【科学的根拠に基づく】血便の原因と対策のすべて:痔から大腸がんまで、費用・検査を徹底解説
消化器疾患

【科学的根拠に基づく】血便の原因と対策のすべて:痔から大腸がんまで、費用・検査を徹底解説

血便は、多くの人が一度は経験するかもしれない症状でありながら、その背景には軽視できない重大な病気が隠れている可能性があります。JapaneseHealth.org編集委員会は、読者の皆様が抱える「この血便は大丈夫だろうか?」という切実な不安に対し、科学的根拠に基づいた最も信頼できる情報を提供することを使命とします。本記事では、血便という体からの重要なサインを見逃さないために、その原因、色や状態別の危険度、医療機関を受診するタイミング、そして具体的な検査内容と費用に至るまで、国内外の最新の診療ガイドラインと公的データを基に、包括的かつ詳細に解説します。自己判断で様子を見てしまう前に、まずはこの記事で正確な知識を身につけ、ご自身の健康を守るための第一歩を踏み出してください。


この記事の科学的根拠

本記事は、引用される特定の研究報告書に明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源のみが含まれており、提示された医学的指針とそれらの直接的な関連性を示しています。

  • 国立がん研究センター (NCC): 本記事における大腸がんの統計データ(罹患率、死亡率)、および日本の大腸がん検診に関する推奨事項は、同センターが公表する最新のがん統計917および「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」7に基づいています。
  • 日本大腸肛門病学会 (JSCP): 痔疾患の診断と治療に関する記述は、同学会が策定した「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版」20を主要な根拠としています。
  • 日本消化器病学会 (JSGE): 消化器疾患全般に関する日本の最高権威学会として、その知見は記事全体の専門性を担保しています18
  • 米国消化器病学会 (ACG): 急性下部消化管出血の管理に関する国際的な標準治療は、同学会の臨床ガイドライン8に基づいており、特に緊急度の判断基準として参考にしています。
  • 厚生労働省 (MHLW): 食事指導に関する記述は、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」24に基づいています。

要点まとめ

  • 血便は、たとえ一回きりでも、また痛みがなくても、大腸がんなど重大な病気の初期症状である可能性があるため、決して自己判断で放置してはいけません1
  • 国立がん研究センターの最新統計によれば、大腸がんは日本人女性のがん死亡原因の第1位、男性では第2位であり、血便は最も注意すべきサインの一つです9
  • 便の色(鮮血、暗赤色、黒色など)は出血部位を推測する手がかりになりますが、正確な診断には専門医による診察と検査が不可欠です2
  • 症状がある場合の検査は、国の検診で推奨される「便潜血検査」だけでは不十分であり、大腸全体を直接観察できる「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」が診断の基本となります7
  • 大腸内視鏡検査の費用は、保険適用(3割負担)の場合、観察のみで約5,000円から、ポリープ切除を行った場合でも約20,000円から30,000円程度が目安です15

はじめに:血便は体からの重要なサイン – 放置は絶対に避けるべき理由

血便を確認した際、「きっと痔だろう」「少し様子を見よう」と考えてしまうことは、残念ながら少なくありません。しかし、その自己判断が、取り返しのつかない結果を招く危険性をはらんでいます。JapaneseHealth.org編集委員会が読者の皆様に最も強くお伝えしたいことは、「血便は、たとえ一回きりであったとしても、大腸がんの最初の症状である可能性を否定できない」1という厳然たる事実です。

このメッセージの重みは、客観的なデータによって裏付けられています。国立がん研究センターが公表した最新のがん統計によると、大腸がんは日本人女性のがんによる死亡原因の第1位であり、男性においても肺がんに次いで第2位となっています9。2023年には、日本全国で53,131人もの方が大腸がんで命を落としているのです17。多くの人が「血便=痔」という先入観から医療機関への受診をためらい、診断が遅れてしまう傾向にあります5。この遅れが、治療の選択肢を狭め、予後を大きく左右する可能性があるのです。本記事は、皆様がこのような事態を避け、ご自身の体を守るための正確な知識と行動指針を提供するために作成されました。

1. 「血便」とは? – まずは自分の便の状態を確認しましょう

一言で「血便」と言っても、その色や状態は様々です。まずはご自身の便がどのタイプに当てはまるのかを客観的に把握することが、原因を考える上での第一歩となります。

1-1. 「血便」「下血」「タール便」医学的な定義と違い

一般的に「血便」という言葉は、便に血液が混じる状態全般を指して使われますが、医学的には出血部位によって呼び方が区別されることがあります。これは、血液が消化管を通過する時間によって、血液中のヘモグロビンが胃酸や腸内細菌の影響で変化し、色が変わるためです2

  • 血便(けつべん、Hematochezia): 主に大腸や肛門など、下部消化管からの出血によって起こる、赤色の便を指します。鮮やかな赤色(鮮血)から、少し黒ずんだ赤色まで様々です。
  • 下血(げけつ、Melena): より医学的な文脈で使われる言葉で、特に食道・胃・十二指腸といった上部消化管からの出血が原因で、黒くドロドロとしたタール状の便(タール便)が出る状態を指すことが多いです33。広義には、血便も下血の一種として扱われることもあります。
  • タール便: 上記の通り、上部消化管からの出血が特徴的な黒色便です。イカ墨や海苔の佃煮のような見た目をしています。これは緊急性が高いサインです。

1-2. 【重要】便の色と状態でわかる危険度セルフチェック

便の色は、出血が消化管のどのあたりで起きているかを推測するための重要な手がかりとなります1。一般的に、肛門に近ければ近いほど血液は鮮やかな赤色になり、遠くなるほど黒っぽくなります。

  • 鮮血便(せんけつべん): 便の表面に鮮やかな赤い血が付着している、排便後に便器が赤く染まる、トイレットペーパーに血が付くといった状態です。主に肛門や直腸など、出口に近い部分からの出血が考えられます。
  • 暗赤色便(あんせきしょくべん): イチゴジャムやレンガ色のような、赤黒い血液が便全体に混ざり込んでいる状態です。S状結腸など、大腸の少し奥からの出血が疑われます。
  • 粘血便(ねんけつべん): ゼリー状の粘液と血液が混じった便です。大腸の粘膜に炎症が起きている可能性があります。
  • 黒色便(こくしょくべん)/タール便: 前述の通り、食道や胃、十二指腸など、上部消化管からの出血を示唆する、非常に危険なサインです。
  • 潜血便(せんけつべん): 肉眼では血液が確認できないものの、便潜血検査で陽性反応が出る状態です。自覚症状がないまま、大腸がんなどが進行している可能性があります。

1-3. 【価値提供テーブル①】血便の種類別特徴・考えられる原因・緊急度一覧表

ご自身の状態をより具体的に把握するために、以下の表をご活用ください。これはあくまで目安であり、最終的な診断は必ず専門医に委ねる必要があります。

便の種類 色・状態の特徴 考えられる出血部位 主な原因疾患の例 注意すべき随伴症状 緊急度の目安
鮮血便 便の表面に付着する鮮やかな赤色。排便時にポタポタ垂れる、紙に付着する。 肛門、直腸など肛門に近い下部消化管 痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、直腸がん、直腸ポリープ 排便時の痛み、肛門の違和感 痛みが強い、出血が止まらない場合は受診。
暗赤色便 赤黒い、レンガ色、イチゴジャムのような血液が便に混ざる。 S状結腸、下行結腸など大腸の奥 大腸がん、大腸ポリープ、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、大腸憩室出血 腹痛、下痢、便が細くなる 腹痛を伴う場合は速やかに受診。
粘血便 ゼリー状の粘液と血液が混ざった便。 大腸の粘膜 潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎、アメーバ赤痢、大腸がん 下痢、腹痛、発熱、しぶり腹(便意があるのに出ない) 症状が続く場合は必ず受診。
黒色便(タール便) 黒く、粘り気のある便。イカ墨や海苔の佃煮のよう。 食道、胃、十二指腸など上部消化管 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、食道がん みぞおちの痛み、吐き気、貧血症状(めまい、立ちくらみ) 緊急性が高い。直ちに医療機関を受診。
潜血便 肉眼では見えない微量の出血。便潜血検査で陽性となる。 消化管全般 大腸がん、大腸ポリープ、その他消化管の様々な疾患 症状がないことがほとんど。 検診で陽性なら必ず精密検査(大腸カメラ)を受ける。

情報源:複数の消化器内科クリニックの情報13、および米国消化器病学会(ACG)ガイドライン8を参考にJHO編集委員会が作成。

2. なぜ血便が?考えられる10の主な原因

血便は、様々な消化管の病気によって引き起こされます。ここでは、良性のものから悪性のものまで、代表的な原因疾患を解説します。

2-1. 【最も一般的】痔(いぼ痔・切れ痔)

血便の原因として最も多いのが痔(痔核・裂肛)です5。日本大腸肛門病学会の診療ガイドライン20においても詳細に分類されています。排便時に鮮やかな色の血が出ることが特徴で、多くの場合は痛みや肛門の違和感を伴います。しかし、「どうせ痔だろう」という自己判断が、後述する大腸がんの発見を遅らせる最大の原因となるため、絶対に軽視してはいけません。

2-2. 【最も注意すべき】大腸がん・大腸ポリープ

血便を見たときに最も警戒すべき病気です。大腸がんやその前段階である大腸ポリープが、便と擦れて出血することで血便が起こります。初期段階では無症状のことも多く、血便が唯一のサインであることも少なくありません1。便に血が混じった暗赤色便や、便が細くなる、残便感があるといった症状を伴うこともあります。

2-3. 腹痛を伴う場合:虚血性腸炎・感染性腸炎

  • 虚血性腸炎: 大腸の血流が一時的に悪化することで腸の粘膜が炎症を起こす病気です。突然の強い腹痛、下痢に続いて、血便(主に鮮血便)が見られます。
  • 感染性腸炎: 細菌やウイルスへの感染が原因で起こる腸炎です。激しい下痢や腹痛、発熱とともに、粘血便が出ることがあります。

2-4. 慢性的・難病指定:潰瘍性大腸炎・クローン病

これらは炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれ、国の難病に指定されています。免疫系の異常が関与していると考えられており、長期間にわたって下痢や血便(特に粘血便)が続きます。世界消化器病学機構(WGO)も、これらの疾患に対するグローバルなガイドラインを公開しています30

2-5. 突然の大量出血:大腸憩室出血

大腸の壁の一部が外側に袋状に飛び出した「憩室(けいしつ)」から出血する病気です。腹痛を伴わないことが多く、突然、大量の暗赤色または鮮血便が出ることが特徴です。

2-6. 黒い便(タール便)の場合:胃・十二指腸潰瘍、胃がんなど上部消化管の病気

黒色便(タール便)が見られる場合は、出血源が大腸ではなく、胃や十二指腸などの上部消化管である可能性が高くなります。胃酸の影響で血液が黒く変色するためです。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、進行した胃がんなどが原因として考えられます。

2-7. 【価値提供テーブル②】主な原因疾患の症状比較表(痔 vs 大腸がん vs 潰瘍性大腸炎)

特徴 痔(痔核・裂肛) 大腸がん・ポリープ 潰瘍性大腸炎
便の色 鮮血(便の表面に付着、紙に付く) 暗赤色(便に混ざる)、潜血便 粘血便(粘液と血液が混ざる)
腹痛 通常はない(肛門の痛みはある) 進行すると現れることがある 特徴的な症状としてよく見られる
下痢 通常はない 便秘と下痢を繰り返すことがある 持続的な下痢が特徴
その他の症状 排便時の痛み、脱肛、かゆみ 便が細くなる、残便感、貧血 発熱、体重減少、しぶり腹

情報源:日本大腸肛門病学会20、国立がん研究センター9などの情報を基にJHO編集委員会が作成。

3. 「血便が出たら、まず何をすべきか?」- 受診への完全ガイド

3-1. 結論:たった一度でも、すぐに消化器内科へ

この記事で最も重要なメッセージを繰り返します。「はい、たとえ一回きりでも、痛みがなくても、必ず消化器内科を受診してください」。その唯一かつ最大の理由は、「大腸がんの最初の症状である可能性を否定できないため」1です。痔だと思い込むことが最も危険な罠です。診断は医師に任せ、まずは専門医の診察を受けることが、ご自身の命を守るために最も確実な行動です。

3-2. なぜ症状がある場合は「検診」ではなく「診療」なのか?

ここで重要な区別があります。自治体などが行う「大腸がん検診」は、症状のない人を対象に、集団の中からがんの疑いがある人を見つけ出すためのものです(対策型検診)7。一方、血便という明らかな症状がある場合は、「検診」の対象ではなく、病気の診断と治療を目的とした「診療(保険診療)」を受ける必要があります。症状を自覚しながら検診の結果を待つことは、診断の遅れにつながるため避けるべきです。

3-3. 医師に正しく伝えるべきこと(色、量、頻度、その他の症状)- スマートフォンでの撮影も有効

診察を受ける際には、できるだけ正確な情報を医師に伝えることが、スムーズな診断につながります。もし可能であれば、スマートフォンのカメラで便の状態を撮影しておくことは非常に有効な手段です3。言葉で説明するよりも、実際の画像を見せることで、医師はより多くの情報を得ることができます。以下の点を整理しておきましょう。

  • いつから: 血便に初めて気づいたのはいつか。
  • 頻度: 毎日か、時々か。排便のたびに見られるか。
  • 色と状態: 鮮血か、暗い赤か、黒っぽいか。便の表面に付着しているか、混ざっているか。粘液は混じっているか。
  • : トイレットペーパーに付く程度か、便器が赤くなるほどか。
  • その他の症状: 腹痛、下痢、便秘、発熱、体重減少、便が細くなった、など。

3-4. 病院で行われる検査の一般的な流れ

消化器内科を受診すると、一般的に以下のような流れで診察と検査が進められます。

  1. 問診: 上記で整理した症状について、医師から詳しく質問されます。
  2. 身体診察: 腹部の触診などが行われます。
  3. 直腸診: 肛門や直腸の状態を調べるため、医師が指を肛門から挿入して診察することがあります。これにより、痔や直腸の病気の有無がある程度わかります。
  4. 検査の計画: 問診や診察の結果に基づき、必要な検査(便潜血検査や内視鏡検査など)が計画されます。

4. 診断のための主要な検査 – 目的・方法・費用を徹底解説

血便の原因を正確に特定するためには、専門的な検査が必要です。ここでは、主要な検査の目的、方法、そして多くの人が気にする費用について、詳しく解説します。

4-1. 便潜血検査(検便)- 国の検診で推奨される理由と限界

便潜血検査は、肉眼では見えない微量の血液が便に混じっているかを調べる検査です34。国立がん研究センターが策定した「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」7では、症状のない人を対象とした対策型検診(住民検診など)として、便潜血検査(免疫法)が最も高く推奨されています(推奨グレードA)。これは、この検査が大腸がんによる死亡率を減少させる効果が高いことが科学的に証明されており、集団に対する利益が不利益(検査の負担や偶発症)を上回るためです。免疫法による便潜血検査は、感度(がんがある場合に陽性となる確率)が約84%、特異度(がんがない場合に陰性となる確率)が約92%と報告されており22、非常に優れたスクリーニング検査です。

しかし、この検査には限界もあります。早期のがんやポリープは常に出血しているわけではないため、検査時にたまたま出血していなければ結果は陰性(見逃し)となります。また、痔など良性の病気でも陽性になります。したがって、血便という症状がすでにある場合は、便潜血検査の結果に頼るのではなく、より精密な大腸内視鏡検査を受けることが必須です。

4-2. 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)- 観察から治療まで可能な精密検査

大腸内視鏡検査は、肛門からカメラ(内視鏡)を挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を直接モニターで観察する検査です3。血便の原因診断における「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」とされています。粘膜の色や形を詳細に観察できるため、微小なポリープや早期がんの発見も可能です。さらに、疑わしい部分が見つかった場合は、その場で組織の一部を採取(生検)して病理検査に回したり、がん化する可能性のあるポリープを発見した場合は、その場で切除することもできます。

「検査が痛いのではないか」という不安を持つ方が多いですが、近年では鎮静剤(静脈麻酔)を使用し、「ほぼ眠った状態で苦痛なく検査を受けられる」3医療機関が主流です。また、ポリープを切除する際も、「大腸の粘膜には痛みを感じる神経がないため、痛みを感じることはほとんどない」3とされています。検査時間は通常15分から25分程度です。

4-3. 胃内視鏡検査(胃カメラ)- 黒色便の場合に実施

便の色が黒い「タール便」の場合は、出血源が胃や十二指腸にある可能性が高いため、大腸カメラではなく胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)が選択されます3。口または鼻から細いカメラを挿入し、食道、胃、十二指腸の内部を観察します。

4-4. 【価値提供テーブル③】主要検査の目的・方法・費用・保険適用の完全比較表

検査費用は、受診をためらう大きな要因の一つです。ここでは、複数の医療機関の情報を基に、費用の目安を網羅的にまとめました。これにより、受診前に具体的な金銭的見通しを立てることができます。

検査名 目的 検査方法の概要 費用目安(保険3割負担) 費用目安(自費診療/人間ドック)
便潜血検査(2日法) 肉眼で見えない便中の血液を検出。主に大腸がん検診(スクリーニング)に用いられる。 自宅で2日分の便を採取し、医療機関や検診機関に提出する。 自治体のがん検診:無料~1,000円程度34 1,000円~2,000円程度34
大腸内視鏡検査(大腸カメラ) 肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体を直接観察。ポリープやがんの発見、組織採取(生検)、ポリープ切除が可能。 下剤で腸内を空にした後、肛門からカメラを挿入。鎮静剤使用も可能。検査時間は15~25分程度3 観察のみ: 約5,000円~7,000円12
組織検査(生検)あり: 約10,000円~20,000円15
ポリープ切除あり: 約20,000円~30,000円15
約18,000円~30,000円程度。ポリープ切除を行う場合は保険適用に切り替わることが多い15
胃内視鏡検査(胃カメラ) 黒色便(タール便)の原因を調べるため、食道・胃・十二指腸を観察。 口または鼻から細いカメラを挿入。検査時間は5~10分程度3 観察のみ: 約4,000円~6,000円15
組織検査(生検)あり: 約9,000円~12,000円15
約15,000円~25,000円程度。

注:上記費用はあくまで目安であり、使用する薬剤や医療機関によって異なります。初診料・再診料などが別途かかる場合があります。

5. 原因別の主な治療法

診断が確定した後は、原因疾患に応じた治療が行われます。

5-1. 痔の治療:生活習慣の改善、市販薬の選び方、処方薬

痔の治療の基本は、便秘や下痢を避けるための生活習慣の改善です。市販薬を使用する場合は、症状に合わせて選びますが、長期間使用しても改善しない場合は必ず受診が必要です。医療機関では、より強力な軟膏や内服薬が処方されます。

5-2. 大腸がん・ポリープの治療:内視鏡的切除、手術、化学療法

早期の大腸がんやポリープの多くは、大腸内視鏡検査の際に切除することが可能です。進行している場合は、腹腔鏡手術や開腹手術、さらには抗がん剤による化学療法や放射線治療などが組み合わせて行われます。

5-3. 炎症性腸疾患(IBD)の治療:5-ASA製剤、ステロイド、生物学的製剤など

潰瘍性大腸炎やクローン病の治療は、腸の炎症を抑えることが中心となります。5-ASA製剤を基本とし、症状が強い場合はステロイドや、免疫の働きを調整する生物学的製剤などが用いられます。

6. 血便を予防し、腸の健康を保つための生活習慣

特定のがんや疾患を完全に予防することは困難ですが、腸の健康を保つための生活習慣は、多くの消化器系疾患のリスクを低減させるのに役立ちます。

6-1. 食事:食物繊維の重要性(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」より)

便通を整えるためには、食物繊維を十分に摂取することが非常に重要です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」24では、成人男性で1日21g以上、成人女性で1日18g以上を目標量として定めています。野菜、果物、きのこ類、海藻類、豆類などをバランス良く食事に取り入れましょう。

6-2. 適度な運動とストレス管理

定期的な運動は腸の動きを活発にし、便通を改善します。また、過度なストレスは腸の機能を低下させることが知られています。ウォーキングなどの軽い運動や、自分に合ったリラックス法を見つけることも、腸の健康維持につながります。

よくある質問

Q1. ストレスだけで血便は出ますか?

A1. 一般的に、ストレスが直接的な原因となって血便が出ることは稀です4。しかし、ストレスは胃酸の分泌を過剰にしたり、腸の動きを不安定にしたりして、胃潰瘍や便秘・下痢を悪化させる一因となることがあります。これらの状態が間接的に出血を引き起こす可能性は考えられます。いずれにせよ、血便が見られた場合はストレスのせいと決めつけず、必ず器質的な疾患(臓器の形態的異常を伴う病気)がないかを確認するために、消化器内科を受診することが重要です。

Q2. 痔だと思い込んで放置しても大丈夫ですか?

A2. 絶対に大丈夫ではありません。これは最も危険な自己判断の一つです5。「痔による出血」と「大腸がんによる出血」を、症状だけで完全に見分けることは専門医でも不可能です。痔だと思い込んでいた血便が、実は進行した大腸がんのサインだったというケースは決して珍しくありません。血便に気づいたら、原因が何であれ、まずは専門医の診断を仰ぐことが鉄則です。

Q3. 大腸がん検診は何歳から受けるべきですか?(2024年ガイドラインに基づく回答)

A3. 国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」7では、40歳以上の人々を対象に、対策型検診(住民検診など)として便潜血検査を年1回受けることを強く推奨しています。特に血縁者に大腸がんの既往歴がある方など、リスクが高いと考えられる場合は、より早期からの検査について医師に相談することをお勧めします。ただし、これはあくまで症状のない人が対象です。年齢に関わらず、血便などの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

結論

血便は、決して軽視してはならない体からの警告です。その背景には、痔のような比較的対処しやすい病気から、大腸がんという命に関わる重大な疾患まで、様々な可能性が潜んでいます。本記事を通じて、読者の皆様が血便に関する正確な知識を身につけ、何よりも「自己判断で放置せず、速やかに専門医に相談する」という最も重要な行動を取る一助となれたのであれば幸いです。大腸内視鏡検査に対する不安も、現代の医療技術によって大きく軽減されています。ご自身の健康と未来を守るため、勇気を持って一歩を踏み出してください。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  33. 下血・血便 | 症状、診断・治療方針まで – 今日の臨床サポート [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=887
  34. 便潜血検査2日法とは? 精度や検便のやり方、よくある疑問点を紹介 – 人間ドックのマーソ [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.mrso.jp/mikata/202/
  35. 人間ドックとがん検診の違いを徹底比較!効果的な健康管理法とは – DYM [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://dym.asia/media/thorough-physical-checkup-cancer-screening/
  36. 大腸がん検診の費用はいくら?内視鏡検査は高い?検査内容別まとめ – 人間ドックなび [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.docknet.jp/media/cancer-32/
  37. 「人間ドック」と「がん検診」の違いとは。がん発見率や検査内容・費用を比較&費用対効果が高い人間ドックも紹介 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.mrso.jp/mikata/2062/
  38. 人間ドックとがん検診の違いとは?検査項目や費用を比較 – セントラルクリニック世田谷 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://nidc.or.jp/column/completemedicalcheckup-cancerscreening/
  39. 血便とは?原因や対処法、予防法について解説 [インターネット]. マイメディカルクリニック; [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://mymc.jp/clinicblog/199997/
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