【医師監修】妊娠中の水っぽいおりもの完全ガイド：正常な変化と危険なサインの見分け方

第1部：妊娠期のおりものの正常な変化（生理的帯下）

妊娠という特別な期間を通じて、母体は育ちゆく胎児を慈しみ、保護するために数え切れないほどの変化を遂げます。その中でも、最も一般的で自覚しやすい変化の一つが、腟からの分泌物、すなわち「おりもの」の量が著しく増加することです。ほとんどの場合、この現象は病気や不衛生の兆候ではなく、妊娠が順調に進むよう身体が健康的に適応している証左なのです¹。この生理的な変化の本質を深く理解することは、不必要な心配を減らし、正常と異常の境界線を正しく見極めるための重要な第一歩となります。

1.1. 変化の理由：生理的要因がもたらす変化の仕組み

妊娠中におりものが増加する根本的な原因は、エストロゲンとプロゲステロンを中心としたホルモン濃度の劇的な変動にあります³。特に、高レベルに維持されるエストロゲンは、骨盤領域（腟や子宮頸部を含む）への血流を促進する上で中心的な役割を果たします。この増大した血液循環は、子宮頸部や腟壁に存在する粘液腺の働きを活発化させ、結果として通常よりも多くの分泌物が産生されるのです⁵。
このおりものの増加は、決して無駄な現象ではありません。それは極めて重要な保護機能を担っています。豊富な分泌物は産道を常に清潔に保ち、古くなった細胞や常在菌を腟から洗い流す助けとなります²。さらに重要なのは、これが保護的なバリアを形成し、腟から子宮へと細菌やその他の病原体が遡上するのを防ぎ、それによって胎児と羊膜腔の無菌環境を守ることです²。したがって、おりものが増えることは、自然な防御機構であり、妊娠が正常に進行している健全な兆候と見なすことができるのです²。

1.2. 「正常」の定義：健康な妊娠期のおりものの特徴

生理的なおりものと病的な兆候を区別するためには、妊婦が正常なおりものの以下の特徴に注意を払うことが不可欠です。

• 量 (Volume): おりものの量は妊娠期間を通じて著しく増加し、通常は妊娠中期および後期に最も多くなります。下着のクロッチ部分が湿るほど多くなるのは、ごく一般的なことです¹。一部の調査では、80%以上の妊婦がこの増加を認識していると報告されています¹。逆に、妊娠中におりものが増加しない、あるいは減少するのは稀なケースです¹。
• 性状 (Seijō – せいじょう): 妊娠中の正常なおりものの最も重要な特徴の一つは、水っぽく、粘り気がないことです。日本の医学文献では、この質感を表現するために「サラサラ」という言葉がよく用いられます。これは、液体状で流れやすく、粘稠ではない感覚を指します¹。おりものはまた、薄い牛乳や卵の白身のようだと表現されることもあります¹。これは、妊娠していない周期の黄体期（月経前）に見られる粘り気のあるおりものとの主な違いです¹。まさにこの「水っぽさ」が、時に破水との混同や不安を引き起こす原因となります。
• 色 (Iro – いろ): 正常なおりものの色は、透明、乳白色、または薄いクリーム色であるべきです¹。下着の上で乾燥すると、わずかに黄色がかることがありますが、これも正常と見なされます¹。
• 匂い (Nioi – におい): 健康な妊娠期のおりものは、通常無臭であるか、ヨーグルトのようなわずかに甘酸っぱい香りがすることがあります¹。このかすかな酸性の匂いは、腟内環境が健康的な酸性に保たれている良い兆候です。これは乳酸菌（ラクトバチルス）によって維持され、有害な細菌の増殖を抑制するのに役立ちます。

1.3. 変化の時系列：各妊娠期間で知っておくべきこと

• 妊娠初期 (First Trimester): おりものの増加は非常に早い時期から始まることが多く、時には月経の遅れに気づく前に現れる「妊娠超初期症状」の一つと見なされることもあります²。この段階では、おりものは水っぽく、液体状である傾向があります³。
• 妊娠中期 (Second Trimester): おりものの量は通常、増え続けます。この時期は、急速に成長する胎児を感染の危険から守るために、身体が自然な保護メカニズムを強化する段階です⁷。
• 妊娠後期 (Third Trimester)（特に臨月）: おりものの量は通常、ピークに達します。その性質は変化し、より粘液質になることがあります。この変化は、妊娠期間中ずっと子宮頸管を塞いでいた「粘液栓」が剥がれ落ちることによる可能性があります¹¹。粘液栓の排出は、身体が出産の準備を始めている兆候の一つです。

水っぽいおりものの増加が病的なものではなく、胎児を守るための生理的な適応であると認識することは、妊婦の不安を大幅に軽減することができます。即座に「何かがおかしい」と考える代わりに、これが保護機構であると理解することは、より安定した心理状態を育む助けとなります。そこから、妊婦は落ち着いて異常な兆候をより効果的に見分けることができるようになるのです。

第2部：生命を左右する鑑別：水っぽいおりものと破水

多量の水っぽいおりものは正常である一方で、妊婦がこの症状に警戒し、注意深く評価しなければならない最も重要な理由は、羊水の漏出、すなわち「破水」の可能性を排除するためです³。これは生命を左右する鑑別であり、診断と対処の遅れは母子双方に深刻な結果をもたらす可能性があります。

2.1. 鑑別の重要性：前期破水（PPROM）を理解する

破水（はすい）とは、胎児を包む羊膜が破れ、羊水が外に流れ出す状態です⁴。この現象が陣痛開始前に起こる場合を「前期破水（PROM）」と呼びます。もしこれが妊娠37週未満で起これば、その状態は「前期早産期破水（PPROM）」と呼ばれます。
羊膜嚢と羊水は、胎児を外部環境から守る無菌のバリアとして機能します。羊膜が破れると、腟内の細菌が子宮内に侵入するための開かれた経路ができてしまい、母体には絨毛膜羊膜炎、新生児には新生児敗血症といった重篤な感染症を引き起こす可能性があります。さらに、破水はしばしば早産を引き起こすきっかけとなります⁴。したがって、破水の疑いが少しでもあれば、それは直ちに評価を必要とする医療上の緊急事態と見なされます。

2.2. 「高位破水」という診断上の挑戦

子宮頸部に近い低い位置で完全に破水が起きた場合、大量の水が突然、勢いよく流れ出るため、通常は見間違うことはありません¹¹。しかし、診断上の大きな挑戦となるのが「高位破水（こういはすい）」です。これは、羊膜が子宮の上部、子宮頸部から離れた位置に小さな裂け目を持つ状態を指します⁵。
高位破水では、羊水はゆっくりと、断続的に、そしてしばしばごく少量ずつ漏れ出します。日本語ではその様子を「ちょろちょろ」という言葉で表現します¹¹。この遅くて少ない流れは、生理的な水っぽいおりものや、妊娠中に非常に多い尿漏れと極めて混同されやすいのです⁵。

2.3. 比較ガイド：羊水、おりもの、尿の見分け方

妊婦が初期的な判断を下す助けとなるよう、これら3種類の液体の特徴を比較することは非常に重要です。

• 流れ方・コントロールの可否: 羊水の漏出は意図せず起こる現象であり、骨盤底筋を収縮させる（尿を我慢するように）ことでコントロールすることはできません。羊水は、特に体勢を変えたり、咳をしたり、歩いたりすると、じわじわと漏れ出し続けることが多いです¹³。尿漏れ（腹圧性尿失禁）も一般的ですが、通常は咳、くしゃみ、笑いなど、腹部に圧力がかかる瞬間に起こります¹⁵。おりものも継続的に出ることがありますが、「流れ出る」や「止まらない」という感覚は通常ありません¹³。
• 量: 完全な破水では量は多く、間違えようがありません。高位破水では、持続的な湿り気を感じる程度で、おりものシートが手放せなくなることもあり、量としては多量のおりものと非常によく似ています⁸。
• 色: 典型的な羊水は水のように無色透明で、時にわずかに黄色がかっていたり、小さな白い浮遊物（胎脂）が混じったりすることがあります⁸。尿は通常黄色です。生理的なおりものは乳白色またはクリーム色です³。
• 匂い: これは最も重要な鑑別要素の一つです。羊水は通常無臭であるか、わずかに甘い匂いや特有の生臭い匂い（精液に似た匂い）がすることがあります⁸。羊水には、尿特有のアンモニア臭は絶対にありません¹³。正常なおりものは、わずかに甘酸っぱい匂いか無臭です⁷。
• 感覚: 多くの女性が、羊水が流れ出る感覚を「温かい」と表現します⁸。

2.4. 行動すべき時：不変のルール

最も重要で核となるメッセージは、「少しでも疑いがあれば、直ちに検査を受ける」ということです。自己診断、特に高位破水に関しては、極めて困難であり信頼できません⁵。
妊婦は自宅で簡単なテストを試みることができます。まずトイレで膀胱を空にし、清潔なナプキンを当て、30分から60分ほど横になって休み、その後立ち上がってみます。立ち上がった際に少量の液体が流れ出た場合、それは腟内に溜まっていた羊水が重力の影響で流れ出た兆候かもしれません。
直ちに行動を： 以下のいずれかの状況に遭遇した場合、妊婦は直ちに医師、助産師、または病院の分娩室に電話しなければなりません。

• 突然、大量の水が勢いよく流れ出た。
• 量がどれほど少なくても、コントロールできない透明な液体が継続的に漏れ出る感覚がある⁵。

検査の結果、単なるおりものや尿漏れであったとしても、それはそれで良いのです。潜在的な破水のケースを見逃すことの方が、はるかに危険です¹⁸。

2.5. 医療機関での破水診断

妊婦が戸惑わないように、病院での診断プロセスを簡単に説明しておくことが有益です。

• 腟鏡診: 医師は滅菌された腟鏡（クスコ）を用いて子宮頸部を観察し、腟内に羊水が溜まっているか、または子宮頸管の開口部から流れ出ているかを確認します。
• pH検査: 正常な腟内は酸性環境（pH 4.5～6.0）ですが、羊水はアルカリ性（pH 7.0～8.5）です¹⁹。医師は滅菌された試験紙を用いて腟内の液体のpHを検査します。
• ニトラジンテスト（エムニケーター）: ニトラジンイエローという色素を染み込ませた試験紙や綿棒が使われます。アルカリ性の液体（pH 6.4-6.8）に触れると、緑から紺色に変化し、破水を示唆します¹⁹。ただし、血液や精液が混入している場合、または特定の感染症がある場合には偽陽性となることがあります。
• BTB（ブロモチモールブルー）テスト: 同様にpHに基づく検査です¹⁹。
• アムニシュア（AmniSure）テスト: これはより感度と特異度の高い最新の免疫学的検査です。羊水中に高濃度で存在するが、正常な腟分泌物中にはほとんど存在しないPAMG-1（胎盤性α-マイクログロブリン-1）というタンパク質を検出します。破水の確定診断に非常に信頼性の高い方法です。
• シダ状結晶形成テスト（Ferning test）: 採取した液体をスライドガラスに塗り、乾燥させます。羊水は乾燥すると結晶化し、顕微鏡下でシダの葉のような特徴的な模様を形成します。

第3部：おりものが感染症を告げる時：妊娠中の腟炎ガイド

破水と並んで、おりものの変化を引き起こすもう一つの重要な原因が腟感染症です。これらの病状を早期に認識し治療することは、母子双方の健康を確保するために不可欠です。

3.1. 妊娠中の腟：敏感な環境

妊娠中の女性が腟感染症にかかりやすい主な理由は2つあります。

• ホルモンの変化: エストロゲンをはじめとするホルモンの変動は、腟粘膜の細胞内のグリコーゲン（糖の一種）の量を増加させ、pHを変化させることがあります。これは特定の微生物、特にカンジダ酵母の過剰な増殖にとって好都合な環境を作り出します²¹。
• 相対的な免疫抑制状態: 妊娠は生理的な免疫抑制状態です。母体の免疫系は、遺伝的に「異物」である胎児を「攻撃」しないように意図的に弱く機能します。この状態は、意図せずして病原体に対する身体の防御能力を低下させ、感染症が発症しやすくなる原因となります¹。

未治療の腟感染症は、不快感を引き起こすだけでなく、前期破水、早産、そして分娩時の新生児への感染といった、妊娠に対する真のリスクにつながる可能性があります⁵。

3.2. 細菌性腟症 (Bacterial Vaginosis – BV)

本質: これは伝統的な意味での感染症ではなく、腟内の正常な微生物叢のバランスが崩れる状態です。有益な乳酸菌が減少し、ガードネレラ菌などの嫌気性菌群が過剰に増殖します²⁶。これは異常なおりものの最も一般的な原因です²⁷。

• 症状:
  • おりもの: 通常、水っぽく、均一で、灰白色をしています¹。
  • 匂い: 魚が腐ったような特有の生臭い匂い（生臭い）が特徴で、性交後により強くなることがあります¹。
  • その他の症状: BVは通常、著しいかゆみや刺激を引き起こしません²⁷。多くの場合、明確な症状がないこともあります²⁶。
• 妊娠中のリスク: BVは、早産、前期破水、産後の子宮内膜炎など、妊娠の有害な転帰と密接に関連しています²³。
• 診断: アムゼルの診断基準（4つのうち3つ以上を満たす必要がある）に基づきます：(1) 薄く、均一な灰白色のおりもの、(2) 腟のpH > 4.5、(3) ワイフテスト陽性（おりものにKOH溶液を滴下すると魚臭が発生）、(4) 顕微鏡下でクルーセル（細菌が密集して付着した腟上皮細胞）の確認³⁰。
• 妊娠中の治療（日本産科婦人科学会/ACOG/CDCのガイドラインによる）:
  • 症状のある妊娠中のBVは、常に治療が必要です²⁷。
  • 安全で標準的な治療法は経口抗生物質です²³。
  • メトロニダゾール: 500mgを1日2回、7日間経口投与²³。
  • クリンダマイシン: 300mgを1日2回、7日間経口投与²⁹。
  • 腟内投与製剤（ゲル/錠剤）も、特に日本では一般的に使用されますが²³、一部のガイドラインでは潜在的な上部性器路感染を治療するために経口療法が優先されます²³。
  • 妊娠初期のメトロニダゾール使用はかつて議論がありましたが、大規模な研究では先天性異常のリスク増加は示されず、現在では適応がある場合には安全に使用できると考えられています²³。

3.3. カンジダ腟炎 (Vaginal Candidiasis)

本質: 腟内に常在する微生物であるカンジダ・アルビカンス酵母の過剰増殖です³⁴。妊娠は発症の主要な危険因子です¹。

• 症状:
  • おりもの: 白く、固まりがあり、しばしばカッテージチーズや酒粕（さけかすじょう）のようだと表現されます¹。このおりものは通常、無臭です。
  • 主な症状: 外陰部と腟の激しいかゆみ（掻痒感）とヒリヒリ感です¹。発赤や腫れを伴うこともあります。
• 妊娠中のリスク: BVほど早産との関連は強くありませんが、カンジダ感染は極度の不快感を引き起こします。母親が出産時に感染している場合、新生児が口腔カンジダ症（鵞口瘡 – がこうそう）を発症する可能性があるため²²、出産前の完治が推奨されます²¹。
• 診断: 症状、正常な腟pH (<4.5)、そしてKOH溶液を滴下した後の顕微鏡検査で酵母の胞子や偽菌糸が観察されることに基づいて行われます²¹。
• 妊娠中の治療（日本産科婦人科学会/ACOG/CDCのガイドラインによる）:
  • 局所療法が標準治療です。経口抗真菌薬（フルコナゾール/ジフルカンなど）は、特に妊娠初期や高用量での使用において、先天性異常や流産との関連が示唆されているため、通常は避けられます³³。
  • 推奨される治療法は、アゾール系抗真菌薬（クロトリマゾール、ミコナゾールなど）を含むクリームまたは腟錠で、妊娠中は最良の効果を得るために7日間の十分な期間の治療が推奨されます²¹。
  • 妊娠中の市販薬の自己判断による使用は推奨されません。医師による診断が不可欠です²²。

3.4. 腟トリコモナス症 (Trichomoniasis)

本質: 寄生虫である腟トリコモナス原虫によって引き起こされる性感染症（STI）です。

• 症状:
  • おりもの: 量が多く、泡立ちがあり、水っぽく、黄緑色または灰色をしています¹。
  • 匂い: しばしば非常に強い悪臭や生臭い匂いを伴います¹。
  • その他の症状: 排尿時や性交時のかゆみ、刺激、痛みを引き起こすことがあります。診察では「イチゴ状子宮頸」（子宮頸部表面の小さな赤い斑点）が見られることがあります。
• 妊娠中のリスク: 前期破水、早産、低出生体重児のリスク増加と関連があります⁴²。
• 妊娠中の治療:
  • 治療が推奨されます。メトロニダゾールが選択薬です²³。
  • メトロニダゾール2gの単回経口投与が一般的で、妊娠のどの段階においても安全であると考えられています³³。
  • 再感染を防ぐために、性的パートナーの同時治療が極めて重要です²⁸。

3.5. その他の性感染症：クラミジアと淋病

関連性: 「水っぽいおりもの」の典型的な原因ではありませんが、特にクラミジアは腟分泌物の増加を引き起こすことがあり、その分泌物は水っぽい場合があります⁶。多くの場合、感染は無症状です。
リスク: 未治療の場合、これらの感染症は骨盤内炎症性疾患（PID）につながる可能性があり、さらに深刻なのは、出産時に赤ちゃんに感染し、重篤な眼の感染症（新生児結膜炎）や肺炎を引き起こす可能性があることです⁵。
管理: これらの性感染症の定期的なスクリーニングは、多くの国で標準的な出生前ケアの一部となっています。妊娠中に使用できる安全で効果的な抗生物質（クラミジアにはアジスロマイシン、淋病にはセフトリアキソンなど）が存在します⁴⁴。

第4部：色とその他の視覚的サインの解読：異常なおりものへの深い洞察

おりものの色は、妊婦にとって最も視覚的で警戒を要するサインの一つです。色ごとに構造化された分析を行うことで、症状を明確にし、評価のための明確な認識の枠組みを提供します。

4.1. 潜在的な問題に関するカラーコードガイド

• 黄色または黄緑色 (黄色・黄緑): これは感染を強く示唆するサインです。
  • 泡立ちのある黄緑色: 腟トリコモナス症の典型的な兆候です¹。
  • 膿のような黄色: 淋病やクラミジアの兆候である可能性があります³。
  • この色のいかなるおりものも、特に悪臭、痛み、かゆみを伴う場合は、早期の医師による評価が必要です¹。
• 灰色 (灰色): これは細菌性腟症（BV）に特徴的な色で、特におりものが水っぽく、魚臭い場合に顕著です¹。
• 白くボロボロしたもの (白くボロボロ): カンジダ感染症の典型的な「カッテージチーズ」状の所見です¹。

4.2. 血の混入の意味：ピンク、茶色、または赤色のおりもの

このセクションでは、最も不安を引き起こすサインであるおりものへの血液の混入について、良性の原因と緊急事態を慎重に区別して解説します。

• 良性/緊急性の低い原因:
  • 着床出血: 妊娠のごく初期（月経予定日の頃）、胚が子宮内膜に着床する際に、少量のピンク色または茶色の出血を経験する女性がいます。この出血量は通常ごくわずかです。
  • 子宮頸管の刺激: 妊娠中の子宮頸管は血管が豊富で敏感になっています。性交や内診が、無害な少量の出血を引き起こすことがあります。
  • おしるし (Bloody Show): 妊娠末期（出産予定日間近）になると、子宮頸管の粘液栓が剥がれ落ちる際に、ピンク、茶色、または赤色の少量の血液が混じることがあります。これは子宮頸管が出産準備のために変化し始めている正常な兆候です。通常、緊急ではありませんが、医師や助産師に報告する必要があります³。
• 緊急/救急を要する原因:
  • 流産または子宮外妊娠: 妊娠初期において、特に腹部のけいれん痛を伴う多量の出血は、これらの状態の兆候である可能性があり、直ちに医療的ケアが必要です。
  • 胎盤の問題（前置胎盤、常位胎盤早期剥離）: 妊娠中期または後期において、痛みの有無にかかわらず、鮮血の出血は医療上の緊急事態です。これは胎盤に関する深刻な問題を示唆している可能性があります⁵。

ルール: 少量の点状出血を超えるいかなる出血、特に鮮血や痛みを伴う出血は、直ちに医療提供者に連絡する必要があります⁵。
サインを色別に分類することは、妊婦にとって明確な判断の木を提供し、いつ落ち着いて様子を見るべきか、いつ緊急に行動すべきかを知る助けとなります。

第5部：妊娠中の積極的な管理とデリケートゾーンのケア

妊娠中にデリケートゾーンを適切にケアすることは、おりものの増加による不快感を管理するだけでなく、腟の健康を維持し、感染を予防するための重要な手段です。

5.1. 健康なデリケートゾーンケアの原則

多くの妊婦は、おりものが多いのは「不潔」だからだと誤解し、過剰な洗浄という悪循環に陥りがちですが、これは逆効果です。腟には自浄作用があり、過度な介入は保護的な微生物のバランスを崩し、感染リスクを高めてしまいます。

• 洗浄:
  • すべきこと: 毎日1回、清潔な手で外陰部をぬるま湯で優しく洗います。敏感肌用の無香料でpHバランスの取れた洗浄料を使用することもできますが、通常はきれいな水だけで十分です¹。その後、清潔で柔らかいタオルで優しく押さえるように拭き取ります。
  • すべきでないこと: 腟の内部を深く洗浄するビデの使用は絶対に避けてください。この行為は自然な保護菌叢を破壊し、感染リスクを高める可能性があります¹。洗浄力の強い石鹸、香料付き製品の使用、ゴシゴシと強くこすることも避けてください¹。
• 拭き方: トイレの後は、肛門からの細菌が腟に広がるのを防ぐため、必ず前から後ろに拭くようにしてください⁷。

5.2. 湿度の管理と快適さ

• おりものシート: 無香料のおりものシートを使用すると、湿度を管理し、衣類を保護するのに役立ちます。重要なのは、暖かく湿った環境（細菌や酵母の増殖に理想的な条件）を作り出すのを防ぐため、頻繁に（3～4時間ごと）交換することです¹。
• 下着: 綿などの通気性の良い天然素材を選びましょう。熱や湿気を閉じ込める合成素材や締め付けの強いものは避けてください⁷。
• 衣類: ゆったりとした衣服を着用し、空気の循環を促しましょう⁷。

5.3. 生活習慣とその他の注意点

• 十分な水分補給: 体内の毒素排出を助けるなど、全体的な健康のために十分な水分を摂ることは重要です⁷。
• 食事: 証拠はまだ決定的ではありませんが、一部の情報源は、糖分の多い食事はカンジダ感染のリスク因子になる可能性があると示唆しています。酵母は糖を栄養源として繁殖するためです²²。バランスの取れた健康的な食事は常に推奨されます。
• プロバイオティクス: 腟炎予防におけるプロバイオティクスの役割は、研究が続けられている分野です。まだ標準的な推奨ではありませんが、その可能性が探求されています³⁷。
• 性の健康: 性感染症のリスクを減らすためにコンドームを使用しましょう。トリコモナス症やBVなどの感染症で治療中の場合は、再感染を避けるために治療が完了し、パートナーも治療を受けるまで（トリコモナス症の場合）性交渉を控える必要があります⁹。

結論：妊婦のための統合的行動計画

妊娠中のおりものについて深く理解することは、妊婦が自信を持って自身の健康を管理するための強力なツールです。このガイドは、自己診断のためではなく、知識と観察力を提供することを目的としています。

6.1. 要約：正常と異常

• 正常: 量が多く、水っぽく、透明から白色で、わずかに甘酸っぱい匂いのおりものは、妊娠における正常で健康的な一部です。
• 異常: 色（黄色、緑色、灰色）、匂い（強い魚臭さ、悪臭）、または性状（カッテージチーズ状、泡状）の著しい変化、あるいはかゆみ、ヒリヒリ感、痛みなどの症状の出現は、いずれも異常であり、医師の助言を必要とします。

6.2. 危険信号：直ちに医師または助産師に連絡すべき時

これは、昼夜を問わず、直ちに医療的ケアを必要とする、明確で紛れもない「危険信号」のリストです。

• 破水の疑い: 大量の水がドッと流れ出る、またはコントロールできない液体が持続的に流れ出る場合。
• 重大な出血: 鮮血の出血、または少量の点状出血を超える出血、特に痛みや収縮を伴う場合。
• 早産の兆候: 妊娠37週未満での、規則的で痛みを伴う収縮、持続的な鈍い腰痛、または骨盤の圧迫感。

6.3. 診察の予約をすべき時（緊急ではない）

このリストには、救急ではないものの、専門的な診断と治療が必要な症状が含まれます。

• おりものの色が黄色、緑色、灰色、またはカッテージチーズ状である。
• 強い魚臭さ、悪臭、または不快な匂いがする。
• 腟または外陰部のかゆみ、ヒリヒリ感、赤み、または痛みがある。

6.4. 協力の力：医療チームとのコミュニケーション

最後のメッセージとして、妊婦は自身の健康管理における積極的なパートナーであることを強調します。自身の直感を信じ、いかなる懸念があっても医療提供者に連絡することをためらわないでください。オープンなコミュニケーションが、安全で健康的な妊娠への鍵です⁵。この患者中心のアプローチは、世界保健機関（WHO）やその他の医療機関のガイドラインにも反映されており、妊娠期間を通じて女性に力を与え、支援することを目的としています⁵²。

よくある質問