【医師・科学者が徹底解説】トレセメ(TRESemmé)シャンプーの成分評価：髪に良い？悪い？日本の口コミの真相

TRESemmé（トレセメ）とは？ユニリーバの科学力とブランドの約束

TRESemméは、単なるヘアケアブランドではありません。その根底には、世界最大級の消費財メーカーであるユニリーバの immenseな研究開発（R&D）能力と、品質への厳格なコミットメントが存在します¹。ブランドは公式に、プロのスタイリストに長年支持されてきた実績を強調し、誰もが手頃な価格で「サロン品質」のケアを体験できることを約束しています²。この約束を具体的に支えているのが、科学的探求への投資です。例えば、ユニリーバは英国に8000万ポンドを投じて最先端の香料施設を建設しており、これは製品体験の質を高めるための投資の一例です⁴。また、インド市場向けに開発された「Amnio Press Technology」は、アミノペプチド複合体を用いて熱ダメージなしでストレートヘアを実現するという、消費者の具体的な悩みに応えるための高度な科学技術の結晶です⁵。
安全性と倫理観もブランドの核です。TRESemméが使用する全ての成分は、専門家によって厳格にテストされ、国際香粧品香料協会（IFRA）などの国際基準を遵守しています⁶。さらに、TRESemméは動物実験を行わず、世界的にPETA（動物の倫理的扱いを求める人々の会）の認証を受けており、これは特に意識の高い日本の消費者にとって重要な信頼の証となります¹。

日本でのTRESemmé：なぜ口コミは賛否両論なのか？

ユニリーバがグローバルに発信する洗練されたブランドイメージとは裏腹に、日本国内におけるTRESemméの現実は複雑です。その最大の理由は、ユニリーバ・ジャパンの公式サイトのブランド一覧にTRESemméの名はなく²⁴、国内での公式なマーケティング活動がほとんど行われていない点にあります。消費者の多くは、Costco、iHerb、楽天といった並行輸入チャネルを通じて製品を手にしています⁸⁹。
この「公式な情報源の不在」が、「信頼の空白地帯」を生み出し、消費者レビューの二極化を助長しています。日本最大のコスメ・美容レビューサイト「@cosme」では、「洗っている時からギシギシして指が引っかかった」「乾いてもパサパサになる」といった、「きしみ」や乾燥を訴える声が数多く見られます⁸。一方で、iHerbのレビューでは「めちゃくちゃ良い！」「しっとり系が好きな方にオススメ」といった絶賛の声や⁹、その大容量と手頃な価格、すなわち「コストパフォーマンスの良さ」を称賛する意見も多数存在します⁸。この記事では、なぜこのような正反対の「経験」が生まれるのかを、成分科学の観点から解き明かしていきます。

【成分の科学】TRESemméシャンプーの主要成分を徹底解剖

TRESemméの評価が分かれる原因を理解するためには、その処方の核心をなす主要成分の機能と特性を科学的に分析する必要があります。ここでは、洗浄、コンディショニング、補修という3つのシステムに分けて、それぞれの成分が髪にどのように作用するのかを深掘りします。

洗浄成分：ラウレス硫酸ナトリウムは本当に「悪」なのか？

TRESemméのシャンプーの多くで主成分として使用されているのが、ラウレス硫酸ナトリウム（Sodium Laureth Sulfate, SLES）です。これは「硫酸系（サルフェート）」と呼ばれる界面活性剤の一種で、しばしば消費者から敬遠されがちですが、その評価は科学的な文脈で理解する必要があります²⁶。
界面活性剤は、頭皮の皮脂やスタイリング剤といった油性の汚れを捕らえ、水と共に洗い流す役割を担います²⁷。中でも、ラウリル硫酸ナトリウム（SLS）は非常に優れた洗浄力を持つ一方で、その強力な脱脂力が頭皮の乾燥や刺激の原因となる可能性が指摘されてきました²⁸。しかし、TRESemméが採用しているSLESは、SLSの分子構造を一部変更（エトキシ化）することで分子を大きくし、皮膚への浸透を抑え、刺激性を緩和した成分です⁶³⁰。日本の皮膚科医である友利新医師も、シャンプー選びについて解説する動画の中で、「ラウリル」硫酸塩は刺激が強い場合があるが、「ラウレス」硫酸塩は刺激を緩和するよう改良されたものであると説明しています⁴⁴。さらにTRESemméは、コカミドプロピルベタインのようなよりマイルドな補助洗浄成分を組み合わせることで、処方全体の刺激をさらに低減する工夫を施しています⁶。
ただし、SLESがマイルドに改良されているとはいえ、依然として洗浄力が高い成分であることに変わりはありません。化粧品化学者のかずのすけ氏は、SLESが決して弱い洗浄成分ではないことを指摘し、「サルフェートフリー」を謳う製品が代わりに配合するオレフィン(C14-16)スルホン酸Naなども同等以上に強力な場合があるとして、マーケティング用語だけに惑わされないよう警鐘を鳴らしています³³。日本で販売される化粧品は、厚生労働省が定める化粧品基準によって安全性が管理されていますが³¹、SLESの高い洗浄力は、脂性肌の人には「さっぱり」とした爽快感をもたらす一方で、乾燥肌や敏感肌の人には必要な皮脂まで奪い、「きしみ」や乾燥感として感じられる可能性があるのです。

コンディショニング成分：シリコン（ジメチコン）の功罪

シャンプー後の滑らかな指通りや輝くようなツヤを実現する中心的な成分が、ジメチコン（Dimethicone）に代表されるシリコンです³⁶。「ノンシリコン」ブームの影響でネガティブな印象を持つ人もいますが、シリコンは化粧品成分の中で最も広範に安全性が研究されてきた成分の一つであり⁶、その機能を正しく理解することが重要です。
シリコンの主な役割は、毛髪一本一本の表面を極めて薄いフィルムでコーティングすることです。このフィルムがキューティクルの凹凸を均一に覆うことで、髪同士の摩擦を劇的に減らし、櫛通りを良くしてもつれや切れ毛を防ぎます⁶。また、光を均一に反射させることで髪に美しいツヤを与え、水分の蒸発を防いで潤いを保つ効果も期待できます³⁶。TRESemméの処方に見られるアモジメチコン（Amodimethicone）などは、ダメージ部分に選択的に吸着し、より持続的なコンディショニング効果を発揮するよう改良されたシリコンです³⁷。
一方で、消費者が抱く最大の懸念は「ビルドアップ（蓄積）」と呼ばれる現象です。シリコンが髪の表面に徐々に蓄積することで、特に髪が細い方や柔らかい方の場合、髪が重くなったり、ベタついたり感じられることがあります²⁹。これは科学的に妥当な懸念であり、シリコンが持つ「功罪」の「罪」の部分と言えます。しかし、この問題には明確な解決策があります。それは、前述したラウレス硫酸ナトリウムのような洗浄力の高いシャンプー（クラリファイングシャンプー）を定期的に使用し、シリコンの皮膜をリセットすることです²⁹。つまり、シリコンの恩恵を享受しつつ、そのデメリットを硫酸塩の洗浄力で管理するという、戦略的なヘアケアサイクルを組むことが可能なのです。

補修成分：【科学的証拠あり】加水分解ケラチンの驚くべき効果

TRESemméの製品ラインナップ、特に「Keratin Repair」などのシリーズにおいて、科学的根拠に裏付けられた最も強力な「ヒーロー成分」が加水分解ケラチン（Hydrolyzed Keratin）です。毛髪の約85%はケラチンというタンパク質で構成されており、ダメージを受けるとこのケラチンが流出してしまいます²⁶。
加水分解ケラチンは、羊毛などから得られる大きなケラチンタンパク質を、化学処理によって髪の内部に浸透できるほど小さな分子（ペプチドやアミノ酸）に分解したものです³⁹。この小さなケラチン分子が、ダメージによって生じたキューティクルの隙間から毛髪内部に浸透し、失われたタンパク質を補うことで、髪を内側から補強します。その結果、髪の強度や弾力性が向上し、切れ毛を防ぐ効果が期待できるのです³⁹。
この効果は、権威ある学術誌によって証明されています。例えば、*International Journal of Cosmetic Science*に掲載された研究では、ケラチン粒子で処理した毛髪の機械的強度（剛性や引っ張りに対する強さ）が、健康な髪でさえ約40%も向上したと報告されています⁴⁰。さらに、2025年に発表された画期的な研究では、加水分解ケラチンが紫外線（UV）ダメージに対して二重の保護メカニズムを持つことが示されました⁴¹。第一に、髪の表面でUVBを吸収してキューティクルを保護し、第二に、その紫外線によってケラチン自体がさらに小さなペプチドに分解され、それが毛髪内部へより深く浸透して補修効果を高めるという「紫外線誘発分解・浸透メカニズム」が提唱されたのです。これは、ダメージ要因である紫外線を逆手に取り、補修効果を高めるトリガーとして利用するという驚くべき発見です。安全性についても、米国の化粧品成分評価委員会（CIR）がその安全性を確認しており、安心して使用できる成分と結論づけています⁴²。

科学的結論：あなたの髪質にTRESemméは合うか？

これまでの成分分析を統合すると、TRESemméの評価が二極化する理由は、単一の「良い／悪い」という基準では測れず、個々の「髪質との相性」に集約されるという科学的結論が導き出されます。ラウレス硫酸ナトリウムの高い洗浄力と、ジメチコンの強力なコーティング力の組み合わせが、この相性を決定づける鍵となります。

• TRESemméが適している可能性が高い髪質：脂性肌の方、髪が太く健康な方、普段からスタイリング剤を多用する方。このような方は、高い洗浄力で頭皮や髪の汚れをすっきりと洗い流し、シリコンによる滑らかな仕上がりの恩恵を最大限に享受できる可能性があります。
• 使用に注意が必要、または工夫が求められる髪質：乾燥毛やダメージ毛の方、髪が細くボリュームが出にくい方、ハイトーンのカラーリングをしている方。このような方は、高い洗浄力が乾燥を助長したり、シリコンのビルドアップによって髪が重く感じられたりする可能性があります。これらの髪質の方が使用する場合は、「Keratin Repair」のように加水分解ケラチンが豊富に含まれたラインを選んだり、保湿力の高い洗い流さないトリートメントを併用したりといった工夫が推奨されます。

人気美容師で毛髪診断士のAYAMAR氏も、強い洗浄成分やシリコンが特定の髪質にとってはダメージの原因になりうると指摘し、目指す仕上がりに合わせた成分選びの重要性を説いています⁴⁹。最終的には、成分の科学的特性を理解した上で、ご自身の髪の状態と向き合い、試してみることが最良の判断方法と言えるでしょう。

安全性に関する最終評価：専門家と規制機関の見解

TRESemmé製品の安全性は、国際的な規制機関と科学的評価によって裏付けられています。使用されている成分は、米国食品医薬品局（FDA）によって承認され、化粧品成分評価委員会（CIR）の専門家パネルによって安全性が評価されています²⁸⁴²。日本国内においても、厚生労働省が定める化粧品基準があり、市場に流通する製品の安全性は法的な枠組みの中で管理されています³¹。また、TRESemméブランドは消費者の懸念にも対応しており、2022年7月以降、防腐剤の一種であるDMDMヒダントインを含まない処方に全世界で切り替えたことを発表しています⁷。これらの事実から、TRESemmé製品は、定められた使用方法を守る限り、科学的に安全な製品であると評価できます。

まとめ：TRESemméを賢く選ぶためのポイント

本記事の分析を通じて、TRESemméシャンプーは、その成分特性から「万人に合う魔法の製品」ではなく、「特定の髪質やニーズに対して非常に高いパフォーマンスを発揮する製品」であることが明らかになりました。以下の二つの表は、本記事の科学的分析をまとめたものであり、あなたが自分に合った製品を選ぶための実用的なガイドとなるでしょう。

よくある質問

結論

TRESemméシャンプーを巡る日本国内の賛否両論の口コミは、製品の欠陥というよりも、その強力な洗浄・コンディショニングシステムと、使用者の多様な髪質との間の「ミスマッチ」から生じている可能性が高い、というのが本記事の科学的分析に基づく結論です。ラウレス硫酸ナトリウムとシリコンは、その機能を正しく理解し、自分の髪質に合わせて管理すれば、優れたパフォーマンスを発揮する有効な成分です。そして、その背後には、加水分解ケラチンのような、科学的にその有効性が証明された確かな補修成分が存在します。この記事が提供した成分科学と専門家の知見を活用し、ご自身の髪にとってTRESemméが「ヒーロー」となるか、それとも「避けるべき選択肢」となるかを、情報に基づいて賢明に判断するための一助となれば幸いです。