「媚薬」や「精力剤」—これらの言葉は、古くから人々の関心を引きつけてきました。しかし、その効果や安全性については、科学的根拠の曖昧な情報や誤解が蔓延しているのが現状です。本稿では、日本国内で入手可能な媚薬や性的エンハンサーについて、最新の科学的知見に基づき、その有効性、安全性、そして規制の現状を深く、かつ包括的に解説します。
本記事は、厚生労働省や日本の専門学会、世界保健機関(WHO)、査読付き論文などの信頼できる情報に基づき、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が作成しました。AIツールによる情報整理や文献検索も補助的に活用していますが、内容の選択・構成・最終確認はすべてJHO編集部が行っています。私たちの目的は、神話を解体し、消費者が情報に基づいた賢明な意思決定を下せるよう、信頼性の高い医学的情報を提供することにあります。
要点まとめ
- 市場に出回る多くの「媚薬」や「精力剤」は、その効果を裏付ける強固な科学的根拠に欠けています510。これらは主に「健康食品」やサプリメントとして販売されており、医薬品とは規制の基準が大きく異なります1。
- 日本における最大の懸念は、「天然」や「ハーブ」を謳う製品に、シルデナフィル(バイアグラの有効成分)などの未承認医薬品成分が違法に混入されている事例が多発していることです。これは厚生労働省も繰り返し警告しており、重篤な健康被害を引き起こす可能性があります6。
- 性的機能に関する悩みがある場合、自己判断でサプリメントに頼るのではなく、医学的診断に基づいた適切な治療法が存在します。勃起不全(ED)や女性の性機能障害(FSD)は、専門家への相談を通じて安全かつ効果的に対処できる医療上の状態です717。
- 消費者は、特にオンラインで販売される製品の誇大広告に注意し、安易な解決策を約束する製品のリスクを理解することが不可欠です。健康上の懸念については、信頼できる医療機関に相談することが最も安全な選択です。
媚薬・精力剤に頼る前に知ってほしいこと
「本当に効く媚薬はあるのか」「ネットの精力剤を飲んでも大丈夫なのか」と不安になりながらも、誰にも相談できずに一人で悩んでいませんか。宣伝では「天然」「ハーブ」「すぐに性欲アップ」といった魅力的な言葉が並ぶ一方で、効果の有無や副作用についてははっきりせず、検索するほど怖くなる方も多いはずです。性欲や勃起、潤いの悩みはとても個人的なテーマだからこそ、「病院に行くべきなのか、それとも市販のサプリで様子を見るべきなのか」と迷ってしまいやすい領域でもあります。
この記事で扱われているように、市場にあふれる多くの媚薬・精力剤は、医学的に十分なエビデンスがあるとは言えず、中にはシルデナフィルなどの医薬品成分が違法に混入された危険な「いわゆる健康食品」も少なくありません。一方で、勃起不全(ED)や女性の性機能障害(FSD)といった状態には、医師の診断に基づいた安全かつ有効な治療法が存在します。まずは、性欲や性機能の悩みを「恥ずかしいこと」ではなく、心と体の健康の一部として正しく捉えることが大切です。全体像を落ち着いて整理したいときは、性的な悩み全般とその対処法を網羅的にまとめた性的健康 完全ガイドも、基礎知識を整える手がかりになります。
そもそも「媚薬が必要だ」と感じる背景には、性欲そのものの低下や、性的な刺激を受けても気分が高まらない、パートナーとの関係性の変化など、さまざまな要因が絡み合っています。特に女性の場合、更年期前後のホルモン変化や心身のストレス、過去の経験などが重なり、「性欲がわかない」「性のことを考える余裕がない」と感じやすくなります。そのような状態を、あたかも「足りない性欲を一時的に押し上げる魔法の薬」で解決しようとすると、本来必要な対処(ホルモンバランスや生活習慣、心のケアなど)が後回しになってしまうこともあります。まずは、年齢やライフステージに伴う変化としての性欲低下について整理している更年期前後の女性の性欲低下を参考に、「なぜ今の自分がこう感じているのか」を落ち着いて振り返ることが、媚薬に飛びつく前の第一歩になります。
次に、性欲だけでなく「体の準備状態」にも目を向けてみましょう。記事でも触れられているように、性的反応は気持ちだけでなく、血流やホルモン、腟や外陰部のうるおいなど、からだの状態に大きく左右されます。十分にリラックスできていない、痛みや乾燥が怖いといった身体的な不安があると、どれだけ媚薬や精力剤を足しても、性行為そのものが「つらいこと」のままになってしまいがちです。とくに性交時の痛みやヒリヒリ感、乾燥感がある場合は、「性欲を高める」よりも先に、局所のうるおい不足やGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)への対策が必要なケースもあります。そのような背景が気になるときは、潤いのトラブルと対処法に焦点を当てたうるおい不足の悩みを抱えるのような情報を手掛かりに、まずは痛みや不快感を減らすケアから始めることが、結果的に「性を楽しめる土台づくり」につながります。
また、「最近元気が出ないから」「年齢的に衰えた気がするから」と、特に理由を深く考えずに精力剤や媚薬に頼ってしまう人も少なくありません。しかし記事が示すように、EDや性欲低下はしばしば生活習慣病や心身のコンディションと結びついており、単なる一時的な「パワー不足」として扱うべきではない場合もあります。特に40代以降の男性では、ストレスや睡眠不足、糖尿病・高血圧などの影響が性機能に現れることがあり、「効きそうなサプリ」を試し続けるよりも、自分の体全体の状態を見直すことが重要です。性欲や勃起の変化を「体からのサイン」と捉え、年齢とともに変化する性のあり方を整理した40代以上の男性向けの情報なども参考にしながら、生活習慣や医療機関でのチェックを含めた「本質的な対策」を検討していきましょう。
さらに、日本では「天然」「ハーブ」「海外直輸入」といった言葉を掲げた製品の中に、シルデナフィルやタダラフィル、その類似体など本来は処方薬であるPDE5阻害薬が未申告で混入されていた事例が、厚生労働省から繰り返し警告されています。心臓病で硝酸薬を服用している人が、こうした製品を知らずに摂取すると、急激な血圧低下など命に関わる事態を招くこともあります。また、性の悩みはサプリメントだけでなく、パートナーとのコミュニケーション不足や長期的なセックスレスなど、人間関係の問題と深く絡み合うことも少なくありません。関係性の変化やセックスレスに心当たりがある場合は、からだだけでなく心やパートナーシップの視点から整理しているセックスレスについての情報も参考にしながら、「薬だけに頼らない解決の方向性」を一緒に考えてみてください。
媚薬や精力剤は、しばしば「自分を簡単に変えてくれる魔法のアイテム」のように語られますが、科学的な視点から見れば、その多くはエビデンスが乏しく、ときに健康を損なうリスクを伴うものです。あなたの性の悩みは、サプリメントの数ではなく、体と心の状態、そして信頼できる情報と専門家のサポートによって、より安全に、より根本的に向き合うことができます。まずは一人で抱え込まず、この記事や関連情報を手掛かりに、「自分の性の健康を守るためにできる一歩」を静かに選び取っていきましょう。
1. 「媚薬」をめぐる言葉の整理:医学的定義と日本の現状
医学論文において、正確な用語の定義は極めて重要です。「媚薬(びやく)」という言葉は、一般的に性欲や性的快感を高めるとされる物質を指しますが、その科学的根拠はしばしば曖昧です。一方で、日本市場で広く使われる「精力剤(せいりょくざい)」は、滋養強壮や活力増進を目的とするサプリメントや健康食品を含む広範な製品群を指し、これらが直接的に性機能へ実証された効果を持つとは限りません1。実際、日本のドラッグストアで女性向けに販売される製品には「媚薬」と明記されたものはほとんどなく、その多くは栄養補助食品やサプリメントのカテゴリーに分類されています3。
これに対し、勃起不全(ED)や女性性機能障害(FSD)といった診断された医学的状態の治療に用いられる医薬品は、明確な薬理作用と厳格な臨床試験に基づいています。例えば、シルデナフィル(バイアグラ)のようなED治療薬は医師の処方箋が必要な医薬品であり、その入手経路や規制は市販の「精力剤」とは根本的に異なります14。この用語の曖昧さは、消費者が自身の悩みを解決しようとする際に混乱を招く一因となっています。特に、性の健康に関する話題の機微性を考慮すると、医療専門家に相談する代わりに、容易に入手できる規制の緩い製品に頼る傾向が生まれる可能性があります1。
日本の歴史的・現代的関心
性機能向上を謳う物質への関心は、歴史を通じて世界的に見られる現象です5。現代の日本におけるこの関心は、伝統的な信念、巧みなマーケティング、そして科学的検証が混在する複雑な様相を呈しています。市場には多種多様な「精力剤」が存在し1、性機能向上を謳う「いわゆる健康食品」に対して厚生労働省が注意喚起を繰り返している事実は6、根強い需要の存在を示唆しています。この背景には、高齢化社会における活力維持への関心78、社会的プレッシャー、そしてインターネットを通じた情報(および誤情報)の氾濫9などが複合的に作用していると考えられます。
2. 媚薬の科学的根拠:有効性と安全性の批判的レビュー
媚薬とされる物質が作用すると主張されるメカニズム(例:テストステロン増加、血流改善)と、科学的に確立された薬理作用との間には、しばしば大きな隔たりがあります。性的反応は、リビドー(性欲)、勃起・潤滑機能、心理的要因などが複雑に関与するプロセスです11。多くの「天然」媚薬は、軽度の血管拡張効果を持つか、特定の栄養素を補給するかもしれませんが、これは直接的かつ強力な媚薬効果とは異なります。市販のサプリメントに見られる「マカエキスにシトルリン&アルギニンをプラス」といった多くの主張1は、一酸化窒素(NO)産生のようなメカニズムを示唆しつつも、実際にその用量や製剤で媚薬効果があるとする質の高い臨床試験データは不足しているのが実情です。
一般的に使用される物質の科学的評価
科学文献を系統的にレビューすると、媚薬として販売される多くの物質のマーケティング上の主張と、その有効性・安全性を支持する実際の臨床的エビデンスとの間に大きな隔たりがあることが一貫して示されています5。このギャップこそが、消費者をリスクに晒す主な要因となっています。
- 高麗人参 (Panax ginseng): 性欲増進やED改善効果が謳われますが、エビデンスは限定的であり、さらなる質の高い研究が必要とされています5。
- マカ (Lepidium meyenii): 一部の小規模研究で性欲改善効果が示唆されていますが、結果は一貫しておらず、決定的なものではありません13。
- ヨヒンビン (Pausinystalia yohimbe): かつて心因性EDに対して処方されていましたが、効果は軽微である一方、副作用が多いため、現在では推奨されていません5。
- その他のハーブ: トンカットアリなど他の多くのハーブも研究されていますが、ほとんどの場合、有効性を確立するにはエビデンスが不十分です13。米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、「勃起不全に対して安全かつ有効であるという明確なエビデンスを持つハーブ製品はない」と結論付けています10。
正当な医学研究の焦点は、「魔法の弾丸」のような媚薬を探すことから、性機能障害の根本原因(ホルモン、血管、神経、心理的問題など)を理解し、治療することへと移行しています。例えば、ED診療ガイドラインは、EDを生活習慣、加齢、心因性因子など特定の病因を持つ医学的状態として診断・治療することに焦点を当てています716。これは、多くの「媚薬」製品の単純化された主張とは著しく対照的です。
安全性、副作用、薬物相互作用のリスク
「天然」という言葉は、必ずしも「安全」を意味しません。媚薬として販売される製品には、無視できないリスクが伴います。
- 成分固有の副作用: ヨヒンビンのように、一部のハーブにはそれ自体に副作用があります5。また、標準化されていない製品の過量摂取は、精神神経学的な副作用のリスクを高める可能性があります13。
- 薬物相互作用: 特に他の疾患で処方薬を服用している場合、ハーブやサプリメントとの相互作用は深刻な懸念となります。例えば、抗凝固薬や降圧薬を服用している人は、予期せぬ相互作用のリスクに晒される可能性があります13。
- 未承認医薬品成分の混入: 日本の消費者にとって最も重大な安全上のリスクは、後述するように、「天然」製品と称するものに強力な合成医薬品やその未承認類似体が違法に混入されている問題です610。
| 物質名(和名・学名) | 主張される媚薬/性機能向上効果 | 有効性に関する科学的エビデンスの要約 | 既知の安全性問題/副作用 | 日本での規制状況 |
|---|---|---|---|---|
| 高麗人参 (Panax ginseng) | 性欲増進、ED改善 | 限定的、さらなる研究が必要5。 | 一般に安全とされるが、不眠、頭痛、消化器症状の可能性。薬物相互作用の可能性13。 | 食品、サプリメント |
| マカ (Lepidium meyenii) | 性欲増進、精力増強 | 限定的、一部研究で性欲改善を示唆するも一貫性なし13。 | 一般に安全とされるが、過量摂取や標準化されていない製品に注意13。 | 食品、サプリメント |
| ヨヒンビン (Pausinystalia yohimbe) | ED改善、性欲増進 | 心因性EDに軽微な効果のみ、副作用のため推奨されず5。 | 不安、頻脈、高血圧、めまい、吐き気など多数。狭心症や腎疾患患者には禁忌5。 | 医薬品(日本では処方箋医薬品として存在したが、現在は供給問題等で使用困難な場合が多い) |
| トンカットアリ (Eurycoma longifolia) | テストステロン増加、性欲増進 | 限定的、一部研究で肯定的な結果もあるが、さらなる大規模研究が必要13。 | 治療用量では比較的安全とされるが、過量摂取に注意13。 | 食品、サプリメント |
| いわゆる「健康食品」中の未申告医薬品成分(例:シルデナフィル、タダラフィルおよびその類似体) | ED改善、勃起力強化(隠蔽された医薬品による) | 混入された医薬品成分による薬理効果。 | 医薬品成分に起因する副作用(頭痛、ほてり、消化不良など)。硝酸薬との併用で重篤な低血圧のリスク4。 | 医薬品成分の未申告混入は違法。厚労省が多数の製品に警告を発出6。 |
3. 日本市場の現状:規制とまん延する危険な製品
日本の性的エンハンサー市場は、「食品」または「健康食品」として分類される製品が大半を占めており、これらは医薬品と比較して有効性や特定の健康効果に関する規制が緩いため、誇張されたマーケティングの温床となりがちです1。この規制のギャップを利用し、オンラインプラットフォームを中心に多種多様な製品が流通しており、中には消費者の健康を脅かす深刻な問題も含まれています。
規制の枠組み:厚生労働省のスタンス
日本では、製品カテゴリーによって規制が大きく異なります。ED治療薬(シルデナフィル、タダラフィル等)のような厚生労働省(MHLW)が承認した医薬品は、医師の監督下で処方される厳格な管理下にあります4。一方で、サプリメント市場は大部分が自己責任の原則に基づいています。MHLWの主な焦点は、「健康食品」における未申告の医薬品混入物がもたらす公衆衛生上の脅威への対処に置かれています。省は、シルデナフィル及びその類似成分が検出された「いわゆる健康食品」について積極的に監視し、製品名を公表して国民に警告を発しています6。これは、MHLWが違法製品に対して断固たる措置を取っていることを示していますが、同時に問題の根深さも物語っています。
最重要課題:「いわゆる健康食品」への医薬品成分の違法混入
「天然成分100%」や「ハーブの力」を謳い文句にしながら、実際には強力な医薬品成分や、安全性が確認されていない未承認の類似体を違法に添加した製品が後を絶ちません。厚生労働省が公表したリストには、シルデナフィル、タダラフィルに加え、チオデナフィル、ホモシルデナフィルといった様々な類似体が検出された製品が多数含まれています6461。
この行為は、消費者を深刻なリスクに晒します。例えば、心臓病のために硝酸薬(ニトログリセリンなど)を服用している人が、そうとは知らずにシルデナフィルを含む製品を摂取すると、血圧が危険なレベルまで急激に低下し、命に関わる事態を招く可能性があります10。これらの不正表示製品は、まさに消費者の信頼を裏切る、極めて悪質なものです。
| 一般的な製品名/種類 | 厚労省警告/報告日 | 検出された混入物 | 表示された原産国 | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| イーリーシン蟻力神 | H15.4.4以降複数回 | シルデナフィル | 中国 | 長期間にわたり問題視 |
| ウェイカワン威哥王 | H16.1.23以降複数回 | シルデナフィル(一部タダラフィルも) | 中国 | 広範な流通 |
| さんべんぼう こうのう三便宝カプセル | H16.2.13以降複数回 | ヒドロキシホモシルデナフィル、シルデナフィル、タダラフィル | 中国 | 健康被害報告あり |
| ETUMAX Royal Honey | H24.11.29 | タダラフィル | マレーシア | 未申告の医薬品成分含有 |
| ビリリティマックスコーヒー | H25.4.26 | チオデナフィル、ホモチオデナフィル、ホモシルデナフィル、シルデナフィル | 不明 | 複数の未申告医薬品成分含有 |
この表は問題の氷山の一角に過ぎません。厚生労働省のウェブサイトでは、これら以外にも多数の製品が公表されており、問題が継続的かつ広範であることを示しています6461。これは、一部の製造・販売業者による高度で持続的な違法ネットワークの存在を示唆しています。
4. 日本の消費者の認識と行動から見える課題
なぜ効果が不確かで、時に危険な製品が消費され続けるのでしょうか。日本の消費者の認識と行動に関する調査から、いくつかの重要な課題が見えてきます。
- 知識不足と情報源の問題: 日本財団の18歳意識調査によると、多くの若者が自身の性的知識が不十分だと感じており、情報源として友人やインターネット、アダルトサイトに頼る傾向があります9。科学的根拠に基づいた信頼できる情報へのアクセスが不足していることが伺えます。
- 専門家への相談へのためらい: 特に性に関する悩みは、恥ずかしさや当惑から専門家への相談をためらう人が少なくありません。ある調査では、30代から性欲の低下を報告した男性の70%以上が、それに対して「何もしない」と回答しています8。また、別の調査では、避妊に関する不安を「誰にも相談しない」と答えた男性が半数以上にのぼりました9。
このような知識不足や相談へのためらいが組み合わさることで、手軽な解決策を約束する「媚薬」や「精力剤」の誇大広告に影響されやすい、脆弱な状況が生まれます。医療機関への相談というハードルを越えずに、オンラインで手軽に購入できる製品が最初の選択肢となり、結果として効果のない、あるいは危険な製品を使用するリスクを高めてしまうのです。
健康に関する注意事項
- 本記事で言及されているいかなるサプリメントや製品も、自己判断で使用を開始する前に、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
- 特に心臓疾患、高血圧、糖尿病などの持病がある方や、他の医薬品を服用中の方は、予期せぬ副作用や薬物相互作用のリスクが高まります。
- インターネット等で販売されている未承認の医薬品や「健康食品」には、表示されていない危険な成分が含まれている可能性があります。安易な購入は絶対に避けてください。
5. 性機能の悩みと安全に向き合うためのステップ
性欲の低下、勃起の変化、性交時の痛みや乾燥感といった症状は、「意志の弱さ」や「年齢のせい」だけで片づけるべきものではなく、医学的に評価できる心身のサインでもあります717。ここでは、媚薬や精力剤に飛びつく前に知っておきたい、安心して一歩を踏み出すための基本的なステップを整理します。
5-1. 受診を考えたいタイミング
次のような場合には、サプリメントを変え続ける前に、一度医療機関で相談することが勧められます。
- 性欲低下や勃起の問題、性交時の痛みが数か月以上続いている、または繰り返し起こっている。
- 症状のために、パートナーとの関係や生活の質(QOL)が明らかに低下していると感じる。
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、うつ症状など、生活習慣病やこころの不調をすでに指摘されている1622。
- 性交時の出血、強い疼痛、急激な症状の変化など、気になる身体症状を伴っている。
EDやFSDは、単に「性の問題」にとどまらず、動脈硬化やホルモンバランス、ストレス・うつ状態など、全身の健康状態と結びついていることが多いとされています1619。気になる症状が続くときに「恥ずかしいから」と受診を先延ばしにすることは、結果的に治療のタイミングを逃すことにもつながりかねません。
5-2. 受診時の流れとよくある検査
「性の悩みを病院で話すのはハードルが高い」と感じる方は少なくありませんが、実際の診察の流れは、落ち着いて話せるよう配慮されていることがほとんどです。一般的には、次のようなステップで進みます71617。
- 問診:症状が始まった時期、頻度、きっかけ、困っている場面、パートナーとの関係、生活習慣(睡眠、飲酒、喫煙、運動)などについて、医師や看護師が丁寧に聞き取ります。
- 身体診察:血圧や脈拍、体重・BMI、必要に応じて外陰部や前立腺の診察、女性の場合は婦人科診察などが行われます。
- 検査:血液検査(血糖、脂質、ホルモン、一部の薬剤の血中濃度など)や、必要に応じて心電図、超音波検査などが行われることがあります。
- 説明と治療方針:原因として考えられる要因と、それに応じた生活習慣の見直し、カウンセリング、薬物療法などの選択肢が説明されます。
治療の目的は、「若いころの状態に完全に戻す」ことだけではなく、本人やパートナーが納得できる形で性のあり方を再構築し、生活の質を高めていくことにあります。医師と相談しながら、自分にとって無理のないゴールを一緒に探していく姿勢が大切です。
5-3. パートナーとのコミュニケーション
媚薬や精力剤を秘密裏に試し続けるよりも、信頼できるパートナーと悩みを共有することが、結果として安心感や満足感につながるケースは少なくありません。とはいえ、「どこから話せばよいのかわからない」という声もよく聞かれます。
- 責める口調ではなく、「最近こう感じていて、不安なんだ」という自分の気持ちから伝える。
- 「あなたのせい」ではなく、「一緒にどうしていきたいか」をテーマに話し合う。
- 必要であれば、カップルで医療機関やカウンセリングを訪れる選択肢も検討する17。
性の悩みは、一人で抱え込むほど視野が狭まり、「強い薬やサプリで何とかしなければ」と感じてしまいがちです。パートナーや専門家と対話の場を持つことは、「薬だけに頼らない」解決の方向性を見つける大きな助けになります。
6. オンライン情報・広告との賢いつき合い方
インターネットやSNS上には、「飲むだけで性欲アップ」「副作用ゼロの天然精力剤」といった魅力的なコピーがあふれています。しかし、その中には科学的根拠が乏しいものや、未承認医薬品成分を隠れて混入した危険な製品も含まれます5610。以下のようなポイントを目安に、広告や口コミを批判的に読み解く視点を持つことが重要です。
- 「副作用ゼロ」「誰にでも効く」「飲むだけで○○%改善」など、過度に断定的な表現が使われていないか。
- 販売者の会社名や連絡先、所在地、返品・返金ポリシーが明確に記載されているか。
- 成分表示が具体的かつ詳細か、用量や注意事項が分かりやすく書かれているか。
- 厚生労働省や公的機関が注意喚起した製品名と似ていないか、あるいはまったく同じではないか616。
海外サイトや個人輸入をうたうページの中には、国内の規制の網をかいくぐる形で、未承認の医薬品成分を含む製品を販売しているケースもあります。価格の安さや「医師の診察なし」「即日発送」といった文言に惹かれたとしても、健康リスクは安くありません。オンラインの情報はあくまで参考にとどめ、最終的な判断は信頼できる医療機関や公的機関の情報を基盤に行うことが、自分の体を守るうえで何よりも大切です。
よくある質問 (FAQ)
本当に効果のある「媚薬」は存在するのですか?
「天然」「ハーブ」と書かれている製品なら安全ですか?
ドラッグストアで売っている精力剤は安全で効果がありますか?
性機能に悩みがある場合、どうすればよいですか?
なぜ日本では医薬品成分が混入した「健康食品」が無くならないのですか?
パートナーに性の悩みをどう伝えればよいですか?
「相手を傷つけてしまうのでは」と不安になり、悩みを伝えられない方も多くいます。その場合は、相手の欠点を指摘するのではなく、「自分がどう感じているか」に焦点を当てることが大切です。
例えば、「最近性のことで少し不安があって、一緒に考えてもらえるとうれしい」といった形で、自分の気持ちと希望をセットで伝えると、対立ではなく協力の雰囲気を作りやすくなります。場合によっては、医療機関やカウンセリングにカップルで相談に行くことも選択肢の一つです17。
オンライン診療や個人輸入でED治療薬を購入しても大丈夫ですか?
結論
媚薬や精力剤をめぐる言説は、希望的観測と商業的利益によって、科学的真実からかけ離れたものになりがちです。本稿で概説したように、市場に出回る多くの製品は、その有効性を裏付ける確固たるエビデンスに欠けるだけでなく、特に未承認の医薬品成分が混入した「いわゆる健康食品」は、消費者の健康に深刻な脅威をもたらします。
医学界、そしてJHO(JapaneseHealth.org)編集部の責務は、こうした誤情報と危険な製品の蔓延に対抗し、科学的根拠に基づいた明確で信頼できる情報を提供することです。性的ウェルビーイングはQOL(生活の質)の重要な要素ですが、その追求は安全性が確保された方法で行われなければなりません。
安易な解決策に飛びつくのではなく、自身の健康状態を正確に把握し、必要であれば専門家の助けを求めること。それこそが、真の意味で健康的な生活を送るための、賢明で責任あるアプローチと言えるでしょう。
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