【デリケートゾーンケア】洗い方8原則と受診の目安

第1部：デリケートゾーンの基本と日常生活の見直し

結論から言うと、デリケートゾーンケアは「減らすほど整う」ことが多い分野です。特に腟の中は、洗浄や消臭の対象ではありません。Mayo Clinicは、腟内は自浄作用があるため“内部を洗う必要はない”こと、外陰部（外側）は刺激の少ない方法で清潔を保つことが大切だと説明しています。¹

1.1. 基本的なメカニズム・体の仕組み（「外側」と「内側」を分けて考える）

まず、言葉の整理から始めましょう。腟（ちつ）は体の内側で、外から見える部分の多くは外陰部（外陰：vulva）です。NHSの「Vulva care」リーフレットは、外陰部には小陰唇・大陰唇、腟の入口、会陰などが含まれると説明しています。¹²

腟の中は、分泌物（おりもの）などによって保護され、清潔が保たれる仕組みがあります。NHSは、おりものは腟を清潔で湿潤に保ち、感染から守る役割を持つと説明しています。³

そのため、「においがある＝不潔」「おりもの＝悪いもの」と決めつける必要はありません。においは月経周期や性交渉、汗、下着の蒸れなどでも変化します。問題は、“いつもと違う”変化が続くことです。

1.2. 悪化させてしまうNG習慣（8原則の中で最重要）

デリケートゾーンのトラブルは、感染症だけが原因ではありません。むしろ、善意のセルフケアが刺激になっていることもあります。以下は、根拠のある「避けたい習慣」です。

• 腟洗浄（ダウチング）：米国Office on Women’s Healthは、腟洗浄は推奨されず、腟内の自然なバランスを乱し得ると説明しています。²
• 香料つきのスプレー、デオドラント、強い洗浄剤：Mayo Clinicは、刺激の強い製品が炎症や不快感の原因になる可能性を示しています。¹
• ゴシゴシこすり洗い・熱いお湯：外陰部の皮膚は薄く、摩擦や熱刺激で荒れやすいとされています（NHS関連リーフレット）。¹²
• 必要以上の陰部用シート・洗浄シートの常用：刺激や接触皮膚炎の要因になり得ます（NHS関連リーフレット）。¹²
• 通気性の悪い下着・長時間の蒸れ：蒸れは不快感や皮膚トラブルの一因になり得るため、綿素材・ゆとりのある下着が勧められています（NHS関連リーフレット）。¹²

1.3. 今日からできる「デリケートゾーンケア8原則」（まずはここだけ守る）

ここからは、日常で迷いがちなポイントを“8つのルール”にまとめます。すべてを一度に完璧にする必要はありません。まずは①〜③の優先度が高いです。

1. 腟の中は洗わない（自浄作用を守る：Mayo Clinic／Office on Women’s Health）。¹²
2. 洗うのは外陰部だけ、ぬるま湯でやさしく（必要なら無香料・低刺激を少量：Mayo Clinic）。¹
3. 香料・強洗浄・消臭目的の製品は基本NG（刺激の回避：Mayo Clinic、NHS関連リーフレット）。¹¹²
4. 汗・水着・運動後は“早めに乾いた状態へ”（蒸れを減らす：NHS関連リーフレット）。¹²
5. 下着は通気性（綿）・締め付けすぎない（外陰部の皮膚刺激を減らす：NHS関連リーフレット）。¹²
6. 月経用品は“こまめに交換”し、かぶれたら製品を見直す（無香料・刺激が少ないものを推奨：NHS関連リーフレット）。¹²
7. 性交渉では摩擦を減らす（乾燥時は潤滑剤）（外陰・腟の不快感軽減：NHS関連リーフレット、Mayo Clinic）。¹²⁵
8. 「いつもと違う」変化が続けば受診（おりもの・におい・痛みの変化：NHS）。³

※この表は自己診断のためではありません。NHSも「自己判断せず、心配なら相談を」と案内しています。³

第2部：身体の内部要因 — 栄養・ホルモン・隠れた不調

洗い方を整えても不快感が残るとき、背景にはホルモン変動（更年期など）や体調、ストレス、薬の影響が重なっている場合があります。特に「乾燥」は、ケアの方向性が感染症とは異なることがあるため、ここで整理します。

2.1. 【特に女性】ライフステージとホルモンバランス

更年期以降の乾燥・ヒリヒリ・性交痛は、エストロゲン低下に関連することがあります。NHSは、ホルモン変化が原因の腟の乾燥に対し、医療機関での評価と治療（必要に応じたホルモン治療など）が検討されると説明しています。⁴

Mayo Clinicも、腟の乾燥に対して、保湿剤や潤滑剤、低用量の局所エストロゲンなど複数の選択肢を示しています。⁵

ここで重要なのは、「乾燥＝我慢するもの」ではない点です。仕事や家事で忙しく、受診が後回しになりがちでも、痛みや不快感が生活の質（QOL）を下げているなら、相談する価値があります。

2.2. 栄養不足・体調・薬の影響（“腟だけの問題”にしない）

デリケートゾーンの不快感は、睡眠不足、ストレス、体調不良、抗菌薬の使用などでも悪化することがあります。特に感染症が疑われる場合、治療の必要性は原因によって異なります。CDCは、細菌性腟症（BV）、外陰腟カンジダ症、腟トリコモナス症の診断と治療方針をそれぞれ整理しています。⁹¹⁰¹¹

「ヨーグルトやサプリで整える」といった情報を見かけることもありますが、症状があるときはまず原因の切り分けが優先です。特に痛み、出血、発熱、妊娠中などは自己流のケアに頼らず受診を検討してください。

第3部：専門的な診断が必要な疾患

セルフケアで改善しない場合、医療機関での検査・治療が必要なことがあります。ここでは、よくある代表例と「放置しない方がよいサイン」を、できるだけ不安を煽らずに整理します。

3.1. 代表的な疾患A：細菌性腟症（BV）

BVは、腟内細菌叢のバランスが崩れることで起きる状態で、魚臭いにおいや灰色のおりものが特徴になることがあります。NHSは「魚臭い」おりものの原因としてBVを挙げています。³

CDCのガイドラインは、BVの診断・治療について整理しており、症状がある場合は適切な診断にもとづく治療が推奨されます。⁹

注意点：においを消す目的で腟洗浄をすると、かえって状態を悪化させる可能性があります。米国Office on Women’s Healthは、腟洗浄は推奨されないと説明しています。²

3.2. 代表的な疾患B：外陰腟カンジダ症・腟トリコモナス症

外陰腟カンジダ症では、強いかゆみや白いポロポロしたおりものがみられることがあります。NHSは「カッテージチーズ様」のおりものを“Thrush（カンジダ）”の目安として示しています。³

CDCは、外陰腟カンジダ症は症状と検査で確認し、状況に応じて抗真菌薬が用いられると整理しています。症状が続く場合や再発する場合、妊娠中、糖尿病などの背景がある場合は、医療評価が重要です。¹⁰

腟トリコモナス症は性感染症の一つで、泡状のおりものや刺激感などが出ることがあります。NHSは泡状・黄緑のおりものの原因としてトリコモナス症を挙げています。³ CDCは診断と治療、およびパートナー対応の重要性を整理しています。¹¹

3.3. 「病気ではない」可能性もある：刺激・皮膚炎・乾燥

強い洗浄、香料、下着の摩擦、汗による蒸れは、外陰部の刺激・皮膚炎の原因になり得ます。NHSの外陰部ケアのリーフレットでは、無香料の月経用品や綿の下着、刺激になり得る柔軟剤や香料製品を避ける工夫が紹介されています。¹²

また、更年期前後の乾燥が背景にある場合、感染症と似た違和感でも治療方針が異なることがあります。NHSおよびMayo Clinicは、更年期の腟の乾燥に対して保湿剤・潤滑剤や局所エストロゲンなどの選択肢を示しています。⁴⁵

第4部：今日から始める改善アクションプラン

ここでは、読者が「今この瞬間からできること」、「今週末から試せること」、「長期的に続けたいこと」をレベル別に整理します。ポイントは、刺激を増やす方向（洗浄強化・香料）ではなく、刺激を減らす方向に舵を切ることです（Mayo Clinic）。¹

4.1. よくある勘違い（“やって良いこと”と“やらない方が良いこと”）

勘違い1：においがある＝不潔だから、強く洗うべき
実際には、強い洗浄や香料は刺激になり得ます。においが不快で“いつもと違う”場合は、隠れた感染症などの可能性もあるため、NHSは相談を推奨しています。³

勘違い2：腟洗浄（ダウチング）で清潔になる
米国Office on Women’s Healthは、ダウチングを推奨しません。むしろ腟内環境を乱し得るため、基本は避けるのが安全です。²

勘違い3：更年期の乾燥は“年のせい”で仕方ない
NHSやMayo Clinicは治療選択肢を示しています。痛みや不快感があるなら相談してよい症状です。⁴⁵

第5部：専門家への相談 — いつ・どこで・どのように？

「この程度で受診していいのかな」「忙しくて後回しにしてしまう」——そう感じる方は少なくありません。ですが、デリケートゾーンの症状は原因が多様で、自己判断が難しい領域です。心当たりがあるときは、早めに相談した方が結果的に短期間で解決するケースもあります。

5.1. 受診を検討すべき危険なサイン

• 強い骨盤痛、発熱、吐き気がある
• 不正出血（性交後出血を含む）が続く
• 水疱・ただれ・強い痛みがある
• 妊娠中で、おりものやかゆみが強い／いつもと違う
• セルフケアを整えても2週間以上改善しない、または再発を繰り返す（CDCは再発や特殊状況では評価が重要と整理）。¹⁰

急激に悪化して動けない、意識がもうろうとするなど緊急性が高い場合は、迷わず救急（日本では119）を検討してください。

5.2. 症状に応じた診療科の選び方

• おりもの・におい・性交痛・不正出血：まずは婦人科（産婦人科）
• 排尿時痛・頻尿が中心：泌尿器科、または婦人科
• 外陰部の皮膚の赤み・ただれ・かぶれ：婦人科に加えて皮膚科が役立つことも
• 性感染症の心当たり：婦人科、性の健康外来、検査を扱う医療機関（厚労省は予防と相談の重要性を案内）。⁶

5.3. 診察時に持参すると役立つものと、相談のコツ

• 症状メモ（いつから、どんな時に悪化、におい・色・量、痛み、月経周期との関係）
• 使用中の製品（洗浄剤、シート、月経用品、下着洗剤、潤滑剤など）
• お薬手帳（抗菌薬を使った時期があるか、持病があるか）

恥ずかしさがある場合は、最初に「デリケートゾーンの症状で相談です。話しにくいので、必要なことから質問してもらえると助かります」と一言添えるだけでも、会話が進みやすくなります。

5.4. 子宮頸がん検診の基本（日本の推奨を確認する）

デリケートゾーンの悩みは感染症だけとは限りません。予防の観点では、子宮頸がん検診の習慣も重要です。厚生労働省の指針（「がん検診のあり方」）では、子宮頸がん検診として細胞診を一定間隔で行うこと、また年齢によってはHPV検査単独法の選択肢が示されています。⁷

国立がん研究センターのがん情報サービスも、子宮頸がん検診の目的や方法、受け方を一般向けに整理しています。⁸