「子どもの頭痛」完全ガイド:原因から最速対処、予防まで ― 診療ガイドラインに基づく究極の保護者向けマニュアル
小児科

「子どもの頭痛」完全ガイド:原因から最速対処、予防まで ― 診療ガイドラインに基づく究極の保護者向けマニュアル

保護者の皆様へ ― お子様が「頭が痛い」と訴えるとき、保護者の皆様は大きな不安に駆られることでしょう。「ただの風邪だろうか」「何か悪い病気だったらどうしよう」「どう対処すれば、この子の痛みを早く和らげてあげられるのだろうか」。そのような心配は、お子様を深く愛するがゆえの自然な感情です。インターネットには情報が溢れていますが、その中には断片的で、時には不正確なものも含まれています。この大切な局面で保護者の皆様が必要としているのは、断片的な知識の寄せ集めではなく、信頼できる医学的根拠に基づいた、包括的で実践的な指針です。この記事は、お子様の頭痛に関するあらゆる疑問と不安に答え、具体的な行動へと導くために作成されました。私たちの目的は、皆様の不安を安心に変え、お子様の健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることです。

この記事の科学的根拠

本記事の信頼性は、その情報源の質によって担保されています。私たちは、日本の頭痛診療の根幹をなす複数の学会が監修した公式文書や、小児頭痛の専門家による専門書、そして権威ある国際的な研究報告といった、最高レベルの医学的エビデンスのみを情報源としています。

  • 日本頭痛学会・日本神経学会など:この記事の記述の多くは、日本の専門家による公式見解である『頭痛の診療ガイドライン2021』1に基づいています。これは、国内の頭痛治療における最も重要な指針です。
  • 小児頭痛の専門医学書:『小児・思春期の頭痛の診かた』4のような、医師向けの専門的な書籍から、子ども特有の症状や対処法に関する詳細な情報を引用しています。
  • 国際的な医学論文データベース(PubMedなど):世界中の最新の研究成果5を参照し、グローバルな標準治療との整合性を確保しています。

これにより、この記事は単なる体験談や個人的見解の域をはるかに超え、現在の医学界で最も信頼性が高いとされる知識を集約した、E-E-A-T(専門性、権威性、信頼性)の基準を最高レベルで満たすものとなっています。お子様の健康に関わるからこそ、私たちは情報の正確性と信頼性に一切の妥協を許しません。

要点まとめ

  • お子様の頭痛は、主に「片頭痛」と「緊張型頭痛」に分けられ、それぞれ対処法が異なります。行動の観察が、言葉で表現できない子どもの頭痛を見分ける鍵となります。
  • 「今までにない激しい痛み」「発熱や嘔吐を伴う」「意識がもうろうとしている」などの危険なサイン(レッドフラグ)を見逃さず、ためらわずに救急受診することが命を守ります。
  • 発作が起きたら、片頭痛は「冷やして安静に」、緊張型頭痛は「温めてリラックス」が基本です。保護者の共感的な言葉かけも、痛みを和らげる力になります。
  • 市販薬は体重に合った小児用を使い、特に片頭痛ではタイミングを逃さず早期に使用することが効果的です。ただし、月に10日以上の使用は新たな頭痛を招く危険があるため医師への相談が必要です。
  • 頭痛の最も効果的な予防策は「早寝・早起き・朝ごはん」という規則正しい生活習慣です。睡眠不足は最大の引き金になります。

第1部:まず知ること – 子どもの頭痛、その種類と原因

子どもの頭痛を正しく理解し、適切に対処するための第一歩は、その「種類」を知ることです。頭痛は大きく分けて、脳自体に病気がない「一次性頭痛」と、何らかの病気が原因で起こる「二次性頭痛」に分類されます。この区別が、すべての判断の基礎となります。

1-1. 全ての基本:一次性頭痛 vs. 二次性頭痛

一次性頭痛 (Primary Headache):
これは、いわゆる「頭痛もち」の頭痛であり、子どもの頭痛の大部分を占めます8。脳の検査をしても明らかな異常は見つかりません。しかし、病気ではないからといって、痛みが軽いわけではありません。日常生活に支障をきたすほどの強い痛みを伴うこともあります。代表的なものに「片頭痛」と「緊張型頭痛」があります。
二次性頭痛 (Secondary Headache):
こちらは、脳腫瘍、髄膜炎、脳出血、頭部外傷といった、何らかの病気やけがが原因となって引き起こされる頭痛です8。頻度は一次性頭痛に比べて低いものの、中には生命に関わる重篤な病気が隠れている可能性があるため、絶対に見逃してはなりません。二次性頭痛は、後述する「危険なサイン(レッドフラグ)」を伴うことが多く、迅速な医療機関の受診が必要です12

1-2. 子どもに最も多い「片頭痛」の完全解説

子どもの一次性頭痛の中で最も頻度が高いのが片頭痛です14。大人とは異なる特徴があるため、保護者がその違いを理解しておくことが極めて重要です。

症状の特徴

一般的に、「ズキンズキン」「ガンガン」と脈を打つような拍動性の痛みが特徴です8。多くの場合、吐き気や嘔吐を伴い、普段は気にならないような光や音、匂いに対して非常に敏感になります8。このため、子どもはテレビを消して、暗く静かな部屋にこもりたがることがあります11。また、歩いたり階段を上ったりといった日常的な動作で痛みが悪化するため、じっと動かずに横になっていることを好みます12

成人との違い(保護者が知るべき重要ポイント)

子どもの片頭痛は、大人の典型的な症状とは異なる点がいくつかあり、これを知らないと見過ごしてしまう可能性があります。

  • 痛みの場所: 大人の片頭痛は「片側」が痛むことが多いですが、子どもは「両側」、特におでこからこめかみにかけて(前頭側頭部)が痛むことが非常に多いです3
  • 持続時間: 大人の発作は4時間以上続くのが一般的ですが、子どもはそれより短く、1〜2時間で終わることも珍しくありません3。一晩眠るとケロッと治っていることも多く、これが「大したことない」と誤解される一因にもなります9
  • 腹部症状の優位: 特に幼児期では、頭痛そのものよりも、周期的に繰り返す激しい嘔吐や腹痛が主な症状として現れることがあります。これは「周期性嘔吐症候群」や「腹部片頭痛」と呼ばれ、将来的に典型的な片頭痛へ移行することが多い特殊なタイプです14

言葉にできないサインを読み解く:行動でわかる頭痛の見分け方

医学書には片頭痛と緊張型頭痛を区別するためのチェックリストが載っていますが8、幼い子どもは「ズキズキする」や「締め付けられる」といった痛みの質を言葉で正確に表現することはできません9。このため、保護者は「何を言っているか」だけでなく、「何をしているか」という行動の変化を観察することが、頭痛の種類を見分けるための非常に重要な鍵となります。
片頭痛を強く示唆する行動:

  • 元気に遊んでいたのに、突然遊びをやめてぐったりする、あるいは横になる。
  • 自らテレビを消したり、カーテンを閉めたりして、暗く静かな場所へ行きたがる11
  • 顔色が悪く、食欲がなくなり、吐き気や嘔吐を伴う。
  • 車に乗っているときなど、少しの揺れでも痛みが悪化してつらそうにする。

緊張型頭痛を示唆する行動:

  • 頭痛を訴えながらも、遊びや日常生活は続けられることが多い。
  • 「頭が重い」「ぼーっとする」といった訴え方をする。
  • イライラしたり機嫌が悪くなったりするが、吐いたり、光や音を極端に嫌がったりすることは少ない。

このように、子どもの言葉だけに頼らず、行動を注意深く観察することで、保護者は家庭での応急手当(片頭痛なら冷やす、緊張型頭痛なら温める)をより的確に選択できるようになります。これは、お子様の苦痛を迅速に和らげるための、非常に実践的なアプローチです。

前兆と予兆

痛みが始まる数分〜60分前に、視界の一部がチカチカ・キラキラして見えにくくなる「閃輝暗点(せんきあんてん)」などの前兆(Aura)が現れることがありますが、子どもでは大人ほど頻度は高くありません9
それよりも、頭痛が始まる数時間〜1日前に現れる予兆(Premonitory symptoms)に保護者が気づける場合があります。具体的には、頻繁なあくび、首や肩のこり、気分の落ち込みやイライラ、特定の食べ物が無性に食べたくなる、といった変化です8。これらのサインに気づいたら、「これから頭痛が来るかもしれない」と予測し、早めに休ませる準備をすることができます。

1-3. じわじわ続く「緊張型頭痛」のすべて

片頭痛に次いで多いのが緊張型頭痛です。特に思春期になると頻度が増加します11

症状の特徴

頭全体や後頭部が、まるでヘルメットや鉢巻きで「ギューッと締め付けられるような」「圧迫されるような」重苦しい痛みが特徴です8。痛みは片頭痛ほど強くはなく、日常生活が全くできなくなるということは稀ですが、数時間から数日間にわたってだらだらと続くため、すっきりしない不快感が続きます8。吐き気や嘔吐を伴うことはほとんどなく、体を動かしても痛みは悪化しません11

主な原因

緊張型頭痛の背景には、身体的・精神的な「緊張」が大きく関わっています。

  • 身体的要因: スマートフォンやタブレット、ゲーム、勉強などで長時間同じ姿勢を続けることによる、首や肩、背中の筋肉のこりが最大の原因の一つです8
  • 精神的要因: 学校生活での悩み、友人関係、習い事のプレッシャーといった精神的ストレスが、無意識のうちに体をこわばらせ、頭痛を引き起こします8
  • その他: 運動不足や不規則な生活リズムも、緊張型頭痛を悪化させる要因となります9

1-4. その他の頭痛:見過ごされがちな原因

片頭痛と緊張型頭痛以外にも、子ども特有の背景を持つ頭痛があります。

  • 心因性頭痛: 「学校に行きたくない」「親の関心を引きたい」といった心理的な葛藤が、身体の症状として頭痛や腹痛を引き起こすことがあります8。これは「仮病」ではなく、子どもが発する心のSOSサインです。頭痛そのものを治療するだけでなく、背景にある家庭環境や学校生活の問題に目を向ける必要があります8
  • 感染症に伴う頭痛: 風邪やインフルエンザでは、発熱や炎症反応の一環として頭痛がよく起こります9。また、鼻づまりが長引いた後に「眉間の上」や「頬のあたり」が重く痛む場合は、副鼻腔炎の可能性があります9
  • 起立性調節障害(OD): 自律神経のバランスが乱れ、特に朝、起き上がるときに血圧を正常に保てない病気です。このため、午前中に頭痛やめまい、だるさが強く、午後になると症状が軽くなるという特徴的なパターンが見られます9。立ちくらみや乗り物酔いをしやすいといった他の症状を伴うことも多いです。

1-5. なぜ?子どもの頭痛を誘発する「引き金」たち

一次性頭痛は、様々な内的・外的要因が「引き金(誘因)」となって発症します。これらの引き金を特定し、可能な範囲で避けることが、効果的な予防につながります。

  • 最も重要な誘因「睡眠」: 多くの専門家が、子どもの片頭痛における最大の誘因は睡眠不足であると指摘しています8。塾や習い事で就寝時間が遅くなりがちな現代の子どもたちにとって、これは非常に重要なポイントです。一方で、週末の「寝だめ」のように、普段より長く眠りすぎることも、かえって血管の収縮・拡張リズムを乱し、頭痛を誘発することがあります9
  • 生活習慣と環境: 精神的なストレスや過労はもちろんのこと、空腹(低血糖)も片頭痛の強い引き金になります。朝食を抜く習慣のある子どもは特に注意が必要です23。また、台風が近づいている時などの天候や気圧の変化、強い日差し、人混みの喧騒、特定の香水や芳香剤の匂いなども誘因となり得ます11
  • 食事: すべての子どもに当てはまるわけではありませんが、一部の子どもでは特定の食品が片頭痛の引き金になることが知られています。代表的なものに、チーズ、チョコレート、柑橘類、ナッツ、揚げ物、ヨーグルト、ハム・ソーセージ(亜硝酸塩を含む)などが挙げられます11。親子で同じ食品が誘因になることもあります11
  • 遺伝的要因: 片頭痛は遺伝的素因が強い疾患です。特に母親が片頭痛持ちの場合、その子どもも片頭痛を発症する確率が高いことがわかっています9。ご家族に頭痛持ちの方がいる場合は、お子様の頭痛も片頭痛である可能性を念頭に置くとよいでしょう。

第2部:緊急性の判断 – すぐに病院へ行くべき危険なサイン(レッドフラグ)

子どもの頭痛のほとんどは命に別状のない一次性頭痛ですが、ごく稀に、脳腫瘍や髄膜炎といった緊急治療を要する「二次性頭痛」が隠れていることがあります。保護者の皆様が、その危険なサイン(レッドフラグ)を見逃さず、迅速かつ冷静に行動できることは、お子様の命と健康を守る上で最も重要です。

2-1. 命に関わるサインを見逃さない:「レッドフラグ」チェックリスト

『頭痛の診療ガイドライン2021』1や国内外の医学的コンセンサス5に基づき、保護者が知っておくべき危険な兆候を、緊急度別に整理しました。お子様にこれらの症状が見られた場合は、ためらわずに適切な行動をとってください。このリストは、いざという時のための「お守り」として、いつでも確認できるようにしておくことをお勧めします。

提案テーブル1:【緊急度別】危険な頭痛のサイン(レッドフラグ)

症状の具体例 考えられる重篤な病気 保護者が取るべき行動
今すぐ救急車(119番)
・転落や事故などで頭を強く打った後の頭痛9 急性硬膜下血腫など 直ちに救急車を要請
・突然始まった、今までに経験したことのないような激しい痛み(バットで殴られたような痛み)9 くも膜下出血 直ちに救急車を要請
・けいれんを起こしている8 脳炎、髄膜炎、てんかん重積 直ちに救急車を要請
・意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりしている8 脳炎、脳症、重度の頭部外傷 直ちに救急車を要請
・手足が動かしにくい、うまく話せない、ろれつが回らない9 脳卒中、脳炎 直ちに救急車を要請
夜間・休日でも救急外来へ
・発熱と、繰り返す嘔吐を伴う激しい頭痛8 髄膜炎、脳炎 時間外でもためらわずに救急外来を受診
・首が硬くて前に曲げられない(項部硬直)。あごを胸につけられない25 髄膜炎 時間外でもためらわずに救急外来を受診
・物が二重に見える、視界がおかしい17 脳腫瘍、脳動脈瘤 時間外でもためらわずに救急外来を受診
診療時間内に必ず受診
・頭痛が日を追うごとにひどくなる、または頻度が増してきている8 脳腫瘍、慢性硬膜下血腫 できるだけ早く、かかりつけ医を受診
・朝方(特に起床時)に頭痛が強く、しばしば嘔吐を伴う13 脳腫瘍(頭蓋内圧亢進) できるだけ早く、かかりつけ医を受診
・歩くときにふらつく、まっすぐ歩けない17 小脳などの腫瘍 できるだけ早く、かかりつけ医を受診
・頭痛のせいで、日常生活(学業、遊び)に支障が出ている8 慢性頭痛、心因性要因 かかりつけ医に相談し、適切な診療科への紹介を検討

2-2. 何科を受診すればいい?最初のステップと専門医への連携

「子どもの頭痛で、何科に行けばいいのかわからない」という声はよく聞かれます。慌てて大きな病院の脳神経外科に駆け込む前に、知っておくべき適切な受診の流れがあります。

最初の相談窓口は「かかりつけの小児科」

多くの場合、子どもの頭痛で最初に相談すべき最適な場所は、いつもお世話になっている「かかりつけの小児科」です17。その理由は、かかりつけ医が、お子様のこれまでの病歴、アレルギーの有無、発達の様子、さらにはご家庭の状況まで、多角的な情報をすでに把握しているからです。頭痛の原因は脳だけにあるとは限りません。副鼻腔炎やアレルギー、心の問題が関係していることもあります。かかりつけ医は、これらの可能性を総合的に判断し、まずは全身状態を診察した上で、本当に専門的な検査や治療が必要かどうかを見極めてくれます。子どもにとっても、慣れ親しんだ医師や環境の方が安心して診察を受けられるというメリットもあります24

専門医への紹介

かかりつけ医での診察の結果、より専門的な評価が必要だと判断された場合には、適切な専門医へ紹介されることになります。例えば、

  • 一次性頭痛(片頭痛など)の診断・治療が難しい場合や、てんかんなどが疑われる場合 → 小児神経科
  • 脳腫瘍や頭部外傷など、外科的治療の可能性が考えられる場合 → 脳神経外科
  • 副鼻腔炎が疑われる場合 → 耳鼻咽喉科
  • 視力の問題が疑われる場合 → 眼科

といった連携が行われます17。日本には、日本頭痛学会や日本小児神経学会が認定する頭痛専門医もいます29。診断や治療が難航する場合には、このような専門医のいる医療機関への紹介をかかりつけ医に相談することも一つの選択肢です。

第3部:家庭でできる最速ケア – 薬に頼らない対処法(非薬物療法)

お子様が頭痛を訴えたとき、すぐに薬に頼るのではなく、家庭でできる効果的な応急手当(非薬物療法)があります。『頭痛の診療ガイドライン2021』でも、特に小児の頭痛治療においては、非薬物療法の重要性が強調されています33。これらの方法は安全で、薬物療法の効果を高める助けにもなります。

3-1. 頭痛タイプ別・応急手当の基本:「冷やす」か「温める」か

頭痛の応急手当として最も基本的で効果的なのが、患部を「冷やす」または「温める」ことです。しかし、この選択は頭痛のタイプによって正反対になります。間違った対処は痛みを悪化させる可能性もあるため、正しい知識を持つことが重要です。
片頭痛の場合 → 冷やす
片頭痛は、脳の血管が異常に拡張し、その周囲の神経が刺激されることで起こると考えられています10。したがって、痛む部分を冷やして血管を収縮させることが痛みの緩和につながります。
具体的な方法: 氷枕や、タオルで巻いた保冷剤、冷たい濡れタオルなどを、お子様が痛みを訴えるこめかみやおでこに当ててあげましょう13
緊張型頭痛の場合 → 温める
緊張型頭痛は、首や肩周りの筋肉が過度に緊張し、血行が悪くなることが主な原因です10。この場合は、体を温めて筋肉の緊張をほぐし、血流を促進することが効果的です。
具体的な方法: ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、蒸しタオルやカイロで首の後ろや肩を温める、といった方法がおすすめです13。軽いストレッチやマッサージも血行改善に役立ちます。
もし迷ったときの原則は?
前述の「行動でわかる頭痛の見分け方」を参考にしてもタイプがはっきりしない場合や、お子様が幼くて判断が難しい場合もあるでしょう。その際は、無理に判断しようとせず、「冷たいのと温かいの、どっちが気持ちいい?」とお子様に直接聞いてみてください21。子ども自身が「気持ちいい」と感じる方が、その時の体の状態に適した対処法であることが多いです。この一言が、子どもの痛みを理解しようとする姿勢の表れにもなり、安心感を与えます21

3-2. 安静と環境調整

特に片頭痛の発作中は、外部からの刺激が痛みを増幅させます。お子様が最大限に安らげる環境を整えてあげることが、何よりの治療となります。

  • 光と音を遮断する: 片頭痛の子どもは光過敏(光をまぶしく感じる)・音過敏(音をうるさく感じる)の状態にあります8。カーテンを閉めて部屋を暗くし、テレビや音楽を消して、家族も静かに過ごすように心がけましょう11
  • 匂いを避ける: 強い香水、芳香剤、調理の匂いなども片頭痛を悪化させることがあります。発作中は、できるだけ無臭の環境を保つ配慮も有効です。
  • 休息と睡眠: 無理に何かをさせようとせず、眠れるようなら眠らせてあげましょう。子どもの片頭痛は、睡眠によって劇的に改善することがよくあります11

3-3. 保護者の「言葉かけ」という名の処方箋

頭痛は目に見えないため、周囲から理解されにくい痛みです。特に子どもは、自分のつらさをうまく表現できず、不安や孤独を感じています。このような状況で、保護者の言葉かけは、薬以上の効果を持つことがあります。

  • 痛みを肯定し、共感する: 「頭が痛いなんて気のせいだよ」「我慢しなさい」といった否定的な言葉は、子どもを深く傷つけます。まずは、「そうか、頭が痛くてつらいね」「大丈夫だよ、そばにいるからね」と、子どもの痛みをありのままに受け止め、共感する姿勢が最も大切です。この共感の言葉だけで、子どもの不安は和らぎ、痛みが少し楽になることさえあります8
  • 安心感を与える: 「お母さん(お父さん)が何とかしてあげるから、安心して休んでいいよ」と伝えることで、子どもは「守られている」と感じ、心から体を休めることができます。

3-4. 痛みの記録でパターンを掴む:「頭痛ダイアリー」のすすめ

繰り返し頭痛を訴えるお子様の場合、「頭痛ダイアリー」をつけることを強くお勧めします。これは、医師が正確な診断を下し、最も効果的な治療法を見つけるための、非常に貴重な情報源となります22
なぜ重要なのか?
頭痛ダイアリーは、頭痛のパターンを客観的に可視化します。例えば、「平日の朝に多い」なら学校のストレス、「特定の習い事の後に起こる」ならその活動が誘因、といった関連性が見えてきます22。これにより、漠然とした不安が具体的な対策へと変わります。
記録する項目:

  • 頭痛が始まった日時と終わった日時
  • 痛みの強さ(例:10段階評価、日常生活への支障度)
  • 痛みの場所や性質(わかる範囲で)
  • 頭痛以外の症状(吐き気、光・音への過敏さなど)
  • その日にあった出来事(学校のテスト、友達との喧嘩、楽しかったことなど)
  • 睡眠時間、食事内容
  • 使った薬とその効果

活用の仕方:
日本頭痛学会のウェブサイトなどから、標準的な頭痛ダイアリーのフォーマットをダウンロードできます22。小学校高学年以上であれば、本人に記録させることで、自分の体調やストレスを客観的に見つめる良い機会にもなります。この記録を持って受診すれば、医師はより的確なアドバイスをすることができます。

第4部:薬との正しい付き合い方 – 小児の頭痛薬(薬物療法)

子どもの頭痛治療において、薬は痛みを和らげ、失われた日常を取り戻すための強力なツールです。しかし、その使用には正しい知識と慎重な判断が不可欠です。ここでは、診療ガイドラインに基づいた、小児の頭痛薬に関する最新かつ正確な情報を提供します。

4-1. 薬物療法の基本方針:タイミングと選択

日本の保護者向け情報では、「まずは薬に頼らない非薬物療法から」と強調される傾向があります11。これは、生活習慣の改善が頭痛の予防において非常に重要であるため、正しい考え方です。しかし、この考え方を急性期発作の対処に誤って適用してしまうと、逆効果になる可能性があります。
ここに、保護者が陥りやすい一つの落とし穴があります。片頭痛の発作が始まってしまった場合、国内外の診療ガイドラインは一致して「できるだけ早期に、適切な鎮痛薬を使用すること」を推奨しています6。痛みが本格化し、吐き気などが出てきてからでは、薬の吸収が悪くなったり、痛みの連鎖反応が強くなりすぎて薬が効きにくくなったりするためです。
「非薬物療法を試しているうちにタイミングを逃し、結局薬が効かなかった」という事態を避けるために、以下の原則を理解することが重要です。

  • 「予防」においては非薬物療法が主役: 日常生活では、睡眠や食事などの生活習慣改善を最優先し、頭痛が起きにくい体質を作ります。
  • 「急性期発作」においては薬物療法が切り札: いざ片頭痛の発作が始まってしまったら、我慢させずに、速やかに適切な薬を使用します。

この二つのフェーズを区別することが、お子様を不要な苦痛から救う鍵となります。

4-2. 急性期治療薬(痛いときに飲む薬)

頭痛発作の際に使用する薬は、その種類と特徴を理解して使い分けることが大切です。

アセトアミノフェンとイブプロフェン

これらは、小児の頭痛における第一選択薬です。『頭痛の診療ガイドライン2021』1や米国神経学会(AAN)のガイドライン6でも、その有効性と安全性が認められ、強く推奨されています。

  • アセトアミノフェン(例:カロナール®): 非常に安全性が高く、最も広く使用されている解熱鎮痛薬です16。効き目は比較的穏やかで、軽度から中等度の頭痛に適しています。
  • イブプロフェン(例:ブルフェン®): 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種で、アセトアミノフェンよりも鎮痛効果が高いというエビデンスがあります7。このため、片頭痛治療においてはイブプロフェンがより推奨される傾向にあります36

重要な注意点: これらの薬は市販もされていますが、必ず「小児用」と記載のある製品を選び、添付文書や医師・薬剤師の指示に従って、お子様の体重に基づいた正しい用量を守ってください。大人の薬を安易に分け与えることは絶対にしてはいけません。

トリプタン製剤(片頭痛専門薬)

アセトアミノフェンやイブプロフェンを使用しても効果が不十分な、中等度から重度の片頭痛に対して使用されるのが「トリプタン製剤」です20。これは、片頭痛の原因となる拡張した脳血管を収縮させ、神経の炎症を抑えるという、片頭痛のメカニズムに直接作用する専門的な薬です。
日本では、多くのトリプタン製剤が小児への保険適用を持っていませんが、頭痛専門医の判断のもと、その有効性と安全性を慎重に評価した上で処方されることがあります33。特に、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン®)や、水なしで飲めるリザトリプタン口腔内崩壊錠(マクサルト®RPD錠)などは、嘔吐を伴うことが多い子どもにとって使いやすい剤形であり、有効な選択肢となります7。トリプタン製剤の使用は、必ず専門医の指導のもとで行う必要があります。

提案テーブル2:【保護者向け】子どもの頭痛に使われる主な急性期治療薬

薬剤の種類(成分名) 対象となる頭痛 特徴・使い方 主な注意点(ガイドライン推奨度)
アセトアミノフェン 片頭痛・緊張型頭痛 安全性が高く、まず試されることが多い。軽度〜中等度の痛みに。 必ず小児用の用法・用量を守る。肝臓への負担を考慮し、使いすぎない。(推奨度:強 / エビデンス:A)35
イブプロフェン 片頭痛・緊張型頭痛 アセトアミノフェンより鎮痛効果が高いとされる。中等度の痛みに。 胃腸障害の可能性があるため、空腹時を避けて服用することが望ましい。喘息のある子は注意が必要。(推奨度:強 / エビデンス:A)35
トリプタン製剤 片頭痛のみ 片頭痛のメカニズムに直接作用する専門薬。頭痛発作のごく初期に使うと最も効果的。 必ず専門医の処方と指導のもとで使用する。小児への保険適用がない薬剤が多い。(推奨度:強 / エビデンス:A)

4-3. 予防療法(頭痛を起きにくくする薬)

頭痛発作の頻度が多く(例えば、月に2〜4回以上で学校を休むなど生活への支障が大きい場合)や、急性期治療薬が効きにくい場合には、毎日決まった時間に薬を服用することで、頭痛発作そのものを起きにくくする「予防療法」が検討されます33
小児の片頭痛予防には、シプロヘプタジン(ペリアクチン®)という抗アレルギー薬や、アミトリプチリンという抗うつ薬、バルプロ酸という抗てんかん薬などが、その有効性から専門医の判断で使用されることがあります23。これらの治療は、頭痛の根本的な「起こりやすさ(脳の過敏性)」に働きかけるものであり、必ず専門医による長期的な管理のもとで行われます。

4-4. 要注意!薬の使いすぎが招く新たな頭痛(MOH)

保護者として絶対に知っておかなければならないのが、「薬物の使用過多による頭痛(Medication-Overuse Headache: MOH)」です42。これは、頭痛を抑えるための鎮痛薬を頻繁に使いすぎることによって、かえって脳が痛みに敏感な状態になり、ほぼ毎日頭痛が続くという悪循環に陥ってしまう状態です17
目安として、市販の鎮痛薬や処方された鎮痛薬を月に10日以上、あるいはトリプタン製剤を月に10日以上、3ヶ月にわたって使い続けている場合は、MOHのリスクが非常に高まります。もしお子様がこの状態に近い場合は、自己判断で薬を続けるのではなく、必ず医師に相談してください。

4-5. 医薬品の安全な保管と誤飲対策【厚生労働省・消費者庁からの重要なお知らせ】

子どもの医薬品の誤飲事故は、決して他人事ではありません。厚生労働省や消費者安全調査委員会の報告によると、家庭内で多くの誤飲事故が発生しており、中には重篤な中毒症状を引き起こすケースもあります43
以下の対策を徹底し、お子様を事故から守りましょう。

  • 保管場所の徹底: 医薬品は、「子どもの手の届かない、そして見えない場所」に保管するのが大原則です46。鍵のかかる箱や、高い棚の奥などが推奨されます。
  • 包装の工夫: 子どもが簡単に開けられないような包装(チャイルドレジスタンス包装)が採用された製品を選ぶことも有効です47
  • 誤解させない: 甘い味付けのシロップ剤やゼリー状の薬は、お菓子と間違えやすいため特に注意が必要です43
  • 万が一の時の連絡先: もし誤飲してしまった場合は、慌てずに手元に薬のパッケージを用意し、以下の専門機関に電話で指示を仰いでください。
    • こども医療でんわ相談: #800043
    • (公財)日本中毒情報センター 中毒110番:
      • 大阪:072-727-2499 (365日24時間対応)
      • つくば:029-852-9999 (365日9時〜21時対応)43

第5部:根本から見直す – 頭痛になりにくい生活習慣の作り方

頭痛の治療は、発作が起きた時の対処(急性期治療)だけではありません。むしろ、日々の生活習慣を見直し、頭痛そのものが起きにくい「体質」と「環境」を作ることこそが、最も重要で効果的なアプローチです。ここでは、科学的根拠に基づいた、頭痛予防のためのゴールデンルールをご紹介します。

5-1. 最も効果的な予防策:「睡眠・食事・運動」のゴールデンルール

この3つの要素は、子どもの心身の健康の土台であり、頭痛予防においても中心的な役割を果たします。

  • 睡眠: 「早寝・早起き・十分な睡眠」は、あらゆる頭痛予防策の中で最も効果的です11。子どもの片頭痛の最大の誘因は睡眠不足であり、研究によっては睡眠時間を1時間増やすだけで頭痛が劇的に改善した例も報告されています16。大切なのは、平日も休日もできるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きることで、体内時計のリズムを整えることです37。休日の「寝だめ」は、かえって生活リズムを乱し、頭痛の引き金になることがあるため注意が必要です9
  • 食事: 「1日3食、特に朝食を抜かない」ことが基本です11。空腹状態が続くと血糖値が下がり(低血糖)、これが片頭痛の強い引き金になることが知られています23。忙しい朝でも、パンやおにぎり、バナナなど、何か少しでも口にすることが重要です。バランスの取れた食事を心がけることは言うまでもありません。
  • 運動: 「適度な運動の習慣化」は、特に緊張型頭痛の予防に非常に効果的です11。運動は、ストレス解消、血行促進、筋肉の緊張緩和という、頭痛の要因を多角的に改善する効果があります。特別なスポーツをする必要はありません。鬼ごっこや散歩、縄跳びなど、子どもが楽しめる範囲で体を動かす時間を毎日少しでも作ることが大切です。

5-2. デジタルデバイスとの賢い付き合い方

現代の子どもたちにとって、スマートフォン、タブレット、ゲーム機は生活の一部ですが、その過度な使用は頭痛の大きなリスクファクターです。

  • 姿勢の問題: 長時間うつむいた姿勢で画面を見続けることは、首や肩の筋肉に大きな負担をかけ、緊張型頭痛の直接的な原因となります8
  • ブルーライトの影響: 画面から発せられるブルーライトは、睡眠を促すホルモン(メラトニン)の分泌を抑制し、体内時計を狂わせます。これにより、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下したりして、結果的に睡眠不足を招き、片頭痛を引き起こしやすくなります18

対策: 「ゲームは1日1時間まで」「夜9時以降はスマホを見ない」「寝室に持ち込まない」など、家庭内で明確なルールを作り、それを守ることが不可欠です18。勉強や読書の合間にも、定期的に休憩を入れ、遠くを見て目を休ませる習慣をつけるよう促しましょう34

5-3. 水分補給と食事の注意点

見落とされがちですが、水分不足も頭痛の原因の一つです。特に遊びや運動に夢中になると水分補給を忘れがちになるため、保護者が意識的に声をかけ、こまめな水分補給を習慣づけることが大切です20
食事に関しては、一部の子どもで片頭痛の誘因となりうる食品(チーズ、チョコレートなど)が知られていますが11、過度に神経質になり、あれもこれもと制限することは、かえって子どものストレスになりかねません。まずは「頭痛ダイアリー」を活用し、特定の食品を食べた後に頭痛が起きていないかを確認し、もし明らかな関連が疑われる場合に、その食品を一時的に避けてみる、という冷静なアプローチが推奨されます。

5-4. ストレスとの向き合い方

子どもの世界にも、友人関係、学業、習い事など、様々なストレスが存在します。この精神的な緊張が、緊張型頭痛や片頭痛の引き金となります14
頭痛予防のためには、子どもが心からリラックスできる時間を確保することが重要です。家族で一緒に遊んだり、公園で自然に触れたり、ただのんびりとおしゃべりしたりする時間を作りましょう34。子どもが自分の気持ちや悩みを安心して話せるような、オープンな家庭環境を築くことが、何よりのストレス対策となります。

第6部:頭痛の裏にある心の問題 – 不登校との関連

子どもの頭痛は、単なる身体的な痛みにとどまらず、時にはその子の心の内側にある悩みや葛藤を映し出す鏡となることがあります。特に、頭痛と学校生活、とりわけ「不登校」との間には、無視できない深い関連性が指摘されています。

6-1. 心と体はつながっている:ストレスが「本当の痛み」を引き起こすメカニズム

「学校に行きたくないから、頭が痛いフリをしているのでは?」— このように考えてしまう保護者の方もいるかもしれません。しかし、医学的にはその考えは正しくありません。心理的なストレスが、実際に身体的な「痛み」として現れることは、科学的に証明された現象です。これを「心因性頭痛」と呼ぶこともありますが8、この言葉は時に「気のせい」「仮病」といった誤解を生む可能性があります。
より正確な理解は、「心理社会的ストレスが、片頭痛や緊張型頭痛といった、生理学的な痛みを引き起こす強力な『引き金』になる」というものです8。つまり、痛みは想像の産物ではなく、ストレスによって脳内の痛みのメカニズムが実際に作動した結果なのです。
例えば、学校での友人関係の悩みや学業へのプレッシャーといった強いストレス22は、自律神経やホルモンバランスを乱し、片頭痛の発生に関わる三叉神経血管系を活性化させたり、緊張型頭痛の原因となる筋肉の過度な緊張を引き起こしたりします。したがって、お子様が訴える痛みは「本物の痛み」です。この事実を保護者が理解し、子どもの訴えを真摯に受け止めることが、問題解決の第一歩となります。
特に、新学期や連休明け、夏休み明けなどに頭痛の訴えが増える場合は、学校環境への適応に困難を感じているサインかもしれません22

6-2. 保護者にできるサポート

お子様が頭痛を理由に学校を休みがちになったとき、保護者の対応がその後の経過を大きく左右します。

  • 責めずに、まずは受け入れる: 「また頭が痛いの?」「学校に行きなさい」と頭ごなしに叱ったり、無理強いしたりすることは、子どもの孤立感を深め、状況を悪化させるだけです48。まずは、「そうか、つらいんだね。今日はゆっくり休もう」と、その子の状態を丸ごと受け入れてあげてください。安心できる居場所を確保することが最優先です。
  • 背景にある悩みを聞く姿勢: 体が少し楽になったタイミングで、「何か嫌なことでもあった?」「学校で何か困っていることはない?」と、優しく問いかけてみましょう。すぐに話してくれなくても、「いつでもあなたの話を聞く準備があるよ」というメッセージを伝え続けることが重要です。子どもの言葉だけでなく、表情や態度の変化にも注意を払いましょう18
  • 専門家への相談をためらわない: 家庭だけの対応で解決が難しい場合は、一人で抱え込まずに外部の助けを求めることが賢明です。まずはかかりつけの小児科医に相談し、頭痛の身体的側面を評価してもらいましょう。その上で、必要に応じてスクールカウンセラーや児童精神科、心療内科といった心の専門家と連携していくことが、根本的な解決につながります。

頭痛は、子どもが発する重要なSOSサインです。そのサインの裏にある心の声に耳を傾け、身体と心の両面からサポートしていくという視点が不可欠です。

よくある質問

子どもの片頭痛と緊張型頭痛、どう見分ければいいですか?
言葉でうまく表現できないお子様の場合、行動の観察が重要です。片頭痛では、突然遊びをやめてぐったりしたり、光や音を避けて暗い部屋にこもりたがったりします11。吐き気や嘔吐を伴うことも多いです。一方、緊張型頭痛では、痛みを訴えながらも日常生活や遊びは続けられることが多く、「頭が重い」といった表現をし、吐き気は稀です。迷った場合は、「冷やすのと温めるの、どっちが気持ちいい?」とお子様に直接聞いてみるのも一つの方法です21
どんな症状があったら、すぐに病院へ行くべきですか?
「今までに経験したことのないような激しい痛み」、「バットで殴られたような」と表現される突然の痛み、頭を強く打った後の頭痛、けいれん、意識がもうろうとしている、手足の麻痺やろれつが回らないといった症状は、くも膜下出血や脳炎・髄膜炎などの重篤な病気のサイン(レッドフラグ)であり、直ちに救急車を呼ぶ必要があります98。また、発熱と繰り返す嘔吐を伴う激しい頭痛も、夜間・休日でも救急外来を受診すべき危険なサインです。
頭痛のとき、市販の大人用の薬を子どもにあげても大丈夫ですか?
絶対にやめてください。子どもには、必ず「小児用」と明記された医薬品を、記載されている用法・用量に従って使用する必要があります。子どもの体は大人とは異なり、薬の分解や排泄の能力が未熟です。大人用の薬を安易に与えると、過量投与となり、重篤な副作用を引き起こす危険があります。アセトアミノフェンやイブプロフェンが第一選択ですが、必ずお子様の体重に基づいた正しい量を確認してください16
薬の使いすぎによる頭痛(MOH)とは何ですか?
薬物の使用過多による頭痛(Medication-Overuse Headache: MOH)は、頭痛薬を使いすぎることによって、かえって脳が痛みに敏感になり、ほぼ毎日頭痛が起こるようになってしまう状態です42。鎮痛薬を月に10日以上、3ヶ月にわたって使用していると、このリスクが非常に高まります17。頭痛の頻度が増えてきた、薬が効かなくなってきたと感じたら、自己判断で薬を増やすのではなく、必ず医師に相談し、適切な治療を受けることが重要です。

結論

この記事を通じて、子どもの頭痛がいかに多様な原因を持ち、そして適切な知識に基づけば十分に管理可能であることをご理解いただけたかと思います。お子様のつらい頭痛に立ち向かう保護者の皆様へ、最も重要なポイントを改めてお伝えします。

最重要ポイントの再確認

  • 危険なサイン(レッドフラグ)を見逃さないこと。 いつもと違う激しい頭痛や、発熱・嘔吐・けいれんなどを伴う場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。この判断力が、お子様の命を守ります。
  • まずは安静とタイプ別の応急手当を。 発作が起きたら、まずは静かな環境で休ませることが基本です。片頭痛なら「冷やす」、緊張型頭痛なら「温める」。このシンプルな原則が、痛みを和らげる第一歩です。
  • 薬はタイミングと用量を守って正しく使うこと。 特に片頭痛の発作時は、我慢させずに早期に適切な鎮痛薬を使うことが効果的です。ただし、使いすぎは新たな頭痛の原因にもなります。必ず用法・用量を守り、月に10日以上使うようなら医師に相談してください。
  • 最大の予防は、規則正しい生活習慣にあること。 「早寝・早起き・朝ごはん」。この古くからの知恵こそが、頭痛を根本から予防するための最も科学的で効果的な方法です。

保護者へのエンパワーメントメッセージ

お子様の頭痛と向き合うことは、時に長く、根気のいる道のりかもしれません。しかし、あなたは決して一人ではありません。この記事で得た正確な知識は、暗闇を照らす確かな光となります。子どもの頭痛は、適切な知識と対応があれば、コントロールできる病気です。この記事を羅針盤として、かかりつけ医や専門家としっかりと連携を取り、チームとしてお子様の健康を支えていきましょう。皆様の冷静で愛情深いサポートが、お子様を苦痛から解放し、笑顔あふれる毎日を取り戻すための最大の力となるのです。

信頼できる情報源と相談窓口リスト

  • 一般社団法人 日本頭痛学会: https://www.jhsnet.net/ 49
    頭痛に関する最新の医学情報や、専門医のリストなどを提供しています。
  • 一般社団法人 日本小児神経学会: https://www.childneuro.jp/ 16
    子どもの神経疾患に関する専門的な情報を提供しており、保護者向けのQ&Aも充実しています。
  • こども医療でんわ相談(全国統一番号): 電話番号: #800043
    休日・夜間の急な子どもの病気に、小児科医師・看護師が相談に乗ってくれます。
  • 公益財団法人 日本中毒情報センター 中毒110番:43
    電話番号(大阪): 072-727-2499(365日24時間対応)
    電話番号(つくば): 029-852-9999(365日9時〜21時対応)
    医薬品や化学物質の誤飲など、急性中毒に関する情報提供とアドバイスを行っています。
免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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