エムポックス(Mpox)のすべて:症状、感染経路、治療法、予防策に関する完全ガイド
感染症

エムポックス(Mpox)のすべて:症状、感染経路、治療法、予防策に関する完全ガイド

エムポックス(Mpox、旧称:サル痘)は、世界中で公衆衛生上の懸念を引き起こしているウイルス性感染症です。2022年からの世界的な流行以降、日本国内でも感染例が報告されており、正確な情報に基づいた理解と冷静な対応が求められています。本稿では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、世界保健機関(WHO)、日本の厚生労働省(MHLW)、国立感染症研究所(NIID)などの権威ある機関からの最新の研究データと公式見解に基づき、エムポックスに関する包括的かつ詳細な情報を提供します。特に、世界で同時に進行している二つの異なるウイルスの流行状況(クレードIとクレードII)という複雑な背景を解き明かし、読者の皆様が個々の危険性を正確に評価し、適切な予防策を講じるための一助となることを目指します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 世界保健機関(WHO): この記事におけるエムポックスの定義、潜伏期間、世界的な流行状況、およびワクチンに関する指針は、WHOが公表したファクトシートや報告書に基づいています。11
  • 厚生労働省(MHLW): 日本国内の法的位置づけ、感染経路、相談窓口に関する情報は、厚生労働省の公式発表および検疫所の情報に基づいています。5
  • 国立感染症研究所(NIID): 日本国内の発生状況、ウイルスの系統(クレード)、および詳細な症状に関する記述は、国立感染症研究所の報告に基づいています。89
  • 米国疾病予防管理センター(CDC): 治療薬(テコビリマット)の臨床的役割や詳細な自己管理方法に関する情報は、CDCが医療従事者向けに提供しているガイダンスに基づいています。12
  • 医学学術論文(PubMed等): 2022年以降の非典型的な症状や、異なるウイルス系統(クレードIとII)の疫学的特徴に関する詳細な分析は、査読済みの医学論文に基づいています。13

要点まとめ

  • エムポックスは、以前「サル痘」として知られていたウイルス感染症で、主に発疹、発熱、リンパ節の腫れを引き起こします。5
  • 主な感染経路は、感染者の皮膚病変や体液との直接的かつ密接な接触(性的接触を含む)です。58
  • 世界では二つの異なる系統(クレード)が流行しています。日本国内の症例は、より軽症であるクレードIIによるものですが、アフリカではより重篤なクレードIが深刻な問題となっています。110
  • ほとんどの症例は2~4週間で自然に治癒しますが、免疫不全者や小児、妊婦では重症化する危険性があります。411
  • 疑わしい症状がある場合は、事前に医療機関や保健所に電話で相談することが重要です。26
  • 現在、一般向けのワクチン接種は行われておらず、個人レベルでの予防策(密接な接触の回避、手指衛生など)が最も重要です。268

エムポックス(Mpox)とは?【最も重要な情報の概要】

エムポックスは、エムポックスウイルスによって引き起こされる急性の感染症です。特徴的な症状として発疹や発熱が見られ、動物からヒト、そしてヒトからヒトへと感染が拡大する可能性があります。5 かつては「サル痘」と呼ばれていましたが、世界保健機関(WHO)は2022年11月、特定の地域や動物への偏見を避ける目的で「エムポックス」への名称変更を推奨し、日本でも2023年5月26日に正式にこの名称が採用されました。6 法的には、日本の感染症法において「四類感染症」に分類されています。5

エムポックスの症状と経過【画像と詳細な解説による見分け方】

エムポックスの症状は、時間経過とともに特徴的な変化を示します。これらの段階を理解することは、早期発見と適切な対応に不可欠です。

潜伏期間と初期症状

ウイルスに感染してから最初の症状が現れるまでの潜伏期間は、通常5日から21日(一般的には6日から14日)です。8 症状は大きく二つの段階に分かれます。

  • 侵入期(発疹出現前):この期間は1~5日続き、インフルエンザに似た症状が現れます。具体的には、発熱、強い頭痛、筋肉痛、背部痛、そして著しい倦怠感(無力症)です。19 特に重要な兆候はリンパ節の腫脹で、これはエムポックスを水痘(みずぼうそう)や天然痘といった他の発疹性疾患と区別する上で重要な特徴となります。8
  • 発疹期(発疹出現後):通常、発熱から1~3日後に発疹が現れます。

発疹の特徴的な経過

エムポックスの発疹は、特徴的な段階を経て進行します。すべての発疹がほぼ同時に同じ段階で進行する「同調性」が見られるのが特徴です。19 全治までには通常2~4週間を要します。8

  1. 斑点(Macules):平らな赤い発疹として始まります。
  2. 丘疹(Papules):皮膚から盛り上がった硬いしこりになります。
  3. 水疱(Vesicles):内部に透明な液体が満たされた水ぶくれになります。
  4. 膿疱(Pustules):水疱内の液体が白濁し、膿のようになります。
  5. 痂皮(Crusting):膿疱が乾燥し、かさぶたを形成します。
  6. 落屑(Desquamation):かさぶたが剥がれ落ち、下に新しい皮膚が形成されます。すべてのかさぶたが剥がれ落ちた時点で、他者への感染力はなくなるとされています。19

古典的な報告によれば、発疹は顔(95%)、手のひらや足の裏(75%)に最も多く見られます。また、口腔粘膜(70%)、性器(30%)、結膜(20%)にも出現することがあります。19

2022年以降の流行で見られる非典型的な症状

2022年からのクレードIIbによる世界的な流行では、従来の記述とは異なる臨床像が報告されています。これらは性的接触という新たな主要感染経路を反映していると考えられています。7

  • 発熱などの全身症状より先に発疹が出現する、あるいは全身症状を伴わないケースがあります。
  • 病変が性器、肛門周囲、口腔内に限定され、その数が非常に少ない(一つまたは数個のみ)ことがあります。
  • 肛門の激しい痛み、直腸出血、下痢などを伴う直腸炎(proctitis)といった消化器症状が報告されています。これは診断の際に非常に重要な所見です。3

これらの非典型的な症状を認識することは、特にリスクのある集団や医療従事者にとって、早期診断と感染拡大防止のために極めて重要です。

表1:エムポックスと類似疾患との症状比較

特徴 エムポックス(Mpox) 水痘(Chickenpox) 梅毒(第2期) 性器ヘルペス
リンパ節腫脹 非常に一般的で顕著8 稀または軽度 全身に広がるのが一般的 鼠径部で一般的
手のひら・足の裏の発疹 一般的(75%)19 非常に一般的で特徴的 非常に稀
発疹の経過 すべての病変が同調して進行19 新旧の病変が混在(非同調性) 主に斑点や丘疹で、水疱や膿疱は見られない 小さな水疱の集まり、再発性
痛み 病変は痛みを伴うことがあり、特に性器・肛門周囲で強い30 主にかゆみ 通常、痛みやかゆみはない 痛み、灼熱感、かゆみ
他の症状 発疹の前に発熱、頭痛、筋肉痛などが出現8 軽度の発熱が発疹と同時に出現することが多い 発熱、倦怠感などの全身症状を伴うことがある 水疱出現前に局所の違和感や灼熱感がある

疫学状況:世界と日本における「二重の危機」

エムポックスの現在の状況を理解するためには、世界で同時に進行している二つの異なる疫学的シナリオを認識することが不可欠です。これは、ウイルスの遺伝的系統(クレード)の違いに起因します。

日本国内の発生状況

日本における最初のエムポックス症例は2022年7月25日に確認されました。14 その後、国内での感染が続き、2025年の特定の時点までに累計で250例以上が報告されています。24 症例の大部分は男性で、特に東京、大阪、神奈川、千葉などの大都市圏に集中しています。25 2023年初頭からは海外渡航歴のない症例が増加しており、これは日本国内のコミュニティで感染環が成立していることを示唆しています。33
極めて重要な点として、これまで日本で分析された症例はすべて、より軽症である「クレードII」に分類されており、重症化リスクの高い「クレードI」の国内発生は報告されていません。10

世界的な二つの流行

現在、世界はエムポックスに関して二つの異なる課題に直面しています。

  • クレードIIbによる世界的流行:2022年5月からヨーロッパやアメリカ大陸を中心に世界中に拡大した流行の原因となった系統です。この系統は致死率が比較的低く(1%未満)、主に男性間での性的接触を含む密接な接触を通じて感染が拡大しました。1
  • クレードIによるアフリカでの深刻な流行:コンゴ民主共和国(DRC)を中心に、アフリカで深刻な公衆衛生上の危機を引き起こしている系統です。この系統は毒性が高く、致死率も著しく高い(歴史的には最大10%)と報告されています。18 憂慮すべきことに、家庭内接触や異性間性的接触によっても感染が広がり、特に小児や女性に大きな被害をもたらしています。WHOはアフリカにおけるこの流行に対し、再三にわたり深刻な懸念を表明しています。18

この「二つの流行」の存在を理解することは、日本におけるリスクを冷静に評価し、同時に世界的な公衆衛生の脅威に対する認識を深める上で不可欠です。

表2:クレードIとクレードIIの疫学的特徴の比較

特徴 クレードI(コンゴ盆地系統) クレードII(西アフリカ系統)
重症度 より高い、重篤な疾患を引き起こす8 より低い、通常は軽症19
報告されている致死率 歴史的に最大10-11%、近年の流行では3-5%以上1 2022-2023年の流行では通常1%未満1
ヒトからヒトへの感染性 より高い8 クレードIより低い
主な感染経路 家庭内接触、異性間性的接触、動物との接触1 主に性的接触(MSM)、密接な皮膚接触1
主な影響を受ける集団 アフリカでは小児と女性に深刻な影響1 2022-2023年の流行では主にMSM9
主な流行状況 中央アフリカ(特にDRC)で深刻な流行が継続中9 2022-2023年に世界的流行を引き起こし、現在は多くの国で低レベルで流行1

感染経路:エムポックスはどのように広がるのか?

エムポックスの感染経路を正確に理解することは、効果的な予防策を講じるための第一歩です。

ヒトからヒトへの感染

近年の流行における主要な感染経路です。

  • 直接接触:最も効率的な感染経路です。感染者の皮膚病変(発疹、かさぶた)、体液(血液、膿)、または粘膜(口、目、性器)に直接触れることでウイルスに感染します。5
  • 性的接触:近年のクレードIIbの流行における主要な感染経路とされています。性器や肛門周囲の病変との皮膚・粘膜接触により、感染リスクが非常に高くなります。2
  • 飛沫感染:長時間にわたる対面での近接した状況(数時間など)で、感染者の呼吸器からの飛沫を吸い込むことで感染する可能性がありますが、直接接触に比べるとリスクは低いと考えられています。8
  • 汚染された物品との接触:感染者が使用した衣類、寝具、タオルなどの物品に付着したウイルスを介して感染する可能性がありますが、これも直接接触よりはリスクが低いとされています。5
  • 母子感染:妊娠中に胎盤を通じて、または出産時に産道の病変との接触を通じて、母親から胎児や新生児へ感染することがあります。11

動物からヒトへの感染

これはウイルスの本来の感染源であり、人獣共通感染症(Zoonosis)としての側面です。主に中央アフリカおよび西アフリカの流行地域で見られます。19 感染した動物(リスやヤマネなどのげっ歯類が主な自然宿主と疑われている)による咬み傷や引っ掻き傷、あるいは血液や体液に直接触れることで感染します。7

感染可能期間

感染者は、症状(発熱など)が出始めた時から、すべての皮膚病変が治癒し、かさぶたが完全に剥がれ落ちて新しい皮膚ができるまでの期間、他者にウイルスを感染させる可能性があります。この期間は通常2~4週間です。15 発症の1~4日前に感染力を持つ可能性を示唆するデータもありますが、この期間のリスクについてはまだ研究が進行中です。15

診断と検査:感染が疑われる時にすべきこと

疑わしい症状がある場合、パニックにならず、適切な手順で行動することが重要です。

市民の皆様へのガイダンス

原因不明の発疹などの疑わしい症状があり、かつ以下のいずれかの危険因子に該当する場合は、医療機関への相談を検討してください。

  • 過去21日以内に、エムポックスと診断された、または疑われる人と密接な接触(皮膚と皮膚の接触、性的接触など)があった。31
  • 最近、複数の性的パートナーがいた。29
  • エムポックスの流行地域から帰国した。39

【重要】医療機関を受診する前の行動:
自己判断で直接医療機関に行くことは避けてください。まずは、かかりつけの医療機関や最寄りの保健所に電話で連絡し、症状と危険因子を伝えてください。その後の対応(受診の要否、受診すべき医療機関など)について指示を仰ぎましょう。26 もし受診を指示された場合は、マスクを着用し、発疹部分を衣服で覆い、可能な限り公共交通機関の利用を避けるなど、感染拡大防止策を徹底してください。22

医療機関での診断プロセス

診断は、臨床評価と検査によって行われます。

  • 臨床診断:医師は詳細な問診(症状、接触歴、性行動歴、渡航歴など)と身体診察を行い、特徴的な皮膚病変の有無を確認します。39
  • 検査確定診断:確定診断は、核酸増幅検査(NAAT)、具体的にはリアルタイムPCR法によって行われます。検体は、水疱や膿疱の内容液、あるいは乾燥したかさぶたなど、皮膚病変から直接採取するのが最も確実です。13 日本では、地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査に加え、一部の医療機関では承認された商用のPCR検査キットを用いた検査も可能になっています。45
  • 医師の届出義務:エムポックスは四類感染症であるため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る法的義務があります。26

表3:日本の主要な保健所の連絡先(例)

(注意:これは一部の例です。最新かつ正確な情報については、必ずお住まいの自治体の公式ウェブサイトをご確認ください。)

都道府県・市 担当機関 電話番号(代表例)
東京都 東京都福祉保健局 / 各区保健所 各区のウェブサイトを参照
大阪府 大阪府健康医療部 / 各市保健所 各市のウェブサイトを参照
神奈川県 神奈川県健康医療局 / 各保健福祉事務所 各地域のウェブサイトを参照
愛知県 愛知県保健医療局 / 各保健所 各地域のウェブサイトを参照
川口市 川口市保健所 048-423-672626
北九州市 北九州市保健所 093-522-876439
沖縄県 沖縄県保健医療介護部 098-866-221540
兵庫県 兵庫県保健医療部 078-362-320241
石川県 石川県健康福祉部 076-225-143822

治療とケアの方法

エムポックスの治療は、対症療法が中心となりますが、特定の条件下では抗ウイルス薬の使用が検討されます。

治療の基本方針と自己管理

ほとんどの患者にとって、エムポックスは特別な治療を必要とせず自然に治癒する「自己限定性」の疾患です。8 そのため、治療の基本は、症状を和らげ、合併症を防ぐための支持療法(対症療法)となります。特に痛みの管理は非常に重要です。4

  • 痛みと熱の緩和:アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの市販の解熱鎮痛薬が使用できます。21
  • 皮膚のケア:発疹部を清潔で乾燥した状態に保ちます。二次感染や瘢痕化を防ぐため、発疹を掻いたり潰したりしないことが重要です。42 保湿クリームやワセリン、カラミンローションが痒みの緩和に役立つことがあります。オートミール入浴剤などを加えたぬるま湯での入浴も推奨されます。21
  • 口腔・咽頭痛のケア:口の中に病変がある場合、食塩水でのうがいが有効です。痛みが強い場合は、医師が麻酔成分を含むうがい薬を処方することもあります。42
  • 安静と栄養:脱水を防ぐために十分な水分を摂取し、体の回復を助けるために十分な休息を取ることが大切です。21

抗ウイルス薬による治療

抗ウイルス薬の使用は、特定の患者群に限定されます。

  • テコビリマット(Tecovirimat, TPOXX):エムポックス治療薬として最も注目されている薬剤です。しかし、近年の大規模な臨床試験では、プラセボと比較して回復時間を大幅に短縮する効果は示されませんでした。一方で、質の高い支持療法(栄養、水分補給、疼痛管理)を受けた患者の死亡率が著しく低いことが明らかになり、支持療法の重要性が再確認されています。12
  • 使用対象者:上記の根拠に基づき、テコビリマットの使用は、重症例、重症化リスクの高い患者(重度の免疫不全者、小児、妊婦など)、または生命を脅かす合併症がある場合に限定されます。4
  • 日本での状況:テコビリマットは日本で薬事承認されていますが、まだ一般流通はしておらず、特定の医療機関で臨床研究の一環として、上記の対象患者に限定して使用されています。4

合併症の管理

細菌による二次的な皮膚感染(抗生物質が必要)、肺炎、脳炎、角膜炎による視力障害など、起こりうる合併症を注意深く監視し、迅速に治療することが重要です。4 特に、咽頭や肛門直腸の病変による激しい痛みは、入院の主な理由の一つであり、強力な鎮痛薬が必要となる場合があります。4

予防策:ワクチンと個人でできること

ワクチンが一般に利用可能でない現在、個人の行動による予防が最も重要です。

ワクチンについて

  • 種類と効果:エムポックスの予防には、天然痘ワクチンが使用されます。このワクチンはエムポックスに対して約85%の予防効果があるとされています。5
  • 日本での接種状況:日本では天然痘の定期接種が1976年に中止されたため、それ以降に生まれた世代(現在約50歳未満)はワクチンによる免疫を持っていません。8 現在、エムポックスワクチンは一般向けには提供されておらず、医療従事者や確定患者の濃厚接触者など、極めてリスクの高い集団を対象とした臨床研究の枠組みでのみ利用可能です。26
  • 曝露後予防(PEP):ウイルスに接触した後でも、4日以内にワクチンを接種すれば発症を予防できる可能性があり、4日から14日以内に接種した場合でも重症化を防ぐ効果が期待されます。これは重要な公衆衛生戦略です。8

個人でできる予防策

ワクチンが選択肢にない大多数の人々にとって、以下の行動が感染リスクを減らす鍵となります。

  • 接触を避ける:最も効果的な予防法です。エムポックスを疑わせる発疹がある人との密接な接触(皮膚と皮膚の接触、性的接触)を避けてください。8
  • 手指衛生の徹底:石鹸と水による手洗い、またはアルコールベースの手指消毒剤の使用を頻繁に行いましょう。8
  • 安全な性的行動:性的パートナーの数を減らすことは、曝露リスクを直接的に減少させます。2 コンドームの使用は性器からの感染リスクを減らしますが、皮膚接触による感染を完全には防げません。11 WHOは、回復後も12週間(約3ヶ月)はコンドームを使用することを推奨しています。11
  • 旅行時の注意:渡航先の流行状況を外務省などの信頼できる情報源で確認し、流行地では野生動物との接触を避けてください。718

リスクの高いグループと合併症

「重症化リスクが高い人」と「感染リスクが高い人」を区別して理解することが、正確なリスク評価につながります。

重症化リスクが高い人々

感染した場合に、病状が重くなる可能性が高いグループです。

  • 小児(特に8歳未満)1
  • 妊婦11
  • 免疫不全状態の人:HIV感染者(特にCD4値が低い)、がん治療中の患者、臓器移植後の患者などが含まれます。4
  • アトピー性皮膚炎など、基礎に皮膚疾患がある人25

感染(曝露)リスクが高い人々

生活習慣や職業上、ウイルスに接触する機会が多くなる可能性のあるグループです。

  • 確定患者との密接な接触者(同居家族、介護者など)11
  • 医療従事者8
  • 複数の性的パートナーがいる人2

起こりうる合併症

ほとんどは自然治癒しますが、重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

  • 二次的な細菌感染:皮膚病変からの細菌感染(蜂窩織炎など)。4
  • 永続的な瘢痕(はんこん):特に顔に深い傷跡が残ることがあります。21
  • 眼の合併症:角膜炎による恒久的な視力障害のリスク。22
  • 肺炎、脳炎、敗血症などの重篤な状態。432

よくある質問

公衆浴場(銭湯)やプールで感染しますか?

水を通じて感染するリスクは極めて低いと考えられています。ウイルスは主に人との密接な直接接触で感染します。ただし、タオルの共用は避けるべきです。

ペット(犬や猫)に感染しますか?

はい、エムポックスは動物と人の間で感染する可能性のある人獣共通感染症です。もし飼い主が感染した場合、ペットとの密接な接触(抱きしめる、一緒に寝るなど)を避け、可能であれば他の人に世話を頼むべきです。やむを得ず世話をする場合は、マスク着用、病変部を覆う、接触前後の手洗いなどの対策を徹底してください。7

過去に天然痘ワクチンを接種していれば安全ですか?

過去の天然痘ワクチン接種は、ある程度の防御効果をもたらし、感染した場合の重症化を防ぐ可能性があります。しかし、免疫は時間とともに減弱する可能性があるため、推奨される予防策は引き続き実践する必要があります。7

回復後、いつから安全に性交渉を再開できますか?

すべての皮膚病変が完全に治癒し、かさぶたが取れて新しい皮膚ができた後でなければ、性交渉を再開すべきではありません。さらに、ウイルスが精液中に残存する可能性があるため、WHOなどは回復後12週間(約3ヶ月)はコンドームを使用することを推奨しています。11

なぜアフリカの子供たちにとって危険だというニュースがあるのですか?

これは、ウイルスの系統(クレード)が異なるためです。アフリカで深刻な流行を引き起こしているのは、より毒性が高く致死率も高い「クレードI」です。一方、日本を含む世界の多くの地域で流行したのは、比較的軽症である「クレードII」です。この違いを理解することが、世界と日本の状況を正しく評価する上で重要です。

結論

エムポックスは、正確な知識を持つことで過度に恐れる必要のない感染症です。その一方で、世界的には依然として公衆衛生上の重大な脅威であり続けています。特に、異なるウイルスの系統(クレードIとII)が異なる地域で異なる影響を及ぼしているという複雑な現実を理解することは極めて重要です。日本国内では現在、より軽症なクレードIIの流行が主体ですが、基本的な感染予防策(密接な接触の回避、手指衛生、安全な性的行動)を徹底することが、自身とコミュニティを守る上で最も効果的な手段です。疑わしい症状が現れた場合は、決して自己判断せず、速やかに保健所や医療機関に電話で相談してください。JAPANESEHEALTH.ORGは、今後も最新かつ信頼性の高い科学的根拠に基づき、皆様の健康に貢献するための情報を提供し続けてまいります。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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