【医師監修】術後の傷跡を残さないために|原因から予防法、市販薬、最新治療まで形成外科専門医が徹底解説
皮膚科疾患

【医師監修】術後の傷跡を残さないために|原因から予防法、市販薬、最新治療まで形成外科専門医が徹底解説

手術後の回復過程で、多くの人が直面するのが「傷跡(きずあと)」の問題です。厚生労働省の統計によると、日本国内では帝王切開だけでも年間約20万件以上行われており1、これにがん手術やその他の外科手術を加えると、術後の傷跡は決して他人事ではない、非常に身近な課題であることがわかります2。多くの方が、傷跡が目立つことによる見た目の悩みだけでなく、かゆみ、ひきつれ、痛みといった不快な症状に苦しんでいます。しかし、術後の傷跡は「運命」として諦める必要は全くありません。正しい知識に基づき、適切な時期に適切なケアを行うことで、傷跡を最小限に抑え、「コントロール」することが可能です。本記事は、日本形成外科学会3や国際的な瘢痕管理ガイドライン4などの最新の科学的根拠に基づき、術後の傷跡に関するあらゆる疑問にお答えします。読者の皆様が「いつから、何を、どのように」行動すべきかを具体的に理解し、自信を持って傷跡ケアに取り組めるよう、包括的な情報を提供することをお約束します。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本形成外科学会 (JSPRS) / 日本創傷外科学会 (JSSWC): 本記事における肥厚性瘢痕・ケロイドの診断、予防、およびステロイドテープや放射線治療といった専門的治療に関する推奨は、これらの学会が発行する診療ガイドラインに基づいています35
  • 瘢痕・ケロイド治療研究会: 治療の段階的アプローチ(アルゴリズム)に関する解説は、日本の臨床現場に即した本研究会の診断・治療指針を参考にしています6
  • 小川 令 教授 (日本医科大学) の研究: 傷跡が悪化する根本原因として「皮膚への張力(Tension)」が重要であるという本記事の核心的理論は、この分野の世界的権威である小川教授らの研究成果に基づいています7
  • International Advisory Panel on Scar Management: シリコーン製品を予防と治療の第一選択肢(ゴールドスタンダード)とする推奨は、エビデンスに基づいた国際的な臨床推奨事項に準拠しています8
  • The Cochrane Library / PubMed掲載のメタアナリシス: シリコーンゲルや早期レーザー治療の有効性に関する記述は、複数の高品質なランダム化比較試験を統合・分析した、最も信頼性の高い科学的エビデンスに基づいています910

要点まとめ

  • 術後の傷跡は、抜糸直後からの「正しいケア」で最小限に抑えることが可能です。
  • 最も重要な予防法は、テーピングで傷口への「張力(引っ張る力)」を物理的に軽減することです。
  • 国際的には、シリコーンジェル・シートによる「保湿・保護」が予防のゴールドスタンダードとされています。
  • 市販薬も有効ですが、成分とエビデンスを理解して選ぶことが重要です。ヘパリン類似物質やシリコーンが主成分です。
  • セルフケアで改善しない場合は、形成外科で保険適用の治療から最新のレーザー治療まで、多様な選択肢があります。諦めずに専門医に相談しましょう。

1. なぜ傷跡はできるのか?正常な治癒と「問題ある傷跡」の境界線

手術や怪我で皮膚が傷つくと、私たちの体はそれを修復しようとします。この修復過程の最終的な結果が「瘢痕(はんこん)」、つまり一般的に言う「傷跡」です。重要なのは、すべての傷は必ず何らかの瘢痕を残すという事実です。しかし、その瘢痕には「良い傷跡」と、治療の対象となりうる「問題ある傷跡」が存在します。この違いを理解することが、適切なケアの第一歩となります。

創傷治癒の3つのフェーズ

皮膚が傷ついてから傷跡として安定するまで、創部は大きく3つの段階を経て治癒していきます11

  1. 炎症期 (数日): 受傷直後、出血を止め(止血)、細菌などの異物を排除するために、傷口に免疫細胞が集まります。この時期、傷は赤み、熱感、腫れ、痛みを伴います。
  2. 増殖期 (数週間〜数ヶ月): 炎症が治まると、新しい血管やコラーゲン線維が作られ、傷が埋められていきます。この時期に過剰なコラーゲンが作られると、後の問題ある傷跡の原因となります。
  3. 成熟期 (数ヶ月〜1年以上): 増殖期に作られたコラーゲン線維が再構築され、より強く安定した組織に置き換わっていきます。傷跡の赤みは徐々に薄れ、白っぽく平坦な状態に落ち着きます。

「良い傷跡」と「問題ある傷跡」の違い

理想的な治癒を遂げた傷跡は「成熟瘢痕」と呼ばれ、白っぽく平らで、あまり目立ちません。一方で、治癒過程で何らかの問題が生じると、「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」や「ケロイド」といった問題ある傷跡になります。日本形成外科学会は、これらの違いを明確に定義しています12

  • 成熟瘢痕 (良い傷跡):
    • 色: 周囲の皮膚に近い色、またはやや白い。
    • 形状: 平坦か、わずかに凹んでいる。
    • 硬さ: 柔らかい。
    • 範囲: 元の傷の範囲を超えて広がらない。
    • 症状: かゆみや痛みはほとんどない。
  • 肥厚性瘢痕 (問題ある傷跡):
    • 色: 赤みが強い。
    • 形状: みみず腫れのように盛り上がる。
    • 硬さ: 硬い。
    • 範囲: 元の傷の範囲を超えて広がることはない。
    • 症状: 強いかゆみや痛みを伴うことがある。
  • ケロイド (問題ある傷跡):
    • 色: 赤みが強く、テカテカしていることがある。
    • 形状: 肥厚性瘢痕よりさらに大きく盛り上がり、カニの足のように周囲に染み出すように広がる。
    • 硬さ: 非常に硬い。
    • 範囲: 元の傷の範囲を明らかに超えて、正常な皮膚にまで広がる。
    • 症状: 非常に強いかゆみ、痛み(特に刺すような痛み)を伴うことが多い。

これらの問題ある傷跡が発生する根本的な原因について、日本医科大学の小川令教授をはじめとする研究者たちは、「創部への持続的な機械的刺激(張力:Tension)」と「遷延する炎症」が最大の要因であることを科学的に明らかにしました713。関節の近くや胸、肩など、体の動きで皮膚が常に引っ張られる部位に傷跡ができやすいのはこのためです。この「張力」をいかにコントロールするかが、後述するすべての予防ケアの論理的根拠となります。

2. 【最重要】術後の傷跡を最小限に抑えるための予防的セルフケア:いつから何をすべきか

多くの人は傷が塞がれば安心しがちですが、傷跡ケアの観点からは、実は「傷が完全に閉じ、抜糸が完了した直後から」が最も重要な時期です。この数ヶ月間のケアが、将来の傷跡の状態を大きく左右する「ゴールデンタイム」と言えます。ここでは、具体的なアクションプランを時系列で解説します。

抜糸直後〜3ヶ月:ゴールデンタイム

この時期は、傷の下でコラーゲンの増殖が最も活発に行われています。ここでの目標は、過剰なコラーゲン産生を促す「張力」と「炎症」を徹底的に抑えることです。

アクション1:テーピングによる張力コントロール

内容: これが最も重要かつ基本的なケアです。傷跡に対して垂直方向にテープを貼ることで、日常の動作で皮膚が引っ張られるのを物理的に防ぎます。日本形成外科学会や国際的なガイドラインでも、この張力緩和の重要性が強調されています414
具体的な方法: 市販の傷あとケア専用テープ(例:ニチバン「アトファイン®」)や、医療用サージカルテープ(例:3M™「マイクロポア™ スキントーン サージカルテープ」)を使用します。テープは傷跡の長さに合わせてカットし、傷跡をまたぐように、皮膚にシワが寄らない程度に優しく貼り付けます。数日間貼りっぱなしにし、剥がれてきたら交換するのが基本です。
エビデンス: 物理的な張力制御は、肥厚性瘢痕の予防において有効であることが広く認められています。

アクション2:シリコーン製品による保湿と保護

内容: 国際的な瘢痕管理ガイドラインでは、シリコーンジェルおよびシリコーンジェルシートの使用が、傷跡予防の「ゴールドスタンダード(第一選択肢)」として強く推奨されています815。シリコーンが皮膚表面を覆うことで、水分の蒸散を防ぎ、創部の治癒環境を最適な湿度に保ちます。また、外部の刺激から傷跡を保護し、軽度の圧迫効果も期待できます。テープによるかぶれが心配な方や、より高い予防効果を求める場合の優れた選択肢です。
具体的な方法: ジェルタイプ(例:ケロコート®)は顔などの凹凸のある部位や目立つ部位に適しており、シートタイプ(例:メピフォーム®、シカケア®)は衣類で擦れる腹部や関節部などに適しています。シートは洗って繰り返し使える製品もあります。
エビデンス: シリコーン製品の有効性は、数多くの質の高い臨床試験やメタアナリシスによって裏付けられています916

アクション3:徹底した紫外線対策

内容: 治癒過程の新しい皮膚は非常にデリケートで、紫外線(UV)を浴びるとメラニンが過剰に生成され、茶色い色素沈着が起こりやすくなります。一度できた色素沈着は消えにくいため、予防が不可欠です。
具体的な方法: 傷跡部分にUVカット機能のあるテープ(例:エアウォールUV®)を貼るのが最も確実です。それが難しい場合は、外出時には必ず日焼け止め(SPF30・PA+++以上を推奨)を塗り、帽子や衣類で物理的に遮光することも重要です17

3ヶ月〜1年:継続ケア期間

傷跡の赤みが少し落ち着いてきても、内部の炎症や組織の再構築(リモデリング)は続いています。見た目が安定してきたからといって油断せず、上記のケア(特にテーピングやシリコーン製品による保護)を、少なくとも術後3ヶ月、可能であれば半年から1年間継続することが、より良い結果につながると専門家は推奨しています18

【注意】この時期に避けるべきこと

  • 過度なストレッチや筋力トレーニング: 傷跡に強い張力をかける行為は避けましょう5
  • 不適切なマッサージ: 特に炎症が強い時期(赤みや盛り上がりがある時期)に強くこすったり揉んだりすると、刺激となって逆効果になる可能性があります19
  • かさぶたを無理に剥がすこと: 自然に剥がれ落ちるのを待ちましょう。
  • 喫煙: 喫煙は血行を悪化させ、創傷治癒を遅らせることが科学的に証明されています。

3. 日本で利用可能な市販(OTC)傷あとケア製品の選び方と使い方

ドラッグストアには様々な傷あとケア製品が並んでおり、どれを選べば良いか迷うかもしれません20。市販薬は手軽に始められる利点がありますが、成分とその科学的根拠を理解して、自分の目的に合った製品を選ぶことが賢明です。

主要な製品カテゴリーと特徴

日本で入手可能なセルフケア製品は、主に以下のカテゴリーに分けられます。それぞれの特徴とエビデンスレベルを理解しましょう。

表1: 日本で入手可能な主要セルフケア製品の比較
製品カテゴリ 具体的な製品例 主要成分/作用 エビデンスレベル 特徴
シリコーンジェル/シート メピフォーム®、シカケア®、ケロコート® シリコーン A (国際的に強力な推奨) 保湿・圧迫・保護効果。国際的な第一選択肢。ケロイド体質者や動きの多い部位に特に推奨。
傷あとケア専用テープ アトファイン®、3M™ マイクロポア™ 物理的効果(張力抑制) B (国内外で推奨) 傷への伸展刺激を物理的に軽減する最も基本的なケア。安価で始めやすい。
ヘパリン類似物質含有薬 アットノン®、アトキュア®、(医療用:ヒルドイド®) ヘパリン類似物質 C (国内で一定のデータあり) 保湿、血行促進、抗炎症作用を持つ。日本では広く使用され入手しやすいが、国際的な推奨度はシリコーンに劣る。
UVカットテープ エアウォールUV® 物理的効果(紫外線遮断) B (推奨) 紫外線による色素沈着を強力に防ぐ。日焼け止めクリームの塗り忘れ等の心配がない。

製品の賢い選び方

ヘパリン類似物質含有製品(アットノン®など): 日本では非常にポピュラーな選択肢です。有効成分のヘパリン類似物質には「保湿作用」「血行促進作用」「抗炎症作用」があり、傷あとの角質に水分を保持させ、柔軟性を高める効果が期待できます21。国内の臨床試験では、肥厚性瘢痕・ケロイド患者において一定の改善効果が報告されています22。しかし、国際的な視点で見ると、その有効性を示す高品質な研究の数はシリコーン製品に比べて限られています。
シリコーン製品: 2020年に行われた複数のランダム化比較試験のメタアナリシス(最も信頼性の高い研究手法の一つ)では、局所シリコーンゲルがプラセボ(偽薬)や無治療と比較して、瘢痕の色素沈着、高さ、柔軟性を有意に改善したと結論づけられています9。この強力なエビデンスに基づき、多くの国際ガイドラインで第一選択肢とされています1516。テープによる張力抑制と併用することで、より高い予防効果が期待できます。
結論として、最も基本的なケアは「テーピングによる張力抑制」です。その上で、より高い効果を求める場合や、国際標準のケアを行いたい場合は「シリコーン製品」を、手軽さや日本での入手のしやすさを重視する場合は「ヘパリン類似物質製品」を選ぶと良いでしょう。いずれの場合も、紫外線対策は必須です。

4. 医療機関で行う専門的治療:できてしまった傷跡へのアプローチ

適切なセルフケアを行っても傷跡が改善しない、あるいは明らかに悪化していく(赤みや盛り上がりが強くなる、範囲が広がるなど)場合は、諦めずに形成外科や皮膚科の専門医に相談することが極めて重要です。日本創傷外科学会も、専門医による適切な診断と治療を推奨しています5。現代の医療では、できてしまった傷跡に対しても有効な治療法が数多く存在します。

治療のアルゴリズム:まずは保存的治療から

瘢痕・ケロイド治療研究会が示す治療指針では、まず侵襲性の低い保存的治療から開始し、効果が不十分な場合に物理療法や外科的治療へとステップアップしていくのが一般的です6

第一段階:保存的治療(主に保険適用)

  • ステロイド含有テープ/軟膏: 日本の形成外科診療ガイドラインで強く推奨されている治療法です23。ステロイドの抗炎症作用により、傷跡の赤み、盛り上がり、かゆみを抑えます。ドレニゾンテープ®などが代表的です。
  • ステロイド局所注射(ケナコルト®注射): 盛り上がりが強い肥厚性瘢痕やケロイドに対する標準的な治療法です。ステロイド薬を直接瘢痕内に注射することで、コラーゲンの過剰な産生を強力に抑制します。効果は高いですが、副作用として皮膚の菲薄化(薄くなること)、陥凹、毛細血管拡張などが起こる可能性があるため、専門医による慎重な投与が必要です19
  • 内服薬(トラニラスト/リザベン®): 抗アレルギー薬の一種で、かゆみや痛みなどの自覚症状を和らげ、瘢痕の増殖を抑制する効果が期待できます。他の治療と組み合わせて補助的に用いられることが多いです24

第二段階:物理療法(自費診療を含む場合あり)

  • レーザー治療: 近年、傷跡治療においてレーザーの役割が非常に大きくなっています。
    • 色素レーザー (Vビーム®など): 傷跡の「赤み」に特化したレーザーです。異常に増生した毛細血管を破壊することで、赤みを効果的に改善します。
    • フラクショナルレーザー: 皮膚に微細な穴をあけて意図的に傷つけ、皮膚の再構築(リモデリング)を促すことで、傷跡の質感や硬さを改善します。

    2020年のメタアナリシスでは、手術後1ヶ月未満の早い段階でレーザー治療を開始することが、最終的な傷跡を最小化する上で有効であることが示唆されています10

  • 放射線治療: 手術でケロイドを切除した後の「再発予防」に非常に有効な治療法です。手術翌日から数日間にわたり、低線量の放射線(電子線)を照射します。日本のガイドラインでも、再発性ケロイドの術後補助療法として強く推奨されています5

最終段階:外科的治療

瘢痕形成術(Z形成術、W形成術など): 傷跡による皮膚のひきつれ(瘢痕拘縮)がある場合や、幅が広く目立つ傷跡を、より目立たない細い一本の線にするために行われます。傷跡の方向をジグザグに変える(Z形成術、W形成術)ことで、張力を分散させ、ひきつれを解除します25。ただし、ケロイド体質の方が単純に切除・縫合するだけでは、以前より大きなケロイドとして再発するリスクが非常に高いため、必ず術後の放射線治療やステロイド注射といった補助療法との組み合わせが必須となります。

5. よくある質問(FAQ)

Q1. 傷跡のケアはいつから始めればいいですか?
A. 創部が完全に乾燥して閉じ、抜糸が完了した直後から開始するのが最も効果的です。この「ゴールデンタイム」を逃さないことが、きれいな傷跡を目指す上で非常に重要です。
Q2. 帝王切開の傷跡ケアで特に気をつけることは?
A. 腹部は、起き上がる、かがむなどの日常動作で常に皮膚が引っ張られ、強い張力がかかりやすい部位です。そのため、肥厚性瘢痕ができやすい傾向にあります。長期間(最低でも3ヶ月〜半年)のテーピングやシリコーンシートによる張力緩和と保護が特に重要になります。
Q3. ケロイド体質と言われました。どうすればいいですか?
A. ケロイド体質の方にとって、予防は何よりも重要です。もし手術を受ける予定がある場合は、必ず事前に執刀医にケロイド体質であることを伝えてください。術後は、抜糸直後からシリコーンシートの使用を開始し、場合によっては早期からの内服薬や、傷跡が少しでも盛り上がる兆候を見せたらすぐにステロイド注射やレーザー治療を開始するなど、積極的な予防的治療を専門医と相談して計画することが推奨されます26
Q4. 傷跡の治療に保険は適用されますか?
A. 医師が「肥厚性瘢痕」や「ケロイド」と診断した場合、その治療は病気の治療と見なされるため、多くの治療法が健康保険の適用となります。具体的には、ステロイドのテープ剤・軟膏・注射、内服薬(トラニラスト)、外科的手術、術後の放射線治療などは保険適用です。一方で、レーザー治療や、純粋な美容目的での成熟瘢痕の修正などは自費診療となることが多いです。詳細は受診する医療機関にご確認ください。
Q5. 子供の傷跡ケアで注意すべき点はありますか?
A. 子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、皮膚のターンオーバーも早いため、傷の治りも早い一方で、コラーゲンが過剰に作られやすく、傷跡が赤く盛り上がりやすい(肥厚性瘢痕になりやすい)傾向があります。大人以上に、テーピングによる張力コントロールと、徹底した紫外線対策が重要になります。子供がテープを剥がしてしまわないような工夫も必要です。

結論

術後の傷跡は、単なる美容上の問題ではなく、時として痛みやかゆみ、ひきつれといった機能的な問題を引き起こす医学的な課題です。しかし、本記事で解説したように、傷跡が悪化するメカニズムは科学的に解明されつつあり、それに基づいた有効な予防法と治療法が確立されています。最も重要なメッセージは、「傷跡はコントロールできる」ということです。抜糸直後からの「張力コントロール」「保湿・保護」「紫外線対策」という3つの基本ケアを徹底すること。そして、もしセルフケアで対応できない問題ある傷跡になってしまっても、決して一人で悩まず、形成外科や皮膚科の専門医に相談すること。正しい知識と適切な行動が、あなたの憂鬱を和らげ、より良い結果へと導いてくれるはずです。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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