骨粗鬆症の薬 全解説|効果・副作用・費用から最新治療戦略まで、あなたに合った選び方
筋骨格系疾患

骨粗鬆症の薬 全解説|効果・副作用・費用から最新治療戦略まで、あなたに合った選び方

骨粗鬆症の薬物治療は、骨密度を高めることだけが目的ではありません。真のゴールは骨折を予防し、自立した生活を守ることにあります1。この記事では、個々の骨折リスクに基づき、アナボリック先行療法や逐次療法といった最新の個別化戦略、副作用への具体的な対策、公的制度を含めた費用の考え方まで、日本の公式情報に基づき網羅的に解説します。

この記事の信頼性について

本記事はJHO編集部がAIを活用して編集・検証しました。外部の医師・専門家の関与はありません。

厚生労働省の統計資料、日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会の公式ガイドライン、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の添付文書、および査読済み論文を主要な根拠としています。重要な主張にはGRADE評価(エビデンスの確実性)を考慮し、事実の直後に引用を配置しています。最新の改訂情報は記事末尾の更新履歴でご確認いただけます。

要点

  • 治療の目的は骨折を防ぎ、自立した生活と健康寿命を守ることです。
  • 個々の骨折リスクを評価し、治療目標を設定する個別化が重要です2
  • 高リスク者には骨形成薬を先行させ、逐次療法で効果を維持します3
  • MRONJ/AFF予防のため、医師と歯科医師の連携が不可欠です4

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。骨粗鬆症の診断や治療、薬剤の選択に関しては、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指導に従ってください。

1. なぜ今、骨粗鬆症治療が重要なのか? – 日本が直面する現実

骨粗鬆症は、骨折が起こるまで自覚症状がほとんどないため「サイレント・ディジーズ(静かなる病)」と呼ばれます。しかし、その静寂の裏では、日本の超高齢社会の基盤を揺るがしかねない深刻な問題が進行しています。

1.1. 推定患者1280万人に対し、治療を受けているのは僅か1割 – 見過ごされる「静かなる病」

日本における骨粗鬆症の推定患者数は約1280万人と、極めて多くの人々が骨折の危険に晒されています5。それにも関わらず、厚生労働省の「令和5年(2023) 患者調査」によれば、実際に骨粗鬆症で医療機関を受療している患者数は約138.7万人にとどまっています6。これは、リスクを抱える人のうち9割近くが未治療のまま放置されているという衝撃的な実態を示しており、この巨大な「治療ギャップ」こそが、日本の公衆衛生における喫緊の課題なのです。

1.2. 骨折が引き起こす「寝たきり」と「健康寿命」の短縮

骨粗鬆症による骨折は、単なる「怪我」では済みません。特に、足の付け根の骨折である「大腿骨近位部骨折」や、背骨が潰れる「椎体骨折」は、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させます。激しい痛みに加え、歩行能力の低下から、これまで通りの自立した日常生活が送れなくなることも少なくありません。事実、内閣府の調査でも要介護状態になる主な原因として「骨折・転倒」は常に上位に挙げられています7。さらに、大腿骨近位部骨折後の1年以内死亡率は、骨折しなかった同年代の人々と比較して有意に高いという厳しいデータもあり8、生命予後にも深刻な影響を及ぼします。骨粗鬆症治療は、この負の連鎖を断ち切り、「健康寿命」を守るために極めて重要なのです。

2. あなたの骨折リスクは? – 薬物治療を始めるべきかの判断基準

「自分は薬を飲む必要があるのだろうか?」これは多くの方が抱く当然の疑問です。骨粗鬆症の薬物治療を開始すべきかは、個々人の「将来の骨折リスク」に基づいて総合的に判断されます。その基準は、日本の公式ガイドラインで明確に示されています9

2.1. 薬物治療開始の3つのトリガー:骨折の有無と骨密度(YAM値)

日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会が発行する「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、薬物治療を開始すべき基準として、主に以下の3つのいずれかに該当する場合を挙げています9

  1. すでに脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)がある場合:わずかな外力(例:転倒やくしゃみ)で生じた骨折のこと。特に背骨(椎体)や足の付け根(大腿骨近位部)の骨折がある場合は、骨密度に関わらず強力な治療の対象となります。
  2. その他の脆弱性骨折があり、かつ骨密度が低い場合:手首や腕の付け根などの骨折歴があり、かつ骨密度が若年成人平均値(YAM: Young Adult Mean)の80%未満の場合。
  3. 骨折はないが、骨密度が著しく低い場合:骨折歴がなくても、骨密度がYAMの70%以下(またはDXA法のT-スコアで-2.5以下)の場合。

※YAM値やT-スコアは、骨密度測定(DXA法)によって得られる客観的な指標です。

2.2. FRAX®(フラックス:骨折リスク評価ツール)の活用法

骨密度は重要な指標ですが、骨折リスクはそれだけで決まるわけではありません。年齢、性別、体重、身長、過去の骨折歴、両親の大腿骨骨折歴、喫煙・飲酒習慣、特定の疾患(関節リウマチなど)や薬剤(ステロイドなど)の使用といった多くの危険因子が複雑に関わってきます。これらの因子を統合し、個人の10年以内の骨折確率を予測するために、シェフィールド大学(WHO共同研究センター)で開発された骨折リスク評価ツールが「FRAX®」です10。日本のガイドラインでも、このFRAX®で計算された「10年以内の主要骨粗鬆症性骨折の発生確率」が15%以上の場合、薬物治療を考慮することが推奨されています9

3. 骨粗鬆症治療の最前線:最新の治療戦略「目標指向型治療」とは

かつての骨粗鬆症治療は画一的なアプローチが主流でしたが、現在、治療の考え方は大きく進化し、より個別化・戦略化された「目標指向型治療(Treat-to-Target)」が国際的な標準になりつつあります。

3.1. ゴールを設定する:目指すべき骨密度(T-スコア)

「目標指向型治療」とは、まず治療のゴールを具体的に設定し、その達成に向けて最適な治療法を選択・調整していく考え方です。日本の専門家の間でも、治療目標として「新たな骨折を起こさないこと」を最終ゴールとし、その中間指標として「骨密度をT-スコア-2.5以上(YAM値70%以上に相当)まで改善させること」などが提唱されています11。明確なゴールを持つことで、治療の進捗が評価しやすくなります。

3.2. リスクに応じた戦略:超高リスク、高リスク、中リスク

「目標指向型治療」の根幹は、患者さん一人ひとりの骨折リスクをより詳細に評価し、層別化することです。米国臨床内分泌学会(AACE)などの国際的なガイドラインでは、患者を以下のように分類し、リスクレベルに応じた治療戦略を推奨しています2

  • 超高リスク (Very High Risk):
    • 過去12ヶ月以内の骨折
    • 治療中の新たな骨折
    • 複数の骨折歴
    • 骨密度が極端に低い(T-スコア-3.0未満)
    • FRAX®での骨折確率が非常に高い(主要骨粗鬆症性骨折 ≥30%など)
  • 高リスク (High Risk):
    • 過去の椎体や大腿骨の骨折歴
    • 骨密度が低い(T-スコア-2.5以下)
    • FRAX®での骨折確率が高い(主要骨粗鬆症性骨折 ≥20%など)
  • 中リスク (Moderate Risk): 上記に当てはまらない、比較的リスクの低い状態。

3.3. 最強の布陣を組む「Anabolic-first」と「逐次療法」

このリスク層別化に基づき、特に「超高リスク」の患者さんに推奨されるのが、「Anabolic-first(アナボリック・ファースト)」という戦略です。これは、治療初期に最も強力な骨形成促進薬(アナボリック薬)を投入し、短期間で骨量を最大限まで増やして骨折の危機的状況から迅速に脱出するアプローチです3。そして、骨形成促進薬による治療(通常1~2年)終了後は、築き上げた骨量を維持するために骨吸収抑制薬へと治療を引き継ぎます。この治療薬をリレーのように繋いでいく戦略を「逐次療法(シーケンシャル療法)」と呼びます。この組み合わせこそが、現代の骨粗鬆症治療における最も重要かつ効果的な戦略の核心なのです。

4. 【薬剤別 全解説】骨粗鬆症治療薬の種類と特徴

現在、日本で用いられる骨粗鬆症治療薬は、その作用機序によって大きく3つのグループに分けられます。それぞれの特徴、メリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

4.1. 治療薬マップ:作用機序による分類

  • 骨吸収を抑える薬(骨吸収抑制薬):古くなった骨が壊される(吸収される)のを防ぎ、骨量の減少を食い止めます。骨の”守り”を固める薬剤です。
  • 骨の形成を促す薬(骨形成促進薬):新しい骨を作る骨芽細胞の働きを活性化させ、積極的に骨量を増やします。骨を”攻め”て造る薬剤です。
  • 両方の作用を持つ薬(デュアル・エフェクト薬):骨吸収を抑えると同時に、骨の形成を促すという二つの作用を併せ持ちます。

その他、これらの主力薬の効果を最大限に引き出すため、治療の土台としてビタミンD3製剤やカルシウム製剤などが併用されます。

4.2. 骨吸収抑制薬 – 骨の”守り”を固める薬剤

骨吸収抑制薬は、骨粗鬆症治療で最も広く使われている薬剤群です。

4.2.1. ビスホスホネート製剤(BP剤)

  • 主な薬剤:アレンドロン酸(製品名:フォサマック®、ボナロン®)、リセドロン酸(アクトネル®、ベネット®)、ミノドロン酸(ボノテオ®、リカルボン®)、イバンドロン酸(ボンビバ®)、ゾレドロン酸(リクラスト®)
  • 論点:BP剤は、長年の使用実績と豊富なエビデンスを持つ第一選択薬です912。毎日、週1回、月1回服薬する経口薬と、月1回や年1回注射する注射薬があります。経口薬は「起床後すぐ、コップ1杯の水で服用し、その後30~60分は横にならず、水以外の飲食を避ける」という厳格な服薬ルールを守る必要があります。一方、注射薬はその制約がなく利便性が高いです。長期間(3~5年)使用後は、効果とリスクを評価し、一時的に服薬を休止する「ドラッグホリデー」を検討する場合があります13
  • 副作用:経口薬では胸やけなど消化器症状が、注射薬では投与初期にインフルエンザ様の症状が出ることがあります。稀ですが、重大な副作用として「顎骨壊死(MRONJ)」と「非定型大腿骨骨折(AFF)」が知られています(後述)。

4.2.2. デノスマブ(プラリア®) – 半年に1回の注射

  • 論点:デノスマブは、RANKLという骨吸収に関わる物質を特異的に阻害する抗体製剤です。ビスホスホネートより強力な骨吸収抑制作用を示し、骨密度を継続的に増加させる効果があります14。半年に1回の皮下注射で済むため利便性が高いですが、最大の注意点があります。それは、自己判断で治療を中断すると、急激に骨吸収が亢進し、多発性の椎体骨折(リバウンド骨折)を来すリスクがあることです15。そのため、デノスマブ治療を終了する場合は、必ずビスホスホネート製剤などへの「逐次療法」が必須となります。
  • 副作用:低カルシウム血症が起こりやすいため、治療中はビタミンD・カルシウム製剤の併用が原則です。BP剤と同様に顎骨壊死(MRONJ)のリスクがあります。

4.2.3. 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)

  • 主な薬剤:ラロキシフェン(エビスタ®)、バゼドキシフェン(ビビアント®)
  • 論点:女性ホルモンのエストロゲンは骨の吸収を抑える働きがありますが、SERMは骨に対してエストロゲンと似た作用を発揮します。一方で乳房や子宮には影響しにくいのが特徴で、主に閉経後の女性が対象です9。椎体骨折の予防効果は示されていますが、大腿骨骨折に対する効果はBP剤などより限定的とされています。
  • 副作用:ほてりや足のけいれんなど。稀に、血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)のリスクを高めることがあるため注意が必要です。

4.3. 骨形成促進薬 – 骨を”攻め”て造る薬剤

骨形成促進薬は、骨折リスクが特に高い「超高リスク」の患者さんに用いられる、非常に強力な薬剤です。

4.3.1. 副甲状腺ホルモン(PTH)製剤

  • 主な薬剤:テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)、アバロパラチド(オスタバロ®)
  • 論点:副甲状腺ホルモン(PTH)は、断続的に投与すると逆に骨を作る骨芽細胞を強力に活性化させ、新しい骨を積極的に造り、骨密度を著しく増加させます1216。毎日または週に1・2回自己注射する製剤があります。この薬剤群の重要な特徴は、生涯における総投与期間が24ヶ月(2年間)に制限されていることです。これは動物実験で骨肉腫のリスクが示唆されたためですが、人間でのリスク増加は確認されていません。しかし安全のためこの制限が設けられています17
  • 副作用:注射後に一時的な吐き気や頭痛、めまいが起こることがあります。血中や尿中のカルシウム濃度が高くなることがあります。

4.4. デュアル・エフェクト薬 – “攻め”と”守り”を両立

骨形成と骨吸収抑制、両方のメカニズムに働きかける最新鋭の薬剤です。

4.4.1. ロモソズマブ(イベニティ®)

  • 論点:ロモソズマブは、骨形成を抑制するスクレロスチンというタンパク質を阻害する抗体製剤です。これにより、骨形成が促進されると同時に骨吸収が抑制される二重の効果を発揮します。PTH製剤に匹敵する、あるいはそれ以上の強力な骨密度増加効果が報告されています1618。治療は月に1回、医療機関で皮下注射を12ヶ月間続けます。この薬も投与期間が12ヶ月間に限定されています。最も重要な注意点として、心血管系イベント(心筋梗塞や脳卒中)のリスクが挙げられ、これらの既往歴がある患者さんには原則として投与できません19
  • 副作用:注射部位の反応(痛み、赤み、腫れ)。また、顎骨壊死や非定型大腿骨骨折のリスクも報告されています。

4.5. 治療の土台を支える薬

上記の主力薬の効果を十分に発揮させるためには、骨の材料であるカルシウムと、その吸収を助けるビタミンDが不可欠です。

  • 活性型ビタミンD3製剤:食事から摂取したカルシウムの腸管での吸収を促進し、骨の形成を助けます。
  • ビタミンK2製剤:骨のタンパク質を活性化させ、骨の質を改善する効果が期待されています。
  • カルシウム製剤:食事からのカルシウム摂取が不十分な場合に処方されます。日本人はカルシウム摂取量が不足しがちなため、積極的な補充が推奨されます8

5. 【実践編】あなたに合った薬の選び方 – ケーススタディ

具体的にどのように薬が選ばれるのでしょうか。リスクレベルに応じた治療戦略の例を2つご紹介します。これはあくまで一例であり、実際の治療は個々の状態に応じて主治医が判断します。

5.1. ケース1:骨折リスクが「超高い」場合(75歳女性、最近、転んで背骨を圧迫骨折した)

  • リスク評価:直近の脆弱性骨折(椎体骨折)があるため、「超高リスク」に分類されます。
  • 治療戦略:「Anabolic-first」戦略が推奨されます23。まず、骨形成促進薬であるロモソズマブ(心血管リスクがなければ)を1年間、またはPTH製剤(テリパラチドなど)を1.5~2年間使用し、骨量を最大限に高めます。その後、その効果を維持するために、ビスホスホネート製剤またはデノスマブによる「逐次療法」に移行します。

5.2. ケース2:骨折リスクが「高い」場合(60歳女性、骨折歴なし、骨密度測定でT-スコア-2.8)

  • リスク評価:骨折歴はないものの、骨密度が-2.5を下回っているため、「高リスク」に分類されます。
  • 治療戦略:この場合、第一選択薬として強力な骨吸収抑制薬であるビスホスホネート製剤またはデノスマブが推奨されます29。閉経後の女性であり、椎体骨折のリスクを特に考慮する場合は、SERMも良い選択肢となり得ます。治療効果を見ながら、必要に応じて薬剤の変更や継続を検討します。

6. 安全に治療を続けるための重要知識

骨粗鬆症の薬は長期間使用することが多いため、副作用について正しく理解し、適切に対処することが極めて重要です。

6.1. 副作用の全貌と対処法

各薬剤には前述した特徴的な副作用があります。消化器症状やインフルエンザ様症状など、比較的よく見られる副作用の多くは一時的ですが、気になる症状があれば自己判断で薬をやめず、必ず主治医や薬剤師に相談してください。ここでは、特に注意すべき稀で重篤な副作用を詳しく解説します。

6.2. 【最重要】顎骨壊死(MRONJ)と歯科治療 – 医科歯科連携のすすめ

顎骨壊死(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw: MRONJ)は、骨吸収抑制薬(特にBP剤とデノスマブ)に関連して稀に発生する、あごの骨が壊死する重篤な副作用です420。抜歯などの侵襲的な歯科治療が引き金になることが多いとされています。発生頻度は非常に低いですが、予防が何よりも重要です。日本骨代謝学会などは以下の点を強く推奨しています4

  • 治療開始前の歯科検診:骨吸収抑制薬を開始する前に、必ず歯科を受診し、必要な歯科治療(虫歯、歯周病、抜歯など)を済ませておくことが理想的です。
  • 歯科医への情報提供:歯科治療を受ける際は、必ず「骨粗鬆症の薬(薬剤名を具体的に)を使用中である」ことを歯科医に伝えてください。お薬手帳の持参が確実です。
  • 口腔内のセルフケア:毎日の丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診で口内を清潔に保ち、抜歯が必要な状況を避けることが最大の予防策です。
  • 注意すべき症状:歯ぐきの腫れや痛み、歯のぐらつき、膿が出る、あごの骨が露出するなどの症状に気づいたら、すぐに主治医と歯科医に相談してください。

6.3. 非定型大腿骨骨折(AFF)とは?

非定型大腿骨骨折(Atypical Femoral Fracture: AFF)は、BP剤を長期間(通常5年以上)使用している患者さんに非常に稀に発生することがある特殊な骨折です。転倒などの明確な原因なく、太ももの骨(大腿骨)の幹部に骨折が生じます。初期症状として、骨折の数週間~数ヶ月前から、太ももの付け根や鼠径部に違和感や痛みを感じることがあります。このような前駆痛があれば、我慢せずに整形外科を受診してください。

6.4. 治療費はどのくらい? – 公的医療保険と自己負担額

治療費は選択する薬剤によって大きく異なります。ジェネリック医薬品が利用可能なビスホスホネート製剤は比較的安価ですが、デノスマブやPTH製剤、ロモソズマブといった新しい注射薬は高額になる傾向があります。以下はあくまで大まかな目安です(薬価は変動します)。

薬剤費の目安(3割負担の場合)

  • ビスホスホネート製剤(経口・ジェネリック):月額数百円~千円程度
  • デノスマブ(プラリア®):年間約5万円程度
  • PTH製剤(テリパラチド自己注射):年間数十万円
  • ロモソズマブ(イベニティ®):年間数十万円

高額療養費制度の活用

高額な薬剤であっても、日本の公的医療保険には「高額療養費制度」があります。これは、1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超過分が払い戻される制度です。所得によって上限額は異なりますので、詳しくは加入している健康保険組合や市町村の窓口にご確認ください。経済的な負担についても、遠慮なく主治医に相談することが大切です。

7. よくあるご質問(FAQ)

Q. 骨粗鬆症の薬は、一度始めたらいつまで続ける必要がありますか?

A. 治療期間は薬剤の種類やリスクによって異なります。PTH製剤やロモソズマブは1~2年の期間制限があります。ビスホスホネート製剤は3~5年で休薬(ドラッグホリデー)を検討します。デノスマブは、中止するとリバウンド骨折のリスクがあるため、原則として継続し、やめる際は他の薬剤への切り替えが必須です14。治療のゴールや期間は、定期的な検査をもとに主治医が判断しますので、自己判断で中断せず相談を続けることが重要です21

Q. 薬を自己判断でやめてもいいですか?

A. 絶対にやめてください。特にデノスマブ(プラリア®)を自己判断で中断すると、リバウンド現象により複数の背骨の骨折を短期間に引き起こす危険性があります15。他の薬剤でも治療を中断すれば骨密度は再び低下し、骨折リスクが高まります。副作用が心配な場合は、必ず主治医に相談してください。

Q. 飲み薬と注射、どちらが良いのでしょうか?

A. 一概にどちらが良いとは言えません。効果、副作用、投与間隔、ライフスタイル、費用などを考慮して選択します。例えば、ビスホスホネートの経口薬は起床時の服用ルールが厳格ですが、注射薬にはそれがありません。半年に1回や年に1回の注射は利便性が高いですが、薬価は比較的高価です。それぞれのメリット・デメリットを主治医とよく相談し、ご自身が納得して続けられる治療法を選ぶことが大切です。

Q. 歯科治療を受ける前に、主治医に何を伝えれば良いですか?

A. 抜歯などの予定がある場合は、まず骨粗鬆症の主治医に「近々、歯科治療を受ける予定がある」と伝えてください。その上で、歯科医宛ての紹介状(診療情報提供書)を書いてもらうのが最も確実です。その書面には使用中の薬剤や期間などが記載され、医科と歯科のスムーズな連携に繋がります4

Q. カルシウムやビタミンDのサプリメントを薬と一緒に使っても大丈夫ですか?

A. 骨粗鬆症の薬物治療中は、むしろカルシウムやビタミンDの適切な摂取が推奨されます。多くの薬剤は、これらの栄養素が充足している状態で最大の効果を発揮するためです21。ただし、自己判断での過剰摂取は避けるべきです。現在使用中のサプリメントは必ず主治医に伝え、適切な用法・用量の指導を受けてください。処方薬と重複する場合もあるため注意が必要です。

Q. 薬の効果はどのように確認するのですか?

A. 治療効果は、主に定期的な「骨密度測定」と「骨代謝マーカー」の血液・尿検査で評価します21。骨密度測定は通常半年に1回から1年に1回程度行い、骨密度が維持・増加しているかを確認します。骨代謝マーカーは骨の新陳代謝のバランスを示す指標で、より短期間での薬の効果判定に役立ちます。また、身長低下(新たな椎体骨折のサイン)の有無も重要な評価項目です。

Q. (臨床教育向け) ステロイド薬を飲んでいる患者への注意点は?

A. プレドニゾロンなどのグルココルチコイドは、骨密度を低下させる強力な副作用があり、「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症」を引き起こします。ステロイドを一定量以上、長期間使用する場合は骨折リスクが非常に高まるため、骨密度がそれほど低くなくても、予防的に骨粗鬆症薬(主にビスホスホネート製剤やテリパラチドなど)の投与が強く推奨されます。これについては専用のガイドラインも発行されています22

8. まとめと今後の展望

骨粗鬆症の薬物治療は、個々の骨折リスクを正確に評価し、明確な治療目標を立て、最新の知見に基づいた戦略(Anabolic-first、逐次療法)を駆使する「個別化医療」の時代へと突入しました。ビスホスホネート製剤、デノスマブ、PTH製剤、ロモソズマブなど、我々はかつてないほど多くの強力な選択肢を手にしています。

最も大切なことは、骨粗鬆症という病気を正しく理解し、専門医と十分にコミュニケーションを取り、ご自身が納得した上で治療に主体的に参加することです。副作用への不安や経済的な負担も、医師と共有し解決策を探すことで、安全かつ効果的に治療を継続できます。

現在も、イリジマシドAのような新しい作用機序を持つ治療薬候補の研究が進められており23、骨粗鬆症治療の未来はさらに明るいものとなるでしょう。この記事が、皆さんが骨折の不安から解放され、生き生きとした毎日を送るための一助となることを心から願っています。

参考文献

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更新履歴

最終更新: 2025年10月08日 (Asia/Tokyo) — 詳細を表示

  • 日付: 2025年10月08日 (Asia/Tokyo)
    編集者: JHO編集部
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    対象範囲: FRAX表現, 二次資料の置換, 費用セクション, 引用配置
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    根拠: PMDA/学会ガイドライン/原著DOI
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