はじめに
子宮内に挿入して使用する避妊具(いわゆるIUD、子宮内避妊デバイス)は、高い避妊効果と長期使用が可能な点から多くの女性が選択している方法です。しかし、個人の体質や健康状態によっては、IUDを装着した後に生じる副作用や合併症が気になることもあるでしょう。本記事では、一般的にみられる副作用や、IUDが向かないケース、さらに使用するにあたって考慮すべきポイントなどを詳しく解説いたします。実際に装着する際の痛みや手順、アフターケアなども含め、幅広く情報をまとめました。長期的に安心して使用するために、どのような点に留意すればよいのか、最新の知見や専門家の見解も交えて紹介します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事で取り上げる内容は、実際の臨床現場で用いられている情報や、下記で挙げる信頼性の高い組織・医学文献を参照してまとめています。なお、IUDの装着や管理、合併症の診断・治療は、必ず産婦人科など専門医に相談して進める必要があります。また、文中で言及する「Thạc sĩ – Dược sĩ – Giảng viên Lê Thị Mai」は本記事の内容を監修した専門家として言及されており、薬学と医療現場での指導にかかわる立場から、薬剤やホルモン製剤の使用に関して深い知見を持つとされています。本記事はあくまで一般向けの情報提供を目的としたものであり、個々の状態に応じた医療行為を受ける際には、必ず専門家の判断を仰いでください。
IUD(子宮内避妊デバイス)とは何か
IUDは、英語の“Intrauterine Device”を略したもので、日本語では「子宮内避妊具」と呼ばれます。小さなT字型をした器具で、産婦人科などの専門医が子宮内に挿入し、長期にわたって高い避妊効果を得られるのが特徴です。一般的に、以下の2種類が存在します。
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ホルモン放出型IUD
子宮内で徐々に黄体ホルモン(プロゲスチン)を放出し、頸管粘液を粘度の高い状態にして精子の侵入を妨げます。同時に子宮内膜を薄く変化させ、受精卵の着床を難しくする効果も期待されます。 -
銅付加型IUD
器具の表面や軸に銅線が巻かれており、子宮内を精子に不利な環境にすることで受精や着床を妨げます。ホルモンが含まれていないため、ホルモン製剤の使用を避けたい人にも選択肢となります。
多くの研究や国際的ガイドラインによれば、正しく装着されたIUDは99%以上の高い避妊効果を持つとされています(参考として、イギリスの国民保健サービスであるNHSでもその有効性が示唆されています)。また、使用期間は銅付加型IUDで最長約10年、ホルモン放出型IUDで5年程度が目安とされますが、必要に応じて早期に取り出すことも可能です。
IUD装着の流れと痛みに関する一般的な見解
IUD装着までの手順
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医療機関の受診
産婦人科やレディースクリニックなどを受診し、問診・内診・超音波検査などで子宮の形状や健康状態を確認します。 -
事前計測(子宮深度の測定など)
IUDを挿入する前に、子宮の奥行き(深さ)などを測り、個人差に応じて適切なサイズ・種類のIUDを選定します。 -
IUDの挿入
医師が器具を使って、子宮口を少し広げながらIUDを子宮内へ挿入します。挿入後、IUDの先端から伸びる糸(フィラメント)が子宮頸管から少しだけ出るよう調整されます。 -
術後の安静と経過観察
装着直後は数分間ベッドで安静にします。その後、異常がなければ日常生活に戻れますが、しばらくは下腹部の痛みや少量の出血が見られる場合があります。
装着時の痛みについて
個人差がありますが、子宮口を器具で広げる際の痛みを「チクッとした生理痛のような痛み」や「蜂に刺されたような鋭い痛み」と表現する人もいます。一方で、出産経験のある女性は子宮頸管が広がりやすいため、装着時の違和感が比較的少ない場合もあります。実際、痛みの感じ方は子宮の形状や感受性にも左右されます。装着後の痛みや出血は数日でおさまることが多いですが、強い痛みや大量の出血が続く場合は医療機関に再度相談しましょう。
IUD装着後に起こりうる7つの副作用
IUDは高い避妊効果を得られる反面、装着後しばらくのあいだ、以下のような副作用や症状が報告されています。それぞれの程度や発生頻度は人によって異なりますが、早めに対処すれば重篤な合併症に至る可能性は低いと考えられています。
1. 下腹部のけいれん(生理痛様の痛み)
IUDを挿入する際、子宮口を広げて器具を入れるため、装着直後に子宮が収縮し、下腹部にけいれんのような痛みが生じる場合があります。これは子宮内に異物が入ったことに対する一時的な反応とされ、通常は数日から数週間程度で軽減していきます。
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症状の継続期間
挿入後数日で軽くなることが多いですが、3~6か月ほど断続的に生理痛が強まるケースも報告されています。とくに銅付加型IUDでは、挿入後しばらくのあいだ生理痛が増す人が一定数います。 -
対処法
痛みが強いときは市販の鎮痛薬を一時的に使用したり、下腹部を温めたりするとやわらぐ場合があります。いずれも一時的な症状であることが多いですが、痛みが非常に強い場合や長引く場合は専門医に相談しましょう。
2. 月経周期の乱れ・経血量の変化
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月経周期が延びる、経血量が増える
銅付加型IUDでは、月経量が増えたり月経が長引いたりする副作用が比較的よくみられます。装着初期の約3~6か月間は、いつもより不規則な出血や経血量の増加に驚くかもしれませんが、多くの人では半年ほどで落ち着きます。 -
月経量の減少または無月経
ホルモン放出型IUDでは、子宮内膜が薄く保たれるため、経血量が減少する、あるいは完全に生理が止まったように感じるケースもあります。約30%の人が装着後に月経困難症状の改善を実感する一方、別の30%程度は生理痛が悪化すると報告する調査結果もあります。
もし3か月以上連続して無月経になる、あるいは極端な不正出血が続く場合は早めに医師の診察を受けましょう。
3. 挿入初期の不規則な出血(スポッティング)
多くの女性がIUD装着後、初期の数週間から3か月程度にかけて不規則な出血(スポッティング)を経験します。少量の出血がダラダラと続くこともあれば、突然多めの出血が起こることもあるため、生理用ナプキンやおりものシートを常備しておくと安心です。
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スポッティングの原因
IUDを異物と認識した子宮内膜の反応や、ホルモン放出型IUDの場合はホルモンが安定するまでの移行期間によるものと考えられます。 -
対処法
ほとんどの場合は自然に落ち着きます。しかし、出血が長期間続いて貧血傾向になったり、極端に体調を崩す場合は専門医の受診をおすすめします。
4. 骨盤内感染症・性感染症へのリスク
IUD装着時、まれに感染が起こる可能性が指摘されています。これは、器具を子宮内に挿入する際に細菌が子宮内に入り込むことなどが原因とされ、骨盤内炎症性疾患(PID)のリスクがやや高まると報告する研究もあります。ただし、感染が起きるのは全体のごくわずかで、1%以下ともされています。
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症状
下腹部の痛み、発熱、悪臭のあるおりものや出血などが続く場合は感染の疑いがあります。 -
予防・対策
装着前の検査で子宮内感染症や細菌性膣症の有無をチェックし、必要に応じて治療してからIUDを装着するのが望ましいと考えられています。また、性感染症を予防する目的でも、性交渉の際にコンドームの併用を検討することが推奨されるケースもあります。
5. 子宮穿孔(非常にまれ)
挿入時または装着後に器具が子宮壁を突き破ってしまう「子宮穿孔」のリスクは、非常にまれで約0.2%(1/500)程度とされています。もし子宮穿孔が起こると、強い下腹部痛や大量出血などの症状を伴うことがあり、外科的処置による器具の取り出しや子宮壁の修復が必要になります。
- 注意点
産後すぐや授乳中は子宮の形態が変化していることもあるため、この時期のIUD装着は穿孔リスクが若干高まる可能性があるとされます。医師の判断で装着時期を調整することが多いです。
6. IUDの逸脱・脱落
統計的には多くはありませんが、装着後初期(とくに装着3か月以内)にIUDが子宮内からずれてしまったり、完全に子宮外へ落ちてしまう事例もあります。そうした場合、避妊効果が大きく減少するため、紐(フィラメント)の位置を定期的に自己点検することが大切です。
- 脱落リスクが高い例
- 出産経験のない若年層
- 出産後早い時期に装着した場合
- 子宮形態に異常がある場合
万一、紐を指で触れにくい状態だったり、紐がまったく触れない、あるいは予想外の出血や腹痛が続くなどの変化がみられる場合は早めに産婦人科を受診しましょう。
7. 思いがけない妊娠(ごくまれに起こり得る)
IUDはきわめて高い避妊率が期待できますが、100%完全というわけではありません。装着1年目での妊娠率は0.2~0.8%と報告されています。もし装着中に妊娠した場合、子宮外妊娠(異所性妊娠)のリスクが高くなるという指摘もあるため、少しでも妊娠の可能性があると感じたら速やかに医療機関を受診してください。
IUDが不向きとされるケース
IUDは多くの女性にとって有効で安全な避妊法ですが、以下のような状況では装着が望ましくない、あるいは慎重な対応が必要です。
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子宮の形状が大きく異なる場合
先天的な子宮奇形、または病気により子宮内腔が変形している場合、IUDが正しく装着できず脱落や痛みを引き起こす可能性があります。 -
骨盤内感染症(PID)を現在治療中、またはリスクが高い場合
装着時に感染が悪化する恐れがあります。感染症の治療を優先し、完治またはリスクの低下を確認してから装着を考えるのが一般的です。 -
ホルモン放出型IUDが不向きな例
- 乳がん治療中(ホルモン依存性腫瘍など)
- 重度の肝疾患を抱える場合
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銅付加型IUDが不向きな例
- もともと月経過多傾向で貧血ぎみの人
- 子宮内膜症などにより生理痛が強い人
上記のほか、複数の病気を抱えている方や、過去にIUD装着時の重大な合併症を経験した方などは必ず専門医と相談して決める必要があります。
よくある疑問への回答
IUDに関する疑問はさまざまですが、以下のような質問がよく挙げられます。
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「IUD装着後でも妊娠する可能性はあるのか?なぜ妊娠してしまうのか?」
妊娠する確率は極めて低いですが、IUDの脱落やズレが主な原因となります。とくに月経のたびに確認を怠ると、思いがけず避妊効果が低下している可能性もあるため要注意です。 -
「腕に埋め込むタイプの避妊具との違いは?」
腕に埋め込むタイプのインプラントは、ホルモンを放出して排卵を抑制する仕組みが主で、子宮内には器具を入れないため、適合する体質・目的が異なります。一方、IUDは子宮内局所での受精阻害が主な作用となります。 -
「産後すぐにIUDを装着しても大丈夫?」
一般的には産後4~6週以降に装着を検討することが推奨されていますが、産後すぐに装着する方法をとるケースもあります。ただし出産直後は子宮が完全に元の形に戻っていないことも多く、脱落や穿孔のリスクがわずかに上昇する可能性があります。 -
「IUDを外したらすぐ妊娠はできるか?」
IUDの避妊効果は器具が子宮内にある間のみ作用するため、取り外せば即座に通常の妊孕力が戻るとされています。ただし、個々の体調やホルモンバランスによっては回復まで多少の時間差が生じることも考えられます。
海外の研究・ガイドラインからわかるIUDの安全性
IUDに関連する研究は世界中で行われており、大規模な調査やシステマティックレビューの結果によって、以下の点が総じて確認されています。
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避妊効果はピルなど他の避妊法より高い傾向
正確に装着されている限り、年間0.2〜0.8%程度の妊娠率と極めて低い失敗率が示されています(Trussellらの研究, 2021年, Contraception)。 -
長期的な安全性
装着から5〜10年の長期にわたって安定した避妊が可能で、取り外せば速やかに生殖機能が回復します。 -
感染症リスクは非常に低い
最初の20日程度の間に生じる細菌感染のリスクはわずかながら高まるものの、それ以降の感染率は一般的な範囲内とみなされます(Allen & Cwiak, 2023年, American Family Physician)。
推奨事項と注意点(参考)
下記は一般的に推奨される注意点です。実際には個々人の体質や既往症に応じて判断が変わるため、必ず医師の診察を受けてください。
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装着後1週間は無理をしない
子宮内がまだ器具に慣れていないため、激しい運動や長時間の入浴、性交渉などは控えたほうが安心です。 -
定期的な自己点検
IUDには先端から細いフィラメント(紐)が出ています。月経後などに指で触れて、紐の長さや位置が変わっていないか確認しましょう。触れない場合は医療機関で確認を。 -
異常出血や強い痛みがある場合は受診
とくに3〜6か月以降も出血が大量に続く、あるいは激しい腹痛、発熱、おりものの異臭などが見られるときは早めに医師に相談してください。
結論と提言
IUDは長期的かつ高い避妊効果を得られる優れた方法ですが、挿入直後や初期に副作用が生じるケースもあります。多くの場合は軽度で数日から数週間で落ち着くとはいえ、月経量の変化や下腹部痛、不規則な出血などが続くと不安になるかもしれません。こうした副作用はホルモン放出型IUDと銅付加型IUDとで異なる特徴を持つため、自分の体質や生活スタイルに合った種類を専門医と十分に相談して選ぶことが大切です。
さらに、万が一の感染症や子宮穿孔、器具の逸脱といったリスクを回避するためにも、装着前の健康状態のチェック、装着後の定期的な自己点検と医師のフォローアップが欠かせません。長期使用を考えるうえでは、子宮頸がん検診や性感染症の検査なども定期的に受けると安心です。副作用が心配な人は、鎮痛薬の服用や生活習慣の工夫で症状が緩和できる場合もあるため、我慢せずに医療従事者と情報交換しながら自分に合った対策をとることが望ましいでしょう。
なお、本記事で紹介した内容はあくまで一般的な情報提供を目的としており、最終的な判断や治療方針は必ず主治医・専門医と相談して決定してください。
重要
本記事で紹介している知識や情報は参考として提供されるものであり、医師や薬剤師などの専門家による診断・治療を代替するものではありません。症状や病歴には個人差があるため、気になる点や不安がある場合は必ず専門家の診察や指導を受けてください。
参考文献
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Contraception – intrauterine devices (IUD) – Better Health Channel
https://www.betterhealth.vic.gov.au/health/healthyliving/contraception-intrauterine-devices-iud (アクセス日:2022年6月7日) -
Hormonal IUD (Mirena) – Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/mirena/about/pac-20391354 (アクセス日:2022年6月7日) -
IUDs: Benefits and Side Effects to Consider – Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/do-the-benefits-of-iuds-outweigh-the-potential-side-effects/ (アクセス日:2022年6月7日) -
What are the side effects of IUDs? – Drugs.com
https://www.drugs.com/medical-answers/side-effects-iuds-3439694/ (アクセス日:2022年6月7日) -
Intrauterine device (IUD) – NHS
https://www.nhs.uk/conditions/contraception/iud-coil/ (アクセス日:2022年6月7日) - Trussell J. “Contraceptive failure in the United States.” Contraception, 2021, doi: 10.1016/j.contraception.2020.11.004
- Allen RH, Cwiak CA. “Intrauterine Devices: An Update.” American Family Physician, 2023;107(2):146-154. PMID: 36739629
本記事の内容は一般情報をまとめたものであり、医療行為や治療の効果を保証するものではありません。疑問点や不安がある場合は、必ず産婦人科などの専門家に相談してください。自分の体質やライフスタイルに合った最適な避妊方法を選び、安心して健康な日常生活を送るためにも、医師のアドバイスと定期検査を併用することが望ましいでしょう。