【妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛み】なぜ起こる?原因と今すぐできる対策・受診の目安
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【妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛み】なぜ起こる?原因と今すぐできる対策・受診の目安

妊娠してから、歩くときや寝返りをうつときに股関節や骨盤まわりがズキッと痛む、夜中に横向きで寝ていると片側の腰やおしりがジンジンして目が覚めてしまう……。そんな悩みを抱えている妊婦さんは少なくありません。

妊娠中の股関節痛・骨盤帯痛(こつばんたいつう)は、多くの場合「妊娠中によくある症状」の一つであり、ホルモンの変化や体重増加、姿勢の変化などが重なって起こります1。一方で、ごく少数ではありますが、骨粗鬆症や股関節の病気など、専門的な検査・治療が必要な病気が隠れていることもあります2

本記事では、厚生労働省や日本の専門学会、海外の信頼できるガイドライン・論文などをもとに、妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みについて以下のポイントを丁寧に解説します。

  • なぜ妊娠すると股関節や骨盤まわりが痛くなりやすいのか(ホルモン・体重・姿勢などのメカニズム)
  • 自宅でできるセルフケア・ストレッチ・寝方の工夫
  • マタニティベルトや温熱療法、マッサージの注意点
  • 「この症状があるときは早めに受診したほうがよい」という危険なサイン
  • 産婦人科・整形外科など、どの診療科を受診すべきかの目安

「赤ちゃんに影響はないのか」「仕事や家事をどこまで続けてよいのか」など、言いづらい不安にもできるだけ寄り添いながら解説していきます。自己判断だけで我慢し続けるのではなく、上手にセルフケアと医療機関を組み合わせて、少しでも安心してマタニティライフを送るためのヒントにしてください。

Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について

Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。妊娠・出産・女性の健康に関する公的ガイドラインや査読付き論文を読み解き、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。

本記事の内容は、厚生労働省の母性健康管理に関する資料3や、日本産科婦人科学会が関わる市民向けガイドライン4、妊娠中の腰痛・骨盤痛に関する国内外の研究・総説125、および妊娠中の股関節痛に関する国際的な解説記事67など、信頼できる一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。

  • 厚生労働省・自治体・公的研究機関:妊娠中にみられやすい症状や働き方の配慮などを解説したパンフレットや統計資料を参照しています。
  • 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本産科婦人科学会のガイドラインや、妊娠に関連する骨盤帯痛・股関節疾患・腰痛に関する系統的レビューなどをもとにエビデンスを整理しています。
  • 医療機関・教育機関・専門団体による情報:妊娠中の腰痛・股関節痛に関する解説ページや患者さん向け資料を参考に、日常生活での具体的な工夫をまとめています。

AIツールは文献の要約や構成案作成のアシスタントとして活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、記載内容や数値、URLの妥当性を確認しています。JHOの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。

要点まとめ

  • 妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みは、ホルモン(リラキシン)の影響や体重・姿勢の変化などが重なって起こる「よくある症状」の一つです16
  • 長時間の立ち仕事、片側に体重をかけて立つ・座る、足を組む、重い荷物を持つなどの習慣は、痛みを悪化させる原因になります48
  • マタニティヨガや軽いストレッチ、股関節まわりを温める、マタニティベルト・骨盤ベルトの活用、寝る姿勢を工夫することで、多くの方は痛みをある程度和らげることができます167
  • 突然強い痛みで歩けない、股関節に荷重をかけると激痛が走る、発熱や腫れを伴う、下腹部痛や性器出血を伴う、といった場合は、骨折や骨粗鬆症、早産の兆候なども含め、早めの受診が必要です29
  • 痛みがつらくても、自己判断で鎮痛薬や湿布を使用するのではなく、産婦人科や整形外科で妊娠中に使える薬やリハビリについて相談することが大切です310
  • 記事の後半では、「今夜からできること」「今週から意識したいこと」「長期的に続けたいこと」をレベル別に整理しているので、自分のできる範囲から一歩ずつ取り入れてみてください。

第1部:妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みの基本と日常生活の見直し

ここでは、まず妊娠中に股関節や骨盤まわりが痛くなりやすい「基本的な仕組み」と、日常生活の中で痛みを悪化させてしまいがちな習慣について整理します。いきなり難しい病気を疑う前に、多くの妊婦さんに当てはまりやすいポイントを一つずつ振り返ってみましょう。

1.1. 基本的なメカニズム・体の仕組み

股関節は、骨盤のくぼみ(寛骨臼)と太ももの骨(大腿骨)の丸い骨頭が組み合わさった、ボールと受け皿のような構造をした関節です。骨盤の下側には仙腸関節や恥骨結合があり、これらが一体となって体重を支え、歩く・立つ・座るといった動作を支えています。

妊娠すると、次のような変化が同時に起こります。

  • ホルモン「リラキシン」による靱帯のゆるみ:妊娠すると、リラキシンというホルモンが分泌され、骨盤まわりの靱帯や関節をやわらかくして出産に備えます。その結果、骨盤や股関節が普段より不安定になり、痛みや違和感を感じやすくなります67
  • 体重増加と重心の変化:赤ちゃん・胎盤・羊水・血液量の増加により体重が増え、お腹が前にせり出すことで、立ったときの重心が前方に移動します。その負担が腰や股関節、膝に集中しやすくなります16
  • 姿勢の変化と筋力バランスの乱れ:お腹をかばうような反り腰の姿勢や、片側に体重をかけて立つ姿勢が増え、体幹やおしりの筋肉が疲れやすくなります。その結果、股関節や骨盤まわりの筋肉・靱帯にストレスがかかり、痛みにつながります68

こうした変化により、妊娠中期〜後期にかけて股関節や骨盤帯(骨盤まわり全体)に痛みを感じる妊婦さんは少なくありません。日本の調査でも、妊娠中期の身体活動量が少ないほど妊娠後期の腰痛が悪化しやすいことが報告されており5、「動きすぎ」だけでなく「動かなすぎ」も痛みの一因になりうると考えられています。

1.2. 悪化させてしまうNG習慣

妊娠中の股関節痛・骨盤帯痛は、日常のちょっとした癖や環境によって悪化することがあります。次のような習慣がないか、一度振り返ってみてください。

  • 長時間の立ちっぱなし・座りっぱなし:立ち仕事で同じ姿勢が続く、デスクワークでほとんど立ち上がらないなどは、骨盤まわりに負担がかかります34
  • 片側重心で立つ・座る:片足に体重をかけて立つ、片側の腰に上の子を抱っこして乗せる、椅子の片側だけに体を預けるといった姿勢は、左右のバランスを崩し、片方の股関節に負担が集中します48
  • 足を組む・横座りをする:ソファで足を組む、正座から横座りになる癖があると、骨盤がねじれた状態で固まりやすく、痛みの原因になります8
  • 重い荷物を片側で持つ:買い物袋や仕事用バッグ、パソコンなどをいつも同じ側で持つと、肩から骨盤まで片側に負担がかかり続けます。
  • ヒールやクッション性の低い靴:ヒールの高い靴や底の硬い靴は、妊娠中の不安定な骨盤・股関節にとって大きな負担です。転倒のリスクも上がるため注意が必要です。

これらの習慣は、少し意識するだけでも減らしていくことができます。例えば、通勤時の荷物をリュックに変える、職場で1時間に一度は席を立って軽くストレッチをする、家の中ではスリッパをクッション性の高いものに変えるなど、小さな工夫から始めてみましょう。

表1:妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みセルフチェックリスト
こんな症状・状況はありませんか? 考えられる主な背景・原因カテゴリ
片側を下にして横向きで寝ていると、その側の腰やおしりがズキズキしてくる 寝姿勢による骨盤への圧迫、マットレスの硬さ・枕の高さの不適合
長時間立ち仕事をした日の夜に、股関節の前や足の付け根が痛くてだるい 体重増加と長時間立位による股関節への負荷増大
上の子を片側の腰に抱っこしている時間が長く、その側のおしり〜太もも外側が常に痛い 片側重心、筋力バランスの偏りによる骨盤帯痛
椅子に座るときに無意識に足を組んでしまい、立ち上がるときに股関節が固まったように感じる 骨盤のねじれ、股関節可動域の低下
急に立ち上がったり、方向転換したときに股関節の奥がピキッと痛む 靱帯のゆるみと筋力不足による不安定性(まれに関節疾患のサインのことも)

第2部:身体の内部要因 — ホルモン・栄養・骨の状態

生活習慣を見直してもなかなか痛みが良くならない場合、背景にはホルモンバランスや骨・筋肉の状態、栄養状態など、身体の内側の問題が関わっていることがあります。ここでは特に妊娠期に特徴的な内部要因について整理します。

2.1. 妊娠期特有のホルモンバランスと骨盤の変化

妊娠中は、エストロゲンやプロゲステロンだけでなく、前述のリラキシンなど、複数のホルモンが大きく変動します。これらのホルモンは、子宮や乳腺だけでなく、骨・筋肉・靱帯にも影響を与えます。

  • リラキシンによる靱帯のゆるみ:骨盤の関節(仙腸関節・恥骨結合)や股関節の周囲靱帯がゆるむことで、出産時に骨盤が広がりやすくなりますが、その過程で関節が不安定になり、骨盤帯痛や股関節痛が起こりやすくなります67
  • 体重増加と筋肉への負担:体重が増えると、それを支えるためにおしりや太ももの筋肉が常にフル稼働の状態になり、筋肉の疲労やこわばりが痛みとして現れます。
  • 骨盤の傾きと反り腰:お腹が大きくなるにつれて自然と腰が反り、お腹を前に突き出した姿勢になりがちです。この姿勢は腰痛だけでなく、股関節の前側にも負担をかけます12

こうした変化は、多くの場合「生理的(自然な)変化」の範囲内ですが、痛みが強く日常生活に支障がある場合は、骨盤ベルトや理学療法(リハビリ)などを併用することで負担を軽減できる可能性があります46

2.2. 栄養不足・骨粗鬆症・一時的な骨のもろさ

妊娠中〜授乳期は、赤ちゃんの骨や歯をつくるためにカルシウムやビタミンDなどの需要が高まります。そのため、もともと骨密度が低い方や、栄養状態が十分でない方では、骨が一時的にもろくなり、股関節や腰の骨に負担がかかることがあります。

  • 妊娠関連一過性骨粗鬆症:まれではありますが、妊娠後期~産後に股関節の骨が一時的にもろくなり、強い股関節痛や歩行困難、骨折(大腿骨頸部骨折)を起こすことが報告されています2
  • カルシウム・ビタミンD不足:乳製品をほとんど摂らない方や、日光に当たる時間が極端に少ない方では、骨や筋肉の健康を保つ栄養素が不足しやすくなります。
  • 体重の増え方の急激な変化:短期間で急激に体重が増えると、股関節や骨盤への負担も一気に増え、痛みが出やすくなります5

ただし、カルシウムやビタミンDのサプリメントを自己判断で大量に摂取することは推奨されません。妊娠中・授乳中のサプリメントについては、かかりつけの産婦人科医や助産師、栄養士に相談し、日本人向けの摂取量の目安に沿って調整することが大切です10

2.3. 体重増加・筋力低下と「動かなさすぎ」

「妊娠中だから安静にしたほうがよい」と考えて、必要以上に動くことを控えてしまうと、筋肉が弱くなり、かえって痛みが悪化することがあります。

日本の研究では、妊娠中期に中等度以上の身体活動(速歩きなど)が週23メッツ・時以上、歩数にして1日8,000歩程度あると、妊娠後期の腰痛悪化が抑えられる可能性が示されています5。もちろん、妊娠の経過や体調によって適切な運動量は異なりますが、「まったく動かない」のではなく「自分の体調に合わせてこまめに体を動かす」ことが大切です。

すでに痛みが強い場合は、無理なウォーキングよりも、マタニティヨガやプールでの歩行、水中エクササイズなど、関節への負担が少ない運動から始めると安心です67。かかりつけ医に相談しながら、自分に合った強度と頻度を見つけていきましょう。

第3部:専門的な診断が必要な疾患 — どんな病気が隠れていることがある?

多くの妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みは、生活習慣やホルモン、筋力バランスなどの影響によるもので、時間とともに改善していきます。しかし、ごく一部には、専門的な検査・治療が必要な病気が隠れていることもあります。ここでは代表的なものを紹介します。

3.1. 妊娠関連骨盤帯痛・腰痛

「妊娠関連骨盤帯痛(pregnancy-related pelvic girdle pain)」は、妊娠中~産後にかけて骨盤まわりに痛みを生じる状態の総称で、次のような特徴があります29

  • おしりの左右や恥骨のあたり、腰から太ももにかけての鈍い痛み・鋭い痛み
  • 歩行時、階段の昇り降り、片足立ち(ズボンを履くときなど)で痛みが強くなる
  • 横向きで寝ていると痛みで目が覚め、寝返りがつらい

多くの場合、理学療法(リハビリ)による筋力トレーニングやストレッチ、骨盤ベルトの活用、姿勢の改善などで症状をコントロールできます167。一方で、痛みが強く歩行困難な場合や、仕事・家事ができないほど支障がある場合には、産婦人科だけでなく整形外科や痛みの専門医への紹介が検討されます。

3.2. 股関節の疾患・一時的な骨の障害(骨壊死・一過性骨粗鬆症など)

まれではありますが、妊娠中の股関節痛の背景に、股関節そのものの病気が隠れていることがあります。

  • 妊娠関連一過性骨粗鬆症:妊娠後期~産後に股関節の骨密度が一時的に低下し、強い痛みや骨折(大腿骨頸部骨折)を起こすことがあります。痛みが突然強くなり、荷重をかけると激痛で歩けない場合などは、整形外科での画像検査(レントゲン・MRI)が必要です29
  • 大腿骨頭壊死:ステロイド薬の使用歴や特定の基礎疾患がある場合、股関節の骨(大腿骨頭)への血流が障害され、壊死(細胞が死んでしまうこと)が進行し、荷重時の激痛や跛行(びっこをひく歩き方)を生じることがあります11
  • 股関節唇損傷・関節炎:股関節の軟骨や関節唇(関節の縁を支える軟骨)が傷ついたり、関節内で炎症が起きたりすると、足の付け根の深いところに鋭い痛みを感じることがあります。

これらの病気は頻度としては高くありませんが、「妊娠中だから仕方ない」と決めつけてしまうと診断が遅れることがあります。たとえば、次のような場合は、早めに整形外科の受診を検討しましょう。

  • 急に股関節が強く痛み出し、片足に体重をかけられない・歩けない
  • 安静にしていても痛みが強く、夜眠れない
  • 股関節の痛みとともに発熱や赤く腫れた感じがある

3.3. 危険なサイン — すぐに受診・救急相談すべき症状

次のような症状がある場合は、股関節や骨盤帯の痛みだけでなく、早産やその他の緊急性の高い病気が隠れている可能性もあるため、早めの受診や救急相談が必要です2912

  • 股関節・腰の痛みに加えて、下腹部痛や性器出血がある
  • 片脚のふくらはぎが赤く腫れ、熱を持っていてふくらはぎを押すと強い痛みがある(深部静脈血栓症が疑われる)
  • 突然の転倒や事故のあとから股関節が強く痛み、足を動かせない・立てない
  • 発熱・悪寒・全身のだるさを伴う股関節痛(感染症による関節炎などの可能性)
  • 腰から足にかけてのしびれや脱力、排尿・排便の障害を伴う(腰の神経圧迫の可能性)

このような症状があるときは、自己判断で様子を見るのではなく、かかりつけの産婦人科や救急外来、地域の救急相談窓口(#7119 など)に電話し、指示を仰ぎましょう。危険を感じる場合や意識がもうろうとしている場合などは、ためらわずに119番通報をしてください。

第4部:今日から始める改善アクションプラン

原因が何であれ、「今できることから少しずつ始める」ことが痛みとの付き合い方をラクにしてくれます。ここでは、妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みを軽減するためのアクションを、レベル別に整理して紹介します。

表2:妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛み 改善アクションプラン
ステップ アクション 具体例
Level 1:今夜からできること 寝姿勢と環境を整える 横向きで寝るときは両膝の間に厚めの枕やクッションを挟む、腰の下にも小さめのクッションを入れて骨盤を支える、硬すぎるマットレスなら薄い敷き布団を重ねて調整するなど718
Level 1:今夜からできること 患部を温めて血流を良くする シャワーだけでなく、体調が許せばぬるめのお湯にゆっくり浸かる、湯たんぽや温熱パッドを腰やおしりに当てる(低温やけどに注意)など67
Level 2:今週から始めること マタニティヨガ・ストレッチを取り入れる 股関節まわりをゆっくりと伸ばすポーズ(キャット&カウ、チャイルドポーズ、ブリッジの軽いバリエーションなど)を1日5〜10分から始める617
Level 2:今週から始めること マタニティベルト・骨盤ベルトを試す 産婦人科や助産師に相談しながら、自分の体型・痛みの場所に合ったベルトを選び、立ち仕事や外出時に使用する46
Level 3:今月から検討したいこと 理学療法・整体・運動指導を受ける 妊婦のケアに慣れた理学療法士や助産師外来で、筋力トレーニングやストレッチの指導を受ける。保険適用の有無や回数の目安も相談する256

どのアクションも、痛みが強いときは無理をせず、「気持ちいい範囲」から始めることが大切です。ストレッチ中に痛みが強くなる場合や、動作のあとに痛みが何時間も続く場合は、いったん中止して医療者に相談しましょう。

また、マッサージオイルやアロマオイルを使う場合は、妊娠中に使用が勧められていない精油もあるため、必ず助産師やアロマに詳しい医療従事者に確認してください。市販の湿布や鎮痛薬についても、自己判断ではなく、妊娠中でも使用可能な種類・量を医師や薬剤師と相談したうえで使うようにしましょう10

第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?

「妊娠中の痛みだから、我慢するしかない」と一人で頑張りすぎてしまう方も多いですが、痛みが続くと睡眠不足やストレスにつながり、妊娠生活全体の負担が大きくなってしまいます。ここでは、受診の目安や診療科の選び方、診察をスムーズにするためのポイントをまとめます。

5.1. 受診を検討すべき危険なサイン

  • 痛みが1〜2週間以上続き、日常生活(歩行・家事・仕事)に支障がある
  • 夜眠れないほど痛い、または痛みで何度も目が覚める
  • 下腹部痛や性器出血、破水のような症状を伴う12
  • 片脚の腫れ・赤み・熱感、息苦しさなどを伴う(血栓症の可能性)
  • 急な転倒・事故のあとに股関節が激しく痛み、体重をかけられない
  • 発熱・悪寒・全身のだるさを伴う関節痛

これらの症状がある場合は、早めにかかりつけの産婦人科や整形外科に相談しましょう。迷ったときは、まず産婦人科に電話で症状を伝え、必要に応じて他科を紹介してもらうと安心です。

5.2. 症状に応じた診療科の選び方

  • 妊娠に関わる全身状態も含めて相談したい:まずはかかりつけの産婦人科へ。
  • 股関節や腰そのもののケガ・病気が心配:整形外科でレントゲンやMRIなどの検査を検討。
  • リハビリや運動療法を中心に相談したい:理学療法士がいるリハビリテーション科や、妊婦のケアに対応している整体・鍼灸院など(必ず妊娠中であることを事前に伝える)。
  • 仕事との両立や職場での配慮について相談したい:産婦人科で「母性健康管理指導事項連絡カード」などの書類を作成してもらい、職場と相談する方法もあります3

5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安

  • 症状メモ:いつから、どの動作で、どの場所が痛いのか。1日の中で痛みの強さがどう変化するかを書き出しておくと、診察がスムーズになります。
  • お薬手帳:現在飲んでいる薬やサプリメント、湿布などを確認するために重要です。
  • 母子健康手帳・保険証:妊娠週数やこれまでの経過を確認するため、忘れずに持参しましょう。
  • 費用の目安:保険診療での整形外科受診の場合、初診料+レントゲン検査で数千円程度(3割負担の場合)が目安ですが、検査内容によって変動します。事前に医療機関に確認すると安心です。

日本の医療保険制度では、妊婦さんであっても多くの疾患については通常どおり保険診療が適用されます。費用面が心配な場合は、市区町村の窓口や保健師、助産師相談などで利用できる支援制度を確認してみてください310

よくある質問

Q1: 妊娠中の股関節痛はよくあることですか?

A1: はい、妊娠中の股関節や骨盤まわりの痛みは、多くの妊婦さんにみられる症状の一つです。ホルモン(リラキシン)の影響で靱帯がゆるみ、体重増加や姿勢の変化が重なることで、股関節や骨盤帯に負担がかかりやすくなります167。ただし、「よくあることだから我慢すべき」という意味ではありません。痛みがつらいときは、早めに産婦人科や整形外科に相談しましょう。

Q2: この痛みは赤ちゃんに影響しますか?

A2: 一般的に、股関節や骨盤帯の痛みそのものが直接赤ちゃんに悪影響を及ぼすことは少ないとされています14。しかし、痛みのストレスや睡眠不足が続くと、妊婦さん自身の体調に影響し、その結果として妊娠経過に悪影響を及ぼす可能性はゼロではありません。痛みが強くつらい場合は、「赤ちゃんに悪いのでは」と一人で悩まず、安心して妊娠生活を送るためにも医療者に相談することをおすすめします。

Q3: 市販の湿布や鎮痛薬を使っても大丈夫ですか?

A3: 妊娠中に使用できる薬や湿布には制限があります。市販薬の中には、妊娠中の使用が推奨されない成分を含むものもあるため、自己判断で使用するのは避けましょう10。どうしても痛みがつらい場合は、かかりつけの産婦人科や薬剤師に相談し、「妊娠中でも使用可能な種類と量」を確認してから使うようにしてください。

Q4: マタニティヨガやストレッチはいつから始めてよいですか?

A4: 妊娠の経過に問題がなく、医師から特に安静を指示されていない場合、多くの方は妊娠中期(安定期)以降に軽いマタニティヨガやストレッチを始めることができます567。ただし、切迫流産・早産のリスクが高い方や、出血・強い張りがある方などは、自己判断で運動を始めず、必ず医師に相談してください。

Q5: どんな寝方が股関節の痛みに良いですか?

A5: 一般的には、左側を下にした横向き(シムス位)で寝ることが推奨されることが多いです。股関節の痛み対策としては、両膝の間に厚めのクッションや抱き枕を挟み、膝と膝が直接当たらないようにすること、腰の下やおなかの下にも小さめのクッションを入れて骨盤とおなかを支えることが効果的とされています718

マットレスが硬すぎる場合は薄い敷き布団を重ねる、柔らかすぎる場合は体が沈み込みすぎないようバスタオルを重ねるなど、自分の体に合うよう調整してみてください。

Q6: 仕事は続けても大丈夫でしょうか?

A6: 痛みの程度や仕事内容、妊娠の経過によって異なります。立ち仕事や重い荷物を扱う仕事をしている場合は、母性健康管理措置として、勤務内容の軽減や勤務時間の短縮、休憩の増加などを会社に求めることができます3。産婦人科で「母性健康管理指導事項連絡カード」などの書類を作成してもらい、職場と相談してみましょう。

Q7: 出産したら股関節の痛みは自然になくなりますか?

A7: 多くの方は、出産後にホルモンバランスや体重が徐々に戻ることで、股関節・骨盤まわりの痛みも軽くなっていきます14。しかし、適切なケアを行わない場合や、もともと骨や関節の病気がある場合、痛みが産後も続くことがあります。産後も長く痛みが続く場合は、我慢せずに整形外科などで相談しましょう。

Q8: どの程度の痛みなら我慢してよくて、どの程度なら受診すべきですか?

A8: 「我慢できないほど強い痛み」「夜眠れないほどの痛み」「歩行や階段昇降が難しいほどの痛み」になっている場合は、受診を検討すべきタイミングと考えてよいでしょう29。また、軽い痛みでも2週間以上続く場合や、心配で日常生活が萎縮してしまう場合は、一度医療者に相談して安心材料を得ることも大切です。

結論:この記事から持ち帰ってほしいこと

妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みは、多くの妊婦さんが経験する「よくある症状」の一つですが、そのつらさや不安は決して軽いものではありません。痛みが続くと、睡眠不足やストレス、仕事・家事・育児への影響など、生活のあらゆる場面で負担を感じるようになります。

本記事でお伝えしたい一番大切なメッセージは、「痛みを一人で抱え込まないでほしい」ということです。姿勢や寝方の工夫、マタニティヨガやストレッチ、マタニティベルト、温めるケアなど、今日からできる対策はたくさんあります。そして、それでもつらいときには、産婦人科や整形外科、リハビリテーション科などの専門家を頼ってかまいません。

ご自身の体と赤ちゃんを守るためにも、「我慢し続ける」より「相談してみる」一歩を大切にしていただければと思います。Japanese Health(JHO)編集部は、今後も公的な情報や最新の研究をもとに、妊娠・出産に関する情報をわかりやすくお届けしていきます。

この記事の編集体制と情報の取り扱いについて

Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、厚生労働省や日本産科婦人科学会、国内外の産科・整形外科領域のガイドライン・研究論文などを参照し、妊娠中の股関節・骨盤まわりの痛みに関する情報を整理しました。

原稿の作成にあたっては、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。

ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。

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免責事項 本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言や診断、治療に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、治療内容の変更・中止等を検討される際には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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