「ストレスが続くとお腹が痛くなる」「検査では異常がないと言われたのに、頭痛や動悸が治まらない」「イライラや不安を我慢していたら、体までボロボロになってきた気がする」──そんな不安を抱えていませんか。
感情やストレスと、血圧・免疫・消化・慢性の痛みなどの身体の不調との関係は、昔から「気のせい」「気合いでなんとかなる」と軽く扱われがちでした。しかし、近年の研究では、感情のコントロールの仕方やポジティブな感情の持ち方が、炎症反応やホルモン、さらには寿命にまで関わっていることが分かってきています12。
一方で、日本では「我慢(がまん)することが美徳」とされる文化も根強く、「つらくても誰にも言えない」「忙しくてセルフケアの時間がとれない」「心療内科や精神科に行くのはハードルが高い」と感じる方も少なくありません。その結果、ストレスや感情の問題が見過ごされ、長引く体の不調やメンタルヘルスの悪化につながるケースもあります34。
本記事では、日本の公的機関や学会の情報、および最新の研究データに基づき、感情と健康の関係、心身症の考え方、感情コントロールとセルフケアの具体的な方法を、できるだけ分かりやすく整理して解説します35。忙しい会社員の方、子育て中の方、介護をしている方、そして年齢とともに体調の変化を感じている方など、さまざまな立場の方が「自分ごと」として読み進められる内容を目指しています。
読み終えるころには、「なぜ感情が体に影響するのか」「自分の感情とどう付き合えばよいのか」「いつどこに相談すべきか」が具体的にイメージできるようになるはずです。自分を責めすぎず、必要なときには医療や公的なサポートを頼るための手がかりとして、ぜひゆっくり読み進めてみてください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、厚生労働省の「休養・こころの健康」「ストレスとこころ」などの公的情報36、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のストレスとセルフケア・感情調整に関する資料47、日本心身医学会やMSDマニュアル家庭版の解説89、さらに感情調整と炎症、マインド・ボディ介入と免疫・ホルモンに関する海外のシステマティックレビュー・メタアナリシス1210など、信頼性の高い一次情報源に基づいています。
これらの情報をもとに、JHO編集部が生成AIなどのツールのサポートを受けつつ構成案や草稿を作成し、その後、原著論文や公的サイトと照合しながら、事実関係・数値・表現を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載内容の決定は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が行っています。
ただし、本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状に対する診断や治療を直接行うものではありません。体調不良や強い不安がある場合は、自己判断で放置したり治療を変更したりせず、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
要点まとめ
- 感情やストレスは「気のせい」ではなく、自律神経やホルモン、炎症反応を通じて血圧・免疫・消化・痛みなどの体の状態に影響します29。
- 感情調整(感情をうまく受け止めたり、考え方を切り替えたりする力)が弱いと炎症マーカー(CRPやIL-6など)が高くなり、逆にうまく調整できると低くなるという研究結果が多数報告されています1。
- ポジティブ感情が高い高齢者では、そうでない人に比べて死亡リスクが約15%低いとするメタアナリシスもあり、「気分の持ち方」が長期的な健康や寿命に関わっている可能性があります10。
- 日本では、精神疾患を有する総患者数が約603万人と報告されており、ストレスや感情の問題を抱える人が年々増えています5。
- 感情を「我慢し続ける」ことは、短期的には周囲に迷惑をかけないように見えても、長期的には体の不調やメンタルヘルス悪化につながるリスクがあり、適切な「話す」「書く」「表現する」方法を持つことが大切です47。
- 呼吸法・筋弛緩・ヨガ・マインドフルネスなどのマインドフルネス・ヨガ・太極拳などのマインド・ボディ介入は、ストレス軽減だけでなく、CRPやIL-6、TNF-αなどの炎症マーカーやコルチゾールを下げる効果が報告されています2。
- 「2週間以上続く憂うつ感」「死にたい気持ち」「検査では異常がないのに体の不調が続く」といったサインは、我慢せず精神科や心療内科、相談窓口に早めに相談することが推奨されます368。
「ストレスのせい」と言われても、実際に体の痛みや不調があると、「本当に心の問題なのか?」「重大な病気を見逃していないか?」と不安になります。この記事では、まず心と体のつながり(心身相関)と心身症の考え方をやさしく解説し、そのうえで日常生活でできるセルフケアと、医療機関の受診が必要になるサインを順番に整理していきます。
第1部では、ストレス反応や自律神経・ホルモン・免疫の働き、ポジティブ感情や感情調整の研究結果を紹介しながら、「なぜ感情が体に影響するのか」の基本を押さえます。第2部では、日本人に多い「感情とからだの悩み」の実例と統計データを取り上げ、自分の状況を客観的に振り返る手がかりにします35。
さらに、感情に気づく・言葉にする・共有する方法、ネガティブ思考との付き合い方、感情調整スキルの育て方、呼吸法やマインドフルネス、生活習慣によるセルフケアを、具体的なステップとして紹介します472。
最後に、受診の目安や日本で利用できる相談窓口(こころの健康相談統一ダイヤルや「こころの耳」など)3611もまとめています。読み進めることで、「自分はどこまでセルフケアで様子をみてよいのか」「いつ専門家に相談すべきか」が分かりやすくなるよう構成しています。
第1部:感情と健康の基本と心身相関のしくみ
まずは、「感情」と「健康」がどのようにつながっているのかという基本から整理していきます。ここを理解しておくと、「なぜストレスでお腹が痛くなるのか」「なぜイライラを我慢すると体調が悪くなるのか」といった疑問が、単なる精神論ではなく、生物学的な仕組みとしてイメージしやすくなります。
1.1. 心と体のつながり(心身相関・心身症の考え方)
日本心身医学会によると、「心身相関」とは心(感情・ストレス・考え方)と体(臓器・免疫・ホルモンなど)が互いに影響し合うことを指します8。そして、「心身症」とは、胃潰瘍や高血圧、過敏性腸症候群(IBS)、緊張型頭痛など、明らかに身体の病気ではあるものの、その発症や悪化に心理社会的要因(ストレス、性格傾向、人間関係など)が強く関わっている状態を意味します8。
MSDマニュアル家庭版でも、感情やストレスが胸痛・頭痛・腹痛・倦怠感などの症状として表れうることが説明されています9。たとえば、仕事でのプレゼン前に胃がキリキリ痛む、満員電車で動悸や息苦しさを感じる、休日になるとどっと疲れが出て頭痛がする──これらは「気のせい」ではなく、自律神経やホルモンの変化として実際に体で起きている反応です。
ただし重要なのは、「心身症」という診断は、まず重大な身体疾患(心筋梗塞、がん、感染症など)を除外したうえで初めて検討されるという点です89。「ストレスのせい」と決めつけて検査を受けないのは危険であり、胸の痛みや急な息苦しさ、体重減少、発熱などの症状がある場合には、まず内科や救急などで身体の病気がないか確認することが大切です。
1.2. ストレス反応と自律神経・ホルモン・免疫
ストレスを感じたとき、脳の「視床下部」という部分が刺激され、「HPA軸(視床下部–下垂体–副腎皮質軸)」と呼ばれるストレス反応のシステムが動きます2。簡単に言うと、視床下部からの指令が下垂体を通じて副腎に伝わり、「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。同時に、自律神経のうち「交感神経」が優位になり、心拍数が上がったり、血圧が上がったり、呼吸が速くなったりします9。
これは元々、危険から身を守るための正常な反応です。たとえば、走って逃げたり、すばやく判断したりする必要があるときには、短時間のストレス反応はむしろ役に立ちます。しかし、この状態が長期間続くと、体にさまざまな負担がかかってきます。具体的には、次のような影響が知られています21。
- 血圧や血糖値が高い状態が続き、生活習慣病のリスクが上がる。
- 筋肉の緊張が続き、肩こり・腰痛・緊張型頭痛が起こりやすくなる。
- 消化管の動きが乱れ、胃痛・吐き気・下痢・便秘などの症状が出やすくなる。
- 免疫系が乱れ、炎症反応が高まり、感染症や慢性疾患のリスクに影響する。
特に、近年注目されているのが「低度慢性炎症(low-grade inflammation)」です。血液検査で測定されるCRP(C反応性タンパク)やIL-6、TNF-αなどの炎症マーカーが、はっきりした感染症やけががないのに、わずかに高い状態が続くことがあります2。このような状態は、心血管疾患や糖尿病、うつ病、認知症など多くの病気のリスクと関連しているとされています21。
1.3. 感情調整と炎症・健康アウトカム
「ストレスそのもの」だけでなく、「ストレスをどう受け止め、どのように感情を調整するか」も、炎症や健康に影響することが分かってきました。感情調整(感情調整:emotion regulation)とは、簡単に言うと、湧き上がった感情に気づき、それをそのままぶつけるのではなく、受け止め方や行動を選び直す力のことです7。
Neuroscience & Biobehavioral Reviewsに掲載された2023年のシステマティックレビューでは、感情調整の特徴と炎症マーカーの関連を検討した38件の研究がまとめられています1。そのうち約74%の研究で、「感情調整がうまくいかない」「ネガティブな感情傾向が強い」人ほどCRPやIL-6などの炎症マーカーが高い、逆に認知再評価(ものごとの受け止め方を柔らかく変えるスキル)や問題解決・ソーシャルサポートの活用など、健全な感情調整スキルを持つ人では炎症マーカーが低い、という結果が報告されています1。
一方で、「感情抑制(表出抑制)」と呼ばれる、感情を表に出さずに押し込めるスタイルは、炎症マーカーの上昇と関連することが多くの研究で示されています1。たとえば、心不全患者で「感情を表に出さないタイプ(Type Dパーソナリティ)」の人は、TNF-αなどの炎症マーカーが高い傾向があり、予後にも影響する可能性が指摘されています1。
また、ポジティブ感情(ポジティブ感情:positive affect)も健康と関連しています。PsyCh Journalに掲載された高齢者を対象としたメタアナリシスでは、ポジティブ感情の高い人は低い人に比べて死亡リスクが約15%低い(調整済みハザード比0.85[95%信頼区間0.81–0.89])という結果が報告されています10。これは、「楽しい気持ちでいれば絶対に長生きできる」という意味ではなく、「日常の中に少しでも前向きな感情を増やしていくこと」が、長期的な健康や寿命にも良い影響を与えうることを示唆するデータと考えられます。
第2部:日本人に多い「感情」と「からだ」の悩み
次に、日本の社会や医療の状況をふまえながら、「感情」と「からだ」の悩みがどのように現れているのかを見ていきます。統計データや代表的なケースを知ることで、「自分だけがおかしいのではない」「同じような悩みを持つ人はたくさんいる」と感じられるかもしれません。
2.1. 日本のメンタルヘルス・ストレスの現状
厚生労働省の「患者調査」に基づく資料によると、精神疾患を有する総患者数は、2017年には約419万人、2022年には約603万人と報告されており、この15年ほどで大きく増加しています5。特に外来患者数の増加が顕著で、うつ病や不安症、ストレス関連障害などで通院する人が増えていることがうかがえます5。
内閣府の障害者白書の資料でも、精神障害を有する人の多くが働く世代や中高年層に集中しており、仕事や家族生活に大きな影響を与えていることが指摘されています12。日本は少子高齢化や長時間労働、介護負担など、多くのストレス要因を抱えた社会であり、「感情と健康」のテーマは多くの人にとって身近な問題になっています。
2.2. 仕事・家庭・介護などのストレスの例
日常生活の中で、感情と体の不調がセットで現れやすい場面を、いくつかのペルソナでイメージしてみましょう。以下は、データと公的資料に基づきつつ、日本社会でよく見られる状況を整理したものです3411。
- ペルソナ1:会社員(30〜40代)
長時間労働や残業、責任の重いプロジェクトを抱え、常に時間に追われている。最近、寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める。朝起きると頭が重く、会社に行く前から疲れている。胃がキリキリ痛むことも増え、内科を受診したが「大きな異常はない」と言われた。上司や同僚には「弱いと思われたくない」と思い、つらさを打ち明けられない。 - ペルソナ2:20〜30代女性(オフィスワーカー/産後まもない母親)
仕事のプレッシャーと将来への不安に加え、SNSや外見へのプレッシャーも強く感じている。産後まもない場合は、睡眠不足と育児ストレスが重なり、「自分だけがうまくできていない」と自分を責めがち。涙もろくなり、些細なことでパートナーや家族にイライラしてしまう。肩こりや腰痛、便秘や下痢などの不調が続いているが、「忙しいから」「みんな頑張っているから」と我慢してしまう。 - ペルソナ3:介護をする家族(40〜60代)
認知症や重い持病を持つ親の介護をしながら、自分も仕事を続けている。「自分が頑張らなければ」という思いが強く、休むことや周囲に頼ることに罪悪感を覚える。腰痛や背中の痛み、慢性的な疲労感があり、夜はなかなか眠れない。イライラや怒り、やるせなさを感じても、「親にそんな感情を持つ自分はひどい人間だ」と自分を責めてしまい、誰にも本音を話せない。
これらの状況では、感情と身体症状が複雑に絡み合っています。「ストレスをなくす」ことが現実的でないとしても、自分の感情に気づき、うまくケアする方法を身につけることで、体の不調を緩和し、悪化を防ぐことが期待できます。
2.3. 感情が原因と思いにくい身体症状(心身症)
厚生労働省や日本心身医学会、MSDマニュアル家庭版では、ストレスや感情の影響を受けやすい身体症状の例として、次のようなものが挙げられています389。
- 頭痛(特に緊張型頭痛)、めまい、耳鳴り。
- 肩こり、首・背中の痛み、全身のだるさ。
- 動悸、胸の圧迫感、息切れ(検査で心臓に大きな異常がない場合)。
- 胃痛、胸やけ、吐き気、下痢・便秘を繰り返す(過敏性腸症候群など)。
- 食欲不振、体重減少または増加、疲労感。
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、悪夢を見る、早朝に目が覚めてしまう。
- 手足のしびれ、冷え、のぼせなど、検査では説明しづらい症状。
もちろん、これらの症状がすべて「ストレスのせい」と決まっているわけではありません。特に、激しい胸痛や突然の呼吸困難、急激な体重減少、血の混じった便や痰などは、心臓や肺、消化器の重い病気のサインである可能性もあります。そのため、まずは内科や専門科で必要な検査を受け、「重大な病気ではない」と確認されて初めて、心身症やストレス関連の不調としてのアプローチが検討されます89。
検査で大きな異常が見つからなかったのに症状が続くと、「どこも悪くないと言われたのに、なぜこんなにつらいのか」「自分の感じ方がおかしいのか」と、自分を責めてしまう人もいます。しかし、心身相関の視点に立てば、「検査で写らない不調」が存在すること自体は不思議なことではありません。むしろ、「体と心はつながっている」「ストレスや感情も治療の重要なターゲットである」と考えることで、新しい対処の道が開ける場合があります。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 仕事や学校のことを考えると胃がキリキリ痛む、休日は少し楽になる | 仕事・学業ストレス、自律神経の乱れ、心身症(胃炎・胃潰瘍・過敏性腸症候群など) |
| 検査で異常がないのに動悸や息切れが続く | 不安・パニック症状、自律神経の乱れ、心身症的な胸部症状 |
| 2週間以上、眠れない・食欲がない・気分が落ち込む状態が続いている | うつ病・不安障害などのメンタルヘルスの問題、慢性ストレス |
| 首や肩のこり、頭痛が慢性的で、休んでもなかなか良くならない | 長時間同じ姿勢、ストレスによる筋緊張、睡眠不足、感情の抑え込み |
| 介護や子育てのことで頭がいっぱいで、常に疲れている | 介護・育児ストレス、燃え尽き症候群、サポート不足 |
第3部:自分の感情に気づき、共有する方法
感情と健康の関係を理解したうえで、次のステップは「自分自身の感情に気づき、言葉にして、誰かと共有すること」です。日本では、「迷惑をかけたくない」「弱音を吐くのはよくない」と感じて、つらい気持ちを誰にも話せないまま抱え込んでしまう人も多くいます。しかし、感情を適度に外に出すことは、心にも体にも大切なセルフケアです47。
3.1. 感情に気づく・名前をつける(ラベリング)
感情調整の出発点は、「今、自分は何を感じているのか」を認識することです。国立精神・神経医療研究センターの資料では、「怒り」「悲しみ」「不安」「寂しさ」など、基本的な感情にラベルを付けることが感情調整の第一歩として紹介されています7。
具体的には、次のようなステップを試してみてください。
- 1日1回、就寝前などに「今日、一番強く感じた感情は何だったか?」を思い出してみる。
- 手帳やスマートフォンのメモに、「怒り」「不安」「疲れ」「うれしさ」など、単語で構わないので書き出す。
- 可能であれば、その感情が「どんな出来事に対して」「どのくらいの強さ(10点満点など)で」湧き上がったのかも書き添える。
このような「感情のラベリング」は、単に気持ちを客観視しやすくするだけでなく、脳の感情を司る部分の活動を落ち着かせる効果が報告されています。簡単に言うと、「あ、今私は不安を感じているんだな」と言葉にすることで、その感情に少し距離を置きやすくなります。
3.2. 家族・友人・職場で感情を共有するコツ
感情に気づいたら、信頼できる相手に少しずつ共有することも大切です。ただし、「ただ愚痴をこぼす」「相手を責める」形だと、お互いに疲れてしまうこともあります。そこでおすすめなのが、「I(アイ)メッセージ」と呼ばれる伝え方です。これは、「あなたが〜だから」ではなく、「私は〜と感じている」と自分の感情を主語にして伝える方法です。
例として、次のような言い方の違いをイメージしてみてください。
- ×「いつも残業を押しつけられて、いい加減にしてほしい。」
- ○「残業が続いていて、正直かなり疲れているし、不安も感じています。一度、仕事の分担を相談できると助かります。」
- ×「あなたは全然手伝ってくれない。」
- ○「家事や育児でいっぱいいっぱいで、イライラしてしまう自分がつらいです。週に1回だけでもいいので、○○を手伝ってもらえるとすごく助かります。」
家族や友人に話すときは、「アドバイスしてもらうこと」よりも、「まずは気持ちを受け止めてもらうこと」をゴールにしてみるのも一つの方法です。「話を聞いてくれるだけでいい」「解決策は後で一緒に考えたい」など、事前に伝えておくと、相手も構えすぎずに話を聞きやすくなります。
3.3. 一人でできる表現(ジャーナリング・歌う・泣く・アートなど)
「身近に話せる相手がいない」「話すのが苦手」という場合でも、感情を外に出す方法はいくつかあります。例えば、次のような方法が挙げられます47。
- ジャーナリング(感情を書き出す)
ノートやメモアプリに、今感じていることをそのまま書き出します。「うまく書かなければ」と思う必要はありません。箇条書きでも、短い言葉でも構いません。 - 歌う・音楽を聴く
好きな音楽を聴いたり、声に出して歌ったりすることで、気持ちが少し軽くなることがあります。カラオケや自宅での「ひとりカラオケ」も、一つの感情の発散方法です。 - 涙を流す
涙をこらえるのではなく、安心できる場所で思いきり泣くことも、心の緊張をほどくきっかけになります。泣いたあとに、少しだけ気持ちが落ち着くこともあります。 - 絵や文字、手芸などの創作
上手い・下手は関係なく、色や形、手ざわりを通じて感情を外に出す方法もあります。塗り絵やコラージュ、簡単なスケッチなど、特別な道具がなくても始められます。
これらの方法は、医学的な「治療」とまではいきませんが、心身のセルフケアとして多くの公的資料や専門家が推薦しています47。大切なのは、「自分に合った方法を少しずつ探し、完璧を目指さずに続けてみること」です。
第4部:考え方を変える — ネガティブ思考と向き合う
感情そのものを「なくす」ことはできませんが、ものごとの受け止め方や考え方(認知)を少し変えることで、感情の波を穏やかにすることはできます。このような考え方の工夫は、認知行動療法(CBT)や感情調整研究の中で「認知再評価」として重視されています1。
4.1. ネガティブ思考のパターンを知る
日常でよく見られるネガティブ思考のパターンには、次のようなものがあります。
- 白黒思考:「100点でなければ0点」と考えてしまう。「少しミスした=全部ダメ」と感じてしまう。
- 決めつけ・レッテル貼り:「自分はダメな人間だ」「あの人は絶対にわかってくれない」など、一つの出来事から全体を決めつけてしまう。
- 先読みの不安:「きっと失敗するに違いない」「どうせうまくいかない」と、実際には起きていない未来を悲観的に予測してしまう。
- 良いことの過小評価:うまくいったことや努力したことを「大したことない」「運が良かっただけ」と受け取ってしまう。
これらの思考パターンは、多くの人が自然に陥りやすいものであり、「自分だけ」ではありません。自分を責めるのではなく、「今、自分はどんな考え方のクセにはまりそうか?」と一歩引いて眺めてみることが、第一歩となります。
4.2. 認知再評価とポジティブ感情の育て方
認知再評価(認知再評価:cognitive reappraisal)とは、起きた出来事そのものを変えるのではなく、「その出来事の意味づけ」を少し柔らかく変える技術です。例えば、「上司に指摘された=自分はダメだ」と受け取る代わりに、「成長のチャンスとしてのフィードバック」と捉え直すなどが挙げられます。
先ほど紹介したシステマティックレビューでは、認知再評価のスキルが高い人ほどCRPやIL-6などの炎症マーカーが低い傾向が報告されています1。つまり、「ものの見方」を少し柔らかくすることが、長期的には体の炎症状態にも良い影響を与えている可能性があります。
認知再評価を実践するためのシンプルなステップを、日常の例で見てみましょう。
- (1)起きた出来事を事実として書き出す(例:「上司に資料のミスを指摘された」)。
- (2)そのとき浮かんだ自動的な考えをそのまま書く(例:「自分は社会人失格だ」)。
- (3)別の捉え方がないか、あえて探してみる(例:「ミスに早く気づけたおかげで大きなトラブルを避けられた」「次は確認の方法を見直そう」)。
- (4)その別の捉え方に、10点満点中何点くらい納得できるか、数字をつけてみる。
最初から「前向きに考えなければ」と無理をする必要はありません。「100%ポジティブ」ではなくても、「ほんの少しだけ違う角度から見てみる」「別の可能性もあるかもしれない」と考えられるだけでも、感情の強さが少し和らぐことがあります。
4.3. 感情を「抑え込む」ことのリスク
一方で、「怒ってはいけない」「不安を見せてはいけない」と、自分の感情をいつも押し殺してしまうスタイル(感情抑制)は、先ほど触れたように炎症マーカーの上昇と関連していることが多くの研究で報告されています1。もちろん、状況によっては感情を一時的に抑えることが必要な場面もありますが、「いつも、どこでも、誰に対しても我慢する」というパターンが続くと、体の負担になります。
例えば、心不全患者で感情を表に出さない傾向の強い人は、TNF-αなどの炎症マーカーが高く、予後が悪い可能性があると報告されています1。また、嫌な出来事を何度も思い出しては考え込む「反すう(rumination)」も、炎症反応を長引かせる要因として指摘されています1。
「我慢しない=周囲に怒りをぶつける」という意味ではありません。大切なのは、「自分の感情に気づき、信頼できる場で安全に表現すること」です。その一つの方法として、先ほど紹介したジャーナリングや、信頼できる人との対話、必要に応じて専門家とのカウンセリングなどがあります47。
第5部:感情調整スキルを育てるセルフレギュレーション
感情に気づき、考え方のクセを知ることに加えて、「感情の波に飲み込まれすぎないように、自分を整えるスキル(セルフレギュレーション)」を育てることも大切です71。
5.1. 感情調整とは?(受け止める・距離をとる・選択して行動する)
感情調整(感情調整:emotion regulation)とは、簡単に言うと次の3つのステップの組み合わせです7。
- 受け止める:まず、「今、自分は怒っている」「不安を感じている」と気づき、それを否定せずに認める。
- 距離をとる:感情に完全に飲み込まれず、「そう感じている自分」を少し客観的に眺める(マインドフルネス的な姿勢)。
- 選択して行動する:その感情に基づいて、どう行動するかを選び直す(すぐに反応せず、一呼吸おいてから対応するなど)。
これらは、特別な才能ではなく、練習によって少しずつ身につけていけるスキルです。たとえば、「イライラしたときは、10秒だけ深呼吸してから話す」「不安になったときは、ノートにまず書き出してから誰かに相談する」など、小さなルールを自分の中に作っておくことが助けになります。
5.2. 科学的に裏付けのある感情調整スキル
感情調整と健康に関する研究では、次のようなスキルが、炎症マーカーやストレス反応の軽減と関連していることが報告されています1。
- 問題解決型コーピング:状況を変えるためにできる具体的な行動(仕事の調整、家事の分担、情報収集など)に目を向ける。
- ソーシャルサポートの活用:家族・友人・職場・支援団体などからの支えを積極的に求める。
- 認知再評価:先ほど説明したように、出来事の意味づけを少し柔らかく変える。
- ディストラクション(注意の切り替え):短時間、別の活動(散歩、音楽、軽い運動など)に意識を向けることで、感情のピークをやり過ごす。
逆に、以下のようなスタイルは、炎症の高さや健康リスクと関連していることが多くの研究で示唆されています1。
- 感情抑制(感情を表に出さず、常に我慢する)。
- 反すう(嫌な出来事を何度も思い返して考え込む)。
- 回避(問題や感情から目をそらし続ける、アルコールやギャンブルなどで一時的に紛らわせる)。
NCNPのセルフケア資料では、ストレスへの対処として、問題解決やソーシャルサポート、適度な気分転換(読書・映画・趣味など)が具体的に紹介されています4。これらは、研究レベルでも一定の効果が示されている方法であり、「自分に合うものを少しずつ取り入れてみる」価値があります。
5.3. 読書・映画・趣味を使った気分転換
感情調整というと難しく聞こえるかもしれませんが、「好きな本を読む」「好きな映画やドラマを見る」「趣味に没頭する」といった日常的な行動も、立派な感情ケアの一つです4。
たとえば、次のような使い方が考えられます。
- 夜、仕事のことばかり考えてしまうときに、30分だけ好きな小説を読む時間を決める。
- 涙が出そうなくらいつらいときに、あえて感動的な映画を見て、涙を流すきっかけにする。
- 手を動かすことが好きな人は、編み物やプラモデル、料理など、完成までのプロセスに集中できる趣味を続ける。
大切なのは、「感情を麻痺させるための逃避」ではなく、「一度気持ちを落ち着かせるための一時的な切り替え」として使うことです。そのうえで、必要なときには問題の本質に向き合ったり、周りに助けを求めたりすることも忘れないようにしましょう。
第6部:からだを通して感情を整える — 呼吸・ヨガ・マインドフルネス
感情は頭の中だけで起きているわけではなく、呼吸・筋肉の緊張・心拍など、体の状態と密接に結びついています。そのため、「からだを通して心を整える」アプローチも非常に有効です。ここでは、科学的な研究でも効果が示されているマインド・ボディ介入(mind–body interventions)について紹介します210。
6.1. 呼吸法・筋弛緩法・ストレッチ
深い呼吸や筋弛緩法は、自律神経のバランスを整え、副交感神経(リラックスを担当する神経)の働きを高めるとされています。具体的には、次のような簡単な方法から始められます47。
- 腹式呼吸(3–5分)
椅子に座るか、仰向けに寝て、片手を胸、もう片方の手をお腹に置きます。鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹がふくらむのを感じながら、4秒かけて吸います。次に、口をすぼめて8秒かけてゆっくり吐き出します。これを3〜5分繰り返します。 - 漸進的筋弛緩法
足先から順番に筋肉をぎゅっと5秒ほど力を入れてから、ふっと力を抜く、という動作を繰り返します。ふくらはぎ、太もも、お腹、肩、腕、手、顔の順に行うと、全身の緊張がほぐれていくのを感じやすくなります。 - 軽いストレッチ
首をゆっくり回す、肩をすくめてから一気に力を抜く、背伸びをするなど、1〜2分でできる動きを、仕事の合間や寝る前に取り入れます。
これらは一度で劇的な効果が出るものではありませんが、「毎日数分」を続けることで、自律神経のバランスが整いやすくなり、睡眠の質や日中の集中力にも良い影響が期待できます。
6.2. マインドフルネス・瞑想のエビデンス
マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に、評価や判断を加えずに注意を向けること」とよく説明されます。代表的なプログラムであるMBSR(mindfulness-based stress reduction:マインドフルネスストレス低減法)は、8週間ほどのグループプログラムとして世界中で実践されており、多くの研究でストレス・不安・うつ症状の軽減や生活の質の向上に効果があることが示されています10。
さらに、マインドフルネスやヨガ、太極拳などを含むマインド・ボディ介入を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、CRPやIL-6、TNF-αなどの炎症マーカーの低下、コルチゾールの減少、IL-10やIFN-γ、BDNF、唾液IgAといった免疫・神経栄養因子の改善が報告されています2。つまり、「心が落ち着く」感覚だけでなく、体の中の炎症やホルモンの状態にも良い影響を与えている可能性があります。
実践の一例として、次のような「マインドフル呼吸」を紹介します。
- 静かな場所で楽な姿勢になり、目を閉じるか、少し伏し目にします。
- 呼吸をコントロールしようとせず、「吸っている」「吐いている」という感覚にそっと注意を向けます。
- 雑念が浮かんでも、「考えごとが浮かんだな」と気づくだけにして、再び呼吸の感覚に注意を戻します。
- 最初は1〜3分から始め、徐々に5分、10分と伸ばしていきます。
「うまくできない」と感じるのはごく自然なことであり、失敗ではありません。「気づいて戻る」という動作そのものがマインドフルネスの練習になっていると考えてみてください。
6.3. ヨガ・太極拳などのマインド・ボディ介入
ヨガや太極拳、気功などのマインド・ボディ介入は、穏やかな動きと呼吸、意識の向け方を組み合わせた実践です。前述のメタアナリシスでは、これらの実践が炎症マーカーやストレスホルモンを改善しうることが示されています2。
ヨガというと難しいポーズを想像するかもしれませんが、健康目的で行う場合は、初心者向けのやさしいクラスや動画から始めるだけで十分です。立位での簡単なポーズや、椅子に座ったままできるポーズも多く、年齢や体力に応じて調整することができます。
太極拳も、ゆっくりとした動きと深い呼吸を組み合わせた運動であり、高齢者を含む幅広い年代で実践されています。バランス感覚の維持や転倒予防にも役立つとされており、地域の教室やオンラインの動画など、始めやすい環境も増えています。
これらの実践は、「週に1回まとめて」よりも、「短時間でも週数回、または毎日少しずつ」のほうが、心身への効果が安定しやすいと考えられています210。無理のない範囲で、自分の生活リズムに合わせた頻度と時間を見つけていきましょう。
第7部:生活習慣から感情を守るセルフケア
感情と健康の関係を語るうえで、睡眠・食事・運動・アルコール・タバコといった生活習慣は欠かせません。厚生労働省やNCNPの資料でも、ストレスやメンタルヘルスのセルフケアとして、これらの基本的な生活習慣の見直しが繰り返し強調されています346。
7.1. 睡眠とメンタルヘルス
睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、ストレスや不安、うつ症状と深く関係しています。NCNPのセルフケア資料では、睡眠のセルフケアとして次のようなポイントが紹介されています4。
- 就寝・起床時間をできるだけ毎日一定に保つ(休日に寝だめしすぎない)。
- 寝る前1〜2時間はスマートフォンやパソコンの使用を控え、強い光を避ける。
- カフェイン(コーヒー・エナジードリンクなど)は就寝の6時間前までにとどめる。
- 寝酒に頼らない(アルコールは一時的に眠気を誘っても、睡眠の質を悪化させる)。
- 眠れないときは、布団の中で無理に寝ようとせず、一度起きて静かな活動(読書など)をする。
「眠れないのは性格の問題」「歳のせい」と諦める必要はありません。睡眠のセルフケアは、感情の安定にも大きく影響します。眠れない夜が何週間も続く、日中の眠気で生活に支障が出ている場合は、睡眠外来や精神科・心療内科で相談することも検討しましょう。
7.2. 食事・運動と感情の安定
バランスの良い食事と適度な運動も、感情の安定に欠かせません。運動については、多くの研究で、定期的な身体活動がうつ症状や不安の軽減に役立つと報告されています13。特に、ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどの有酸素運動は、週150分程度(例えば1日30分×週5日)を目標にすると良いとされています。
食事については、「これを食べれば必ずメンタルが良くなる」という魔法の食材はありませんが、次のような基本を意識することが、体調と気分の安定につながります。
- 1日3食を目安に、朝食を抜かない。
- 炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルをバランス良くとる。
- 過度な糖分・脂質・加工食品を控え、野菜や果物、魚、大豆製品などを意識して増やす。
- 寝る直前の過食を避け、就寝2〜3時間前までに食事を済ませる。
忙しいときは、完璧な食生活を目指すのではなく、「コンビニでサラダやスープを1品足す」「昼食におにぎりだけでなく、ゆで卵やヨーグルトをプラスする」といった小さな工夫から始めてみると続けやすくなります。
7.3. アルコール・タバコに頼りすぎない
ストレスが強いとき、「お酒で忘れたい」「タバコで気持ちを落ち着けたい」と感じることがあるかもしれません。しかし、アルコールやタバコに頼りすぎることは、長期的には健康リスクを高めるだけでなく、メンタルヘルスの悪化にもつながることが知られています36。
厚生労働省の推奨では、節度ある飲酒量の目安や、飲酒を控えたほうが良い人の条件が示されていますが、すでに「ストレス解消のために飲まないと落ち着かない」「飲まないと眠れない」という状態になっている場合は、一度専門家に相談することが大切です3。
タバコについても、ニコチンの一時的なリラックス効果よりも、心血管疾患やがん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などのリスク上昇が大きな問題になります。禁煙外来やサポートを利用することで、「ストレスと付き合う別の方法」を見つけていくことができます。
第8部:こんなときは専門家へ — 受診の目安とレッドフラッグ
感情と健康のつながりを理解し、セルフケアを実践していても、「これは自分で様子を見ていて大丈夫なのか」「いつ受診すべきなのか」が分かりにくいことがあります。ここでは、日本の公的資料などを参考に、受診を検討すべきサインを整理します368。
8.1. うつ病・不安障害を疑うサイン
厚生労働省のうつ病リーフレットなどでは、次のような状態が2週間以上続いている場合、うつ病などを疑い、精神科や心療内科への受診を検討するよう呼びかけています6。
- ほとんど毎日、憂うつな気分が続く。
- これまで楽しめていた趣味や活動に興味がわかない。
- 眠れない、または寝すぎてしまう。
- 食欲が落ちる、または食べ過ぎてしまう。
- 疲れやすく、エネルギーが出ない。
- 自分を責める考えや、価値がないように感じる気持ちが強い。
- 集中力が落ち、ミスが増えたり、仕事や家事が手につかない。
これらに加えて、「死んだほうが楽だ」「消えてしまいたい」といった考えが浮かんでくる場合は、早急な相談が必要です。後述する相談窓口や、身近な医療機関に一度相談してみましょう。
8.2. 自殺念慮・希死念慮があるときの行動
「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが浮かぶこと自体は、それだけで「おかしなこと」ではありません。それだけ追い詰められるほどのつらい状況にいる、というサインです。一方で、その気持ちを一人で抱え続けることは非常に危険です。
日本には、自治体やNPO、厚生労働省が連携して運営している電話・SNS相談窓口があります。厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル」や各種自殺対策の相談先では、匿名でも相談できる窓口が用意されています36。
また、次のような状況では、119番通報や救急外来の受診をためらわないでください。
- 具体的な自殺の方法や準備を考え始めている。
- 自分で自分の身を守れなくなりそうな感覚がある。
- 現実感が薄れたり、幻聴・幻覚のような症状がある。
「ここまでの状態で救急車を呼んでもいいのか」と迷うかもしれませんが、命に関わる可能性がある場合は、ためらわず119に連絡することが推奨されます。
8.3. 検査で異常がない身体症状が続く場合(心身症を疑うとき)
内科や専門科で検査を受けても明らかな異常が見つからないのに、痛みや不調が続く場合、「自分の気のせいなのか」「どこに行けばいいのか」と悩む方も多くいます。日本心身医学会や心療内科の情報では、そのようなときに心身症やストレス関連の病気が考えられると説明されています8。
こうした場合、次のようなステップをとることが考えられます。
- まずは主治医に、「ストレスや生活状況も含めて相談したい」と伝える。
- 必要に応じて、心療内科や精神科、心身医療科などを紹介してもらう。
- 症状日記(いつ・どのような状況で症状が出たか)や、最近の生活やストレス状況をメモして受診時に持参する。
「精神科に行くほどではない」と感じるかもしれませんが、心身症やストレス関連の身体症状は、心と体の両面からのアプローチが重要です。適切な専門家につながることで、「痛みをどう付き合うか」「ストレスとどう向き合うか」の具体的なサポートを受けられる可能性があります89。
第9部:日本で利用できる支援・相談窓口
一人で抱え込まず、適切な支援につながることも、感情と健康を守るうえで大切です。ここでは、日本で利用できる主な公的窓口や情報サイトを紹介します3611。
9.1. 公的な相談窓口(こころの健康相談統一ダイヤルなど)
厚生労働省や各自治体は、「こころの健康相談」や自殺予防の相談窓口を設置しています。代表的なものとして、都道府県・政令指定都市が運営する「こころの健康相談統一ダイヤル」などがあり、電話で匿名での相談が可能です36。
詳しい連絡先や受付時間は、厚生労働省や自治体の公式サイトに一覧が掲載されています。不安や落ち込みが強いとき、「いきなり病院に行くのはハードルが高い」と感じる場合でも、まずは電話で気持ちを話してみることが、次の一歩につながることがあります。
9.2. 働く人向け「こころの耳」・ストレスチェック制度
働く人のメンタルヘルスについては、厚生労働省が運営するポータルサイト「こころの耳」があります11。ここでは、職場のストレスやうつ、ハラスメント、仕事と生活の両立などについて、セルフケア・ラインケア・事業場外資源の活用方法がわかりやすく紹介されています。
また、従業員50人以上の事業場では、「ストレスチェック制度」により、年1回のストレスチェックが義務づけられています11。高ストレスと判定された場合には、産業医や医師との面接指導を申し出る権利があります。「点数が高かったけれど、どうしていいか分からない」という場合は、会社の人事・総務部門や産業医に相談してみましょう。
9.3. 医療機関の選び方(精神科・心療内科・カウンセリング)
日本では、「精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」「心身医療科」など、さまざまな名称の診療科があります。一般的には、次のような目安で考えることができます89。
- 精神科:うつ病、双極性障害、統合失調症、不安症、パニック症など、主に「心の病気」を専門とする。
- 心療内科・心身医療科:胃痛・頭痛・動悸などの身体症状とストレス・感情の関係を含めて診る診療科。内科と精神医学の両面からアプローチする施設もある。
- カウンセリング(臨床心理士等):主に心理的な支援やカウンセリングを行う。医療機関に併設されている場合もあれば、独立した相談機関として運営されている場合もある。
どの診療科がよいか迷う場合は、かかりつけの内科医や地域の保健センターに相談し、自分の症状や状況に合った窓口を紹介してもらう方法もあります。
第10部:今日から始める感情セルフケア・アクションプラン
最後に、ここまでの内容を踏まえて、「今夜から」「今週から」「長期的に」と段階別に実践できるアクションプランをまとめます。一度にすべてを完璧にこなす必要はありません。自分のペースで、できるところから少しずつ試していくことが大切です。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 呼吸と睡眠環境を整える | 寝る前3分の腹式呼吸、スマホを寝る30分前にオフにする、部屋の照明を暗めにする |
| Level 1:今夜からできること | 感情を書き出す | 寝る前に「今日一番強かった感情」と「そのときの出来事」をメモ帳に一行だけ書く |
| Level 2:今週からできること | 週に数回の軽い運動を取り入れる | 仕事帰りに一駅分歩く、休日に20〜30分のウォーキングをする |
| Level 2:今週からできること | 信頼できる人に気持ちを話してみる | 家族や友人に「最近少し疲れていて…」とIメッセージで切り出してみる |
| Level 3:1〜3か月かけて取り組むこと | マインドフルネスやヨガを習慣化する | 週1回オンラインヨガに参加する、毎朝5分のマインドフル呼吸を続ける |
| Level 3:1〜3か月かけて取り組むこと | 必要に応じて専門家に相談する | 2週間以上続く落ち込みや不眠、体の不調がある場合、精神科・心療内科を受診する |
第11部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
ここまで紹介してきたセルフケアは、感情と健康を守るうえで大きな助けになりますが、それだけで十分でない場合もあります。「自分の力だけでは難しい」と感じたときに、どのタイミングで、どのように専門家に相談すればよいかを改めて整理します。
11.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 胸の痛みや強い息切れ、突然の麻痺・しびれなど、命に関わる可能性がある症状が出たとき(すぐに119や救急外来を検討)。
- 2週間以上続く強い憂うつ感や不安、睡眠障害、食欲低下、仕事や家事がほとんどできない状態。
- 「死にたい」「消えてしまいたい」という考えが頻繁に浮かぶ、具体的な方法を考え始めている。
- 検査で異常がないと言われても、日常生活に支障が出るほどの痛みや不調が続いている。
11.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 主に身体症状(胸痛、腹痛、頭痛など)が心配なとき:まずは内科や各専門科を受診し、身体疾患の有無を確認する。
- 気分の落ち込みや不安、不眠、意欲低下が中心のとき:精神科・心療内科・メンタルクリニックの受診を検討する。
- 身体症状とストレスの関係が強そうなとき:心療内科や心身医療科が候補となる。
11.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状日記(いつ・どのくらいの頻度で・どのような状況で症状が出るか)。
- これまでの検査結果やお薬手帳(すでに内科などで検査・治療を受けている場合)。
- 睡眠の記録(就寝・起床時間、途中で目覚めた回数、昼寝の有無など)。
費用の目安は、保険診療の場合、初診料・再診料、血液検査や画像検査などの内容によって変わります。精神科・心療内科でも、保険診療を行っている医療機関が多く、3割負担であれば数千円程度から受診できるケースが一般的です(ただし、検査内容や地域により異なります)。事前に医療機関のホームページや電話で確認しておくと安心です。
よくある質問
Q1: ストレスでお腹や頭が痛くなるのは、本当に「気のせい」ではないのですか?
A1: 「気のせい」ではありません。日本心身医学会やMSDマニュアル家庭版では、ストレスや感情が胃痛・頭痛・動悸などの身体症状として表れる「心身症」が解説されています89。ストレスが続くと自律神経やホルモン、炎症反応が変化し、消化器や筋肉、心臓・血管などに負担がかかることが知られています。ただし、胸痛や急な体重減少などは重大な病気のサインである可能性もあるため、自己判断で「ストレスのせい」と決めつけず、まず内科などで検査を受けることが大切です。
Q2: 感情を我慢すると、なぜ体に悪いと言われるのですか?
A2: 感情を一時的に抑えること自体は誰にでもありますが、「常に」「どんなときも」感情を押し殺してしまうスタイル(感情抑制)は、炎症マーカーの上昇や健康リスクと関連していることが研究で報告されています1。特に、怒りや悲しみ、不安などを誰にも話せないまま抱え込む状態が続くと、心身の負担が大きくなります。ジャーナリングや信頼できる人との対話、専門家とのカウンセリングなど、安全な形で感情を表現する場を持つことが重要です47。
Q3: ポジティブに考えると本当に長生きできるのでしょうか?
A3: 「ポジティブに考えれば必ず長生きできる」と言い切ることはできませんが、高齢者を対象としたメタアナリシスでは、ポジティブ感情が高い人は低い人に比べて死亡リスクが約15%低いという結果が報告されています10。これは、「楽しい気持ちでいられるような生活環境や人間関係を整えること」が、長期的な健康に良い影響を与えうることを示唆するデータといえます。ただし、「無理に前向きにならなければ」と自分を追い込むと逆効果になることもあるため、まずは小さな喜びやありがたさを見つけるところから始めるのがよいでしょう。
Q4: マインドフルネスやヨガは、どれくらい続けると効果がありますか?
A4: 代表的なプログラムであるMBSRは、通常8週間程度で、週1回のグループセッションと毎日のホームプラクティス(30〜45分程度)を組み合わせる形で実施されます10。研究では、このようなプログラムを通じてストレスや不安、うつ症状の改善、炎症マーカーやコルチゾールの低下が報告されています2。一方で、忙しい人がいきなり同じレベルで実践するのは難しいことも多いため、まずは「1日5分の呼吸瞑想」「週1回のやさしいヨガ」など、無理のない範囲から始めることが現実的です。
Q5: 仕事が忙しくてセルフケアの時間がほとんど取れません。短時間でも意味はありますか?
A5: はい、短時間でも意味があります。NCNPのセルフケア資料や「こころの耳」では、数分のマイクロブレイクや短い呼吸法・ストレッチがストレス軽減に役立つことが紹介されています411。例えば、「会議と会議の間に1分だけ深呼吸をする」「トイレに立ったついでに肩や首を回す」「寝る前3分間だけスマホを置いて呼吸に集中する」といった小さな実践でも、自律神経を整える助けになります。大切なのは、「ゼロか100か」ではなく、「少しでも自分に優しい時間をつくる」ことです。
Q6: 感情の起伏が激しくて疲れます。これは病気でしょうか?
A6: 感情の波が大きく感じられること自体は、多くの人が経験するものです。しかし、日常生活に大きな支障が出ている場合(仕事が続けられない、人間関係が破綻するほどの怒りや落ち込みが頻繁に起きるなど)は、うつ病や不安障害、場合によっては気分障害やパーソナリティの問題が関わっている可能性もあります。2週間以上つらい状態が続く、衝動的な行動を繰り返してしまうなどの場合は、早めに精神科や心療内科に相談することをおすすめします6。
Q7: ストレスチェックで「高ストレス」と判定されました。どうすればよいですか?
A7: ストレスチェック制度では、高ストレスと判定された労働者は、産業医などによる面接指導を申し出る権利があります11。まずは会社の人事・総務部門や産業医に相談し、面接指導の流れや職場環境の調整について話し合うことが大切です。また、すぐに受診に結びつかなくても、「こころの耳」などの公的ポータルサイトでセルフケア方法や相談先を確認しておくと安心です。
Q8: 眠れない夜が続きます。これも感情の問題でしょうか?
A8: ストレスや不安が続くと、眠れなくなることはよくあります。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めてしまうなどの睡眠障害は、うつ病や不安障害の症状の一部として現れることもあります34。まずは、睡眠環境や生活リズムの見直し(睡眠衛生)を行い、それでも数週間以上改善しない場合や、日中の眠気や集中力低下が強い場合は、医療機関で相談することをおすすめします。
Q9: 精神科と心療内科は何が違うのですか?
A9: 一般的には、精神科はうつ病や双極性障害、統合失調症、不安症など「心の病気」を主に扱い、心療内科(心身医療科)は胃潰瘍や高血圧、過敏性腸症候群などの身体疾患とストレス・感情の関係を含めて診る診療科とされています89。ただし、実際の診療内容は医療機関によって異なるため、ホームページや電話で「どのような症状をみているか」を確認すると安心です。どちらが適切か迷う場合は、かかりつけ医や地域の保健センターに相談し、紹介を受ける方法もあります。
Q10: 薬には頼りたくありません。感情コントロールやセルフケアだけで何とかできますか?
A10: 症状の程度によって答えは変わります。軽度〜中等度のストレス反応や抑うつ・不安であれば、睡眠・運動・マインドフルネス・カウンセリングなどの非薬物的アプローチが有効な場合も多くあります210。一方で、うつ病や双極性障害などで日常生活に大きな支障が出ている場合、薬物療法が重要な役割を果たすことも少なくありません。自己判断で薬を拒否したり中断したりせず、主治医とよく相談しながら、自分に合った治療の組み合わせ(薬+心理療法+セルフケアなど)を一緒に考えていくことが大切です。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
感情と健康の関係は、「気の持ちよう」と片づけられるような単純なものではありません。ストレスや感情の受け止め方が、自律神経・ホルモン・免疫・炎症を通じて、血圧や消化、痛み、さらには寿命にまで影響しうることが、国内外の多くの研究から示されています1210。
一方で、感情調整やポジティブ感情、マインド・ボディ介入、生活習慣の見直しといったセルフケアの実践は、決して特別な人だけのものではありません。「感情に気づく」「少しだけ考え方を変えてみる」「一日数分、呼吸やストレッチをする」「誰かに気持ちを話してみる」といった小さな一歩から始められます。
それでも、「2週間以上続く強い落ち込み」「死にたい気持ち」「検査では異常がないのに続く体の不調」などがある場合は、一人で抱え込まず、精神科や心療内科、公的な相談窓口に早めに相談することが大切です368。自分を責めるのではなく、「助けを求めることも大切なセルフケアの一つ」と考えていただければと思います。
Japanese Health(JHO)編集部は、厚生労働省や日本の専門学会、世界の査読付き論文などの信頼できる情報に基づき、日本で生活する一人ひとりが、自分と大切な人の心と体を守るために役立つ情報を今後もお届けしていきます。気になる点があれば、運営者情報ページに記載の連絡先からフィードバックをお寄せください。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。
本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
記事内容に誤りや古い情報が含まれている可能性にお気づきの場合は、お手数ですが運営者情報ページ記載の連絡先までお知らせください。事実関係を確認のうえ、必要な訂正・更新を行います。
参考文献
-
Moriarity DP, et al. A systematic review of associations between emotion regulation characteristics and inflammation. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2023. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10425218/(最終アクセス日:2025-11-25)
-
Lee J, et al. Effects of Mind–Body Interventions on Immune and Neuroendocrine Functions: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Healthcare (Basel). 2025;13(8):952. https://www.mdpi.com/2227-9032/13/8/952(最終アクセス日:2025-11-25)
-
厚生労働省. 休養・こころの健康. e-ヘルスネット. https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b3.html(最終アクセス日:2025-11-25)
-
国立精神・神経医療研究センター(NCNP). こころの健康を保つために 大切なこと/ストレスとセルフケア. https://kokoro.ncnp.go.jp/health_howtocare.php(最終アクセス日:2025-11-25)
-
厚生労働省. 精神保健医療福祉の現状等について. 精神疾患を有する総患者数の推移等. https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001374464.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
-
厚生労働省. ストレスとこころ. 若者向けメンタルヘルス情報. https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/index.html(最終アクセス日:2025-11-25)
-
国立精神・神経医療研究センター. 感情調整の方法. https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/emotion.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
-
一般社団法人 日本心身医学会. 心身症とは. https://hikumano.umin.ac.jp/PSD.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
-
MSDマニュアル家庭版. 心と体の相互作用. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/…(最終アクセス日:2025-11-25)
-
Zhang W, Han B. Positive affect and mortality risk in older adults: A meta-analysis. PsyCh Journal. 2016. https://www.researchgate.net/publication/301667787_Positive_affect_and_mortality_risk_in_older_adults_A_meta-analysis(最終アクセス日:2025-11-25)
-
厚生労働省. こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト. https://kokoro.mhlw.go.jp/(最終アクセス日:2025-11-25)
-
内閣府. 障害者白書 参考資料「障害者の状況」. https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r01hakusho/zenbun/pdf/ref2.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
-
Ku PW, et al. Physical activity and mental health: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 2024. https://ijbnpa.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12966-024-01676-6(最終アクセス日:2025-11-25)

