合、健康保険が適用されます。3割負担の場合、手術料、麻酔料、入院費などを含めて、一般的に10万円から15万円程度が目安となります。ただし、病院の施設基準、入院日数、使用する薬剤などによって費用は変動します。また、月の医療費が高額になった場合には、高額療養費制度を利用して自己負担額の払い戻しを受けることができます20

ビールを飲むと石が流れるというのは本当ですか?

これは医学的に明確な誤りです。ビールを飲むと一時的に利尿作用で尿量は増えますが、それ以上のデメリットがあります。ビールに多く含まれるプリン体は、体内で尿酸に変わり、尿酸結石のリスクを直接的に高めます。また、アルコールの分解には水分が使われるため、結果的に脱水状態となり、尿が濃縮されて逆に結石ができやすくなります。水分補給は、水やお茶で行うのが最適です24

カルシウムを摂ると石ができやすくなりますか?

これは古い考え方であり、現在はむしろ逆であることが分かっています。食事で摂取した適度なカルシウムは、腸の中で結石の主成分であるシュウ酸と結合し、便として体外に排出してくれます。これにより、シュウ酸が体内に吸収されるのを防ぎ、結果として結石のリスクを下げます。自己判断で極端なカルシウム制限を行うことは、かえって結石をできやすくする可能性があるため危険です31

ハーブやサプリメントは効きますか?

世界的に権威のあるMayo Clinicなどの医療機関によれば、現時点で膀胱結石を溶かしたり排出させたりする効果が、科学的に厳密な試験で証明されたハーブやサプリメントは存在しません18。一部で効果が謳われているものもありますが、腎機能障害を引き起こすなどの有害事象も報告されています。使用を検討する場合は、必ず事前に主治医である泌尿器科専門医に相談してください。

子供でも膀胱結石になりますか?

はい、なります。日本では成人と比較して稀ですが、先天的な尿路の形態異常による排尿障害や、シスチン尿症などの遺伝的な代謝異常が原因となることがあります。大人とは原因が異なる場合が多いため、小児泌尿器科など専門医による正確な診断と治療が不可欠です2

治療後、仕事はいつから復帰できますか?

TULのような内視鏡手術の場合、退院後、数日から1週間程度でデスクワークなどの軽作業であれば復帰可能なことが多いです。しかし、回復の速さには個人差があり、また肉体労働など仕事の内容によっても異なります。最終的な判断は、ご自身の体の状態を主治医と相談の上で決定してください。

前立腺肥大症も一緒に治療できますか?

はい、可能です。膀胱結石の根本原因が前立腺肥大症による排尿障害である場合、結石を取り除くだけでなく、同時に前立腺肥大症に対する手術(経尿道的前立腺切除術:TURPなど)を行うことが、再発予防の観点から非常に重要であり、多くの施設で推奨されています2

再発を防ぐために一番大切なことは何ですか?

原因によって最適な予防策は異なりますが、すべての人に共通して最も重要なことは、日本内分泌学会なども指摘するように「1日2リットル以上の水分を摂取して尿量を十分に保つこと」です33。これにより尿中の結石成分が薄まり、結晶化しにくくなります。次いで、塩分や動物性タンパク質の過剰摂取を避け、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。

結論

本記事では、最新の科学的根拠と専門家のガイドラインに基づき、膀胱結石の危険性、原因、診断、最新治療、そして最も重要な再発予防策について、包括的に解説しました。膀胱結石は、放置すれば生活の質を著しく損ない、深刻な合併症を引き起こす可能性のある疾患です。しかし、決して恐れすぎる必要はありません。適切な診断のもと、現在の医療技術、特に日本の標準治療である経尿道的膀胱砕石術(TUL)によって、安全かつ効果的に治療することが可能です。そして何より、膀胱結石は、日々の生活習慣を見直すことで十分に予防・管理できる病気です。この記事で得た正しい知識が、あなたの不安を解消し、健康な毎日を取り戻すための一助となれば幸いです。もし、本記事で解説したような症状に心当たりがある場合は、決して自己判断で放置せず、速やかにお近くの泌尿器科専門医を受診し、相談することを強くお勧めします。

        免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本泌尿器科学会, 日本尿路結石症学会, 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会. 尿路結石症診療ガイドライン 第3版. 東京: 医学図書出版; 2023.
  2. Türk C, Neisius A, Petřík A, et al. EAU Guidelines on Urolithiasis. Arnhem, The Netherlands: European Association of Urology; 2025. Available from: https://uroweb.org/guidelines/urolithiasis/chapter/bladder-stones
  3. 日本泌尿器科学会. 診療ガイドライン. 2013. Available from: https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/03_urolithiasis_2013_2.pdf
  4. 尿路結石症診療ガイドライン 第3版【電子版】. 医書.jp. Available from: https://store.isho.jp/search/detail/productId/2306322260
  5. No.30 日本泌尿器科学会. 日本医学会. Available from: https://jams.med.or.jp/members-s/30.html
  6. 会員MyWeb. 日本泌尿器科学会. Available from: https://jua.members-web.com/
  7. Yasui T, Ando R, Okada A, et al. 尿路結石の疫学. 中外医学社; 2017. Available from: https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1852.pdf
  8. 日本尿路結石症学会. UMIN PLAZAサービス. Available from: http://plaza.umin.ac.jp/~jsur/
  9. 診療GL. 日本尿路結石症学会 – UMIN PLAZAサービス. Available from: https://plaza.umin.ac.jp/~jsur/gl/
  10. 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会: ホーム. Available from: https://www.jsee.jp/
  11. Pathak P, Pandav S, Singh S, et al. Guideline of guidelines for kidney and bladder stones. PMC; 2020. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7731951/
  12. Stone Guidelines. American Urological Association. Available from: https://www.auanet.org/guidelines-and-quality/guidelines/non-oncology-guidelines/stones
  13. 尿路結石症が発する メッセージ. Available from: https://www.nc-medical.com/deteil/chemiphamation13_02.pdf
  14. 最新論文から見る尿路結石診療アップデート ~尿路結石症GL第3版後の報告~. HOKUTO. Available from: https://hokuto.app/post/mgxssxWWbxckhsXzLcdR
  15. 尿路結石症診療ガイドライン第 3版. UMIN PLAZAサービス. Available from: https://plaza.umin.ac.jp/~jsur/gl/jsur_gl2023.pdf
  16. Satoshi Yamaguchi’s research works. ResearchGate. Available from: https://www.researchgate.net/scientific-contributions/Satoshi-Yamaguchi-2141283623
  17. Okada T, Hamamoto S, Taguchi K, et al. Validation of the Japanese Version of The Wisconsin Stone Quality of Life Questionnaire: Results from SMART Study Group. J Endourol. 2021 Dec;35(12):1852-1856. doi: 10.1089/end.2021.0292. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34162226/
  18. Bladder stones – Diagnosis & treatment. Mayo Clinic. Available from: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bladder-stones/diagnosis-treatment/drc-20354345
  19. 尿路結石. 近畿大学. Available from: https://www.kindai.ac.jp/health/download/urolithiasis.pdf
  20. 医療技術評価提案書(保険未収載技術). 厚生労働省. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000561763.pdf
  21. 膀胱結石症・尿道結石 | 症状、診断・治療方針まで. 今日の臨床サポート. 2024. Available from: https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=441
  22. Leslie SW, Sajjad H, Bashir K. Bladder Stones. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK441944/
  23. Bladder Stones. European Association of Urology; 2020. Available from: https://d56bochluxqnz.cloudfront.net/documents/EAU-Guidelines-on-Bladder-Stones-2020.pdf
  24. 尿路結石の原因と治し方. すやま泌尿器科クリニック. Available from: https://www.suyama-clinic.com/stone/
  25. 尿路結石症. 福岡県泌尿器科医会. Available from: https://www.fukuoka-uro.net/05_disease/04.html
  26. Kallidonis P, Adamou C, Ntasiotis P, et al. Treatment of Bladder Stones in Adults and Children: A Systematic Review and Meta-analysis on Behalf of the European Association of Urology Urolithiasis Guideline Panel. Eur Urol. 2020 Apr;77(4):509-524. doi: 10.1016/j.eururo.2019.06.018. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31311676/
  27. Cui X, Li L, Liu Y, et al. Systematic review and meta-analysis of the diagnostic accuracy of low-dose computed tomography of the kidneys, ureters and bladder for urolithiasis. BJU Int. 2017 Aug;120(2):195-206. doi: 10.1111/bju.13749. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28139077/
  28. やせ過ぎは尿路感染症の死亡の危険因子に. CareNet.com. 2022. Available from: https://www.carenet.com/news/general/carenet/53235
  29. 尿路結石症. 東京慈恵会医科大学 泌尿器科. Available from: https://jikei-urology.jp/disease08/
  30. 尿管結石にならないための生活5選. Available from: https://hinyouki-shokaki.jp/blog/%E5%B0%BF%E7%AE%A1%E7%B5%90%E2%BD%AF%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E2%BE%B7%E2%BD%A3%E6%B4%BB-5-%E9%81%B8
  31. 尿路結石. 仁楡会札幌病院. Available from: https://www.jinyukai.or.jp/urolithiasis
  32. 尿路結石研究グループ. 名古屋市立大学 泌尿器科学分野. Available from: https://ncu-uro.jp/research/urinary_stone.php
  33. 尿路結石症. 一般の皆様へ – 日本内分泌学会. Available from: https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=73
  34. 尿路結石(尿管結石、腎臓結石、膀胱結石)の原因や治療について. 東京泌尿器科クリニック上野. Available from: https://hinyouki.jp/%E5%B0%BF%E8%B7%AF%E7%B5%90%E7%9F%B3%E5%B0%BF%E7%AE%A1%E7%B5%90%E7%9F%B3%E3%80%81%E8%85%8E%E8%87%93%E7%B5%90%E7%9F%B3%E3%80%81%E8%86%80%E8%83%B1%E7%B5%90%E7%9F%B3%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%82%84
  35. A meta-analysis and systematic review of holmium laser treatment of bladder stones. PubMed. 2021. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34532271/
  36. 尿路結石症について~特に再発予防に関して. 東北大学泌尿器科. Available from: http://www.uro.med.tohoku.ac.jp/patient_info/ic/cal_02.html
  37. 尿路結石はジャンプすれば治るって本当?~種類ごとの治療法をご紹介. サルスクリニック武蔵境. Available from: https://salusclinic.jp/column/uncategorized/article%E2%80%90510/
  38. Zhang Z, He Y, Li C, et al. Causal effects of psychiatric traits on the risk of urolithiasis in European and East Asian population: a Mendelian randomization analysis. J Men’s Health. 2024. doi: 10.22514/jomh.2024.127. Available from: https://www.jomh.org/articles/10.22514/jomh.2024.127
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ