この記事の科学的根拠
本記事は、引用されている入力研究報告書で明示的に言及されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。
- 厚生労働省: 本記事における鉄分の推奨摂取量、耐容上限量、および食品の安全性(例:ひじきに含まれるヒ素、ビタミンA過剰摂取)に関する指導は、同省が発行する「日本人の食事摂取基準」および公式見解に基づいています23。
- こども家庭庁: 妊娠中の食事バランスや注意すべき食品(例:リステリア菌)に関する具体的な指導は、「妊産婦のための食生活指針」に基づいています4。
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会 (JSOG): 妊娠中の貧血の医学的定義、診断基準(ヘモグロビン値)、検査、および治療方針に関する解説は、本学会が策定した「産婦人科診療ガイドライン」を絶対的な典拠としています5。
- 日本鉄バイオサイエンス学会 (JBIS): 鉄欠乏性貧血の病態生理、診断、鉄剤(経口・静注)治療、および鉄代謝ホルモン「ヘプシジン」に関する専門的な解説は、本学会の「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」および所属専門家の論文に基づいています6。
- 世界保健機関 (WHO): 妊娠中の貧血に関する国際的な定義や、鉄・葉酸サプリメントの推奨に関する記述は、WHOの国際基準を参照しています7。
- 主要な査読付き学術雑誌 (例: Nutrients, Blood): ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収率の違い、食事介入の効果、最新の鉄代謝メカニズムなど、より深い科学的知見は、国際的に評価の高い査読付き論文やシステマティックレビューを情報源としています89。
要点まとめ
- 妊娠中の貧血は、妊婦の約5人に1人が経験する一般的な状態ですが、赤ちゃんの成長に影響を及ぼす可能性があるため、正しい知識と対策が重要です。
- 貧血対策の基本は食事です。特に、体に吸収されやすい「ヘム鉄」(赤身の肉や魚などに含まれる)を意識的に摂取することが効果的です。
- 食事だけでは改善が難しい場合は、医師の診断のもとで安全な鉄剤治療が行われます。自己判断でのサプリメント摂取は避け、必ずかかりつけ医に相談してください。
- 体内の鉄の貯蔵量を示す「血清フェリチン」値も重要で、ヘモグロビン値が正常でもこの数値が低い「かくれ貧血」にも注意が必要です。
なぜ妊娠すると貧血になりやすいの?その原因とリスク
妊娠中の貧血は、多くの場合、特定の病気が原因ではなく、妊娠に伴う母体の生理的な変化が大きく関わっています。そのメカニズムを理解することが、適切な対策への第一歩となります。
妊娠中の体内で起こるダイナミックな変化
妊娠すると、お腹の赤ちゃんに十分な栄養と酸素を届けるため、母体の血液量は妊娠していない時と比べて約1.5倍にまで増加します10。この時、血液中の液体成分である「血漿(けっしょう)」の増加率が、酸素を運ぶ赤血球の増加率を上回ります。その結果、血液全体が水で薄まったような状態になります。これは「生理的希釈」または「水血症(すいけつしょう)」と呼ばれ、妊娠中に貧血傾向になる最も大きな理由です。
鉄の需要が急増!お腹の赤ちゃんとの共有
妊娠期間を通じて、母体は約1000mgもの鉄を新たに必要とします11。この膨大な量の鉄は、主に以下の目的で使われます。
- 胎児と胎盤の成長: 約350mg
- 母体の赤血球増加: 約500mg
- 出産時の出血への備え: 約250mg
特に妊娠後期には、1日あたり7.5mgもの鉄が胎児へと送られるため、母体の鉄需要は劇的に増加します。このため、意識的に鉄分を補給しなければ、需要に供給が追いつかず、鉄欠乏に陥りやすくなるのです。
放置は禁物!妊娠中の貧血が母体と赤ちゃんに及ぼすリスク
妊娠中の貧血を「よくあること」と軽視してはいけません。特に重度の鉄欠乏性貧血は、母体と赤ちゃんの両方に様々なリスクをもたらす可能性が指摘されています。学術的な研究によれば、重度の貧血は早産や低出生体重児のリスクを高めることと関連しています12。また、赤ちゃんが生まれる時点での鉄の貯蔵量が少なくなる可能性もあります。母体にとっても、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れといった自覚症状だけでなく、出産時の出血に対する抵抗力が弱まったり、産後の回復が遅れたり、感染症にかかりやすくなったりする可能性があります。
「貧血」の診断基準:あなたの数値は大丈夫?
妊婦健診では定期的に血液検査が行われ、貧血の有無が確認されます。診断の基準となるのが「ヘモグロビン(Hb)値」です。ご自身の検査結果を正しく理解するために、日本の基準と国際的な基準を知っておきましょう。
日本の基準と国際基準
貧血の診断基準は、国や機関によって若干異なります。日本産科婦人科学会(JSOG)は、妊娠時期によって基準値を分けています。これは、妊娠の進行に伴い血液の希釈の度合いが変わることを考慮しているためです。一方で、世界保健機関(WHO)は、妊娠期間を通じて単一の基準値を設けています。
機関 | 妊娠初期・後期 | 妊娠中期 |
---|---|---|
日本産科婦人科学会 (JSOG)5 | 11.0 g/dL 未満 | 10.5 g/dL 未満 |
世界保健機関 (WHO)7 | 11.0 g/dL 未満 |
日本の臨床現場では、主にJSOGの基準が用いられています。妊婦健診で「貧血気味ですね」と言われた際は、これらの数値を参考に自身の状態を把握するとよいでしょう。
血液検査で見るべきもう一つの重要な数値「血清フェリチン」
ヘモグロビン値が基準値内であっても、安心はできません。実は、体内の鉄には、現在血液中で酸素運搬に使われている「機能鉄」と、肝臓などに蓄えられている「貯蔵鉄」の2種類があります。ヘモグロビン値は機能鉄の状態を反映しますが、貯蔵鉄の状態は反映しません。
この「体内の鉄の貯金」ともいえる貯蔵鉄の量を測る指標が「血清フェリチン」です。ヘモグロビン値がまだ正常でも、血清フェリチン値が低い(例えば15-30 ng/mL未満)場合、それは貯蔵鉄が枯渇しかけているサインです1314。この状態は「潜在性鉄欠乏」あるいは「かくれ貧血」と呼ばれ、放置すればやがて本格的な鉄欠乏性貧血に進行する危険性が高い状態です。米国産科婦人科学会(ACOG)などのガイドラインでは、この血清フェリチン値の測定の重要性が指摘されています14。早期にこの段階で対策を始めることが、重症化を防ぐための鍵となります。
栄養科学に基づく最強の食事戦略
貧血対策の基本は、日々の食事です。しかし、やみくもに鉄分を多く含む食品を食べるだけでは非効率的です。栄養科学の知識を活かし、賢く、効率的に鉄分を摂取する戦略を立てましょう。
鉄分の種類を知る:「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」
食品に含まれる鉄分には、大きく分けて2つの種類があり、体内での吸収率が大きく異なります。この違いを理解することが、食事戦略の核となります。
- ヘム鉄: 主に肉や魚といった動物性食品に含まれています。その最大の特徴は、体内への吸収率が15~25%と非常に高いことです15。また、他の食品成分からの影響を受けにくく、安定して吸収される利点があります。
- 非ヘム鉄: 主に野菜、豆類、海藻などの植物性食品や、卵、乳製品に含まれています。吸収率は2~5%とヘム鉄に比べて低く16、後述する様々な食品成分によって吸収が促進されたり、妨げられたりします。
栄養学の専門家の間では、この吸収率の差は約5〜6倍にもなると指摘されており、効率的な貧血対策のためには、吸収率の高いヘム鉄を意識的に食事に取り入れることが非常に重要です17。
鉄の吸収率を最大限に高める「食べ合わせの法則」
吸収率の低い非ヘム鉄も、食べ合わせを工夫することで吸収率を格段にアップさせることができます。特に以下の栄養素との組み合わせが効果的です。
- ビタミンC: ビタミンCは、非ヘム鉄を体内で吸収されやすい形に変える強力な助っ人です18。小松菜のおひたしにレモン汁をかけたり、豆腐サラダに赤ピーマンやブロッコリーを加えたりと、ビタミンCが豊富な食品(柑橘類、ピーマン、ブロッコリーなど)を一緒に摂ることを心がけましょう。
- 動物性たんぱく質: 肉や魚に含まれるたんぱく質には、非ヘム鉄の吸収を助ける働きがあることが知られています19。例えば、ひじきの煮物に鶏肉を加えるといった工夫が有効です。
- クエン酸などの有機酸: 梅干しや食酢などに含まれる酸味成分は、胃酸の分泌を促し、鉄の吸収を助ける効果が期待できます20。
注意が必要!鉄の吸収を妨げる食品
せっかく鉄分豊富な食事をしても、食べ合わせによってはその吸収が妨げられてしまうことがあります。以下の成分には注意が必要です。
- タンニン: 緑茶、紅茶、コーヒーに多く含まれるポリフェノールの一種です。食事中や食後すぐにこれらの飲料を飲むと、非ヘム鉄と結合して吸収を阻害してしまいます21。水分補給は水や麦茶などタンニンを含まないものにし、嗜好品として楽しむ場合は、食事と食事の間(食後30分〜1時間以上あけて)に摂るようにしましょう。
- フィチン酸: 玄米や未精製の穀物、豆類の外皮に多く含まれています。鉄などのミネラルの吸収を妨げる作用がありますが、健康上の利点も多いため、完全に避けるのではなく、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
- シュウ酸: ほうれん草に多く含まれる成分で、鉄の吸収を妨げることがあります。しかし、シュウ酸は水溶性のため、茹でてアク抜きをすることでその影響を大幅に減らすことができます22。
鉄分豊富な食品リスト&具体的な摂取量
ここでは、文部科学省が公開している「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」という信頼性の高いデータに基づき23、鉄分を多く含む代表的な食品を一覧で紹介します。
【一覧表】ヘム鉄・非ヘム鉄を多く含む食品
食品名 | 1食の目安量 | 鉄含有量(mg) | 鉄の種類 | 備考・注意点 |
---|---|---|---|---|
あさり(水煮缶) | 50g(固形量) | 15.0 | ヘム鉄 | 缶汁にも栄養が豊富。調理に活用すると良い24。 |
鶏レバー(生) | 50g | 4.5 | ヘム鉄 | ビタミンA過剰に注意。週1回、焼き鳥1〜2本程度に25。 |
牛もも肉(赤身、焼き) | 80g | 2.2 | ヘム鉄 | 食中毒予防のため、中心部までよく加熱すること。 |
かつお(春獲り、生) | 80g(刺身8切れ) | 1.5 | ヘム鉄 | 新鮮なものを選び、購入後は速やかに消費する。 |
小松菜(ゆで) | 100g(約1/2束) | 2.1 | 非ヘム鉄 | ビタミンCや葉酸も豊富。油で炒めるとβカロテンの吸収もアップ。 |
ほうれん草(ゆで) | 100g(約1/2束) | 0.9 | 非ヘム鉄 | シュウ酸を減らすため、必ず下茹でしてアク抜きを行う26。 |
木綿豆腐 | 150g(1/2丁) | 1.5 | 非ヘム鉄 | 手軽に摂取できる良質なたんぱく質源でもある。 |
納豆(糸引き) | 50g(1パック) | 1.7 | 非ヘム鉄 | 発酵食品であり、他の栄養素も豊富。 |
1日に必要な鉄分はどれくらい?
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、妊娠時期に応じて鉄分の推奨量が定められています2。
- 妊娠初期: 1日あたり 9.0 mg (非妊娠時6.5mg + 付加量2.5mg)
- 妊娠中期・後期: 1日あたり 16.0 mg (非妊娠時6.5mg + 付加量9.5mg)
特に妊娠中期以降は、非妊娠時の2倍以上の鉄分が必要になることがわかります。この量を毎日の食事だけで安定して摂取することは容易ではありません。だからこそ、前述した吸収率の高いヘム鉄を意識することや、吸収を助ける食べ合わせを工夫することが非常に重要になるのです。そして、食事での管理が難しい場合には、医師の指導のもとで適切な補充療法を検討することが必要となります。
妊娠中の食事:安全性に関する重要知識
栄養補給と同時に、妊娠中は食品の安全性にも細心の注意を払う必要があります。特に注意したいポイントを解説します。
レバーのビタミンA過剰摂取に注意
レバーは鉄分補給の代表的な食品ですが、動物性ビタミンA(レチノール)も非常に多く含んでいます。妊娠初期にビタミンAを過剰に摂取すると、胎児の体に影響を及ぼすリスクが高まることが指摘されています。こども家庭庁の「妊産婦のための食生活指針」では、レバーのようなビタミンAを特に多く含む食品の摂取頻度には注意が必要であるとされています4。具体的な目安として、レバーであれば週に1回、焼き鳥1〜2本程度に留めるのが賢明です。
ひじきとヒ素の問題:正しい理解
「ひじきにはヒ素が含まれるから危険」という情報を耳にして、不安に思う方もいるかもしれません。確かに、ひじきには他の海藻類に比べて無機ヒ素が多く含まれています。しかし、厚生労働省は、これに関して詳細な情報を提供しており、過度に心配する必要はないとしています3。ポイントは以下の通りです。
- 調理前に乾燥ひじきを水で戻すことで、含まれる無機ヒ素の50%以上が水に溶け出します。
- 日本人の平均的なひじきの摂取量(1日あたり約0.9g)を考慮すると、健康への影響は極めて低いと考えられています。
結論として、極端に毎日、大量に食べ続けるようなことがなければ、ひじきは安全に食べられる食材です。食物繊維やミネラルも豊富なため、バランスの取れた食事の一部として適量を取り入れることは問題ありません。
食中毒のリスク:リステリア菌とトキソプラズマ
妊娠中は免疫力が低下するため、普段なら問題にならないような細菌でも食中毒を引き起こすリスクが高まります。特に注意が必要なのが「リステリア菌」と「トキソプラズマ」です。
- リステリア菌: 加熱殺菌されていない食品に存在する可能性があります。厚生労働省も注意を呼びかけており、ナチュラルチーズ(加熱殺菌されていないもの)、生ハム、スモークサーモン、肉や魚のパテなどは避けるべき食品です27。
- トキソプラズマ: 加熱が不十分な肉(レアステーキ、ユッケ、鳥刺しなど)や、よく洗っていない野菜や果物、猫の糞などを介して感染する可能性があります。予防の基本は、全ての肉類を中心部まで十分に加熱すること、そして野菜や果物は食べる前によく洗うことです。
食事だけでは難しい?医師による貧血治療
食事の工夫を続けても貧血が改善しない場合や、もともと重度の貧血がある場合は、医療機関での治療が必要となります。自己判断で市販のサプリメントに頼るのではなく、必ず医師の診断と処方に従いましょう。
鉄剤(経口薬)による治療
妊娠中の貧血治療の第一選択は、医師が処方する「経口鉄剤」です。これらは医薬品であり、含有量や品質が保証されています。一般的に、クエン酸第一鉄ナトリウムやフマル酸第一鉄といった種類の薬が用いられます。治療の目的は、まずヘモグロビン値を正常範囲まで回復させ、その後、体内の貯蔵鉄(血清フェリチン値)も十分に満たすことです。
副作用と対策: 経口鉄剤で最もよく見られる副作用は、吐き気や胃の不快感、便秘、下痢などです28。これらの症状がつらい場合でも、自己判断で服用を中止してはいけません。医師に相談すれば、薬の種類を変更したり、服用するタイミングを食後や就寝前に調整したり、あるいは便秘薬を併用したりすることで、症状を和らげることが可能です。治療を継続することが何よりも重要です。
注射(静注鉄剤)による治療
以下のような特定の状況では、注射(静脈内投与)による鉄剤治療が選択されることがあります。
- 経口鉄剤の副作用が非常に強く、どうしても服用を続けられない場合。
- 消化管からの鉄の吸収が著しく悪いと判断される場合。
- 出産が間近に迫っており、速やかに貧血を改善させる必要がある場合。
国立病院機構京都医療センターの川端浩医師のような専門家によると、近年では1回の点滴で多くの鉄を補充できる高用量の静注鉄剤も登場しており、患者の負担を軽減しています13。これらの治療は、全て産婦人科医や血液内科医といった専門家の厳密な医学的判断のもとで、慎重に行われます。
【専門家コラム】鉄代謝の鍵を握るホルモン「ヘプシジン」とは?
私たちの体がいかにして鉄の量を精密にコントロールしているのか、その研究は日々進歩しています。その最前線で注目されているのが、「ヘプシジン」という肝臓で作られるホルモンです。
日本鉄バイオサイエンス学会の指針によれば、ヘプシジンは体内の「鉄の門番(ゲートキーパー)」のような役割を担っています629。体内の鉄が十分にあるとヘプシジンの量が増え、腸からの鉄の吸収や、体内に蓄えられた鉄の再利用にブレーキをかけます。逆に、鉄が不足するとヘプシジンの量が減り、鉄の吸収と利用を促進します。国際的な学術誌『Nutrients』に掲載されたレビュー論文によると、妊娠中は胎児へ優先的に鉄を送るため、母体のヘプシジン濃度は自然と低く抑えられることが分かっています9。しかし、体内に感染症や炎症が起こると、鉄が十分にあってもヘプシジンが増加してしまい、鉄をうまく利用できない「慢性疾患に伴う貧血」という状態になることもあります。このヘプシジンの働きを解明することは、将来的により個人に合わせた効果的な貧血治療法の開発につながるとして、世界中の研究者から期待されています。
管理栄養士考案!明日からできる鉄分たっぷり簡単レシピ3選
理論を学んだら、次はいよいよ実践です。ここでは、管理栄養士が考案した「簡単」「美味しい」「栄養バランス◎」なレシピを3つご紹介します。
レシピ1:あさり缶と小松菜の豆乳スープパスタ
ポイント: 鉄分最強クラスの「あさり水煮缶」(ヘム鉄)と、ビタミンC・葉酸が豊富な「小松菜」(非ヘム鉄)、そしてカルシウム源となる「豆乳」を組み合わせた栄養満点の一品。調理時間も約15分とお手軽です。
材料(1人分): スパゲッティ80g、あさり水煮缶1/2缶(缶汁ごと)、小松菜1株、玉ねぎ1/4個、無調整豆乳200ml、コンソメ顆粒小さじ1、塩・こしょう少々、オリーブオイル少々。
作り方: 1. スパゲッティは表示通りに茹でる。小松菜はざく切り、玉ねぎは薄切りにする。 2. フライパンにオリーブオイルを熱し、玉ねぎを炒める。しんなりしたら小松菜を加えてさっと炒める。 3. あさり缶(缶汁ごと)、豆乳、コンソメを加えて弱火で温める。沸騰直前で火を止め、塩・こしょうで味を調える。 4. 茹で上がったスパゲッティを皿に盛り、3のスープをかける。
レシピ2:牛こま切れ肉とパプリカのポン酢炒め
ポイント: ヘム鉄豊富な「牛肉」と、鉄の吸収を助けるビタミンCがトップクラスの「パプリカ」はまさに黄金コンビ。ポン酢のさっぱりした酸味(クエン酸)も鉄の吸収を後押しします。
材料(2人分): 牛こま切れ肉150g、赤パプリカ1/2個、黄パプリカ1/2個、片栗粉大さじ1、ポン酢大さじ3、サラダ油大さじ1。
作り方: 1. パプリカは細切りにする。牛肉に片栗粉をまぶしておく。 2. フライパンにサラダ油を熱し、牛肉を炒める。色が変わったらパプリカを加えて炒め合わせる。 3. パプリカがしんなりしたら、ポン酢を回し入れ、全体に絡めて完成。
レシピ3:レンジで簡単!鶏レバーの甘辛煮
ポイント: 敬遠されがちなレバーの下処理も、コツさえ掴めば簡単。電子レンジで手軽に調理できます。ビタミンAの過剰摂取を避けるため、少量(50g程度)でのレシピです。
材料(作りやすい分量): 鶏レバー50g、牛乳50ml、[A]醤油大さじ1/2、[A]みりん大さじ1/2、[A]酒大さじ1/2、[A]砂糖小さじ1/2、[A]しょうが(すりおろし)少々。
作り方: 1. 鶏レバーは脂肪や血の塊を取り除き、冷水でよく洗う。牛乳に15分ほど浸して臭みを取る。 2. レバーの水気をキッチンペーパーで拭き取り、耐熱容器に[A]の調味料と共に入れる。 3. ふんわりとラップをし、電子レンジ(600W)で1分30秒〜2分、火が通るまで加熱する。途中で一度取り出して混ぜると均一に火が通る。
よくある質問
つわりがひどくて、肉や魚が食べられません。どうすればいいですか?
無理に食べる必要はありません。食べられるものから少しでも栄養を摂ることが大切です。例えば、ヨーグルトに鉄分豊富なきな粉をかけたり、鉄が強化されたシリアルや果汁100%のジュースを利用したりするのも一つの方法です。体調が少し良い時に、あさりの味噌汁や冷奴など、比較的さっぱりしたもので試してみるのもよいでしょう。最も重要なのは、一人で悩まずにかかりつけ医に相談することです。食事からの摂取が難しいことを伝えれば、必要に応じて安全な鉄剤の処方を検討してもらえます。
鉄剤を飲んだら便が黒くなりましたが、大丈夫ですか?
はい、心配ありません。鉄剤を服用すると、体内で吸収されなかった鉄が便に混じって排出されるため、便が黒っぽくなるのはごく正常な反応です。これは薬が効いていないわけではありませんので、自己判断で服用を中止しないでください。ただし、ひどい腹痛や下痢が続く場合は、副作用の可能性もあるため、処方してくれた医師や薬剤師に相談しましょう。
鉄分のサプリメントを自分で買って飲んでもいいですか?
自己判断でのサプリメント摂取は推奨されません。その理由は主に二つあります。第一に、本当に鉄が不足しているかどうか、またその程度は、血液検査をしなければ正確には分かりません。第二に、過剰摂取のリスクです。特に、複数の種類のサプリメントを併用すると、特定の栄養素が耐容上限量を超えてしまい、かえって健康を害する可能性があります。妊娠中のサプリメント利用は、必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談の上、その指導に従って行ってください。
菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン)の妊婦はどうやって鉄分を摂ればいいですか?
植物性食品からの鉄分摂取が中心になるため、より一層の工夫が必要です。大豆製品(豆腐、納豆、豆乳)、レンズ豆、ひよこ豆、ほうれん草、小松菜、ナッツ類などを積極的に食事に取り入れましょう。その際、最も重要なのが、吸収率の低い非ヘム鉄の吸収を高めるために、ビタミンCが豊富な食品(ピーマン、ブロッコリー、柑橘類など)を「必ず毎食」組み合わせることです。例えば、豆腐のサラダにはレモンドレッシングをかける、豆カレーにパプリカをたっぷり入れる、といった具合です。また、定期的な血液検査でご自身の鉄の状態をこまめにチェックし、必要に応じて医師と栄養補給について相談することが不可欠です。
結論
妊娠中の貧血は、多くの女性が直面する課題ですが、決して軽視すべきではありません。その原因は妊娠に伴う生理的な変化と、胎児の成長による鉄需要の増大にあります。対策の基本は、吸収率の高いヘム鉄を意識したバランスの良い食事と、ビタミンCなどを組み合わせた賢い食べ合わせです。しかし、食事だけで必要な鉄分を補うのが難しいことも事実であり、その場合は、ためらわずに専門家の助けを求めることが重要です。妊婦健診で貧血を指摘された際は、必ずかかりつけの医師に相談し、その指導のもとで適切な治療を受けてください。自己判断でのサプリメント摂取は避け、正しい知識を持って対処することで、あなたと未来の赤ちゃんの健康を守ることができます。この記事が、皆様の健やかで安心なマタニティライフの一助となることを心から願っています。
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