要点まとめ
- 下垂体腺腫の大部分は良性であり、他の臓器に転移することは極めて稀です。過度に心配する必要はありません。
- 症状は、腫瘍が大きくなることによる「圧迫症状(視野障害など)」と、ホルモンバランスの乱れによる「ホルモン異常症状」の2種類に大別されます。
- 治療法には「薬物療法」「手術療法」「放射線治療」があり、専門家チームが患者さん一人ひとりに最適な方法を選択します。
- プロラクチノーマのように薬で非常に効果的に治療できるタイプもあれば、手術が第一選択となるタイプもあります。
- 日本では、特定の条件下で「指定難病」として医療費助成を受けられる制度があり、経済的負担を軽減できます。
第1部 はじめに – あなたの診断を理解する
1.1. 脳下垂体とは?―からだの調和を司る「マスターグランド」
脳下垂体は、脳の中心部の底、鼻の奥に位置する、豆粒ほどの小さな器官です3。その重さは1グラムにも満たないですが、体全体のホルモンバランスを調整する司令塔の役割を担っており、「マスターグランド(Master Gland)」とも呼ばれています4。この小さな器官は、体の成長、代謝、ストレスへの対応、生殖機能など、生命を維持するための極めて重要な機能をコントロールしています。具体的には、以下のようなホルモンを分泌しています4。
- 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
- 成長ホルモン(GH)
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
- プロラクチン(PRL)
- 性腺刺激ホルモン(LH, FSH)
- 抗利尿ホルモン(ADH)など
これらのホルモンが他の内分泌腺(副腎、甲状腺、性腺など)に働きかけることで、体全体の調和が保たれています。
1.2. 下垂体腺腫とは?―新しい名前「下垂体NET」も知っておこう
下垂体腺腫とは、この脳下垂体にできる異常な細胞の増殖であり、そのほとんどは良性の腫瘍です5。がん(悪性腫瘍)のように他の臓器に転移することは極めて稀です。近年、医学の進歩に伴い、この腫瘍の分類や名称が見直されています。2022年に世界保健機関(WHO)が発表した新しい分類では、「下垂体腺腫」はより正確にその性質を表す「下垂体神経内分泌腫瘍(Pituitary Neuroendocrine Tumor、略してPitNET)」という名称に変更されました67。
この名称変更は、患者さんにとって非常に重要です。「神経内分泌腫瘍」という言葉は、単なる「腺腫」という言葉よりも深刻に聞こえるかもしれず、不安を煽る可能性があります8。しかし、この名称変更は、腫瘍の由来をより正確に分類するためのものであり、ほとんどの患者さんにとって、腫瘍が良性であるという事実や治療方針が変わるわけではありません9。診断書や病理レポートで「PitNET」という言葉を目にしても、過度に心配する必要はありません。これは、あなたの病気がより正確に理解され、分類されている証拠と捉えてください8。
また、下垂体腺腫はその大きさによっても分類されます。
この大きさの違いは、現れる症状の種類や治療方針を決定する上で重要な要素となります。
第2部 下垂体腺腫の種類と症状
2.1. 症状はなぜ起こる?―「圧迫」と「ホルモン異常」の2つの原因
下垂体腺腫の症状は、主に2つのメカニズムによって引き起こされます。「腫瘍による周囲組織への圧迫(Mass Effect)」と、「ホルモン分泌の異常」です110。
- 腫瘍による圧迫(Mass Effect): これは主に、腫瘍が1cm以上に大きくなったマクロアデノーマでみられます。下垂体のすぐ上には、視覚情報を脳に伝える「視神経」が交差する「視交叉(しこうさ)」という重要な部分があります。腫瘍が大きくなってこの視交叉を圧迫すると、特徴的な視力・視野障害が起こります。最も典型的なのは「両耳側半盲(りょうじそくはんもう)」と呼ばれる症状で、両目の外側の視野が欠けて見えにくくなります111。また、頭痛もよく見られる症状の一つです11。
- ホルモン分泌の異常: ホルモン分泌の異常には2つのパターンがあります。一つは、腫瘍自体が特定のホルモンを過剰に作り出す「ホルモン過剰分泌(機能性腺腫)」。もう一つは、大きな腫瘍が正常な下垂体組織を圧迫して壊してしまうことで、必要なホルモンが作られなくなる「下垂体機能低下症」です212。
2.2. ホルモンを産生しない「非機能性腺腫」
非機能性腺腫は、ホルモンを過剰に産生しないタイプの腫瘍です1。そのため、腫瘍が小さいうちは無症状であることがほとんどです。症状が現れるのは、腫瘍がマクロアデノーマにまで大きくなり、視神経を圧迫して視野障害を引き起こしたり11、正常な下垂体組織を圧迫して下垂体機能低下症(疲れやすさ、性欲低下など)を引き起こしたりした場合です2。
2.3. ホルモンを過剰に産生する「機能性腺腫」
機能性腺腫は、特定のホルモンを過剰に分泌することで、様々な全身症状を引き起こします10。代表的なものには以下の種類があります。
- プロラクチノーマ (Prolactinoma): 機能性腺腫の中で最も頻度が高いタイプです1。プロラクチンというホルモンが過剰に分泌されます。女性では月経不順や無月経、不妊、妊娠・授乳と関係のない乳汁分泌(乳汁漏出)などが主な症状です。男性では性欲の低下や勃起不全(ED)などが起こります1。
- 先端巨大症(アクロメガリー) (Acromegaly – GH産生腺腫): 成長ホルモン(GH)が過剰に分泌されることで発症します13。成人で発症すると、手足の指が太くなる、足のサイズが大きくなる、下顎が突き出て顔つきが変わる、鼻や唇が厚くなるなどの特徴的な身体的変化が現れます14。「以前はめていた指輪が入らなくなった」「靴のサイズが大きくなった」といったエピソードで気づかれることもあります1。さらに、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群といった深刻な合併症を引き起こすことが知られています15。
- クッシング病 (Cushing’s Disease – ACTH産生腺腫): 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌され、その結果、副腎からコルチゾールというストレスホルモンが過剰に放出される病気です16。顔が丸くなる(満月様顔貌)、首の後ろや肩に脂肪がつく(バッファローハンプ)、お腹周りに脂肪がつく一方で手足は細い(中心性肥満)といった特徴的な体型変化がみられます。また、皮膚が薄くなる、筋力が低下する、高血圧や糖尿病を発症しやすいなどの症状があります1。
先端巨大症やクッシング病では、身体的な変化が非常にゆっくりと進むため、患者さん自身が気づきにくいことがあります。そのため、なかなかコントロールできない高血圧や糖尿病の精査をしている過程で、その原因として下垂体腺腫が発見されるケースも少なくありません1。これは、診断への道筋が必ずしも脳神経外科から始まるとは限らないことを示しています。かかりつけ医や糖尿病・内分泌の専門医が、あなたの体の全体的な不調から下垂体の異常を疑うことが、診断の第一歩となる場合があるのです。
表1: 下垂体腺腫の種類と主な症状のまとめ
腫瘍の種類 | 産生されるホルモン | 主な症状 | 関連する指定難病 |
---|---|---|---|
非機能性腺腫 | なし | 腫瘍が大きくなることによる症状(頭痛、視野障害)、下垂体機能低下症 | (下垂体機能低下症を合併した場合)下垂体前葉機能低下症(78)17 |
プロラクチノーマ | プロラクチン(PRL) | 女性:無月経、乳汁分泌、不妊 男性:性欲低下、勃起不全 |
下垂体性PRL分泌亢進症(74) |
先端巨大症 | 成長ホルモン(GH) | 手足の肥大、顔貌の変化、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸 | 下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(77) |
クッシング病 | 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) | 中心性肥満、満月様顔貌、高血圧、糖尿病、皮膚が薄くなる | クッシング病(75) |
TSH産生腺腫 | 甲状腺刺激ホルモン(TSH) | 甲状腺機能亢進症の症状(動悸、体重減少、発汗過多) | 下垂体性TSH分泌亢進症(73) |
第3部 診断への道のり – 疑いから確定まで
下垂体腺腫の診断は、いくつかの検査を組み合わせて段階的に行われます。ここでは、そのプロセスを順を追って解説します。
3.1. 診察と問診
診断の第一歩は、医師による詳しい問診と診察です18。どのような症状がいつから始まったのか、過去の病歴、家族歴などを詳しく聞き取ります。ホルモン異常による身体的な変化がないかどうかも注意深く観察します。
3.2. 血液検査と尿検査
血液検査と尿検査は、ホルモンの状態を調べるために不可欠です19。これにより、特定のホルモンが過剰に分泌されていないか、あるいは不足していないかを確認します。例えば、先端巨大症が疑われる場合は血中の成長ホルモン(GH)やインスリン様成長因子-1(IGF-1)を、クッシング病が疑われる場合は血中や尿中のコルチゾール値を測定します。この検査結果によって、腫瘍が機能性か非機能性か、機能性であればどのタイプかを判断することができます。
3.3. 画像診断:MRI検査が最も重要
画像診断、特に造影剤を使用したMRI検査は、下垂体腺腫の診断において最も重要な検査です19。MRIによって、腫瘍の有無、正確な位置、大きさ、そして視神経などの周囲の重要な組織との位置関係を詳細に把握することができます。これにより、治療方針、特に手術の計画を立てる上で極めて重要な情報が得られます。
3.4. 眼科での視野検査
MRI検査で腫瘍が視神経や視交叉に接している、あるいは圧迫していることがわかった場合、眼科での専門的な視野検査が必須となります11。これにより、自覚症状がなくても視野に異常が生じていないかを客観的に評価することができます。これは、手術の必要性を判断するための重要な基準の一つです。
特筆すべきは、他の病気の検査(例えば頭痛の精査など)で偶然に下垂体腫瘍が発見される「偶発腫(インシデンタローマ)」のケースです3。このような場合、たとえ自覚症状が全くなくても、国際的な診療ガイドラインでは、ホルモン異常の有無を調べるための完全な評価(問診、診察、血液検査)を行うことが強く推奨されています182021。これは、隠れたホルモンの問題がないかを確認し、将来の比較のための基準値を設定するという、現代医療の積極的な(予防的な)アプローチを反映しています22。「偶然見つかっただけで症状はないから大丈夫」と自己判断せず、専門医によるしっかりとした評価を受けることが重要です。
第4部 包括的な治療戦略
4.1. 治療方針の決め方―あなたに最適な治療法とは
下垂体腺腫の治療には、「薬物療法」「手術療法」「放射線治療」という3つの主要な柱があります。どの治療法を選択するかは、画一的に決まるものではありません。腫瘍の種類(機能性か非機能性か)、大きさ、症状の有無、患者さん自身の年齢や全身状態、そして将来の妊娠希望の有無などを総合的に考慮して、一人ひとりに最適な治療計画が立てられます1923。
4.2. 薬物療法
薬物療法は、特に特定の機能性腺腫に対して非常に有効です。
- プロラクチノーマの場合: ドパミン作動薬(カベルゴリンやブロモクリプチンなど)の内服が第一選択の治療となります。この薬は、過剰なプロラクチンの分泌を抑えるだけでなく、多くの場合で腫瘍を小さくする効果も期待できます1。
- 先端巨大症やクッシング病の場合: 手術で腫瘍を完全に取りきれなかった場合や、手術後のホルモン値のコントロールを目的として、薬物療法が併用されることがあります4。
これらの薬物治療は、主に内分泌内科医が専門的に管理し、多職種チームの一員として治療を支えます24。
4.3. 手術療法:経鼻手術が標準
手術は、多くの下垂体腺腫における中心的な治療法です。現在、標準的な手術法は「経蝶形骨洞手術(けいちょうけいこつどうしゅじゅつ)」と呼ばれる、鼻の穴から内視鏡や顕微鏡を使って行う低侵襲手術です1。この方法では、頭を大きく切開することなく腫瘍に到達できるため、患者さんの体への負担が少なく、回復も早いという利点があります。
手術が推奨されるのは、主に以下のような場合です。
- プロラクチノーマ以外の機能性腺腫
- 視力・視野障害などの圧迫症状を引き起こしている非機能性腺腫19
経験豊富な脳神経外科医が手術を行うことで、高い確率でホルモン値の正常化や症状の改善が期待できます19。例えば、慶應義塾大学病院では年間70例程度もの経鼻内視鏡手術を行っており、これは国内でも有数の治療実績です1。
4.4. 放射線治療
放射線治療は、主に手術で取りきれなかった腫瘍や、手術後に再発した腫瘍に対して行われます。また、何らかの理由で手術が困難な場合にも選択肢となります19。近年では、ガンマナイフなどに代表される「定位放射線治療(Stereotactic Radiosurgery: SRS)」という技術が進歩しています。これは、周囲の正常な組織への影響を最小限に抑えながら、腫瘍にピンポイントで高線量の放射線を照射する治療法です。2024年の最新のレビューでも、その有効性と安全性が報告されており2526、治療の選択肢を広げています27。
4.5. 経過観察という選択肢
小さく、無症状で、ホルモンを産生していない非機能性腺腫(偶発腫)の場合、必ずしもすぐに治療が必要とは限りません。「経過観察(Wait-and-See)」といって、定期的にMRI検査で腫瘍の大きさをチェックしながら様子を見るというのも、安全で一般的な選択肢の一つです1。
表2: 下垂体腺腫の主な治療法の概要
治療法 | 主な目的 | 主な対象 | ポイント |
---|---|---|---|
薬物療法 | ホルモン分泌の正常化、腫瘍の縮小 | プロラクチノーマ(第一選択)、先端巨大症、クッシング病など | 内服薬や注射薬が中心。内分泌内科医による専門的な管理が必要。 |
手術療法(経鼻手術) | 腫瘍の摘出、圧迫症状の改善、ホルモン値の正常化 | 機能性腺腫(プロラクチノーマ以外)、症状のある非機能性腺腫 | 低侵襲で回復が早い。経験豊富な専門医・施設での治療が重要。 |
放射線治療 | 残存・再発腫瘍の増大抑制 | 手術で取りきれない腫瘍、再発腫瘍、手術が困難な場合 | 定位放射線治療など、高精度な技術が利用可能。効果発現には時間がかかることがある。 |
経過観察 | 治療介入なしでのモニタリング | 小さく無症状の非機能性腺腫(偶発腫) | 定期的なMRI検査とホルモン検査が必須。 |
第5部 日本の医療制度 – 患者さんを支える仕組み
5.1. 日本の診療ガイドラインに基づいた治療
日本で下垂体腺腫の治療を受ける際、その診断や治療方針は、国内のトップレベルの学会が作成した「診療ガイドライン」に基づいています。これにより、全国どこでも質の高い標準的な医療が受けられる体制が整えられています。主に参照されるのは、日本内分泌学会が中心となって作成した「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」2829や、日本脳神経外科学会と日本病理学会が編集した「臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第5版」63031です。これらのガイドラインに沿った治療が行われることは、患者さんにとって大きな安心材料となります。
5.2. 医療費助成が受けられる「指定難病」制度について
下垂体腺腫に関連する疾患の治療は、長期間にわたることがあり、医療費の負担が心配になる方も多いでしょう。日本では、このような場合に経済的負担を軽減するための公的な支援制度として「指定難病医療費助成制度」があります32。ここで非常に重要なのは、助成の対象となるのは「下垂体腺腫」という腫瘍そのものではなく、その腫瘍が引き起こすホルモン異常の状態であるという点です。具体的には、クッシング病、先端巨大症、あるいは腫瘍によって引き起こされた下垂体前葉機能低下症などが指定難病として定められています17。
この違いを理解することは、制度を利用する上で不可欠です。例えば、症状のない小さな非機能性腺腫の患者さんは対象外ですが、ホルモン異常を引き起こしている小さな機能性腺腫の患者さんは対象となる可能性があります。ご自身の状態が助成の対象となるかどうかは、主治医が判断します。この制度の認定を受けると、医療費の自己負担額に上限が設けられ、負担が大幅に軽減されます33。申請手続きは、一般的に以下の流れで行います。
- 都道府県から指定された「難病指定医」に診断を受け、申請に必要な「臨床調査個人票」という書類を作成してもらう。
- その書類とその他の必要書類(住民票、健康保険証の写しなど)を、お住まいの地域を管轄する保健所などの窓口に提出する34。
詳しい手続きについては、主治医や病院の相談窓口、またはお住まいの自治体の保健所にお問い合わせください。
表3: 下垂体腺腫に関連する日本の指定難病
指定難病名 | 指定難病番号 | 関連する下垂体腺腫 |
---|---|---|
クッシング病 | 75 | ACTH産生腺腫 |
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(先端巨大症) | 77 | GH産生腺腫 |
下垂体性PRL分泌亢進症 | 74 | プロラクチノーマ |
下垂体性TSH分泌亢進症 | 73 | TSH産生腺腫 |
下垂体前葉機能低下症 | 78 | 正常な下垂体組織を圧迫する大きな腫瘍(主に非機能性腺腫) |
第6部 治療後の生活 – フォローアップと長期的な見通し
6.1. 定期的な検査の重要性
下垂体腺腫の治療は、退院や薬物療法の開始で終わりではありません。治療後も、腫瘍が再発していないか、ホルモンバランスが適切に保たれているかを確認するために、長期的なフォローアップが不可欠です。一般的には、定期的にMRI検査と血液検査によるホルモン値のチェックを行います11。検査の頻度は、治療後の経過や腫瘍の種類によって異なりますが、最初は6ヶ月から1年に1回程度、状態が安定していれば徐々に間隔をあけていくことが多いです11。この定期的な検査を継続することが、長期的な健康を維持する上で非常に重要です。
6.2. 長期的な見通しと生活の質
良性の下垂体腺腫の大部分は、適切な治療によって良好な経過(予後)が期待できます2。しかし、腫瘍や治療の影響で、下垂体の正常な機能が損なわれてしまうことがあります。その場合、不足したホルモンを補うための「ホルモン補充療法」が生涯にわたって必要になることがあります3。これは、例えば甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンなどを薬として内服するもので、適切に管理すれば健康な人と変わらない生活を送ることが可能です。ごく稀に、標準的な治療に抵抗性を示す「難治性・悪性下垂体腺腫」も存在します。これらの腫瘍は予後がより深刻であり、テモゾロミドという抗がん剤など、特殊な治療が必要となる場合があります353637。ただし、これは下垂体腺腫全体から見れば非常に稀なケースです。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 下垂体腺腫は「がん」ですか? 転移しますか?
A1: いいえ、下垂体腺腫のほとんどは「良性」の腫瘍であり、がん(悪性腫瘍)とは異なります5。そのため、体の他の部分に転移することは極めて稀です。新しい分類名である「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」という言葉に不安を感じるかもしれませんが、これは腫瘍の性質がより正確に分類されただけであり、大部分が良性であるという事実は変わりません。
Q2: 症状がない「偶発腫」が見つかりました。必ず治療は必要ですか?
Q3: 治療法はどのように決まるのですか?
Q4: 治療後の生活で気をつけることはありますか?
結論
下垂体腺腫という診断は、大きな挑戦かもしれません。しかし、この記事で解説したように、この病気は多くの側面が解明されており、効果的な治療法が確立されています。現代の多職種によるチーム医療と、患者さん自身の病気への深い理解があれば、ほとんどの方がこの病気を乗り越え、充実した生活を送ることが可能です2。最も大切なのは、あなたを担当する医療チームを信頼し、良好なパートナーシップを築くことです。疑問や不安があれば遠慮なく質問し、納得して治療に臨んでください。あなたの前向きな姿勢が、最良の治療結果へとつながります。
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