【医師監修】小児アトピー性皮膚炎の完全ガイド:最新治療と家庭での最適なケアプラン
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【医師監修】小児アトピー性皮膚炎の完全ガイド:最新治療と家庭での最適なケアプラン

JapaneseHealth.org編集部です。私たちは、アトピー性皮膚炎のお子様を持つご家族が日々直面する困難を深く理解しています。終わりのないかゆみ、妨げられる睡眠、目に見える発疹、そしてお子様とご家族の心にかかる負担。矛盾した情報が溢れる中で、信頼できる情報を探し求める保護者の皆様の不安と努力を、私たちは認識しています。本ガイドの目的は、現在利用可能な中で最も包括的で信頼性の高い情報源となることです。内容は、日本皮膚科学会(JDA)および日本アレルギー学会の最新公式ガイドライン、そして国立成育医療研究センター(NCCHD)のような主要機関の研究に基づいています。私たちが伝えたい中心的なメッセージは、希望に満ちたものです。「完治」という言葉はないものの、アトピー性皮膚炎は管理可能な疾患であるということです。現代の治療戦略を正しく、そして一貫して適用することで、症状が落ち着いた寛解状態を達成し、お子様とご家族の生活の質(QOL)を劇的に改善することが可能です1

本記事の科学的根拠

本記事は、参考文献として明示された最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。以下は、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの関連性です。

  • 日本皮膚科学会 (JDA) & 日本アレルギー学会: 本記事におけるアトピー性皮膚炎の定義、診断基準、治療の3本柱、および薬物療法の指針は、これらの学会が発行した2024年版などの公式診療ガイドラインに準拠しています23
  • 国立成育医療研究センター (NCCHD): アレルギーマーチの概念、特に早期の皮膚ケアが食物アレルギー予防に繋がる可能性に関する解説は、同センターの画期的な研究成果に基づいています4
  • 厚生労働省 (MHLW): スキンケアの具体的な方法や、ダニ対策などの環境要因の管理に関する推奨事項は、同省が提供する情報に基づいています5
  • 海外の主要な医学会・研究機関 (AAD, AAPなど): 「Soak and Seal」法や最新の全身療法(生物学的製剤、JAK阻害薬)に関する知見は、米国皮膚科学会(AAD)や米国小児科学会(AAP)などの国際的なガイドラインや研究によって補強されています67

要点まとめ

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能障害とアトピー素因が絡み合う、かゆみを伴う慢性の皮膚疾患です。
  • 治療の成功は「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の対策」という3つの柱を同時に、かつ一貫して行うことにかかっています。
  • 正しいスキンケア(毎日の入浴と保湿)は治療の基本であり、特に早期の介入は将来の食物アレルギーを防ぐ可能性(アレルギーマーチの予防)があります。
  • ステロイド外用薬は炎症を抑える最も効果的な治療法であり、医師の指導のもと正しく使えば非常に安全で頼もしい味方です。
  • 近年の生物学的製剤やJAK阻害薬の登場により、重症例でも「つるつるの肌」を目指すことが現実的な目標となっています。

第1章:お子様のアトピー性皮膚炎を正しく理解する:日本の公式見解

アトピー性皮膚炎とは何か?

日本皮膚科学会(JDA)の2024年版ガイドラインによる公式な定義では、アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒(そうよう=かゆみ)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」とされています2。ここでいう「アトピー素因」とは、シンプルに2つの要素を指します。1) 本人または家族がアレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)の既往歴を持つこと、そして 2) IgE抗体を作りやすい体質であることです2。ただし、アレルギーの証明は診断のための必須条件ではないという点が重要です2

根本原因:皮膚のバリア機能異常とアトピー素因の複雑な関係

アトピー性皮膚炎の病態は、主に2つの中心的要素を巡って展開されます。

  • 皮膚のバリア機能異常: 皮膚の最も外側にある角層が正常よりも弱く、乾燥しやすく水分が失われがちな状態です。これにより、外部からの刺激物やアレルゲンが容易に侵入してしまいます3
  • アトピー素因: 免疫システムが過剰に反応しやすい素因であり、炎症を引き起こします8

この2つの要素は悪循環を生み出します。弱い皮膚バリアから刺激物が侵入し、免疫反応(炎症)を誘発します。そして、その炎症がさらに皮膚バリアを傷つけてしまうのです1

診断基準:「アトピー性皮膚炎」はどのように判断されるのか?

アトピー性皮膚炎と診断するためには、JDAのガイドラインが示す3つの必須項目をすべて満たす必要があります8

  1. かゆみ(瘙痒)
  2. 特徴的な皮疹と分布: 発疹の現れる場所は年齢によって変化します。
  3. 慢性的・反復性の経過: 「慢性的」と判断される期間は、乳児では2ヶ月以上、それ以外の年齢では6ヶ月以上と定められています8

年齢で変化する症状:乳児期から学童期までの特徴

JDAのガイドラインやマルホ株式会社の資料によると、病気の典型的な現れ方は、お子様の成長段階に応じて変化します8

  • 乳児期(2歳未満): 多くは頭、顔、耳から始まり、次第に体幹や手足に広がります。発疹は赤く、じくじくして滲出液を伴い、かさぶたができるのが特徴です8
  • 幼児・学童期(2歳~12歳): 発疹はより乾燥し、首、肘の内側(肘窩)、膝の裏側(膝窩)といった屈曲部に集中するようになります8。皮膚がゴワゴワと厚くなる「苔癬化(たいせんか)」が見られることもあります。

アトピー性皮膚炎が「増悪・寛解を繰り返す」慢性的な状態であることを理解することは、管理において極めて重要な概念です2。保護者の方はしばしば即効性のある治療を期待し、改善した後に症状が再発すると落胆することがあります。これは「治療疲れ」や、科学的根拠のない「奇跡的な治療法」を探し求めることにつながりかねません。初めから、これは喘息のような慢性疾患であると明確に伝えることで、期待値を調整することができます。あるシステマティックレビューでは、ほとんどの子供が成長するにつれて「自然に治る」という古い考え方に疑問を呈し、思春期や若年成人期においても有病率が依然として高いことを示しました9。これは目標を「完治」から「長期的な管理とコントロール」へと再設定する助けとなります。この考え方の転換こそ、ケアプランを遵守し続ける上で不可欠なのです。

表1:年齢別に見る小児アトピー性皮膚炎の特徴と好発部位

年齢区分 主な皮疹の特徴 好発部位
乳児期 (< 2歳) 赤みがあり、じくじくした滲出液や痂皮を伴う発疹(乳児湿疹) 頭、顔、耳、その後、体幹や手足の伸側へ拡大
幼児・学童期 (2-12歳) 乾燥し、皮膚が厚くなる(苔癬化)、屈曲部の発疹 首、肘窩(肘の内側)、膝窩(膝の裏)、手首、足首
思春期・成人期 (> 13歳) 著しい乾燥と苔癬化、上半身に強い発疹の傾向 頭、首、胸、背中、および屈曲部
データ出典: 日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 20188

第2章:治療の3本柱:家庭でのケアの基盤

NCCHDのような主要な機関が支持し、日本における標準治療と見なされている治療の枠組みは、以下の3つの柱から構成されます1

  1. 薬物療法: 炎症をコントロールするため
  2. スキンケア: 皮膚バリアを回復・保護するため
  3. 悪化因子の対策: 刺激物との接触を減らすため

重要なのは、これら3つの柱が独立して機能するのではなく、互いに協調して作用することを理解することです。例えば、効果的な薬物療法はスキンケアの痛みを和らげ、より効果的にします。良いスキンケアは、強力な薬剤の使用頻度を減らすのに役立ちます。悪化因子を避けることは、より積極的な治療を必要とする再燃を防ぎます。この包括的な視点は、保護者がなぜこれら3つの領域すべてに取り組む必要があるのかを理解するために不可欠です。

第3章:スキンケアの技術を習得する:今日から実践できるステップ

アトピー性皮膚炎におけるスキンケアの基本的な目標は、皮膚のバリア機能を回復させ、保護することです10

入浴と洗浄

  • 頻度と温度: 汗や汚れ、アレルゲンを除去するために、毎日入浴することが推奨されます10。熱いお湯はかゆみを増す可能性があるため、お湯はぬるま湯(38~40℃)にしましょう5
  • 時間: 入浴時間は5分から10分程度の短時間にとどめます11
  • 洗い方: 硬いタオルは使わず、手で洗うことの重要性を強調します。低刺激性で無香料の石鹸をよく泡立て5、湿疹のある部分や皮膚のしわも含め、すべての部位を優しく洗いましょう12
  • すすぎと拭き方: 石鹸成分が残らないように、しっかりとすすぎます5。拭くときはこすらず、柔らかいタオルで優しく押さえるようにして水分を吸い取ります12

保湿 – 「ソーク・アンド・シール(浸して、閉じ込める)」法

  • ゴールデンタイム: 入浴後、理想的には5分以内に、まだ皮膚が湿っているうちに保湿剤を塗ることで、水分を「閉じ込める」ことの重要性を強調します10。これは非常に重要で、すぐに実践できるコツです。
  • 適切な保湿剤の選択: ローション、クリーム、軟膏の違いを説明します。クリームや軟膏(ワセリンなど)は油分が多く、水分保持力に優れているため、アトピー性皮膚炎にはより効果的であることが多いです10。日本で処方されるヘパリン類似物質(ヒルドイド®)や尿素含有クリーム(ウレパール®)なども挙げられます10
  • 塗るべき量: 「ティッシュペーパーが皮膚に付くくらい」という「テカテカ・ベタベタ」のルールを指導します12。これは具体的な目標となります。症状のある部分だけでなく、全身にたっぷりと塗りましょう13

ここで明確にしておくべき点は、保湿剤の役割が予防か治療かという点です。最近の研究で、ハイリスクの新生児に予防的に保湿剤を毎日使用しても、アトピー性皮膚炎の発症を防ぐことはできなかったという報告を読んだ保護者もいるかもしれません14。これは保湿の重要性に疑問を抱かせる可能性があります。専門家としての役割は、この違いを明確にすることです。その発見は、まだ発症していない子供における一次予防に関するものです。既にアトピー性皮膚炎と診断された子供にとっては、皮膚バリアは既に損なわれており、十分な量の保湿剤を毎日塗ることは、治療および二次予防(再燃の防止)の絶対的に不可欠な一部です。したがって、本記事では次のように断言する必要があります。「最近の研究では、保湿剤がアトピー性皮膚炎の初期発症を予防する能力に疑問が呈されていますが、すでに診断されているお子様にとっては議論の余地はありません。十分な量の毎日の保湿は、損なわれた皮膚バリアを修復し、再燃を防ぐための最も重要な治療の柱の一つです。」

第4章:薬物療法を効果的に使う:薬との正しい付き合い方

外用薬:炎症に対する第一線の防御

外用ステロイド薬

役割: これはアトピー性皮膚炎の再燃時における炎症とかゆみを抑えるための最も効果的な治療法です15
「ステロイド恐怖症」への対応: これは非常に重要な部分です。この恐怖に正面から向き合う必要があります。多くの保護者が「ステロイドって、怖い薬なんですか?」と心配していることを認めましょう。ある日本のクリニックの表現を借りれば、正しく使えば「とても頼もしい味方」です16。本当のリスクは、恐怖心から不十分な治療を行うことであり、それが炎症を悪化させ、コントロールをより困難にすることにあると説明します16。皮膚萎縮などの副作用は、医師の指導のもとで適切な強さ、期間、量を守って使用すれば、非常に稀であることを明確にします15

表2:日本における外用ステロイド薬の強さのランクと推奨される使用部位

ランク 強さ 主な使用部位 注意点
Strongest 最も強い 子供には稀。重症で厚い皮膚の部位にごく短期間のみ 医師の厳格な指示下でのみ使用
Very Strong 非常に強い 体幹、手足(成人または年長児) 顔、首、薄い皮膚への使用は避ける
Strong 強い 体幹、手足 中等症~重症の再燃に対する一般的な選択肢
Medium 普通 顔、首、薄い皮膚(短期)、体幹、手足(子供) 敏感な部位に対する最初の選択肢となることが多い
Weak 弱い 顔、首、陰部、乳児のデリケートな皮膚 敏感な部位への長期使用に最も安全
データ出典: The Royal Children’s Hospital Melbourne17, 大木皮膚科16

正しい使い方:

  • フィンガーチップユニット(Finger Tip Unit – FTU): 正確な軟膏の量を測るための、明確で視覚的なガイダンスを提供します。1 FTU(大人の人差し指の先端から第一関節まで出した量)は約0.5gに相当し、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのに十分な量です1815。これは実用的でエビデンスに基づいたツールです。

プロアクティブ療法

概念: この現代的なアプローチを解説します。再燃がコントロールされた後(リアクティブ期)、治療を完全に中止するべきではありません。代わりに、以前頻繁に再燃していた部位に、間欠的に(例えば週に2~3回)ステロイド外用薬を塗布します1
比較: これは「火事の消火」ではなく「火事の予防」と例えることができます。このアプローチは、再燃の頻度と重症度を減少させ、結果的に長期間で使用するステロイドの総量を減らすことが証明されています。

その他の外用薬

  • 外用カルシニューリン阻害薬(例:タクロリムス/プロトピック®軟膏): 顔や首など、ステロイドの長期使用が望ましくない敏感な部位に非常に有効です6
  • 外用JAK阻害薬(例:デルゴシチニブ/コレクチム®軟膏): より新しい非ステロイド性の抗炎症薬です15
  • 外用PDE-4阻害薬(例:クリサボロール/ユークリサ®軟膏): もう一つの非ステロイド性の選択肢です6

全身療法:重症例に対する新たな選択肢

外用薬でコントロールできない中等症から重症のアトピー性皮膚炎の子供たちのために、現在では日本でも小児への使用が承認された、新しく効果の高い全身療法が存在します1

  • 生物学的製剤(例:デュピルマブ/デュピクセント®): アトピー性皮膚炎における2型炎症反応を引き起こす特定のタンパク質(IL-4, IL-13)を標的とする注射薬です。小児におけるその有効性と安全性は証明されています19
  • 経口JAK阻害薬(例:アブロシチニブ、ウパダシチニブ): 細胞内で作用し、かゆみや炎症を引き起こすシグナルをブロックする経口薬(飲み薬)です19

これらの効果的な生物学的製剤やJAK阻害薬の登場は、治療のパラダイムシフトです19。もはや重症のアトピー性皮膚炎を「耐え忍ぶ」あるいは単に「コントロールする」だけが目標ではありません。これらの新しい治療法は、良好な安全性プロファイルを伴いながら、皮膚症状が大幅に、あるいは完全に消失する状態(EASI-75やIGA 0/1の達成)に至る、はるかに高い可能性をもたらします20。これは、治療の「ゴール」が引き上げられたことを意味します。保護者は、今や重症例であっても「つるつるピカピカ」の肌を目指すことが現実的な目標であることを知るべきです1。これは希望を与え、保護者が医師と治療目標についてより意欲的な対話をしたり、もし子供の重症アトピー性皮膚炎がうまくコントロールされていない場合には専門的な治療を求めたりすることを後押しします。

第5章:家庭内の悪化因子を発見し、管理する

このセクションは、保護者が「家庭内の探偵」になるためのガイドとして提示されます。完全な除去は不可能ですが、最小化と管理が鍵であることを強調する必要があります5

室内環境

  • 家のダニ: 最も一般的な室内アレルゲンです。厚生労働省や環境再生保全機構(ERCA)からの主要な対策に焦点を当てます。
    • 定期的な掃除機がけ(1平方メートルあたり20秒)21
    • 寝具の手入れ:頻繁な洗濯、布団乾燥機の使用、そして布団自体への掃除機がけ5
    • ダニアレルギー対策用のシーツカバーの使用5
  • 温度と湿度: 部屋を快適な温度と湿度(目標50~60%)に保ちます10
  • ペットとその他のアレルゲン: 既にペットアレルギーと分かっている子供の場合、寝室にペットを入れないことが重要です。ペットを定期的にシャンプーすることも助けになります18。花粉のコントロール(家に入る前に衣服を払うなど)にも言及します18

衣類と刺激物

  • 綿(コットン)のような柔らかく、通気性、吸湿性の良い素材を選びます。ウールやごわごわした合成繊維は避けましょう5
  • 新しい衣類は着用前に洗濯し、仕上げ剤などの化学物質を取り除きます10
  • 刺激の少ない洗濯洗剤を使用し、すすぎを十分に行いましょう10

汗の管理

汗自体は悪くありませんが、汗が皮膚の上に留まることは大きな刺激となり、かゆみを引き起こす可能性があります5
対策: 運動や汗をかいた後は、できるだけ早くシャワーを浴びるか、湿ったタオルで皮膚を拭き取りましょう18

掻き壊し対策

「かゆみ→掻く→さらに悪化」という悪循環は、アトピー性皮膚炎を悪化させる主な要因です。

  • 爪を短く切り、やすりで滑らかに保ちます5
  • 乳児には、特に夜間に綿の手袋(ミトン)の使用を検討します17
  • 小さい子供や年長児には、手を使う活動に参加させるなど、気を紛らわせるテクニックを用います18

第6章:アレルギーマーチ:なぜ早期のスキンケアが子供の未来を守るのか

これは保護者にとって最も力強いメッセージの一つです。特にNCCHDをはじめとする多くの情報源が、乳児期のアトピー性皮膚炎とその後の食物アレルギーや喘息の発症との関連を強調しています4。これは「アレルギーマーチ」として知られています。
「二重抗原曝露仮説」に基づく現代的な見解は、この連鎖が皮膚から始まる可能性を示唆しています。その因果関係は次の通りです:遺伝的素因 → アトピー性皮膚炎(皮膚バリアの破綻) → 経皮感作(卵やピーナッツなどの食物アレルゲンが傷ついた皮膚から侵入し、免疫反応を誘発) → 食物アレルギー(後にその食物を経口摂取した際に症状が発現)。
これは、乳児における丁寧なスキンケアと効果的な炎症コントロールが、単に湿疹を治療するためだけではないことを意味します。それは、人生を変えうる食物アレルギーの発症を予防する可能性のある、重要な介入なのです。

  • 「アレルギーマーチ」の説明: シンプルな定義を用います。アレルギー疾患が次々と進行していく様子のことで、多くは乳児期のアトピー性皮膚炎に始まり、続いて食物アレルギー、そして小児期に喘息やアレルギー性鼻炎へと移行していくことです22
  • 「二重抗原曝露仮説」の説明: NCCHDの研究を主な情報源として、この重要な概念を分かりやすく説明します23。比喩を使うと良いでしょう。「皮膚をレンガの壁だと想像してください。アトピー性皮膚炎では、レンガの間の『モルタル』の一部が欠けています。これにより、環境中の食物アレルゲン(例えば料理中の粉塵など)が壁を通り抜け、その食物が口から食べられる前に、体の『警備隊』(免疫系)に警告を発してしまうのです。」
  • 日本からのエビデンス: NCCHDの画期的な研究を引用し、乳児のアトピー性皮膚炎を早期かつ積極的に治療したことで、その後の鶏卵アレルギーの発症が有意に減少したことを示します23。これは具体的で、国内のエビデンスを提供します。

このメッセージは、時に退屈に感じられる毎日の入浴と保湿という習慣を、単なる雑用から、子供の長期的な健康を守るための非常に重要な行動へと変える力を持っています。

第7章:生活の質(QOL)を高める:子供と家族の日常生活を支える

睡眠:かゆみ・不眠・掻き壊しの悪循環を断ち切る

睡眠障害がアトピー性皮膚炎のQOLに与える最も大きな影響の一つであることを認識します3。アトピー性皮膚炎の子供は夜間の覚醒回数が有意に多いことを示すデータを引用します24。涼しい寝室、軽い綿のパジャマ、就寝直前の保湿剤と必要に応じた薬剤の塗布、そしてサイクルを断ち切るために医師の処方による眠気を誘う抗ヒスタミン薬の使用など、実用的なヒントを提供します7

学校生活と社会生活

学校生活をうまく乗り切るための戦略を提供することは、深い共感を示すことになります。

  • 教師とのコミュニケーション: 保護者が積極的に教師や養護教諭と子供の状態、悪化因子(例:体育での汗)、ケアの必要性(例:保湿剤の塗布)について話すことを勧めます。
  • 体育や水泳の管理: 汗をかく活動の直後にシャワーと保湿をすることを勧めます。水泳に関しては、塩素を洗い流し、直ちに保湿することが重要です5
  • 心理社会的影響への対処: 目に見える発疹がからかいや自己肯定感の低下につながる可能性があることを認めます。子供とのオープンな対話を促し、効果的な疾患管理を通じて自信を育むことを奨励します25

保護者の役割と精神的健康

本当に役立つ情報源を作成するためには、介護者の負担を認識することが不可欠です。複雑な手順、睡眠不足、精神的なストレスといった介護の負担は、保護者の肩に重くのしかかります25。このストレスは保護者の精神的健康に影響を与え、ひいては子供の治療遵守を維持する能力にも影響を及ぼす可能性があります。
保護者に直接語りかけるサブセクションが必要です。「アトピー性皮膚炎の子供のケアは、短距離走ではなくマラソンです。圧倒されてしまうのは普通のことです。お子様の医師と強力な協力関係を築くことが鍵となります。あなた方は一つのチームなのです。」

表3:我が家の「アトピー性皮膚炎」ケア チェックリスト

活動 詳細
毎日
  • ☐ ぬるま湯で優しく入浴(5~10分)。
  • ☐ 入浴後5分以内に全身に保湿剤を塗る。
  • ☐ 処方された薬を正しく、十分な量で塗布する(FTUを活用)。
  • ☐ 汗をかいたら速やかに確認し、拭き取る(特に運動後)。
  • ☐ 再燃の初期兆候がないか皮膚をチェックする。
毎週
  • ☐ シーツ、枕カバーを洗濯する(可能なら温水で)。
  • ☐ 家中、特に寝室や遊び場を丁寧に掃除機がけする。
  • ☐ 子供の爪を短く切り、やすりをかける。
  • ☐ 薬や保湿剤の残量を確認し、なくならないようにする。
症状が悪化した場合
  • ☐ 医師に連絡して相談する。
  • ☐ 皮膚の状態を写真に撮って医師に見せる。
  • ☐ 最近の潜在的な悪化因子(新しい食べ物、環境の変化、ストレス)を再確認する。
  • ☐ スキンケアを強化し、プロアクティブ療法を指示されていれば厳密に遵守する。
データ出典: 複数の情報源からの統合18

よくある質問

ステロイド薬は長期間使っても安全ですか?
はい、医師の指導のもとで適切な強さのステロイドを正しい量と期間で使用すれば、非常に安全です。副作用のリスクは、不十分な治療で炎症を長引かせることの方が大きい場合が多いです。自己判断で中止したり量を減らしたりせず、必ず医師と相談してください1615
保湿剤は1日に何回塗るべきですか?
最低でも1日2回(朝と入浴後)が推奨されますが、皮膚が乾燥していると感じたらいつでも追加で塗ることが重要です。特に重要なのは、入浴後5分以内の「ゴールデンタイム」に塗ることです。これにより、皮膚の水分を効果的に閉じ込めることができます10
アトピー性皮膚炎は食物アレルギーが原因ですか?
必ずしもそうではありません。アトピー性皮膚炎の根本原因は皮膚のバリア機能障害とアトピー素因です。食物アレルギーが症状を悪化させる一因となることはありますが、すべての患者に当てはまるわけではありません。自己判断で食事制限を行うと栄養不足になる危険があるため、食物アレルギーが疑われる場合は必ず専門医による正確な診断を受けることが不可欠です2
子供が大きくなれば自然に治りますか?
多くの場合、症状は年齢とともに軽快しますが、「自然に治る」とは限りません。近年の研究では、思春期や成人期になっても症状が続く人が少なくないことが示されています9。目標を「完治」ではなく、「症状をコントロールし、快適な生活を送ること」に設定し、長期的な視点で治療を続けることが大切です。

結論

本報告書では、家庭でお子様のアトピー性皮膚炎を管理するための、エビデンスに基づいた包括的なロードマップを提示しました。薬物療法、スキンケア、そして環境因子の管理という3つの柱を一貫して適用することで、ご家族は症状を効果的にコントロールし、再燃の頻度を減らし、生活の質を大幅に向上させることができます。
心に留めておくべき最も重要なメッセージは以下の通りです:

  • コントロールが目標: アトピー性皮膚炎は慢性疾患ですが、現代の治療法を用いれば、かゆみのないきれいな皮膚を達成することは現実的な目標です。
  • スキンケアは予防である: 適切なスキンケアは現在の症状を治療するだけでなく、将来的に他のアレルギー疾患からお子様を守るための強力な行動でもあります。
  • あなたは一人ではありません: 皮膚科医や小児アレルギー専門医とのパートナーシップを築いてください。彼らはあなたの最良の相談相手です。

最後に、このケアプランの遵守が、専門的な医療サポートと相まって、お子様に最高の快適さと健康をもたらす力を与えてくれることを忘れないでください。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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