齋藤 昭彦(さいとう あきひこ) 先生
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児科学分野 教授
この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性が含まれています。
要点まとめ
第1部:子供の「急性咽頭炎」とは? ― まず知っておくべき基本
1.1. 急性咽頭炎の正体:喉のどこで何が起きているのか?
急性咽頭炎とは、簡単に言えば「喉の奥にある“咽頭”という部分の粘膜やリンパ組織に、急性の炎症が起こる病気」です3。この「咽頭」は、鼻の奥から食道と気管の入り口まで続く、空気と食べ物の通り道です。常に外部からの空気に直接触れているため、ウイルスや細菌といった病原体が侵入・感染しやすく、炎症が起こりやすい場所と言えます3。
一般的に「喉が赤い」「扁桃腺が腫れている」と言われる状態は、この急性咽頭炎の典型的な所見です。特に、喉の左右に見えるこぶのようなリンパ組織である「口蓋扁桃」に強い炎症が起きる場合を「急性扁桃炎」と呼びますが、これも広い意味では急性咽頭炎の一種として扱われます3。扁桃は、体内に侵入しようとする病原体から体を守る、免疫の最前線基地のような役割を担っています。
1.2. 主な原因はウイルス?細菌? ― 治療法が異なる2つのタイプ
子供の急性咽頭炎を理解する上で最も重要なことは、その原因が大きく分けて2種類あり、それによって治療法が根本的に異なるという点です。
- ウイルス性咽頭炎: 日本の診療ガイドラインによれば、子供の急性咽頭炎の原因の実に9割以上がウイルスによるものです2。アデノウイルス(プール熱の原因)、コクサッキーウイルス(ヘルパンギーナ9や手足口病の原因)、インフルエンザウイルス、ライノウイルスなど、様々なウイルスが原因となります1。
- 細菌性咽頭炎: ウイルス性に比べて頻度は低いですが、抗菌薬(抗生物質)による治療が必要となるのが細菌性です。その中で最も重要かつ頻度が高いのが「A群β溶血性連鎖球菌(Group A β-hemolytic streptococcus)」、通称「溶連菌(GAS)」です7。
小児科の現場では、この「ウイルスが原因なのか、それとも溶連菌(GAS)が原因なのか」を的確に判断することが、急性咽頭炎の診療における最大の鍵となります7。なぜなら、ウイルスには抗菌薬が効かず、一方で溶連菌には合併症予防のために抗菌薬治療が不可欠だからです。この鑑別が、不要な薬の投与を防ぎ、必要な治療を確実に行うための出発点となるのです。
1.3. なぜ子供はかかりやすい? ― 流行時期と感染経路
急性咽頭炎、特に注意が必要な溶連菌(GAS)咽頭炎は、特定の年齢や季節に流行しやすい特徴があります。
- 好発年齢: 溶連菌咽頭炎は、集団生活を送る機会の多い学童期(5歳~15歳)に最も多く見られます。一方で、重篤な合併症であるリウマチ熱のリスクが低いこともあり、3歳未満の乳幼児がかかることは比較的少ないとされています7。
- 流行時期: 主に空気が乾燥し、室内で過ごす時間が増える冬から春にかけてが流行のピークです11。
- 感染経路: 主な感染経路は、感染者の咳やくしゃみに含まれるウイルスや細菌を吸い込むことによる「飛沫感染」と、病原体が付着した手で口や鼻に触れることによる「接触感染」です16。
また、近年では感染症の流行状況に大きな変化が見られます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う厳格な感染対策が緩和された後、アデノウイルスによる咽頭結膜熱や溶連菌感染症の報告数が、統計開始以来、過去最多レベルに達する異例の流行を見せています19。これは、多くの子供たちが特定の病原体に対する免疫を獲得する機会がなかったために、集団としての感受性が高まっていることが一因と考えられています20。
第2部:受診の判断基準 ― この症状、病院に行くべき?
お子様の症状を前に、多くの保護者が「このくらいで病院に行っていいものか」と迷うことでしょう。ここでは、受診を判断するための具体的な目安を解説します。
2.1. 家庭で見るべき症状チェックリスト
お子様の症状を客観的に観察し、医師に正確に伝えることは、的確な診断への近道です。以下の表は、ウイルス性と溶連菌(GAS)感染症の典型的な症状を比較したものです。受診前のセルフチェックや、医師への説明にお役立てください。
症状 | 溶連菌(GAS)の可能性が高い | ウイルス性の可能性が高い | 観察のポイント |
---|---|---|---|
発熱 | 突然の高熱(38℃以上)が多い11 | 微熱から高熱まで様々 | 熱の上がり方や高さに注目しましょう。 |
喉の痛み | 非常に強い痛み、飲み込むのが辛い(嚥下痛)14 | 軽度から中等度の痛み | 食事や水分を摂るのを嫌がるほどの痛みかどうかが一つの目安です。 |
咳 | ないことが多い7 | あることが多い | 咳の有無は、両者を鑑別する上で非常に重要なポイントです。 |
鼻水 | ないことが多い7 | あることが多い(水様性~粘性) | 鼻水や鼻づまりも、ウイルス性を示唆する典型的な症状です。 |
発疹 | サンドペーパーのようなザラザラした細かい赤い発疹(猩紅熱)23 | ウイルスの種類により様々な発疹(例:手足口病の水疱など) | 全身、特に体や手足の発疹の有無と性状を確認します。 |
目の充血 | ない | あることが多い(特にアデノウイルス)17 | 目の赤みや目やにの有無をチェックしましょう。 |
口の中 | 扁桃が真っ赤に腫れ、白い膿(滲出物)が付着。口蓋に赤い点状出血。舌がイチゴのようにブツブツになる(いちご舌)14 | 喉全体が赤く腫れることが多い | ライトを使って喉の奥を観察してみましょう。 |
全身状態 | 高熱でぐったりすることもあるが、比較的元気な場合もある | 倦怠感が強いことが多い | 熱の高さに比べて、お子様がどれだけ元気か(またはぐったりしているか)は重要な指標です。 |
その他 | 嘔吐や腹痛を伴うことがある2 | 下痢を伴うことがある12 | 消化器症状の有無も参考になります。 |
このチェックリストは、あくまで家庭での観察を助けるためのツールです。お子様の症状を客観的に整理することで、保護者自身が落ち着いて状況を把握できるだけでなく、診察時に医師へ的確な情報を伝えることが可能になります。これにより、よりスムーズで正確な診断につながり、結果としてお子様にとって最善の治療を選択する手助けとなります。
2.2. 緊急受診が必要な危険なサイン(Red Flags)
ほとんどの急性咽頭炎は重篤な状態にはなりませんが、ごくまれに生命を脅かす危険な状態に進行することがあります。以下の「危険なサイン(Red Flags)」が一つでも見られる場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急外来を受診するか、救急車の要請を検討してください。
- 呼吸の異常: 安静にしているのに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という苦しそうな呼吸音(吸気性喘鳴)が聞こえる7。
- よだれ: 喉の痛みが激しく、唾も飲み込めないために、よだれが絶えず口から垂れている(流涎)7。
- 声の変化: 声がこもって聞き取りにくい(”hot potato” voice:熱いジャガイモを口に入れた時のような声)23。
- 特異な姿勢: 呼吸を楽にするために、首を前に突き出し、顎を上げるような姿勢(sniffing position)をとる。首を動かすのを嫌がる7。
- 全身状態の悪化: 呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりして全く元気がない(toxic appearance)23。
これらのサインは、喉の奥が極度に腫れて空気の通り道(気道)が塞がりかけている状態(急性上気道閉塞)を示唆します。一刻を争う事態であり、迅速な医療介入が必要です。
2.3. 小児科?耳鼻咽喉科? ― どちらを受診すべきか
「喉の痛みなら耳鼻咽喉科?」と考える方も多いでしょう。基本的には、小児科、耳鼻咽喉科のどちらでも急性咽頭炎の診療は可能です。それぞれの専門性には以下のような特徴があります。
- 小児科: 子供の全身状態を総合的に評価し、発熱や発疹など、喉以外の症状を伴う様々な小児疾患との鑑別診断に長けています。かかりつけ医であれば、お子様の普段の状態や既往歴を把握しているという利点もあります。
- 耳鼻咽喉科: 喉(咽頭・喉頭)の局所的な診察や、ファイバースコープを用いた詳細な観察、扁桃周囲膿瘍といった専門的な合併症の診断・処置におけるエキスパートです25。
結論として、まずは信頼できるかかりつけの小児科医を受診するのが一般的で良い選択です。ただし、喉の痛みが特に強い場合、声がれがひどい場合、あるいは何度も扁桃炎を繰り返すような場合は、耳鼻咽喉科への相談も非常に有効です。
第3部:病院での診断と検査 ― 何を調べているの?
診察室で医師が行う診察や検査には、すべて明確な目的があります。そのプロセスを理解することは、保護者の安心と治療への納得感を深める上で重要です。
3.1. 医師の診察:喉の所見と問診のポイント
医師はまず、視診と問診でお子様の状態を評価します。
- 視診: ペンライトと舌圧子(舌を押さえるヘラ)を使って喉の奥を観察し、咽頭や扁桃の発赤・腫脹の程度、白い膿(扁桃滲出物)の有無、口蓋の天井部分に見られる赤い点状出血(palatal petechiae)などを確認します5。これらは溶連菌感染症を疑う重要な所見です。
- 問診: 保護者からの情報が診断の大きな手がかりとなります。「いつから熱が出たか」「咳や鼻水はあるか」「周りで流行っている病気はないか」といった質問を通じて、原因がウイルス性か細菌性かの可能性を探ります。
- 臨床スコア: 医師は、症状に基づいて溶連菌の可能性を点数化する「Centorスコア」や「McIsaacスコア」を参考にすることがあります7。しかし、これらのスコアはあくまで目安であり、特に小児ではスコアが高くても確定診断には至らないため、最終的な診断には検査が重要となります7。
3.2. 「喉の検査」の目的と種類
臨床的に溶連菌(GAS)感染が疑われる場合、診断を確定するために以下の検査が行われます。
- 迅速抗原検査(RADT):
- 咽頭培養検査:
3.3. なぜ咳や鼻水があると「溶連菌の検査はしない」ことがあるのか?
保護者の中には、「喉が痛いと言っているのに、なぜ溶連菌の検査をしてくれないのだろう?」と疑問に思う方がいるかもしれません。これには明確な医学的根拠があります。
咳や鼻水は、ウイルス性咽頭炎の典型的な症状です7。これらの症状がはっきりと存在する場合、現在の喉の痛みの原因がウイルスである可能性が極めて高く、溶連菌感染症の可能性は著しく低くなります。
このような状況で検査を行うと、前述の「無症状キャリア」のお子様が偶然「陽性」と判定されてしまうリスクがあります。その結果、本来は不要な抗菌薬が処方されてしまうことになりかねません。日本の診療ガイドラインでは、このような過剰な検査と不必要な抗菌薬投与を避けるため、臨床的にウイルス感染が強く示唆される場合には、あえて溶連菌の検査を行わないことを推奨しています7。これは、世界的な課題である「薬剤耐性(AMR)」対策の観点からも非常に重要な考え方です8。医師が検査をしないという判断は、お子様の症状を総合的に評価した上での専門的な判断なのです。
第4部:急性咽頭炎の治療法 ― 日本の診療ガイドラインに基づく最新情報
急性咽頭炎の治療は、原因がウイルスか細菌かによって大きく異なります。ここでは、日本の診療ガイドラインに基づいた標準的な治療法を解説します。
4.1. すべての急性咽頭炎に共通する「症状を和らげる治療(対症療法)」
原因がウイルスであれ細菌であれ、発熱や喉の痛みといった辛い症状を和らげるための治療(対症療法)は共通して重要です。特に、原因の9割を占めるウイルス性咽頭炎では、この対症療法が治療の中心となります1。
- 解熱鎮痛薬: 高熱でぐったりしている場合や、喉の痛みが強くて水分摂取が困難な場合には、解熱鎮痛薬の使用が推奨されます。子供には安全性の高い「アセトアミノフェン」が第一に推奨されます。年齢や体重に応じた用量を守って使用することが重要です。場合によっては「イブプロフェン」も選択肢となります7。
- 水分補給: 発熱や食欲不振による脱水を防ぐことが何よりも大切です。経口補水液や麦茶、子供用のイオン飲料などを、少量ずつ頻回に与えるようにしましょう7。
- 安静と環境: 十分な休息をとり、体力を消耗しないようにします。室内の湿度を適切に保つことも、喉の乾燥を防ぎ、症状を和らげるのに役立ちます4。
4.2. 【最重要】溶連菌(GAS)感染症の抗菌薬(抗生物質)治療
迅速検査や培養検査で溶連菌(GAS)感染症と診断された場合、抗菌薬による治療が必須となります。その目的は単に症状を和らげるだけではありません。
抗菌薬治療の4大目的:
- 急性リウマチ熱(ARF)の予防: これが最も重要な目的です。リウマチ熱は心臓に後遺症を残すことがある重篤な合併症で、発症後9日以内に抗菌薬治療を開始することで、そのリスクを大幅に減らすことができます7。
- 化膿性合併症の予防: 扁桃の周りに膿がたまる扁桃周囲膿瘍など、痛みを伴う化膿性の合併症を防ぎます34。
- 症状の緩和: 抗菌薬の使用により、発熱や喉の痛みなどの辛い症状が続く期間を半日~1日程度短縮する効果があります18。
- 他者への感染伝播の抑制: 治療開始後24時間で感染力は劇的に低下し、兄弟や学校の友人への感染拡大を防ぎます11。
日本の標準治療:
- 第一選択薬: 日本の小児科関連のガイドラインでは、有効性、安全性、味の良さなどを考慮し「アモキシシリン(AMPC)」(商品名:サワシリン、ワイドシリンなど)が第一選択薬として推奨されています7。
- 投与期間: 最も重要なのが投与期間です。症状が改善しても、菌を完全に除去し、リウマチ熱を確実に予防するために「10日間」飲み続けることが強く推奨されています7。
- ペニシリンアレルギーの場合: ペニシリン系薬剤にアレルギーがある場合は、セフェム系やクリンダマイシン、マクロライド系の抗菌薬が代替薬として使用されます。ただし、日本では溶連菌のマクロライド系抗菌薬に対する耐性率が高いという問題があり、使用には注意が必要です7。
日本の治療法は、国際的な標準に準拠しつつも、国内の薬剤耐性の状況などを考慮した最適な選択となっています。
ガイドライン | 第一選択薬 | 標準的な治療期間 | アレルギー時の代替薬 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
日本 (小児科学会/厚労省)7 | アモキシシリン (AMPC) | 10日間 | クリンダマイシン、セフェム系 | マクロライド系薬剤の耐性率が高い(60%以上)ため、使用は慎重7。 |
米国 (IDSA/CDC)15 | ペニシリンV、アモキシシリン | 10日間 | セファレキシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン(5日間) | 迅速検査陰性の場合、小児では培養での確認を推奨。 |
英国 (NICE)40 | フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV) | 5~10日間 | クラリスロマイシン | 臨床スコア(FeverPAIN/Centor)に基づき、高リスク群に抗菌薬を検討。検査は必須ではない。 |
この表は、保護者が海外の情報を目にした際の混乱を防ぐ一助となります。例えば、米国ではアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)が5日間投与で使われることがありますが、日本では耐性菌の問題から第一選択とはならない理由を理解するのに役立ちます。このように、地域ごとの医療事情に合わせた治療が行われていることを知ることは、自国で受ける医療への信頼を深める上で重要です。
4.3. 「症状が消えても薬を飲み切る」絶対的な理由
抗菌薬を飲み始めると、2~3日で熱が下がり、喉の痛みも劇的に楽になることがほとんどです。この時、多くの保護者が「もう治ったから、薬をやめてもいいのでは?」と考えてしまいがちです。しかし、これは絶対に避けるべきです。
症状の改善は、体内の細菌が減って炎症が治まってきたサインに過ぎず、菌が完全にいなくなったわけではありません。ここで薬をやめてしまうと、生き残ったわずかな菌が再び増殖して症状がぶり返したり、体内に潜伏して最も避けたい合併症である「急性リウマチ熱」を引き起こすリスクを高めたりします1。
日本の診療ガイドラインでも、「重篤な合併症であるリウマチ熱を予防するため、10日間抗菌薬を医師の指示通り飲みきることが必要です。解熱したからといって自己判断で内服を中止しないでください」と明確に述べられています7。お子様の未来の健康を守るため、処方された抗菌薬は必ず最後まで飲み切ってください。
4.4. ウイルス性咽頭炎に抗菌薬が効かない理由と「薬剤耐性(AMR)」の問題
一方で、原因の9割を占めるウイルス性咽頭炎に対して抗菌薬を投与することは、単に「無意味」であるだけでなく、「有害」でさえあります。
ウイルスと細菌は、生物学的に全く異なる構造を持つ病原体です。抗菌薬は、細菌の細胞壁を破壊したり、増殖を妨げたりすることで効果を発揮するように設計されており、細胞壁を持たないウイルスには全く効果がありません。
ウイルス性の風邪に抗菌薬を使用することは、不必要な副作用(下痢、発疹など)のリスクを負うだけで、病気の回復を1秒も早めることはありません。さらに深刻な問題は、「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」です。不必要な抗菌薬の使用は、私たちの体内にいる様々な細菌に耐性(薬が効かなくなる性質)を獲得する機会を与えてしまいます。その結果、将来、肺炎や尿路感染症など、本当に抗菌薬による治療が必要な細菌感染症にかかった時に、使える薬がなくなってしまうという事態を招きかねません36。
この薬剤耐性の問題は世界的な公衆衛生上の脅威であり、日本でも厚生労働省が「抗微生物薬適正使用の手引き」を作成し、医療現場での抗菌薬の適正使用を推進しています6。医師が「これはウイルス性なので抗菌薬は不要です」と判断した場合、それはお子様の現在の病気だけでなく、未来の健康をも守るための重要な判断なのです。
第5部:家庭でできる看護とケア ― 早く元気になるための完全ガイド
適切な医療を受けることと並行して、家庭でのきめ細やかなケアがお子様の速やかな回復を助けます。ここでは、すぐに実践できる具体的な看護のポイントを紹介します。
5.1. 食事と水分補給の工夫
喉の痛みが強い時は、食事が大きな苦痛になります。無理強いはせず、お子様が受け入れやすいものを工夫しましょう。
- 食事の基本原則: 喉への刺激が少ない(熱すぎない、辛くない、酸っぱくない)、喉越しが良い、消化が良いものが基本です46。
- おすすめの食べ物・飲み物:
保護者の方が最も悩む「病気の時の食事」について、具体的なレシピを以下の表にまとめました。
症状の段階 | おすすめの食事タイプ | 具体的なレシピ例(材料・簡単な作り方) | ポイント |
---|---|---|---|
急性期 (高熱・食欲不振・喉の痛みが最強) | 冷たくて喉越しの良い流動食 | ヨーグルトスムージー48 ・材料:ヨーグルト、バナナ、牛乳(または豆乳)、お好みではちみつ(※1歳未満は不可) ・作り方:全ての材料をミキサーにかけるだけ。 |
喉への刺激が最小限で、栄養と水分が同時に摂れる。冷たさが喉の腫れを和らげる効果も。 |
回復期 (少し食欲が出てきた) | 柔らかく消化の良い温かい食事 | かぶのとろろ粥51 ・材料:ご飯、かぶ、長芋(とろろ)、和風だし ・作り方:だしでご飯とかぶを柔らかく煮て、最後にとろろを加えてひと煮立ちさせる。 |
とろみがあって飲み込みやすく、胃腸に優しい。かぶの自然な甘みが食欲をそそる。 |
栄養補給を意識したい時 | タンパク質やビタミンが摂れる食事 | お子さま茶碗蒸し48 ・材料:卵、だし汁、鶏ささみ(またはカニカマ)、ほうれん草、コーン ・作り方:具材を入れた器に卵液を注ぎ、蒸し器で蒸す。 |
卵とささみでタンパク質を補給。喉越しが滑らかで食べやすい。彩りも良く、見た目からも食欲を刺激する。 |
このような具体的なレシピは、ストレス下にある保護者の負担を軽減し、子供の回復を助けるための実用的なツールとなります。
5.2. 安静と環境整備:快適な療養環境の作り方
- 安静: 回復には十分な休息が不可欠です。興奮させず、静かに過ごせる環境を整えましょう。
- 体温調節: 熱が高い時は、熱がこもらないように薄着にします。ただし、手足が冷たかったり、悪寒を訴えたりする時は、逆に毛布などで保温してあげてください7。
- 加湿: 空気が乾燥すると喉の粘膜が刺激され、咳や痛みが悪化しやすくなります。加湿器を使用したり、濡れタオルを室内に干したりして、湿度を50~60%程度に保つよう心がけましょう4。
5.3. 登園・登校はいつから? ― 医師の許可と復帰の目安
お子様が回復してきたら、次に気になるのが集団生活への復帰のタイミングです。これには明確な基準があります。
- 溶連菌(GAS)感染症の場合: 日本小児科学会の見解では、「適切な抗菌薬治療を開始してから24時間が経過し、全身状態が良好であれば登校(園)可能」とされています7。これは、治療開始後24時間で他者への感染力がほぼなくなるためです。
- ウイルス性咽頭炎の場合: こちらには明確な出席停止期間の定めはありません。一般的な目安として、「解熱し、咳や喉の痛みなどの主な症状が改善し、普段通りに食事がとれるようになってから」と考えるとよいでしょう。
いずれの場合も、最終的にはかかりつけ医の判断や、通っている保育園・幼稚園・学校の規定に従うことが大切です53。
5.4. 兄弟や家族への感染を防ぐには?
家庭内での感染拡大を防ぐためには、基本的な感染対策の徹底が重要です。
- 手洗い: 流水と石鹸による丁寧な手洗いが最も効果的です。特に、お子様の看病をした後や食事の前には必ず行いましょう16。
- 咳エチケット: 咳やくしゃみをする際は、ティッシュや腕の内側で口と鼻を覆うように指導します6。
- 物品の共用を避ける: タオル、コップ、食器などの共用は避けましょう。
- マスクの着用: 看病する保護者や、症状のあるお子様が可能な範囲でマスクを着用することも有効です16。
第6部:よくある質問(FAQ)― 保護者の疑問に専門家が回答
ここでは、保護者の皆様から特によく寄せられる質問について、専門家の視点からお答えします。
Q1. 溶連菌は何回もかかるのですか?
Q2. 薬を飲んだら、発疹が出てきました。副作用ですか?
Q3. 子供が溶連菌と診断されました。親も仕事を休むべきですか?
Q4. 喉の痛みに「はちみつ」は効果がありますか?何歳から?
Q5. 溶連菌の合併症(腎炎)が心配です。尿検査は必要ですか?
Q6. 最近、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)という怖い病気をニュースで見ました。子供の溶連菌との関係は?
結論:正しい知識で子供の健康を守る
子供の急性咽頭炎について、その原因から診断、治療、そして家庭でのケアまでを詳しく解説してきました。本記事の最も重要なメッセージを改めて確認します。
- 原因の大部分はウイルス: 子供の喉の痛みの9割はウイルス性であり、抗菌薬は不要です。安静と対症療法が基本となります。
- 抗菌薬は溶連菌(GAS)にのみ: 抗菌薬が必要なのは、主に溶連菌感染症の場合です。その最大の目的は、重篤な合併症であるリウマチ熱の予防にあります。
- 危険なサインを見逃さない: 呼吸困難や強いぐったり感など、緊急を要するサインを正しく認識し、ためらわずに行動することが重要です。
- 正しいケアが回復を助ける: 適切な水分補給と栄養、そして安心できる環境が、お子様の回復力を最大限に引き出します。
この記事を通じて得た知識が、保護者の皆様にとって、お子様の体調不良に直面した際の不安を和らげ、冷静かつ適切な判断を下すための力となることを心から願っています。どのような情報よりも、最終的に最も大切なのは、日頃から信頼関係を築いているかかりつけの医師とのコミュニケーションです。少しでも気になることがあれば、遠慮なく相談してください。
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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