はじめに
腰まわりや背中に痛みを感じたとき、それが腎臓からくる痛み(いわゆる「腎臓結石」に伴う痛み)なのか、単なる腰痛なのかを見極めるのは意外に難しい場合があります。特に腎臓のあたりにできた結石(以下、「結石」といいます)が動いたり尿路をふさいだりすると、激しい痛みをともないます。一方、筋肉や骨格系、神経などに起因する腰痛は日本国内でも非常に多くの方が経験し得る症状です。痛みの原因を的確に把握し、必要に応じて早期の治療や対策を講じることは、より深刻な合併症を防ぐためにも大切です。本記事では「腎臓結石による痛みはどのあたりに出やすいのか?」を中心に、腰痛との違いや症状の特徴、治療法などを分かりやすく解説します。
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専門家への相談
本稿では、腎臓結石や腰痛に関する医学的情報を取り上げていますが、最終的な診断や治療方法の決定には専門医の評価が欠かせません。本記事で引用する情報は信頼できる医療機関や研究で示された知見をもとにまとめていますが、実際の受診や治療計画は、必ず主治医や泌尿器科・整形外科などの専門医にご相談ください。なお、本記事には医師の監修情報として、内科・内科総合診療を行う「Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh」によるアドバイスが含まれています(この記事のオリジナル情報より)。ただし、具体的な病状や治療法に関しては、読者の方が直接医師の診察を受けることが不可欠です。
腎臓結石による痛みとは
腎臓は血液をろ過して老廃物や毒素を尿として体外に排出する大切な臓器です。しかし、カルシウム、シュウ酸塩、リン酸などの成分が過剰に蓄積すると結晶化を起こし、結石が形成されることがあります。結石は大きさによって症状が異なり、ごく小さい場合は尿とともに自然に排出されて痛みを感じないこともあります。ところが、ある程度の大きさになり尿路を塞いだり刺激したりすると、激しい「疝痛(せんつう)」と呼ばれる鋭い痛みが出ることがあります。
腎臓結石はどこが痛むのか
結石による痛みは、腰の下部から肋骨のあたりにかけて、背面のやや側面寄りに生じる傾向があります。多くの場合、左右どちらか一方の腎臓に結石があると、その側だけに痛みを感じやすいです。痛みの出方には個人差がありますが、以下のような部位に広がることがあります。
- 脇腹から背中下部(肋骨下付近)
- 下腹部や鼠径部(足のつけ根付近)
- 太ももの内側
結石の位置や大きさ、動きによっては、痛みがあちこちに飛ぶように感じることも特徴的です。
痛みの強さと特徴
結石の大きさが5mm以下程度の小さな場合は、尿と一緒に自然に排出されることがあり、大きな痛みを起こさないこともあります。しかし、5mmを超えるような結石になると、結石が尿管内を移動する際に強く擦れて痛みが誘発されます。こうした痛みは突然現れ、「じっとしていても全くやわらがない」ほどの激痛になる例も少なくありません。
- 痛みの継続時間:短時間で治まるケースもあれば、長時間断続的に続くこともあります。
- 痛みの性質:ズキズキするのではなく、えぐられるような鋭い痛みが多く、「休んでもおさまらない」あるいは「波があるがまた強まる」などの特徴があります。
- 休んでも軽減しにくい:筋肉や骨に由来する痛みは休息で多少和らぐことがありますが、結石の場合は休んでもあまり関係なく痛みが続くことが多いです。
腎臓結石の痛みに伴うその他の症状
痛み以外にも、結石によって以下のような症状を認めることがあります。
- 尿が白濁している、あるいは血が混じる
- 排尿時に痛みを感じる
- 頻尿(尿意が近い、何度もトイレに行きたくなる)
- 排尿しようとしても出ない、または少量しか出ない
- 尿に強いにおいがある
- 吐き気や嘔吐
- 発熱や悪寒
- めまい
- 異常な疲労感
発熱をともなう場合や血尿がひどい場合には、腎盂腎炎(腎臓や尿路系での感染症)を合併している可能性もあり、早めの受診が推奨されます。
近年の研究による関連情報
結石の発症リスクとしては、水分摂取量の不足や食事内容(塩分や動物性タンパク質の過剰摂取など)、肥満、代謝異常が指摘されています。2022年にアメリカの医学雑誌「American Journal of Kidney Diseases」で公表された研究では(Chewcharat Aら, 2022, 79巻2号, 219-227.e1, doi:10.1053/j.ajkd.2021.06.021)、体重管理が結石発症のリスク低減に有効であることが示され、特に高BMI(肥満)の方に対して、適切な食事と運動指導が重要であると報告されました。この知見は日本人にも当てはまる可能性が高く、水分補給を含むライフスタイルの見直しが結石予防に寄与すると考えられています。
腰痛とは
一方で「腰痛」は日本国内でも非常に一般的です。筋肉や靱帯、椎間板、神経、骨など、さまざまな要因が絡んで起こる痛みを総称して腰痛と呼びます。急性のぎっくり腰から慢性的な腰部の違和感まで症状は多岐にわたり、程度も個人差があります。
腰痛の位置と特徴
腰痛は背中全体や腰の中央部、あるいは広範囲にわたって起きることがありますが、特に「腰椎(ようつい)」と呼ばれる腰の骨周辺に集中しがちです。腎臓結石との大きな違いとして、左右いずれかに偏る痛みというよりも、腰の中央〜下部にかけて痛みが広がることが多いと言われています。
- 痛みの強さ:日常動作や姿勢の変化で強まったり、和らいだりします。
- 連動する部位:神経根が圧迫されている場合、足やお尻にしびれや痛みが広がることもあります。
- 原因の多様性:椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、筋肉の炎症や過緊張、骨粗しょう症など、背景には多くの病因が存在します。
一般的な腰痛は安静にすることで痛みが軽減し、温めたり湿布を貼ったりすると楽になるケースが多いです。しかし、結石に由来する痛みは体位を変えても改善しにくく、激痛となって現れることが少なくありません。
腰痛に伴う症状
腰痛に関連して、次のような症状がみられることがあります。
- 背骨に沿ってズキズキ、あるいは重だるい不快感
- 首や肩にまで痛みやこわばりが波及する
- 長時間立ち続ける、もしくは歩行時に痛みが増す
- 筋肉のけいれんにより姿勢が取りづらくなる
- 足やお尻への放散痛、しびれ、感覚異常
- 排尿・排便のコントロールに支障をきたす(重症例)
- 下痢や便秘など胃腸機能にも影響する場合がある
腰痛に関する近年のガイドライン
2022年に欧州の脊椎関連学術誌「European Spine Journal」にて公表された総説(Oliveira CBら, 31巻8号, 1775-1786, doi:10.1007/s00586-022-07108-x)では、腰痛に関するプライマリケアでの臨床ガイドラインが再確認されました。日本国内でも運動療法や生活習慣の見直しを基盤としつつ、痛み止めの適切な使用や身体活動量の管理が推奨されています。特に慢性的な腰痛では、ストレスや心理社会的要因の影響も無視できないとされ、包括的なアプローチが推奨されています。
腎臓結石の痛みと腰痛の見分け方
両者を見分けるポイントとしては、以下が挙げられます。
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痛みの部位
- 結石:腰のやや上部(肋骨下あたり)の片側、または脇腹から背中にかけて。
- 腰痛:腰椎部分、背骨の中央付近が多く、左右差よりも広範囲か中央部が中心。
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痛みの性質
- 結石:休んでも緩和しづらい、突発的に激痛が起こりやすい。
- 腰痛:動作や姿勢で痛みの強さが変化しやすく、安静にすると和らぐことが多い。
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随伴症状
- 結石:血尿、頻尿、排尿困難、吐き気、発熱(感染を伴う場合)など。
- 腰痛:しびれや筋力低下(神経圧迫時)、姿勢や歩行の困難、筋性けいれんなど。
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痛みの広がり方
- 結石:下腹部や鼠径部まで放散することが多く、太ももの内側に痛みが及ぶことも。
- 腰痛:お尻や下肢(太もも〜足先)にかけての放散痛、しびれを伴うことがあるが、尿路症状はほとんどない。
こうした特徴を踏まえ、「どちらかわからない強い痛みが続く」「血尿などの異常がみられる」「悪寒や高熱を伴う」などの場合は、放置せずに医療機関を受診する必要があります。
受診のタイミング
腰痛だと思って放置していたら実は結石による痛みだった、あるいはその逆といったケースもあり得ます。日本では腰痛で困った際に整形外科を受診する方が多いですが、結石が疑われる症状(排尿異常や血尿など)があるなら、泌尿器科の診断が不可欠です。
- 腰痛対策をしても改善しない:温めても冷やしても症状が緩和しない、姿勢を変えても痛みが続くようなら結石を疑う余地があります。
- 血尿やにごった尿が出る:肉眼的に血が混じっている、あるいは尿のにおいが極端に強い場合は泌尿器トラブルの可能性が高まります。
- 排尿痛や頻尿:尿道が刺激されると排尿時の痛みや回数の増加を引き起こすことがあります。
- 発熱や悪寒:感染を伴う場合には急を要するケースもあるため、早めの医療機関受診が望まれます。
腎臓結石の治療法
結石の治療は大きく分けると「待機療法(自然排出を促す)」「体外衝撃波結石破砕術(いわゆるESWL)」「内視鏡的治療」「開腹あるいは腹腔鏡手術」などがあります。
小さな結石(5mm以下程度)の場合
- 水分摂取:1日2〜3リットル程度の水分を摂ることで、尿量を増やして結石を押し流す助けにします。
- 鎮痛薬:痛みがある場合には、市販の痛み止め(例:イブプロフェン、ナプロキセンなど)を使用することもあります。
定期的な検査で結石が大きくなっていないかを確認し、自然排出を待つケースが多いです。
大きな結石(5mm以上)の場合
結石が大きいと自然排出が難しく、尿管や腎臓を傷つけたり塞いでしまうリスクがあるため、以下のような治療が選択肢となります。
- 体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
衝撃波を体外から当てて結石を砕く方法です。砕かれた小さな破片は尿とともに体外に排出されます。侵襲が比較的少なく、外来で行われることもあります。 - 内視鏡的治療(経尿道的結石除去術など)
尿道から内視鏡を挿入し、直接結石を捕捉したりレーザーで砕いたりして取り除く方法です。結石が尿管内にある場合などに適用されやすいです。 - 外科手術(開腹または腹腔鏡)
非常に大きい結石や、ほかの方法では対処できない位置にある場合に行われます。日本では、近年は腹腔鏡技術の発展により侵襲を抑えた手術も選択肢に入ってきています。 - 副甲状腺手術
副甲状腺機能亢進症などが原因でカルシウム代謝に異常がある場合は、腺腫の切除が必要になるケースがあります。
結石の原因となる基礎疾患がある場合、そちらの治療も同時に進めることで再発リスクを下げられます。
腰痛の治療法
腰痛は、原因と重症度により対処法が異なります。軽度のぎっくり腰や一時的な筋肉痛であれば、次のような対応で症状が緩和することが多いです。
- 温熱療法・冷却療法:急性期には冷やす方がよい場合もあり、慢性期には温めると血流が促進されて筋肉のこわばりが緩和されます。
- 一般的な鎮痛薬・消炎鎮痛薬:NSAIDs(例:イブプロフェン、ナプロキセン)を一定期間使用することで痛みと炎症を抑えられます。
- 生活習慣の改善:姿勢の見直し、適度な運動、体重管理などが重要です。
症状が強い場合や長引く場合は、以下のような治療が検討されます。
- 筋弛緩薬や塗布タイプの鎮痛薬:局所的な痛みに対して有効。
- 神経ブロック注射:局所麻酔薬やステロイド薬を患部近くに注射し、痛みの信号を遮断します。
- リハビリテーション・理学療法:専門家の指導のもとで腰や腹筋を強化し、姿勢や動作を改善します。
- 手術:椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、神経への圧迫が重症の場合には外科的処置が必要になることがあります。
日常生活でのケアと再発予防
腎臓結石に対する予防
- 十分な水分摂取:1日に2リットル以上の摂取を心がけ、尿量を増やすことで結石の形成を抑えられます。
- 食事バランス:塩分や動物性たんぱく質、シュウ酸を多く含む食品(ホウレンソウなど)の過剰摂取に注意し、野菜や果物をバランスよく摂ることが推奨されます。
- 定期的な検査:過去に結石を経験した方は定期的な尿検査や画像検査(超音波、CTなど)で早期発見を心がけます。
- 適切な体重管理:肥満は再発リスクを高める要因のひとつとされています。
腰痛に対する予防
- ストレッチや軽めの運動:背筋や腹筋を鍛え、骨盤や腰椎周辺の筋肉バランスを整えることが大切です。
- 正しい姿勢・適切な荷物の持ち上げ方:重い物を持つときは腰でなく膝を曲げ、背筋を伸ばして持ち上げるなど、姿勢に気を付けましょう。
- 長時間同じ姿勢を避ける:デスクワーク中でも1時間に1回は立ち上がり、軽いストレッチや歩行をするなど、血流を滞らせない工夫が必要です。
- 適度な運動習慣:ウォーキングやスイミングなど無理のない運動を取り入れ、筋肉の柔軟性と耐久力を維持します。
まとめ
腎臓結石による痛みは、主に腰のやや上部(肋骨付近)の片側に出やすく、休んでも和らぎにくい鋭い痛みが特徴的です。一方、腰痛は腰椎付近を中心とした範囲が広い痛みで、動作や姿勢によって症状が変化することが多いのが大きな違いといえます。また、血尿、排尿困難、発熱などが伴う場合は腎臓や尿管に問題がある可能性が高く、放置すると重篤化するリスクがあります。
結石が原因であれば、大きさによっては自然排出を期待することも可能ですが、5mm以上になると体外衝撃波結石破砕術や内視鏡治療などの医療的処置が必要になるケースも少なくありません。腰痛の場合は、姿勢の改善や運動療法が効果的なことも多く、慢性化しないよう早めに対策することが望まれます。いずれにしても原因を見極め、症状が続く・悪化する場合は医療機関を受診することが大切です。
こうした情報に加えて、最近では腎臓結石や腰痛の再発を防ぐには水分補給や食事制限、体重管理など総合的なライフスタイル改善が必要だと示す研究結果も報告されています。日本でも食習慣や日常の姿勢、運動不足などが影響するため、自分の生活習慣を見直すことは結石・腰痛双方の予防に有効だと考えられます。
参考文献
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- Oliveira CB, et al. “Clinical practice guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care: an updated overview,” European Spine Journal. 2022;31(8):1775-1786. doi:10.1007/s00586-022-07108-x
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