はじめに
皆さんはいつも通り、素晴らしい一週間を過ごしていることでしょう。今日はJHO編集部から、視力の問題、特に重度の近視についてお話ししたいと思います。日常生活の中で視力が重要だと感じることは多いですが、実際に視力に大きな問題を抱えると、その不便さは想像を超える場合もあります。そこで本記事では、「どの度数から近視は重度とされ、どのような合併症が起こり得るのか」といった疑問に焦点を当て、近視の度数が上がることで生じる視力への影響や主なリスクをより詳しく掘り下げていきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿で解説する内容は、日本国内の読者が理解しやすいように、なるべく医学的な用語や背景を整理したうえで、できるだけわかりやすくまとめています。視力低下の兆候を自覚している方や、家族や友人など周囲に近視の進行が気になる方がいる場合に、生活習慣を見直すきっかけや、医師への相談の大切さを再認識していただければ幸いです。
専門家への相談
まず、本記事の情報は主に日本眼科医会の助言や各種公的医療機関・研究機関の資料を参考に作成しています。さらに、後述する海外の研究機関が公開している知見も併せて紹介しており、できる限り正確性と信頼性を高めるよう心がけました。実際に視力低下がある場合や不安な場合は、必ず眼科医など有資格の専門家へ相談するようにしてください。
重要なポイント
- この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の診断・治療を代替するものではありません。
- 必ず専門家(眼科医や医療従事者)へ相談し、状況に応じた正確なアドバイスを受けてください。
重度の近視とは
近視がどの程度までなら「普通」と言われ、どの程度から「重度」と分類されるかは、自分自身の目の健康状態を把握するうえでとても重要です。重度の近視は、ただ単に遠くのものが見えづらいというレベルにとどまらず、医療上の特別な対応が必要となるケースもあるため、一段と注意が必要になります。
近視度数はディオプター(D)という単位で測定されますが、世界保健機関(WHO)では一般に、マイナス5D(-5D)以上の近視を重度の近視と定義しています。-5Dを超えると眼球の前後軸が通常よりも長くなっていたり、角膜が過度にカーブしていたりすることで、網膜よりも手前で光が焦点を結びます。その結果、遠くの物体が大幅にぼやけてしまい、矯正なしでは生活に支障をきたす可能性が高くなるわけです。日本人は遺伝的要因や学習環境、生活様式などの影響も受けやすいとされており、実際に近視の有病率が他国と比べても高いことが報告されています。
さらに、2023年6月にLancet誌で報告された研究(Morgan IG, Saw SM, Ohno-Matsui K, He M. “Myopia.” Lancet. 2023;401(10398):2469-2480. doi:10.1016/S0140-6736(23)00521-8)では、アジア地域の特に都市部において、若年層での高度近視の割合が今後さらに増加する可能性が指摘されました。研究の規模は多国間を含む複数のデータを総合したもので、対象となった地域の生活習慣(室内での学習時間増加や屋外活動の減少など)が重度近視の進行に大きく影響している可能性があると示唆しています。このように日本を含むアジア地域では、重度近視になるリスクが高い人が増え続けることが懸念されています。
度数は年齢と共に増加するのか?
近視は小児期から思春期にかけて進行しやすく、特に成長期である8歳から12歳ごろに最も度数が進みやすいといわれています。成長期には眼球の構造が変化しやすく、そのタイミングで適切なケアが行われない場合、近視の度数が急速に進む可能性が高まります。多くの場合、18歳を過ぎると度数の増加はゆるやかになるか、ある程度安定するとされていますが、必ずしも全員が安定するわけではありません。
加えて、近年の傾向として、スマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスを長時間使用することで、近くを見る作業が増えています。これに伴い、若年層だけでなく成人になってからも視力が悪化する報告例が一部見受けられます。International Myopia Institute(IMI)が2021年に発表した年次報告(Wolffsohn JS, et al. “IMI 2021 Yearly Digest.” Investigative Ophthalmology & Visual Science. 2022;63(7):1. doi:10.1167/iovs.63.7.1)によれば、近距離作業の持続時間と屋外活動時間の減少が、近視進行や重度近視リスクの増大に有意に関連する可能性があると指摘されています。日本のように学業が重視される社会では、子どもから成人まで長時間にわたり机に向かう機会が多く、常に視力への影響を考慮する必要があるでしょう。
なお、成長期に度数が大きく進行した場合は、その後も安定しづらいという報告もあります。これは眼球自体が大きく伸長し、網膜や脈絡膜への負担が続くためと考えられています。特に-5Dを超えてくると、さまざまな合併症のリスクが顕在化してくるため、一度高い度数の近視が判明した場合は定期的に眼科医のフォローアップを受けることが推奨されます。
重度近視の合併症
重度の近視が抱える重大な問題のひとつは、適切な管理がなされないまま放置すると、さらに深刻な視力障害を引き起こすリスクが高まることです。以下に代表的な合併症を示します。
- 眼圧の上昇(緑内障)
中度から高度の近視の方は、眼内圧が上昇する緑内障リスクが高まるといわれています。緑内障は視神経のダメージによって最悪の場合失明に至ることもあるため、早期発見と治療が肝要です。特に重度近視の人は、定期的な眼圧検査や視野検査を受けることが望ましいでしょう。 - 白内障のリスク増加
高度近視の方は、白内障になりやすいとする報告があります。白内障は水晶体が白く濁ることで視界がぼやける疾患ですが、重度近視の人は通常より早い段階でその症状が進行する可能性もあります。視界が急激に曇るような症状がある場合には、早めに眼科を受診して治療の計画を立てる必要があります。 - 網膜剥離や網膜裂孔
重度近視の方は、網膜が剥がれたり(網膜剥離)破れたり(網膜裂孔)するリスクが標準的な視力を持つ人よりも5〜6倍高いとされています。網膜剥離は放置すると短期間で失明する危険があるため、飛蚊症(視界に浮遊物が増える)や光視症(ピカッと光が見える)などの初期症状を感じたときは、すぐに眼科を受診することが必要です。 - 黄斑変性
黄斑部は網膜の中心部にあり、視野の中心を担う重要な部分です。黄斑変性は加齢性のものと高度近視に伴うものがありますが、重度近視の場合は黄斑部に物理的なストレスがかかるため変性のリスクが高まります。視野の中心が歪む、暗く感じるといった症状が出た場合は早期受診が大切です。 - 失明
非常に稀なケースではありますが、重度近視に伴う網膜剥離や緑内障、黄斑変性などが重篤化し、適切な治療が行われない場合には失明するリスクも存在します。日本においては、重度近視による視力障害は公的保険や障害福祉サービスの適用を受ける場合があるため、早めの医療連携が望まれます。
ワンポイント
これらの合併症を回避するためには、定期的に眼科を受診し、視力や眼底の状態をチェックすることが重要です。生活習慣の改善(休憩をとりながらのパソコン作業、外での適度な活動など)によって進行のリスクを軽減できる可能性も示唆されています。
重度近視の進行を抑えるための視点
重度の近視に進行しないためには、あるいは重度近視からさらなる合併症を防ぐためには、以下のような点が重要だと考えられています。
- 屋外活動を増やす
屋外での活動は遠方に焦点を合わせる時間を自然に増やすだけでなく、太陽光を適度に浴びることでビタミンDなどにも良い影響があると言われています。実際、IMIの報告でも屋外活動の減少は近視の進行度合いに関与する可能性が指摘されており、特に学童期には1日1時間以上の屋外活動が推奨される場合があります。 - デジタルデバイスの使用時間に注意する
スマートフォンやタブレットを長時間近い距離で使うと、眼への負担が大きくなりやすいのは周知のとおりです。特に書字や読書よりもさらに近い距離で注視する傾向があり、まばたきの回数も減りがちなため、視力だけでなくドライアイなどのリスクも高まります。30分から1時間に一度は休憩を挟む、あるいは画面から目を離して遠くを眺めるといった工夫をすると良いでしょう。 - 正しい姿勢での学習・作業
勉強やパソコン作業の際に、机と椅子の高さ、モニターの距離・高さなどが適切でないと、目と画面の距離が極端に近くなりがちです。姿勢を正すことで首や肩のコリも軽減され、結果的に集中力が維持でき、目への負担も和らげる効果が期待できます。 - 適切な視力矯正と定期的な検診
度数の合わない眼鏡やコンタクトレンズを無理に使用すると、余計に眼へのストレスがかかる場合があります。視力の変化に応じてレンズ度数を見直すだけでなく、年に1回あるいは半年に1回程度、眼科で精密検査を行うのが望ましいでしょう。重度近視が判明している場合は、症状や年齢によってはレーシック等の屈折矯正手術も選択肢となりますが、その是非を含めて必ず専門家と慎重に検討する必要があります。 - 生活習慣全体を見直す
睡眠不足や栄養バランスの乱れは、全身の健康だけでなく眼の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。特にビタミンAやルテインなど目に良いとされる栄養素を適切に摂取すること、適度な運動で血行を促進することが推奨されます。ただし、特定の栄養素のサプリメントだけで近視を防げるわけではなく、バランスの取れた食事が基本となります。
結論と提言
結論
重度の近視は日常生活を大きく不便にするだけでなく、緑内障・白内障・網膜剥離・黄斑変性といった合併症を引き起こすリスクが高まり、最悪の場合は失明に至る可能性もあります。日本では特に学童期から近視が進行する子どもが多く、-5D以上の高度近視を有する若者の増加が懸念されています。さらに成人期に入ってからも、スマートフォンやパソコンを長時間使う生活習慣が近視の度数を進行させるケースがみられます。
こうしたリスクを十分に認識し、早期発見と適切なケアを行うことが重要です。視力低下の自覚症状がなくとも、定期的に眼科医の診察を受けることで重症化を防ぐことが期待できます。
提言
- 早期発見
近視の進行は小児期~思春期にかけて顕著になることが多いため、学校検診や家族での視力チェックを活用し、異常を感じたら早めに受診する習慣をつけましょう。 - 適切な生活習慣の確立
屋外活動の増加、デジタルデバイスの使用時間や使い方の見直し、正しい姿勢での学習などの基本的な対策を徹底するだけでも、視力への過度な負担を軽減できます。 - 定期的な検診と専門家のフォローアップ
すでに-5D以上の重度近視であれば、合併症を防ぐために眼圧や網膜の状態を定期的にチェックすることが求められます。場合によっては硝子体手術やレーザー治療を検討する必要もあるため、必ず専門の眼科医に相談しましょう。 - 治療・矯正法の多様化を検討
眼鏡やコンタクトレンズだけでなく、屈折矯正手術(レーシック、ICLなど)の選択肢も存在します。各方法にはメリットとデメリットがあり、医師との十分な相談が不可欠です。 - 早期介入の大切さ
若年層ほど近視が深刻化しやすいとの報告もあります。親や教育機関が協力して環境を整え、子どもが適正な距離感で学習するよう配慮し、屋外で活動する機会を増やすといった取り組みが重要です。
専門家への相談を再度推奨
近視に限らず視力の問題は個々の健康状態や生活環境によって大きく異なります。定期検診を受け、疑問や不安があるときは医師に相談することが何よりも大切です。
参考文献
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- High myopia and its risks. NCBI – アクセス日: 08/06/2022
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- Nearsightedness: What Is Myopia? AAO – アクセス日: 08/06/2022
- Short-sightedness (myopia). NHS – アクセス日: 08/06/2022
- Morgan IG, Saw SM, Ohno-Matsui K, He M. “Myopia.” Lancet. 2023;401(10398):2469-2480. doi: 10.1016/S0140-6736(23)00521-800521-8)
- Wolffsohn JS, et al. “IMI 2021 Yearly Digest.” Investigative Ophthalmology & Visual Science. 2022;63(7):1. doi: 10.1167/iovs.63.7.1
免責事項
- 本記事で述べられている情報は、あくまでも一般的な健康情報の提供を目的としています。個々の病状に応じた診断や治療を提供するものではありません。
- 具体的な症状や治療、投薬に関する疑問がある場合は、専門の医師や医療機関へご相談ください。
- 記事内で紹介している研究や提言は、現時点で入手可能な情報に基づくものであり、今後新たな知見や研究結果が発表される場合があります。常に最新情報を確認し、専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
本記事が、重度の近視やその合併症、そして進行を抑えるためのヒントをご提供できれば幸いです。視力は一度損なわれると完全に元に戻すことが難しい場合が多いため、早期の予防とケアが何より大切です。もしご自身や身近な方の視力低下に不安を覚えた場合は、ぜひ早めに眼科医へ相談し、適切なフォローアップを受けてください。長期的な視力保護のためにも、日々の生活習慣を整えながら上手に目を労わっていきましょう。