「徹底解説:デング熱はうつるのか?」
感染症

「徹底解説:デング熱はうつるのか?」

はじめに

近年、蚊が媒介するさまざまな感染症が世界各地で報告されており、その中でもとくに注目を集めているのがデング熱です。日本でも一部の地域や海外渡航者を介して発生する可能性があり、季節や環境によっては広い範囲で流行が見られる場合があります。とくに、デングウイルスに感染している蚊に刺されると発症リスクが高まるため、日頃からの予防策や正しい知識の普及が重要となります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

しかし、「デング熱は人から人へ直接うつるのではないか」「会話や一緒に食事をすると感染するのでは?」など、正しい知識が十分でないために誤解が生じることも少なくありません。そこで本記事では、「デング熱は本当に人から人へうつるのか?」という疑問に焦点を当てて、感染メカニズムや予防策、そして複数回かかる可能性や重症化リスクなどを、できるだけ分かりやすく整理・解説します。

本記事では最後に、デング熱対策に関する国内外の研究動向や注意点にも言及し、あらゆる年代の方が日常生活の中で実践しやすい方法を紹介します。なお、本記事はあくまで一般的な情報を提供するものであり、個々の症状や状況に応じた医療上の判断・治療については専門家へご相談ください。ここではデング熱をめぐる代表的な疑問を解決しながら、感染予防や重症化を防ぐために必要な知識を広く共有していきたいと思います。


専門家への相談

本記事では、医師 Nguyen Thuong Hanh(内科・総合内科/Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)が監修に携わった情報源をもとに、デング熱に関する一般的な見解や対策をまとめています。また、海外の医療情報サイトとして知られるHello Bacsiなど、信頼性のある情報提供プラットフォームの情報も参考としています。これらは日常的な健康管理や予防策を検討する際に、基礎的な情報を得るための一助となるでしょう。ただし、個々の状況によって必要な対応は異なりますので、実際の診断・治療にあたっては医師などの専門家に確認してください。


デング熱とは

デング熱は、デングウイルス(Dengue virus)が原因となる急性ウイルス性感染症です。ウイルスを保有する蚊がヒトを刺すことによってウイルスが体内に入り発症します。一般的に、蚊(とくにネッタイシマカやヒトスジシマカ)の吸血行為を介した間接的な感染経路が大きな特徴であり、人同士の直接的な接触や会話、同じ食器で食事するといった行為ではうつらないことがわかっています。

デング熱は熱帯・亜熱帯地域で患者数が多いとされていましたが、近年では世界の気候変動や人の往来が活発化した影響もあり、広範囲で感染が報告されています。高温多湿の環境を好む蚊が繁殖しやすい季節には、流行のリスクが高まる傾向があります。日本国内でも、夏季を中心に一部地域で蚊の活動が活発になるため、感染防止策を徹底する必要があります。


デング熱は人から人へうつるのか?

会話や食事で直接感染しない理由

まず、デング熱は人から人へ直接うつる病気ではないことを理解する必要があります。会話をしたり、一緒のテーブルで食事をしたり、日常生活のなかで接触したりしても、発症中の人から直接感染することは基本的にありません。なぜなら、デングウイルスを媒介するのは蚊(ネッタイシマカやヒトスジシマカなど)であり、ヒトからヒトへウイルスが移る経路は「蚊を介する」以外に確認されていないからです。

感染の典型的な流れは以下のように説明されています。

  • ウイルスを保持しているヒトの血液を、蚊の雌が吸血する
  • 蚊の体内でウイルスが増殖し、蚊の唾液腺にまで到達する
  • 次に蚊が別の健康な人を刺すとき、唾液を介してウイルスがその人へ伝播する

このように、蚊が間に入らなければデングウイルスはヒトからヒトへ直接伝わりません。また、現時点で確認されているかぎり、性感染や輸血、注射針の使い回しなどによる感染リスクも一般的には極めて低いとされています。


一度かかるともうかからない? 4種類のデングウイルス

デング熱には主に4つの異なる血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)が存在すると報告されています。ある血清型に一度感染して回復すると、その血清型に対しては免疫が獲得されます。しかし、他の血清型に対しての交差免疫は十分に得られません。したがって、4つのタイプすべてにかかる可能性が理論上はあるのです。

さらに、2回目以降の感染では、初回とは異なる血清型のウイルスが体内に入り込むことで、免疫反応が過剰に起こってしまい、かえって重症化しやすくなるという報告もあります。高熱や強い頭痛、出血傾向(皮下出血や内臓出血など)を伴い、ショックや多臓器不全に陥るリスクが高まることも指摘されています。そのため、過去に一度デング熱を経験した方も「もう大丈夫」と安心せずに、予防対策を徹底する必要があります。


デング熱の主な症状と発症のメカニズム

デング熱を発症した場合、発熱(39~40℃程度の高熱)、激しい頭痛、目の奥の痛み、関節痛、筋肉痛などが典型的な初期症状として報告されることが多いです。症状の現れ方には個人差がありますが、以下のような経過をたどることがしばしば見られます。

  • 潜伏期(およそ3~14日)
    蚊に刺されたあと、ウイルスが体内で増殖し、体が反応を始めるまでの期間です。
  • 急性期(発症後1~5日目あたり)
    高熱と強い倦怠感が突然出現し、頭痛や筋肉痛が激しくなります。食欲不振や吐き気を伴う場合もあります。
  • 回復期
    1週間前後で熱が下がり始め、徐々に食欲や体力が回復していきます。ただし、人によっては発疹が出ることがあり、その痒みが強い場合もあります。

重症化するケース

一部の患者では、デング出血熱と呼ばれる重症型に移行することがあります。これは血管透過性が高まり、血漿漏出や出血症状(皮下出血や消化管出血)が顕著になる状態を指します。極めて稀ですが、ショックや多臓器不全を引き起こす恐れがあり、迅速な医療ケアが必要です。とくに過去に異なるタイプのデングウイルスに感染した経験がある人や、高齢者、基礎疾患を持つ方は注意が必要です。


デング熱の感染を広げる要因

蚊の生息環境

蚊は水のある場所で産卵し、幼虫(ボウフラ)として水中で成長します。水たまり、雨ざらしのバケツやペットボトル、プランター受け皿のわずかな水でも産卵可能です。これらの場所を放置すると、蚊の繁殖が容易になり、感染拡大の要因となります。日本ではとくに梅雨から夏場にかけての高温多湿な環境下で蚊が活発に活動しやすいため、この時期はとくに注意を要します。

蚊の長寿化とウイルス保有率

蚊にとって快適な温度・湿度条件が整っていると、生存期間が長引きます。蚊の寿命が延びるほど、デングウイルスを保有し続ける期間が長くなり、結果的にウイルスを媒介し続けるリスクが上がります。また一度ウイルスに感染した蚊は、その生涯を通じてウイルスを保有するといわれています。


感染対策:デング熱の予防は「蚊を知ること」から始まる

デング熱の感染経路は、先述のとおり蚊を介して広がります。したがって、蚊に刺されない工夫や蚊の発生源を断つことが何よりも効果的な予防策です。ここでは具体的な対策をいくつか紹介します。

1. 蚊の発生源を断つ

  • 水の溜まる容器をなくす
    バケツや植木鉢の受け皿などに水が溜まらないようにする。不要な容器は廃棄し、雨水の溜まる場所を極力減らす。
  • 容器や水槽はしっかりふたをする
    飲料水用のタンクや貯水槽など、常時水が必要な場合は密閉して蚊が産卵できないようにする。
  • 定期的に水を入れ替える
    やむを得ず水を常に保管しなければならない場合も、最低週1回は水を入れ替え、容器や周辺を清掃する。
  • 周囲を清潔に保つ
    家のまわりの雑草や不要なゴミ、古いタイヤなどを処分し、蚊が潜みやすい環境を作らないようにする。

2. 蚊を室内に入れない工夫

  • 網戸や玄関ドアのすき間をチェック
    蚊の侵入経路を防ぐため、網戸の破れやドアのわずかなすき間を点検・修繕する。
  • 蚊取り剤やスプレーの活用
    蚊取り線香や電気蚊取り器、虫よけスプレーなどを適切に使い、蚊を室内に定着させない。
  • 扇風機やエアコンで空気を循環
    蚊は風のある場所を嫌う傾向があるため、室内の空気を循環させるのはある程度効果が期待できます。

3. 蚊に刺されにくい服装や対策

  • 長袖・長ズボンを着用
    肌の露出を減らすことで、蚊に刺されるリスクを下げる。白や淡い色の衣服は蚊が好む暗い色を避けられます。
  • 虫よけ剤の使用
    DEET(ディート)やイカリジンなどの成分が含まれる虫よけ製品を適切に塗布する。小児向けと成人向けでは濃度が異なる場合があるので、ラベルをよく確認。
  • 寝るときは蚊帳やベッドネットを利用
    特に小さい子どもや高齢者など、寝ている時間帯に蚊に刺されやすい人は蚊帳を活用すると効果的。

4. 家族や周囲の人の協力

家族での対策が徹底できても、近所が蚊の発生源になっている場合は十分な効果が期待できません。地域やコミュニティ全体で蚊の繁殖を抑制する取り組みが、感染拡大を食い止めるうえで非常に重要です。定期的なごみ拾いや不要物の廃棄などを自治体や地域の行事として取り組む事例も増えています。


デング熱の重症化リスクと繰り返し感染

先に述べたとおり、デング熱には4つの血清型が存在し、一度感染した後もほかの型に対しては免疫が十分でない場合があります。さらに2回目以降の感染で重症化しやすくなる点にも注意が必要です。

たとえば、1回目にDENV-1に感染して回復しても、2回目にDENV-2、3回目にDENV-3、4回目にDENV-4など、異なるタイプのデングウイルスに感染する可能性が残っています。再感染のリスクを減らすためにも、初回感染後こそ油断せずに蚊の対策を継続しましょう。


デング熱にまつわるよくある質問

Q1: 輸血や注射針でうつることはある?

現在のところ、デング熱は主に蚊による媒介以外での大規模な感染は報告されていません。一般的には、献血の際にデングウイルス保有者が血液を提供する可能性は極めて低く、仮にデング熱が疑われる場合、献血や輸血は実施されません。また、注射針の使い回しも、日本国内では医療制度の管理体制から考えてリスクはきわめて低いとされています。

Q2: 性行為による感染リスクは?

デングウイルスは性交渉によってうつる病原体ではないと考えられています。HIVなど一部のウイルスが体液を介して感染するのとは異なり、デングウイルスは蚊の唾液腺に集中的に存在し、人へと伝播していく特性があるからです。

Q3: 感染した人が周囲にいるときの注意点は?

感染者の周囲にいる場合、最も懸念されるのは「感染者の血を吸った蚊が、さらに自分を刺すことでウイルスに感染する」ケースです。つまり、感染者本人から直接うつるのではなく、蚊を介した二次感染に気をつける必要があります。したがって、感染者がいる環境下ではとくに蚊取り線香や虫よけスプレーの使用を徹底し、患者さんにも長袖を着てもらうなど、蚊が患者を刺さないように配慮することが大切です。


デング熱の治療とケア

デング熱には、現在のところ特異的な抗ウイルス薬が存在しません。治療は主に対症療法が中心となり、水分補給、解熱剤の使用(アセトアミノフェンなど)、安静が重要です。ただし、アスピリンなど一部の解熱鎮痛薬は出血リスクを高める可能性が指摘されているため、使用にあたっては必ず医師の指示を仰いでください。

自宅療養のポイント

  • 十分な水分摂取
    発熱や下痢、嘔吐などがある場合、体内の水分と電解質が不足しやすい。スポーツドリンクや経口補水液などでミネラルバランスを保つように心がける。
  • 解熱剤の選択
    出血傾向を助長しない薬剤を用いる必要がある。自己判断ではなく、医師や薬剤師のアドバイスに従う。
  • 安静に過ごす
    体力の消耗を避けるため、十分な休息をとる。症状が重くなったり意識レベルが低下したりした場合は、早めに医療機関を受診する。

重症例の管理

デング出血熱など重症化した場合は、入院して点滴療法や輸液管理、場合によっては血小板輸血などの処置が必要となることがあります。特に血圧低下やショック症状、出血症状が見られる場合には、集中治療が求められることもあるため、自己判断で放置しないようにしましょう。


研究動向と新たなワクチン開発の可能性

世界保健機関(WHO)などを含む国際的な保健機関では、デング熱対策として蚊の制御に加え、ワクチンの研究・開発を推進しています。海外ではすでに一部のワクチンが実用化されており、特定の血清型に対して一定の防御効果を示す報告も出ていますが、4種類すべての血清型に十分かつ長期的な免疫が期待できるワクチンはまだ確立されていません。

  • 2022年にThe Lancet Infectious Diseases誌に掲載されたChangらの論文(doi:10.1016/S1473-3099(22)00523-9)によれば、新しいデング熱ワクチンの開発は進展している一方で、複数の血清型への有効性や長期免疫の持続、そして安全性確保など多くの課題が残されているとされています。
  • また、2021年に同じくThe Lancet Infectious Diseases誌でRachel Loweら(doi:10.1016/S1473-3099(21)00394-8)が発表した論考では、デング熱の基本再生産数(R(t))が地域の気温や降水量など環境要因によって大きく変動し、ウイルスを保有する蚊の数が増える時期に爆発的流行が起きるメカニズムが言及されています。これにより、ワクチン開発だけでなく、環境制御や蚊の繁殖抑制策がいっそう重要となることが示唆されました。

日本国内におけるデング熱対策の現状

日本国内においては、海外から持ち込まれる輸入感染例が毎年少数ながら報告されており、国内で感染が拡大する可能性を否定できません。自治体や保健所は、海外旅行から帰国した人で発熱や発疹などがある場合にはデング熱を疑い、迅速に検査・診断を行う体制を整備しています。さらに、蚊の発生源となりうる環境を一斉点検する「蚊媒介感染症対策」キャンペーンなどを展開する動きもみられます。

ただし、こうした公的な対策だけでは不十分であり、一人ひとりの予防意識の高まりこそが感染拡大を防ぐ大きな鍵です。とくに蚊の繁殖しやすい季節(夏から秋のはじめ)には、家庭や地域、職場での連携を強めていく必要があります。


結論と提言

  • デング熱は蚊が媒介するウイルス性感染症であり、人から人へ直接うつる病気ではありません。会話や一緒に食事をしても感染しないため、病人を遠ざける必要はありません。
  • ただし、蚊の発生源を断つことが最大の予防策であり、肌の露出を避けたり虫よけ剤を使用したりして刺されない工夫をすることが極めて重要です。
  • デング熱には4種類の血清型があり、一度感染しても別の型に再感染する可能性があること、かつ再感染時は重症化リスクが高まることを認識しておく必要があります。
  • 治療は主に対症療法で、水分補給や解熱剤の適切な使用、安静が重要です。重症例では入院管理が必要となるケースもあるため、自己判断で放置せず医療機関を受診してください。
  • ワクチン開発の研究は進行しているものの、4種類すべての血清型に対応する十分な効果や長期安全性を備えた製品はまだ確立されていません。したがって、現時点では蚊の制御と刺されない対策がもっとも信頼できる予防手段です。
  • 蚊の繁殖を抑制する取り組みは、個人レベルから地域コミュニティに至るまで連携が欠かせません。日常生活での工夫や自治体・保健所の取り組みに積極的に参加することで、より広範囲の感染リスクを低減できます。

参考文献


※本記事は、国内外の公的医療情報や専門家へのヒアリングをもとに編集したものであり、一般的な健康情報・感染症対策についての解説を目的としています。個々の症状や状況に応じた診断、治療方針に関しては、必ず医師や医療機関などの専門家にご相談ください。上記の情報はあくまでも参考資料であり、最新の医学的エビデンスやガイドラインの更新により変更される可能性があります。

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