血圧130/60 mmHgは高い?低い?医師が教えるその意味と具体的な対策
心血管疾患

血圧130/60 mmHgは高い?低い?医師が教えるその意味と具体的な対策

健康診断や家庭での血圧測定で「130/60 mmHg」という数値が出たとき、多くの方が「これは高いのだろうか、それとも低いのだろうか?」と疑問に思われるかもしれません1。上の血圧(収縮期血圧)が130 mmHgというのは少し高めに感じられる一方、下の血圧(拡張期血圧)が60 mmHgというのは正常か、むしろ低めにも見えます。この記事では、循環器専門医の視点から、血圧130/60 mmHgが医学的にどのような意味を持つのか、そしてどのような点に注意し、どう対策すべきかを、日本の最新の知見と国際的なガイドラインを踏まえて詳しく解説します。特に、この血圧パターンで見逃されがちな「脈圧」の重要性や、「単独収縮期高血圧(ISH)」との関連についても掘り下げていきます。ご自身の血圧値を正しく理解し、将来の健康を守るための一歩としましょう。

要点まとめ

  • 日本の基準では「高値血圧」:血圧130/60 mmHgは、日本高血圧学会の基準で「高値血圧」に分類されます2。これは「高血圧症」ではありませんが、正常よりも血圧が高く、注意が必要な状態です。
  • 「脈圧」の開大が重要なサイン:収縮期血圧(130)と拡張期血圧(60)の差である「脈圧」は70 mmHgとなり、正常範囲(40-60 mmHg)を超えて開大しています。これは動脈硬化の進行を示唆する可能性があり、心血管疾患の独立したリスク因子です3
  • 単独収縮期高血圧(ISH)との関連:この血圧パターンは、収縮期血圧だけが高くなる「単独収縮期高血圧(ISH)」、またはその前段階の可能性があります4。ISHは特に高齢者で多く見られますが、日本の研究では若年・中年層でも心血管死のリスクを大幅に高めることが示されています5
  • 生活習慣の改善が鍵:この血圧値を指摘された場合、放置せずに医師に相談し、家庭血圧の測定を習慣化することが重要です。同時に、日本食に合わせた減塩6、運動、適正体重の維持、禁煙、節酒などの生活習慣改善に早期から取り組むことが、将来のリスクを低減します7

1. 血圧の基本:収縮期血圧・拡張期血圧とは?

血圧は、心臓が血液を全身に送り出す際に血管の壁にかかる圧力のことです。血圧計で測定される数値は、主に二つの値で示されます2

  • 収縮期血圧(最高血圧/上の血圧): 心臓がギュッと収縮して血液を動脈に送り出したときの、血管にかかる最も高い圧力です。
  • 拡張期血圧(最低血圧/下の血圧): 心臓が拡張して血液をため込んでいるとき(心臓がリラックスしているとき)の、血管にかかる最も低い圧力です。

これらの数値は、健康状態を把握するための重要な指標となります。どちらか一方でも正常範囲から外れていれば、健康上の問題を示唆している可能性があります。

2. 血圧130/60 mmHgは、日本の基準でどう判断される?

日本で最も広く参照されているのは、日本高血圧学会(JSH)が発行する「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH 2019)です2。このガイドラインに基づくと、血圧130/60 mmHgは以下のように分類されます。

  • 収縮期血圧130 mmHg: 「高値血圧」の範囲(130~139 mmHg)に該当します。
  • 拡張期血圧60 mmHg: 「正常血圧」の範囲(80 mmHg未満)に該当します。

JSH 2019では、収縮期血圧と拡張期血圧のどちらか一方が高い基準に該当する場合、その高い方の分類が適用されます。したがって、血圧130/60 mmHgは、収縮期血圧が130 mmHgであることから「高値血圧」と判断されます2

「高値血圧」は、直ちに「高血圧症」(診察室血圧で140/90 mmHg以上で診断)と診断されるわけではありませんが、正常血圧(120/80 mmHg未満)よりも血圧が高い状態であり、将来的に高血圧症へ移行するリスクが高い、または既に心血管疾患のリスクが上昇し始めている可能性がある「要注意」な状態とされています。

健康に関する注意事項

  • 【重要】2024年の高血圧診断基準に関する誤情報について:2024年4月に日本高血圧学会の診断基準が変更されたという情報が一部で見られましたが、これは誤解です。高血圧の診断基準(診察室血圧140/90 mmHg以上)は変更されていません8。この誤情報は、主に特定健診における受診勧奨の基準値運用に関する変更が原因で広まったものです。正しい情報に基づいてご自身の血圧を評価することが大切です。

3. 「単独収縮期高血圧(ISH)」とは?130/60 mmHgとの関連性

血圧130/60 mmHgというパターン、すなわち収縮期血圧が比較的高く、拡張期血圧が正常または低いという状態は、「単独収縮期高血圧(Isolated Systolic Hypertension: ISH、日本では「(孤立性)収縮期高血圧」とも呼ばれる)」という病態との関連で考える必要があります4

ISHの定義と特徴

単独収縮期高血圧(ISH)は、一般的に収縮期血圧が140 mmHg以上であり、かつ拡張期血圧が90 mmHg未満の状態と定義されます4。血圧130/60 mmHgは、収縮期血圧が140 mmHgに達していないため、厳密な定義ではISHに該当しません。

しかし、収縮期血圧が130 mmHg台で拡張期血圧が低い場合(例えば60 mmHg)は、脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)が70 mmHg (130−60=70) と大きくなります。このような脈圧の開大は、ISHの重要な特徴の一つである動脈の硬化(弾力性の低下)を示唆している可能性があります3。つまり、130/60 mmHgは「ISHそのもの」ではないものの、「ISHに近い状態」あるいは「ISHの前段階」として捉え、注意深く経過を見る必要があるかもしれません。

なぜISHになるの?主な原因

ISHの最も一般的な原因は、加齢に伴う動脈の硬化(動脈スティフネスの増大)です7。特に大動脈などの太い血管が弾力性を失うと、心臓から血液が送り出された際に血管が十分に広がることができず、収縮期血圧が上昇します。一方で、拡張期には血液が末梢血管へ急速に流れ込むため、拡張期血圧はあまり上昇しないか、むしろ低下することがあり、結果として脈圧が大きくなります。その他、ISHのリスクを高める要因としては、以下のようなものが挙げられます9

  • 食塩の過剰摂取
  • 肥満
  • 運動不足
  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病
  • 遺伝的要因・家族歴10

まれに貧血、甲状腺機能亢進症、大動脈弁閉鎖不全症などの基礎疾患が原因となることもあります10

ISHはどんな人に多い?年齢と有病率

ISHは、一般的に高齢者で多く見られる病態です7。60歳以上の約30%がISHを経験するというデータもあります7

健康に関する注意事項

  • 【特に注意!】若年~中年層でもISHのリスクは無視できない!日本のデータが示す警告:従来、ISHは主に高齢者の問題と考えられてきましたが、近年の日本の研究により、若年層や中年層においてもISHが心血管疾患の重要なリスク因子となることが明らかになってきました。代表的な研究として「NIPPON DATA80」があります。この研究では、30~49歳の日本人成人において、ISH(収縮期血圧140 mmHg以上、拡張期血圧90 mmHg未満)の有病率は8.1%でしたが、このISH群は正常血圧群と比較して、29年間の追跡で心血管疾患による死亡リスクが4.10倍も高かったのです5。また、日系アメリカ人男性を対象とした研究では、ISHは中年男性(45~54歳)において、高齢男性よりも脳卒中リスクに対する影響が大きいことが示唆されています11。これは、若年者のISHでは心拍出量の増加など、高齢者とは異なるメカニズムが関与している可能性を示しています。これらのデータは、血圧130/60 mmHgのような収縮期血圧が高めで脈圧が広い状態が若年~中年層で見られた場合、将来的なISHへの移行や心血管リスクを念頭に、早期からの対策が重要であることを強く示唆しています。

ISHの症状と放置する危険性

ISHは、他のタイプの高血圧と同様に、多くの場合、自覚症状がありません7。そのため「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれ、気づかないうちに進行し、重大な合併症を引き起こす可能性があります。もし症状が現れるとすれば、頭痛、めまい、動悸、息切れ、視力のかすみなどが考えられますが、これらはISHに特有のものではありません7

ISHを未治療のまま放置すると、以下のような深刻な病気のリスクが著しく高まります。

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血)3
  • 心疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全)3
  • 大動脈瘤10
  • 慢性腎臓病(CKD)10
  • 視力障害(高血圧性網膜症、眼底出血など)10

日本の大迫研究(Ohasama study)では、家庭血圧で評価されたISHおよび脈圧の増大が、心血管死亡リスクの増加と関連していることが明らかにされています12

4. 世界の基準ではどう?国際的な高血圧ガイドラインとの比較

日本の高血圧治療ガイドライン(JSH 2019)では130/60 mmHgは「高値血圧」とされますが、国際的な主要ガイドラインではより厳しい見方がされる場合があります。各ガイドラインの位置づけを比較してみましょう。

ガイドライン (発行年) 130/60 mmHgの血圧分類 一般的な高血圧の診断基準 (収縮期/拡張期) 単独収縮期高血圧(ISH)の定義 (収縮期/拡張期)
日本高血圧学会 (JSH) 20192 高値血圧 (収縮期血圧に基づく) ≥140 mmHg / ≥90 mmHg ≥140 mmHg / <90 mmHg
ACC/AHA (米国) 201713 ステージ1高血圧 ≥130 mmHg / ≥80 mmHg (明確な定義はSBP ≥130でDBP <80を含むが、伝統的にはSBP ≥140 / DBP <90も参照される)
ESC (欧州) 202414 上昇血圧 (Elevated BP) ≥140 mmHg / ≥90 mmHg ≥140 mmHg / <90 mmHg (2018 ESH/ESC参照15)
WHO (世界保健機関) 202116 既存CVDあれば治療強く推奨。高リスク/DM/CKDあれば治療提案。低リスクなら生活習慣改善。 ≥140 mmHg / ≥90 mmHg (薬物治療開始の閾値としてISHを考慮)

このように、米国のACC/AHAガイドラインでは、130/80 mmHg以上を高血圧と定義しており、130/60 mmHgは「ステージ1高血圧」に該当します13。欧州のESCガイドラインでは「上昇血圧」とされ14、WHOガイドラインでは、既存の心血管疾患(CVD)がある場合や、糖尿病・慢性腎臓病などの高リスク状態であれば、収縮期血圧130-139 mmHgでも薬物治療を考慮するよう推奨しています16。これらの国際的な動向は、収縮期血圧130 mmHgという値が、決して軽視できないレベルであることを示しています。

5. 特に注意すべきは「脈圧」!130/60 mmHgが示す隠れたサイン

血圧130/60 mmHgを評価する上で、収縮期血圧と拡張期血圧の「差」である脈圧(みゃくあつ)に注目することが非常に重要です。

脈圧の計算方法: 収縮期血圧 - 拡張期血圧
例:130 mmHg(収縮期)- 60 mmHg(拡張期)= 70 mmHg(脈圧)

一般的に、脈圧の正常値は40~60 mmHg程度とされています。したがって、脈圧70 mmHgは「開大している(広い)」状態と言えます。脈圧が開大する主な原因は、前述のISHのメカニズムと同様に、大動脈などの太い血管の弾力性が失われ、硬くなること(動脈硬化)です3。動脈が硬いと、心臓が血液を送り出す際に収縮期血圧はより高くなり、拡張期には圧力が維持されにくく拡張期血圧が低めになるため、結果として脈圧が大きくなります。脈圧の開大は、それ自体が心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)の独立したリスク因子となることが、多くの研究で示されています3。血圧130/60 mmHgの場合、収縮期血圧130 mmHgが「高値血圧」であることに加え、脈圧70 mmHgという開大した状態は、血管の健康状態に対する警告サインと捉えることができます。

6. 血圧130/60 mmHgと診断されたら?まず医師に相談を

血圧130/60 mmHgという測定値が出た場合、自己判断せずに、まずはかかりつけ医や循環器専門医に相談することが推奨されます。医師は、以下のような点を総合的に評価し、適切なアドバイスや治療方針を決定します。

  • 血圧測定の再現性の確認: 一度の測定だけでなく、異なる日時や状況での血圧値、家庭血圧の値などを参考に、持続的な傾向であるかを確認します。いわゆる「白衣高血圧(診察室でのみ血圧が高くなる状態)」の可能性も考慮されます7
  • 全体的な心血管リスク評価: 年齢、性別、喫煙歴、糖尿病、脂質異常症、肥満、心血管疾患の家族歴、既存の臓器障害の有無など、他のリスク因子を総合的に評価します13
  • 単独収縮期高血圧(ISH)やその前段階の可能性の評価: 特に脈圧が開大している場合、ISHの可能性を念頭に置いた評価が行われます。
  • 生活習慣の聞き取りと指導: 食事内容(特に塩分摂取量)、運動習慣、飲酒・喫煙状況、ストレスレベルなどを詳しく聞き取り、改善点について具体的な指導を行います。
  • 必要に応じた追加検査: 心電図、血液検査(腎機能、脂質、血糖など)、尿検査、眼底検査などを行い、高血圧による臓器障害の有無や他のリスク因子を評価することがあります。

医師との相談を通じて、ご自身の血圧130/60 mmHgが持つ意味を正しく理解し、必要な対策を早期に開始することが、将来の健康を守る上で非常に重要です。

7. 自宅でできる血圧管理と生活習慣の改善ポイント

血圧130/60 mmHgと指摘された方、あるいはこのレベルの血圧が気になる方は、医療機関の受診と並行して、積極的に生活習慣の改善に取り組むことが推奨されます。

正しい家庭血圧の測り方

家庭での血圧測定(家庭血圧)は、診察室での血圧測定よりも日常の血圧状態をより正確に反映するため、日本高血圧学会も推奨しています2。測定のポイントは以下の通りです17

  • 血圧計の選択: 上腕式(カフを上腕に巻くタイプ)の自動血圧計で、適切に検証されたものを選びましょう。
  • 測定タイミング: 朝(起床後1時間以内で、排尿後、朝食・服薬前)と夜(就寝前)の1日2回測定するのが基本です。
  • 測定前の準備: 測定前5分程度は安静にし、座位で測定します。喫煙、飲酒、カフェイン摂取直後の測定は避けましょう。
  • 測定方法: カフは心臓の高さに正しく巻き、測定中は会話をしたり動いたりしないようにします。1機会に2~3回測定し、その平均値を記録します。
  • 記録: 測定した血圧値と脈拍数、測定日時を血圧手帳などに記録し、受診時に医師に見せましょう。

食生活の見直し:減塩と栄養バランス

減塩(げんえん)

高血圧管理において最も重要な生活習慣改善の一つが減塩です。日本高血圧学会は1日の食塩摂取量を6g未満とすることを推奨しています2。しかし、令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査によると、日本人の1日の平均食塩摂取量は9.8gであり、目標値を大幅に上回っています18。日本食における減塩のコツは以下の通りです6

    • だし(出汁)の活用: かつお節や昆布などの天然だしを効かせ、うま味で満足感を高めましょう。
    • 香味野菜・香辛料の利用: ねぎ、しょうが、しそや、唐辛子、こしょうなどを使い、風味豊かに仕上げます。

酸味の活用: レモンや酢を利用すると、塩味が少なくても味が引き締まります。

  • 調理法の工夫: 焼く、蒸す、揚げるなどの調理法は素材の味を引き出します。煮物は薄味を心がけましょう。
  • 汁物は具だくさんにし、汁を残す: 味噌汁や麺類の汁には多くの塩分が含まれています。汁は飲み干さないようにしましょう。
  • 加工食品・外食の注意: ハムや漬物、インスタント食品には塩分が多く含まれます。成分表示を確認しましょう。
  • 醤油やソースは「かける」より「つける」: 小皿にとって少量をつけるようにすると、使用量を減らせます。

 

カリウムの摂取

カリウムは、体内の余分なナトリウムの排泄を促し、血圧を下げる効果があります。野菜、果物、豆類、海藻類、きのこ類に多く含まれています10。ただし、腎機能が低下している方は医師に相談してください。

その他の注意点

飽和脂肪酸(動物性脂肪など)やコレステロールの摂取を控え19、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂りましょう。

適度な運動のすすめ

ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動を、できれば毎日、少なくとも週に150分(例:1回30分を週5日)行うことが推奨されます7。「ややきつい」と感じる程度が目安です。日常生活の中で、階段を利用するなど身体活動量を増やす工夫も大切です20

体重管理と肥満予防

肥満は高血圧の大きなリスク因子です。適正体重(BMI 25 kg/m²未満)を維持することが重要です7。数kgの減量でも血圧は有意に低下することが期待できます。

禁煙と節酒

  • 禁煙: 喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を著しく進行させます。禁煙は必須です7
  • 節酒: アルコールの摂取量は、男性で純エタノール換算20~30mL/日以下(日本酒なら1合程度)、女性はその半分の10~20mL/日以下に抑えることが推奨されます10

ストレスとの上手な付き合い方

持続的なストレスは血圧を上昇させる可能性があります21。日本のビジネスパーソンは仕事の量や質、人間関係でストレスを感じやすい傾向があります22。十分な睡眠、趣味やリラックスできる時間を持ち、適度な運動を心がけ、オンとオフの切り替えを意識することが大切です。

8. 若い世代の130/60 mmHg:見過ごせないリスクと対策

前述の通り、NIPPON DATA80研究は30~49歳の日本人におけるISHが、長期的に見て心血管疾患死亡リスクを4.10倍に高めることを示しました5。血圧130/60 mmHgは、厳密なISHの定義には当てはまらないものの、収縮期血圧が高く脈圧が開大している点で共通の背景を持つ可能性が考えられます。若い世代で高血圧傾向が見られる原因としては、遺伝的素因のほか、食生活の乱れ、運動不足、肥満、喫煙、精神的ストレス、睡眠不足などが挙げられます23。若い世代では高血圧に対する危機感が薄いことが多いですが、若いうちからの血圧管理は将来の深刻な疾患を予防する上で極めて重要です。血圧130/60 mmHgという値は年齢に関わらず、生活習慣を見直す良い機会と捉え、早期からの対策を心がけましょう。

よくある質問

質問1:血圧130/60 mmHgで、下の血圧が低いのはなぜですか?心配ないのでしょうか?

下の血圧(拡張期血圧)が60 mmHgと低めなのは、主に動脈の弾力性が失われ、硬くなっていること(動脈硬化)が原因と考えられます3。硬い動脈は心臓が拡張しているときに血液の圧力を維持しにくいため、拡張期血圧が低くなる傾向があります。一方で、心臓が収縮した際には硬い血管が圧力を吸収できず、上の血圧(収縮期血圧)は130 mmHgと高くなります。この結果、脈圧(上下の差)が70 mmHgと大きくなります。したがって、「下の血圧が低いから安心」というわけではなく、むしろ脈圧の開大は動脈硬化のサインとして注意が必要であり、決して心配ないとは言えません。

質問2:40代で血圧130/60 mmHgです。薬を飲む必要がありますか?

40代で血圧130/60 mmHgの場合、直ちに薬物治療が開始されることは一般的ではありません。日本のガイドラインでは、まず生活習慣の改善が最優先されます2。ただし、判断は個々のリスクによって大きく異なります。例えば、糖尿病、慢性腎臓病、過去に心筋梗塞や脳卒中を起こしたことがあるなど、他の高いリスク因子をお持ちの場合は、米国のガイドライン13やWHOの指針16では薬物治療の開始が検討されることがあります。日本のNIPPON DATA80研究5が示すように、若中年層の収縮期高血圧は長期的なリスクが非常に高いため、自己判断はせず、必ず医師に相談し、ご自身の全体的なリスクプロファイルを評価してもらうことが不可欠です。

質問3:血圧130/60 mmHgは遺伝しますか?

高血圧には遺伝的要因が関与することが知られています10。ご両親や近親者に高血圧の方がいる場合、ご自身も高血圧を発症しやすい体質を受け継いでいる可能性があります。血圧130/60 mmHgという値も、そのような遺伝的背景が影響していることが考えられます。ただし、高血圧の発症は遺伝だけで決まるわけではなく、食生活、運動習慣、肥満、喫煙といった生活習慣の要因が大きく関わっています。ご家族に高血圧の既往がある方は、遺伝的リスクを自覚し、より早期から健康的な生活習慣を心がけることが、発症予防において非常に重要です。

質問4:下の血圧だけを下げる方法はありますか?

血圧130/60 mmHgのような脈圧が開大した状態では、「下の血圧だけをさらに下げる」ことは通常目標とされませんし、そのような選択的な降圧は困難です。この場合の治療目標は、主に高くなっている上の血圧(収縮期血圧)を適切に下げることです19。減塩や運動などの生活習慣改善や、医師が処方する降圧薬は、血管の緊張を和らげたり、体内の水分量を調節したりすることで、収縮期血圧を低下させます。その結果として、拡張期血圧も多少変動しますが、主な目的は収縮期血圧のコントロールと動脈硬化の進行抑制にあります。

質問5:家庭で血圧を測ると130/60 mmHgですが、病院で測るともっと高くなります。どちらを信じればよいですか?

病院やクリニックの環境で緊張して血圧が普段より高くなる現象を「白衣高血圧」と呼びます7。一方で、家庭でのリラックスした状態での血圧が、日常の真の血圧をより正確に反映していると考えられています。日本高血圧学会も、診断や治療効果の判定において家庭血圧を非常に重視しています2。したがって、基本的には家庭血圧の値を重視すべきです。ただし、白衣高血圧であっても将来的に持続性高血圧に移行するリスクが高いことが知られています。両方の血圧値を記録した血圧手帳を医師に見せ、総合的に判断してもらうことが最も重要です。

結論

血圧130/60 mmHgは、日本の基準では「高値血圧」に分類され、正常血圧よりも高い状態であり、注意が必要です。特に、収縮期血圧130 mmHgという値と、脈圧70 mmHgという開大した状態は、血管の健康状態に対する重要なサインと捉えるべきです。この血圧パターンは、特に若年~中年層においても、将来的な単独収縮期高血圧(ISH)への移行や、心血管疾患リスクの上昇を示唆している可能性があります。重要なのは、この血圧値を放置せず、以下のステップで対応することです。

  1. 医師への相談: 自己判断せず、かかりつけ医や専門医に相談し、総合的なリスク評価と適切なアドバイスを受けましょう。
  2. 家庭血圧の測定: 日常の血圧状態を把握するために、家庭での血圧測定を習慣化しましょう。
  3. 生活習慣の改善: 減塩、バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持、禁煙・節酒、ストレス管理を実践しましょう。

血圧130/60 mmHgという数値は、ご自身の健康状態を見つめ直し、より健康的な生活習慣を始めるためのきっかけとなり得ます。早期からの適切な対応と継続的な管理によって、高血圧症への進行を防ぎ、将来の心血管疾患のリスクを低減させることが可能です。この記事が、皆様の健康管理の一助となれば幸いです。

免責事項この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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