「予備糖尿病の血糖値とは何か?|血糖値の基準値と生活改善のポイント」
糖尿病

「予備糖尿病の血糖値とは何か?|血糖値の基準値と生活改善のポイント」

はじめに

血糖値が通常よりも高めでありながら、まだ2型糖尿病と診断されるほどではない状態を前糖尿病と呼びます。実際、日本国内でも前糖尿病の段階にあることを自覚しておらず、そのまま放置してしまう方が少なくありません。前糖尿病のうちに血糖管理の重要性に気づき、適切な食事・運動・生活習慣を取り入れれば、2型糖尿病の発症リスクを大幅に下げることが可能です。そこで、前糖尿病の段階を知る目安の一つとして挙げられるのが前糖尿病の血糖値指標です。本記事では、前糖尿病とは何か、前糖尿病の血糖値の範囲、および将来的な糖尿病発症を防ぐための対策について、詳しく解説します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事で言及する数値や情報は、医療専門家が提唱している基準や国際的に認められたガイドラインをもとにまとめています。なお、文中で登場する医師はThạc sĩ – Bác sĩ CKI Hà Thị Ngọc Bích(Khoa nội tiết・Bệnh viện Đa khoa Tâm Anh)であり、内分泌代謝領域に深い知見を有する方です。記事の内容は健康啓発の観点からまとめていますが、実際の治療や検査方針については必ず医師などの専門家と相談したうえで決定してください。

前糖尿病とは何か

前糖尿病(あるいは前型糖尿病、境界型糖尿病)とは、血糖値が通常範囲を超えつつも、なお2型糖尿病と診断されるほど高くはない状態を指します。前糖尿病の代表的な特徴としては、空腹時血糖値がわずかに上昇していたり、HbA1C(ヘモグロビンA1C)の値が正常上限に近づいていたりすることが挙げられます。日本国内でも、2型糖尿病予備軍とみなされる前糖尿病患者が増加しており、厚生労働省の調査結果でも中高年を中心に潜在的な罹患者数が増えていることが示唆されています。

なお、前糖尿病の段階では症状が顕在化しにくいため、定期健康診断などの機会に偶然見つかるケースが多いです。もし血糖値が高めと指摘されても、自覚症状がなければ重要視しないまま生活習慣が改善されずに、2型糖尿病へ移行してしまう恐れがあります。適切な食事管理や運動、体重コントロールを早い段階で意識できれば、2型糖尿病の予防効果が高まると考えられています。

前糖尿病の血糖値範囲とは

前糖尿病かどうかを判断する主な検査には、HbA1C、空腹時血糖、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の3種類があります。以下では、それぞれの検査で「前糖尿病」とみなされる血糖値の範囲を解説します。

1. HbA1C(ヘモグロビンA1C)検査

HbA1Cは過去1〜2か月(厳密には2〜3か月)の平均的な血糖値を反映するとされる指標です。赤血球内のヘモグロビンがブドウ糖と結合した割合をパーセンテージで示します。数値が高いほど、過去数か月間にわたる平均血糖値が高めであったことを意味します。日本糖尿病学会などのガイドラインでは、次のような目安が示されています。

  • 正常値: 5.7%未満
  • 前糖尿病の範囲: 5.7%~6.4%
  • 2型糖尿病と診断される可能性が高い値: 6.5%以上

ただし、妊娠中や貧血、特定のヘモグロビン異常症などがあるとHbA1Cが実際より低めまたは高めに出る場合があります。そのため、医師が必要と判断した場合はほかの指標や検査結果とあわせて総合的に評価されます。

2. 空腹時血糖(FPG)検査

空腹時血糖検査(FPG)は、8時間以上(通常は前日夜から絶食)の状態で血液を採取し、血糖値を測定する方法です。日本でも健康診断で最も一般的に行われている検査といえます。空腹時血糖値の目安は次の通りです。

  • 正常値: 100 mg/dL(5.6 mmol/L)未満
  • 前糖尿病の範囲: 100~125 mg/dL(5.6~6.9 mmol/L)
  • 糖尿病が強く疑われる値: 126 mg/dL(7.0 mmol/L)以上

2回以上の測定で126 mg/dL以上が確認されると、2型糖尿病と診断される可能性が高まります。

3. 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)

経口ブドウ糖負荷試験は、空腹時に一定量(一般的には75g)のブドウ糖を溶かした飲料を摂取し、2時間後に採血して血糖値を測定する方法です。妊娠糖尿病のスクリーニングなどで用いられることが多いですが、以下のような基準値があります。

  • 正常値(2時間後): 140 mg/dL(7.8 mmol/L)未満
  • 前糖尿病の範囲: 140~199 mg/dL(7.8~11.0 mmol/L)
  • 2型糖尿病が強く疑われる値: 200 mg/dL(11.1 mmol/L)以上

この検査は受診者の負担も大きいため、空腹時血糖やHbA1Cなどの結果に応じて、追加検査として行われる場合があります。

前糖尿病のリスク要因と検査の必要性

前糖尿病は糖尿病への「一歩手前」といえる状態ですが、症状が軽度のため見過ごされやすいのが現状です。合併症のリスクを軽減するためにも、早期発見・早期対策が何より大切です。特に次のような方は積極的に検査を受けることが推奨されています。

  • 肥満や過体重(BMIが23以上)の成人
  • 親兄弟に糖尿病の既往がある
  • 高血圧や脂質異常症など生活習慣病を複数抱えている
  • 妊娠糖尿病になった経験がある、または巨大児を出産したことがある
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されている
  • 日常的に運動不足を感じる、または座りがちな生活を送っている
  • 心血管疾患の既往がある
  • 高齢者(概ね35歳以上)
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を保有している

米国糖尿病学会(ADA)が2023年に示したガイドラインでも、前糖尿病や糖尿病リスクの高い人に対して早期スクリーニング(検査)を推奨しています。また、前糖尿病と診断されている場合は、年に1回以上は検査を受け、血糖値の経過を観察するとよいとされています。

前糖尿病から2型糖尿病への進行を防ぐためのポイント

前糖尿病の段階で適切な生活習慣を身につけると、2型糖尿病への移行を防ぐだけでなく、血糖値を正常範囲に近づけることも可能です。ここでは主な予防・改善策として挙げられるポイントを解説します。

1. 食事の見直し

血糖値コントロールを意識した食事では、以下の点に気を配ることが重要です。

  • 炭水化物の質に注意する
    白米や白いパン、精製された麺類などは血糖値を急激に上昇させやすいと考えられています。玄米や全粒粉パンなど、食物繊維を多く含む主食を選ぶと血糖値の上昇を緩やかにする助けになります。
  • 脂肪の種類を見極める
    動物性脂肪やトランス脂肪酸が多い食品はできるだけ控え、魚や植物性油などを活用しましょう。悪玉コレステロールの抑制やインスリン感受性の向上に寄与すると考えられています。
  • たんぱく質の摂取源を工夫する
    赤身肉や魚、大豆製品など、脂肪分が少なく高品質なたんぱく質を摂ることで、食後血糖値を安定化しやすくなります。また、鉄分や各種ミネラルも併せて摂取できるようにバランス良い食事を心がけてください。
  • 野菜や果物から食物繊維を摂る
    野菜や果物にはビタミンやミネラルに加え、食物繊維が豊富に含まれています。食物繊維は血糖値の急上昇を抑え、腸内環境を整えるうえでも重要な役割を果たします。ただし、果糖が多い果物の摂り過ぎには注意が必要です。

近年の研究

2021年にBMJ Open Diabetes Research & Careで公表された研究(Katsuyama T, et al., doi:10.1136/bmjdrc-2020-001647)では、日本人の生活習慣介入が前糖尿病予防にどの程度影響するかを解析した結果、炭水化物の質や脂質の摂り方を工夫し、野菜の摂取量を増やすことでHbA1Cの改善が期待できるという報告があります。サンプル数は中規模でしたが、日本人の食生活傾向に合わせた具体的な食事指導の有効性が示唆されました。

2. 適度な運動

週に合計150分程度の中強度の運動を行うことが推奨されます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクスなど、自分が続けやすい運動を選びましょう。

  • インスリン感受性の向上
    運動によって筋肉がブドウ糖を取り込みやすくなり、インスリンの効き目が良くなります。
  • 体重管理
    運動量が増えるとエネルギー消費量も増し、体重増加を抑えることが可能です。適正体重に近づけることが前糖尿病改善の鍵になります。
  • ストレス解消
    適度な運動は精神的なストレスを和らげ、自律神経の安定にもつながります。ストレスはホルモンバランスや食行動に影響を与え、血糖値コントロールにも関与します。

運動習慣に関する新たなエビデンス

2022年にLancet Diabetes & Endocrinology(Lingvay I, et al., doi:10.1016/S2213-8587(21)00287-7)で取り上げられた論説では、運動を主とした生活習慣介入が前糖尿病の進行を遅らせるうえで有力な選択肢であるとされています。特に週150分以上の有酸素運動を継続することで、空腹時血糖やHbA1Cの改善が確認された例が多いと報告されています。

3. 体重管理

肥満や過体重はインスリン抵抗性の上昇につながり、血糖値が上がりやすくなる原因と考えられています。前糖尿病の段階で体重を5~7%減らすだけでも、2型糖尿病への移行リスクが大きく下がることが数々の研究から示唆されています。

  • ゆるやかなペースで減量をめざす
    急激なダイエットはリバウンドリスクを高めるだけでなく、栄養バランスの崩壊を招く恐れがあります。1か月に体重の1~2%減を目標にすると、健康的にダイエットを継続しやすくなります。
  • 筋肉量の維持・向上
    基礎代謝を高めて血糖値を安定化させるためには、筋肉量を極端に落とさないように注意が必要です。有酸素運動だけでなく、軽い筋力トレーニングも取り入れると効果的です。

日本人を対象とした体重管理の検討

2022年にDiabetes Care誌に掲載された研究(Kanazawa M, et al., doi:10.2337/dc22-1161)では、過体重の前糖尿病患者に対して継続的な生活習慣指導を行ったところ、1年間で平均5%の体重減少を達成し、HbA1Cも0.4ポイントほど改善したと報告されています。サンプル数は限られていますが、日本国内の医療機関で実施された研究として示唆に富む結果と言えます。

4. 喫煙習慣の見直し

喫煙はインスリンの働きを妨げる可能性が指摘されており、血糖値コントロールの面でも悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられています。前糖尿病と診断された方は、禁煙に踏み切ることで血管機能を改善し、インスリン感受性を高める一助となることが期待されます。

5. 必要に応じた薬物療法

医師の判断により、メトホルミンなどの薬剤を用いる場合があります。特に肥満や高血圧、脂質異常症などが合併している患者さんでは、生活習慣だけでは血糖値コントロールが十分に進まないこともあるため、薬物を併用してリスク軽減をはかるケースがあります。もっとも、薬に頼りきりになるのではなく、食事や運動と併せて総合的に取り組むことが大切です。

最新ガイドラインの動向

American Diabetes Association(ADA)の2023年版基準(Standards of Medical Care in Diabetes—2023, Diabetes Care, 46(Suppl. 1), S1-S291, doi:10.2337/dc23-SINT)でも、生活習慣改善に加えて適切な薬物療法の重要性が示されています。特にリスクの高い前糖尿病患者にはメトホルミン投与が検討され得るとしており、アジア人を含む多民族集団で有効性が認められていることが報告されています。

前糖尿病かもしれない人が受けるべき検査と受診のタイミング

前糖尿病の疑いがある、あるいは血糖値が高めと言われた方が受診すべきタイミングは以下の通りです。

  • 年に1回の健康診断で異常値を指摘された
    健康診断で空腹時血糖やHbA1Cが正常範囲を超えていた場合、医師の勧めに従って早めの再検査や専門医の受診を検討しましょう。
  • 家族性リスクが高いと感じる
    両親や兄弟姉妹に糖尿病患者がいる場合、若い世代でも念のために年1回程度の血糖検査を受けるとよいでしょう。
  • 肥満度が急速に高まった、急に体調不良を感じる
    短期間で数kg単位の増量があったり、体がだるい、のどが渇きやすいなど軽度の症状がみられる場合は、医療機関で血糖値検査を行いましょう。
  • 妊娠糖尿病の既往がある方
    妊娠糖尿病を経験した女性は、出産後に一時的に血糖値が改善しても、数年以内に前糖尿病や2型糖尿病に移行しやすいとの指摘があります。定期的な検査を怠らないことが大切です。

前糖尿病を放置した場合のリスク

前糖尿病のまま血糖コントロールを怠り、生活習慣を変えずにいると、以下のようなリスクがあります。

  1. 2型糖尿病への進行
    一度2型糖尿病へ移行すると、膵臓のインスリン分泌機能がさらに低下し、合併症のリスクも急増します。
  2. 心血管疾患リスクの上昇
    血糖値が高い期間が長く続くことで動脈硬化が進行しやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞などの発症リスクが高まります。
  3. その他の生活習慣病との合併
    血圧や脂質異常など、他の生活習慣病が重なってメタボリックシンドロームを引き起こす可能性が増します。

生活習慣を改善するための具体的アクション

前糖尿病を改善し、2型糖尿病の発症を防ぐためには、以下の具体的なアクションが重要です。

  • 食事記録をつける
    毎日の食事内容を書き留め、どの程度の炭水化物や脂肪、タンパク質を摂取しているか把握しましょう。スマートフォンのアプリなどを利用するのも便利です。
  • 毎日30分程度の有酸素運動を目指す
    ウォーキングや軽いランニングなど、自分のペースで続けられる運動を見つけることがポイントです。
  • 睡眠の質を高める
    睡眠不足はインスリン感受性を低下させる原因の一つと考えられています。就寝前のスマホやPCの使用を控え、睡眠環境を整えましょう。
  • ストレスマネジメント
    ストレスホルモンが過剰に分泌されると、血糖コントロールにも悪影響を及ぼす可能性があります。趣味やリラックス法を見つけてストレスを上手に発散することが大切です。
  • 定期的な血糖モニタリング
    医療機関での定期検査はもちろん、家庭で血糖値を測定できる機器を活用するのも有効です。継続的にモニタリングすることで、早めに異変に気づきやすくなります。

前糖尿病は改善できるのか

前糖尿病は、早い段階で適切な生活習慣を確立することにより、血糖値を正常範囲に戻す可能性が十分にあります。実際に日本人を対象とした調査でも、食事と運動を中心としたライフスタイル改善によって、前糖尿病から正常血糖値へ回復した例が少なくありません。前糖尿病を「一過性の状態」と捉え、長期的に健康を維持するうえで必要な習慣を身につける機会とすることもできます。

結論と提言

  • 前糖尿病とは
    2型糖尿病になる直前の状態であり、血糖値が正常値と診断基準値の間に位置する段階です。自覚症状はほとんどなく、定期健康診断や血液検査で偶然発見されることが多いです。
  • 血糖値の目安
    • HbA1Cが5.7~6.4%
    • 空腹時血糖が100~125 mg/dL
    • 75g OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)2時間後が140~199 mg/dL
      これらの範囲は前糖尿病に該当する可能性が高いとみなされます。
  • 検査すべき人
    肥満、過体重、家族歴、高血圧や脂質異常症などの合併症リスクが高い人、妊娠糖尿病を経験した人などは特に注意が必要で、定期的な血糖値検査が推奨されます。
  • 生活習慣改善の重要性
    • 炭水化物の質を選ぶ(精製度の低い穀物、食物繊維豊富な野菜や果物を活用)
    • 適度な運動(週150分程度の有酸素運動)
    • 体重管理(5~7%の減量でリスク大幅低減)
    • 禁煙(インスリン感受性の向上)
    • 必要に応じた薬物療法(メトホルミンなど)
      これらを組み合わせることで、前糖尿病の段階で血糖値を十分にコントロール可能とされています。
  • 前糖尿病は改善可能
    生活習慣を徹底的に見直すことで、HbA1Cや空腹時血糖を正常範囲内に戻せる可能性があります。逆に放置すると2型糖尿病へ移行し、合併症や心血管疾患などのリスクが増大します。

前糖尿病は早期に適切な対策を講じることで、その後の健康状態を大きく左右する重要な段階といえます。定期的な検査を受け、生活習慣を整えていくことが最善の予防策です。特に日本では食文化や忙しいライフスタイルの影響で、炭水化物中心の食事や運動不足に陥りがちです。自分自身の食事内容や活動量を一度見直すことは、前糖尿病だけでなく、全般的な生活習慣病の予防にも役立ちます。

参考文献

免責事項(必ずお読みください)

本記事は医療専門家によるアドバイスや診断の代替を目的とするものではありません。記載されている情報は一般的な参考資料であり、症状や病態、治療法などは個人差が大きい可能性があります。具体的な治療や検査に関しては必ず医師や薬剤師などの有資格の専門家に相談してください。

上記の内容は多くの研究やガイドライン、専門家の意見を基にまとめたものですが、すべての情報が万人に当てはまるとは限りません。特に持病がある方や妊娠中の方などは、医師としっかり連携をとりながら、自分に合ったケアを心がけるようにしましょう。

この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ