【医師監修】妊娠中の蟯虫(ぎょうちゅう)感染の完全ガイド:胎児への影響と安全な対処法のすべて
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【医師監修】妊娠中の蟯虫(ぎょうちゅう)感染の完全ガイド:胎児への影響と安全な対処法のすべて

妊娠中に蟯虫(ぎょうちゅう)に感染したかもしれないと気づいた時、多くの妊婦さんが最初に抱くのは「お腹の赤ちゃんに害はあるのだろうか?」という深刻な不安です。これは当然の反応ですが、結論から申し上げますと、蟯虫感染が直接的に胎児に害を及ぼす、あるいは流産や先天異常を引き起こすという科学的根拠はありません。JapaneseHealth.org編集委員会は、この問題に関する日本の妊婦さんが抱える特有の不安と情報環境を深く理解しています。日本の医療情報に触れる中で、「寄生虫」という言葉を聞くと、胎児に深刻な影響を与える可能性のあるトキソプラズマ感染症を連想しがちです1。この情報の混同が、蟯虫に対して過度な不安を生む一因となっています。本稿では、まずその根本的な誤解を解きほぐし、正確な情報に基づいて冷静に対処するための知識を、科学的根拠に基づき、網羅的かつ詳細に解説します。

この記事の要点まとめ

  • 胎児への直接的なリスクはなし:蟯虫は胎盤を通過できず、胎児に直接感染したり、先天異常を引き起こしたりすることはありません9。主なリスクは、母体の睡眠不足やストレスといった間接的なものです。
  • トキソプラズマとの明確な違い:妊婦さんが最も警戒すべき寄生虫であるトキソプラズマとは、感染経路も胎児へのリスクも全く異なります1。この違いを理解することが、不要な不安を取り除く第一歩です。
  • 衛生管理が最も重要:蟯虫のライフサイクルは、手指や生活環境を介した再感染に依存しています。したがって、薬物治療以上に、徹底した手洗いや清掃などの衛生管理が最も効果的で安全な対策となります6
  • 安全な薬物治療の選択肢:症状が重く、母体の健康に影響が出ている場合は、医師の監督の下で薬物治療が検討されます。特に「パモ酸ピランテル」は、妊娠中でも比較的安全に使用できるとされ、多くの国際機関で優先的に選択されています910
  • 家族全員での対策が不可欠:再感染を防ぐためには、症状の有無にかかわらず、家族全員で同時に衛生管理や治療に取り組むことが極めて重要です6

妊娠中の蟯虫感染:まず知るべき重要な比較

多くの妊婦さんが抱く「寄生虫=危険」というイメージの源泉は、しばしばトキソプラズマ症への懸念と結びついています2。しかし、蟯虫とトキソプラズマは全く異なる存在です。以下の比較表は、その違いを明確に理解し、冷静な判断を下すための基礎となります。

表1: 蟯虫(ぎょうちゅう)とトキソプラズマ — 妊婦さんのための重要比較
特徴(特徴) 蟯虫(ぎょうちゅう – Enterobius vermicularis) トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)
主な感染経路 経口感染。人の便に含まれる虫卵で汚染された手指、物体の表面を介して感染します6 生の肉や加熱不十分な肉の摂取、感染した猫の糞、汚染された土壌や水との接触が原因です1
胎児への直接感染リスク 証拠なし。蟯虫は胎盤を通過しません。その生活環は人間の消化管内に限定されます9 あり。寄生虫は胎盤を通過し、先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります1
胎児への潜在的影響 間接的なリスク(母体のストレス、睡眠不足)のみ。先天異常や流産は引き起こしません。 深刻。流産、死産、または重篤な先天異常(脳の損傷(水頭症)、目の損傷など)を引き起こす可能性があります13
主な予防法 石鹸による頻繁かつ徹底的な手洗い。家庭内の清掃、衣類や寝具の高温での洗濯6 生肉や加熱不十分な肉を避ける。肉を十分に加熱調理する。野菜や果物をよく洗う。猫のトイレの掃除は他の人に頼むか、ガーデニングの際は手袋を着用する2

この比較により、蟯虫感染への対応は、胎児を守るための戦いではなく、主に母体自身の不快な症状を管理し、生活の質を維持するためのものであることが明確になります。この理解が、冷静な対策への第一歩です。

蟯虫(Enterobiasis)とは? – 基本的な理解

適切な予防・治療法を理解するためには、まず敵である蟯虫そのものについて知ることが不可欠です。ここでは、不安を煽ることなく、その正体を簡潔に解説します。

2.1. 蟯虫の正体

蟯虫(学名:Enterobius vermicularis)は、体長1cm程度の白く細い糸状の寄生虫で、その大きさはホッチキスの針に例えられます6。日本を含む先進国で最も一般的な寄生虫感染症であり、特に幼稚園や小学校の児童に多く見られます7。日本における感染率は大幅に減少したものの、依然として年間約28,000人の感染者がいると推定されており、国内で最も一般的な蠕虫(ぜんちゅう)感染症です7

2.2. 蟯虫のライフサイクル(生活環)

蟯虫のライフサイクルを理解することは、なぜ衛生管理が非常に効果的なのかを理解する鍵となります。このサイクルには、外部からの再感染に依存するという戦略的な弱点があります。

  1. 虫卵の経口摂取:感染は、人が微細な虫卵を気づかずに飲み込むことから始まります。虫卵は、汚染された手、爪の下、食品、あるいはドアノブなどの物体の表面に存在します6
  2. 腸内での孵化:摂取された虫卵は小腸に達し、そこで幼虫が孵化します8
  3. 成虫への成長:幼虫は大腸、主に盲腸(もうちょう)へと移動し、そこで成虫へと成長して生息します7
  4. 夜間の産卵:受精したメスの成虫は、宿主が眠っている夜間に、大腸から肛門の周囲の皮膚へと移動し、数千個もの卵を産み付けます7。この移動こそが、激しいかゆみの原因となります。
  5. 汚染と再感染:かゆみにより、感染者(特に子供)は肛門周辺を掻いてしまいます。すると、虫卵が指や爪の下に付着します。そこから口に運ばれることで自己再感染(autoinfection)が起こるほか、衣類、寝具、おもちゃなどの表面に広がり、他の家族へと感染を拡大させます6。虫卵は非常に生命力が強く、外部環境で2~3週間も感染能力を維持することができます6

ここでの重要な点は、蟯虫感染は体内だけで維持されるものではないということです。そのライフサイクルは外部環境と宿主の行動に依存しており、これはつまり、個人の衛生管理という行動を通じて、感染の連鎖を断ち切ることが可能であるという力強いメッセージを意味します。

2.3. 主な症状

蟯虫感染の最も特徴的な症状は、肛門およびその周辺の激しいかゆみ(肛門周囲掻痒感)であり、特に夜間に強くなります7。このかゆみは睡眠を妨げ、日中の落ち着きのなさ、不快感、集中力の低下、疲労感などを引き起こす可能性があります6。注目すべきは、感染者の約3分の1から40%は全く症状を示さない(無症状)ことです7。女性や女児の場合、稀に虫が膣に迷入し、刺激や炎症(外陰膣炎)を引き起こすことも報告されています8

2.4. 診断法:セロハンテープ法

蟯虫の診断は、一般的な便検査では行われません。なぜなら、メスは腸内ではなく肛門周囲の皮膚に産卵するため、便中に虫卵が排出されることが少ないからです7。標準的かつ効果的な診断法は「セロハンテープ法」です。

  • 実施方法:透明なセロハンテープの粘着面を、朝、起床直後、トイレや入浴の前に、肛門周囲の皮膚のひだに軽く押し付けます7
  • 分析:採取したテープをスライドガラスに貼り付け、顕微鏡で虫卵を探します。蟯虫の卵は特徴的な非対称の楕円形で、片面が平らで、もう一方が湾曲しており、「D字型」や「パンの断面」に似ていると表現されます7。検出率を高めるため、この検査を3日間連続で行うことが推奨されます7

日本の読者にとって重要な文化的背景として、学校での蟯虫卵の義務検査が、陽性率の著しい低下(2014年には0.08%)を理由に2016年4月に廃止されたことが挙げられます715。これにより、蟯虫症はもはや存在しない病気だと誤解している人も少なくありません。この事実に触れることで、病気は稀になったものの、決して根絶されたわけではないという正しい認識を持つことができます。

母体と胎児へのリスク評価:事実と不安の切り分け

このセクションでは、蟯虫感染のリスクプロファイルを体系的かつ決定的に分析し、胎児が直接的な危険に晒されることはないという確固たる証拠を提供します。

3.1. 胎児への直接的リスク:存在しないことの証明

強調すべき最も重要な点は、蟯虫(Enterobius vermicularis)そのものやその虫卵が胎盤を通過して胎児に感染するという科学的証拠は一切存在しないということです9。この寄生虫のライフサイクルは、完全に人間の消化管内に限定されています。米国疾病予防管理センター(CDC)のような主要な保健機関が公表している資料を見ても、蟯虫症の合併症に関する記述は、母体の不快感や稀な異所性感染に焦点を当てており、先天性の問題については全く言及されていません810
医学文献において、母子垂直感染の報告が皆無であるという事実は、その安全性を裏付ける強力な証拠です。これは、トキソプラズマ1や風疹ウイルス3のように、深刻な先天性感染症を引き起こすことで広く知られている病原体とは根本的に対照的です。この本質的な違いを明確にすることが、不要な不安を和らげるための基盤となります。

3.2. 母体と胎児への間接的リスク(現実的かつ管理可能な問題)

胎児に直接的な害はないものの、蟯虫感染は母体の健康と生活の質に影響を及ぼす間接的な問題を引き起こす可能性があり、それが結果的に妊娠に影響を与えることも考えられます。

  • 母体の不快感とストレス:これが主な影響です。夜間の激しいかゆみは睡眠不足や不眠につながり、日中の疲労、いらだち、ストレスを引き起こします6。これらはすべて、妊娠中には避けたい要因です。長期にわたるストレスや睡眠不足は、母体と赤ちゃんの全体的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 二次的な皮膚感染症:激しく掻きむしることで肛門周囲の皮膚に傷ができ、そこから細菌が侵入して二次的な皮膚感染症(蜂窩織炎や毛嚢炎など)を引き起こす可能性があります8
  • 異所性感染(稀):これらは非常に稀なケースであることを強調する必要があります。蟯虫が肛門から膣へと移動し、外陰膣炎を引き起こすことがあります8。さらに稀なケースとして、尿路や骨盤腔に侵入し、炎症反応を引き起こすことも報告されています9。しかし、これらの稀なケースでさえ、胎児への直接感染ではないことを明確に伝えることが重要です。
  • 栄養への影響(理論上):軽度の感染では、栄養への影響は無視できるレベルです。しかし、理論的には、重度かつ慢性の感染症は栄養吸収の低下や食欲不振の一因となる可能性があります18。これは妊娠中には考慮すべき要素ですが、その可能性は極めて低いことを強調する必要があります。

この分析を通じて、問題の捉え方が大きく変わります。妊娠中の蟯虫感染における医学的「リスク」とは、催奇形性や胎児感染のリスクではなく、母体の生活の質と二次的合併症のリスクであるということです。したがって、薬物治療を行うかどうかの判断は、「胎児 vs 寄生虫」という構図ではなく、「母体の健康(良質な睡眠など) vs 薬の低レベルなリスク」という構図で考えるべきです。このアプローチこそが、多くのガイドラインが推奨する「衛生管理を優先し、経過観察する」という方針の根拠となります。記事では、「薬を使用するかどうかの決断は、赤ちゃんを蟯虫から守るためではなく、あなた自身の健康と快適さ(例えば、ぐっすり眠ること)を妊娠期間中守るためのものです。これこそが、あなたが医師と話し合うべき内容です」といった形で明確に伝えるべきです。

管理の基本:徹底した衛生プロトコル(第一の防御線)

このセクションは、妊婦さんが直ちに実行できる最も重要かつ安全な第一歩として提示されるべきです。目標は、読者が状況をコントロールできていると感じられるよう、具体的で実践的なチェックリストを提供し、薬に頼らずに寄生虫のライフサイクルを断ち切る力を与えることです。

4.1. 個人の衛生管理

  • 手洗い:石鹸と温水による徹底的な手洗いが最も効果的な手段であることを強調します6。特に、トイレの後、他児のおむつ交換後、食事の準備や摂取の前、そして朝起きてすぐのタイミングが重要です。
  • 爪の管理:爪を短く切り、虫卵が爪の下に溜まるのを防ぎます9。爪を噛んだり、肛門周辺を掻いたりしないように心がけます。
  • 入浴・シャワー:毎朝シャワーを浴びるか入浴することで、夜間に肛門周囲の皮膚に産み付けられた虫卵を洗い流すことを推奨します9

4.2. 衣類と寝具の管理

  • 下着と寝間着は毎日、特に朝起きた時に交換します12
  • 全ての寝具、タオル、衣類を熱水で洗濯します6。虫卵はこれらの表面で数週間生存可能であることを説明します。
  • 汚れた衣類や寝具を強く振らないようにします。虫卵が空気中に飛散し、室内に拡散するのを防ぐためです6

4.3. 住まいの衛生管理

  • 虫卵はハウスダストに含まれている可能性があるため、特に寝室や浴室を中心に、室内の表面を頻繁に拭き掃除し、掃除機をかけます13
  • 便座、ドアノブ、共有のおもちゃなどには特に注意を払います。

4.4. 蟯虫駆除のための衛生チェックリスト

具体的で印刷可能なチェックリストは、抽象的なアドバイスを具体的な行動計画に変えます。これは、不安を抱える読者にとって非常に価値があり、問題解決への構造的なアプローチと主体性を提供します。

表2: 蟯虫駆除のための衛生チェックリスト
カテゴリー(カテゴリー) 行動(行動) 頻度・注意点(頻度・注意点)
個人の衛生 石鹸と温水で手を徹底的に洗う。 トイレの後、食事の前、起床後など、毎回。
爪を短く切る。 定期的。爪を噛まないようにする。
朝にシャワーを浴びる。 毎日。虫卵を洗い流すため。
衣類・寝具の洗濯 下着や寝間着を交換する。 毎日、朝に。
寝具、タオル、衣類を熱水で洗濯する。 対策期間中は週に2〜3回以上、頻繁に。
汚れた衣類や寝具を強く振らない。 虫卵の空気中への飛散を防ぐため。
住まいの清掃 カーペットや床、特に寝室を掃除機で清掃する。 頻繁に。
頻繁に触れる表面(ドアノブ、便座、蛇口)を拭き掃除する。 毎日。
寝室を換気し、日光を取り入れる。 日光は虫卵を破壊する助けになります。

薬物治療の検討:いつ、どのように医師と相談すべきか

衛生管理を徹底してもなお、症状が改善しない場合や、症状が母体の健康に大きな影響を与えている場合には、薬物治療が選択肢となります。しかし、その決断は慎重に行われるべきです。ここでは、医師との相談を検討すべき具体的な状況を明確にします。

5.1. 薬物治療を検討すべき状況

薬の使用は常に必要というわけではありません。この決定は、症状の重篤度と、それが妊婦さんの健康に与える影響に基づいてなされます。以下は、医師への相談を強く推奨するサインです。

  • かゆみが非常に激しく、睡眠が著しく妨げられている、あるいは全く眠れない場合9
  • 掻きむしりによる二次的な皮膚感染症の兆候(赤み、熱感、痛み)が見られる場合。
  • 膣や尿路の炎症症状がある場合8
  • 感染していることへの不安やストレスが非常に高く、精神的な健康に影響を及ぼしている場合。
  • 体重減少や著しい食欲の変化が見られる場合(非常に稀ですが理論的には考慮すべき懸念)10

5.2. 医師との「利益とリスク」に関する対話

薬物治療の決定は、患者と医師の共同作業です。医師は、薬を使用する利益(例:患者が眠れるようにする、ストレスを軽減する)と、胎児に対する理論上の非常に低い、しかしゼロではないリスクとを比較衡量します21。具体的な「相談の目安」を提示することで、読者は感染の有無だけでなく、その影響度を自己評価し、症状や生活の質に焦点を当てた、より効果的な対話を医師と行うことができます。
複雑なケースについては、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」のような専門機関が、医師と患者双方にとって貴重な情報源となり得ることも付け加えておくと良いでしょう24

【専門家向け情報含む】薬物療法の詳細な選択肢

このセクションでは、日本国内および国際的なガイドラインを比較検討し、各種治療薬に関する詳細で多角的な、証拠に基づいた概観を提供します。

6.1. パモ酸ピランテル(Pyrantel Pamoate) — 第一選択薬

  • 製剤名:日本で主に使用されるのは、コンバントリン®(Combantrin®)という商品名で販売されている駆虫薬です21。その有効成分がパモ酸ピランテルです。
  • 作用機序:この薬は、腸内の蟯虫の神経筋系を麻痺させることで作用します。これにより、虫は腸壁に留まれなくなり、便と共に体外へ排出されます。重要な特徴は、体内(血中)への吸収が非常に少ないことで、これが妊娠中に優先的な選択肢とされる主な理由です2226
  • 日本の指針(厚生労働省/PMDA):医薬品の公式な添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されています21。また、「安全性は確立していない」とも記されていますが、これは妊娠中の大規模な臨床試験が存在しない多くの医薬品に共通する標準的な注意喚起です21
  • 国際的指針(CDC/WHO):米国疾病予防管理センター(CDC)は、治療が必要な妊婦に対してパモ酸ピランテルを優先的に使用すべき薬剤としています9。米国食品医薬品局(FDA)による胎児危険度分類では「カテゴリーC」に分類されています10。「カテゴリーC」とは、動物実験でリスクが示されたが、人間での対照研究がない、あるいは研究自体が存在しないことを意味します。CDCは、胎児への潜在的リスクを最小限に抑えるため、可能であれば治療を妊娠第三三半期(後期)まで延期することを推奨しています10。世界保健機関(WHO)も、集団駆虫プログラムにおいて妊娠第二および第三三半期での使用を認めています10
  • 用法・用量:通常、体重に基づいた単回投与(日本では10mg/kg、米国では11mg/kg)を行い、2週間後にもう一度同じ量を服用します9。この2週間後の再投与は、新たに孵化した虫を駆除するために非常に重要です。なぜなら、この薬は幼虫や虫卵には効果が薄いからです9
  • 授乳中の使用:体内への吸収が非常に少ないため、授乳中の使用は安全と考えられています26。WHOは授乳と両立可能と分類しています10。日本の添付文書では、治療の有益性と授乳の有益性を考慮して継続または中止を判断するよう助言しています23

6.2. メベンダゾール(Mebendazole)およびアルベンダゾール(Albendazole) — 背景と考察

  • 位置づけ:妊娠中においては、通常、第二選択薬と見なされます。
  • 伝統的な警告:CDCや他の情報源は、動物実験に基づく理論上のリスクから、伝統的に妊娠第一三半期(初期)におけるメベンダゾールとアルベンダゾールの使用を避けるよう勧告してきました9。これらも「カテゴリーC」の薬剤です10
  • 安心材料となる最新の知見(高度な分析):ここで最新の証拠を提示することが極めて重要です。近年、妊娠初期にこれらの薬剤に意図せず曝露された女性のケースを調査した大規模な研究やシステマティックレビューが複数発表されています。これらの研究の主要な結論として、重篤な先天異常のリスク増加は認められなかったことが報告されています29。メベンダゾールに関するある大規模研究では、標準的な用量ではヒトにおいて主要な催奇形性リスクをもたらさないと結論付けています31。あるシステマティックレビューでは、「妊娠初期の偶発的な曝露が、有害な出産転帰の追加リスクをもたらす可能性は低い」と結論しています29
  • この情報の重要性:この情報は、妊娠に気づかずに薬を服用してしまった可能性のある女性にとって、非常に重要です。それは強力な安心材料を提供し、この記事が最新かつ専門的な情報を反映していることを示します。「過去に薬を服用してしまったことを心配している場合に、医師と相談するための情報」として提示することが適切です。
  • 授乳中の使用:メベンダゾールは母乳への移行が非常に少ないため、WHOは授乳と両立可能であると考えています2027

6.3. 妊娠中の蟯虫治療薬の概要

この表は、複雑な薬剤情報を一つの比較しやすい形式にまとめ、第一選択薬と第二選択薬の位置づけ、そして主要な安全性に関するメッセージを明確にします。

表3: 妊娠中における蟯虫治療薬の要約
薬剤(薬剤) 作用機序(作用機序) 日本の指針の要約(日本の指針) 国際的指針(CDC/WHO)の要約 授乳中の使用(授乳中の使用)
パモ酸ピランテル
(Pyrantel Pamoate)
虫の神経筋を麻痺させ、体外へ排出させる。血中への吸収はごくわずか26 有益性が危険性を上回る場合にのみ使用。安全性は未確立23 第一選択薬。カテゴリーC。可能であれば妊娠後期までの延期を推奨9 安全と見なされる。WHOは両立可能と分類10
メベンダゾール
(Mebendazole)
虫のグルコース吸収を阻害し、死滅させる。吸収は少ない27 第一選択ではない。医師との相談が必要。 第二選択薬。カテゴリーC。伝統的に妊娠初期は避ける。近年の研究では偶発的使用のリスクは低いと示唆929 安全と見なされる。WHOは両立可能と分類20

家族全員での戦略:感染の連鎖を断ち切る

再感染のサイクルを確実に断ち切るためには、家族全員での対策が不可欠です。この点を強調することが、治療の成功率を大きく左右します。
蟯虫の卵は非常に簡単に広がるため、一人が感染している場合、たとえ症状がなくても、他の家族も感染している可能性が非常に高いと説明する必要があります6。妊婦さん自身が完璧な衛生管理を行い、薬を服用したとしても、パートナーやお子さんが未治療のままであれば、数週間後には再び感染してしまうでしょう。
最も効果的な戦略は、治療(薬の服用が必要な場合)と強化された衛生プロトコルを、家族全員が同じ日に開始することです6。これは、感染の連鎖を断ち切るための同期作戦です。また、この問題が(特に小さな子供がいる家庭では)よくあることであり、衛生状態が悪いという兆候ではないことを強調し、家族に状況を説明するためのコミュニケーションのポイントを提供することも、社会的なスティグマを和らげる上で役立ちます。

医師への相談ガイド:効果的な対話のために

このセクションは、読者が医師と効果的かつ協力的な相談を行えるよう、具体的な質問とトピックのリストを提供します。
診察の準備:症状、その重篤度、そして生活への影響(例:「かゆみで夜中に3回目が覚めます」)をメモしておくことを勧めます。
医師に尋ねるべき質問リスト:

  • 「私の症状から見て、まずは衛生管理だけで様子を見るべきでしょうか、それとも薬の使用が必要だとお考えですか?」
  • 「もし薬を使うなら、パモ酸ピランテル(コンバントリン)を推奨されますか?妊娠のこの段階で、私と赤ちゃんにとっての利益とリスクを説明していただけますか?」
  • 「私のパートナーや子供たちも検査や治療を受けるべきでしょうか?彼らにはどの薬が推奨されますか?」
  • 「治療を繰り返すタイミングはいつが良いですか?」
  • 「注意すべき副作用はありますか?」(例:吐き気、頭痛、腹痛など23
  • (該当する場合)「妊娠に気づく前にメベンダゾールを服用してしまいました。その安全性について、最新の研究では何が分かっていますか?」

結論:自己管理能力の強化と安心のメッセージ

結論として、この記事の目的は、読者が冷静で、十分な情報を持ち、自己管理できるという感覚を持って読み終えることです。重要なポイントを再度要約します。
まず、蟯虫感染は、発育中の胎児に直接的な脅威を与えるものではありません。主な関心事は、母体の快適さと健康です。次に、厳格な衛生管理こそが、感染のサイクルを断ち切るための最も強力なツールであることを思い出してください。そして、妊娠中の薬の使用は慎重に行うべきですが、症状が重い場合には、医師の指導の下で安全性の高い選択肢(パモ酸ピランテル)が存在し、理想的には妊娠の後期に使用されることを理解してください。
最後に、この問題への対処は個人だけの努力ではなく、家族全員でのアプローチと、医療提供者とのオープンなコミュニケーションが成功の鍵です。正しい情報と明確な計画があれば、このありふれた問題を効果的に管理し、健康で幸せな妊娠生活に集中し続けることができます。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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