本稿の科学的根拠
本記事は、引用された研究報告書で明示されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、実際に参照された情報源のみを含み、提示された医学的指針とそれらの直接的な関連性を示したものです。
- 日本緑内障学会(多治見スタディ): 本記事における「日本の40歳以上の成人の半数以上が乱視を有する」という疫学的記述は、この大規模調査の結果に基づいています12。
- ジョンソン・エンド・ジョンソン社の調査: 日本人の「目の健康寿命」が平均寿命を大幅に下回るという警鐘は、同社の公開データに基づいています3。
- 日本眼科学会: 屈折矯正手術に関する適応基準や最新の手術法(SMILEなど)に関する記述は、同学会の最新ガイドライン(第8版)に準拠しています4。
- 日本眼科医会: 眼鏡やコンタクトレンズによる矯正において、「完全矯正」が必ずしも最善ではないという専門的見解は、同会の指針に基づいています5。
- 国立成育医療研究センター: 子供の乱視が弱視につながる危険性に関する解説は、同センターの専門的知見に基づいています6。
- 慶應義塾大学 鳥居秀成医師らの研究: 加齢に伴い乱視の種類が変化する(直乱視から倒乱視へ)という記述は、同医師の研究論文を引用しています7。
要点まとめ
- 日本の成人の半数が該当: 大規模な疫学調査「多治見スタディ」により、日本の40歳以上の54%が乱視を有していることが判明しています1。これは他人事ではない、非常に身近な問題です。
- 5つの主要な初期症状: 「視界のぼやけ・歪み」「夜間の光のにじみ」「眼精疲労(目の疲れ、頭痛、肩こり)」「目を細める癖」「物が二重に見える」は、注意すべき乱視のサインです。
- 子供の乱視は特に注意: 視力の発達期にある子供が未矯正の乱視を放置すると、永続的な視力障害である「弱視」につながる危険性があります。国立成育医療研究センターも早期発見の重要性を指摘しています6。
- 放置は他の病気のリスクも: 進行性の乱視は、円錐角膜や白内障といった他の眼疾患の兆候である可能性も考えられます89。
- 自己判断は禁物: 乱視の正確な診断と適切な治療法の選択には、専門家による検査が不可欠です。気になる症状があれば、必ず眼科を受診してください。
あなただけではありません:日本の成人の半数以上が持つ「乱視」という現実
「最近、文字が少しぼやけて見える」「夜の運転で対向車のライトが眩しく感じる」——こうした経験は、決してあなた一人のものではありません。日本緑内障学会が主導した大規模な疫学調査「多治見スタディ」によれば、日本の40歳以上の成人における屈折性乱視(0.5ジオプトリー以上)の有病率は、実に54.0%にものぼることが明らかにされています12。これは、40歳以上の2人に1人以上が、程度の差こそあれ乱視を抱えているという驚くべき現実を示しています。
さらに深刻なのは、「目の健康寿命」という観点です。ジョンソン・エンド・ジョンソン社が2023年に発表した調査では、日本人の「目の健康寿命」は平均60.8歳と報告されました3。これは、同年の日本人の平均寿命(男性81.05歳、女性87.09歳)を20年以上も下回る数値です。多くの人が、人生の最後の約20年間を、目の不調を抱えながら過ごしている可能性を示唆しています。別の調査では、目の健康への関心は高いものの、特に働き盛りの40代から50代において、具体的な予防行動を起こしている人の割合は2割未満と極めて低いことも分かっています10。
ほとんどの人が何らかの乱視を持っていると言われていますが11、この記事では、日常生活に支障をきたし、専門家による対策が必要となる「症候性」の乱視に焦点を当てます。見過ごされがちな初期症状を正しく理解することは、あなたの目の健康寿命を守り、生活の質を維持するための、極めて重要な第一歩なのです。
【乱視セルフチェック】5つの初期症状と、その「なぜ?」
乱視の症状は、しばしば近視や老眼と混同されがちです。しかし、その背景には特有のメカニズムが存在します。ここでは、見逃してはいけない5つの初期症状と、なぜそのような見え方になるのか、その科学的な理由を合わせて解説します。
症状1:全ての距離で視界がぼやける・歪む(特に文字や線)
乱視の最も代表的な症状は、距離に関わらず視界がぼやけたり、物が歪んで見えたりすることです。健康な目が「きれいな球体のバスケットボール」だとすれば、乱視の目は「楕円形のラグビーボール」のような形に歪んでいます12。この目のレンズ(主に角膜、時として水晶体)の歪みによって、目に入ってきた光が網膜上の一点に正しく集まらなくなります。その結果、ピントがどこにも合わず、まるで焦点の合わないカメラで撮影したかのように、常にぼやけた、あるいは線が二重に見えるといった見え方になるのです13。
症状2:夜間の運転が怖い・光がにじんで見える
「夜、対向車のヘッドライトがギラギラして見える」「街灯の光がにじんで、線のように伸びて見える」といった症状は、乱視を持つ人が特に強く感じるものです。この現象には明確な理由があります。暗い場所では、より多くの光を目に取り込もうとして、瞳孔(ひとみ)が自然に大きく開きます14。瞳孔が大きくなると、目のレンズである角膜の周辺部分まで光が通過するようになります。乱視の場合、角膜の歪みは中心部よりも周辺部の方が強い傾向があるため、瞳孔が開くことで光のブレやにじみがより顕著に現れてしまうのです。これは特に、50代男性から「雨の夜の運転が怖くなった」といった実体験として語られることが多い症状です。
症状3:目が疲れやすい、頭痛や肩こりが続く(眼精疲労)
絶えずピントが合わない状態が続くと、私たちの目は無意識のうちにピントを合わせようと必死に努力します。このピント調節を担っているのが、目の中にある毛様体筋という筋肉です。乱視があると、この毛様体筋が常に過剰な緊張を強いられるため、慢性的な目の疲れ(眼精疲労)を引き起こします15。眼精疲労は単に目が疲れるだけでなく、緊張が首や肩の筋肉にまで伝わり、頭痛や肩こりの原因となることも少なくありません。原因不明の頭痛に悩まされていた人が、乱視を矯正したところ症状が改善した、というケースも珍しくないのです。
症状4:無意識に目を細めてしまう・顔を傾けて見る
物が見えにくいとき、無意識に目を細めてしまうのは、乱視を持つ人によく見られる行動です。これは、物理的な「ピンホール効果」を利用した、自然な補正行為と言えます16。まぶたで視野を狭めることで、目に入る光の量を制限し、焦点のブレを軽減しようとしているのです。また、特定の角度に顔を傾けることで、乱視の歪みが最も少ない角度を探し、少しでも鮮明な像を得ようとすることもあります。特に子供の場合、このような仕草は本人に自覚がないことが多いため、周囲の大人が気づいてあげることが重要です。
症状5:物が二重、三重に見える
物が二つ、あるいはそれ以上に重なって見える症状は「複視」と呼ばれ、乱視の顕著なサインの一つです。これは、片目ずつ隠して見ても症状が現れるのが特徴です(単眼性複視)。多くの乱視(正乱視)では、物が一方向にだけブレて二重に見えます11。しかし、物が不規則にいくつも重なって見えたり、歪みが非常に強かったりする場合は、後述する病的な「不正乱視」の可能性も考えられ、より一層の注意が必要です。
乱視の正体:なぜ起こるのか?種類と原因を徹底解剖
乱視という言葉は広く知られていますが、その正確な原因や種類については十分に理解されていないのが現状です。ここでは、乱視の根本的なメカニズムと、その分類について専門的に掘り下げます。
角膜と水晶体:目のレンズの「歪み」が根本原因
私たちの目は、カメラのレンズに相当する「角膜」(黒目の表面を覆う透明な膜)と「水晶体」(目の中にあるレンズ)の二つの組織で光を屈折させ、網膜(フィルムに相当)に像を結びます12。乱視は、この角膜または水晶体が、本来あるべき完全な球面ではなく、方向によってカーブの度合いが異なる歪んだ形状をしているために発生します。この「歪み」により、光が網膜上の一点に集束せず、複数の焦点を持ってしまうため、ぼやけや歪みが生じるのです。
「正乱視」と「不正乱視」の違いとは?
乱視は、その歪みの規則性によって大きく二つの種類に分類されます。この違いを理解することは、治療法を考える上で非常に重要です。
正乱視 (Regular Astigmatism)
最も一般的で、ほとんどの乱視がこのタイプに分類されます。角膜や水晶体がラグビーボールのように一方向に歪んでおり、歪みの軸が規則的です。眼鏡や乱視用のコンタクトレンズ(トーリックレンズ)で光の屈折を補正することで、良好な視力を得ることが可能です11。正乱視は、その最も強い屈折力を持つ軸(強主経線)の向きによって、さらに3つに分類されます。
- 直乱視: 軸が垂直方向にあるタイプ。比較的若い世代に多く見られます。
- 倒乱視: 軸が水平方向にあるタイプ。加齢とともに増加する傾向があります。
- 斜乱視: 軸が斜め方向にあるタイプです。
不正乱視 (Irregular Astigmatism)
角膜の表面が不規則に凸凹しているために起こる乱視です。目の病気(後述する円錐角膜など)や、怪我が原因となることがあります。歪みが不規則であるため、通常の眼鏡やソフトコンタクトレンズでは完全な矯正が困難な場合が多く、酸素透過性の高いハードコンタクトレンズ(RGPレンズ)や、専門的な治療が必要となります11。不正乱視は、単なる視力の問題ではなく、眼疾患のサインである可能性を常に念頭に置くべきです。
乱視は進行する?加齢による変化と放置のリスク
「乱視はこれ以上進むのでしょうか?」という質問は、多くの患者様から寄せられます。これに対する答えは、単純ではありません。慶應義塾大学の鳥居秀成医師らによる研究では、人の乱視は生涯を通じて変化し、特に加齢に伴って、若い頃に多い「直乱視」から「倒乱視」へと変化していく傾向があることが示されています7。これは、まぶたが角膜を圧迫する力や、水晶体の状態が年齢と共に変化するためと考えられています。
また、未矯正の乱視を長期間放置することも、症状の悪化につながる可能性があります。常にピントが合わない状態で物を見続けると、眼精疲労が蓄積し、より強く疲れや不快感を感じるようになることがあります17。自己判断で「これくらいの見えにくさなら大丈夫」と放置せず、定期的に眼科で検査を受け、ご自身の目の状態を正確に把握しておくことが重要です。
【保護者の皆様へ】お子様の乱視と「弱視」の危険な関係
30代の女性から「息子がテレビを見るとき、いつも少し首を傾げているのが気になって…」という相談を受けることがあります。大人の乱視も問題ですが、子供の乱視は、将来の視力に決定的な影響を及ぼす可能性があるため、特に注意深い観察が必要です。
なぜ子供の乱視は特に注意が必要なのか?
人間の視力は、生まれつき完成しているわけではありません。生まれてから6歳~8歳頃までの「視力発達の臨界期」に、両目ではっきりと物を見るという適切な視覚刺激が脳に送られることで、視力は徐々に発達していきます。この極めて重要な時期に、強い乱視や遠視、斜視などがあり、網膜に鮮明な像が映らない状態が続くと、脳の視覚野の発達が阻害されてしまいます。その結果、眼鏡などで矯正しても良好な視力が得られない「弱視(amblyopia)」という状態になってしまうのです618。弱視は、臨界期を過ぎてからでは治療が非常に困難になるため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。国立成育医療研究センターも、この視力発達期における屈折異常の早期発見と治療の重要性を強く指摘しています6。
親が気づくべき子供のサイン
言葉で不調を訴えることが難しい小さなお子様の場合、ご家族がそのサインに気づいてあげることが不可欠です。以下のような行動が見られたら、乱視やその他の目の問題が隠れている可能性があります。
これらのサインは、見えにくい世界を何とか見ようとする子供なりの努力の表れかもしれません。3歳児健診などの機会を必ず利用し、少しでも気になることがあれば、速やかに眼科専門医に相談してください。
治療法:眼鏡とアイパッチの重要性
子供の乱視が原因の弱視治療の基本は、まず眼鏡による正確な矯正です。眼鏡をかけることで、網膜に常にピントの合った鮮明な像を送り、脳の視覚野が正しく発達するのを助けます18。また、左右の視力に差がある場合は、視力の良い方の目をアイパッチなどで一定時間隠し、視力の悪い方の目を強制的に使わせる「健眼遮蔽(けんがんしゃへい)」という訓練を行うこともあります19。治療はお子様にとって負担になることもありますが、将来のかけがえのない視力を守るために、ご家族と医師が協力して根気強く取り組むことが大切です。
乱視の先にある病気:円錐角膜と白内障の可能性
「この乱視は失明につながるのではないか」という強い不安を抱えて受診される方もいらっしゃいます。ほとんどの乱視(正乱視)が直接失明につながることはありませんが、一部の乱視は、治療が必要な眼疾患の重要なサインである場合があります。
円錐角膜 (Keratoconus)
円錐角膜は、本来お椀型をしている角膜が進行性に薄くなり、前方へ円錐状に突出してくる病気です8。角膜の形状が不規則に歪むため、重度の不正乱視を引き起こし、視力が著しく低下します。「急に乱視が強くなった」「眼鏡を何度作り替えても合わない」といった症状で発見されることが多いです。アトピー性皮膚炎との関連も指摘されており、目をこする癖は症状を悪化させる危険因子と考えられています。
白内障 (Cataracts)
白内障は、主に加齢によって目の中の水晶体が濁る病気です。この水晶体の混濁が不均一に起こることで、これまでなかった乱視が発生したり(水晶体性乱視)、元々あった角膜の乱視が強まったりすることがあります9。特に高齢になってから乱視が進行した場合は、白内障の併発を疑う必要があります。白内障手術の際には、乱視を同時に矯正できる特殊な眼内レンズ(トーリック眼内レンズ)を選択することも可能です。
眼科での診断と治療法:専門医に相談する重要性
乱視の症状に心当たりがある場合、最も重要なことは自己判断をせず、眼科を受診して正確な診断を受けることです。専門医は様々な検査を通じて、あなたの乱視の種類、程度、そして原因を的確に評価します。
正確な診断プロセス
眼科では、以下のような専門的な検査機器を用いて乱視の状態を詳細に調べます20。
- オートレフケラトメーター: 機械が自動的に近視、遠視、乱視の度数と、角膜のカーブの度合いを測定します。
- フォロプター(検眼機): 様々なレンズを目にあて、「どちらが見やすいですか?」と質問を繰り返しながら、最も快適で鮮明な視力が得られる矯正度数を精密に決定します。
- 角膜トポグラフィー: 角膜の形状を詳細な地図のように解析する検査です。特に不正乱視や円錐角膜の診断に極めて重要です。
治療の選択肢:眼鏡から最新手術まで
診断結果に基づき、あなたの生活様式やニーズに合わせて、最適な治療法が提案されます。
眼鏡とコンタクトレンズ
正乱視に対する最も一般的で安全な矯正方法は、眼鏡またはコンタクトレンズです。眼鏡では、特定の方向のみ光を屈折させる「円柱レンズ(シリンドリカルレンズ)」を用いて乱視を矯正します21。コンタクトレンズでは、乱視用の「トーリックレンズ」が主流です20。
ここで重要なのは、日本眼科医会も指摘するように、「測定上の最高視力」と「日常生活での快適さ」は必ずしも一致しないという原則です5。特に初めて乱視を矯正する場合、完全に度数を合わせると、かえって地面が揺れて見えるような違和感や頭痛を感じることがあります。そのため、専門医はあなたの慣れ具合を考慮しながら、あえて少し弱めの度数から始めるなど、快適性を重視した処方を行います。
屈折矯正手術 (Refractive Surgery)
眼鏡やコンタクトレンズの装用から解放されたいと希望する方には、屈折矯正手術という選択肢もあります。日本眼科学会は、その安全性と有効性を確保するために厳格なガイドラインを定めています4。
- レーシック (LASIK): 角膜にフタ(フラップ)を作成し、レーザーで角膜の形状を変化させることで屈折異常を矯正します。
- スマイル (SMILE): 2023年に日本眼科学会のガイドラインで新たに承認された最新の手術法です。角膜の切開創が非常に小さく、目への負担が少ないとされています4。
- ICL(眼内コンタクトレンズ): 目の中に特殊なレンズを挿入することで視力を矯正する手術です。角膜を削らないため、強い近視や乱視の方にも適応可能です22。
これらの手術には、年齢や角膜の厚さ、乱視の程度など、ガイドラインに定められた厳格な適応基準があります4。誰もが受けられるわけではなく、そのメリットと潜在的な危険性について、専門医から十分な説明を受け、納得した上で決定することが不可欠です。
よくある質問
Q1: 乱視は自力で治せますか?視力回復トレーニングは効果がありますか?
A1: いいえ、残念ながら乱視そのものを自力で治すことはできません。乱視は角膜や水晶体の物理的な「形状の歪み」が原因であり、目のトレーニングやマッサージなどでこの形状を変化させることは医学的に不可能です12。いわゆる視力回復トレーニングは、一時的な眼精疲労の緩和には役立つかもしれませんが、乱視の根本的な解決にはつながりません。正確な視力矯正のためには、眼鏡やコンタクトレンズ、あるいは屈折矯正手術といった医学的アプローチが必要です。
Q2: 近視と乱視はどう違うのですか?
A2: 近視と乱視は、どちらも屈折異常の一種ですが、ピントのずれ方が根本的に異なります。近視は、目の奥行き(眼軸長)が長すぎることなどが原因で、光の焦点が網膜の「手前」の一点にずれてしまう状態です。そのため、近くの物は見えますが、遠くの物がぼやけます15。一方、乱視は角膜などの「歪み」が原因で、そもそも焦点が「一点」に集まりません。そのため、遠くも近くも、全ての距離で物がぼやけたり、二重に見えたりします。両方を併せ持っている場合も多くあります。
Q3: 新しい乱視用の眼鏡を作ったら、なんだかクラクラします。これは普通のことですか?
A3: はい、特に初めて乱視を矯正した場合や、度数を大幅に変更した場合によくある現象です。乱視用の眼鏡は、特定の方向の光だけを強く曲げるため、脳がその新しい見え方に慣れるまで、地面が傾いて見えたり、空間が歪んで感じられたりすることがあります5。通常は数日から2週間程度で慣れてきますが、もし症状が長く続く場合や、頭痛がひどい場合は、度数が強すぎる可能性があります。無理せず、処方を受けた眼科や眼鏡店に相談してください。
Q4: 子供が3歳児健診で乱視の疑いを指摘されました。すぐに眼鏡は必要ですか?
A4: 3歳児健診での指摘は、精密検査への重要なきっかけです。必ず眼科専門医を受診してください。医師は、サイプレジンなどのピント調節を麻痺させる目薬を使った精密な検査を行い、お子様の正確な乱視の度数を測定します。その結果、視力の発達に影響を与える可能性のある強い乱視(弱視の原因となりうる乱視)と診断された場合は、直ちに治療用眼鏡の装用を開始する必要があります18。軽度の乱視で、視力の発達に問題がないと判断されれば、経過観察となる場合もあります。いずれにせよ、専門医の診断と指示に従うことが最も重要です。
結論
乱視は、単なる「見え方の癖」ではありません。それは、日本の成人の半数以上が共有する健康課題であり、眼精疲労や生活の質の低下に直結し、さらには子供の弱視や大人の眼疾患のサインともなりうる、重要なシグナルです。多治見スタディが示す54.0%という有病率1や、平均寿命を20年以上も下回る60.8歳という「目の健康寿命」3の現実は、私たちにもはや見て見ぬふりを許しません。
この記事で解説した5つの初期症状—視界のぼやけ、夜間の光のにじみ、眼精疲労、目を細める癖、複視—に心当たりがあれば、それはあなたの目が発している助けを求める声かもしれません。自己判断や放置が最も危険です。信頼できる眼科専門医を受診し、ご自身の目の状態を正確に把握すること。それこそが、あなたの、そしてあなたの大切な家族の「目の健康寿命」を延ばし、生涯にわたってクリアな視界を保つための、最も確実で重要な行動なのです。
参考文献
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