【医師監修】おむつかぶれの全知識:原因、治し方から薬の選び方、5つの誤解までを徹底解説
小児科

【医師監修】おむつかぶれの全知識:原因、治し方から薬の選び方、5つの誤解までを徹底解説

おむつで真っ赤になった赤ちゃんのおしり。見ているだけで胸が痛みますよね。しかし、ご安心ください。おむつかぶれ、専門的には「おむつ皮膚炎」と呼ばれるこの症状は、適切な知識とケアで必ず改善します。多くの保護者様が抱えるこの切実な悩みに応えるため、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、皮膚科および小児科の専門知識に基づき、ご家庭で今日から実践できる具体的な対策から、市販薬の正しい選び方、そして広く信じられている5つの大きな誤解に至るまで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく徹底的に解説します。本記事は、断片的な情報に終止符を打ち、科学的根拠(エビデンス)と深い共感に基づいた「決定版」となることを目指します。

本記事の科学的根拠

この記事は、日本皮膚科学会、日本小児科学会などが公表する診療ガイドラインや公式見解を含む、質の高い医学的エビデンスに厳密に基づき作成されています。読者の皆様に最高の信頼性を提供するため、記事内で言及される主要な情報源とその医学的妥当性を以下に明示します。

  • 日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン 2020」: 本記事における、おむつ皮膚炎が「刺激性接触皮膚炎」であるという基本的な定義、発症メカニズム、およびステロイド外用薬の適正使用に関する記述は、この権威あるガイドラインに基づいています1
  • 日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」: 鑑別診断に関する記述において、アトピー性皮膚炎との比較参考情報として、このガイドラインの知見を活用しています2
  • 厚生労働省の関連資料: 乳幼児の皮膚の特性や疫学データに関する記述は、厚生労働省が公表する信頼性の高い情報源を参考にしています3
  • 日本小児科学会の各種ガイドライン: 保育所での感染症対策や、子どもの健康に関する一般的な見解について、同学会の公式ガイドラインや提言を参照しています4

この記事の要点まとめ

  • おむつかぶれの正体は、尿や便による「刺激性接触皮膚炎」であり、アレルギーではありません。水分、摩擦、化学的刺激の3つの要因が重なって起こります1
  • ケアの基本は「こすらず優しく洗い、しっかり乾かし、ワセリン等で徹底的に保護する」ことです。特に「保護」が予防の鍵となります5
  • ベビーパウダーの使用は逆効果になる可能性があり、現代の皮膚科学では推奨されていません6
  • 夜中に尿だけであれば、赤ちゃんの睡眠を優先し、無理におむつを替える必要はありません。ただし、便の場合は速やかに交換が必要です7
  • 発疹がシワの奥に広がったり、周りにポツポツができたりした場合(カンジダ皮膚炎の疑い)や、2〜3日ケアしても改善しない場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください8

第一部:おむつ皮膚炎の科学的基盤:原因、機序、およびリスク因子の包括的分析

おむつ皮膚炎を正しく理解することは、効果的な予防と治療の第一歩です。ここでは、なぜ赤ちゃんのおしりはかぶれやすいのか、その根本的な原因を科学的根拠に基づいて深く掘り下げていきます。

1.1. 刺激性接触皮膚炎としての本質:日本皮膚科学会ガイドラインに基づく解析

多くの保護者様が「うちの子は肌が弱いから」「アレルギーかもしれない」と悩まれますが、おむつかぶれの大部分はアレルギー反応ではありません。日本皮膚科学会が発行する「接触皮膚炎診療ガイドライン 2020」において、おむつ皮膚炎は「刺激性接触皮膚炎」の典型例として明確に分類されています1。これは、特定の物質に対する免疫系の過剰反応(アレルギー)ではなく、物理的・化学的な刺激の強さや接触時間が、皮膚が本来持つ防御能力の限界を超えたときに、誰にでも起こりうる直接的な皮膚の炎症反応です9。この医学的な事実を理解することは、保護者様の「自分のせいだ」という自責の念を和らげ、「適切なケアで対処可能である」という前向きな姿勢を育む上で非常に重要です。
おむつ皮膚炎の発症メカニズムは、単一の原因ではなく、「刺激の三位一体」とも呼べる以下の3つの要因が複雑に絡み合い、悪循環を形成することで成立します10

  1. 水分による浸軟(Maceration): 紙おむつの内部は、尿や汗によって常に高温多湿な環境にあります。この過剰な水分に長時間さらされると、皮膚の最も外側にある角層がふやけ、「浸軟(しんなん)」と呼ばれる状態に陥ります10。浸軟した角層は、まるで水に浸かったビスケットのように脆くなり、皮膚のバリア機能が著しく低下します。これが、あらゆる刺激に対する脆弱性の根本的な土台となります。
  2. 摩擦による物理的刺激(Friction): 水分でふやけ、脆くなった皮膚は、ごくわずかな物理的刺激にも極めて弱くなります。赤ちゃんの活発な動きによるおむつ素材とのこすれや、保護者様が良かれと思って行う「おしりふきによる拭き取り行為」が、デリケートな皮膚バリアを物理的に削り取り、破壊してしまうのです11
  3. 尿・便による化学的刺激(Chemical Irritation): 尿自体は弱酸性ですが、皮膚の常在菌によって分解されるとアンモニアを産生し、皮膚をアルカリ性に傾け刺激となります。さらに深刻なのは便、特に下痢便です。便にはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)や脂肪分解酵素(リパーゼ)などの消化酵素が含まれており、これらが皮膚に直接触れることで、皮膚そのものを構成するタンパク質や脂質を分解し、強烈な化学的ダメージを与えてしまうのです10

これら3つの要因は、互いに悪影響を及ぼし合います。まず水分がバリアを弱め、弱ったバリアは摩擦に無防備になり、摩擦でできた微細な傷から尿や便の化学物質が侵入し、炎症を引き起こす。この悪循環を断ち切ることが、おむつ皮膚炎対策の核心です。

1.2. 乳児特有の皮膚脆弱性と高リスク群の特定

乳児がおむつ皮膚炎になりやすいのには、解剖学的な理由があります。乳児の皮膚の角層は、成人の約半分から3分の2程度の厚さしかなく、物理的に非常にデリケートです12。さらに、皮膚の潤いを保つ皮脂の分泌量も少なく、天然の保湿バリアが未熟な状態にあります13。この「バリア機能の未熟性」が、乳児期におむつ皮膚炎が非常に起こりやすい根本的な背景となっています10
特に、以下の状況ではリスクがさらに高まるため、注意が必要です。

  • 新生児期: 皮膚が最も薄く、水様便の回数が非常に多いため、最大のリスク時期です10
  • 下痢・軟便時: 感染性胃腸炎などで下痢をしている場合、便の刺激性が格段に高まり、重症化しやすくなります10。複数の研究で、下痢と皮膚炎の有意な関連が示されています14
  • 抗生剤服用時: 腸内細菌のバランスが崩れ、カンジダ菌が増殖しやすくなるため、二次的なカンジダ皮膚炎のリスクが高まります10
  • 離乳食開始後: 便の性質が変化することで、一時的に皮膚が刺激を受けやすくなることがあります15

ある文献レビューによると、おむつ皮膚炎の有病率は調査によって11.5%から70.6%と大きな幅がありますが、これは診断基準の不統一によるものと考察されています14。しかし、臨床現場では非常に一般的なトラブルであることに変わりはありません。

1.3. 鑑別診断の臨床的重要性:通常のおむつかぶれ vs. カンジダ皮膚炎

おむつ皮膚炎のケアにおいて、保護者様がセルフケアの限界を知り、適切なタイミングで医療機関を受診するために最も重要な知識が、通常の「刺激性接触皮膚炎」と「カンジダ皮膚炎」の見分け方です。原因と治療法が全く異なるため、この区別は極めて重要です。

表1:おむつかぶれとカンジダ皮膚炎の主な違い
特徴 おむつかぶれ(刺激性接触皮膚炎) カンジダ皮膚炎
好発部位 おむつが強く当たるお尻の丸い部分など、皮膚の「凸部」2 皮膚のシワの奥(間擦部)にも広がる8
見た目の特徴 全体がべったりと赤くなる(びまん性紅斑)。 鮮やかな赤い発疹の周りに、ポツポツとした小さな発疹(衛星病巣)が散在する10
主な治療薬 保護剤(ワセリン等)、必要に応じてステロイド外用薬。 抗真菌薬。ステロイド単剤の使用は禁忌

この二つを区別すべき最大の理由は、治療薬の誤用がもたらす深刻なリスクにあります。もしカンジダ皮膚炎にステロイド外用薬だけを塗ってしまうと、ステロイドの免疫抑制作用によってカンジダ菌の増殖をかえって助長し、症状を劇的に悪化させてしまう危険性があるのです10
したがって、保護者様への最も重要なメッセージは「ステロイドを恐れる」ことではなく、「自己判断を恐れる」ことです。「普段のケアで治りが悪い」「シワの奥や周りにポツポツが広がってきた」と感じた場合は、決して自己判断せず、速やかに小児科または皮膚科を受診し、正確な診断を受ける必要があります。

第二部:エビデンスに基づく究極の予防戦略と日常ケア

おむつ皮膚炎の最も効果的な戦略は「治療」ではなく「予防」です。その根幹をなすのは、第一部で解説した「刺激の悪循環」を断ち切るための、日々の地道なスキンケアに他なりません16

2.1. 清潔の原則:「こすらない、優しく、洗い流す」ケアの具体的手法

おむつケアにおける「清潔」とは、刺激物を除去しつつ、皮膚へのダメージを最小限に抑えることを意味します。

  • おむつ交換の頻度: 「排泄物と皮膚の接触時間をいかに短くするか」が鍵です。「濡れたらすぐ」が基本で、おむつの排尿サインに気づいたら速やかに交換しましょう17。特に新生児期や下痢の際は、30分〜1時間ごとのチェックも推奨されます10
  • おむつなし時間(Air Time): おむつ交換の際に数分間おしりを空気にさらして自然乾燥させることは、蒸れを防ぐ簡単で効果的な方法です10
  • 洗浄方法の哲学: 摩擦は皮膚バリア最大の敵です。「ゴシゴシこする」ことは絶対に避けましょう15
    • 尿のみの場合: ぬるま湯で湿らせたコットンなどで優しく押さえるように拭く「押さえ拭き」で十分です5
    • 便の場合: 最も理想的なのは「洗い流し」です。シャワーボトルや霧吹きにぬるま湯を入れて洗い流すか、洗面器での「おしり浴」が、こびりついた便も優しく除去でき、強く推奨されます15
  • 石鹸の使用: 洗浄力の強い石鹸の頻用は、必要な皮脂まで奪う可能性があります。石鹸は原則1日1回の入浴時のみとし、低刺激性のものをよく泡立てて優しく洗い、十分にすすぎましょう10
  • 乾燥: 洗浄後は、柔らかいタオルで押さえるように水分を完全に吸い取ります。シワの間まで丁寧に乾かすことが重要です12

2.2. 保護の原則:皮膚バリア機能を維持・強化する保湿剤と保護剤の役割

清潔にした皮膚に人工的な保護膜を形成し、次の排泄物から物理的に皮膚を隔離することが、予防戦略の第二の柱です。これは「赤くなる前にバリアを作る」という能動的な予防の考え方です18

  • 目的とタイミング: 保護剤は皮膚をコーティングして外的刺激から守ると同時に、水分の蒸発を防ぎます10。おむつ交換ごと、および入浴後5分以内に塗布するのが最適です5
  • 代表的な保護剤:
    • ワセリン(白色ワセリン、プロペト®︎など): 皮膚表面に強力な油性の膜を作り、刺激を遮断します。安全性が非常に高く、日常的な予防に最適です10
    • 亜鉛華軟膏: 保護作用に加え、穏やかな消炎作用や、じゅくじゅくした滲出液を吸収して皮膚を乾燥させる作用を併せ持ちます。すでに赤みが出ている場合に特に有効です5
  • 効果的な塗り方: 皮膚にすり込むのではなく、まるで「ケーキにアイシングを施すように」、皮膚の色が透けて見えなくなるくらい、たっぷりと厚めに塗布するのがポイントです5。次のおむつ交換の際は、汚れた表面だけを優しく取り除き、上から重ね塗りすることで、摩擦を最小限にできます12

2.3. 製品選択の科学:おむつ・おしりふきの成分と素材に基づく選択基準

日々の製品選択も重要な予防戦略です。

  • おむつ:
    • 通気性と吸収性: 現代の高性能紙おむつは、尿を素早くゲル状に固め、逆戻りを防ぐ機能に優れています19
    • サイズ: きつすぎると摩擦や蒸れの原因に、緩すぎると漏れによる汚染につながります。こまめなサイズアップが大切です10
    • 素材との相性: 稀に素材自体が合わないこともあります。適切なケアをしてもかぶれを繰り返す場合は、他ブランドを試す価値があります20
  • おしりふき:
    • 成分: アルコール、香料、パラベンなどを含まない、シンプルな成分の「純水99%」などを謳う製品が望ましいです21
    • 水分量と素材: 摩擦を減らすため、水分を十分に含んだ柔らかい素材を選びましょう10
    • 究極の低刺激オプション: 最も肌に優しいのは「乾いたコットンをぬるま湯に浸して使う」方法です。化学物質と摩擦の両方を最小限にできます22

表2:症状レベル別・推奨されるスキンケア対応表

症状レベル 見た目の特徴 推奨される洗浄方法 推奨される保護ケア
レベル0 (予防期) 赤みや発疹は全くない、健康な皮膚 尿のみ: 押さえ拭き。便: 優しく拭き取るか洗い流す。 おむつ交換ごとにワセリンなどを薄く塗布し予防。
レベル1 (軽度) ほんのり、うっすらと赤い ぬるま湯での押さえ拭き。便は洗い流し推奨。 ワセリンまたは亜鉛華軟膏をやや厚めに塗布。
レベル2 (中等度) 明らかに赤い、ポツポツがある、少し皮がむけている 必ずぬるま湯で洗い流す。おしりふきの使用は極力避ける。 亜鉛華軟膏をたっぷりと厚く塗り、物理的なバリアを形成。
レベル3 (重度) ただれている、じゅくじゅく、出血している 自己判断でのケアは危険。刺激を与えないようにする。 速やかに医療機関(小児科・皮膚科)を受診する。

第三部:流布される「神話」の徹底解明:5つの主要な誤解

育児情報が氾濫する中、科学的根拠の乏しい「神話」に惑わされることがあります。ここでは、特に根深い5つの誤解を科学的に解明します。

3.1. 誤解①:ベビーパウダーはあせも・おむつかぶれに良い

科学的見解: この通説は現代の皮膚科学では明確に否定されています。ベビーパウダーがあせもやおむつ皮膚炎に有効であるという信頼性の高い医学的研究はなく、むしろ逆効果の可能性が指摘されています6。パウダーの粒子が汗や尿を吸って固まり、新たな摩擦源となったり、毛穴を塞いだりすることがあります。また、粉末を吸い込むことによる呼吸器へのリスクも懸念されています23。予防の基本は、パウダーで「水分を吸う」のではなく、保護剤で「バリアを作る」ことです。

3.2. 誤解②:夜中に赤ちゃんを起こしてでも、おむつを替えるべき

科学的見解: この問題は「皮膚の衛生」と「睡眠の質」のトレードオフです。乳幼児期の質の高い睡眠は、成長ホルモンの分泌や脳の発達に不可欠であり、多くの場合「睡眠の質」が優先されます247。最新の高性能紙おむつは吸収力が高く19、赤ちゃんが快適に眠っているなら、尿だけであればわざわざ起こして交換する必要はありません。ただし、皮膚への刺激性が非常に高い便をした場合は、夜中でも速やかに交換が必要です。

3.3. 誤解③:肌のためには、布おむつの方が紙おむつより優れている

科学的見解: おむつ皮膚炎のリスクにおいて重要なのは「素材」ではなく「管理の質」です。どちらのタイプでも、排泄後すぐに交換し、おしりを清潔・乾燥・保護するという基本ケアが実践されなければリスクは高まります。現代の高性能紙おむつは、尿の逆戻りを防ぎ、おむつ内を比較的ドライに保つ機能に優れています19。一部の文献レビューでは「布おむつの使用」がリスク要因として挙げられているものもあります25。各家庭のライフスタイルに合った選択を尊重しつつ、最も重要なのは素材の種類ではなく、適切な管理であることを理解する必要があります。

3.4. 誤解④:ステロイドは怖い薬なので、絶対に使わない方が良い

科学的見解: ステロイド外用薬は「諸刃の剣」であり、「善か悪か」ではなく「適正使用か不適正使用か」で語られるべきです。医師の診断と指導のもと、適切な強さのものを適切な期間使用することは、つらい炎症を速やかに改善させる最も有効な治療法の一つです1。弱い薬をだらだらと長く使うより、適切な強さの薬で短期間にしっかり治す方が、結果的に総使用量を減らせることもあります。真に恐れるべきは、カンジダ皮膚炎への誤用などの「不適正使用」です10

3.5. 誤解⑤:「清潔第一」だから、おしりふきでゴシゴシきれいに拭くべき

科学的見解: これは、おむつ皮膚炎を悪化させる最大の原因の一つです。おむつケアにおける「清潔」とは「無菌」ではなく「低刺激」を意味します。力を込めたゴシゴシ拭きは、水分で弱った皮膚バリアを積極的に破壊する行為に他なりません10。「きれいにしようとする行為そのものが、かぶれを悪化させている」というパラドックスを理解し、ケアの目標を「完璧な清浄」から「低刺激な清拭」へ転換させることが重要です。「優しさが、最高の清潔」と心得ましょう。

第四部:治療戦略:市販薬(OTC)の賢明な選択と医療機関受診のタイミング

適切なホームケアでも改善しない場合、専門的な医療介入が必要です。セルフケアの限界を知り、賢明な判断を下すための知識を身につけましょう。

4.1. 症状の重症度に応じたセルフケアと受診の明確な境界線

家庭で安全に対応できる範囲を超えた場合は、速やかに専門医の診察を受けることが重症化を防ぐ鍵です。以下のいずれか一つでも当てはまる場合は、自己判断を中止し、小児科または皮膚科を受診してください。

医療機関を受診すべきサイン(チェックリスト)

  • 適切なホームケアを2〜3日続けても、症状が改善しない、または悪化している5
  • 皮膚がただれている(びらん)、じゅくじゅくした液体が出ている、出血している512
  • 水ぶくれや、膿(うみ)を持った白いポツポツ(膿疱)が見られる5
  • 赤ちゃんが排泄時やおむつ交換時に激しく泣くなど、強い痛みや不快感がある12
  • おむつが当たらないシワの奥にまで発疹が広がっている、または発疹の周りに小さな衛星のようなポツポツが散らばっている(カンジダ皮膚炎の強い疑い)8

4.2. 市販薬(OTC)の成分分析と選択フレームワーク

市販薬は軽症の場合に限り、薬剤師に相談の上で使用するのが安全です26。自己判断での安易な使用は避けましょう。

表3:症状別・市販薬(OTC)成分比較と選択ガイド

症状の状態 推奨される成分 主な作用 注意点
予防・ごく軽度の赤み ワセリン、酸化亜鉛 皮膚保護、保湿、刺激からの隔離 最も安全な選択肢。これだけで改善しない場合は次のステップへ。
赤み・かゆみ 非ステロイド性抗炎症成分(ウフェナマート等)、かゆみ止め成分(ジフェンヒドラミン等) 穏やかな抗炎症、鎮痒作用 5〜6日間使用しても改善が見られない場合は受診27。じゅくじゅくした部位には不向きな場合も。
軽いじゅくじゅく・ただれ 酸化亜鉛 収れん(引き締め)、乾燥、保護 白い保護膜が効果の印。無理に拭き取らない。
強い炎症・広範囲の赤み 市販薬での自己判断は非推奨。カンジダ皮膚炎の可能性があり、市販ステロイド薬の使用は症状を悪化させるリスクがあるため、必ず医療機関を受診8

4.3. 処方薬の解説:保護剤、ステロイド、抗真菌薬の役割と適正使用

医療機関で処方される薬の役割を理解することは、不安の軽減と治療の成功につながります。

  • 保護剤: ワセリン(プロペト®︎など)や亜鉛華軟膏が処方されます。医師が症状に合わせて混合することもあります5
  • ステロイド外用薬: 中等度以上の炎症を短期間で鎮めるために使われます5。乳幼児のおしりには、原則として作用の穏やかな「Medium」または「Weak」ランクのものが選択されます5。この事実は保護者の過度な不安を和らげます。医師の指示通りに、必要な期間だけ使用することが鉄則です。
  • 抗真菌薬: カンジダ皮膚炎と診断された場合にのみ処方されます。ナイスタチンやミコナゾールといった成分が含まれます5。見た目が改善しても、再発を防ぐため、医師に指示された期間は必ず薬を塗り続けることが非常に重要です10

よくある質問

Q. おむつかぶれの時、お風呂はどうすればいいですか?
A. 入浴は問題ありません。むしろ、皮膚を清潔に保つために推奨されます。ただし、熱すぎるお湯は避け、ぬるめのお湯にしましょう。体を洗う際は、石鹸をよく泡立て、その泡でなでるように優しく洗い、洗浄成分が残らないよう十分にすすいでください。長湯は皮膚の乾燥を招くことがあるため、短時間で済ませるのが良いでしょう。入浴後は、こすらずにタオルで優しく水分を押さえ、5分以内に保護剤や処方された薬を塗布してください5
Q. 病院に行くべきか、あと一日様子を見るべきか迷ったらどう判断しますか?
A. 判断に迷った時は、受診することをお勧めします。特に、本記事の「医療機関を受診すべきサイン」のチェックリストに一つでも当てはまる場合や、赤ちゃんの機嫌が悪い、痛がる様子がある場合は、ためらわずに専門医に相談してください。早期の的確な診断と治療が、赤ちゃんの苦痛を和らげ、早期回復への一番の近道です。多くの小児科や皮膚科では、このような相談を歓迎しています。
Q. 薬を塗ってもすぐにおむつで取れてしまう気がします。どうすれば良いですか?
A. 薬を塗った後、すぐにおむつをせず、数分間「おむつなし時間」を設けて、薬が皮膚に馴染むのを待つと効果的です。また、ワセリンや亜鉛華軟膏のような保護剤は、皮膚にすり込むのではなく、皮膚表面を覆うようにたっぷりと厚めに塗るのが正しい使い方です。この厚い層が物理的なバリアとして機能するため、多少おむつに付着しても効果は持続します。次のおむつ交換の際には、無理に全部拭き取らず、汚れた部分だけを優しく除去し、上から重ね塗りするテクニックも有効です12

結論

おむつかぶれは、多くのご家庭が経験する一般的な皮膚トラブルですが、その背景には複雑なメカニズムが存在します。本記事で解説したように、その核心は「水分・摩擦・化学物質」という刺激の悪循環を断ち切ることにあります。日々のケアにおいて、「こすらない清潔」「徹底した保護」という2大原則を実践することが、何よりの予防策となります。そして、広く信じられている誤解に惑わされず、科学的根拠に基づいた正しい知識を持つことが、保護者様の不安を軽減し、自信を持って赤ちゃんのお世話をする力となります。「完璧な育児」を目指す必要はありません。育児を完璧にこなすことよりも、保護者様が笑顔でいられることが、赤ちゃんにとって何より大切です28。もし症状が改善しない、あるいは判断に迷うことがあれば、決して一人で抱え込まず、かかりつけの小児科医や皮膚科医という頼れる専門家を積極的に頼ってください。正しい知識と専門家のサポートがあれば、おむつかぶれは決して怖いものではありません。

免責事項
本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  26. EPARKくすりの窓口. 【薬剤師が解説】おむつかぶれにおすすめの市販薬15選を紹介!選び方や注意点も. 2025年6月21日閲覧. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/diaper-rash-pickup/
  27. 独立行政法人環境再生保全機構. 保健指導のポイント. 2025年6月21日閲覧. Available from: https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/pdf/archives_31321_06.pdf
  28. 株式会社ベビーカレンダー. え、夜中の授乳はいらないの…!?小児科医が紹介する「省エネ育児」/母乳育児編. 2025年6月21日閲覧. Available from: https://baby-calendar.jp/smilenews/detail/15071
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