「皮膚がんと言われてしまった。手術と聞くだけで怖いし、放射線治療や免疫療法もあると説明されたけれど、正直何がどう違うのかよくわからない……」。こうした不安や戸惑いを抱えたまま、誰にも相談できずにインターネットで情報を探している方は少なくありません。
日本では、皮膚がんの多くは早期に見つかれば手術で完治を目指せる病気とされています。一方で、メラノーマ(悪性黒色腫)のように放置すると全身に広がり命に関わるタイプもあり、「どの治療を選ぶか」がその後の人生に大きな影響を与えます。にもかかわらず、治療法の名前だけを聞いても、具体的にどんな治療で、どれくらい効果があり、どんな副作用や生活への影響があるのかまでイメージするのは簡単ではありません。
本記事では、国立がん研究センターがん情報サービスや日本皮膚悪性腫瘍学会の「皮膚がん診療ガイドライン第4版」、日本癌治療学会のガイドライン、米国国立がん研究所(NCI)のPDQ®、Cochraneレビュー、NEJM掲載の大規模臨床試験など、国内外の信頼できる情報源に基づき1–14、日本で受けられる皮膚がん治療の全体像をわかりやすく整理します。
基底細胞がん(BCC)、有棘細胞がん(cSCC)、メラノーマという代表的な皮膚がんの違いから、手術、モーズ(Mohs)顕微鏡手術、放射線治療、外用薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、光線力学療法(PDT)といった主な治療のメリット・デメリット、そして治療後のフォローアップや再発予防までを、できるだけ専門用語をかみ砕いて解説します。
「自分や家族にとって、どんな治療の組み合わせが現実的なのか」「高齢の親に手術は負担が大きすぎないか」「免疫療法と分子標的薬はどちらを選べばよいのか」といった現実的な悩みにも触れながら、主治医と話し合う際に役立つポイントを整理していきます。読み終えたときに、「今の自分の状態をどう捉え、次に何を確認すればいいのか」が少しでもクリアになることを目指しています。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、国立がん研究センターがん情報サービス、国立がん研究センターがん統計、国立がん研究センター希少がんセンター、日本皮膚科学会・日本皮膚悪性腫瘍学会の「皮膚がん診療ガイドライン第3版・第4版」、日本癌治療学会(JSCO)のメラノーマ診療ガイドライン、米国国立がん研究所(NCI)のPDQ®日本語版、世界保健機関(WHO)のがん関連ファクトシート、Cochraneレビュー、New England Journal of Medicine(NEJM)などの一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています1–14。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:国立がん研究センターの統計・がん情報サービス・希少がんセンターなど、日本人向けの公式情報を優先して参照しています1,2,3,4,14。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本皮膚悪性腫瘍学会「皮膚がん診療ガイドライン第3版・第4版」、日本癌治療学会ガイドライン、米国NCIのPDQ®、Cochraneレビュー、NEJMなど、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています5–11,13。
- 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:大学病院やがん専門病院の患者向け解説ページを参考にし、日本の医療現場で実際に行われている検査や治療の流れを具体的に説明しています12。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
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要点まとめ
- 日本では、皮膚がん全体としての5年相対生存率は約94.6%と高く、国立がん研究センターの統計でも「早期に見つかれば多くが治癒を目指せるがん」であることが示されています1。
- 皮膚がんといっても、基底細胞がん(BCC)、有棘細胞がん(cSCC)、メラノーマ(悪性黒色腫)などいくつかのタイプがあり、悪性度や転移のしやすさ、標準的な治療方針が大きく異なります2–4。
- 治療の基本は「まずは手術でしっかり取り切る」ことであり、腫瘍の種類・ステージ(病期)・できた場所・年齢・持病などを総合的にみながら、形成外科や皮膚科、腫瘍内科、放射線治療科など複数の診療科が連携して治療方針を決めます5–9,12。
- 進行・再発症例では、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブなど)や分子標的薬(BRAF/MEK阻害薬、Hedgehog阻害薬など)が標準治療として用いられ、生存期間や再発リスクの低下に明確な効果があることが大規模臨床試験で示されています6–8,10,11。
- 一方で、どの治療にも副作用や生活への影響があり、「どれが一番安全・楽」という単純な答えはありません。自分の価値観(仕事、外見、妊娠の希望など)と、科学的な根拠をもとに、主治医と一緒に治療を選ぶことが大切です。
- 治療後も、タイプやステージに応じた定期的なフォローアップと、紫外線対策や自己チェックを続けることで、再発や新たな皮膚がんの早期発見につながります2–4,9。
「皮膚がん」と聞くと、多くの方がまず「命に関わるのか」「どれくらいで悪くなるのか」「仕事や家事、子育ては続けられるのか」といった不安を抱きます。特に日本では、顔や手といった人目につきやすい場所にできることも多く、「手術すると顔が大きく変わってしまうのではないか」「傷あとが残るのではないか」といった外見に関する悩みも強くなりがちです。
この記事では、まず第1部で皮膚がんの種類や基本的な仕組み、紫外線や生活習慣との関係など、「そもそもなぜ皮膚がんになるのか」を整理します。次に、第2部・第3部で、具体的な治療法ごとのポイントと、皮膚がんのタイプ別・ステージ別の標準的な治療の流れを説明します。そのうえで、第4部以降では、治療後の日常生活、仕事や妊娠、メンタルヘルスへの影響、再発予防のために今日からできることをまとめていきます。
なお、本記事はあくまで一般的な情報提供であり、個々の診断・治療方針は必ず担当の医療機関でご確認ください。そのうえで、国立がん研究センターのがん情報サービス2–4,14や、日本皮膚悪性腫瘍学会が公開するガイドライン案内ページ10なども併せて確認すると、より体系的に理解しやすくなります。
読み進めていただくことで、「自分の状態はどのタイプに近いのか」「主治医に何を質問するとよいか」「治療を迷ったときにどんな選択肢があるのか」が段階的にイメージできるようになることを目指しています。
第1部:皮膚がんの基本と日常生活の見直し
皮膚がんという言葉を聞くと、多くの方がまず「黒いホクロのようなもの」「シミのようなもの」を思い浮かべます。しかし、実際には複数のタイプがあり、それぞれできやすい場所や見た目、進行のスピード、治療方法が異なります2–4。この第1部では、皮膚がんの種類や原因、セルフチェックのポイントを整理し、日常生活で気をつけたいことを確認していきます。
1.1. 皮膚がんの種類と良性のホクロとの違い
国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本でよくみられる皮膚がんには、主に次の3つがあります2–4。
- 基底細胞がん(基底細胞癌:Basal cell carcinoma, BCC):皮膚の一番深い表皮基底層の細胞から発生するがんで、日本を含む世界で最も頻度の高い皮膚がんです。ゆっくりと増殖し、遠くの臓器に転移することは非常にまれですが、放置すると周囲の組織(鼻や耳の軟骨、眼の周りの骨など)をじわじわと破壊してしまいます。
- 有棘細胞がん(有棘細胞癌:Cutaneous squamous cell carcinoma, cSCC):表皮の中層にある有棘細胞から発生するがんで、日光に当たりやすい顔や手の甲、耳、頭皮などにできることが多いとされています6,7。基底細胞がんよりも転移しやすく、リンパ節や内臓に広がることがあります。
- メラノーマ(悪性黒色腫:Melanoma):メラニンを作るメラノサイトという細胞ががん化したもので、「ホクロのがん」とも呼ばれます。日本では欧米に比べて発生率は低いものの、一度進行すると全身に転移しやすく、命に関わることが多い「悪性度の高い皮膚がん」です4,8,11。
一方、一般的なホクロ(母斑)やシミ(色素斑)は良性の変化であり、多くの場合はがんではありません。ただし、最初は小さなシミのように見えていても、あとからがんであることがわかるケースもあります。そのため、「これはホクロだから大丈夫」と自己判断するのではなく、形や色、サイズ、変化のスピードに注意して観察することが大切です。
特にメラノーマでは、ABCDEルールと呼ばれるセルフチェックの目安が世界的に使用されています8。
- A:Asymmetry(左右非対称)……左右に折りたたんだときに形が合わない。
- B:Border(境界の不整)……輪郭がギザギザしていたり、ぼやけている。
- C:Color(色の不均一)……黒・茶・赤・白・青など、複数の色が混ざっている。
- D:Diameter(大きさ)……直径が6mm以上、あるいは短期間で急に大きくなっている。
- E:Evolving(変化)……形や色、盛り上がり方が数ヶ月の間に変わってきている。
爪の下にできる「爪のメラノーマ」は、黒い線が一本だけではなく、だんだん幅が広がったり、爪の根元の皮膚まで色が広がってくる(ハッチンソン徴候)ことが特徴とされています8。マニキュアやジェルネイルが原因と思い込んで様子を見てしまう方もいますが、「数ヶ月以上続く黒い線」「幅が広がる線」は自己判断せず、早めに皮膚科で相談しましょう。
1.2. 日本における皮膚がんの現状と日常生活との関わり
国立がん研究センターがん統計によると、日本における皮膚がんの新規罹患数は2021年時点で25,018例、2023年の死亡数は1,861人と報告されています1。年齢調整罹患率は人口10万人あたり約19.9人で、欧米の白人が多い国に比べると低いものの、少しずつ増加傾向にあるとされています1,9。
皮膚がん全体の5年相対生存率は約94.6%と高く、「早期に見つかり適切に治療されれば、多くは治癒を目指せるがん」であることが統計からも示されています1,14。ただし、これはあくまで全体の平均であり、メラノーマの進行例など一部のタイプでは予後が厳しいケースもあるため、「自分の病名とステージ(病期)」を把握することが重要です4,5,8,11。
日常生活との関係で特に重要なのが、紫外線(UV)への曝露です。世界保健機関(WHO)や各種研究では、強い日焼けを繰り返すことがメラノーマや他の皮膚がんのリスクを高めることが報告されています9。屋外での仕事(農業、建設業など)やレジャー(ゴルフ、釣り、登山など)が多い方、子どものころに強い日焼けを繰り返した経験がある方は、特に注意が必要です。
また、免疫が弱くなっている方(臓器移植後で免疫抑制剤を使っている方、長期ステロイド内服中の方、HIV感染症の方など)は、一般の人よりも皮膚がんのリスクが高くなることが知られています5,9,10。こうした方は、定期的に皮膚科で全身の皮膚をチェックしてもらうことが推奨されます。
1.3. セルフチェックと「赤信号」のサイン
皮膚がんを早期に見つけるためには、日常的なセルフチェックがとても役立ちます。鏡を使って顔や首、腕、胸、おなか、背中、脚、足の裏、爪などを定期的に観察し、「以前と比べて変わったところはないか」を確認してみましょう2–4,9。
特に、次のようなサインがあれば「赤信号」の一つと考え、早めに皮膚科を受診することが勧められています。
- 2〜3ヶ月の間に急に大きくなってきたホクロやシミがある。
- 形がいびつで左右非対称、色がまだら、境界がギザギザしている黒い斑点がある。
- かさぶたのようなものがいつまでも取れず、じくじくと出血や浸出液が続く傷がある。
- 以前からある傷跡ややけどの跡、放射線治療を受けた部位の皮膚が、最近硬く盛り上がってきた、あるいは潰瘍になってきた。
- 爪の下に黒い線が現れ、それが数ヶ月の間に幅が広がったり、爪の根元の皮膚まで広がってきている。
こうした所見があっても必ずしも皮膚がんとは限りませんが、「放置して自然に良くなる」ということは少なく、むしろ時間とともに悪くなる可能性があります。特に、治らない傷や出血を繰り返す皮膚の変化は、がんだけでなく糖尿病や血管の病気などが隠れている場合もあるため、「様子を見る」よりも一度専門家に相談した方が安心です。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 数ヶ月のあいだに急に大きくなってきた黒いホクロがある | メラノーマなどの皮膚がんの可能性、紫外線曝露の影響 など |
| いつまでも治らない傷や、じくじくと出血を繰り返すかさぶたがある | 有棘細胞がん、基底細胞がん、糖尿病や血管障害による慢性潰瘍 など |
| 爪の下に黒い線が現れ、少しずつ幅が広がっている | 爪のメラノーマ(悪性黒色腫)や他の色素異常 |
| 古いやけど・手術跡が最近硬く盛り上がり、表面がただれてきた | 瘢痕部位からの有棘細胞がん、慢性炎症の悪化 |
第2部:身体の内部要因と病期 — 診断・検査でわかること
皮膚がんかどうか、またどの程度進行しているかは、見た目だけで完全に判断することはできません。皮膚科や形成外科では、ダーモスコピーという拡大鏡を使った観察や、実際に組織の一部を取って顕微鏡で調べる「生検」、さらに必要に応じて画像検査を行い、病期(ステージ)を決めていきます2–4,5,6,12。
2.1. ダーモスコピー・生検・病理検査
ダーモスコピーとは、皮膚表面を拡大して観察できる特殊なルーペのような器具で、皮膚の中の血管や色素のパターンを詳しく見ることができます5,6。通常の肉眼診察ではわかりにくい細かな特徴が見えるため、「良性のホクロか、メラノーマの疑いがあるのか」「基底細胞がんや有棘細胞がんを疑う所見があるか」といった初期の判断に役立ちます。
ただし、最終的に「がんである」と確定するには、病理検査が必要です。病理検査では、局所麻酔をして皮膚の一部(あるいは小さい病変であれば全部)を切り取り、それを病理医が顕微鏡で詳しく観察します5–7。細胞の形や並び方、深さなどをもとに、どのタイプの皮膚がんなのか、悪性度はどの程度かが評価されます。
「生検」と聞くと、「がん細胞を刺激して広がってしまうのでは?」と不安に思う方もいますが、日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドラインや国立がん研究センターの情報では、適切な方法で行われる皮膚生検ががんを広げるという根拠は乏しいとされています5–7。むしろ、生検をためらって診断が遅れることの方が、進行を許してしまうリスクが高いと考えられています。
2.2. 画像検査・リンパ節の評価・ステージ分類
皮膚がんと診断されたあと、「どこまで広がっているか」を調べるために、超音波検査やCT、MRI、PET-CTなどの画像検査が行われることがあります5–8,11,12。特に有棘細胞がんやメラノーマでは、リンパ節や他の臓器への転移の有無を調べることが重要です。
メラノーマや一部の高リスク有棘細胞がんでは、「センチネルリンパ節生検」と呼ばれる検査が推奨されることがあります5,6,8,11。これは、腫瘍から最初にリンパ流が流れ込む「見張り」のリンパ節(センチネルリンパ節)を同定し、そのリンパ節だけを手術で取り出して病理検査を行う方法です。センチネルリンパ節にがん細胞が見つかった場合、さらに広いリンパ節郭清(複数のリンパ節を取る手術)や全身治療を検討します。
病期(ステージ)は、腫瘍の大きさや深さ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無をもとに、国際的なTNM分類(AJCC分類など)に従って決められます5–8。ステージIやIIは主に局所の皮膚にとどまる早期、ステージIIIはリンパ節への転移がある状態、ステージIVは肺や肝臓など遠くの臓器に転移した状態といった目安があります。
同じ「メラノーマ」という診断名でも、ステージIとステージIVでは治療の内容も予後も大きく異なります。そのため、「自分は何期なのか」「リンパ節や他の臓器に転移があるのか」を主治医に確認しておくと、治療方針の説明が理解しやすくなります。
2.3. 皮膚がんになりやすい背景:紫外線・免疫・遺伝など
皮膚がんの原因は一つではありませんが、多くの研究で共通して指摘されているのが「紫外線(UV)によるDNA損傷」です。長年にわたって太陽光や日焼けマシンからのUVを浴び続けると、皮膚の細胞に少しずつDNAの傷が蓄積し、その一部ががん化につながると考えられています5,9,10。
また、免疫の働きが弱くなっている人では、がん細胞を早期に排除する力が落ちてしまい、皮膚がんができやすく、再発もしやすいことが知られています。臓器移植後で免疫抑制剤を使っている方や、長期ステロイド治療中の方、HIV感染症の方などがこれに当たります5,9,10。
そのほかにも、やけどや外傷のあとにできた瘢痕(傷跡)、放射線治療を受けた皮膚の部位、慢性的に炎症を繰り返している傷などは、有棘細胞がんが発生しやすい部位とされています6,7。長年同じ場所がヒリヒリしていたり、硬く盛り上がってきた場合は、皮膚科でのチェックが勧められます。
第3部:皮膚がん治療の基本的な考え方と主要な治療法
日本皮膚悪性腫瘍学会の「皮膚がん診療ガイドライン第4版」や、日本癌治療学会のガイドラインでは、皮膚がん治療の基本方針として「まずは外科的切除で完全切除を目指す」ことが示されています5–8,11。ただし、腫瘍のタイプや場所、患者さんの年齢や持病、生活背景によっては、放射線治療や薬物療法を優先したり組み合わせたりすることがあります。
この第3部では、手術療法、放射線治療、外用療法、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、分子標的薬、光線力学療法(PDT)などの特徴を整理し、「どのような場面で選ばれやすいのか」「メリット・デメリットは何か」を具体的に見ていきます。
3.1. 外科的切除(通常の手術)と再建
多くの皮膚がんでは、局所麻酔(必要に応じて全身麻酔)で腫瘍よりもひとまわり大きく皮膚を切り取る「外科的切除」が標準治療とされています5–7,12。このとき、がんが取り残されないように、腫瘍の周囲に一定の「安全域」をつけて切除します。安全域の広さは、がんの種類や大きさ、深さによって異なり、ガイドラインで目安が示されています。
切除したあとにできる欠損部分は、そのまま縫い寄せることもあれば、皮膚をずらして寄せる「皮弁」や、別の場所から皮膚を薄く採取して移植する「植皮」で再建することもあります12。顔や手など目立つ部位では、形成外科が中心となって、機能と見た目のバランスを考えながら再建方法を検討します。
Cochraneレビューでは、基底細胞がんに対する通常の外科的切除術は、他の治療法と比べて再発率が低く、長期的な治療成績が良いことが報告されています3。一方で、切除範囲が広くなると、傷あとが目立ったり、関節の近くでは動かしづらくなるといった機能面への影響も出てくるため、どこまで安全域を取るかは、再発リスクと整容性のバランスを見ながら判断されます5–7,12。
3.2. モーズ(Mohs)顕微鏡手術
モーズ顕微鏡手術は、腫瘍を薄い層ごとに少しずつ切り取り、その都度、顕微鏡でがん細胞が残っていないかを確認しながら進めていく方法です5–7。特に、目や鼻、耳、口の周り、指先など、「なるべく健康な皮膚を多く残したいが、確実にがんは取り切りたい」という部位で用いられることが多いとされています。
Cochraneレビューによると、ハイリスクの基底細胞がんに対してモーズ手術を行った場合、5年再発率は約3.2%、通常の外科的切除術では約5.2%であり、絶対リスク減少は約2%(NNTはおおよそ50)と報告されています3。統計学的には大きな差とは言えないものの、再発が許されない顔面の重要な部位では、モーズ手術の価値が高いと考えられます。
ただし、モーズ手術は特殊な設備と経験が必要であり、実施できる医療機関は限られています5–7,12。また、顕微鏡で確認しながら少しずつ切除していくため、手術時間が長くなる場合があります。「モーズ手術がいいと聞いたけれど、近くに実施している病院がない」という場合には、転院を含めた選択肢や、通常の切除+丁寧な再建でどこまで整容性を保てるかを、主治医と相談するとよいでしょう。
3.3. 凍結療法・掻爬術・シェービング
比較的浅い皮膚がんや前がん病変では、液体窒素で病変部を凍らせて壊死させる「凍結療法」や、鋭匙(きゅうさじ)で病変を掻き取る「掻爬術(キュレッタージ)」、皮膚表面をそぎ取る「シェービング」といった比較的侵襲の少ない治療が用いられることがあります2–4,5–7,12。
これらの治療は、局所麻酔あるいは麻酔なしで短時間に行える一方で、通常の外科的切除に比べて再発率がやや高い傾向があります3。そのため、腫瘍のタイプや大きさ、再発した場合のリスクを踏まえて、「少しでも確実性を重視するか」「傷あとを小さくすることを優先するか」を医師と話し合うことが大切です。
3.4. 放射線治療(外照射)
放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を腫瘍に照射し、がん細胞のDNAを傷つけて増殖できないようにする治療法です2–4,5–7,12。高齢で手術の麻酔リスクが高い方や、心臓・肺などの持病がある方、顔面など手術による変形を避けたい部位にできた皮膚がんなどで、選択肢となることがあります。
Cochraneレビューでは、顔面の基底細胞がんに対する外科的切除と放射線治療を比較したランダム化試験で、4年再発率は手術群0.6%に対し、放射線群6.4%と報告されています3。再発リスクという点では、手術の方が優れていると考えられますが、放射線治療は出血や縫合といった「手術特有の負担」がなく、通院で行えることが多い点がメリットです。
一方で、放射線照射部位の皮膚が赤くなったり(急性期)、数ヶ月〜数年単位で色素沈着、乾燥、硬化などの変化が残る可能性があります。また、非常に長期的には照射部位に「二次がん」のリスクがわずかに上がることも指摘されています2–4,5–7。高齢者ではこのリスクは比較的小さいと考えられていますが、若い世代での照射は慎重に検討されます。
3.5. 外用療法(5-FU・イミキモドなど)と従来型化学療法
表在性(浅い)基底細胞がんや、光線性角化症といった前がん病変では、5-フルオロウラシル(5-FU)やイミキモド、ジクロフェナクなどの外用薬が用いられることがあります2–4,3,5。これらは皮膚表面から薬を塗り込むことで、異常な細胞にダメージを与えたり、免疫を活性化させる治療です。
Cochraneレビューによると、浅い基底細胞がんに対してイミキモドを用いた場合、3〜5年後の再発率は17.5%であり、外科的切除の2.3%と比べて高いことが報告されています3。絶対的な再発リスク増加は約15%であり、NNT(Number Needed to Harm:治療法を変えることで追加の再発が1件生じる人数)は約6〜7と推計されています。つまり、「傷あとを小さくしたい」「手術を避けたい」といった希望がある場合に候補となるものの、再発リスクは明らかに高くなるため、慎重な選択が必要です。
かつては、進行メラノーマに対してダカルバジンなどの従来型化学療法が使用されていましたが、現在では免疫チェックポイント阻害薬やBRAF/MEK阻害薬に比べて効果が劣ることが示されており、多くのガイドラインで第一選択からは外れています5–8,11。
3.6. 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
免疫チェックポイント阻害薬とは、私たちの免疫ががん細胞を攻撃しやすくなるように働く薬です。がん細胞は「ブレーキ役」の分子(PD-1、PD-L1、CTLA-4など)を利用して免疫から逃れようとしますが、免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを解除し、がんに対する免疫反応を高めます5–8,10,11。
代表的な薬剤として、PD-1阻害薬のニボルマブやペムブロリズマブ、CTLA-4阻害薬のイピリムマブがあります。進行・再発メラノーマに対する大規模臨床試験(KEYNOTE-006、CheckMate 067など)では、従来のイピリムマブ単剤と比べて、ペムブロリズマブやニボルマブ単剤、あるいはニボルマブ+イピリムマブ併用療法が、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが示されました4,6,7,10,11。
例えば、KEYNOTE-006試験では、進行メラノーマの患者さんにおいて、12ヶ月時点の全生存率はペムブロリズマブ群で約74.1%、イピリムマブ群で約58.2%と報告されており、絶対リスク差約16%、NNTはおおよそ6〜7と推定されています4。CheckMate 067試験の10年追跡では、ニボルマブ+イピリムマブ併用群の約37%が10年時点で生存していたと報告され、従来の治療と比べて長期生存の可能性が大きく伸びたことが示されています6。
一方で、免疫チェックポイント阻害薬は、免疫を強く刺激するがゆえに、「免疫関連有害事象(irAE)」と呼ばれる副作用を起こすことがあります。代表的なものには、大腸炎による下痢・血便、肺炎による息切れ・咳、甲状腺や下垂体の炎症によるホルモン異常、皮疹・かゆみ、肝機能障害などがあり、重症化する場合は速やかな治療中止とステロイドなどによる免疫抑制が必要になります5–8,10,11。
「効けば長く効く薬」でもある一方、「誰にどれくらい効くか」は患者さんごとに異なり、効果が乏しいケースも存在します。そのため、ガイドラインでは、腫瘍の状態や以前の治療歴、BRAF変異の有無、全身状態などを総合的に見て、「どのICIを、単剤か併用か」で用いるかを検討することが推奨されています8,11。
3.7. 分子標的薬(BRAF/MEK阻害薬・Hedgehog阻害薬など)
分子標的薬とは、がん細胞の増殖に関わる特定の分子(シグナル伝達経路)をピンポイントで狙う薬です。メラノーマでは、BRAFという遺伝子のV600変異がある患者さんに対して、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が標準治療の一つとなっています7,8,10,11。
NEJMに報告された臨床試験では、BRAF V600E/K変異を有する進行メラノーマに対して、ダブラフェニブ+トラメチニブなどのBRAF/MEK併用療法を行うと、BRAF阻害薬単剤に比べて無増悪生存期間や全生存期間が有意に延長し、相対的な進行リスクが約25%低下したとされています7,8。5年全生存率は約34%と報告され、免疫チェックポイント阻害薬と並ぶ重要な治療選択肢です。
一方で、発熱や悪寒、疲労感、皮疹、関節痛、心機能への影響などの副作用も少なくありません7,8,11。特に発熱は比較的よくみられ、対策として一時的に休薬したり、解熱剤を併用したりすることがあります。
基底細胞がんの中でも、手術や放射線治療が難しい進行・再発例に対しては、Hedgehogシグナル経路を標的とした分子標的薬(Hedgehog阻害薬)が用いられることがあります5,9。これらは腫瘍の縮小に有効な一方で、味覚異常や脱毛、筋肉痛などの副作用があり、長期にわたる内服が必要になることもあるため、生活への影響をよく理解したうえで治療を続けていくことが大切です。
3.8. 光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)などの局所治療
光線力学療法(PDT)は、腫瘍に集まりやすい光感受性物質を皮膚に塗布または投与したあと、特定の波長の光を照射してその物質を活性化させ、がん細胞を選択的に壊す治療法です2–4,3。特に、光線性角化症や浅在性の基底細胞がんなど、比較的浅い病変に対して用いられることがあります。
PDTは、手術に比べて傷あとが目立ちにくく、広い範囲を一度に治療できるというメリットがありますが、照射中や照射後に強い痛みを感じる方もいます。また、治療後数日〜数週間は光に対して非常に敏感になるため、屋外活動を制限したり、室内でもカーテンを引いて過ごす必要があります2–4。
第4部:タイプ別・ステージ別にみた治療選択とメリット・デメリット
ここからは、「自分の病名やステージに応じて、どのような治療が一般的に選ばれやすいのか」を、皮膚がんのタイプ別に整理していきます。実際の治療方針は、ガイドラインに沿いつつも、患者さん一人ひとりの状態や希望によって調整されますので、あくまで「典型的な流れ」として参考にしてください5–8,11。
4.1. 基底細胞がん(BCC)の治療アルゴリズム
日本皮膚悪性腫瘍学会の「皮膚がん診療ガイドライン第4版:基底細胞癌」では、基底細胞がんの第一選択は外科的切除であり、多くの症例で手術だけで治癒が期待できると示されています5,9。特に、体幹や四肢の小さな病変では、局所麻酔で比較的簡便に切除できることが多いとされています。
顔面や耳、鼻、まぶたなど目立つ部位や、再発症例、境界が不明瞭な病変では、モーズ顕微鏡手術が検討されます5–7。ただし実施できる施設が限られるため、「モーズ手術が難しい場合は、通常の切除+形成外科的再建」「放射線治療やPDT、外用療法の組み合わせ」など、いくつかの選択肢が提案されることがあります。
手術や放射線が難しい進行・再発BCCでは、Hedgehog阻害薬による全身療法が候補となります5,9。この場合、効果と副作用、治療期間や通院の負担を総合的に判断して、「どこまで病勢コントロールを目指すか」を主治医と話し合うことが重要です。
4.2. 有棘細胞がん(cSCC)の治療とリンパ節転移リスク
有棘細胞がんは、基底細胞がんと比べてリンパ節や臓器への転移リスクが高く、特に大きな腫瘍、深く浸潤している腫瘍、耳や唇など高リスク部位にできた腫瘍、免疫抑制状態にある患者さんでは、注意が必要とされています6,7。
日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドライン第4版では、原発巣に対しては外科的切除が基本であり、腫瘍径や深さに応じて広めの安全域をとることが推奨されています7。リンパ節転移が疑われる場合には、画像検査や穿刺吸引細胞診、場合によってはリンパ節郭清が行われます。
手術が難しい場合や、切除後の局所再発リスクが高い場合には、放射線治療が併用されることがあります6,7,12。また、近年では、進行または切除不能な有棘細胞がんに対して、PD-1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬が有効であることが示され、日本のガイドラインでも治療選択肢として位置付けられています7,10,11。
4.3. メラノーマ(悪性黒色腫)のステージ別治療戦略
メラノーマは皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、ステージI〜IIの早期でも、腫瘍の厚さ(Breslow厚)や潰瘍の有無によって再発リスクが変わります4,5,8,11。日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドライン第4版および日本癌治療学会ガイドラインでは、ステージI〜IIでは十分な安全域をとった外科的切除が基本であり、腫瘍の厚さに応じてセンチネルリンパ節生検の適応が検討されます5,8,11。
ステージIII(リンパ節転移あり)、ステージIV(遠隔転移あり)では、外科的切除に加えて免疫チェックポイント阻害薬やBRAF/MEK阻害薬などの全身療法が重要な役割を果たします4,6–8,10,11。特に、BRAF V600変異陽性の患者さんでは、ICIとBRAF/MEK阻害薬のどちらを先に使うかが議論されており、ガイドラインでは患者さんの全身状態や病勢、希望を踏まえて選択することが推奨されています8,11。
進行メラノーマに対するICIやBRAF/MEK阻害薬の治療効果は、個々の症例で大きく異なります。「長期間にわたり腫瘍が縮小し、10年以上再発なく過ごせている方」もいれば、「残念ながら十分な効果が得られず、別の治療に切り替える方」もいます。臨床試験のデータ(全体としての生存率の改善)は重要な目安ですが、一人ひとりの体験はそれぞれ違うことを理解しておくと、治療の選択や継続を考えるうえでの心構えになります。
| 治療法 | 主なメリット | 主なデメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 外科的切除 | 再発率が低く、根治を目指しやすい。1回の手術で完了することも多い。 | 傷あとが残る。部位によっては機能障害や見た目の変化が大きくなることがある。 |
| モーズ顕微鏡手術 | 腫瘍を確実に取りつつ、正常組織をできるだけ温存できる。再発率が低い。 | 手術時間が長くなる傾向。対応できる施設が限られる。 |
| 放射線治療 | 高齢者や全身麻酔が難しい人でも治療しやすい。通院で行えることが多い。 | 外科手術に比べると再発率がやや高い。皮膚の色素沈着や硬化などが残ることがある。 |
| 外用療法(5-FU・イミキモドなど) | 手術を行わずに治療でき、傷あとが目立ちにくい。広い範囲をまとめて治療できる。 | 外科的切除に比べて再発率が高い。塗布部位の炎症や痛みが出ることがある。 |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | 一部の進行例で長期生存が期待できる。効果が続く場合、長期間腫瘍が抑えられる。 | 免疫関連有害事象(irAE)による重い副作用のリスク。誰にどれくらい効くかは個々で異なる。 |
| 分子標的薬(BRAF/MEK阻害薬など) | 腫瘍が比較的早く縮小することが多く、症状改善が期待できる。 | 発熱や皮疹などの副作用が多い。時間とともに薬が効きにくくなることがある。 |
| 光線力学療法(PDT) | 傷あとが目立ちにくく、広い範囲を同時に治療できる。 | 照射中・照射後の痛み。治療後しばらくは強い光を避ける必要がある。 |
第5部:今日から始める再発予防と日常生活の工夫
治療が一段落すると、多くの方が「もう二度と皮膚がんになりたくない」「これから何に気をつければいいのか」と考え始めます。国立がん研究センターやWHOは、紫外線対策や自己チェック、定期的なフォローアップの重要性を強調しています1,2–4,9,14。
5.1. 紫外線対策:具体的なポイント
WHOなどの国際的な推奨では、皮膚がん予防のために次のような紫外線対策が勧められています9。
- 日差しの強い時間帯(おおむね午前10時〜午後4時)は、できるだけ直射日光を避ける。
- 帽子(つばの広いもの)や長袖・長ズボン、サングラスなどで肌を覆う。
- SPF値・PA値の高い日焼け止めを、屋外に出る30分ほど前に塗り、2〜3時間ごとに塗り直す。
- 子どもや若い世代では、幼少期の強い日焼けが将来の皮膚がんリスクを高めるとされているため、特にていねいな対策を行う。
- 日焼けマシン(タンニングマシン)の使用は皮膚がんリスクを高めるとされており、避ける。
日本では、夏の強い日差しだけでなく、春や秋のアウトドアでもUV指数が高くなる日があります。天気予報で紫外線情報をチェックし、「今日は日差しが強いから、帽子と日焼け止めを忘れない」といった習慣をつけていくことが大切です。
5.2. 定期フォローアップと自己チェックの続け方
日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドラインや国立がん研究センターの情報では、皮膚がん治療後は、タイプやステージに応じて数ヶ月〜年単位で定期的なフォローアップを行うことが推奨されています2–4,5–8,11,14。具体的な頻度は個々の状況で異なりますが、たとえば「治療後数年間は3〜6ヶ月ごと、その後は1年ごと」といったイメージです。
フォローアップでは、再発や新たな皮膚がんの有無を確認するだけでなく、治療後の傷あとや機能の問題、薬物療法の副作用(免疫関連有害事象、内分泌異常など)をチェックします。気になる症状がある場合は、定期診察を待たずに早めに相談して構いません。
自己チェックは、第1部で紹介したように、定期的に全身の皮膚を観察することが基本です。「毎月1回、入浴後に鏡の前で全身をチェックする」「パートナーや家族とお互いの背中や頭皮を確認する」といった、現実的で続けやすい方法を見つけるとよいでしょう。
5.3. 仕事・妊娠・メンタルヘルスとの両立
皮膚がんの治療は、病院での処置だけでなく、仕事や家事、子育て、介護、学業など、日常生活との両立という課題も伴います。顔や手の手術による傷あと、爪や指の切除、長期にわたる免疫療法や分子標的薬の通院などは、仕事のスケジュールや他人の目が気になる方にとって大きなストレスになることがあります。
日本では、がん治療中の就労支援や職場との調整をサポートする制度も徐々に整いつつあります。主治医やがん相談支援センターなどに相談すると、「どの程度の頻度で通院が必要か」「体力的にどのくらい働けそうか」といった見通しを一緒に考えてもらえることがあります。
また、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の多くは、妊娠中の安全性に十分なデータがないため、治療中および治療終了後一定期間は避妊が推奨されることが多いとされています5–8,10,11。「将来妊娠を希望している」「いつまで治療が続きそうか」といった点も含めて、早めに主治医に相談することが大切です。
メンタル面では、「がん」という診断そのもののショックに加え、外見の変化や再発への不安、治療費の心配など、さまざまな感情が重なります。日本のがん医療では、精神腫瘍科や心療内科、心理士、患者会など、多様なサポート窓口があります。「こんなことで相談していいのだろうか」とためらわずに、利用できる支援を活用することも、治療を続けていくうえで大切な一歩です。
第6部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
最後に、「どのタイミングで医療機関を受診すべきか」「どの診療科を選べばよいか」「診察時に何を伝えるとよいか」といった、実際の受診行動に関するポイントを整理します。日本では、皮膚がんの診療は主に皮膚科、形成外科、がん専門病院などで行われており、症状や地域の医療体制によって窓口が変わります2–4,12,14。
6.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 数ヶ月で大きさや色、形が明らかに変化しているホクロ・シミがある。
- 2〜3ヶ月以上治らない傷や、じくじく出血する皮膚の病変がある。
- 爪の下に黒い線が出てきて、幅や色が変化している。
- やけどや傷跡、放射線治療を受けた部位が、最近硬く盛り上がってきたり、潰瘍になってきた。
- 皮膚のしこりに加えて、近くのリンパ節(わきの下、首、鼠径部など)が腫れてきた。
上記のような症状がある場合、「忙しいから」「そのうち治るかもしれない」と先延ばしにするのではなく、できるだけ早く皮膚科や形成外科を受診することが勧められます。急激な出血や激しい痛み、呼吸困難などの症状がある場合は、迷わず救急外来や119番通報を利用してください。
6.2. 診療科の選び方と紹介の流れ
- まず相談しやすい窓口:かかりつけの内科や近所の一般皮膚科クリニック。
- 専門的な治療が必要になった場合:大学病院の皮膚科・形成外科、がん専門病院、国立がん研究センターなどへの紹介。
- まれな皮膚腫瘍や診断が難しいケース:国立がん研究センター希少がんセンターなどの情報提供や相談窓口も活用できる14。
はじめは近くの皮膚科クリニックで相談し、「精密検査が必要」「手術が必要」と判断された場合に、地域の基幹病院やがん専門病院に紹介されるケースが多いです。紹介状には、これまでの診察内容や検査結果、疑われる病名などが記載されるため、スムーズに専門的な診療につながります。
6.3. 診察時に持参すると役立つものと情報
- これまで撮影した病変部の写真(スマートフォンで撮ったもので構いません)。
- 症状がいつから、どのように変化してきたかを書いたメモ。
- これまでに受けた検査結果(血液検査、画像検査、病理検査など)のコピー。
- 現在服用している薬やサプリメントのリスト(お薬手帳)。
- 持病の有無(心臓病、糖尿病、腎臓病、免疫抑制状態など)。
- 仕事の内容や勤務時間(治療や通院スケジュールを考えるうえで大切な情報です)。
治療費や入院期間は、病院の種類や治療内容によって大きく変わりますが、日本では公的医療保険により自己負担が3割(高齢者や収入によっては1〜2割)に抑えられます。高額療養費制度なども利用できる場合があるため、詳しくは病院の医事課やがん相談支援センターに相談してみてください。
よくある質問
Q1: 皮膚がんは早期なら本当に「治る」がんですか?
A1: 国立がん研究センターの統計では、皮膚がん全体の5年相対生存率は約94.6%と報告されており、早期に見つかって適切に治療されれば、多くの方が長期生存できることが示されています1。特に基底細胞がんや早期の有棘細胞がんは、外科的切除で根治を目指せるケースが多いとされています2–4,5–7,12。
一方で、メラノーマなど一部の皮膚がんは進行すると命に関わることがあり、ステージが進むほど予後が厳しくなります4,5,8,11。そのため、「早期なら治る」というよりも、「早期に見つかれば治癒を目指せる可能性が高くなる」と理解しておくとよいでしょう。少しでも気になる症状がある場合は、自己判断で様子を見るのではなく、早めに皮膚科で相談することが大切です。
Q2: メラノーマと基底細胞がん・有棘細胞がんはどれくらい危険度が違うのですか?
A2: 基底細胞がんは非常に転移しにくい皮膚がんであり、放置すると周囲の組織を破壊しますが、早期に手術すれば命に関わることは少ないとされています2,3,5,9。有棘細胞がんは基底細胞がんよりも転移しやすく、特に腫瘍が大きい場合や深く浸潤している場合、免疫抑制状態の方では注意が必要です6,7。
メラノーマ(悪性黒色腫)は、皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、比較的早い段階からリンパ節や内臓に転移する可能性があります4,5,8,11。ステージによって治療や予後は大きく変わるため、「自分はどのタイプで、どのステージなのか」を主治医に確認しておくと、危険度のイメージがつかみやすくなります。
Q3: 手術と放射線治療、どちらがよいのでしょうか?
A3: Cochraneレビューなどの研究では、基底細胞がんに関しては外科的切除の方が放射線治療よりも再発率が低いことが示されており、多くのガイドラインで「手術が第一選択」とされています3,5–7,9。一方で、高齢で全身麻酔のリスクが高い方や、心臓・肺の持病がある方、手術による変形が大きな問題となる部位では、放射線治療が現実的な選択肢になる場合もあります2–4,12。
どちらが「絶対に良い」ということではなく、「再発リスク」「外見への影響」「全身状態」「通院の負担」などを総合的に考えて選ぶことが重要です。記事本文の第3部・第4部では、それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説していますので、主治医との話し合いの参考にしてみてください。
Q4: モーズ手術は誰に向いている治療ですか?
A4: モーズ顕微鏡手術は、腫瘍を完全に取り切りつつ、周りの正常な皮膚をできるだけ残したい場合に向いている治療です。特に、目の周り、鼻、唇、耳、指先など、機能と整容性の両方が重要な部位にできた基底細胞がんや有棘細胞がんで検討されることが多いとされています5–7。
ただし、日本国内でモーズ手術を実施している施設は限られており、誰でも受けられるわけではありません。また、通常の切除と比べて手術時間が長くなることや、再建方法によっては入院が必要になることもあります5–7,12。「自分の病変にモーズ手術が適しているか」「近くで実施している病院があるか」は、主治医に相談してみましょう。
Q5: 免疫チェックポイント阻害薬は、どれくらい生存期間を延ばしてくれますか?
A5: 進行メラノーマに対する大規模臨床試験では、免疫チェックポイント阻害薬が従来の治療と比べて全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが示されています4,6,7,10,11。たとえば、KEYNOTE-006試験では、ペムブロリズマブ群の12ヶ月全生存率が約74.1%、イピリムマブ群が約58.2%と報告され、絶対差は約16%でした4。
CheckMate 067試験の10年追跡では、ニボルマブ+イピリムマブ併用群の約37%が10年時点でも生存していたと報告されており、従来では考えにくかった長期生存が一部の患者さんで実現していることがわかります6。ただし、「必ずこれだけ延びる」と保証できるものではなく、個々の患者さんの状態や腫瘍の性質によって効果は大きく異なります。
免疫チェックポイント阻害薬には免疫関連有害事象という特徴的な副作用もあり、効果とリスクのバランスをよく考える必要があります5–8,10,11。具体的な期待効果やリスクについては、主治医から自分の病状に即した説明を受け、納得したうえで治療を選択することが大切です。
Q6: 免疫療法と分子標的薬、どちらから始めるべきでしょうか?
A6: BRAF V600変異陽性の進行メラノーマでは、「免疫チェックポイント阻害薬から始めるか」「BRAF/MEK阻害薬から始めるか」がしばしば議論になります。日本皮膚悪性腫瘍学会や日本癌治療学会のガイドラインでは、病勢のスピードや腫瘍量、全身状態、患者さんの希望などを総合的に考慮しながら、主治医と相談して決めるべきとされています5–8,11。
一般的には、「腫瘍が急激に増大しており、早急な縮小が必要なとき」はBRAF/MEK阻害薬が選ばれやすく、「比較的落ち着いており、長期的な治療効果を狙いたいとき」は免疫チェックポイント阻害薬が検討されることがあります7,8,11。しかし、どちらが絶対に正しいという答えはなく、個々の事情に応じた判断が必要です。
Q7: 高齢で心臓病や糖尿病などの持病がありますが、手術は受けられますか?
A7: 高齢で持病がある場合でも、局所麻酔で行える小さな手術であれば、比較的安全に実施できることが多いとされています5–7,12。一方で、全身麻酔を必要とする大きな手術や、長時間に及ぶ再建手術では、心臓病や肺疾患などのリスクを慎重に評価する必要があります。
日本のガイドラインやPDQ®では、「全身状態(パフォーマンスステータス)」や持病、患者さん自身の希望を踏まえて、手術・放射線治療・薬物療法の組み合わせを検討することが推奨されています5–8,10,11。高齢だからといって一律に治療をあきらめる必要はなく、「どの程度の治療なら生活の質を保ちながら受けられそうか」を主治医と率直に話し合うことが大切です。
Q8: 爪の黒い線は必ずメラノーマですか?ネイルのせいではありませんか?
A8: 爪の下に黒い線が見える状態は「爪甲色素線条」と呼ばれ、メラノーマ以外にも、良性の色素沈着や内服薬の影響、外傷などさまざまな原因で起こります4,8。したがって、「黒い線がある=必ずメラノーマ」というわけではありません。
一方で、メラノーマの可能性を示すサインとして、「線の幅が徐々に広がっている」「色がまだら」「爪の根元の皮膚(爪母)まで黒い色が広がっている(ハッチンソン徴候)」「1本の爪だけに強く現れている」といった特徴が挙げられます4,8。ネイルカラーやジェルネイルで隠してしまうと変化に気づきにくくなるため、気になる線がある場合は、一度ネイルを落とした状態で皮膚科に相談することをおすすめします。
Q9: 治療後はどのくらいの頻度で皮膚科に通えばよいですか?
A9: フォローアップの頻度は、皮膚がんの種類やステージ、治療内容によって異なります。日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドラインや国立がん研究センターの情報では、治療後数年間は3〜6ヶ月ごと、その後は1年ごとなど、段階的に間隔をあける方法が示されていますが、具体的なスケジュールは個々の状況に応じて調整されます2–4,5–8,11,14。
特に、メラノーマや高リスクの有棘細胞がんでは、再発や新たな皮膚がんの発生を早期に見つけるために、一定期間は比較的短い間隔でのフォローアップが推奨されます。気になる症状がある場合は、定期診察を待たずに早めに受診して構いません。
Q10: 再発や別の皮膚がんを防ぐために、自分でできることはありますか?
A10: 完全にリスクをゼロにすることはできませんが、紫外線対策、自己チェック、生活習慣の見直しなど、自分でできる対策はたくさんあります。WHOや国立がん研究センターなどは、日差しの強い時間帯を避ける、帽子や長袖で肌を守る、日焼け止めを適切に使うといった紫外線対策を推奨しています1,2–4,9,14。
また、喫煙はさまざまながんのリスクを高めることが知られており、禁煙は皮膚がんを含む全身の健康維持に役立ちます。免疫抑制状態にある方は、主治医と相談しながら、皮膚のチェック頻度を高めることも重要です。記事本文の第5部では、今日から始められる具体的な工夫を紹介していますので、参考にしてみてください。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
皮膚がんと告げられたとき、多くの方が「これからどうなるのか」「どの治療を選べばいいのか」と不安でいっぱいになります。しかし、日本の統計やガイドラインを見ると、皮膚がんの多くは早期に適切な治療が行われれば高い確率で治癒を目指せるがんであることがわかります1–3,5–9,14。
本記事でお伝えしたように、皮膚がんには基底細胞がん、有棘細胞がん、メラノーマなど複数のタイプがあり、それぞれ悪性度や標準治療が異なります。治療には、外科的切除、モーズ手術、放射線治療、外用療法、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、光線力学療法など多くの選択肢があり、どれも「万能な方法」ではなく、メリットとデメリットを持っています3–8,10–12。
大切なのは、「インターネットで見かけた治療法のイメージ」だけで判断するのではなく、自分の病名とステージ、全身状態、仕事や家族、将来の希望(妊娠や生活の質など)を踏まえたうえで、主治医と一緒に治療を選んでいくことです。その際、本記事が、質問したいポイントを整理したり、治療の全体像をイメージするための手がかりになれば幸いです。
そして、治療が一段落したあとも、紫外線対策や自己チェック、定期フォローアップを続けることで、再発や新たな皮膚がんを早期に見つけることができます。「自分だけが不安なのではないか」と抱え込まず、必要なときには専門家や支援窓口、家族・友人に相談しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、国立がん研究センターがん統計・がん情報サービス、日本皮膚悪性腫瘍学会・日本皮膚科学会のガイドライン、日本癌治療学会ガイドライン、NCIのPDQ®日本語版、Cochraneレビュー、NEJMなどの一次情報源をもとに、皮膚がんの治療方法を整理しました1–14。
原稿の作成にあたっては、最新のAI技術を活用して文献検索や構成案の作成を行い、そのうえでJHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っており、特定の医師や医療機関の見解を代弁するものではありません。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更・中止を検討される際は、必ず担当の医師などの医療専門家にご相談ください。
記事内容に誤りや古い情報が含まれている可能性にお気づきの場合は、お手数ですが運営者情報ページ記載の連絡先までお知らせください。事実関係を確認のうえ、必要な訂正・更新を行います。
参考文献
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