この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を含むリストです。
- 日本血液学会 (JSH): この記事における白血病の診断基準と治療法に関する指針は、日本血液学会が発行した「造血器腫瘍診療ガイドライン」1に基づいています。
- StatPearls: 高白血球症の定義、原因、診断の枠組みに関する記述は、医学教育プラットフォームStatPearlsに掲載された査読済み論文2を主要な情報源としています。
- 米国家庭医学会 (AAFP): 「専門医の受診を検討すべき危険な兆候」のリストや診断プロセスは、AAFPが発行する学術誌『American Family Physician』の論文3に基づき構成されています。
- 日本人間ドック学会: 日本国内における白血球数の基準値に関する具体的な情報は、日本人間ドック学会が公開する公式な判定区分表4を参照しています。
- 国立がん研究センター / 厚生労働省: 日本における白血病の罹患率や死亡率に関する統計データは、国立がん研究センターのがん情報サービス5のデータを引用しています。
要点まとめ
- 高白血球症は病名ではなく、体内で何らかの異常が起きていることを示す「サイン」であり、その原因はストレスのような一過性のものから白血病のような重篤な疾患まで多岐にわたります。
- 最も重要な手がかりは「どの種類の白血球が増えているか」です。好中球、リンパ球、好酸球など、種類によって疑われる原因が大きく異なります。
- 多くは無症状ですが、発熱、倦怠感、原因不明のあざ、寝汗、体重減少といった「危険な兆候(レッドフラッグ)」3が見られる場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
- 喫煙6や強いストレス7は、体内の慢性的な炎症やホルモンバランスの変化を通じて、実際に白血球数を増加させる科学的根拠があります。
- 治療は原因に完全依存します。感染症が原因であればその治療を、血液のがんが原因であれば化学療法や分子標的薬など専門的な治療1が必要となります。
はじめに:健康診断で「白血球が多い」と指摘されたあなたへ
健康診断や人間ドックの結果表を前に、「白血球数・高値」という文字を見て、心臓がどきりとした経験はありませんか。あるいは、原因のわからない体調不良で受診した際に、医師から白血球の増加を指摘され、大きな不安を感じているかもしれません8。インターネットで検索すれば、白血病などの深刻な病名が目に飛び込んできて、さらに混乱してしまうこともあるでしょう。
JAPANESEHEALTH.ORG編集部が提供するこの記事は、まさにそのような状況にあるあなたのためにあります。まずご理解いただきたい最も重要なことは、白血球数が多いという検査結果は、それ自体が「病気の診断」ではなく、あなたの体内で何かが起こっていることを示す重要な「サイン」であるという事実です。そのサインが意味するものは、ごくありふれた一時的な体の反応から、注意深く調べる必要のある状態まで、非常に幅広いのです。
この記事では、読者の皆様が抱える不安を解消し、ご自身の状態を正しく理解するための一助となるよう、以下の点について科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。
- 高白血球症とは何か:体が送る「警報」の基本的な意味を理解します。
- 原因の探求:なぜ白血球が増えるのか、その原因を探るための考え方を学びます。
- 症状と危険性:どのような症状に注意すべきか、そして放置した場合に何が起こりうるのかを知ります。
- 診断への道のり:医療機関で行われる検査と診断のプロセスを理解します。
- 治療法の選択肢:原因に応じた様々な治療法について学びます。
- 日常生活での注意点:白血球数を安定させるために自分でできることを探ります。
この記事が、不確かな情報に惑わされることなく、ご自身の健康と冷静に向き合い、次に取るべき行動を明確にするための「信頼できる羅針盤」となることを心から願っています。
第1章:高白血球症とは何か?- 体が送る「警報」を正しく理解する
高白血球症という言葉を理解するためには、まずその主役である「白血球」の役割を知ることから始める必要があります。白血球は、私たちの体を外部の敵から守る、非常に精巧な免疫システムの「兵士」たちです。
1-1. 白血球の役割:体を守る免疫システムの兵隊
白血球は単一の細胞ではなく、それぞれが異なる役割を持つ5つの主要な部隊から構成される軍隊のようなものです23。
- 好中球(こうちゅうきゅう):最も数が多く、軍隊で言えば「歩兵部隊」です。主に細菌や真菌(カビ)が体内に侵入した際に、真っ先に駆けつけて敵を貪食(どんしょく)し、戦います。急性的な炎症の主役です。
- リンパ球(りんぱきゅう):ウイルス感染と戦う「特殊部隊」であり、一度侵入した敵を記憶して再度の攻撃に備える「情報部」の役割も担います(獲得免疫)。B細胞やT細胞、NK細胞などが含まれます。
- 単球(たんきゅう):体内に侵入した異物や死んだ細胞を掃除する「清掃部隊」です。組織内ではマクロファージと呼ばれ、しつこい敵との長期戦で活躍します。
- 好酸球(こうさんきゅう):「対寄生虫部隊」および「アレルギー反応部隊」です。寄生虫感染や、花粉症・喘息などのアレルギー反応が起きた際に増加します。
- 好塩基球(こうえんききゅう):数は最も少ないですが、アレルギー反応において重要な役割を果たす「伝令部隊」です。ヒスタミンなどを放出し、他の免疫細胞に信号を送ります。
1-2. 「高白血球症」の定義:数値が意味すること
高白血球症とは、血液中の白血球の総数が正常範囲を超えて増加した状態を指します。一般的に、健康な成人における白血球数の基準値は、血液1マイクロリットル(µL)あたり約3,500〜9,800個とされています4。したがって、この上限を超える、おおむね11,000/µL以上の場合に高白血球症と判断されることが多いです29。
しかし、この「正常範囲」は絶対的なものではありません。年齢や性別、さらには妊娠などの生理的な状態によって変動する、極めて重要な事実があります。例えば、生まれたばかりの新生児では白血球数が30,000/µLを超えることも正常範囲内ですし、妊娠後期の女性でも15,000/µL程度まで上昇することがあります2。日本人間ドック学会も、検査機関によって基準値が異なる場合があることに言及しており4、自分の結果を解釈する際には、検査を受けた施設の基準値と照らし合わせることが不可欠です。
年齢・状態 | 白血球数 (WBC) の基準範囲 (/µL) |
---|---|
新生児 (生後12時間) | 9,000 – 30,000 |
幼児 (1-3歳) | 6,000 – 17,500 |
成人 | 3,500 – 11,000 |
妊娠後期 | 5,800 – 15,000 |
1-3. 高白血球症 vs. 類白血病反応 vs. 白血病
「白血球が多い」と聞くと、多くの人が真っ先に「白血病」を思い浮かべ、深刻な不安に駆られます。しかし、これらは明確に区別して理解する必要があります。
- 高白血球症(Leukocytosis):単に白血球数が基準値より多い「状態」を指す言葉です。原因は良性のものから悪性のものまで様々です。
- 類白血病反応(Leukemoid Reaction):白血病ではないにもかかわらず、白血球数が50,000/µLを超えるような極端な増加を示す状態です。これは通常、重度の感染症(クロストリジウム・ディフィシル腸炎など)や特定のがん、重度の熱傷など、体に対する極めて強いストレスへの反応として起こります2。細胞自体は正常な成熟した白血球です。
- 白血病(Leukemia):骨髄で血液細胞が作られる過程で遺伝子に異常が生じ、「がん化した血液細胞(白血病細胞)」が自律的に、無秩序に増殖する病気です。こちらは白血球の「悪性腫瘍」であり、多くの場合、正常な機能を持たない未熟な細胞(芽球)が増加します。
特に、白血球数が100,000/µLを超えるような高度白血球増加症(Hyperleukocytosis)は、白血病などの悪性腫瘍を強く疑うサインであり、迅速な対応が求められます210。
第2章:原因の探求:なぜ白血球は増えるのか?
高白血球症の原因を突き止める作業は、まるで探偵仕事のようです。そして、その過程で最も重要な手がかりとなるのが、「5種類の白血球のうち、どの種類の細胞が増加しているのか」という点です。これを調べる検査が「白血球分画(ぶんかく)」であり、原因特定の羅針盤となります。
増加している白血球の種類 | 主な原因 |
---|---|
好中球増加症 | 細菌感染症、炎症、ストレス、喫煙、薬剤(ステロイドなど)、骨髄増殖性腫瘍 |
リンパ球増加症 | ウイルス感染症、一部の細菌感染症、慢性リンパ性白血病(CLL) |
好酸球増加症 | アレルギー性疾患(喘息、花粉症)、寄生虫感染、薬剤反応 |
単球増加症 | 慢性感染症(結核など)、自己免疫疾患、骨髄異形成症候群(MDS) |
好塩基球増加症 | 稀。慢性骨髄性白血病(CML)などの骨髄増殖性腫瘍を強く示唆 |
2-1. 好中球増加症:最も一般的な原因
高白血球症の中で最も頻繁に見られるのが、この好中球の増加です。主な原因は以下の通りです23。
- 細菌感染症:肺炎、腎盂腎炎、虫垂炎など、体内で細菌が増殖すると、骨髄は「歩兵部隊」である好中球を大量に動員します。
- 炎症:感染を伴わない炎症でも好中球は増加します。例えば、怪我、手術後、心筋梗塞、関節リウマチや血管炎などの自己免疫疾患が挙げられます。
- 薬剤:特定の薬剤、特にステロイド(プレドニゾロンなど)は、骨髄からの好中球放出を促し、血管壁に待機していた好中球を血流に動員するため、顕著な白血球増加を引き起こします。
- 生活習慣因子:後述しますが、喫煙や強い身体的・精神的ストレスも好中球を増加させる重要な原因です。
- 悪性腫瘍:慢性骨髄性白血病(CML)などの骨髄増殖性腫瘍では、成熟した好中球が異常に増殖します。
2-2. リンパ球増加症:ウイルス感染との戦い
リンパ球の増加は、多くの場合ウイルスとの戦いを示唆しています。インフルエンザ、EBウイルスによる伝染性単核球症、サイトメガロウイルス感染症などが典型例です。一方で、百日咳のような一部の細菌感染症でも見られます。高齢者で持続的なリンパ球増加が見られる場合は、最も頻度の高い成人の白血病である慢性リンパ性白血病(CLL)の可能性も考慮する必要があり、日本血液学会のガイドラインでも注意が喚起されています1。
2-3. 好酸球増加症:アレルギーと寄生虫のサイン
好酸球が増加している場合、医師はまずアレルギー性疾患と寄生虫感染を疑います3。気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)は、好酸球増加の一般的な原因です。また、海外渡航歴がある場合は寄生虫感染も重要な鑑別診断となります。
2-4. 単球・好塩基球増加症:まれだが重要な手がかり
単球の増加は、結核のような慢性的な感染症、クローン病などの自己免疫疾患、あるいは骨髄異形成症候群(MDS)や慢性骨髄単球性白血病(CMML)といった血液疾患で見られることがあります2。好塩基球の増加は非常に稀ですが、もし見られた場合は慢性骨髄性白血病(CML)を強く疑う重要なサインとなります。
2-5. 【深掘り】生活習慣と白血球:喫煙とストレスの科学
「たかがタバコ」「ストレスは誰にでもある」と軽視されがちですが、これらが白血球数に与える影響は科学的に証明されています。ここは競合する医療情報サイトがあまり触れない、本記事の重要な差別化点です。
- 喫煙のメカニズム:喫煙者の白血球数が非喫煙者よりも高いことは広く知られています11。その背景には、タバコの煙に含まれる無数の有害物質が、気道や肺に絶え間ない「火種」、すなわち慢性的な炎症を引き起こすというメカニズムがあります。この炎症を鎮めるために、体は常に好中球を動員し続けるのです。北海道大学の研究によると、喫煙者の肺では好中球が活性化し、組織を破壊する酵素(好中球エラスターゼ)を放出していることが示されており6、これがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの病態につながると考えられています。
- ストレスのメカニズム:激しい運動、精神的なショック、手術などの強いストレスがかかると、体は「闘争・逃走モード」に入ります。この時、自律神経のうち交感神経が活発になり、アドレナリンやノルアドレナリンといったホルモン(カテコールアミン)が大量に放出されます。これらのホルモンは、骨髄に貯蔵されていたり、血管の壁に張り付いて待機していたりする予備の好中球を、一気に血流中へと動員する作用を持っています712。これが、ストレスによる一時的な白血球増加の正体です。
第3章:症状とリスク:体が発するサインを見逃さない
高白血球症は、それ自体が症状を引き起こすことは稀です。多くの場合、健康診断などで偶然発見される無症状のケースがほとんどです13。症状が存在する場合、それは白血球数の増加そのものではなく、その背景にある根本的な原因疾患によって引き起こされています。
3-1. 高白血球症の一般的な症状
根本原因に関連する症状としては、以下のようなものが挙げられます314。
- 感染症による症状:発熱、悪寒、体の痛み、咳、喉の痛み、排尿時痛など。
- 炎症性疾患による症状:関節の腫れや痛み、皮膚の発疹など。
- 血液のがん(白血病など)を示唆する症状:
- 原因不明の発熱、極度の倦怠感
- 体重の意図しない減少(過去6ヶ月で5%以上など)
- 大量の寝汗(シーツを取り替える必要があるほど)
- リンパ節の腫れ、お腹の張り(脾臓の腫大による)
- 出血傾向(鼻血、歯茎からの出血、些細なことでできる青あざ)
- 骨の痛み
3-2. 放置するリスク:なぜ早期対応が重要なのか
高白血球症の原因を特定し、適切に対応することは極めて重要です。放置した場合のリスクは、原因によって大きく異なります。
- 未治療の感染症:重篤な感染症が放置されれば、菌が血流に乗って全身に広がり、生命を脅かす「敗血症」に至る危険性があります。
- 悪性腫瘍の進行:白血病などの悪性腫瘍が原因である場合、診断の遅れは病状の進行を意味し、治療がより困難になる可能性があります。
- 白血球うっ滞(Leukostasis):これは医学的な緊急事態です。白血球数が100,000/µLを超えるような極端な状態では、血液の粘稠度(ねんちゅうど)、つまり「ドロドロさ」が著しく増加します2。これにより、細い血管が白血球で詰まりやすくなり、脳卒中、呼吸不全、心筋梗塞、視力喪失といった重篤な合併症を引き起こすことがあります15。
- 骨髄増殖性腫瘍(MPN)における血栓症リスク:これも見過ごせない重要なリスクです。真性多血症や本態性血小板血症といった骨髄増殖性腫瘍では、血小板や赤血球だけでなく、白血球も増加することがあります。イタリアのCarobbio博士らが行ったメタアナリシス(複数の研究を統合した質の高い分析)によると、これらの疾患において白血球数が増加していることは、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症を発症する独立した危険因子であることが証明されています16。
第4章:診断への道のり:検査で何がわかるのか
「白血球が多い」という一つの検査結果から真の原因を突き止めるまで、医師は論理的な思考と段階的な検査を組み合わせて「謎解き」を進めていきます。
4-1. 診断のステップ:医師が行う「謎解き」
米国家庭医学会(AAFP)などが推奨する標準的な診断プロセスは以下の通りです310。
- 問診と身体診察:医師はまず、あなたの症状、最近の体調変化、既往歴、服用中の薬、喫煙歴、海外渡航歴などを詳しく尋ねます。また、リンパ節の腫れや脾臓の腫大がないかなどを確認します。
- 血液検査の再検と末梢血塗抹検査:一度の異常値だけでは判断せず、まず日を改めて全血球計算(CBC)を再検し、異常が持続するかを確認します。同時に行われる末梢血塗抹(まっしょうけつとまつ)検査は極めて重要です。これは、血液をスライドガラスに薄く塗り広げ、染色して顕微鏡で直接観察する検査です。これにより、単なる数だけでなく、白血球の形態(形や大きさ)に異常がないか、がん細胞である「芽球(がきゅう)」などの異常な細胞が出現していないかを専門家の目で確認できます。
- 追加の精密検査:上記の検査で悪性腫瘍が疑われる場合、さらに詳細な検査が必要となります。
- 骨髄穿刺・骨髄生検:血液細胞が作られている工場である「骨髄」に針を刺して組織を採取し、がん細胞の有無やその割合を直接調べる、確定診断に不可欠な検査です。
- フローサイトメトリー:細胞の表面にある目印(抗原)を分析し、がん細胞の種類を正確に特定します。
- 染色体・遺伝子検査:白血病細胞に特徴的な染色体の異常や遺伝子の変異を調べることで、病気の正確な分類(亜型分類)や予後の予測、治療方針の決定に役立てます。
4-2. 【重要】専門医の受診を検討すべき危険な兆候(レッドフラッグ)
高白血球症は多くの場合、急を要しません。しかし、以下に示すような「危険な兆候(レッドフラッグ)」が一つでも見られる場合は、様子を見るのではなく、速やかに血液内科などの専門医を受診することが強く推奨されます。
危険な兆候のカテゴリー | 具体的なサイン |
---|---|
極端な数値 | 白血球総数が 30,000/µL を超える、または 100,000/µL を超える高度白血球増加症 |
B症状 | 説明のつかない発熱、大量の寝汗、意図しない体重減少 |
他の血球系統の異常 | 貧血(赤血球減少)や血小板減少を伴う |
身体所見 | 肝臓や脾臓の腫大、明らかなリンパ節の腫れ |
末梢血塗抹検査の所見 | 血液中に「芽球」などの未熟な細胞が認められる |
第5章:治療法の選択肢:原因に応じたアプローチ
高白血球症の治療は、「白血球の数を下げること」そのものが目的ではありません。根本的な原因を突き止め、その原因に対して適切な治療を行うことが全てです。
5-1. 感染症・炎症への対応
原因が細菌感染症であれば、適切な抗生物質の投与が治療の基本となります。自己免疫疾患などの慢性的な炎症が原因であれば、ステロイドや免疫抑制剤などを用いて炎症をコントロールします。原因が解決すれば、白血球数は自然に正常範囲へと戻っていきます13。
5-2. アレルギー反応の管理
花粉症や喘息などのアレルギーが原因で好酸球が増加している場合は、抗ヒスタミン薬やステロイド吸入薬の使用、アレルゲン(アレルギーの原因物質)の回避などが治療の中心となります13。
5-3. 血液がん(白血病など)の専門的治療
白血病や骨髄異形成症候群などの血液がんが原因である場合は、血液内科医による専門的な治療が必須です。治療法は病気の種類や遺伝子変異の有無、患者さんの年齢や全身状態によって大きく異なりますが、主に以下のような治療法が組み合わされます。
この分野の治療方針については、日本血液学会が発行する「造血器腫瘍診療ガイドライン」が日本における標準治療の根幹をなしています1。このガイドラインに基づき、以下のような治療が選択されます。
- 化学療法(抗がん剤治療):がん細胞を破壊するための中心的な治療法です。
- 分子標的療法:がん細胞の増殖に不可欠な特定の分子だけを狙い撃ちする薬剤です。例えば、慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCR-ABLという異常なタンパク質を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど)は、治療に革命をもたらしました。また、特定の遺伝子変異(例:FLT3変異)を持つ急性骨髄性白血病(AML)に対しては、FLT3阻害薬が有効です。
- 造血幹細胞移植(骨髄移植など):強力な化学療法や放射線治療で患者さん自身のがん細胞と骨髄を破壊した後、健康な提供者(ドナー)から提供された造血幹細胞を移植することで、正常な血液産生能力を回復させる治療法です。
第6章:日常生活でのセルフケアと予防
病的な原因がない場合や、治療後の再発予防において、日常生活の見直しが白血球数の安定に寄与することがあります。
6-1. 白血球数を安定させるための生活習慣
科学的根拠に基づき、以下の生活習慣が推奨されます。
- 禁煙:喫煙は体内に慢性炎症を引き起こし、好中球を増加させる最大の生活習慣因子の一つです611。禁煙は、白血球数を正常化させる上で最も効果的な手段となり得ます。
- ストレス管理:過度な精神的・身体的ストレスは、ホルモンバランスを介して白血球数を増加させます712。マインドフルネス、ヨガ、適度な運動、十分な睡眠など、自分に合った方法でストレスを管理することが重要です。
- バランスの取れた食事:特定の食品が白血球数を直接下げるわけではありませんが、抗酸化物質やビタミンが豊富な野菜や果物を多く含む、バランスの取れた食事は、体全体の炎症を抑え、免疫機能を正常に保つのに役立ちます。
- 適正体重の維持:肥満は慢性的な炎症状態と関連しており、白血球数の増加につながることがあります。
- 感染予防:頻繁な手洗いやうがいなど、基本的な衛生習慣を徹底することは、感染症による白血球増加を防ぐ上で基本となります。
6-2. 定期的な健康診断の重要性
多くの高白血球症は、自覚症状がない段階で発見されます。特に、日本人間ドック学会などが推奨する定期的な健康診断や人間ドックは、体の変化を早期に捉え、重篤な疾患の発見につながる重要な機会です4。検査結果に異常があった場合は、それを放置せず、かかりつけ医に相談することが、ご自身の健康を守るための第一歩です。
結論:あなたの検査結果と向き合うために
健康診断で「白血球が多い」と指摘されることは、確かに不安な出来事です。しかし、この記事を通してご理解いただけたように、それは即座に深刻な病気を意味するものではありません。その数値は、あなたの体が発している重要な「サイン」なのです。
最も大切なことは、パニックにならず、かといって無視もせず、冷静にそのサインと向き合うことです。この記事で示したように、白血球が増加する原因は、喫煙やストレスといった身近なものから、治療を要する感染症や血液の病気まで、実に様々です。どの種類の白血球が増えているのか、他にどのような症状や検査異常があるのかといった情報を組み合わせることで、そのサインの意味が明らかになっていきます。
もし「危険な兆候(レッドフラッグ)」に当てはまる点があれば、ためらわずに専門医の診察を受けてください。そうでない場合でも、まずはかかりつけ医に相談し、再検査の必要性や今後の対応について助言を求めることが賢明です。この情報が、あなたがご自身の健康状態を正しく理解し、情報に基づいた適切な次の一歩を踏み出すための力となることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心から願っています。
よくある質問
Q1: 白血球の数値が基準値より少し高いだけですが、心配です。どうすればいいですか?
A: 軽度(例:11,000~15,000/µL程度)で、他に症状や検査異常がない場合、その多くは一過性の生理的な反応(軽い風邪、ストレス、喫煙など)によるものです17。慌ててすぐに大病院の専門外来を受診する必要はありません。まずは、結果を持参してかかりつけ医に相談し、一定期間(例:1~3ヶ月後)をおいて血液検査を再検することが一般的な対応です。再検査でも数値が高いまま、あるいはさらに上昇するようであれば、専門医への紹介が検討されます。
Q2: 妊娠中に白血球が高いと言われました。赤ちゃんに影響はありますか?
A: 妊娠、特に妊娠後期から分娩時にかけては、白血球数が増加するのはごく正常な生理的変化です2。これは、出産という大きな身体的ストレスに備えるための体の自然な反応であり、通常は母体や赤ちゃんに悪影響を及ぼすものではありません。ただし、発熱や他の感染兆候などを伴う場合は、産科的な感染症の可能性も考慮する必要があります。いずれにせよ、妊婦健診で指摘された場合は、必ず担当の産科医の指示に従い、その判断を信頼することが最も重要です。
Q3: 白血球を「下げる」食べ物やサプリメントはありますか?
A: これは非常によくある誤解ですが、特定の食品やサプリメントを摂取することで、病的に増加した白血球数を直接的に「下げる」という科学的根拠はありません11。高白血球症の治療の目標は、あくまで根本原因を治療することです。例えば、細菌感染が原因なら抗生物質が必要ですし、白血病が原因なら化学療法が必要です。ただし、体内の過剰な炎症を抑えることは、全体的な健康にとって有益です。そのため、抗酸化作用のある野菜や果物、良質な脂肪(青魚など)を豊富に含む、いわゆる「抗炎症作用のある食事」を心がけることは、長期的な健康維持の一環として推奨されますが、それが医学的な治療の代わりになることは決してありません。
参考文献
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