【医師監修】妊娠中の便秘:原因の科学的解明と安全な解消法に関する包括的ガイド
妊娠

【医師監修】妊娠中の便秘:原因の科学的解明と安全な解消法に関する包括的ガイド

妊娠中の便秘は、多くの女性が経験する非常に一般的な消化器系の愁訴です。JapaneseHealth.org編集委員会は、この問題が単なる不快な症状ではなく、妊婦の生活の質(QOL)に深刻な影響を与え、不安を引き起こす可能性があることを深く理解しています。本稿では、最新の科学的知見と日本の臨床現場の実情に基づき、妊娠中の便秘の根本原因から、ご家庭で安全に実践できる対策、そして医療機関で受けるべき治療までを包括的かつ詳細に解説します。私たちの使命は、妊婦の皆様とそのパートナーが正確な知識を得て、医師との良好な協力関係のもと、安全で快適なマタニティライフを送るための一助となることです。

この記事の要点まとめ

  • 妊娠中の便秘は妊婦の11%~38%が経験する一般的な症状であり、ホルモンバランスの変化(特にプロゲステロンの増加)と物理的な子宮の圧迫が主な原因です12
  • 対策の第一選択は、薬に頼らない食事と生活習慣の改善です。水溶性・不溶性の食物繊維と十分な水分摂取が基本となります610
  • 日本の食生活では、海藻類からのヨウ素過剰摂取に注意が必要です。食物繊維は多様な食品から摂取し、胎児の甲状腺機能低下症のリスクを避けるべきです2426
  • 市販薬を含め、いかなる薬剤も自己判断で使用せず、必ず医師に相談することが絶対条件です。特に刺激性下剤(センナ、ビサコジル等)は子宮収縮を誘発するリスクがあるため原則禁忌とされています14
  • 薬物療法が必要な場合、医師の監督下で酸化マグネシウムやポリエチレングリコール(PEG)などの浸透圧性下剤が安全な第一選択薬として推奨されます1238

第1章:はじめに – なぜ便秘は妊娠と密接に関係するのか

1.1. 有病率と臨床的定義

妊娠中の便秘は、最も一般的な消化器系の愁訴の一つです。複数の研究によれば、妊婦の約11%から38%が便秘を経験すると推定されています1。厚生労働省の調査でも、便秘は日本の妊婦が定期健診以外で医療機関を受診する一般的な理由の一つとして挙げられています3

臨床的に、便秘は単に排便回数が少ない状態(週3回未満)を指すだけではありません。日本消化器病学会のガイドラインによると、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と広く定義されています4。主な症状には、硬く、コロコロとした便(ブリストル便形状スケールにおけるタイプ1に相当)6、排便時の過度ないきみ、残便感、そして直腸肛門部の閉塞感などが含まれます4

ここで重要なのは、患者の主観的な「便秘感」と臨床的な診断との間に乖離が存在しうることです。日本の妊婦を対象とした最近の研究では、便秘評価スケール(Constipation Assessment Scale, CAS)を用いて評価したところ、臨床的に治療が必要なレベルの便秘スコアが高いにもかかわらず、便秘の自覚がない女性がいる一方で、便秘を自覚していてもスコアは低い女性もいることが示されました9。この事実は、自己判断だけに頼るのではなく、ブリストル便形状スケールのような客観的指標を用いて医師が正確に状態を評価し、適切な治療方針を決定することの重要性を浮き彫りにしています。

1.2. 生活の質(QOL)への影響

便秘は身体的な不快感にとどまらず、不安を引き起こし、日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。ある研究報告によれば、妊娠中の消化器系愁訴としては、吐き気に次いで2番目に多いとされています10。さらに、排便時のいきみは痔の発生や悪化につながることもあり、さらなる苦痛の原因となります8

1.3. 指導原則:母体と胎児の安全性

妊娠中のあらゆる健康問題への対応において、その中心となる原則は、母体の健康と胎児の安全性の両立です。アメリカ消化器病学会(AGA)の最新ガイドラインでも、この点が強調されています12。本稿では、最も安全な介入を優先する段階的アプローチ(ステップトケア)に基づき、便秘の解消法を解説します。医師の診察を受けずに自己判断で市販薬を使用することは、潜在的なリスクを伴うため、強く戒められています14

第2章:生理学的背景 – 妊娠に伴う便秘の「パーフェクト・ストーム」を理解する

妊娠中の便秘は単一の原因によるものではなく、複数の生理的変化が複合的に作用することで引き起こされます。ホルモン、物理的圧迫、生活習慣の変化、そして医原性因子が重なり合うことで、便秘になりやすい「パーフェクト・ストーム」とも言える状況が生まれます。したがって、一つの対策(例:水分補給のみ)では不十分な場合が多く、多角的なアプローチが不可欠となります。

2.1. ホルモンの影響:プロゲステロンによる全身的なスローダウン

妊娠の維持に不可欠なホルモンであるプロゲステロンは、便秘の主要な原因の一つです。このホルモンは全身の平滑筋を弛緩させる作用があり、これには腸の筋肉も含まれます8。腸の筋肉が弛緩すると、便を前方に押し出す蠕動運動が鈍化し、消化管内の通過時間が延長します2。便が腸内に長くとどまることで、大腸で水分が過剰に再吸収され、結果として便は硬く、乾燥し、排出しにくい状態になります2

2.2. 機械的圧迫:増大する子宮

妊娠週数が進むにつれて増大する子宮は、物理的に腸、特に結腸や直腸を圧迫します。この圧迫により、便の通過が遅れたり、妨げられたりすることがあります6

2.3. 食生活とライフスタイルの変化

つわり(悪阻): 妊娠初期の吐き気や嘔吐は、食事や水分の摂取量を著しく減少させる可能性があります。これにより便の量が減り、脱水状態に陥ることで便秘が悪化します11。また、この時期は消化の良い、繊維質の少ない食品を選びがちになることも一因です18

運動不足: 妊娠に伴う不快感、疲労感、腰痛などにより、身体活動量は減少しがちです。運動不足は、腸への機械的な刺激を減少させ、蠕動運動を低下させる原因となります11

2.4. 医原性因子:サプリメントの役割

妊娠中の貧血予防・治療のために一般的に処方される鉄剤は、便秘を引き起こすことでよく知られています6。吸収されなかった鉄分が、便を硬化させる直接的な作用を持つためです。また、カルシウムのサプリメントも便秘の一因となることがあります10

第3章:基本的な戦略 – 食事と生活習慣による第一選択の対策

便秘治療の第一選択は、薬物を用いない食事と生活習慣の改善です10。これらの基本的な対策は、安全かつ効果的な便秘解消の土台となります。

3.1. 腸の規則性を保つための食事設計

食物繊維の二つの力: 水溶性と不溶性、両方の食物繊維をバランス良く摂取することが不可欠です。成人女性の1日の推奨摂取量は約18gから25gとされています6

  • 不溶性食物繊維: 便のかさを増やし、腸壁を刺激して蠕動運動を促進します。ごぼうなどの根菜類、全粒穀物、豆類、きのこ類に多く含まれます6
  • 水溶性食物繊維: 水分を吸収してゲル状になり、便を柔らかくします。果物、にんじんやキャベツなどの柔らかい野菜、海藻類に豊富です6

水分補給: 食物繊維が効果的に機能するためには、十分な水分が不可欠です。1日に1.5リットルから2リットルの水分摂取を目指しましょう17。特に、起床時にコップ一杯の水(または白湯)を飲むことは、胃結腸反射を誘発し、腸の動きを活発にするのに役立ちます6

腸内細菌叢(マイクロバイオーム): ヨーグルト、味噌、納豆などの発酵食品を食事に取り入れることで、プロバイオティクス(善玉菌)を補給できます。これらは腸内環境のバランスを整え、腸の運動性を改善する助けとなります6

3.2. 特別解説:和食とヨウ素 – 海藻からの食物繊維摂取と胎児の健康のバランス

一般的な健康指導では食物繊維の摂取が推奨されますが、日本の食文化に特有の注意点が存在します。それは、海藻類からのヨウ素の過剰摂取リスクです。この点を理解せずに「食物繊維を増やす」ことだけを考えると、意図せず胎児にリスクをもたらす可能性があるため、専門的な知識が求められます。

  • ジレンマ: わかめや昆布などの海藻類は、優れた水溶性食物繊維の供給源ですが、同時にヨウ素(ヨード)の含有量が非常に高い食品です24
  • リスク: ヨウ素は胎児の発育に必須の栄養素ですが、妊娠中に過剰摂取(日本の食事摂取基準2020年版における成人の耐容上限量は3,000µg/日)すると、胎盤を通過して胎児の甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります26
  • 推奨事項: 食物繊維の供給源を海藻類だけに頼らず、野菜、果物、豆類など多様な食品から摂取することが重要です。海藻を食べる際は量に注意し、特にヨウ素含有量の多い昆布は、出汁(だし)として少量使う程度にとどめ、毎日大量に食べることは避けましょう25。出汁には昆布だしではなく鰹だしを用いる、乾燥わかめよりも水で戻して洗浄する生わかめを使うなどの工夫で、ヨウ素の摂取量をある程度減らすことができます26

3.3. 運動と生活習慣

安全な運動: ウォーキング、マタニティヨガ、水泳などの適度な運動は、腸を刺激し排便を促します6。運動を開始する前、特に妊娠中期以降は、必ず医師の許可を得てください17

行動療法:

  • 体の自然なリズムを利用するため、朝食後など決まった時間にトイレに座る習慣をつけましょう。便意がなくても数分間座ることで、排便のリズムが整いやすくなります11
  • 便意を感じたら、決して我慢しないことが大切です14

手技療法:

  • お腹を時計回りに「の」の字を描くように優しくマッサージすることは効果的な場合がありますが、強い圧迫は避け、切迫早産のリスクがある場合や子宮の張りを感じる場合は行わないでください22
  • 手の甲にある「合谷(ごうこく)」などのツボを刺激することも、腸の動きを助ける一助となる可能性があります22

第4章:下剤の臨床ガイド – 安全な薬物療法(第二選択)

4.1. 黄金律:医師への相談という不可欠なステップ

市販薬(OTC医薬品)やサプリメントを含め、いかなる薬を使用する前にも、医師または薬剤師への相談が絶対条件です14。自己判断による薬の使用は、妊娠に予期せぬリスクをもたらす可能性があるため、極めて危険です15

表1:妊娠中に使用される下剤の比較分析
下剤の種類 作用機序 主な製品例(日本/海外) 妊娠中の安全性プロファイル 主な臨床的注意点・副作用
浸透圧性下剤 腸管内に水分を引き込み、便を軟化させ、容積を増大させる。 酸化マグネシウム(マグラックス, マグミット)、ポリエチレングリコール (PEG)(モビコール, MiraLAX)、ラクツロース(Cholac) 推奨される第一選択の薬物療法 全身への吸収がごく微量で安全性が高い。十分な水分摂取が必要。酸化マグネシウムは腎機能障害のある患者には注意が必要。PEGは他の浸透圧性下剤に比べ、腹部膨満や下痢を起こしにくい可能性がある。10
膨張性下剤 水分を吸収して便の体積を増やし、蠕動運動を刺激する。 サイリウム(Metamucil)、ポリカルボフィル(FiberCon) 一般的に安全と見なされる 全身に吸収されない。腹部膨満、ガス、痙攣の原因となることがある。閉塞を避けるため、多量の水と共に服用する必要がある。10
便軟化剤 界面活性剤として作用し、便に水分と脂肪が浸透しやすくする。 ジオクチルソジウムスルホサクシネート(Colace, Surfak) 一般的に安全と見なされるが、有効性には議論がある 吸収はごくわずか。一部の研究ではプラセボ以上の効果がない可能性が示唆されている。10
刺激性下剤 結腸の神経叢を直接刺激し、腸の運動を亢進させる。 センナ/センノシド(アローゼン, プルゼニド)、ビサコジル(Ducodyl, コーラック) 使用には細心の注意が必要 / 原則禁忌 腹痛のリスクが高い。子宮収縮を誘発し、流産や早産のリスクとなる可能性がある。他の選択肢が無効な場合に限り、厳格な医師の監督下で、短期間・頓用でのみ使用を検討。8
潤滑性下剤 便の表面を覆い、通過を容易にする。 ミネラルオイル(流動パラフィン) 非推奨 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)の母体での吸収を阻害する。8
上皮機能変容薬 イオンチャネルを介して腸管への水分分泌を促進する。 ルビプロストン(アミティーザ) 禁忌 妊婦への投与は禁忌と明確に規定されている。7

4.2. 推奨される下剤の詳細分析

浸透圧性下剤(現代の第一選択薬):

  • 酸化マグネシウム: 日本では妊娠中の便秘に対して最も一般的に処方される薬剤の一つです36。腸内の水分保持によって作用し、吸収されにくいため安全とされていますが、十分な水分摂取が効果発現の鍵となります41。高用量や腎機能が低下している場合、理論的には高マグネシウム血症のリスクがあるため、医師の指導下で使用する必要があります4
  • ポリエチレングリコール(PEG): 近年、より推奨される選択肢となっています。日本の前向きコホート研究では、PEGは酸化マグネシウムと同等の安全性を示し、周産期予後や副作用に有意差はなかったものの、下痢を誘発することなく便秘を緩和する傾向があり、妊婦にとって非常に適切な治療選択肢であると結論付けられています38。国際的なガイドラインでも推奨されています12

膨張性下剤(安全な伝統的選択肢):

  • サイリウムなどの薬剤は体内に吸収されず、長期使用においても安全と考えられています10。ただし、腹部膨満感やガスを引き起こす可能性があり、効果的かつ安全に使用するためには多量の水分摂取が必須です10

便軟化剤(安全だが効果が不確実な選択肢):

  • ジオクチルソジウムスルホサクシネートは吸収がごく微量なため安全とされています10。しかし、その有効性についてはシステマティックレビューで疑問が呈されており、プラセボ(偽薬)と比較して優位な効果がない可能性が指摘されています39。より安全で効果的な薬剤が利用可能である現在、この点を理解しておくことは重要です。

第5章:厳重な注意または回避が必要な薬剤

5.1. 刺激性下剤:高リスクカテゴリー

刺激性下剤は、その作用機序から妊娠中には特別な注意を要します。安易な自己判断での使用は絶対に避けるべきです。

  • リスクのメカニズム: センナ、センノシド、ビサコジルといった薬剤は、大腸の神経叢を直接刺激して強力な蠕動運動を誘発します40。この強い刺激が、隣接する子宮の筋肉にも波及し、子宮収縮を引き起こすことで、流産や早産のリスクを高める可能性があります14
  • 「原則禁忌」という警告の重み: 日本の医薬品添付文書(例:アローゼン、プルゼニド)に見られるこの言葉は、絶対的な禁止を意味するものではありませんが、極めて強い警告です14。これは、リスクが相当に高く、可能な限り使用を避けるべきであることを示しています。この言葉の背景には、リスクとベネフィットを天秤にかける複雑な臨床判断があります。例えば、重度の便秘による糞便塞栓(便が固まって腸を塞ぐ状態)のリスクが、薬剤使用のリスクを上回ると医師が判断した場合にのみ、限定的かつ短期的に使用が検討されることがあります。この判断は患者自身では決してできず、専門家による厳格な管理が不可欠です。
  • エビデンス: コクラン・レビューでは、刺激性下剤は膨張性下剤よりも便秘改善効果が高い一方で、腹部不快感や下痢といった副作用が有意に増加することが示されています35

5.2. その他の禁忌または非推奨の薬剤

  • ルビプロストン(アミティーザ): この比較的新しい処方薬は、妊婦への使用が明確に禁忌とされており、必ず避けなければなりません7
  • ミネラルオイル(流動パラフィン): 胎児の発育に不可欠な脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の母体での吸収を妨げる可能性があるため、使用は推奨されません8
  • ヒマシ油(Castor Oil): 子宮収縮を刺激することが知られている伝統的な刺激性下剤であり、避けるべきです13
  • ハーブティーや「デトックス」ティー: これらの製品の多くは、センナなどの刺激性下剤が成分表示なく含まれていたり、妊娠中の安全性が不明なハーブを含んでいたりします。「痩せるお茶」なども同様であり、全面的に避けるべきです40。大黄を含む一部の漢方薬も同様のリスクから推奨されていません2

第6章:セルフケアと医療相談の進め方

6.1. レッドフラッグの認識:直ちに医療機関を受診すべき時

便秘が激しい腹痛を伴う場合、下痢と便秘を繰り返す場合、あるいは粘液や血液が便に混じる場合は、より深刻な問題の兆候である可能性があるため、速やかに医師に連絡してください8

6.2. 医師の診察に備えて

有益な診察を受けるために、以下の情報を整理しておくと良いでしょう。

  • 症状の詳細(排便頻度、ブリストル便形状スケールを用いた便の形状、いきみの有無など)6
  • 症状がいつから始まったか、どのくらいの期間続いているか7
  • 現在の食事内容、水分摂取量、運動習慣6
  • 妊娠ビタミンや鉄剤を含む、服用中のすべての薬剤とサプリメントの完全なリスト6

6.3. 監督なしでの市販薬使用の危険性

医師の指導を受けずに市販薬を使用することには、安全でない薬剤(特に刺激性下剤)を選択してしまうリスク、不適切な用量で使用するリスク、より重篤な基礎疾患の発見を遅らせるリスク、そして下剤への依存を生み出すリスクなどが伴います14。日本の多くの市販薬のパッケージには、妊婦は使用前に医師に相談するよう明記されています31

健康に関する注意事項

本記事で提供する情報は、一般的な知識の提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。特に妊娠中は、身体の状態が刻々と変化します。便秘の症状が改善しない場合、または悪化する場合には、自己判断で対処を続けるのではなく、かかりつけの産婦人科医や専門医に必ずご相談ください。安全な妊娠期間を過ごすために、専門家との連携が不可欠です。

よくある質問

Q1: 妊娠中の便秘でいきむと、赤ちゃんに影響はありますか?

通常の排便のための軽度ないきみであれば、通常は胎児に直接的な悪影響はありません。しかし、硬い便を無理に排出しようとする過度ないきみは、腹圧を高め、痔の悪化や切迫早産のリスクを高める可能性があります8。重要なのは、いきまなくてもスムーズに排便できるような便の状態にすることです。食事や水分摂取の工夫で便を柔らかくすることが根本的な解決策となります。

Q2: 薬局で買える便秘薬(市販薬)を使ってもいいですか?

自己判断での市販薬の使用は絶対に避けてください14。市販の便秘薬の中には、妊娠中には使用すべきでない刺激性下剤(センナ、ビサコジルなど)が含まれているものが多くあります40。安全とされる酸化マグネシウムを含む製品もありますが、適切な用法・用量で使うためには医師の診断が不可欠です。必ず購入前に医師または薬剤師に相談してください。

Q3: 食物繊維をたくさん摂っているのに便秘が改善しません。なぜですか?

食物繊維が効果を発揮するためには、十分な水分摂取が不可欠です17。水分が不足した状態で不溶性食物繊維ばかりを多く摂ると、かえって便が硬くなり、便秘が悪化することがあります。1日1.5〜2リットルの水分を目安に、水溶性食物繊維(果物、海藻など)と不溶性食物繊維(根菜、全粒穀物など)をバランス良く摂ることが重要です6。それでも改善しない場合は、ホルモンの影響など他の要因が強いため、医師に相談し薬物療法を検討する必要があります。

Q4: 妊娠初期から便秘がひどいのですが、いつまで続きますか?

便秘の期間には個人差がありますが、妊娠初期はプロゲステロンホルモンの影響で特に便秘になりやすい時期です8。妊娠中期になると一旦改善する人もいますが、後期になると増大した子宮による圧迫で再び悪化することもあります6。出産後、ホルモンバランスが正常に戻ると自然に解消されることが多いですが、妊娠期間を通じて適切なケアを続けることが大切です。

結論 – 健康で快適な妊娠のための積極的なパートナーシップ

7.1. 段階的アプローチの要約

妊娠中の便秘に対する最も効果的かつ安全な戦略は、明確な階層に従います。

  1. 基盤: 食事と生活習慣の改善(食物繊維、水分、運動)。これは全ての対策の土台です。
  2. 薬物療法(必要な場合): 医師の推奨に基づき、浸透圧性下剤や膨張性下剤といった最も安全な選択肢から開始する。
  3. 厳格な回避: 専門医がやむを得ない理由で処方した場合を除き、自己判断で刺激性下剤などの高リスクまたは禁忌の薬剤は避ける。

7.2. パートナーシップの重要性

便秘は管理可能な症状です。安全で快適な妊娠期間を過ごすための鍵は、医療チームとのオープンで積極的なパートナーシップにあります。自身の症状や懸念を率直に伝えることで、あなたにとって効果的であり、かつ赤ちゃんにとって安全なケアを受けることができます14。この包括的なガイドが、皆様の健康なマタニティライフの一助となることを心より願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Shin GH, Toto EL, Schey R. Pregnancy and postpartum bowel changes: constipation and fecal incontinence. Am J Gastroenterol. 2015;110(4):521-9. (Source cited in Pharmacy Times, A Pharmacist’s Guide to Managing Constipation in Pregnancy)
  2. Tsuchiya M, Tsuchiya A, Waseda T, et al. No association between major congenital malformations and exposure to Kampo medicines containing rhubarb rhizome: A Japanese database study. Front Pharmacol. 2023;14:1134594. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10073577/
  3. 厚生労働省. 妊産婦の医療や健康管理等に関する調査 <結果概要>. 2018. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000502228.pdf
  4. 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会. 慢性便秘症の 診断と治療. 2018. Available from: https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2018/04/13b2c4a30c57df49b25ebdd300772f07.pdf
  5. 望田 愛子. 妊娠に伴う女性の便秘(Vol.9 No.2 最新医学レポート). よりぬき産婦人科トピックス. Available from: https://med.mochida.co.jp/useful/obstetricsandgynecology/yorinuki_sanfujinka_topics/topic_14.html
  6. Shiha G, Hamza M, Zaytoun A, El-Mogy H, El-Ghanam M, Abdeen A. Evaluation and treatment of constipation in pregnancy: Examination using the Japanese version of the constipation evaluation scale. JGH Open. 2024;8(3):e13100. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10867430/
  7. Trottier M, Erebara A, Bozzo P. Treating constipation during pregnancy. Can Fam Physician. 2012;58(8):836-8. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3418980/
  8. American Pregnancy Association. Relieving Constipation During Pregnancy. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://americanpregnancy.org/healthy-pregnancy/pregnancy-health-wellness/constipation-during-pregnancy/
  9. Cheng P, Trilogy Lau C, Funch-Husson P, et al. AGA Clinical Practice Update on Pregnancy-Related Gastrointestinal Motility Disorders: Expert Review. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;S1542-3565(24)00650-3. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39140906/
  10. トーチクリニック. 妊娠初期に便秘を引き起こす原因|解消法や市販薬を使用する際の注意点も解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.torch.clinic/contents/1908
  11. アカチャンホンポ. 【助産師執筆】妊娠18週 便秘がつらい…実は困っている妊娠中のお通じ事情. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.akachan.jp/topics/midwife/journal_m18/
  12. わかもと製薬. 妊婦の便秘解消法は?妊娠中の便秘が胎児(赤ちゃん)に与える影響についても解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.wakamoto-pharm.co.jp/tips/intestine-body/constipation-in-pregnant-women/
  13. ポアン鍼灸院. 妊娠中(妊娠初期)の便秘でお腹がパンパンで気持ち悪い!すぐ出したい!. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.ponshinkyuu.com/blog/ninnsinnchuunobenpisugudasitai/
  14. アクアクララ. 【医師監修】妊婦さん向けのおすすめの便秘解消方法を紹介!. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.aquaclara.co.jp/kosodate/column/column04.html
  15. 楽天市場 Mama’s Life. 医師監修|妊婦はわかめを食べても大丈夫?目安量と注意点をご紹介. [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://event.rakuten.co.jp/family/story/article/2023/seaweed-during-pregnant/
  16. 大正製薬. 妊娠中だからこそ知っておきたい! 妊婦のための便秘対策. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://brand.taisho.co.jp/colac/benpi/006/
  17. ヒロクリニック. 妊娠中の便秘、どう改善する?【医師監修】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.hiro-clinic.or.jp/nipt/pregnancy-constipation/
  18. ステムセル研究所. 妊婦さんは便秘薬を使っても大丈夫?薬に頼らない5つの解消法や体験談も紹介. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://stemcell.co.jp/column/%E6%B0%97%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E4%BE%BF%E7%A7%98%E3%80%82%E5%A6%8A%E5%A9%A6%E3%81%A7%E3%82%82%E4%BE%BF%E7%A7%98%E8%96%AC%E3%81%A3%E3%81%A6%E9%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7%E8%89%AF%E3%81%84%E3%81%AE/
  19. 北見薬剤師会. No.184. 薬に関するQ&A. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: http://www.kitayaku.or.jp/kpa2/topic/SDICQA184.pdf
  20. 松本赤十字病院. 母親学級クラス ~お薬について~ 薬剤師から. [インターネット]. 2020. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.med.jrc.or.jp/Portals/0/images/hospital/clinic/center/perinatal/kusuri_202004.pdf
  21. 聖隷浜松病院. ゆりかご 妊娠中のおくすり. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.seirei.or.jp/hamamatsu/media/ninpu_yurikago.pdf
  22. Shiha G, Hamza M, Zaytoun A, El-Mogy H, El-Ghanam M, Abdeen A. Evaluation and treatment of constipation in pregnancy: Examination using the Japanese version of the constipation evaluation scale. JGH Open. 2024;8(3):e13100. (Reference to the prospective cohort study comparing PEG and magnesium oxide). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38267029/
  23. Bashir A, Sizar O. Laxatives. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537246/
  24. 日本東洋医学会. 慢性便秘症診療ガイドライン 2017. 2017. Available from: http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/cpg/pdf/Issue/TypeA/20171010.pdf
  25. Rungsiprakarn P, Laopaiboon M, Sangkomkamhang US, Lumbiganon P. Interventions for treating constipation in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2022;3(3):CD011446. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8958874/
  26. The Organization of Teratology Information Specialists (OTIS). Laxatives. MotherToBaby Fact Sheets. [インターネット]. 2022. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK582783/
  27. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). アロエ 便秘薬 添付文書. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/otc/PDF/J1201000308_04_A.pdf
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ