【専門家監修】子どもの性被害を巡る誤解と真実:科学的根拠に基づく予防、サインの見抜き方、相談先の完全ガイド
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【専門家監修】子どもの性被害を巡る誤解と真実:科学的根拠に基づく予防、サインの見抜き方、相談先の完全ガイド

子どもの性被害は、遠いどこかの話ではありません。ユニセフ(UNICEF)の最新報告によれば、世界では5人に1人の女児が子ども時代に性的暴力を経験しています1。しかし、日本ではこの問題が社会的なタブー視や数々の「誤解」によって見過ごされがちです。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の科学的根拠と公的データに基づき、子どもの性被害を巡る危険な誤解を徹底的に解明します。さらに、家庭で今日からできる予防策、見逃してはならない被害のサイン、そして万が一の時に取るべき最善の行動まで、あなたがお子さんを守るために必要な知識のすべてを、網羅的かつ具体的に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、以下の国内外の最高権威機関の公表データ、ガイドライン、および査読済み研究に基づき、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が責任をもって監修しています。すべての情報は、読者が検証可能な一次情報源に直接紐づけられています。

  • こども家庭庁 & 警察庁: 日本国内の児童虐待の定義、公式統計、相談窓口に関する情報の根幹として使用しています23
  • 日本小児科学会: 子どもへの性虐待に関する医学的定義、問題点の指摘、小児科医の役割に関する提言を、記事の医学的権威性の核として引用しています4
  • ユニセフ (UNICEF) & 米国疾病予防管理センター (CDC): 性被害に関する世界的な統計、科学的定義、予防戦略、長期的影響に関するグローバルスタンダードな知見を提供するために参照しています15

この記事の要点まとめ

  • 子どもの性被害の加害者は「見知らぬ不審者」という誤解は危険です。実際には、米国CDCの報告によれば約90%5、日本の調査でも7割以上が「顔見知りの人物」です6
  • 性被害は、性別、家庭環境、社会経済的地位に関わらず、すべての子どもに起こりうる問題です。男の子も7人に1人が被害を経験しているという世界的なデータがあります1
  • 子どもは恐怖や罪悪感から被害を隠すことが多く、告白することは極めて稀です。子どもからの打ち明け話を「嘘ではないか」と疑うことは、深刻な二次被害につながります。
  • 予防の鍵は、家庭での「プライベートゾーン教育」と、危険を感じた時の行動「いやだ!にげて!はなす!」を具体的に教えることです。
  • もし被害を打ち明けられたら、「信じる」「責めない」「感謝する」ことが絶対原則です。詳細は決して根掘り葉掘り聞かず、速やかに専門相談窓口(189番など)に繋ぐことが最善の対応です。

日本における「性的虐待」の定義とは?:法律と医学の視点

まず、何が「性的虐待」にあたるのかを正確に理解することが第一歩です。感情論ではなく、法律と医学に基づいた定義を確認しましょう。

こども家庭庁が示す4つの虐待類型

日本の「児童虐待の防止等に関する法律」では、児童虐待は4つに分類されており、性的虐待はその一つとして明確に定義されています7

性的虐待
こどもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
出典: こども家庭庁「児童虐待の定義」2

この定義は、直接的な性交や接触だけでなく、性的な画像を見せる、撮影するといった非接触型の行為も明確に虐待に含んでいる点が重要です。

日本小児科学会による医学的定義

さらに、医学的な観点から、日本小児科学会はより踏み込んだ提言をしています。

性虐待には、性行為、不適切な性的刺激、不適切な言動、性的な場面への巻き込みなども含まれます。そして、性虐待は、加害者の意図・被害者の認識の有無に関わらず成立します
出典: 日本小児科学会「子どもへの性虐待に関する提言」4

これは、たとえ加害者に「悪意はなかった」としても、また子ども自身が「嫌だ」と感じていなくても、その行為が子どもの発達段階に不適切であれば、それは虐待であるという極めて重要な指摘です。

子どもの性被害を巡る6つの危険な誤解と、科学が示す真実

社会に蔓延する誤解は、被害の発見を遅らせ、被害者を孤立させます。ここでは、特に危険な6つの誤解を、国内外の統計データと専門家の見解で論破します。

誤解1:「加害者は見知らぬ不審者」

真実:加害者の大多数は、子どもや家族が知っている「顔見知りの人物」です。
論拠(国際): 米国疾病予防管理センター(CDC)は、児童性的虐待の約90%が、子どもやその家族が知っており信頼している人物によって行われると報告しています。複数の研究が、加害者は親族、隣人、友人、ベビーシッターなどであることが多いと示しています5
論拠(日本): 内閣府の調査でも、最も深刻だった性被害の加害者は7割以上が顔見知りであったことが示されています6。警察庁の調査でも、無理やり性交された被害の加害者は「全く無関係の人」が約半数である一方、「職場・学校の関係者」「知人・友人」なども多く、関係性が密接なほど警察に通報されにくい傾向が明らかになっています8
洞察: 「知らない人についていかない」という教育だけでは不十分です。むしろ、子どもが「知っている人だから大丈夫」と油断してしまうこと、そして大人が「あの人がまさか」という認知バイアスに陥ることが、最大のリスクとなります。

誤解2:「男の子は被害に遭わない/被害は女の子の問題」

真実:男の子も女の子と同様に、深刻な性被害の対象となります。
論拠(国際): ユニセフ(UNICEF)の2024年の推計では、子ども時代に性的暴力を受けた男性は世界で4億1000万~5億3000万人に上り、これは男性全体の約7人に1人に相当します9。レイプや性的暴行の被害経験も、男性の約11人に1人と推定されています10
論拠(日本): 日本の調査でも、男性の被害は決して稀ではないことが示唆されています。しかし、「男なら抵抗できるはず」「男が被害に遭うはずがない」といった社会の偏見が、被害をさらに潜在化させ、男性被害者が声を上げることを極めて困難にしています11
洞察: 性別に関わらず、すべての子どもが被害者になりうるという認識を親や社会が持つことが不可欠です。特に男の子に対しては、被害について語りにくい文化的背景も考慮した、より注意深いケアが求められます。

誤解3:「被害は貧困層や特殊な家庭で起こる」

真実:子どもの性被害は、あらゆる社会経済的階層、教育レベル、家庭環境で発生します。
論拠: 米国CDCや複数の研究機関は、子どもの性被害が特定の層に偏るという考えを明確に否定しています5。加害者は、社会的地位が高く、周囲から信頼されている人物であることも少なくありません12
洞察: 「うちは大丈夫」という思い込みが最も危険です。裕福な家庭、教育熱心な家庭、地域社会で評判の良い家庭であっても、リスクは等しく存在します。問題は家庭環境ではなく、加害者の存在と子どもへのアクセスです。

誤解4:「子どもは注目を引くために嘘をつくことがある」

真実:子どもが性被害について嘘をつくことは、極めて稀です。
論拠: 複数の専門機関が、子どもは性的な経験を想像で作り上げる知識を持たず、虚偽の告白は非常に少ないと指摘しています13。むしろ、多くの子どもは恐怖、羞恥心、罪悪感、あるいは加害者からの脅迫によって、被害を誰にも話せずに隠してしまいます。被害の告白があった場合、その98%は真実であるという調査結果もあります14
洞察: 子どもからの告白に対して、大人が最初に抱くべき態度は「疑い」ではなく「絶対的な信頼」です。「本当なの?」と問いただすことは、子どもを深く傷つけ、口を閉ざさせてしまう二次被害そのものです。

誤解5:「嫌がらなければ、それは同意と同じ」

真実:子どもは、性的な行為に対して法的に、そして発達上「同意」することはできません。
論拠: CDCは、子どもが「完全には理解できず」「インフォームド・コンセント(十分な情報に基づく同意)を与えられない」性的活動への関与を性的虐待と定義しています。恐怖のあまり体が動かなくなる「凍りつき反応(freeze response)」は、被害者の一般的な反応であり、抵抗しなかったことが同意を意味するものでは全くありません14
洞察: 責任は100%、加害者である大人にあります。「子どもが嫌がっていなかった」「子どもも楽しんでいるように見えた」という加害者の弁解は、自己正当化に過ぎません。この原則を理解することが、被害者を守る上で不可欠です。

誤解6:「被害について話させると、かえって子どもを傷つける」

真実:被害について安全な環境で話すことは、回復への第一歩です。沈黙は、子どもの孤立と苦しみを深めるだけです。
論拠: 専門家は、事実を知ることで、子どもは現実の恐怖と想像上の恐怖を区別できるようになると指摘しています15。被害の記憶を無理に抑圧することは、後に深刻な精神的問題を引き起こす可能性があります。重要なのは、「どのように」話を聞くかです。
洞察: 問題は「話すこと」自体ではなく、「不適切な聞き方」です。後述する「二次被害を防ぐ対応」を大人が学ぶことで、子どもは安心して自分の経験を語り、回復のプロセスを始めることができます。

日本と世界における性被害の現状:統計が示す「氷山の一角」

公式統計は、あくまで「認知された」件数に過ぎません。世界的なデータと国内データを比較することで、水面下に隠された問題の巨大さが見えてきます。

世界の状況:UNICEFが示す衝撃的な実態

  • グローバル有病率: UNICEFの2024年の包括的な報告によると、子ども時代に何らかの性的暴力(非接触型を含む)を経験した人は、女児・女性で5人に1人(6億5000万人)、男児・男性で7人に1人(4億1000万~5億3000万人)に上ります1
  • 接触型の被害: より深刻なレイプや性的暴行といった接触型の被害に限定しても、女児・女性の8人に1人(3億7000万人以上)、男児・男性の11人に1人(2億4000万~3億1000万人)が被害を経験しています10

洞察: これは、世界中のほぼすべての教室、すべてのコミュニティに、被害経験を持つ子どもや大人がいることを意味します。子どもの性被害は、一部の国や地域の問題ではなく、普遍的な人権危機です。

日本の状況:公式統計と潜在化する被害

  • 警察庁の認知件数: 警察庁の令和4年(2022年)の統計では、少年(20歳未満)が主な被害者となる性犯罪(強制性交等、強制わいせつ)の認知件数は2,776件でした3。また、児童買春・児童ポルノ事犯の被害児童数は2,948人(重複あり)と報告されています3
  • 相談に至らない現実: 内閣府の調査では、性交等を伴う被害経験者のうち、女性の58.4%、男性の70.6%が「どこ(だれ)にも相談しなかった」と回答しています16
  • 日本小児科学会の警鐘: 日本小児科学会は、日本の公式統計における性的虐待の割合(全虐待の約1%)が諸外国に比べて著しく低いことを指摘し、「日本には認知されていない子どもの性虐待は数多く存在し、そして、認知されないままおとなになった子どもたちも少なくない」と強く警鐘を鳴らしています4

洞察と結論: UNICEFが示す世界的な有病率と、日本の公式統計・相談状況の間には、あまりにも大きな乖離があります。これは、日本において、子どもの性被害が極めて深刻なレベルで潜在化(アンダーレポート)していることを強く示唆しています。公式統計は、巨大な氷山の見えている一角に過ぎないのです。

表1:子どもの性被害 推定有病率と国内認知件数の比較
対象 割合/件数 情報源
世界:女児の性的暴力被害率 (生涯) 約20% (5人に1人) UNICEF, 20241
日本:少年が被害の性犯罪認知件数 (年間) 2,776件 警察庁, 20223

被害のサインを見逃さないために:保護者と教育者が知るべき心と体の変化

多くの場合、子どもは被害を直接言葉で訴えません。その代わりに、行動や身体にSOSのサインが現れます。これらのサインは他の原因でも起こりうるため、一つのサインだけで判断せず、複数の変化や急な変化に気づくことが重要です。メイヨー・クリニックなどの専門機関が挙げる主なサインは以下の通りです17

行動・情緒面のサイン

  • 突然の変化: これまでと全く違う行動を取るようになります。例えば、急に攻撃的になったり、逆に極度に内向的・引きこもりになったりします。
  • 退行現象: 年齢にそぐわない幼い行動に戻ることがあります。おねしょ、指しゃぶりなどが再び見られるようになります。
  • 睡眠の問題: 悪夢にうなされる、眠れない、夜中に叫ぶなどの睡眠障害が現れます。
  • 特定の場所や人への恐怖: 特定の場所に行くことや、特定の人に会うことを極端に怖がるようになります。
  • 学校での問題: 成績の急な低下、不登校、友人関係のトラブルなどが起こります。
  • 性的な言動: 年齢に不相応な性的な言葉を使ったり、性的な絵を描いたり、人形などを使って性的な行為を真似たりします。

身体面のサイン

  • 原因不明のあざや傷: 特に、性器や肛門、口の周りに原因のわからないあざ、出血、痛みがある場合は要注意です。
  • 臨床的サイン: 米国小児科学会(AAP)なども重視するサインとして、「TEN-4 FACESp」というルールがあります。これは、Torso(胴体)、Ears(耳)、Neck(首)にみられる生後4歳以下の子どものあざ、またFrenulum(上唇小帯)、Auricle(耳介)、Cheeks(頬)、Eyes(まぶた)、Sclerae(白目)にみられる生後4ヶ月未満の乳児のあざ(patterned bruising=模様のあるあざも含む)は、虐待の可能性が高いことを示唆するものです18
  • 性感染症や妊娠: 明らかな性的虐待の証拠です。
  • その他: 歩き方や座り方が不自然になる、食欲の極端な変化(拒食・過食)などもサインとなり得ます。
注意
これらのサインは、あくまで「可能性」を示すものです。一つのサインだけで虐待と断定することはできません。しかし、複数のサインが同時に、あるいは突然現れた場合は、子どもの安全を確認するために、専門家への相談をためらわないでください。

予防こそが最大の防御:明日から家庭で実践できる具体的な方法

子どもを性被害から守るために、親ができる最も効果的なことは予防教育です。恐怖を煽るのではなく、子どもが自分の体を大切にし、危険を察知して助けを求めるスキルを育むことが目的です。

1. 「プライベートゾーン」教育:自分の体の境界線を教える

何を教えるか: 幼い頃から、体の正しい名前を教え、「水着で隠れる部分(プライベートゾーン)」は自分だけの大切な場所であり、親であっても、お風呂や病気の治療など特別な理由なく触ってはいけないこと、そして他の人のプライベートゾーンも見てはいけないし、触ってはいけないことを明確に教えます19
どう教えるか: 絵本などを活用し、「あなたの体はあなたのもの(My Body Belongs to Me)」という所有権の概念を伝えます。「もし誰かがプライベートゾーンを触ろうとしたり、見せようとしたりしたら、それは『秘密』にしなくていい。すぐにお父さんやお母さんに教えてね」と約束します20

2. 「いやだ!にげて!はなす!」:危険から逃れるための行動スキル

これは、危険を感じた時に子どもが取るべき3つの行動を教える、シンプルで強力な方法です。

  • いやだ!(NO!): 嫌なこと、怖いことをされたら、はっきりと大きな声で「いやだ!」「やめて!」と言う権利があることを教えます。
  • にげて!(GO!): その場からすぐに逃げることを教えます。相手が知っている人でも、偉い人でも、逃げていいことを伝えます。
  • はなす!(TELL!): 信頼できる大人(親、先生など)に、何があったかを必ず話すことを教えます。「話してくれてありがとう」「あなたは悪くない」と、大人は必ず受け止めることを約束します。

実践方法: 家庭で定期的にロールプレイング(役割演技)を行うことが非常に効果的です。「もし、知らないおじさんが『お菓子をあげるからおいで』と言ったらどうする?」といった具体的なシナリオで練習します20

3. デジタル時代の「グルーミング」対策

グルーミングとは、加害者が子どもを手なずけ、信頼関係を築いた上で性的な要求をする行為です。SNSが普及した現代では、オンラインでのグルーミングが深刻な問題となっています。
危険性: 警察庁の統計では、SNSに起因する性被害児童数は依然として高い水準にあり、特に「自画撮り(自分の裸の写真を送らされる)」被害が多発しています3
対策:

  • フィルタリングとペアレンタルコントロールを設定し、不適切なサイトやアプリへのアクセスを制限します。
  • オンラインでのルールを子どもと一緒に作ります。「知らない人と繋がらない」「個人情報(名前、学校、写真)を送らない」「嫌な気持ちになったらすぐに相談する」などです。
  • 秘密にしない関係づくり: 日頃から子どものオンライン活動に関心を持ち、「何かあったら絶対にあなたの味方だからね」と伝え、何でも話せる関係を築くことが最も重要です17

もし被害を打ち明けられたら:二次被害を防ぐための「絶対的」な対応原則

子どもが勇気を出して被害を打ち明けた時、大人の最初の対応がその子のその後の人生を大きく左右します。以下の原則は、絶対に守らなければならないものです20

  1. まずは「信じる」:100%子どもの味方になる
    行動: 子どもの話を疑わず、遮らず、最後まで真剣に聞きます。驚きや動揺を顔に出さず、冷静に、穏やかに相槌を打ちます。
    言ってはいけない言葉: 「本当に?」「嘘じゃないの?」「からかわれてるだけじゃない?」
  2. 次に「責めない」:責任は100%加害者にあると伝える
    行動: 「あなたは何も悪くない」というメッセージを、言葉と態度で繰り返し伝えます。
    言ってはいけない言葉: 「どうして逃げなかったの?」「あなたにも隙があったんじゃない?」「もっと早く言わなきゃダメでしょ」これらの言葉は、被害者が抱いている自責の念を増幅させ、心を深く傷つけます。
  3. そして「感謝する」:勇気を称える
    行動: 「話してくれてありがとう」「よく勇気を出して教えてくれたね」と、話してくれたこと自体を肯定し、感謝を伝えます。これにより、子どもは「話してよかったんだ」と安心できます。
  4. 根掘り葉掘り聞かない:「記憶の汚染」を防ぐ
    行動: 被害の詳細について、無理に聞き出そうとしてはいけません。これは、後の捜査や裁判で重要となる子どもの記憶を、大人の質問によって不正確に変えてしまう「記憶の汚染(Memory Contamination)」を防ぐためです。これは島根大学の河野美江教授らの研究班が作成した医療対応マニュアルでも強調されています21。子どもが話したい範囲で聞くことに徹し、詳細は専門家に任せます。
    注意点: 「いつ?」「どこで?」「何回?」といった具体的な質問は避けます。開かれた質問(「その時の気持ちを教えてくれる?」など)に留めます19

一人で抱え込まないで:専門家による支援と公的相談窓口

被害が疑われる、または発覚した場合、一人で、あるいは家族だけで解決しようとしないでください。速やかに専門機関に相談することが、子どもとあなた自身を守る最善の方法です。

緊急性の高い相談窓口(全国共通・24時間・通話料無料)

窓口名 電話番号 対象・役割
児童相談所虐待対応ダイヤル 189 (いちはやく) 18歳未満の子どもに関する虐待の通告・相談。子どもの安全確保を最優先に対応します。匿名での通告も可能です2
性犯罪被害相談電話 #8103 (ハートさん) 性犯罪の被害に関する警察への相談窓口。各都道府県警察の専門の担当者につながります。緊急の場合は110番へ19
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891 (はやくワンストップ) 医療(緊急避妊、性感染症検査)、心理、法的手続きなど、必要な支援を一つの場所で提供します。被害直後から利用できます19

その他の重要な支援

  • 医療機関: まずは子どもの身体的な安全と健康を確認するため、小児科や産婦人科を受診することが重要です。ワンストップ支援センターに相談すれば、性暴力被害に理解のある医療機関を紹介してもらえます。
  • カウンセリング: 被害による心の傷(トラウマ)は、長期的な専門的ケアを必要とすることがあります。臨床心理士や精神科医によるカウンセリングは、子どもの回復に不可欠です。
  • 法的支援: 弁護士は、加害者への対応(損害賠償請求、接近禁止など)や、警察の捜査、裁判のプロセスであなたと子どもを法的にサポートします。

よくある質問(FAQ)

Q1: 加害者が夫(父親)の場合、どうすればいいですか?
A1: これは非常に困難で辛い状況ですが、最優先すべきは子どもの安全です。あなた一人で抱え込まず、直ちに児童相談所(189)やワンストップ支援センター(#8891)に相談してください。専門家が、あなたと子どもの安全を確保しながら、今後の対応(加害者との分離、法的措置など)を一緒に考えてくれます。あなた自身も支援の対象者です。決して自分を責めないでください22
Q2: 被害から何年も経ってから、子どもが打ち明けてきました。今からでもできることはありますか?
A2: はい、あります。何年経っていても、打ち明けてくれたことへの感謝と、「あなたは悪くない」というメッセージを伝えることが最も重要です。過去の被害であっても、トラウマは心に残り続けます。ワンストップ支援センターや精神保健福祉センターなどで、成人したサバイバー(被害経験者)向けのカウンセリングや支援プログラムについて相談できます。
Q3: 通告したら、通告したことが加害者に知られて報復されませんか?
A3: 児童相談所や警察への通告者の情報は、法律で固く守秘義務が課せられており、本人の同意なく加害者側に伝わることはありません。匿名での通告も可能です。子どもの安全が最優先されるため、ためらわずに通告・相談してください23

結論:社会全体で子どもを守るために

子どもの性被害は、個々の家庭の問題ではなく、社会全体で取り組むべき深刻な課題です。この記事で示した科学的根拠に基づいた知識は、あなたがお子さんを守るための強力な武器となります。危険な誤解を捨て、正しい知識を身につけ、予防を実践し、そして万が一の際にはためらわずに専門家を頼ること。その一つ一つの行動が、子どもたちの未来を守る大きな力になるのです。

免責事項
本記事は情報提供を目的としており、個別の医学的診断や治療に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. UNICEF. When Numbers Demand Action: Confronting the global scale of sexual violence against children. New York: United Nations Children’s Fund; 2024. Available from: https://data.unicef.org/wp-content/uploads/2024/10/UNICEF_When-Numbers-Demand-Action_Oct_10_2024.pdf
  2. こども家庭庁. 児童虐待防止対策 [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai
  3. 警察庁生活安全局人身安全・少年課. 子供の性被害の現状と取組について. 2023. Available from: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/aceeb993-95c7-4465-9db7-3753b9e6694b/1ecbdd44/20230627_councils_kodomokanren-jujisha_%20x2UksA0k_19.pdf
  4. 日本小児科学会. 子どもへの性虐待に関する提言 [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=152
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  6. 日本財団. 日本の子どもの性被害、1日推定1000件以上。被害の実態と性教育の重要さ [インターネット]. 2025. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2025/110555/sexual_crime
  7. e-Gov法令検索. 児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条 [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC1000000082
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  15. Porter County Government. Myths / Facts Regarding Child Sexual Assault [Internet]. [cited 2025 Jun 22]. Available from: https://www.portercountyin.gov/341/Myths-Facts-Regarding-Child-Sexual-Assau
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  20. ココハレ. 子どもを性暴力から守るため、親ができることは?|性教育絵本「おしえて!くもくん」監修・小笠原和美さんの講演から紹介します [インターネット]. 2024 May 29 [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://kokoharekochi.com/article/feature/sex-education/n49652/
  21. 「DV・性暴力被害者の医療と連携した支援体制の構築のための研究」班. 性暴力被害をうけた子どもと大人の 医療対応マニュアル. 2025. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://medical-care.nosvva.net/doc1/manual.pdf
  22. 神奈川県. 親だからできること – ~子どもの性的虐待がわかってから – [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.pref.kanagawa.jp/documents/15797/oyadakara.pdf
  23. NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク. 児童虐待とは? [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.orangeribbon.jp/about/child/abuse.php
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