この記事の要点
- 頭部白癬(しらくも)は、皮膚糸状菌という真菌が毛髪の内部にまで感染することで発症する病気であり、単なるフケとは異なります。1
- 治療の基本は、内服の抗真菌薬です。塗り薬やシャンプーだけでは毛髪内部の菌を完全に除去できず、治療は不十分です。3
- 日本の格闘技選手の間で流行している「タムシ(Tinea Gladiatorum)」の主な原因は、ヒトからヒトへ感染するトリコフィトン・トンサランス菌です。17
- 猫や犬などのペットから感染するミクロスポルム・カニス菌による症例も依然として多く、こちらは強い炎症(ケルスス禿瘡)を引き起こすことがあります。136
- 診断を確定せずにステロイド外用薬を使用すると、症状が悪化し、永続的な脱毛(瘢痕性脱毛症)につながる危険性があるため、自己判断は禁物です。16
- 適切な内服治療を開始すれば、登校や(一部注意のもと)プールへの参加も可能です。感染拡大を防ぐための家庭内での衛生管理が重要となります。36
頭部白癬(しらくも)とは何か?:定義と原因の深層分析
頭部白癬を正しく理解することは、適切な治療への第一歩です。ここでは、その医学的な定義、原因となる真菌の種類、そしてなぜ髪の毛に感染が起こるのかという根本的なメカニズムについて、日本国内の状況と国際的な基準を対比させながら詳細に解説します。
1. 医学的定義と分類:日本の「しらくも」と国際基準
頭部白癬は、医学的には「Tinea Capitis(ティネア・カピティス)」と呼ばれ、皮膚糸状菌(Dermatophyte)という種類の真菌が頭皮の角質層および毛髪、毛包に感染することによって引き起こされる疾患です。14 この皮膚糸状菌は、皮膚や毛髪、爪の主成分であるケラチンというタンパク質を栄養源として増殖します。4
日本では、医学的な正式名称「頭部白癬(Tōbu Hakusen)」のほかに、古くからの呼び名である「しらくも」という言葉が一般的に広く使われています。3
日本皮膚科学会(JDA)のガイドラインでは、臨床的な炎症の程度に基づき、伝統的に以下の2つのタイプに分類されています。6
- ケルスス禿瘡 (Kerion Celsi): 毛包を中心に膿疱が多発し、強い炎症と腫れ、痛みを伴う重症型です。これは菌そのものによる破壊ではなく、菌に対する体の強いアレルギー反応(過敏反応)によって引き起こされます。2
- 頭部浅在性白癬 (Tōbu Senzai-sei Hakusen): 炎症を伴わないか、軽度な「非炎症型」のタイプです。一般的に臨床現場で「頭部白癬」や「しらくも」と呼ばれるのは、主にこのタイプを指します。7
一方で、国際的な標準では、これらすべてを「Tinea Capitis」という単一の疾患名で包括し、原因となる菌種(例: Trichophyton tonsurans感染症)や臨床像(例: 黒点状、灰色白癬状)によって細分化するのが一般的です。6 この記事では、読者の皆様が医師から説明を受ける可能性のある日本の分類を基本としつつ、より広い視野で疾患を理解するために国際的な知見も併せて解説します。
2. 病態生理:真菌はどのように毛髪へ侵入するのか
感染は、真菌が頭皮の表面(角質層)に付着することから始まり、そこから毛包を通って毛髪の内部へと侵入していきます。2 この毛髪への侵入パターンは、原因菌の種類を推測する上で重要な手がかりとなり、主に3つのタイプに分けられます。2
- 毛外性寄生 (Ectothrix): 真菌の胞子(分節胞子)が毛髪の外側で増殖し、髪のキューティクルを破壊します。これは主にMicrosporum属(例: M. canis)で見られる特徴で、感染した毛髪はウッド灯(特定の紫外線を当てる検査機器)で青緑色に光ることがあります。2
- 毛内性寄生 (Endothrix): 胞子が毛髪の内部のみで増殖し、キューティクルは保たれます。これはTrichophyton属(例: T. tonsurans)の典型的なパターンです。9 この場合、毛髪は非常に脆くなり、頭皮の表面ですぐに折れてしまうため、毛穴に黒い点(Black Dot)が詰まっているように見えます。8 このタイプは通常、ウッド灯では光りません。12
- 黄癬 (Favus): 非常に稀な慢性炎症型で、T. schoenleiniiという菌によって引き起こされます。毛包の周りに黄色の皿状の厚い痂皮(かさぶた)である「スクツラ(黄癬痂皮)」が形成されるのが特徴です。2
3. 感染源と疫学:現代日本の二つの潮流
頭部白癬の原因と感染経路は、時代と共に変化してきました。特に現代の日本では、二つの異なる疫学的な流れが同時に存在しており、この点を理解することが極めて重要です。
原因となる真菌
原因菌は主にTrichophyton属とMicrosporum属に大別されます。3 感染源によって、以下の2種類に分けられます。
- 動物好性菌 (Zoophilic): 動物からヒトへ感染します。代表格はMicrosporum canisで、主に猫や犬から感染します。3 このタイプの菌は、ヒトの体内で強い炎症反応を引き起こしやすい傾向があります(ケルスス禿瘡の原因となりやすい)。6
- ヒト好性菌 (Anthropophilic): ヒトからヒトへ感染します。代表格はTrichophyton tonsuransで、非常に感染力が強いのが特徴です。3
2021年に日本で行われた疫学調査では、頭部白癬の最も一般的な原因菌としてMicrosporum canisとTrichophyton tonsuransが報告されており、これらが現在の日本の主要な原因菌であることが示されています。13 その他、近年ではペットのハリネズミなどから感染するTrichophyton mentagrophytes(特に分子型Arthroderma benhamiae)による動物由来の感染も報告されています。15
日本の疫学:格闘技界での流行と一般集団での発生
戦前の日本では「しらくも」は子供によく見られる病気でしたが、戦後の衛生環境の改善により激減しました。4 しかし、現代において新たな形で再興しています。
現代の流行:「Tinea Gladiatorum(格闘家の白癬)」
近年、柔道、レスリング、相撲といったコンタクトスポーツ(接触型スポーツ)の競技者の間で、Trichophyton tonsuransによる頭部白癬が集団発生し、大きな問題となっています。17 これは「Tinea Gladiatorum」とも呼ばれます。分子疫学的解析によると、日本国内の競技者から検出される菌株はほとんどが単一の遺伝子型(主にNTS I型)であり、これは一人の感染者から急速にコミュニティ内で拡大したことを示唆しています。19
この流行の制御を困難にしている最大の要因は、「無症候性キャリア」の存在です。17 これは、菌を保菌しているにもかかわらず、かゆみや脱毛といった自覚症状が全くない状態を指します。キャリアは無自覚のうちに、練習中の接触や共用の器具などを介して他者へ菌を感染させてしまうため、感染の連鎖を断ち切ることが非常に難しいのです。
一般人口における動向
2021年の全国疫学調査では、47例の頭部白癬(男性25例、女性22例)が報告されました。14 これは、足白癬(水虫)などに比べると比較的稀な疾患です。6 全体的な傾向として、日本の皮膚真菌症は高齢化社会を反映し、80歳以上の高齢者での罹患率が増加していますが、これは主に足白癬や爪白癬で見られる特徴です。13
このように、現代日本の頭部白癬は、格闘技という特定のサブカルチャーに集中するヒト由来の流行と、散発的に発生し続ける動物由来の感染症という、二重の構造を持っているのです。この理解は、予防と治療戦略を立てる上で不可欠です。
4. 感染経路:どうやってうつるのか?
感染経路は主に直接接触と間接接触の二つです。
- 直接接触: 感染している人(ヒト好性菌)や動物(動物好性菌)の皮膚や毛に直接触れることで感染します。3
- 間接接触(Fomites): 菌は非常にしぶとく、感染者から剥がれ落ちた皮膚片や毛髪の中でも生き続けることができます。これらが付着した物を介して感染が広がります。1
臨床症状と診断:頭部白癬を見抜くための専門的アプローチ
頭部白癬の症状は非常に多彩で、単なるフケや湿疹と見誤られることも少なくありません。正確な診断が、適切な治療と合併症の予防につながります。ここでは、具体的な症状の現れ方から、専門医が行う診断プロセスまでを詳しく解説します。
1. 臨床症状の多様性
非炎症型の症状
- 黒点状白癬(Black Dot Tinea Capitis): 主に毛内性寄生菌(T. tonsurans)によって引き起こされます。感染した毛髪が地肌のすぐ上で折れるため、毛穴に黒い点が詰まったように見えます。2 これは特に格闘技関連の流行で見られる重要な所見です。
- 灰色白癬(Gray Patch Tinea Capitis): 主に毛外性寄生菌(M. audouinii, M. canis)が原因です。毛髪が地肌から数ミリ上で折れ、残った短い毛が菌の胞子で覆われて灰色に見えます。2
- フケに似た鱗屑(りんせつ): 頭皮全体に細かいフケのようなカサカサした鱗屑が広がるだけのこともあります。これは脂漏性皮膚炎と非常によく似ています。2 脱毛が目立たないこともあり、診断が遅れる原因となります。16
これらの非炎症型では、乾燥した鱗屑を伴う円形の脱毛斑が見られることが多く、かゆみは軽度か、全くない場合もあります。3 特にT. tonsurans感染では症状が非常に軽微なため、本人が気づかない「無症候性キャリア」となることが多いのです。3
炎症型の症状
- ケルスス禿瘡 (Kerion Celsi): これは菌に対する体の強いアレルギー反応によって生じる、痛みを伴う重度の炎症です。2
- 膿疱性白癬: 頭皮に点々と膿を持った毛包炎のようなブツブツが散在し、脱毛斑を伴います。2
関連する皮膚現象
- 白癬疹 (Dermatophytid Reaction / Id Reaction): 感染部位から離れた場所(顔、手、体幹など)に現れるアレルギー性の発疹です。1 これは菌の成分に対する免疫反応であり、感染が広がったわけではありません。通常、内服治療を開始した後に現れることがあり、ステロイド外用薬で対処します。1
- 二次的な細菌感染: 特にケルスス禿瘡のように皮膚のバリア機能が破壊された状態では、ブドウ球菌などの細菌が二次的に感染することがあります。2
2. 診断アルゴリズム:いかにして確定診断に至るか
症状が多彩であるため、正確な診断には専門的な検査が不可欠です。日本皮膚科学会のガイドラインに基づいた診断プロセスは以下の通りです。
臨床診察とダーモスコピー
まず、医師は視診で頭皮を入念に観察し、鱗屑、炎症、脱毛のパターン、毛髪の状態(折れ毛、黒い点など)を確認します。26 感染した毛髪は抜けやすい特徴があります。6
近年、ダーモスコピー(トリコスコピー)という、特殊な拡大鏡で頭皮や毛髪を観察する非侵襲的な検査が非常に有用とされています。2 これにより、以下のような頭部白癬に特徴的な毛髪の変化を直接観察でき、培養結果を待つ間の仮診断に役立ちます。
- コンマヘア (Comma hairs): コンマ状に曲がった毛。
- コークスクリューヘア (Corkscrew hairs): コルク抜きのようにらせん状にねじれた毛。
- ジグザグヘア (Zigzag hairs): ジグザグ状の毛。
- バーコード様毛髪 (Barcode-like hairs): バーコードのような模様を持つ毛。
検査室での確定診断
臨床的に頭部白癬が疑われた場合、確定診断のために以下の検査が行われます。
- 直接鏡検法 (KOH法): これは最も迅速で重要な検査です。7 頭皮の鱗屑や疑わしい毛髪を採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で処理して顕微鏡で観察します。これにより、毛髪内外の菌糸や胞子といった菌の要素を直接確認できます。12 ただし、炎症が強いケルスス禿瘡などでは菌が検出しにくく、偽陰性(菌がいるのに検出されない)となることもあります。7
- 真菌培養検査: JDAガイドラインで強く推奨されている、診断の「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」です。726 採取した検体を特殊な培地で培養し、原因となっている真菌を発育させます。
- ウッド灯検査: 特殊な紫外線を頭皮に当て、感染毛が特徴的な色(青緑色など)に蛍光発光するかどうかを見る検査です。7 Microsporum属による感染では陽性となるため診断に有用ですが、日本で流行しているT. tonsuransは蛍光発光しないため、この検査が陰性であっても頭部白癬を否定することはできません。212
検査法 (Test) | 手技 (Procedure) | 検出対象 (Target) | 主な利点 (Advantage) | 主な限界 (Limitation) | JDAガイドライン上の役割 |
---|---|---|---|---|---|
臨床診察/ダーモスコピー | 拡大鏡による視診 | 毛髪の形態異常(コンマ状、らせん状など) | 非侵襲的、迅速 | あくまで推定診断 | 初期評価 |
直接鏡検 (KOH法) | 検体をKOH処理し顕微鏡で観察 | 菌要素(菌糸、胞子) | 迅速な確定 | 偽陰性の可能性 | 必須の第一ステップ |
真菌培養 | 検体を培地で培養 | 原因菌種の発育 | 菌種同定(ゴールドスタンダード) | 時間がかかる(最大4週間) | 強く推奨 (推奨度1)26 |
ウッド灯検査 | 紫外線(UV)を照射 | 感染毛の蛍光発光 | Microsporum属の迅速なスクリーニング | T. tonsuransでは陰性 | 補助的検査 |
3. 鑑別診断:見間違いやすい他の頭皮疾患
頭部白癬は他の多くの皮膚疾患と症状が似ているため、正確な鑑別が極めて重要です。特に、誤った治療は症状を悪化させる危険があります。16
- 脂漏性皮膚炎: フケや赤みの原因として最も一般的ですが、通常、明確な脱毛斑や折れ毛は見られません。原因はマラセチア菌であり、皮膚糸状菌ではありません。22
- 円形脱毛症: 境界明瞭な脱毛斑が現れますが、表面は滑らかで、鱗屑を伴わないのが特徴です。自己免疫が原因です。16
- 乾癬(かんせん): 銀白色の厚い鱗屑を伴う、境界明瞭な赤い発疹が特徴です。9
- 細菌性毛包炎・膿瘍: ケルスス禿瘡は、細菌によるおできや膿瘍と誤診されやすいです。真菌培養が鑑別の鍵となります。9
【最重要警告】自己判断によるステロイド使用の危険性
臨床現場で最も懸念される過ちの一つが、頭部白癬を単なる湿疹やフケと自己判断し、市販のステロイド外用薬(塗り薬)を使用してしまうことです。日本皮膚科学会をはじめとする専門機関は、未診断の真菌感染症にステロイドを使用すると、菌の増殖を助長し、免疫反応を変化させ、軽症だった白癬を重度の炎症型である「ケルスス禿瘡」へと悪化させる危険性を強く警告しています。16 ケルスス禿瘡は強い痛みを伴うだけでなく、毛包を永久に破壊し、二度と髪が生えてこない「瘢痕性脱毛症」という深刻な後遺症を残すリスクが非常に高い状態です。9 頭皮にかゆみやフケ、脱毛などの異常を感じた場合は、決して自己判断で薬を塗らず、必ず皮膚科を受診し、顕微鏡検査などによる正確な診断を受けることが不可欠です。
科学的根拠に基づく治療法:JDAガイドラインの徹底解説
頭部白癬の治療は、科学的根拠に基づいたアプローチが不可欠です。ここでは、日本皮膚科学会(JDA)の「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」を基軸に、なぜ内服薬が必須なのか、どのような薬剤が選択されるのか、そして重度の炎症をどう管理するのかを詳細に解説します。
1. 治療の原則:なぜ内服薬が不可欠なのか
頭部白癬治療の絶対的な基本原則は、抗真菌薬の全身投与(内服薬)です。3 これは交渉の余地のない、最も重要なポイントです。
その理由は、感染が皮膚の表面だけでなく、毛髪の内部、毛包の深くにまで及んでいるためです。塗り薬やシャンプーなどの外用剤は、毛髪の内部まで有効成分が浸透しないため、表面の菌を減らすことはできても、感染の根源を断つことはできません。3 したがって、JDAガイドラインにおいても、頭部白癬に対する経口抗真菌薬療法は、最も推奨度が高い「推奨度A」として位置づけられています。6
2. 抗真菌内服薬の詳細:各薬剤の特徴と選択
日本国内および国際的に主に使用される内服薬は、テルビナフィン、イトラコナゾール、そして伝統的な薬剤であるグリセオフルビンです。1 治療期間は菌種や重症度によりますが、一般的には全ての臨床症状が消失し、培養検査で陰性が確認されるまで(通常6週間以上)継続することが推奨されます。23 治療の早期中断は再発の主な原因です。35
テルビナフィン (Terbinafine)
- 有効性: 特にTrichophyton属(毛内性寄生菌)に対して非常に高い効果を示し、T. tonsuransが原因のTinea Gladiatorumに対する第一選択薬の一つと見なされています。9
- 用法・用量(日本): 成人では125mgを1日1回。小児では体重に応じて投与量が調整されます(20kg未満: 62.5mg/日、20-40kg: 125mg/日、40kg超: 250mg/日)。9
- 治療期間: Trichophyton感染では通常2~4週間ですが、延長されることもあります。9
- 安全性と注意点: 定期的な血液検査(肝機能)が必要です。6 重要な点として、JDAの添付文書情報では小児に対する安全性は確立していないとされており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用が考慮されます。32 これは、小児の第一選択薬として推奨する海外のガイドライン9とは見解が異なるため、医師との十分な相談が必要です。
イトラコナゾール (Itraconazole)
- 有効性: Trichophyton属とMicrosporum属の両方に効果がある広域スペクトラムの薬剤です。8
- 用法・用量(日本): 成人では通常100~200mgを1日1回。パルス療法(1週間内服し3週間休薬するサイクル)で用いられることもあります。9
- 治療期間: 通常2~4週間、またはパルス療法に準じます。9
- 安全性と注意点: テルビナフィン同様、日本の添付文書では小児への使用は治療上の有益性が高い場合に限定されています。32
グリセオフルビン (Griseofulvin)
- 有効性: 古くから使用されている伝統的な薬剤で、特にMicrosporum属(毛外性寄生菌)による感染に優れた効果を発揮します。27 T. tonsuransに対する効果はテルビナフィンに劣るとされています。27
- 用法・用量: 小児では体重あたり10~20mg/kg/日で投与されます。9 薬剤の吸収を高めるために、脂肪分の多い食事と一緒に服用する必要があります。11
- 治療期間: テルビナフィンやイトラコナゾールより長い治療期間が必要で、通常6~8週間以上かかります。1
- 安全性と注意点: 小児での長い使用実績があり、米国FDAではこの適応で承認されています。34
薬剤 (Drug) | 成人標準用量 (Adult Dose) | 小児標準用量 (Pediatric Dose) | 標準的治療期間 (Duration) | 有効な菌種 (Effective Against) | 日本での主な注意点 (Notes in Japan) |
---|---|---|---|---|---|
テルビナフィン (Terbinafine) | 125 mg/日 | 体重別 (62.5-250mg) | 2-6週間 | Trichophytonに優れる | JDAは小児の安全性が未確立と注記32。定期的な肝機能検査が必要6。 |
イトラコナゾール (Itraconazole) | 100-200 mg/日 | 5 mg/kg/日 (国内標準ではない) | 2-4週間 (またはパルス療法) | Microsporum & Trichophyton | 小児への使用は有益性が高い場合に限定32。 |
グリセオフルビン (Griseofulvin) | 主に小児用 | 10-20 mg/kg/日 | 6-8週間以上 | Microsporumに優れる | 長い使用実績。脂肪分の多い食事と共に服用11。 |
3. 重度の炎症(ケルスス禿瘡)の管理:ステロイド内服の役割
ケルスス禿瘡のような重度の炎症を伴う場合、抗真菌薬に加えて、短期間のステロイド内服薬(プレドニゾンなど)の併用が考慮されます。9
その目的は、強力な抗炎症作用によって、痛みや腫れといった苦痛な症状を迅速に軽減し、最も重要な合併症である瘢痕形成と永久脱毛のリスクを最小限に抑えることです。9 通常、小児では1mg/kg/日(成人では40mg/日など)から開始し、2週間程度で徐々に減量していく短期集中型の治療が行われます。9
4. 補助療法:抗真菌シャンプーの正しい位置づけ
JDAガイドラインでは、T. tonsurans感染に対する外用抗真菌薬の使用が「推奨度B(行うことを考慮してもよい)」とされています。6 これは非常に重要な点で、文脈を正しく理解する必要があります。
抗真菌成分を含むシャンプー(硫化セレン8やケトコナゾール1、日本では市販品としてミコナゾール含有の「コラージュフルフルネクストシャンプー」28など)の目的は、感染症そのものを治すことではありません。その役割は、頭皮表面に存在する生きた菌の胞子を減少させ、他者への感染拡大(伝播)を防ぐことにあります。1
したがって、これらのシャンプーはあくまで内服治療の「補助」として、内服治療期間中に週2回程度使用されるべきものであり、シャンプー単独での治療は不可能です。
患者様とご家族のための実践ガイド:予防、管理、そして不安の解消へ
頭部白癬と診断されたとき、治療そのものだけでなく、日常生活における様々な疑問や不安が生じます。このセクションでは、患者様とそのご家族の視点に立ち、具体的な予防策、学校生活での対応、そして費用面まで、あらゆる実用的な情報を提供します。
1. 家庭内での感染拡大防止策
頭部白癬の菌は感染力が強く、環境中に長期間生存する可能性があるため、家庭内での徹底した衛生管理が再発と家族内感染を防ぐ鍵となります。12
環境の消毒と物品管理チェックリスト
- 洗濯: 枕カバー、シーツ、タオル、帽子などは、毎日交換し、可能であれば60℃以上のお湯で洗濯します。1
- 個人用品の消毒: クシ、ヘアブラシ、ヘアアクセサリーは、消毒するか、新しいものに交換します。次亜塩素酸ナトリウム溶液(家庭用漂白剤を薄めたもの)に浸すことも有効です。1
- 共有の禁止: これらの個人用品は、家族間であっても絶対に共有しないでください。1
- 清掃: 掃除機をこまめにかけ、床や家具の表面を清潔に保ちます。
2. 家族のスクリーニングとペットの管理
重要な公衆衛生上の対策として、感染が確認された場合、同居する家族全員が皮膚科医の診察を受けることが強く推奨されます。1 症状がないように見えても、無症候性キャリアである可能性があるためです。予防的に、家族全員が一定期間(例: 4週間、週2回)抗真菌シャンプーを使用することが勧められる場合もあります。1
また、原因菌がM. canisと特定された場合や、家庭でペット(特に猫や犬)を飼っている場合は、そのペットも動物病院(獣医)で検査を受ける必要があります。1 ペットが感染源となっている場合、動物を治療しない限り、人への再感染が繰り返される可能性があります。
よくある質問 (FAQ)
ここでは、患者様や保護者の方々から特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
頭部白癬(しらくも)は危険な病気ですか? 髪の毛はまた生えてきますか?
とても清潔にしているのに、なぜ子供がこの病気になったのでしょうか?
なぜ飲み薬が必要なのですか? 塗り薬やシャンプーだけではダメなのですか?
子供が飲み薬を服用するのは安全ですか? 副作用が心配です。
見た目が良くなってきたので、薬をやめてもいいですか?
子供は学校や保育園を休ませる必要がありますか? プールには入れますか?
治療にはどのくらいの費用がかかりますか? 健康保険は使えますか?
結論:専門的診断と根気強い治療、そして正しい知識が完治への道
頭部白癬(しらくも)は、その見た目から誤解や偏見を招きやすい疾患ですが、その本質は「毛髪内部の真菌感染症」です。本記事で詳述したように、現代の日本では格闘技コミュニティにおけるヒトからヒトへの感染と、ペットから感染する従来型の二つの流れが存在し、その様相は複雑化しています。
最も重要なメッセージは、自己判断を避け、必ず皮膚科専門医による正確な診断を受けることです。特に、安易なステロイド外用薬の使用は、回復不可能なダメージにつながる危険性をはらんでいます。治療の根幹は、医師の指示に従った内服抗真菌薬の根気強い継続であり、塗り薬やシャンプーはあくまで感染拡大を防ぐ補助的な役割に過ぎません。
適切な治療と家庭内での衛生管理を行えば、頭部白癬は完治可能な疾患です。正しい知識を持つことが、患者様本人とご家族の不安を和らげ、社会的な偏見をなくし、そして感染の連鎖を断ち切るための最も強力な武器となります。JapaneseHealth.orgは、今後も科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報を提供し、皆様の健康な生活をサポートしてまいります。
本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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- Tinea capitis – DermNet, truy cập vào tháng 6 21, 2025, https://dermnetnz.org/topics/tinea-capitis
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- 『白癬』の原因・症状・治療法【症例画像】 – 田辺三菱製薬ヘルスケア, truy cập vào tháng 6 21, 2025, https://hc.mt-pharma.co.jp/hifunokoto/solution/761
- 頭部白癬【しらくも】とうぶはくせん – マルホ, truy cập vào tháng 6 21, 2025, https://www.maruho.co.jp/kanja/hifumo/kininaru/sirakumo.php?mode=archives
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- 頭部白癬(しらくも) – 14. 皮膚疾患 – MSDマニュアル …, truy cập vào tháng 6 21, 2025, https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/14-%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%9C%9F%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E7%99%BD%E7%99%AC-%E3%81%97%E3%82%89%E3%81%8F%E3%82%82
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