【完全ガイド】顔の傷跡治療:ニキビ跡から手術痕まで、皮膚科・形成外科医が科学的根拠に基づき徹底解説
皮膚科疾患

【完全ガイド】顔の傷跡治療:ニキビ跡から手術痕まで、皮膚科・形成外科医が科学的根拠に基づき徹底解説

顔に残る傷跡は、単なる皮膚の問題ではありません。それは時に自信を損ない、他者の視線を過度に意識させ、日々の生活に暗い影を落とすことがあります1。日本国内の調査によれば、20代から50代の女性の7割以上がニキビやニキビ跡に悩んだ経験があり、特にニキビ跡は男性にとっても深刻な肌悩みのトップ3に挙げられています2。あなたが今抱えているその悩みは、決して一人だけのものではありません。
この記事は、そのような深い悩みを抱えるあなたのために書かれました。溢れる情報の中で何が正しく、自分にとって最善の道は何かを見失いがちな現状に対し、本稿は信頼できる羅針盤となることを目指します。目的は、単に治療法をリストアップすることではありません。あなたの傷跡のタイプを正確に理解し、科学的根拠(エビデンス)に基づいた治療の選択肢、それぞれのメリット・デメリット、そして現実的に期待できる効果を、専門家の視点から公平かつ包括的に提供することです。

この記事の科学的根拠

この記事の信頼性を担保するため、情報の正確性と専門性には最大限の配慮を払っています。本稿で提供する情報は、以下の権威ある情報源に基づいています。

  • 国内外の主要な診療ガイドライン: 日本形成外科学会・日本創傷外科学会が策定した「瘢痕・ケロイド治療ガイドライン」3、日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡治療ガイドライン」4、さらには米国皮膚科学会(AAD)や国際的な瘢痕治療の推奨指針5などの最新のコンセンサスを反映しています。
  • 質の高い学術論文: 医学・科学論文データベースであるPubMedなどに掲載された、信頼性の高いランダム化比較試験(RCT)やシステマティックレビューの結果を随所に引用しています。
  • 専門家による監修: 本記事は、皮膚の構造と創傷治癒の専門家である形成外科専門医、および皮膚疾患治療のエキスパートである皮膚科専門医によるダブルチェックを経て作成されています。

この記事を読み終える頃には、あなたは自身の状態についてより深く理解し、前向きな一歩を踏み出すための具体的な知識と自信を得ていることでしょう。

この記事の要点

  • 傷跡を「完全に消す」ことは現代医療でも不可能ですが、「目立たなく改善する」ための有効な治療法は多数存在します。
  • 治療の第一歩は、自分の傷跡が「凹んでいる(萎縮性)」「盛り上がっている(肥厚性)」「広がっている(ケロイド)」のどれか、正確に診断することです。
  • 傷ができた直後からの「保湿」「紫外線対策」「物理的刺激からの保護」という初期対応が、後の傷跡を大きく左右します。
  • 治療法は一つではなく、レーザー、注射、手術、再生医療などを戦略的に組み合わせることで、最良の結果が期待できます。
  • 治療には保険が適用される場合と自由診療になる場合があります。機能的な問題があるか、美容目的かで判断されます。

第1部:傷跡の科学 – なぜ傷跡はできるのか?種類と見分け方

最適な治療法を選択するためには、まず自分自身の傷跡がどのようなタイプなのかを正確に知ることが不可欠です。この章では、傷跡ができるメカニズムから、顔にできる主な傷跡の種類とその見分け方までを、科学的知見に基づいて解説します。

1.1. 創傷治癒のメカニズムと瘢痕(はんこん)形成

皮膚に傷(怪我やニキビの炎症など)ができると、私たちの体はそれを治そうとする「創傷治癒」というプロセスを開始します。このプロセスは、大きく分けて「炎症期」「増殖期」「成熟期」の3つの段階を経て進行します。

  • 炎症期: 止血が行われ、細菌などを排除するために免疫細胞が働きます。
  • 増殖期: 線維芽細胞が活性化し、傷を埋めるための土台となるコラーゲン線維や肉芽組織を産生します。
  • 成熟期: 過剰に作られた組織が整理され、コラーゲン線維が再配列されて、傷跡は徐々に白く平坦な「成熟瘢痕」へと変化していきます。

「瘢痕(はんこん)」とは、この創傷治癒が完了した後の「傷跡」そのものを指す医学用語です。通常、このプロセスが正常に進めば傷跡は目立たなくなりますが、増殖期にコラーゲンが過剰に産生されたり、逆に産生が不十分であったり、あるいはコラーゲン線維の配列が乱れたりすると、目立つ傷跡として残ってしまうのです6

1.2. 顔にできる傷跡の主要な3つのタイプ

顔にできる傷跡は、その見た目や成り立ちから、主に「萎縮性瘢痕」「肥厚性瘢痕」「ケロイド」の3つに大別されます。それぞれの特徴を理解し、自身の傷跡がどれに当てはまるかを見極めましょう。

タイプ1:萎縮性瘢痕(Atrophic Scars) – 凹んだ傷跡

皮膚が凹んだ状態の傷跡で、主に重症のニキビの炎症によって真皮層のコラーゲン組織が破壊・欠損することが原因です6。ニキビ跡の多くがこのタイプに分類され、さらに形状によって3つのサブタイプに分けられます。

  • アイスピック型 (Ice-pick): 氷を砕くピックで刺したような、狭く、深く、V字型に尖った形状の凹みです。萎縮性瘢痕の中で最も多く(約60-70%)、真皮の深層まで達しているため、治療が難しいとされています6
  • ボックスカー型 (Boxcar): 縁が比較的はっきりとした垂直な壁を持ち、円形または楕円形に見える、まるで箱(ボックスカー)のような凹みです(約20-30%)。水疱瘡の跡にも似ています。深さは様々で、浅いものは皮膚表面の治療に反応しやすいですが、深いものは治療が難しくなります6
  • ローリング型 (Rolling): 縁がなだらかで、幅が広く(4-5mm以上)、皮膚が波打つように見える凹みです(約15-25%)。皮下の線維組織が皮膚を内側に引っ張る「癒着」が原因で、皮膚を伸ばすと凹みが浅く見えるのが特徴です6

タイプ2:肥厚性瘢痕(Hypertrophic Scars) – 盛り上がった傷跡

創傷治癒の過程でコラーゲンが過剰に産生され、元の傷の範囲を超えずに赤く盛り上がった状態の傷跡です6。かゆみや痛みを伴うことがありますが、数ヶ月から数年かけて自然に平坦化し、色が薄れていく傾向があります7。関節部など、皮膚に張力がかかりやすい部位にできやすい特徴があります。

タイプ3:ケロイド(Keloids) – 傷の範囲を超えて広がる盛り上がり

肥厚性瘢痕と同様に赤く盛り上がりますが、最大の違いは、元の傷の範囲を超えて、周囲の正常な皮膚にまでカニの足のように不規則にじわじわと広がり続ける点です6。強いかゆみや痛みを伴うことが多く、自然に治ることは期待できません。遺伝的な素因(ケロイド体質)が強く関与しており、些細な傷(ニキビ、ピアス穴など)からでも発生することがあります。治療が非常に難しく、安易な外科的切除はかえって悪化を招くため、専門的な治療戦略が不可欠です7
患者の最大の関心事は「自分のこの傷跡は何なのか?」という診断です。治療法は傷跡のタイプに大きく依存するため8、正確な分類が治療選択の第一歩となります。以下の表は、読者が自身の傷跡を客観的に分類するためのガイドです。

【一目でわかる】顔の傷跡タイプ別・特徴比較ガイド

タイプ名 見た目の特徴 主な原因 できやすい部位 自然に治る可能性
萎縮性瘢痕(凹み)
– アイスピック型
– ボックスカー型
– ローリング型
狭く深い点状の凹み
縁が垂直な四角形の凹み
波打つような広い凹み
重症のニキビ、水疱瘡 頬、こめかみ 低い
肥厚性瘢痕(盛り上がり) 元の傷の範囲内に留まる、赤みを帯びた盛り上がり 手術、外傷、熱傷 関節部、胸、肩 時間経過で改善の可能性あり
ケロイド(広がる盛り上がり) 元の傷の範囲を超えて広がる、不規則な形の強い赤みと盛り上がり 些細な傷、ニキビ、体質 胸、肩、耳たぶ、下腹部 ほぼない(悪化傾向)

第2部:傷跡を残さない・悪化させないための予防と初期対応

「予防は最良の治療」という言葉は、傷跡に関しても真実です。傷ができてしまった直後からの適切なケアは、将来の傷跡の状態を大きく左右します。この章では、科学的根拠に基づいた、自分でできる予防法と初期対応の重要性を解説します。

2.1. 傷ができた直後から始めるべき3つの基本原則

傷が治癒していく過程で、皮膚は非常にデリケートな状態にあります。この時期のケアが、後の傷跡の見た目を決定づけると言っても過言ではありません。

  1. 保湿 (Hydration): 傷口が乾燥すると治癒が遅れるため、ワセリンなどの保湿剤で適度な湿度を保つことが重要です5。これにより皮膚のバリア機能が正常に働き、外部からの刺激を防ぎます。
  2. 紫外線対策 (UV Protection): 治癒中の赤みを帯びた皮膚は紫外線に非常に敏感で、放置すると茶色いシミのような色素沈着が残りやすくなります9。傷が治ってからも数ヶ月間は、日焼け止めや遮光テープで物理的に紫外線をブロックすることが強く推奨されます5
  3. 物理的刺激からの保護 (Protection from Friction): 衣類の摩擦や掻きむしりなどの刺激は炎症を長引かせ、傷跡を悪化させる原因となります9。医療用の保護テープなどで創部を優しく保護し、安静に保つことが重要です。

2.2. 傷跡の幅を広げないための「テーピング」

手術などで縫合した傷は、皮膚の張力(テンション)によって横に広がりがちです。この張力を物理的に軽減するために非常に有効なのが「テーピング」です。抜糸後、できるだけ早期から傷跡に対して垂直方向にテープを貼り、傷の両側の皮膚を寄せるように固定します。これにより、傷跡にかかる負担が減り、細くきれいな線状の傷跡に落ち着きやすくなります9。このテーピングは、傷跡が完全に落ち着くまでの3ヶ月から1年程度続けることが推奨されています10

2.3. 盛り上がりを防ぐ「圧迫療法」と「シリコーン製剤」

肥厚性瘢痕やケロイドのリスクがある場合、さらなる予防策が重要になります。

  • 圧迫療法 (Pressure Therapy): スポンジやサポーターなどで傷跡を持続的に圧迫することで血流を抑制し、コラーゲンの過剰な産生を抑え、盛り上がりを防ぎます5
  • シリコーンジェル・シート (Silicone Gel/Sheeting): これは、傷跡予防において最も重要なセルフケアの一つです。シリコーン製のジェルやシートは、国際的な診療ガイドラインにおいて、肥厚性瘢痕とケロイドの予防および治療における「第一選択(ゴールドスタンダード)」として位置づけられています5。皮膚を密閉して水分蒸発を防ぎ、角質層の水分量を高めることで、コラーゲンの過剰産生を抑制すると考えられています。多数の臨床研究でその有効性と安全性が証明されており5、傷が完全に閉じた直後から、1日に12時間以上、数ヶ月間にわたって継続的に使用することが推奨されています11

第3部:顔の傷跡・タイプ別最新治療法 – 科学的根拠に基づく選択肢

予防や初期対応を行っても目立つ傷跡が残った場合、専門的な治療が必要となります。ここでは、現在の医療で提供されている主要な治療法を、傷跡のタイプ別に科学的根拠に基づいて詳しく解説します。

3.1. 薬物療法:塗る・飲む・注射する治療

  • ステロイド局所注射 (Intralesional Corticosteroids): 肥厚性瘢痕やケロイドに対し、ステロイドを直接注射する治療法です。強力な抗炎症作用で線維芽細胞の増殖を抑制し、盛り上がりを平坦にし、赤みやかゆみ・痛みを軽減します10。50%から80%の患者で改善が見られますが、皮膚の菲薄化や陥凹などの副作用リスクがあり、専門医による慎重な投与が不可欠です10。肥厚性瘢痕およびケロイドの治療として、健康保険が適用されます12
  • 内服薬(トラニラスト / リザベン®): ケロイド体質の方の体質改善や症状緩和に用いられます10。アレルギー治療薬の一種で、炎症に関わる化学伝達物質の放出を抑え、かゆみや痛みを和らげる効果が期待されます。日本形成外科学会のガイドラインでは有効性が示唆されていますが3、日本皮膚科学会のニキビガイドラインでは推奨度が低い(C2)とされており4、専門家との相談が重要です。保険適用の治療法です12
  • その他の注射(5-FU、ブレオマイシンなど): 国際的には抗がん剤の一種である5-FUなどをステロイドと併用し、治療効果を高める報告がありますが13、日本ではまだ一般的ではありません。

3.2. 外科的治療:形を整える専門技術

  • 切除縫合術 (Surgical Excision & Revision): 見た目の悪い傷跡や引きつれ(瘢痕拘縮)を切除し、形成外科の高度な技術(Z形成術、W形成術など)で丁寧に縫合し直すことで、より目立たない傷跡に変える治療です14。ただし、ケロイドを単純に切除するだけではほぼ100%再発・悪化するため11、術後の放射線治療などとの組み合わせが必須です。機能障害を伴う場合は保険適用となります1
  • サブシジョン (Subcision): 主にローリング型のニキビ跡が対象です。特殊な針で皮下の硬い線維組織を切り、癒着による凹みを改善します6。自由診療となります15
  • パンチ切除・グラフト (Punch Excision/Grafting): 深いアイスピック型やボックスカー型のニキビ跡が対象です6。傷跡を円筒状のメスでくり抜き、縫合または正常な皮膚を移植します。自由診療です。

3.3. レーザー・光・高周波(RF)治療:皮膚の再生を促す

  • フラクショナルレーザー (Fractional Laser): ニキビ跡の凹み全般が主な対象です16。レーザーを点状に照射して皮膚に微細な穴を開け、その治癒過程でコラーゲンの再構築を促し、凹みを内側から持ち上げます。効果は高いですがダウンタイムを伴う「アブレイティブ」と、効果はマイルドですがダウンタイムが短い「ノンアブレイティブ」があります。自由診療です10
  • 色素レーザー (Pulsed Dye Laser – PDL / Vビーム): 肥厚性瘢痕やケロイド、ニキビ跡などの「赤み」が対象です8。赤みの原因である異常な毛細血管のみを選択的に破壊し、赤みを薄れさせます。多くは自由診療です10
  • TCAクロス (TCA CROSS): 狭く深いアイスピック型のニキビ跡に特化した治療です6。高濃度のTCA(トリクロロ酢酸)を凹みの底に塗布し、強力な創傷治癒反応でコラーゲン産生を促し、凹みを盛り上げます。自由診療です15
  • マイクロニードリング(ダーマペン、ポテンツァなど): 浅めのニキビ跡が対象です6。極細の針で皮膚に微細な穴を開けてコラーゲン産生を促します。ポテンツァのように針先から高周波(RF)を照射し、効果を高める機器もあります。自由診療です15

3.4. 再生医療:未来の治療法とその現在地

  • PRP(多血小板血漿)療法: 患者自身の血液から成長因子を豊富に含む血小板成分(PRP)を抽出し、傷跡に注入・塗布します。現時点で最も質の高いエビデンスは、フラクショナルレーザー治療との併用で、ニキビ跡の改善効果を高め、ダウンタイムを軽減することが示されています17。単独での有効性はまだ研究段階です18。自由診療です。
  • 線維芽細胞移植: 自身の皮膚からコラーゲンを産生する「線維芽細胞」を取り出し、培養・増殖させてから傷跡に移植する治療法です19。一部の専門クリニックで先進医療として提供されていますが、まだ研究段階の側面も強く、高額な自由診療となります。
  • bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子): 日本では「フィブラスト®スプレー」として褥瘡などの治療に保険適用が承認されている点が大きな特徴です20。創傷治癒を強力に促進する作用があり、質の良い皮膚の再生を促すことで瘢痕形成を抑制する臨床経験が豊富にあります。

多くの場合、最良の結果を得るためには、サブシジョンとフラクショナルレーザー、PRPを組み合わせるなど、複数の治療法を戦略的に組み合わせることが重要です11

第4部:費用と保険診療 – 知っておくべきお金の話

傷跡治療における保険適用の可否は、その治療が「機能回復を目的とする医学的に必要な医療行為」か、「審美性の向上を主目的とする美容医療」かによって判断されます。

4.1. 保険診療と自由診療の境界線

  • 保険適用となる可能性が高いケース:
    • 瘢痕拘縮: 傷跡のひきつれで、まぶたが閉じにくい、口が開きにくいなど明らかな機能障害がある場合21
    • 症状の強いケロイド・肥厚性瘢痕: 怪我や手術が原因で、痛みやかゆみが強い場合1
    • 外傷性刺青: 事故でアスファルトの粉などが皮膚に入り込んだ傷跡1
  • 自由診療となるケース:
    • 見た目の改善のみを目的とする場合。
    • ほとんどのニキビ跡治療15
    • 自傷行為の跡、妊娠線、肉割れ1
    • レーザー治療の多くや再生医療など、国が承認していない治療法1

4.2. 治療法別・費用相場の目安

費用は治療法、範囲、回数、クリニックにより大きく異なります。以下は一般的な目安であり、正確な費用は必ずカウンセリングで確認してください9

【完全網羅】顔の傷跡治療・保険適用と費用比較表

治療法 対象 保険適用 自由診療の費用相場
ステロイド注射 肥厚性瘢痕、ケロイド 適用 1回 5,000円~20,000円
外科的切除縫合 線状瘢痕、瘢痕拘縮 機能障害があれば適用 1cmあたり 30,000円~110,000円
フラクショナルレーザー ニキビ跡の凹み 適用外 全顔1回 20,000円~100,000円
色素レーザー(PDL) 赤みのある瘢痕 適用外 範囲により数千円~数万円
ダーマペン/ポテンツァ 浅いニキビ跡 適用外 全顔1回 20,000円~80,000円
サブシジョン ローリング型ニキビ跡 適用外 1部位 30,000円~100,000円
TCAクロス アイスピック型ニキビ跡 適用外 1回 10,000円~50,000円
PRP療法 ニキビ跡(併用) 適用外 1回 50,000円~150,000円

第5部:よくある質問(FAQ) – 専門医があなたの疑問に答えます

Q1. 傷跡を完全に消すことはできますか?
A: 残念ながら、現在の医療技術をもってしても、一度できてしまった傷跡を「完全に消して元の皮膚と全く同じ状態に戻す」ことは不可能です。治療の目的は、傷跡を消すことではなく、「様々な方法を用いて、今よりも目立たない、より受け入れやすい状態に改善すること」です。この現実的なゴールを理解し、医師と期待値を共有することが、満足のいく治療への第一歩となります14
Q2. どの治療法が一番効果がありますか?
A: 「どの傷跡にも効く一番の治療法」というものは存在しません。最も効果的な治療は、あなたの傷跡のタイプ、深さ、部位、肌質によって異なります。多くの場合、一つの治療法だけでなく、レーザーと注射、あるいは手術とテーピングといったように、複数の治療法を戦略的に組み合わせることで最良の結果が得られます。
Q3. 治療は痛いですか?ダウンタイムはどのくらいですか?
A: 痛みやダウンタイムは治療法によって大きく異なります。注射にはチクッとした痛みが、レーザーには熱感があります。多くの場合、麻酔クリームや局所麻酔で痛みは大幅に軽減できます。ダウンタイムは、赤みが1〜2日で引くものから、1週間ほどのかさぶた期間を要するもの、外科手術のように1ヶ月以上のケアが必要なものまで様々です9
Q4. 何科を受診すればよいですか?(皮膚科と形成外科の違い)
A: どちらの科でも相談は可能ですが、得意分野に違いがあります。皮膚科はニキビや湿疹などの皮膚疾患全般の診断と治療を専門とします。一方、形成外科は、怪我や手術後の変形などを、機能的かつ整容的(見た目も美しく)に修復する「きれいに治す」ことを専門とする外科です。特に、手術的な治療や傷跡の総合的なマネジメントに関しては、形成外科が専門分野と言えるでしょう22。まずはどちらかの専門医に相談し、必要に応じて連携して治療を進めることもあります。
Q5. 治療を受ける前に気をつけることはありますか?
A: 治療への期待値を現実的なものにすること(Q1参照)、禁煙(血流悪化を防ぐため)14、持病のコントロールが重要です。カウンセリングでは、自身の悩みやゴールを正直に伝え、医師と十分に話し合うことが大切です23
Q6. 治療後のアフターケアで最も重要なことは何ですか?
A: 第2部で解説した「保湿」「紫外線対策」「物理的刺激からの保護(テーピングなど)」の3つの基本原則を徹底することです9。医師の指示に従い、根気強くケアを続けることが、最終的な仕上がりを大きく左右します。

結論:諦めないで、まずは専門家への相談を

本記事では、顔の傷跡に関する科学的背景から、予防、そして最新の治療法までを、国内外の信頼できる情報源に基づいて包括的に解説してきました。重要なポイントは、正確な診断が第一歩であること、予防と初期対応が重要であること、治療法は多岐にわたり組み合わせ治療が鍵であること、そして現実的な期待値を持つことです。
顔の傷跡という悩みは非常にデリケートで、一人で抱え込みがちです。しかし、医学は日々進歩しており、かつては難しいとされた傷跡に対しても、有効なアプローチが増えています。大切なのは、自己判断で諦めたり、不確かな情報に惑わされたりせず、まずは専門家の扉を叩くことです。
信頼できる皮膚科医や形成外科医に相談することで、あなたの傷跡に最適な、パーソナライズされた治療計画を立てることができます。日本創傷外科学会などのウェブサイトでは、お近くの専門医を探すことも可能です24。この記事が、あなたの長い悩みに一筋の光を灯し、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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