はじめに
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行が続く中、発熱や咳といった呼吸器症状だけでなく、さまざまな皮膚症状が報告されています。その中でも注目を集めているのが「COVIDトー」と呼ばれる症状です。赤紫色の変色や軽い痛みを伴うことが多く、無症状の感染者においても先行して確認されることがあります。皮膚の異常は患者本人が見つけやすいため、感染の早期発見に有用ではないかという指摘もあり、専門家による研究が進められています。本記事では、この「COVIDトー」の特徴や原因、治療法、そしてCOVID-19との関連が指摘される他の皮膚症状について、可能な限り詳細に解説します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事で取り上げる内容は、主に Dr. Esther Freeman(Massachusetts General Hospital, Boston)や Professor Lindy Fox(University of California, San Francisco)らが進めているCOVID-19に伴う皮膚症状の研究に基づきます。特にDr. FreemanはCOVID-19患者の皮膚症状を対象としたオンライン報告システムの構築を通じ、多種多様な事例の集積・分析を行っています。これらの専門家は「COVIDトー」をはじめとした特徴的な皮膚症状が、感染の早期発見やウイルスの免疫学的メカニズムを解明するうえで重要な手がかりとなる可能性を示唆しています。ただし本記事はあくまでも情報提供が目的であり、最終的には医師など専門家の判断が必要です。
「COVIDトー」とは何か?
「COVIDトー」とは、新型コロナウイルスに感染した一部の人々のつま先や指先に生じる特異な皮膚症状を指します。一般的には以下のような特徴があります。
- 赤紫色、またはやや青紫がかった変色が見られる
- 軽い痛みやかゆみ、熱感を伴う場合がある
- 腫れが生じ、デリケートになり、触れると痛むことがある
症状としては軽度から中程度のものが多く、重篤な合併症を引き起こす例は比較的まれです。しかし、COVID-19の感染を知らずにまず「COVIDトー」に気づくケースもあるため、感染の早期発見につながる可能性があります。
患者例:Davidさん(39歳)のケース
ある男性患者(仮名:Davidさん、39歳)は、自身のつま先が赤く腫れ上がり、歩行時に痛みを感じるほどデリケートになったと報告しています。1週間ほど続いた後、痛みと腫れは自然とおさまりましたが、並行して発熱や倦怠感などのCOVID-19の典型的な症状があったため、検査により感染が確認されました。このケースは、皮膚の異常が先行して現れる可能性を示す一例といえます。
原因は何か?
COVIDトーの原因については、未解明な部分も多いものの、専門家の間では大きく以下2つの仮説が提案されています。
- ウイルスによる炎症反応
新型コロナウイルスの侵入や免疫応答によって血管や皮膚組織が刺激され、炎症反応が起きると考えられています。特に寒冷刺激によってみられる凍瘡(しもやけ)に似た病変という指摘もあり、つま先など末端部分で血行障害が起きることが原因ではないかという見方があります。 - 血栓(血の塊)の形成
COVID-19感染者の一部で血液凝固異常が起きやすいことが知られており、末端血管に小さな血栓ができることによって発症するという仮説です。血管が詰まることで酸素供給が滞り、皮膚の変色や痛みをもたらす可能性があります。
さらに、一部の研究者や臨床医は、これら2つの要因が複合的に作用していると指摘しています。ウイルス感染に対する免疫反応で血管内皮が障害されるとともに、血液凝固異常が重なって症状を引き起こすケースも考えられるため、「一つの要因だけでは説明しきれない多面的な病態」を示唆する声が多く聞かれます。
「COVIDトー」はどのくらい一般的か?
COVIDトーが全感染者のうちどれほどの割合で起きるのかについては、まだ十分な統計データがありません。しかし、Dr. Esther Freemanが構築したオンライン報告システムには、世界各地の皮膚科医や臨床医から「COVIDトー」を疑う症例が次々と寄せられています。初期の段階では、紫色の凍瘡のような損傷例のおよそ半数がCOVIDトーと関連している可能性が指摘されていました。
特に、児童や若年層に比較的多く見られる傾向があり、軽症あるいは無症状の感染者が先に足先の皮膚変化を自覚することで受診し、その後にCOVID-19と判明するケースも確認されています。たとえばイタリアの研究では、子どもたちが「つま先が赤い」「かゆい」などと訴えたことがきっかけで検査を行い、結果的にCOVID-19陽性が判明した事例が報告されています。こうした報告は、児童や若年層における症状の早期検出の一つの指標になる可能性を示しています。
「COVIDトー」の治療法は?
COVIDトーの多くは軽度で、特別な治療を必要としないまま自然に回復するケースがほとんどです。ただし、症状が出ている間は以下の点を意識することが推奨されています。
- つま先・足全体を温かく保つ:血行を改善し、痛みや腫れの悪化を防ぐ
- 皮膚状態をこまめに観察する:変色の進行や痛みの増大がないか注意する
- 症状が長引く場合は医療機関を受診:血栓や他の感染症リスクを排除するため
もし皮膚の変色が長期にわたる、あるいは症状が深刻化する場合には、皮膚科・内科などの専門医を受診し、必要に応じてCOVID-19の検査や血液検査を受けるとよいでしょう。また、高齢者や持病がある方の場合は、より早い段階での医療連携が推奨されます。
その他のCOVID-19関連の皮膚症状
新型コロナウイルスは呼吸器症状が主な特徴として知られていましたが、感染者の報告が増えるにつれ、多種多様な皮膚症状が確認されています。以下は主な例です。
- 四肢や胴体に生じるじんましん様の発疹や腫れ
ウイルスに対する免疫反応の一環で、腕や足、胴体に発疹や腫れが出る場合があります。 - 手足や臀部における血管損傷を疑う病変
毛細血管が破壊され、出血点や紫斑として現れることがあり、血栓リスクとも関連が指摘されています。 - 壊死性皮膚炎
骨髄炎など重度の感染症を合併した患者や、基礎疾患を抱えている患者にみられることがあります。皮膚組織が壊死を起こす深刻な状態となるため、早急な医療介入が必要です。
いずれの症状も、新型コロナウイルス感染に特異的なものとは限りません。しかし、感染拡大が続く現状では、こうした異変を感じた場合にCOVID-19との関連を疑うことが、早期診断・早期治療の観点で大切です。皮膚状態の確認や問診を通じて総合的に判断できるよう、受診時には症状の経過や周囲の感染状況などを医療提供者に詳細に伝えることが望まれます。
COVID-19における皮膚症状の臨床研究・最新知見
「COVIDトー」を含む皮膚症状全般については、2020年以降、国内外の多くの研究機関や医療チームがデータを集積してきました。特に感染初期から皮膚症状が報告されていたこともあり、皮膚科領域の学会やジャーナルでは関連する症例報告や大規模なデータ分析が数多く公開されています。
実際、Journal of the American Academy of Dermatologyに2020年に掲載された国際共同研究(Freemanらによる報告)では、318人の患者を対象に「COVIDトー」に類似した凍瘡様病変が多く観察されたことが報告されました(Freeman EE, McMahon DE, Lipoff JB, et al. 2020, J Am Acad Dermatol, 83(2):486-492, doi:10.1016/j.jaad.2020.05.109)。これは8か国にまたがる症例の集計であり、皮膚症状の発生頻度が決して低くないことを示唆しています。
同じく2020年にJournal of the American Academy of Dermatologyで公表されたさらに大規模な研究(716名、31か国の患者を対象)では、凍瘡様病変だけではなく、じんましん様の皮疹や水疱性の皮疹など、多岐にわたる皮膚所見が検出されました(Freeman EE, McMahon DE, Lipoff JB, et al. 2020, J Am Acad Dermatol, 83(4):1118-1129, doi:10.1016/j.jaad.2020.06.101)。これらの報告はいずれも、免疫や炎症、血液凝固の複合的な異常がCOVID-19と密接な関連を持ち得ることを強く示唆しています。
2021年以降も欧米やアジア各国でさらなる追跡研究やメタアナリシスが進められており、特に若年層やワクチン接種との関連を調査する報告が目立ち始めています。日本国内でも感染者数の増加に伴って、皮膚科・感染症専門医が共同で事例収集を行う動きが加速しており、今後より詳細な疫学データが蓄積されることが期待されます。
COVID-19と皮膚症状のメカニズム:考えられるシナリオ
COVID-19における皮膚症状がどのように発症するのかについては、以下のようなメカニズムが推測されています。
- 免疫反応の過剰活性化
SARS-CoV-2に対抗するために、体内の免疫システムが過剰に活性化することがあります。インターロイキンなど炎症性サイトカインの増加は、血管や皮膚組織を含む全身の多様な組織にダメージを引き起こし、発疹や変色などの症状をもたらすと考えられます。 - 血液凝固の異常
一部の重症例で血液凝固異常がみられるように、微小血管レベルで血栓が生じやすくなる場合があります。特に末端部の細い血管が詰まることで、皮膚の変色や浮腫が起こりやすくなると推測されています。 - ウイルスの直接的な影響
ウイルス自体が皮膚や毛細血管に直接侵入したり、細胞受容体に結合することにより局所的な炎症が生じるケースがあるかもしれません。この点についてはまだ研究段階であり、確たる結論は得られていません。
国内における状況と注意点
日本国内においても、COVIDトーやその他の皮膚症状が臨床現場で報告されています。症状自体は軽度が多いとはいえ、感染の可能性を早期に察知するための重要な兆候となる場合があります。特に、以下のような状況が重なる人は、皮膚状態の観察に注意を払うことが推奨されます。
- 周囲に感染者や濃厚接触者がいる
- 軽度の発熱や倦怠感など呼吸器以外の症状がある
- ワクチン接種後に異常な皮膚症状が出現した
- 基礎疾患を抱えており、免疫状態が不安定
日本の場合、皮膚症状が出た際にはまず皮膚科か一般内科を受診し、必要に応じてPCR検査や抗原検査を行う流れになります。2024年現在、ワクチン接種者も多い状況ですが、ワクチンによる免疫反応と感染による反応を切り分けて診断するためにも、専門医の判断が欠かせません。
日常生活での予防・対策
COVID-19に伴う皮膚症状を完全に防ぐことは難しいですが、以下のような日常生活での対策がウイルス感染や症状の重症化を防ぐ上で効果的とされています。
- 手指消毒、マスク着用、三密回避
呼吸器系だけでなく、皮膚など他の部位の感染リスクを下げるためにも基本的な感染対策は重要です。 - 定期的な保湿
皮膚バリアの機能を維持するために、保湿剤やローションをこまめに使用して皮膚を乾燥から守ることが推奨されます。乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、炎症反応が起こりやすくなります。 - 健康的な生活習慣
バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠は免疫機能の維持に欠かせません。特に日本の食生活では、野菜や魚、大豆製品などの豊富な栄養素が多くの研究で肯定的に評価されています。免疫力の向上を目的に、過剰なサプリメント摂取などをする前に、できるかぎり自然な食品からの摂取を心がけることが推奨されています。 - 寒冷刺激への注意
COVIDトーは凍瘡(しもやけ)に似た病態をとることがあるため、冬季や寒冷地では末端を冷やしすぎないように手袋や靴下などで保温を意識するとともに、血行を促す軽いマッサージなども有効とされています。
医療現場からの提言
COVIDトーのような目視で把握しやすい皮膚症状は、感染の兆候を早期に見つけるための一助となり得ます。医療現場からは、以下のような点が提言されています。
- 症状を自己観察し、早期に受診する重要性
無症状・軽症と油断せず、いつもと違う皮膚変化が見られたら念のため受診を検討することが推奨されます。 - 基礎疾患がある方や高齢者への注意喚起
血液凝固異常を引き起こしやすい糖尿病や高血圧などの持病がある人は、わずかな皮膚症状も見逃さないことが大切です。 - PCR検査や血液検査との併用
皮膚症状からCOVID-19を疑った場合、呼吸器症状がなくても検査を行うことで感染の広がりを防ぐことにつながります。
今後の研究課題
COVID-19は依然として変異株が出現しており、ウイルスの性質や病態の変化に伴って新たな皮膚症状が確認される可能性もあります。今後の研究課題としては以下の点が挙げられます。
- 大規模な疫学調査の実施
日本を含む各国で、皮膚症状の発生頻度や病態を網羅的に評価し、正確なデータを取得することが急務です。 - 症例報告の集積と多職種連携
皮膚科だけでなく、内科や救急科、基礎研究者との連携を進めて症例を集積し、より包括的にCOVID-19と皮膚症状の関連を探究する必要があります。 - ワクチンとの関連性の解明
ワクチン接種後に生じる凍瘡様病変などの報告もあり、ワクチンによる免疫応答とCOVID-19による病態がどのように重なるかを解明する研究が進められています。
推奨される受診と検査
COVIDトーやその他の皮膚症状が疑われる場合、以下のステップで受診・検査を検討することが一般的です。
- 皮膚科または一般内科を受診する
最初に皮膚症状を見せることができる皮膚科、あるいは総合的な判断が可能な一般内科で相談するとよいでしょう。 - 問診・視診
症状の出現時期、悪化や変化のパターン、周囲の感染状況など詳細を伝えることで、医師がCOVID-19との関連性を推測しやすくなります。 - 必要な検査の実施
医師がCOVID-19の疑いがあると判断した場合、PCR検査や抗原検査、抗体検査のほか、念のため血栓リスクを調べるための血液検査を実施する場合もあります。
まとめと注意喚起
COVID-19によってもたらされる影響は呼吸器症状にとどまらず、皮膚症状も多彩であることが徐々に明らかになってきました。とりわけ「COVIDトー」は、ウイルス感染を早期に疑う手がかりとして専門家からも注目されています。多くの場合は自然治癒に向かう軽度の症状ですが、特に寒冷刺激や血行障害が重なると悪化する可能性もあるため、体の末端の皮膚変化は見逃さないようにしましょう。
- 症状が続く・進行する場合は早めに医療機関を受診
- 基礎疾患を抱えている場合はとくに注意し、早期相談を心がける
- 皮膚症状だけでなく、発熱や倦怠感がある場合はPCR検査や医師の判断が必要
本記事で紹介した情報は、国内外の研究報告や専門家の知見をもとにまとめたものですが、あくまでも一般的な参考資料です。実際に不安がある場合や症状が続く場合は、専門医に相談し、必要に応じて検査や治療を受けるようにしてください。
免責事項と医師への相談の重要性
本記事で取り上げている内容は、新型コロナウイルスに伴うさまざまな皮膚症状の傾向や仮説に基づく情報提供であり、医学的アドバイスとして確定的に示すものではありません。症状や対策は個人差が大きく、実際の診断や治療方針は医師や医療専門家による判断が必要です。自己判断のみで放置したり、独自の治療を試みたりすることはリスクを伴います。必ず専門医に相談し、正しい診断と指示を受けるようにしてください。
参考文献
- What are ‘COVID toes’? Dermatologists, podiatrists share strange findings.(アクセス日:2020年4月26日)
- What Are ‘COVID Toes’? Dermatologists Say Foot Lesions May Be New Coronavirus Symptom.(アクセス日:2020年4月26日)
- ‘COVID toes’ might be the latest unusual sign that people are infected with the novel coronavirus.(アクセス日:2020年4月26日)
- Freeman EE, McMahon DE, Lipoff JB, et al. “Pernio-like skin lesions associated with COVID-19: A case series of 318 patients from 8 countries.” J Am Acad Dermatol. 2020;83(2):486-492. doi:10.1016/j.jaad.2020.05.109
- Freeman EE, McMahon DE, Lipoff JB, et al. “The spectrum of COVID-19–associated dermatologic manifestations: An international registry of 716 patients from 31 countries.” J Am Acad Dermatol. 2020;83(4):1118-1129. doi:10.1016/j.jaad.2020.06.101
本記事の情報は一般的な知見や研究結果に基づくものであり、症状のある方は医療専門家への相談を強く推奨いたします。