【専門家が解説】子どもの肥満は家族で取り組む。科学的根拠に基づく健康的な解消法とサポートの全知識
小児科

【専門家が解説】子どもの肥満は家族で取り組む。科学的根拠に基づく健康的な解消法とサポートの全知識

 この記事は、小児科医および公衆衛生の専門家によって監修されています。最新の科学的知見と日本の診療ガイドラインに基づき、お子さんの健康的な成長を願うすべての保護者の方々へ、信頼できる情報と実践的なサポートを提供することを目的としています。

要点まとめ

  • 家族全体での取り組みが鍵: 子どもの肥満対策は、個人を責めるのではなく、家族全員が健康的な生活習慣を共有する「家族ベース療法」が科学的に最も効果的です1
  • 日本の公式基準を理解する: 日本では「肥満度」が指標として用いられ、単なる体重過多(肥満)と治療が必要な健康障害(肥満症)は区別されます2。正しい理解が第一歩です。
  • 「様子見」は古い考え方: 世界の最新医療コンセンサスでは、早期からの積極的で思いやりのある介入が推奨されています3。専門家への相談をためらう必要はありません。
  • 罰ではなくサポートを: スティグマ(偏見)を与えない言葉遣いを心がけ、体重の数字ではなく健康的な行動(例:「野菜を食べられたね」)を褒めることが、子どもの自己肯定感を育みます4
  • 実践的な7つの健康習慣: 食事、運動、食行動、睡眠、スクリーンタイム、ポジティブな関わり、目標設定という7つの具体的な習慣を、日本の生活様式に合わせて実践する方法を詳しく解説します。

はじめに:わが子の体重、心配ですか?一人で悩まないでください

「最近、うちの子、少しぽっちゃりしてきたかも…」「学校の健康診断で肥満気味だと言われてしまった」「このままで将来、大丈夫だろうか?」——お子さんの体重について、このような心配や不安を抱えている保護者の方は少なくありません5。そのお気持ちは、ごく自然なことです。実際、日本の子どもたちの間で肥満は決して稀な問題ではありません。文部科学省が毎年実施している「学校保健統計調査」の最新データ(令和5年度)によると、何らかの肥満傾向にある子どもの割合は、年齢や性別によって異なりますが、多くの学年で10%を超えています6。これは、クラスに数人は同じ悩みを抱える仲間がいることを意味します。
しかし、最も大切なことは、この問題に一人で、あるいは親子だけで向き合う必要はないということです。この記事は、科学的根拠に基づいた、支援的で、非難することのない、家族全体で取り組むアプローチこそが、お子さんの健康への最も効果的で持続可能な道であることをお伝えするためにあります。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、日本の保護者の皆様が抱える特有の課題(例えば、塾や給食、祖父母との関わりなど)にも配慮しながら、信頼できる最新の医学情報と、今日から家庭で実践できる具体的な方法を、余すことなく提供します。

第1章:子どもの肥満を正しく理解する – 日本の基準と世界の基準

子どもの肥満について考えるとき、最初のステップは「肥満」とは何かを正確に理解することです。感情的な判断や周囲との比較ではなく、客観的な指標に基づいて現状を把握することが、適切なサポートへの第一歩となります。

1.1. 「肥満」と「肥満症」:知っておくべき日本の考え方

日本では、子どもの肥満に関して非常に重要な区別があります。それは、「肥満」と「肥満症」の違いです2。日本肥満学会によると、これらは明確に定義されています。

  • 肥満: 単に体重が標準よりも多く、体脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。この段階では、まだ健康上の問題が起きていないかもしれません。
  • 肥満症: 肥満が原因で、糖尿病や脂質異常症(高脂血症)、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの健康障害をすでに合併している、または将来合併することが予測される状態を指します7。この場合、医学的な治療の対象となります。

この区別は、「太っていること自体が悪い」のではなく、「肥満によって引き起こされる健康リスクが問題である」という、非難を避けた科学的な視点に基づいています。保護者として、まずはお子さんがどちらの状態にあるのか、あるいはその両方でもないのかを冷静に見極めることが重要です。

1.2. 判定方法①:日本の「肥満度」- 成長を考慮した指標

子どもの体は日々成長しているため、大人と同じような体重計の数字やBMI(Body Mass Index)だけでは正確な評価ができません。そこで日本では、成長を考慮した「肥満度」という指標が広く用いられています4。肥満度は以下の計算式で算出されます。
肥満度(%) = (実測体重 ― 標準体重) / 標準体重 × 100
「標準体重」は、年齢別・性別・身長別に統計的に定められています。この計算により算出された肥満度に基づき、以下のように判定されます。

  • 未就学児(6歳未満): 肥満度が +15%以上 で「肥満」と判定されます4
  • 学童期(小学生以上): 肥満度が +20%以上 で「肥満」と判定され、+30%以上で中等度肥満、+50%以上で高度肥満と分類されます2

この「肥満度」は、お子さんの成長曲線の中で現在の位置を客観的に示してくれる、非常に有用なツールです。

1.3. 判定方法②:世界の「BMI」- 国際比較で使われる指標

一方で、国際的には世界保健機関(WHO)などが推奨する「年齢別BMIのzスコア」が主に使われます8。BMIは「体重(kg) ÷ [身長(m)の2乗]」で計算されますが、子どもの場合はその数値を同年齢・同性の集団の平均値やばらつき(標準偏差)と比較する「zスコア」という統計学的な手法を用いて評価します。これにより、世界中の子どもたちの体格を同じ基準で比較することが可能になります。日本の基準と併せて知っておくと、よりグローバルな視点でお子さんの状態を理解するのに役立ちます。

1.4. なぜ肥満が問題になるのか?子どもに起こりうる健康リスク

子どもの肥満がなぜ医学的に注意を要するのか、それは将来にわたって様々な健康リスクを高める可能性があるからです。脅かす意図ではなく、正しい知識として知っておくことが重要です。日本肥満学会やWHOなどが指摘する主なリスクには以下のようなものがあります7, 8

  • 生活習慣病のリスク: 2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、脂肪肝など、かつては「大人の病気」と考えられていたものが、子ども時代から発症するリスクが高まります。
  • 心血管系への負担: 将来的な動脈硬化や心臓病のリスクが増加します。
  • 呼吸器系の問題: 睡眠時無呼吸症候群を引き起こし、日中の眠気や学業への集中力低下につながることがあります。
  • 整形外科的な問題: 体重の負荷により、膝や股関節の痛み、扁平足などを引き起こしやすくなります。
  • 精神的・社会的な影響: いじめやからかいの対象になりやすく、自己肯定感の低下や抑うつ気分、学校生活への不適応など、心の健康にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。

これらのリスクを理解することは、家族で健康的な生活習慣に取り組むための大切な動機付けとなります。

第2章:治療のゴールデンスタンダード:家族みんなで取り組む「家族ベース療法」

子どもの肥満解消と聞いて、厳しい食事制限や激しい運動を思い浮かべるかもしれません。しかし、現代の小児医療における最も効果的で推奨されるアプローチは、それとは全く異なります。その答えは「家族ベース療法(Family-Based Therapy, FBT)」にあります。

2.1. 科学が証明する家族の力

家族ベース療法とは、子ども一人に焦点を当てるのではなく、家族全員がチームとなって健康的な生活習慣を学び、実践していくアプローチです。この方法がなぜ優れているのかは、数多くの科学的研究によって証明されています。2024年に発表された包括的なシステマティックレビューとメタアナリシス(複数の研究結果を統合して分析する、最も信頼性の高い研究手法)では、小児肥満に対する家族ベースの介入が、持続的な体重管理と健康改善において、子どもだけを対象としたプログラムよりも有意に効果的であることが結論付けられています1, 9, 10
このアプローチの核心は、「誰のせいでもない」という考え方です。子どもは、食事やライフスタイルを自分でコントロールする能力がまだ発達途中です。保護者や家族が健康的な環境を整え、良いお手本を見せ、一貫したサポートを提供することで、子どもは自然と健康的な行動を身につけていくことができるのです。

2.2. 「様子見」はもう古い?米国小児科学会(AAP)の新しい考え方

かつては、「成長すれば自然と痩せるだろう」という「経過観察(watchful waiting)」のアプローチが取られることもありました。しかし、この考え方は国際的に大きく転換しています。2023年、米国小児科学会(AAP)は、10年以上ぶりに診療ガイドラインを大幅に改訂し、肥満のある子どもや青少年に対して、早期からの積極的で集中的な治療を推奨するという画期的な発表を行いました3, 11。これは、肥満を放置することのリスクが、早期介入のメリットをはるかに上回るという豊富な科学的根拠に基づいています。この新しい指針は、肥満を個人の意志の問題ではなく、治療が必要な慢性疾患として捉えるという、世界的なコンセンサスを反映しています。

2.3. スティグマ(偏見)をなくす:保護者ができる最も大切なこと

子どもの肥満に取り組む上で、食事や運動と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「言葉遣い」と「心のケア」です。肥満に対する社会的なスティグマ(偏見や差別)は、子どもの心に深い傷を残し、かえって不健康な食行動につながることがあります。日本の『幼児肥満ガイド』や米国の心理学会でも、スティグマを与えないコミュニケーションの重要性が強く強調されています4, 12
保護者が家庭でできる最も大切なことは、体重や体型を批判するのではなく、子どもの健康そのものを気遣う姿勢を示すことです。具体的なアドバイスは以下の通りです。

  • 「人」中心の言葉を選ぶ: 「肥満の子」や「太った子」ではなく、「肥満のあるお子さん」や「標準より体重が少し多いお子さん」といった、状態と個人を切り離す表現を使います。
  • 食べ物を「良い/悪い」で分類しない: 「これは太るからダメ」と言うのではなく、「お菓子は少しだけにして、果物を食べようか」など、ポジティブな選択肢を提案します。
  • 目標は「健康」、数字ではない: 最終的な目標は、体重計の数字を減らすことではなく、お子さんが生涯にわたって健康的な生活を送れるようになることです。この視点を家族全員で共有しましょう。
  • 行動を褒める: 「痩せたね」と結果を褒めるのではなく、「今日も公園でたくさん走ったね」「苦手なピーマンを食べられたね」など、健康的な行動そのものを具体的に褒めることが、子どものモチベーションと自己肯定感を高めます。

第3章:今日から始める!家族で実践する7つの健康習慣

理論を学んだら、次はいよいよ実践です。ここでは、日本の家庭でも無理なく取り入れられる、科学的根拠に基づいた7つの健康習慣を紹介します。これらの習慣は、家族全員の健康増進にもつながるものです。

3.1. 習慣①:食事の改善 – 「一汁二菜」を基本にバランス良く

食事は最も重要な要素の一つですが、厳しい制限は長続きしません。目指すべきは、栄養バランスの取れた、満足感のある食事です。日本の伝統的な「一汁二菜(または一汁三菜)」の考え方は、非常に優れたモデルです13

  • 主食(ごはん、パン、麺類): エネルギー源。玄米や全粒粉パンを選ぶと、食物繊維も豊富に摂れます。
  • 主菜(肉、魚、卵、大豆製品): 体を作るたんぱく質源。脂肪の少ない部位を選んだり、調理法を「揚げる」から「焼く」「蒸す」に変えたりする工夫が有効です。
  • 副菜(野菜、きのこ、海藻): 体の調子を整えるビタミンやミネラル、食物繊維が豊富です。毎食、両手に乗るくらいの量を目安にしましょう。
  • 汁物(味噌汁、スープ): 野菜をたくさん摂る良い機会になります。

ポイント:大皿盛りは、自分がどれだけ食べたか分かりにくくなるため、避けるのが賢明です。一人分ずつお皿に分けることで、適切な量を意識しやすくなります。

3.2. 習慣②:運動の習慣化 – 「遊び」と「生活」の中で楽しく体を動かす

子どもにとって運動は「トレーニング」ではなく「遊び」であるべきです。「運動しなさい」と強制するのではなく、家族が一緒に楽しめる活動を見つけることが成功の鍵です14

  • 家族でのアクティビティ: 週末は公園で鬼ごっこやボール遊び、サイクリングに出かけるなど、家族で体を動かす時間を計画的に作りましょう。
  • 生活の中の運動: エレベーターの代わりに階段を使う、一駅手前で降りて歩く、犬の散歩に行くなど、日常生活の中に運動を取り入れましょう。塾で忙しいお子さんでも、移動時間や宿題の合間の10分間の「アクティビティブレイク」は可能です。
  • お手伝い: 掃除や洗濯物干し、庭の手入れなども立派な身体活動です。役割を与えることで、責任感も育ちます。

3.3. 習慣③:食行動の見直し – 「なぜ食べるか」を意識する

「お腹が空いたから食べる」以外の理由で食事をしていないか、家族で振り返ってみましょう。これを「食行動」の見直しと言います。

  • 感情的な食事: ストレスや悲しみ、退屈などを紛らわすために食べてしまうことはありませんか?その場合は、散歩に行く、音楽を聴くなど、食べる以外の対処法を一緒に考えましょう。
  • 「ながら食い」をやめる: テレビを見ながら、スマートフォンを操作しながらの食事は、満腹感を得にくく、食べ過ぎにつながります。食事の時間は食卓に集中し、会話を楽しむ「共食」を大切にしましょう15。共食は、健康的な食習慣を子どもが学ぶ絶好の機会でもあります。

3.4. 習慣④:睡眠の質の向上 – 成長ホルモンのゴールデンタイムを逃さない

睡眠不足は、食欲を増進させるホルモン(グレリン)を増やし、食欲を抑制するホルモン(レプチン)を減らすことが科学的に知られています。つまり、寝不足は肥満の直接的な原因になり得るのです。米国疾病予防管理センター(CDC)は、学齢期の子ども(6~12歳)には一晩に9~12時間の睡眠を推奨しています16。質の良い睡眠は、成長ホルモンの分泌を促し、心と体の健康に不可欠です。

3.5. 習慣⑤:スクリーンタイムの管理 – デジタルデトックスの時間を作る

テレビ、ゲーム、スマートフォンなどのスクリーンタイムの増加は、座りがちな時間を増やし、間食の機会を増やし、睡眠を妨げるなど、複数の経路で肥満リスクを高めます16。AAPやCDCは、寝室にスクリーンを持ち込まない、食事中は使用しない、家族で体を動かす時間を優先するなどのルール作りを推奨しています。スクリーンタイムの制限は、家族全員で取り組むことが重要です。

3.6. 習慣⑥:ポジティブな関わり – 「できたこと」を褒め、親子で乗り越える

この取り組みは、時に困難を伴います。特に、計画を主導する母親の精神的な負担は大きいという研究報告もあります5。だからこそ、家族全員のサポートとポジティブな関わりが不可欠です。第2章で述べたように、体重の結果ではなく、健康的な行動を褒めることを徹底しましょう。「今日はありがとうって言えたね」と同じように、「ブロッコリーに挑戦したね、すごい!」と具体的に認めることが、子どもの自信につながります。うまくいかない日があっても、決して責めずに「明日はどうしたらうまくいくか」を一緒に考える姿勢が大切です。

3.7. 習慣⑦:目標設定と記録 – 成長を「見える化」する

目標は、子どもの成長を「見える化」し、モチベーションを維持するのに役立ちます。しかし、その目標は「1ヶ月で3kg痩せる」といった短期的な体重減であってはなりません。日本の『幼児肥満ガイド』では、成長曲線や肥満度判定曲線を使って、長期的な健康の軌道に乗ることを目標として推奨しています4。つまり、身長が伸びるにつれて肥満度が徐々に改善していくことを目指すのです。家族の健康習慣チェックリストを作り、「今週は3日、家族で散歩できた」といった行動目標の達成度を記録するのも良い方法です。

第4章:家庭の外での連携 – 学校・祖父母・医療機関との付き合い方

子どもの健康は家庭だけで完結するものではありません。学校や親族、そして専門家である医療機関と上手に連携することが、成功の可能性を大きく高めます。

4.1. 学校との連携(給食・体育・養護教諭)

学校は、子どもが多くの時間を過ごす重要な場所です。特に「給食」は、保護者にとってコントロールが難しい領域かもしれません。おかわりが心配な場合や、食事内容について相談したい場合は、担任の先生や養護教諭に連絡を取ることをためらわないでください17。学校側も、子どもの健康を願うパートナーです。家庭での取り組みについて伝え、協力をお願いすることで、一貫したサポート体制を築くことができます。同様に、体育の授業で何か困っていることがないか、お子さんに聞いてみるのも良いでしょう。

4.2. 祖父母への上手な伝え方

お子さんを可愛がるあまり、お菓子や甘い飲み物をたくさん与えてしまう祖父母との関係に悩む保護者の方もいます。これは文化的な側面も絡むデリケートな問題です。直接的な対立は避け、敬意を払ったコミュニケーションを心がけましょう。日本のガイドラインでも推奨されている効果的な方法は、「お医者さんからのアドバイス」として健康計画を伝えることです4。「先日、お医者さんに相談したら、家族みんなで少し健康的なおやつを心がけるように言われたんです」といった形で伝えることで、角が立ちにくくなります。家族の健康を願う気持ちは同じであることを伝え、理解と協力を求めましょう。

4.3. 医療機関を受診するタイミングと準備

以下のいずれかに当てはまる場合は、かかりつけの小児科や、必要であれば小児肥満を専門とする医療機関を受診することを強く推奨します。

  • 肥満度が中等度以上(学童期で+30%以上)の場合。
  • 肥満に伴う健康上の問題(いびき、関節の痛み、疲れやすさなど)が見られる場合。
  • 家庭での取り組みだけでは改善が難しいと感じる場合。

受診する際は、母子健康手帳や学校の健康診断の結果、そして家庭での食事や運動の簡単な記録を持参すると、医師が状況を把握しやすくなります。医師は、非難するためではなく、家族をサポートするためにいます。

第5章:小児肥満症の専門的治療 – 知っておきたい最新情報

多くの場合、生活習慣の改善で子どもの肥満は良い方向に向かいますが、「肥満症」と診断された場合は、より専門的な医学的介入が必要になることがあります。保護者として、どのような選択肢があるのかを知っておくことは重要です。

健康に関する注意事項

  • ここに記載されている情報は、一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。
  • お子さんの健康状態や治療法については、必ず資格のある医師または医療専門家にご相談ください。自己判断で治療を開始したり中断したりしないでください。

表2:日本の小児肥満症診断基準(6歳~18歳)

肥満度が学童期で+20%以上あり、かつ以下のAまたはBのいずれかに該当する場合、「小児肥満症」と診断されます7。この表は、医師がどのような点を評価するかを理解し、診察に備えるための参考情報です。

項目 診断基準の詳細
A. 健康障害 以下のうち1つ以上を満たす場合:
1. 糖代謝異常: 空腹時血糖値 ≥110mg/dL, 随時血糖値 ≥140mg/dL など
2. 脂質代謝異常: 空腹時トリグリセリド ≥120mg/dL, HDLコレステロール <40mg/dL など
3. 高血圧: 収縮期または拡張期血圧が年齢・性別・身長別基準値の95パーセンタイル値以上(例: 中学生女子で ≥135/80 mmHg)
4. 高尿酸血症: 尿酸値 ≥7.0mg/dL
5. 肝機能障害: AST(GOT), ALT(GPT), γ-GTP の上昇
6. 心血管系の異常: 心電図や心エコーでの異常所見
7. 呼吸器系の異常: 睡眠時無呼吸症候群など
8. 整形外科的な異常: 大腿骨頭すべり症、ブラウント病など
B. 内臓脂肪蓄積 参考項目である腹囲が、以下の基準値以上の場合:
小学生: ≥75cm
中学生: 男性 ≥80cm / 女性 ≥80cm (暫定値)
または、腹部CT検査による内臓脂肪面積 ≥100cm²

近年では、特に重症の思春期の肥満症に対して、生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合に、薬物療法や減量・代謝改善手術といった選択肢が世界的に、そして日本でも慎重に検討され始めています18。和洋女子大学の原光彦教授のような専門家は、これらの治療法の適応について厳格なガイドラインの重要性を指摘しています19, 20。これらは特殊なケースであり、必ず専門医チームによる詳細な評価と管理のもとで行われます。

よくある質問 – (FAQ)

Q1: うちの子は偏食がひどいです。どうすれば食生活を改善できますか?
偏食は多くの保護者が直面する課題です。焦らず、根気強く取り組むことが大切です。まず、新しい食材を食卓に並べることから始めましょう。食べることを強制せず、「一口だけ試してみようか?」と優しく促します。調理法を工夫するのも有効です。例えば、苦手な野菜を細かく刻んでハンバーグやカレーに混ぜ込む、好きなキャラクターの形に切り抜くなど、子どもが興味を持つような工夫をしてみましょう。また、家庭菜園などで一緒に野菜を育てる経験は、食材への親しみを増し、偏食改善につながることがあります。何よりも、家族がおいしそうに様々な食材を食べている姿を見せることが、一番の食育になります。
Q2: 運動嫌いな子どものやる気を引き出すにはどうすればいいですか?
「運動」と構えずに、「楽しい身体活動」と捉え直すことがポイントです。お子さんが何に興味を持っているか観察しましょう。音楽が好きならダンス系のゲーム、競争が好きならかけっこやボールゲームが良いかもしれません。目標を非常に低く設定することも有効です。「毎日10分だけ外で遊ぶ」から始め、達成できたらたくさん褒めてあげましょう。友達を誘うのも良い方法です。一人ではやりたがらなくても、友達と一緒なら喜んで体を動かす子どもは多いです。保護者自身が運動を楽しむ姿を見せることも、子どものやる気を引き出す上で非常に重要です14
Q3: 減量ではなく、体重維持を目指すだけでも良いのでしょうか?
はい、その通りです。特に成長期の子どもにとって、現在の体重を維持することは非常に有効な目標です4。子どもはこれから身長が伸びていくため、体重が変わらなくても、身長が伸びることで肥満度は自然と改善していきます。無理な減量は、成長に必要なエネルギーや栄養素の不足を招き、健康を害する恐れがあります。目標はあくまで「健康的な成長曲線に乗ること」であり、急激な体重減少ではありません。かかりつけ医と相談しながら、お子さんにとって最適な成長のペースを見つけていくことが理想的です。
Q4: パートナー(夫または妻)が計画に協力的ではありません。どうすればいいですか?
これは非常によくある、そして重要な問題です。「家族ベース療法」の成功には、主要な保護者全員の協力が不可欠です1。まずは、パートナーを責めるのではなく、あなたの懸念や不安を正直に、冷静に伝えましょう。「あなたの子どもでもあるのだから」という非難の口調ではなく、「子どもの将来の健康のために、あなたの力が必要なの」と、協力を求める形で話すことが大切です。この記事のような科学的根拠のある情報や、医師からのアドバイスを一緒に見たり聞いたりするのも効果的です。目標やルールを二人で一緒に決めるプロセスを踏むことで、パートナーも当事者意識を持ちやすくなります。
Q5: 日本のガイドラインはどこで見ることができますか?
日本の主要なガイドラインは、作成した学会のウェブサイトなどで公開されていることがあります。例えば、日本小児科学会が作成した『幼児肥満ガイド』は、同学会のウェブサイトでPDF形式で閲覧可能です4。また、日本肥満学会が作成した『小児肥満症診療ガイドライン』は書籍として出版されており、ライフサイエンス出版などのウェブサイトから購入情報を確認できます21, 22。これらの公式文書は専門家向けに書かれていますが、この記事で解説したような要点を理解した上で読むと、より深い知識を得ることができます。

結論

お子さんの肥満という課題に向き合うことは、時に不安や孤独を感じる道のりかもしれません。しかし、この記事を通してご理解いただけたように、あなたは一人ではありません。最新の科学は、罰や制限ではなく、家族全員の温かいサポートと一貫した健康的な習慣こそが、お子さんを健やかな未来へと導く最も確かな道であることを示しています。
体重計の数字に一喜一憂するのではなく、家族の笑顔が増えるような健康的な行動一つひとつを大切にしてください。今日、一緒に公園を散歩したこと。夕食で新しい野菜に挑戦したこと。それら小さな一歩の積み重ねが、お子さんにとって一生の財産となります。この記事が、その力強い第一歩を踏み出すための、信頼できる羅針盤となることを、JHO編集委員会一同、心から願っています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Cureus. Family-Based Interventions for Pediatric Obesity: A Comprehensive Systematic Review and Meta-Analysis. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39221382/
  2. 日本肥満学会. 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版; 2017.
  3. American Academy of Pediatrics. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151(2):e2022060640. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://publications.aap.org/pediatrics/article/151/2/e2022060640/190443/Clinical-Practice-Guideline-for-the-Evaluation-and
  4. 日本小児科学会 栄養委員会. 幼児肥満ガイド. 2019. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2019youji_himan_G_ALL.pdf
  5. 松尾陽子, 隈波こずえ. 子どもの肥満改善に対する母親のモチベーション. 久留米大学心理学研究. 2012;11:51-59. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://kurume.repo.nii.ac.jp/record/1778/files/shinri22_51-59.pdf
  6. 文部科学省. 学校保健統計調査 – 令和5年度. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400002&tstat=000001011648
  7. 日本肥満学会委員会. 新しい小児肥満症診断基準について. 小児保健研究. 2018;77(6):560-563. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2018/007706/020/0560-0563.pdf
  8. World Health Organization. Obesity and overweight. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight
  9. Sung-Chan, P., et al. Family-based models for childhood-obesity intervention: a systematic review of randomized controlled trials. Obesity Reviews. 2013;14(4):265-278. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23136914/
  10. Oude Luttikhuis, H., et al. Family-Based Interventions Targeting Childhood Obesity: A Meta-Analysis. Pediatrics. 2015;136(2):e446-61. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26182126/
  11. Armstrong, S. C., & Staiano, A. E. Breaking Down the American Academy of Pediatrics Guideline on Childhood Obesity. American Family Physician. 2023;108(4):354-356. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2023/1000/editorial-aap-guideline-childhood-obesity.html
  12. American Psychological Association. Obesity Guideline: Information for Kids and Families. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.apa.org/obesity-guideline/parents-and-kids
  13. 日本小児科学会. 第 6 章 幼児肥満対策 1. 食事指導. 2019. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2019youji_himan_G_6.pdf
  14. Cezars Kitchen. 子供の肥満を考える. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.cezarskitchen.com/ja/%E5%AD%90%E4%BE%9B%E3%81%AE%E8%82%A5%E6%BA%80%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B/
  15. 加古川医師会. 子どもの肥満を予防するための食生活について. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.kakogawa.hyogo.med.or.jp/memo/item7658
  16. Centers for Disease Control and Prevention. Preventing Childhood Obesity: 6 Things Families Can Do. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.cdc.gov/obesity/family-action/index.html
  17. STORY. 11歳ごろから急増!「子どもの肥満」に親ができることとは…. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://storyweb.jp/lifestyle/340903/
  18. 日本肥満症治療学会. 減量・代謝改善手術のための包括的な肥満症治療ガイドライン2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: http://plaza.umin.ne.jp/~jsto/publication/guideline2024-index.html
  19. 原光彦. 小児肥満症診療ガイドライン策定と肥満症対策. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://researchmap.jp/mickey-hara777/misc/31854332
  20. 和洋女子大学. 原光彦教授が編集・執筆に関わった『減量・代謝改善手術のための包括的な肥満症治療ガイドライン2024』が発刊されました. 2024. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.wayo.ac.jp/academics/home_affairs/healthy/news/2024/kenkou_0822
  21. ライフサイエンス出版. 小児肥満症診療ガイドライン2017. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.lifescience.co.jp/shop2/index_0158.html
  22. 石川県立図書館. 小児肥満症診療ガイドライン 2017. [インターネット]. [引用日: 2025年6月14日]. 以下より入手可能: https://www.library.pref.ishikawa.lg.jp/shosho/detail/bib/1000001039495
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ