【科学的根拠に基づく】角膜炎のすべて:失明に至る原因からコンタクトレンズ利用者のための完全予防ガイドまで
眼の病気

【科学的根拠に基づく】角膜炎のすべて:失明に至る原因からコンタクトレンズ利用者のための完全予防ガイドまで

その目の痛み、充血、あるいは視界のかすみは、単なる疲れ目ではないかもしれません。それは、放置すれば永続的な視力障害、最悪の場合は失明に至る可能性のある深刻な眼疾患、「角膜炎」の警告サインである可能性があります。特に、日本国内でコンタクトレンズ(CL)を使用している数多くの人々、とりわけ若年層にとって、これは決して他人事ではありません。国内の調査では、10代から20代の若者が発症する感染性角膜炎の実に9割以上がコンタクトレンズに関連しているという衝撃的な事実が報告されています12。本稿は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、日本眼科学会の公式診療指針3や米国疾病予防管理センター(CDC)の科学的根拠4など、国内外の最高水準の医学的知見を網羅的に統合し、角膜炎に関する最も信頼でき、かつ実践的な情報を提供するために制作されました。角膜の基本的な構造から、様々な原因別の症状と最新の治療法、そして何よりも重要な予防策まで、この一つの記事で角膜炎に関するあらゆる疑問を解決することを目指します。

本記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性が含まれています。

  • 日本眼科学会: 本記事における感染性角膜炎の分類、診断、および治療に関する指針は、同学会が発行した「感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)」3に準拠しています。
  • 厚生労働省科学研究費補助金研究報告書: 日本国内、特に若年層におけるコンタクトレンズ関連角膜感染症の深刻な疫学データ(有病率や不適切なケアの実態)に関する記述は、これらの公的調査報告書12に基づいています。
  • 米国疾病予防管理センター(CDC): コンタクトレンズの安全な使用とケアに関する具体的かつ実践的な予防策(特に「こすり洗い」の重要性や水道水使用の禁止)は、CDCが提供する公衆衛生上の勧告456を基に構成されています。
  • 国際的な査読付き学術誌(例:PubMed Central掲載論文): 角膜炎治療におけるステロイド併用の是非7や、薬剤耐性菌の問題8、角膜クロスリンキングなどの新規治療法9に関する先進的な議論は、国際的に認知された最新の研究成果に基づいています。

要点まとめ

  • 角膜炎は、眼球の透明な「レンズ」である角膜に炎症が起きる疾患であり、痛み、充血、視力低下を引き起こし、永続的な後遺症を残す危険性があります。
  • 原因は、細菌・真菌・ウイルス・アカントアメーバなどによる「感染性」と、外傷やアレルギー、ドライアイなどによる「非感染性」に大別されます。
  • 日本ではコンタクトレンズ(CL)の不適切な使用が感染性角膜炎の最大の原因であり、特に10代・20代の患者の9割以上を占めるという深刻な状況です12
  • 治療は原因によって全く異なり、自己判断での市販薬使用は極めて危険です。感染性角膜炎には原因微生物に応じた抗微生物薬の頻回点眼が必要であり、ステロイド点眼は原則禁忌です3
  • 予防の鍵は、コンタクトレンズの正しいケアにあります。特にレンズの「こすり洗い」と、レンズケースの定期的な交換・乾燥が感染リスクを大幅に低減させます510
  • 激しい目の痛み、急激な視力低下、白目がゼリー状に腫れるなどの症状は、緊急受診が必要な危険なサインです。速やかに眼科専門医の診察を受けてください。

すぐに眼科へ行くべき危険なサイン

角膜炎は進行が速い場合があり、治療の遅れが視力の予後を大きく左右します。以下に示すような症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見たり、市販の点眼薬で対処したりせず、直ちに眼科専門医の診察を受けてください。夜間や休日であっても、救急外来の受診をためらってはいけません。

  • 耐え難いほどの激しい目の痛み
  • 急激に物が見えにくくなった、視界がかすむ
  • 白目(結膜)がゼリー状にブヨブヨと腫れている(結膜浮腫)
  • 大量の膿(うみ)のような眼脂(めやに)が出る
  • 光を異常にまぶしく感じる(羞明)
  • 黒目(角膜)の部分が白く濁って見える

角膜炎とは?―目の”レンズ”が悲鳴を上げる病気

角膜の構造と機能:なぜこれほど繊細なのか

角膜炎を深く理解するためには、まず角膜そのものの役割と脆弱性を知ることが不可欠です。角膜は、眼球の最も前面にある厚さ約0.5mmの透明な膜です11。その主な役割は、外界からの光を屈折させ、眼の奥にある網膜に正確な像を結ばせることであり、カメラの高性能レンズに相当します。この透明性を維持するため、角膜には血管が存在せず(無血管性)、栄養は主に涙液や眼内の房水から供給されます12

この繊細な組織は、外側から「上皮」「ボーマン膜」「実質」「デスメ膜」「内皮」という5つの層で構成されています13。最も外側の上皮層は、涙の膜によって保護され、細菌や異物などの外部からの侵入を防ぐ重要なバリアとして機能しています12。しかし、このバリア機能は、コンタクトレンズの装用による物理的な摩擦や酸素不足1、あるいはゴミが入るなどの外傷によって容易に損なわれます。

なぜ角膜炎は失明につながるのか?:再生能力の限界

角膜炎が視力に永続的なダメージを与える根本的な理由は、角膜の層によって再生能力が異なる点にあります。最も外側の上皮層は再生能力が高く、表面的な浅い傷(角膜びらん)であれば、後遺症なく治癒することがほとんどです。しかし、感染がその下の「実質」層にまで達すると、事態は深刻化します。実質層が治癒する過程では、瘢痕組織が形成されるため、透明であったはずの角膜に永続的な「混濁」が残ってしまいます14。これは、透明なガラスにすりガラス状の傷が残るようなものであり、恒久的な視力低下や不正乱視の原因となります。さらに深刻なのは、最も内側にある「内皮」層の細胞です。この細胞は角膜の水分量を一定に保つポンプの役割を担っていますが、一度障害を受けて死んでしまうと、二度と再生することはありません15。内皮細胞が大幅に減少すると、角膜は水分を過剰に含んでしまい、水疱性角膜症という重篤な状態に至ります。したがって、「なぜ早期治療が絶対的に重要なのか」という問いに対する答えは、感染や炎症が、再生しない、あるいは瘢痕を残して治癒する深層部へと到達する前に食い止めるため、という生物学的な根拠に基づいているのです。

【原因別・徹底解説】あなたの角膜炎はどのタイプ?

角膜炎は単一の疾患ではなく、原因によって治療法や経過が大きく異なります。日本眼科学会の診療ガイドライン3に基づき、角膜炎をその原因から分類し、それぞれの特徴を詳しく解説します。

1. 感染性角膜炎:病原体との戦い

微生物の感染によって引き起こされる角膜炎であり、その多くは迅速かつ専門的な治療を必要とします。コンタクトレンズの不適切な使用は、これら全ての感染性角膜炎の重大な危険因子です16

細菌性角膜炎 (Bacterial Keratitis)

原因と特徴: 緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌などが主な原因菌です3。特にコンタクトレンズ利用者に多い緑膿菌は進行が極めて速く、数日で角膜に穴が開く(角膜穿孔)こともあり、激しい眼痛と膿性の眼脂を伴います3。日本での疫学調査では、コンタクトレンズ装用が細菌性角膜炎の最大の危険因子であることが繰り返し指摘されています117

真菌性角膜炎 (Fungal Keratitis)

原因と特徴: フザリウムやカンジダといった真菌(カビ)が原因となります3。植物の枝で目を突くなどの外傷や、ステロイド点眼薬の長期使用、免疫力が低下している状態などが発症の引き金となります3。症状の進行は細菌性と比べて緩やかで、痛みも比較的軽いことがありますが、治療は数ヶ月に及ぶことも多く、非常に治りにくいのが特徴です3。角膜の病巣は綿毛状の混濁として観察されます。

ウイルス性角膜炎 (Viral Keratitis)

原因と特徴: 単純ヘルペスウイルス(HSV)が最も一般的な原因です3。一度感染すると、ウイルスは顔面の神経節(三叉神経節)に潜伏し、過労や発熱などで体の免疫力が低下すると再活性化して角膜炎を再発させます18。特徴的なのは、角膜表面に木の枝のような病変を作る「樹枝状(じゅしじょう)角膜炎」です3。水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)も同様に角膜炎を引き起こすことがあります。

アカントアメーバ角膜炎 (Acanthamoeba Keratitis)

原因と特徴: アメーバの一種であるアカントアメーバが原因で、感染性角膜炎の中でも最も治療が困難で、重篤な視力障害を残しやすい疾患です3。この微生物は水道水、土壌、プールなど環境中に広く存在するため、コンタクトレンズを水道水で洗浄・保存したり、レンズをつけたままシャワーを浴びたりすることが直接的な感染原因となります419。症状の最大の特徴は、病変の程度に不釣り合いなほどの「激しい痛み」であり、神経に沿って炎症が広がる「放射状角膜神経炎」という所見が診断の手がかりとなります20。確立された特効薬がなく、治療は極めて長期にわたります。

2. 非感染性角膜炎:感染以外の原因

微生物の感染を伴わない角膜の炎症状態です。

  • 外傷性・物理的刺激: 目にゴミが入ったり、爪で引っ掻いたり、フィッティングの悪いコンタクトレンズを装用したりすることで角膜表面に傷(角膜びらん)が生じ、そこから炎症が起こります1
  • ドライアイ関連: 涙の分泌量が減少したり、涙の質が悪化したりすることで、角膜を保護する涙液層が不安定になり、角膜が乾燥して傷つきやすくなる状態(ドライアイ)が、角膜炎を引き起こすことがあります11
  • アレルギー性: 花粉やハウスダストなどに対するアレルギー反応(アレルギー性結膜炎)が重症化すると、炎症が角膜にまで及び、角膜潰瘍などを形成することがあります(春季カタルなど)18
  • 神経栄養性角膜炎 (Neurotrophic Keratitis): 角膜の知覚を司る三叉神経が、ヘルペスウイルス感染の後遺症や脳神経外科手術などによって損傷されることで発症する特殊な角膜炎です21。角膜の知覚が鈍くなるため、傷の治りが著しく悪くなり、痛みを感じないまま重篤な角膜障害へと進行する稀な疾患です22

眼科での診断と治療のすべて

正確な診断と適切な治療の開始は、視力を守るための絶対条件です。眼科では、患者さんの症状を和らげるだけでなく、その根本原因を突き止めるために様々な検査が行われます。

診断を確定するための眼科検査

診断プロセスを理解することは、患者さんの不安を和らげ、治療への協力を促します。一般的に行われる主要な検査は以下の通りです。

  • 細隙灯顕微鏡検査 (Slit-lamp examination): 眼科診療の基本となる最も重要な検査です。顕微鏡で眼を拡大して観察し、角膜の混濁や潰瘍の有無、炎症の深さや範囲、前房(角膜と虹彩の間)の炎症細胞の程度などを詳細に評価します3
  • フルオレセイン染色検査 (Fluorescein staining): フルオレセインという黄色の色素液を点眼し、青い光を当てて角膜を観察します。角膜上皮が剥がれていたり、欠損したりしている部分が鮮やかな緑色に染まるため、傷の大きさや形状を正確に把握することができます18
  • 角膜擦過・培養検査 (Corneal scraping and culture): 感染性角膜炎が疑われる場合に行われる、原因微生物を特定するための決定的な検査(ゴールドスタンダード)です323。点眼麻酔の後、滅菌された器具で病巣部を優しく擦り取り、検体を採取します。この検体をスライドガラスに塗って顕微鏡で直接観察(塗抹検査)したり、様々な培地で病原体を育てて種類を特定(培養同定検査)したりします。この検査により、最も効果的な抗微生物薬を選択することが可能になります。
  • その他の特殊検査: ウイルス感染が疑われる場合は、涙や角膜擦過物からウイルスの遺伝子を検出するPCR法が用いられることがあります18。また、ヘルペス感染による知覚低下を確認するために、細いナイロン糸で角膜に触れて反応を見る角膜知覚検査も行われます18

エビデンスに基づく治療プロトコル

角膜炎の治療は、原因によって全く異なります。特に、感染性角膜炎と非感染性角膜炎では、治療の柱となる薬が正反対であるため、専門医による正確な診断が不可欠です。非感染性の多くでは炎症を抑える「副腎皮質ステロイド薬」が中心となりますが、感染性角膜炎(特に真菌やアカントアメーバ)にステロイド薬を使用すると、病原体の増殖を助長し、病状を著しく悪化させる危険性があります324

以下の表は、日本眼科学会の診療ガイドライン3などを基に、主な感染性角膜炎の標準的な薬物療法をまとめたものです。これは専門的な情報ですが、治療の複雑性と専門性をご理解いただくために提示します。

表1. 感染性角膜炎の標準薬物療法325
原因微生物 第一選択薬(一般名) 第二選択薬・併用薬 投与方法・頻度 主な注意点
細菌 広域スペクトルフルオロキノロン系点眼薬(レボフロキサシン、モキシフロキサシン等) 重症例ではセフェム系とアミノグリコシド系点眼薬の fortified therapy(強化療法)を併用 初期は30分~1時間ごとの頻回点眼 ステロイド併用は原則として感染が制御されてから。薬剤耐性菌(MRSA等)も考慮する。
真菌(糸状菌) ピマリシン点眼液、ボリコナゾール点眼液(院内調製) フルコナゾール点眼液 1~2時間ごとの頻回点眼。病巣掻爬を併用。 治療は長期にわたる。難治性であり、専門的治療が必要。
真菌(酵母様) アゾール系点眼液(ミコナゾール、フルコナゾール)(院内調製) キャンディン系点眼液(院内調製) 1~2時間ごとの頻回点眼 カンジダ属が主。ステロイド長期使用者等に注意。
ウイルス(HSV) アシクロビル眼軟膏 角膜実質型・内皮炎にはステロイド点眼を併用。重症例では経口抗ウイルス薬(バラシクロビル等) 眼軟膏:1日5回。点眼:炎症に応じ頻回から漸減。 再発を繰り返す。ステロイドの使用は専門医の厳密な管理下で。
アカントアメーバ クロルヘキシジングルコン酸塩点眼液、PHMB点眼液(共に院内調製) プロパミジン・イセチオネート点眼液、抗真菌薬点眼の併用 初期は1時間ごとの頻回点眼。頻回の角膜搔爬を行う。 治療は極めて困難で、数ヶ月~1年以上に及ぶ。ステロイド点眼は禁忌。

治療における重要課題

  • ステロイド併用の是非: 細菌性角膜炎において、感染を制御した後に炎症を抑える目的でステロイドを併用するかどうかは、専門家の間でも議論のある点です。角膜の混濁を軽減する可能性が期待される一方で、感染を再燃させる危険性も伴います3。米国の⼤規模臨床試験(SCUT)では、全体としての明確な有効性は示されませんでしたが7、個々の症例に応じて専門医が慎重に判断する必要があります。
  • 薬剤耐性菌: 近年、多くの抗菌薬が効かない薬剤耐性菌、特にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による角膜炎が増加しており、治療を困難にしています8。この事実は、安易な抗菌薬の使用を戒め、原因菌を特定する培養検査の重要性を裏付けています。
  • 外科的治療と先進医療: 薬物療法で感染を制御できない場合や、角膜に穴が開く角膜穿孔に至った場合は、感染した角膜組織をドナーから提供された健常な角膜と交換する「治療的角膜移植(TPK)」という緊急手術が必要になります26。また、治癒後に残った強い混濁に対しては、視力回復を目的とした待機的角膜移植が行われます。さらに近年では、角膜組織を強化して殺菌効果も期待できる「角膜クロスリンキング(CXL)」9や、神経栄養性角膜炎に対する神経成長因子(NGF)製剤(セネゲルミン)21、遺伝性疾患に対する遺伝子治療27など、先進的な治療法の開発も進んでいます。

【最重要】コンタクトレンズ利用者のための完全予防ガイド

本記事の核となるセクションです。日本の疫学調査は、感染性角膜炎、特に若年層におけるそれが、防ぐことが可能な「生活習慣病」の側面を持つことを示唆しています12。重症化した患者の行動分析では、レンズの「こすり洗い」を毎日行っていたのはわずか5分の1であり2、定期検査を受けていない利用者が6割を超えるというデータもあります14。これらの事実は、正しい知識の欠如が直接的に失明のリスクに繋がっていることを示しています。ここでは、米国疾病予防管理センター(CDC)の科学的根拠に基づくガイドライン456と日本の実態28を踏まえ、あなたの目を守るための究極の予防マニュアルを提供します。

ステップ・バイ・ステップ:パーフェクトケアガイド

以下の手順を毎日欠かさず実践することが、感染症から目を守るための最も確実な方法です。

  1. 手洗い (Wash Hands): レンズに触れる前には、必ず石鹸と流水で指先から手首までを丁寧に洗い、糸くずの出ない清潔なタオルで「完全に」乾かします5。濡れた手でレンズに触れると、水道水中のアカントアメーバが付着する危険性があります。
  2. 洗浄 (Rub): レンズを外したら、手のひらに乗せ、推奨された多目的消毒液(MPS)を数滴たらします。薬指の腹でレンズの両面をそれぞれ20秒以上、優しく直線的に「こすり洗い」します5。この「こすり洗い」こそが、細菌の集合体であるバイオフィルムを除去する上で最も重要な工程です。日本のユーザーはこの工程を省略しがちですが、研究ではこすり洗いによってレンズ表面の微生物を90%以上除去できることが示されています2
  3. すすぎ (Rinse): こすり洗いしたレンズを、新しいMPSで5秒以上しっかりとすすぎ、剥がれた汚れや洗浄剤を完全に洗い流します29
  4. 消毒・保管 (Disinfect & Store): 清潔なレンズケースに、毎回「新しい」消毒液をレンズが完全に浸るまで満たし、そこにレンズを入れて蓋をしっかり閉めます。消毒液の「継ぎ足し」使用は、液中の消毒成分が薄まり、効果が著しく低下するため、絶対にやめてください5
  5. ケースの管理 (Case Care): レンズを装用した後は、ケースに残った古い消毒液を必ず捨てます。その後、新しい消毒液でケースの内側をすすぎ、キャップを開けたまま伏せて自然乾燥させます5。浴室などの湿った場所に保管するのはやめましょう。そして、少なくとも「3ヶ月に1回」は新しいレンズケースに交換してください。汚染されたレンズケースは感染の温床です。

絶対遵守!7つのゴールデンルール

以下のルールは、眼科医が繰り返し強調する、安全なコンタクトレンズライフのための鉄則です。

  1. 水道水は絶対NG: レンズのすすぎやケースの洗浄、保存に水道水は絶対に使用しないでください。アカントアメーバ感染の最大のリスクです4
  2. つけたまま寝ない: 眼科医から特別な許可がある場合を除き、就寝時は必ずレンズを外してください。装用したまま寝ると、角膜感染症のリスクが最大で8倍に増加するという報告があります14
  3. つけたまま水に入らない: シャワー、プール、温泉、海水浴など、水に入る際は必ずレンズを外してください4
  4. 使用期間を厳守する: 1日使い捨て(1day)、2週間交換(2week)、1ヶ月交換(1month)など、レンズの種類ごとに定められた装用期間・交換期間を厳密に守ってください14。カラコン(カラーコンタクトレンズ)も同様です。
  5. 眼科の定期検査を受ける: 自覚症状がなくても、3ヶ月から半年に1回は必ず眼科専門医の診察を受けてください14。自分では気づかない角膜の傷や酸素不足のサインを早期に発見できます。
  6. 異常を感じたら即中止: 少しでも目に痛み、充血、かすみ、異物感などの異常を感じたら、直ちにレンズの装用を中止し、レンズを持参して速やかに眼科を受診してください30
  7. 予備のメガネを必ず携帯する: いつでもレンズを外せるように、自分の視力に合った予備のメガネを常に携帯する習慣をつけましょう25

よくある質問

コンタクトレンズをつけたまま1時間だけ昼寝してしまったのですが、大丈夫でしょうか?

短時間であっても、コンタクトレンズを装用したまま眠ることは推奨されません。眠っている間はまばたきが減り、涙の循環が悪くなるため、角膜が酸素不足に陥りやすくなります。これにより、角膜のバリア機能が低下し、感染症のリスクが高まります14。一度や二度の短時間の仮眠で直ちに重篤な障害が起こるわけではありませんが、習慣化することは絶対に避けるべきです。もし装用したまま眠ってしまった場合は、起床後すぐにレンズを外し、しばらくはメガネで過ごすなどして目を休ませてください。痛みや充血などの異常を感じた場合は、速やかに眼科を受診してください。

目が痛いのですが、週末で病院が休みです。市販の抗菌目薬でしのいでもいいですか?

自己判断で市販の目薬を使用することは極めて危険であり、絶対に避けるべきです。市販の抗菌目薬は、効果のある細菌の種類が限られており、真菌やアカントアメーバには全く効果がありません3。原因が異なるのに不適切な目薬を使用すると、治療の機会を逃すだけでなく、かえって病状を悪化させたり、後の診断を困難にしたりする可能性があります。特に、一部の市販薬に含まれるステロイド成分は、感染症を増悪させる危険があります。激しい痛みや視力低下がある場合は、休日・夜間であっても救急外来や地域の当番医を探して、必ず眼科専門医の診察を受けてください。

1日使い捨て(ワンデー)タイプのコンタクトレンズなら、ケアをしなくていいので安全ですよね?

1日使い捨てタイプは、毎日新しい清潔なレンズに交換するため、レンズやケースのケアが不要であり、長期装用タイプに比べて感染症のリスクが低いことは事実です31。しかし、絶対に安全というわけではありません。レンズに触れる前の手洗いを怠ったり、一度外したレンズを再装用したり、装用したまま眠ったりすれば、1日使い捨てタイプであっても重篤な角膜感染症を起こすリスクは十分にあります。重要なのは、レンズの種類に関わらず、基本的な取り扱いのルール(清潔な手指での操作、装用時間の遵守、定期検査など)を徹底することです。

カラコン(カラーコンタクトレンズ)でも、透明なレンズと同じ注意が必要ですか?

はい、全く同じ、あるいはそれ以上の注意が必要です。カラーコンタクトレンズも、視力補正用のコンタクトレンズと同様に、高度管理医療機器です。レンズ表面に着色料が施されているため、透明なレンズに比べて酸素透過性が低い製品が多く、角膜への負担が大きくなる傾向があります30。また、インターネット通販などで安易に購入された製品の中には、品質が粗悪なものも含まれている可能性があります。ケア方法や遵守すべきルールは、透明なレンズと全く同じです。必ず眼科で検査と処方を受け、正しい使用方法を守ってください。

結論

角膜炎は、その原因が多岐にわたり、時に私たちの視力を脅かす深刻な疾患です。しかし、その多く、特に現代の日本社会で大きな問題となっているコンタクトレンズ関連角膜炎は、正しい知識と日々の注意深い実践によって防ぐことが可能です。この記事で解説したように、角膜の繊細な構造を理解し、様々な原因と症状を知り、そして何よりもCDCなどが推奨する科学的根拠に基づいた予防策を徹底することが、あなたの貴重な視力を生涯にわたって守るための鍵となります。目に少しでも異常を感じた際には、決して自己判断せず、速やかに眼科専門医に相談してください。あなたのその勇気ある一歩が、取り返しのつかない事態を防ぐ最も確実な方法です。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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