- ご自身の症状が「ケロイド」なのか「肥厚性瘢痕」なのかを見分ける方法
- ケロイドがなぜできるのか、その根本的な原因
- 保険が使える標準的な治療法から最新の治療法まで、すべての選択肢
- それぞれの治療にかかる費用や期間の目安
- ケロイドを悪化させない、新たに作らないための予防法
一人で悩まず、まずは専門家と共に、治療への第一歩を踏み出しましょう。
この記事の科学的根拠
本記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。
- 日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会: 本記事における副腎皮質ステロイドテープ剤や術後放射線治療の推奨に関する記述は、これらの学会が合同で作成した『形成外科診療ガイドライン3 創傷疾患』に基づいています2。
- 瘢痕・ケロイド治療研究会: 部位別の治療戦略や標準的な治療アルゴリズムに関する指針は、同学会が発行した『診断・治療指針』を主要な典拠としています3。
- 小川令教授(日本医科大学): ケロイド発生の根本原因として解説されている「メカノバイオロジー」に関する学説は、この分野の日本の第一人者である小川教授の研究成果を引用しています1。
- American Academy of Dermatology (AAD) & British Association of Dermatologists (BAD): 予防法やセルフケアに関する記述の一部は、これらの国際的に権威ある皮膚科学会の患者向けガイダンスを参考に、グローバルな視点を取り入れています45。
要点まとめ
- ケロイドと肥厚性瘢痕は別物: 元の傷の範囲を超えて広がるのがケロイドの決定的特徴であり、治療法が異なります。
- 治療の第一選択は「保存的治療」: ステロイドの塗り薬・貼り薬・注射や、圧迫療法が基本であり、多くは保険適用です。
- 手術は再発予防との組み合わせが必須: 単純な切除手術だけではほぼ再発するため、術後の放射線治療などを併用することが絶対条件です。
- 原因は「体質」と「物理的刺激」: 遺伝的素因に加え、皮膚にかかる張力(引っ張る力)が発症・悪化の大きな要因です。
- 予防と早期治療が最も重要: 傷ができた直後からの正しいケアと、異常を感じたらすぐに専門医に相談することがケロイドを防ぐ鍵となります。
第1章:ケロイドと肥厚性瘢痕(ひこうせい はんこん)の決定的違い
「ケロイド」と「肥厚性瘢痕」は、どちらも傷あとが赤く盛り上がるため、しばしば混同されます。しかし、これらは医学的に全く異なる疾患であり、治療方針も大きく異なるため、正確に見分けることが治療の第一歩となります6。専門医が診断する際に見分けるポイントを、以下の表にまとめました。ご自身の症状がどちらに近いか、セルフチェックの参考にしてください。
項目 | 肥厚性瘢痕 (Hypertrophic Scar) | ケロイド (Keloid) |
---|---|---|
元の傷の範囲 | 元の傷の範囲を超えない6 | 元の傷の範囲を超えて、周囲の正常な皮膚にしみだすように広がる6 |
主な原因 | 深い傷や火傷、手術など、創傷治癒が遅延した場合に発生2 | 不明。ニキビや虫刺されなど、ごくわずかな傷でも発生しうる。明らかな原因なく自然に発生することも6 |
好発部位 | 関節部など、動きが多く皮膚に張力がかかりやすい場所。全身どこにでも発生しうる6 | 前胸部、肩、上腕、耳、恥骨上部など、特定の部位に好発する傾向がある6 |
自覚症状 | かゆみ、痛み、ひきつれ感6 | 肥厚性瘢痕と同様だが、症状はより強い傾向がある6 |
体質・遺伝 | あまり関係ないが、重症型ではケロイド体質を認めることも6 | 「ケロイド体質」と呼ばれる遺伝的素因が強く関与する1 |
人種差 | ケロイドほど顕著な差はない6 | 黒色人種に最も多く、次いで黄色人種、白色人種には少ない7 |
経過 | 受傷後、数週間~数ヶ月で発生。半年~1年ほどで自然に平坦化し、色が薄くなることがある7 | 傷が治ってから数ヶ月~数年後に発生することもある。自然に治ることはなく、増大し続ける傾向がある8 |
最も重要な違いは、「元の傷の範囲を超えて広がるかどうか」です。肥厚性瘢痕はあくまで傷の範囲内での過剰な治癒反応ですが、ケロイドは傷の境界を越えて周囲の健康な皮膚にまで侵食していく、良性の皮膚腫瘍のような性質を持っています。この性質の違いから、治療法、特に手術の適応が大きく変わってきます。
第2章:なぜケロイドはできるのか?科学的根拠に基づく3大要因
ケロイドが発生する正確なメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、近年の研究により、大きく分けて3つの要因が複雑に絡み合って発症することがわかってきました2。
1. 体質的・遺伝的要因
ケロイドの発生には、個人の体質、すなわち遺伝的な素因が強く関わっています1。
- ケロイド体質: ご家族にケロイドを持つ方がいる場合、ご自身もケロイドができやすい傾向があります。これは特定の遺伝子が関与していると考えられており、現在も研究が進められています。
- 人種差: 前述の通り、皮膚の色が濃い人種ほどケロイドの発生率が高いことが知られています6。
- 性差: 日本医科大学の研究では、小児期においては怪我をする頻度は男児の方が多いにもかかわらず、ケロイドを発症するのは女児の方が多いことが示されており、女性ホルモンの関与も示唆されています9。
2. 局所的要因(傷の治り方と物理的刺激)
傷ができた部位の局所的な環境も、ケロイドの発生に大きく影響します。
- 創傷治癒の遅延: 傷が深かったり、感染を起こしたり、治癒に時間がかかったりすると、炎症が長引き、ケロイドや肥厚性瘢痕の危険性が高まります2。
- メカノバイオロジーの視点(物理的刺激): 近年、ケロイド研究で最も注目されているのが「メカノバイオロジー」という考え方です。これは、皮膚にかかる「張力(Tension)」、つまり引っ張られる力が、ケロイドを発生させ、悪化させる最大の要因の一つであるとする学説です1。
日本の第一人者である小川令教授らの研究により、肩や胸、関節部といった日常的によく動かす部位では、皮膚が常に引っ張られています。この物理的な刺激が、傷あとの細胞(線維芽細胞)を過剰に活性化させ、コラーゲンを異常に産生させることで、ケロイドが形成・増大していくことが明らかにされています1。ケロイドが特定の部位に好発するのは、この「張力」の強さと密接に関係しているのです。
3. その他の増悪因子
上記の要因に加え、以下のような状態もケロイドを悪化させる可能性があります。
- 慢性的な炎症: ニキビ(尋常性痤瘡)や毛嚢炎が治らず、同じ場所で炎症が繰り返されると、それが引き金となってケロイドが発生することがあります。特に前胸部のケロイドの約半数は、ニキビが原因であるという報告もあります7。
- 全身状態: 妊娠(女性ホルモンの影響)や高血圧なども、ケロイドを悪化させる因子として知られています7。
これらの要因が複合的に作用することで、ケロイドは発生・増悪します。したがって、治療においては、これらの要因を総合的に考慮し、対策を立てることが重要になります。
第3章:ケロイド治療の全体像|ガイドラインに基づく治療アルゴリズム
ケロイド治療の目的は、かゆみや痛みといった自覚症状を和らげ、赤みや盛り上がりといった見た目(整容面)を改善し、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることです8。日本形成外科学会は、「保存的治療が第一選択である」という基本方針を示しています6。これは、安易な手術がかえってケロイドを悪化させる危険性があるためです。治療は、患者さんの症状、ケロイドの部位や大きさ、活動性(増大傾向にあるか)などを総合的に判断し、段階的に行われます。以下に、日本の診療ガイドラインに基づいた標準的な治療の流れをフローチャート形式で示します3。
【図解】ケロイド治療の標準的な流れ
- 初期治療(軽症・活動性が低い場合)
- 治療法: 保存的治療(外用薬、圧迫・固定療法、内服薬)
- 目的: 炎症を抑え、かゆみや痛みを軽減し、ケロイドの増大を防ぐ。
- 流れ: まずはステロイドのテープ剤や軟膏、シリコンジェルシートなどを使用します。これと並行して、抗アレルギー薬(トラニラスト)の内服を検討します。
- 次のステップ(初期治療で改善が見られない、または中等症の場合)
- 治療法: ステロイド局所注射
- 目的: より強力に炎症を抑え、盛り上がった瘢痕を平坦化させる。
- 流れ: 外用薬などで効果が不十分な場合、ケロイドに直接ステロイドを注射します。月1回程度の頻度で、数回繰り返します。
- 専門的治療(保存的治療に抵抗性・重症・機能障害がある場合)
- 治療法: 手術療法 + 術後補助療法(放射線治療など)
- 目的: ケロイド本体を切除し、術後の再発を徹底的に予防する。
- 流れ: 保存的治療でコントロールできない難治性のケロイドや、関節の動きを妨げる瘢痕拘縮がある場合に検討されます。手術単独での再発率は極めて高いため、手術直後からの放射線治療や、ステロイド注射、圧迫療法などを組み合わせることが絶対条件となります。
- その他の選択肢(主に自費診療)
- 治療法: レーザー治療、5-FU注射など
- 目的: 主に赤みの改善や、標準治療の補助として用いられる。
- 流れ: 赤みが強く気になる場合に、血管に作用するレーザーが選択されることがあります。ただし、日本では保険適用外となります。
注意:どの段階の治療を選択するかは、専門医の診断が不可欠です。自己判断で治療を中断したり、不適切な処置を行ったりすると、症状が悪化する可能性があるため、必ず医師の指示に従ってください。
第4章:【保険適用】日本の標準的なケロイド治療法を徹底解説
日本では、ケロイドや機能障害を伴う肥厚性瘢痕は「病気」として扱われるため、これから解説する治療法の多くは公的医療保険の適用対象となります10。ここでは、日本の診療ガイドラインで推奨されている標準的な治療法を、その効果、方法、副作用・注意点と共に詳しく見ていきましょう。
1. 保存的治療
手術を行わない治療法で、ケロイド治療の基本となります。複数の治療法を組み合わせて行うのが一般的です6。
内服薬
- トラニラスト(商品名:リザベン®)
効果と方法: 現在、日本でケロイド・肥厚性瘢痕の治療薬として保険適用が認められている唯一の内服薬です10。もともとは抗アレルギー薬で、ケロイドの増殖に関わる細胞(線維芽細胞)の働きを抑え、かゆみ、痛み、赤みを軽減する効果があります11。『形成外科診療ガイドライン』でもその有効性が示唆されています12。
副作用・注意点: 副作用は少ないですが、まれに膀胱炎様の症状(頻尿、排尿時痛)や肝機能障害が起こることがあります。定期的な診察が必要です。 - 柴苓湯(さいれいとう)
効果と方法: 体内の水分循環を整え、炎症を鎮める作用のある漢方薬です。ステロイドなど他の治療と併用されることがあります3。
外用薬(塗り薬・貼り薬)
- 副腎皮質ステロイドテープ・軟膏
効果と方法: 『形成外科診療ガイドライン』で推奨度1Bとされ、ケロイド・肥厚性瘢痕治療の中心的役割を担う非常に有効な治療法です2。ステロイドの強力な抗炎症作用により、かゆみや痛みを速やかに抑え、継続して使用することで赤みや盛り上がりを改善します。エクラー®プラスター(テープ剤)やドレニゾン®テープ、リンデロン®-V軟膏など、様々な種類があります10。
副作用・注意点: 長期間使用すると、皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)、毛細血管が浮き出て見える(毛細血管拡張)、ニキビができやすくなるなどの副作用が現れることがあります。 - シリコーンジェルシート
効果と方法: 傷あとを密閉して保湿し、同時に適度な圧迫を加えることで、コラーゲンの過剰な生成を抑えます。『形成外科診療ガイドライン』でも有効性が示唆されており12、国際的には予防・治療の標準的治療法と見なされることもあります13。
副作用・注意点: 副作用はほとんどありませんが、まれにかぶれ(接触皮膚炎)を起こすことがあります。
圧迫・固定療法
効果と方法: サポーターや弾性包帯、テープなどで物理的に患部を圧迫・固定します。これにより、ケロイドの増悪因子である「張力」を軽減し、患部への血流を抑制することで、盛り上がりを抑える効果が期待できます6。『形成外科診療ガイドライン』でも有効な治療法として挙げられています12。
副作用・注意点: 長時間装着する必要があるため、患者さんの協力が不可欠です。皮膚がかぶれたり、不快感を伴ったりすることがあります。
2. 侵襲的治療
保存的治療で効果が不十分な場合に検討される、より積極的な治療法です。
ステロイド局所注射(ケナコルト®注射)
効果と方法: 保存的治療の中では最も強力な治療法の一つです。ステロイド薬を直接ケロイド内に注射することで、硬い組織を柔らかくし、盛り上がりを平坦化させます6。かゆみや痛みなどの症状も速やかに改善します。国際的なガイドラインでも第一選択肢として推奨されています14。
副作用・注意点: 注射時に痛みを伴います。効果が強すぎると、注射部位の皮膚が凹んだり(皮膚萎縮)、白く色が抜けたり(色素脱失)、毛細血管が拡張したりする危険性があります14。これらの副作用を最小限に抑えるため、医師は注入量や濃度を慎重に調整します。
手術(切除術)
効果と方法: ケロイド本体を外科的に切除します。関節の動きを妨げる「瘢痕拘縮」を伴う場合など、機能的な問題がある場合に適応となります15。手術の際は、再発の原因となる張力を減らすため、Z形成術やW形成術、皮弁術といった形成外科の専門的な技術が用いられます3。
副作用・注意点: 最も重要な注意点は、再発の危険性が極めて高いことです。単純に切除しただけでは、ほぼ100%の確率で再発し、元のケロイドより大きくなることさえあります6。そのため、手術は必ず後述する放射線治療などの術後補助療法と組み合わせて行うことが必須です。
放射線治療
効果と方法: 手術でケロイドを切除した後の傷あとに対し、再発を防ぐ目的で行われます。細胞の増殖を抑える働きのある放射線(主に電子線)を照射することで、ケロイドの再発率を劇的に下げることができます。『形成外科診療ガイドライン』でも、手術との併用療法は推奨度1Bと高く評価されています2。厚生労働省の診療報酬上も、ケロイドに対する体外照射は認められています16。
副作用・注意点: 最も懸念される副作用は、将来的な発がんの危険性です。しかし、近年の技術進歩により、照射線量や方法が最適化され、皮膚の浅い層にのみ作用する電子線を用いることで、その危険性は最小限に抑えられています6。ただし、原則として小児や妊婦には行われません10。その他、照射部位の皮膚の色素沈着などが起こることがあります。
第5章:【自費診療】レーザー治療などの先進的な選択肢
ここからは、公的医療保険が適用されない自費診療となる治療法を紹介します。標準治療で効果が不十分な場合や、特定の目的(赤みの改善など)のために選択されることがあります。
レーザー治療
効果と方法: ケロイド治療で用いられるレーザーは、主にケロイド内の異常に増えた毛細血管を破壊し、「赤み」を改善することを目的としています6。パルス色素レーザーやロングパルスNd:YAGレーザーなどが使用されます。盛り上がり自体を劇的に改善する効果は限定的で、ステロイド注射など他の治療と組み合わせて行われることが多いです。
費用と注意点: 日本では、ケロイドに対するレーザー治療は健康保険の適用が認められていないため、治療費は全額自己負担となります17。また、注意すべきは「混合診療」の問題です。原則として、同じ日に保険診療(例:診察や薬の処方)と自費診療(レーザー治療)を併用することはできません。レーザー治療を受ける日は、診察料なども含めてすべてが自費扱いとなるのが一般的です10。
その他の治療法
海外を中心に研究・実施されている治療法で、日本ではまだ一般的ではないものも含まれます。
- 5-FU(5-フルオロウラシル)注射: もともとは抗がん剤として使われる薬で、細胞の異常な増殖を抑える作用があります。ステロイド注射と混ぜて使うことで、ステロイド単独よりも高い効果を示したという研究報告が多数あります14。国際的には難治性ケロイドの有力な選択肢の一つです。
- 凍結療法(クライオセラピー): 液体窒素でケロイド組織を凍結させて破壊する治療法です。特に小さなケロイドに有効とされ、ステロイド注射と組み合わせることで効果が高まると報告されています14。ただし、治療後の色素脱失の危険性があります。
- ボトックス注射: 筋肉の動きを抑えることで、皮膚への張力を緩和し、ケロイドの症状(特に痛み)を改善する効果が期待されています10。
これらの治療法は、実施している医療機関が限られるため、希望する場合は事前に確認が必要です。
第6章:【最重要】ケロイド治療の保険適用と費用|全治療法の目安一覧
ケロイド治療を検討する上で、多くの方が最も気になるのが「保険は使えるのか」「費用はどれくらいかかるのか」という点でしょう。前述の通り、医師がケロイド、あるいは日常生活に支障をきたす肥厚性瘢痕と診断した場合、その治療は「病気の治療」と見なされ、多くの治療法が健康保険の適用対象となります10。一方、見た目の改善のみを目的とした傷あと修正や、レーザー治療などの一部の先進治療は自費診療となります10。ここでは、主要な治療法ごとに、保険適用の有無と費用の目安を一覧表にまとめました。治療計画を立てる際の参考にしてください。
治療法 | 保険適用の有無 | 3割負担の場合の費用目安 | 自費の場合の費用目安 | 治療期間・頻度の目安 |
---|---|---|---|---|
内服薬(トラニラスト) | あり11 | 薬剤費:月額 約1,000円~2,000円 | – | 継続的な服用が必要 |
外用薬(ステロイドテープ等) | あり10 | 薬剤費:月額数百円~ | 1枚 約300円~10 | 毎日貼付。数ヶ月~数年 |
ステロイド注射 | あり10 | 1回 約1,000円~3,000円 | 1回 約5,000円~15,000円10 | 月1回程度。3~10回以上 |
シリコーンジェルシート | あり | 薬剤費として処方 | 1枚 約2,000円~5,000円 | 毎日貼付。数ヶ月~ |
手術(瘢痕拘縮形成手術) | あり (機能障害がある場合)15 | 顔面:約40,000円程度 その他:約25,000円程度15 |
範囲により10万円~10 | 1回 |
術後放射線治療 | あり16 | 照射範囲・回数による | – | 手術後数日以内に開始。数回~10回程度 |
レーザー治療 | なし17 | – | 1回 10,000円~(範囲による) | 2~4週間に1回。複数回 |
※注意:上記の費用はあくまで一般的な目安であり、初診料・再診料は別途必要です。また、治療費は医療機関やケロイドの大きさ・部位によって大きく異なります。正確な費用については、必ず受診する医療機関にご確認ください。
第7章:部位別の治療法と注意点
ケロイドは発生する部位によって特徴があり、治療法もそれに合わせて最適化する必要があります。『瘢痕・ケロイド治療研究会 診断・治療指針2018』でも、部位別の治療戦略の重要性が示されています3。
- 耳(耳介・耳垂)
特徴: ピアスが原因で発生することが非常に多い部位です。軟骨の炎症を伴うこともあります。
治療のポイント: 小さなものであればステロイド注射やテープが有効です。手術を行う場合は、単純な切除ではなく「くり抜き法」などが選択されます3。術後は、再発予防のために専用の圧迫イヤリングを長期間装着することが極めて重要です4。 - 前胸部・肩
特徴: 日常の腕の動きや呼吸によって常に皮膚が引っ張られるため(張力がかかるため)、最も発生しやすく、かつ治りにくい部位の一つです9。
治療のポイント: 安静と固定が特に重要になります。ステロイド注射やテープなどの保存的治療を根気強く続ける必要があります。難治性の場合、手術と術後放射線治療の組み合わせが最も効果的な選択肢となります9。 - 腹部(帝王切開や腹部手術のあと)
特徴: 帝王切開などの手術後に発生します。腹筋運動など、お腹に力が入る動作で張力がかかり、悪化する可能性があります9。
治療のポイント: 術後早期からのテープ固定やシリコンジェルシートによる予防が効果的です。発生してしまった場合は、ステロイド外用薬や注射が中心となります。 - 関節部(肘・膝など)
特徴: 関節の曲げ伸ばしにより、皮膚のひきつれ(瘢痕拘縮)を合併しやすい部位です。放置すると関節の動きが制限される可能性があります6。
治療のポイント: 動きを妨げないよう、早期からの治療が重要です。Z形成術など、ひきつれを解除する手術手技が必要になることもあります3。
第8章:ケロイドを悪化させない・作らないための予防とセルフケア
ケロイド体質を自覚している方や、一度ケロイドができた経験のある方は、新たなケロイドを作らないための「予防」と、できてしまったケロイドを悪化させない「セルフケア」が非常に重要です。ここでは、米国皮膚科学会(AAD)などの国際的な指針も参考に、今日から実践できるポイントを解説します4。
予防のために避けるべきこと
- 不要な皮膚へのダメージ: ケロイドの危険性が高い方は、タトゥーやボディピアス(特に耳)は避けるのが賢明です4。美容目的の外科手術なども、その必要性を慎重に検討する必要があります。
- ニキビの放置: ニキビや毛嚢炎は、ケロイドの引き金になります。ニキビができたら放置せず、早期に皮膚科で適切な治療を受け、炎症を長引かせないことが重要です9。
傷ができた時の初期対応
怪我をしてしまった場合は、その直後からのケアが将来の傷あとを左右します。
- すぐに洗浄: まずは水道水と石鹸で傷を優しく洗い、汚れを落とします。消毒液は正常な細胞も傷つけることがあるため、必ずしも必要ではありません4。
- 湿潤環境を保つ: 傷を乾燥させると治りが遅くなり、傷あとが残りやすくなります。ワセリンやハイドロコロイド素材の絆創膏などで傷を覆い、潤った状態を保ちます。
- 傷が治ったらすぐにケアを開始: かさぶたが取れて傷が完全にふさがったら、その直後から予防ケアを開始します。サージカルテープによる固定や、シリコンジェルシートの貼付を毎日、最低でも3ヶ月~半年間は継続することが推奨されます4。
- 紫外線対策: 傷あとに紫外線が当たると、色素沈着を起こして色が濃くなり、目立ちやすくなります。衣服や日焼け止め(SPF30以上)で徹底的に保護しましょう4。
もし傷あとが少しでも赤く盛り上がってくる兆候が見られたら、迷わずすぐに皮膚科や形成外科を受診してください。早期に治療を開始することが、ケロイドへの進行を防ぐ最も有効な手段です2。
よくある質問
Q1: ケロイドと肥厚性瘢痕は、自分で見分けられますか?
Q2: ケロイド治療は何科を受診すればよいですか?
Q3: ケロイド治療は保険適用されますか?
Q4: ケロイドは自分で治せますか?
結論
この記事では、ケロイドの原因から最新の治療法、保険適用や費用、そして予防法に至るまで、科学的根拠に基づいて網羅的に解説してきました。最後に、最も重要なポイントをまとめます。
- ケロイドと肥厚性瘢痕は異なる疾患です。正しい診断が、適切な治療への第一歩です。
- 治療の基本は、ステロイド外用薬や注射、圧迫療法などの「保存的治療」です。これらの治療の多くは健康保険が適用されます。
- 安易な手術は危険です。手術を選択する場合は、再発予防のための放射線治療などを組み合わせることが絶対条件となります。
- 何よりも「予防」と「早期治療」が重要です。傷ができた直後からの正しいケアと、傷あとの変化に気づいたらすぐに専門医に相談する勇気が、ケロイドを防ぐ鍵となります。
ケロイドの治療は、時に根気が必要で、長い時間を要することもあります。しかし、現代の医療技術をもってすれば、その症状は確実に改善できます。一人で悩まず、まずは形成外科または皮膚科の専門医に相談してください。特に、「日本形成外科学会専門医」の資格を持つ医師や、「瘢痕・ケロイド治療研究会」18に所属している医師は、この分野のスペシャリストです。信頼できる医師と共に、最適な治療法を見つけ、悩みのない生活を取り戻しましょう。
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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