この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本文中で言及される主要な情報源と、それが示す医学的指針の要約です。
- 日本皮膚科学会 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版: 未成年者(20歳未満)に対する経口AGA治療薬(フィナステリド、デュタステリド)の使用を推奨しないという、本記事の重要な指針の根拠となっています。安全性に関するデータが確立されていないため、この指針は日本の医療現場における標準的な考え方です2。
- 日本皮膚科学会 円形脱毛症診療ガイドライン 2024年版: 12歳以上の重症な円形脱毛症に対するJAK阻害薬(リトレシチニブ)の承認や、小児に対する局所ステロイド療法の推奨など、円形脱毛症の最新治療法に関する記述の基礎となっています3。
- Plan International Japan 若者の見た目に関する意識調査 (2023): 日本の若者が直面する「見た目問題」の深刻さを客観的なデータで示すために引用しており、本記事が読者の心理的背景を深く理解していることの証左となっています1。
- 医学論文(Griggs, J., et al., 2017; Putterman E, et al., 2017): 思春期の抜け毛の多様な原因(休止期脱毛症、牽引性脱毛症など)の医学的解説や、正常なヘアサイクルの説明において、国際的な専門家の見解として参照しています45。
要点まとめ
- 思春期の抜け毛は、ストレスや生活習慣だけでなく、男性型・女性型脱毛症(AGA・FPHL)や円形脱毛症、鉄欠乏など、多様な医学的原因によって引き起こされます。
- 1日に50本から100本程度の抜け毛は正常な範囲ですが、急激な増加や髪質の変化、地肌の透けなどが見られる場合は、皮膚科専門医への相談が推奨されます。
- 未成年者への治療には制限があり、特にAGAに対する内服薬は日本では承認されていません。自己判断での服薬は極めて危険です。
- 栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適切なストレス管理、そして正しいヘアケアは、全ての抜け毛対策の基本となる安全で重要な基盤です。
- 一人で悩みを抱え込まず、家族や信頼できる友人に相談することが心の負担を軽減します。また、日本には患者会やNPO法人など、専門的なサポートを提供する団体が存在します。
思春期の抜け毛:「普通」と「要注意」の境界線
まず理解すべき最も重要なことは、髪の毛が抜けること自体は、誰にでも起こる自然な生理現象であるという点です。しかし、その「抜け方」によっては、専門的な注意が必要な場合があります。ここでは、その境界線を見極めるための基本的な知識を解説します。
正常なヘアサイクルと1日の抜け毛本数
私たちの髪の毛一本一本には、「ヘアサイクル」と呼ばれる寿命があります。このサイクルは主に3つの段階で構成されています。
- 成長期(Anagen): 髪が積極的に成長する期間で、全毛髪の約85〜90%がこの段階にあります。通常2〜6年間続きます。
- 退行期(Catagen): 髪の成長が止まり、毛球が縮小し始める短い移行期間です。約2〜3週間続きます。
- 休止期(Telogen): 髪が完全に成長を止め、毛根が浅い位置に留まる期間です。約3〜4ヶ月続いた後、新しい髪が下から生えてくることで自然に抜け落ちます。
このサイクルにより、健康な人でも1日に約50本から100本の髪が自然に抜け落ちています。したがって、お風呂の排水溝や枕に抜け毛を見つけても、すぐにパニックになる必要はありません。これは体が新しい髪を育てるための正常なプロセスの一部なのです45。
抜け毛に注意すべきサイン
一方で、以下のような変化に気づいた場合は、単なる生理現象ではない可能性があり、注意が必要です。これらは、何らかの医学的な原因が隠れているサインかもしれません。
- 量の急激な増加: 明らかに以前よりも抜け毛の量が増えたと感じる場合(例:枕カバーにびっしりと付着している、シャンプー時の指に絡まる量が倍増した)。
- 髪質の変化: 抜け毛の中に、細くて短い、うぶ毛のような弱々しい毛が多く混じっている場合。これは、毛包が縮小する「ミニチュア化」という現象の兆候で、特にAGAで見られます。
- 地肌の可視性: 髪をかき分けたときに、以前よりも地肌が目立つようになった、特に頭頂部や分け目の部分が透けて見えるようになった場合。
- 生え際の後退: 特に男性の場合、額の生え際がM字型に後退してきた場合。
- 局所的な脱毛: 10円玉や500円玉のような円形または楕円形の脱毛斑が突然現れた場合。
- 付随する症状: 強いかゆみ、フケ、赤み、痛みなどを頭皮に感じる場合。
【原因別】皮膚科医が教える10代の抜け毛・薄毛の医学的な原因
思春期の抜け毛は、単一の原因で起こることは稀です。複数の要因が複雑に絡み合っていることが多く、正確な原因を特定することが、適切な対策への第一歩となります。ここでは、皮膚科の診察で考えられる主な医学的原因を解説します。
1. 男性型・女性型脱毛症(AGA・FPHL):遺伝とホルモンの影響
一般的に中高年の悩みと思われがちですが、男性型脱毛症(AGA: Androgenetic Alopecia)および女性型脱毛症(FPHL: Female Pattern Hair Loss)は、遺伝的素因とホルモンの影響により、思春期後半から発症しうる進行性の脱毛症です。これは、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)が毛乳頭細胞の受容体と結合し、ヘアサイクルを乱して毛包を徐々に小さく(ミニチュア化)させることで起こります6。国際的な研究でも、小児期や思春期に発症するAGAは稀ではないと報告されています7。
- 男性(AGA): 主に額の生え際が後退する(M字型)か、頭頂部が薄くなる(O字型)、あるいはその両方が同時に進行するのが特徴です。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、診断の基本は特徴的な脱毛パターンを視診で確認することとされています2。
- 女性(FPHL): 男性と異なり、生え際が後退することは少なく、頭頂部の分け目を中心に髪が全体的に薄くなる(クリスマスツリーパターン)のが典型的な症状です8。思春期の女子の場合、月経不順やニキビの悪化といった症状を伴う多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの内分泌疾患が背景にある可能性も考慮する必要があります。
2. 休止期脱毛症(Telogen Effluvium):ストレスや急激な変化への体の反応
休止期脱毛症は、心身に大きな負荷(ストレス)がかかった出来事から約2〜3ヶ月後に、大量の髪の毛が一斉に休止期に入り、その結果として急激に抜け落ちる状態です。これは通常、一時的なもので、原因が取り除かれれば回復に向かいます4。文部科学省の調査では、日本の高校生の84.9%が何らかの悩みや不安を抱え、その筆頭は学業や進路に関するものであることが示されています9。思春期の若者にとって、以下のような出来事が引き金となり得ます。
- 精神的ストレス: 受験戦争と呼ばれるほどの厳しい学業競争、友人関係の悩み、家庭内の問題など。
- 身体的ストレス: 高熱を伴う疾患、大きな手術や怪我、過度なダイエットによる急激な体重減少。
- 栄養不足: 特に鉄分や亜鉛などの必須ミネラルの欠乏。
3. 円形脱毛症(Alopecia Areata):自己免疫との関連
円形脱毛症は、免疫システムが誤って自分自身の毛包を「異物」と認識して攻撃してしまう自己免疫疾患です。これにより、境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が突然生じます。精神的ストレスが発症の引き金や悪化要因になることは知られていますが、根本的な原因は免疫系の異常にあります。日本皮膚科学会が2024年に発表した最新の診療ガイドラインでは、その病態解明と治療法が進展しており、単一の小さな脱毛斑から、頭全体の髪が抜ける全頭型、さらには全身の体毛が抜ける汎発型まで、重症度は様々です3。
4. 牽引性脱毛症(Traction Alopecia):ヘアスタイルが原因の場合
これは、ポニーテールやきついお団子ヘアなど、特定の髪型によって毛根に持続的な物理的張力がかかることで引き起こされる脱毛症です。特に、校則で髪型が厳しく定められている日本の女子中高生に多く見られる問題です104。生え際や分け目など、最も張力がかかる部分の髪が徐々に薄くなっていきます。早期に原因となる髪型をやめれば回復可能ですが、長期間にわたって毛根にダメージを与え続けると、永久的な脱毛につながる危険性があります。
5. 栄養不足:特に女性に多い鉄欠乏
髪の毛は主にケラチンというタンパク質でできており、その成長にはタンパク質、亜鉛、そして鉄分などのミネラルが不可欠です。思春期は体が急成長する時期であり、栄養需要が増大します。特に女子の場合、月経の開始により定期的に鉄分が失われるため、鉄欠乏性貧血に陥りやすい傾向にあります。血液学の権威ある論文によると、鉄は細胞の増殖に不可欠であり、その欠乏は毛母細胞の分裂を妨げ、抜け毛を引き起こす可能性があります11。倦怠感や顔色の悪さ、集中力の低下なども鉄欠乏のサインです。
6. その他の原因:頭皮環境の悪化や特定の疾患
上記以外にも、以下のような原因が考えられます。
- 脂漏性皮膚炎: 皮脂の過剰分泌により、頭皮に炎症、かゆみ、頑固なフケが生じ、頭皮環境の悪化が抜け毛につながることがあります。
- 頭部白癬(しらくも): カビの一種である皮膚糸状菌の感染症で、フケや脱毛斑を引き起こします。
- 抜毛症(トリコチロマニア): 無意識のうちに自分で髪の毛を引き抜いてしまう精神的な癖で、心理的なサポートや精神科的アプローチが必要です。
- 甲状腺機能の異常: 甲状腺ホルモンのバランスが崩れる甲状腺機能亢進症や低下症も、びまん性の脱毛を引き起こすことがあります。
専門家への相談:いつ、どこで、何をすべきか
抜け毛の悩みを一人で抱え込み、インターネット上の不確かな情報に振り回されるのは最善策ではありません。正確な診断と適切なアドバイスを得るために、勇気を出して専門家に相談することが非常に重要です。
病院へ行くべきタイミング
「このくらいで病院に行くのは大げさだろうか」とためらう必要はありません。以下のような状況であれば、専門医の診察を受けることを強くお勧めします。
- 抜け毛の量が急に増え、数週間以上続く場合。
- 地肌が明らかに透けて見えるようになった、または円形の脱毛斑ができた場合。
- 頭皮に強いかゆみ、痛み、湿疹などの異常がある場合。
- 抜け毛以外に、全身の倦怠感、急な体重の変化、月経不順など、他の体調不良を伴う場合。
- 抜け毛の悩みによって、学校生活や友人関係に支障が出ている、または気分がひどく落ち込んでいる場合。
何科を受診すればいい?症状別の診療科ガイド
どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。以下の表は、症状に応じた適切な診療科を選ぶための目安です12。
主な症状・悩み | 推奨される診療科 | 専門分野と役割 |
---|---|---|
抜け毛全般、頭皮のかゆみ・フケ、円形脱毛斑など | 皮膚科 | 髪と頭皮に関する診断・治療の第一選択。AGA、円形脱毛症、皮膚炎など、ほとんどの抜け毛の原因に対応します。 |
月経不順、ニキビの悪化、体毛の増加を伴う(女性の場合) | 婦人科 | 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、女性ホルモンの乱れが原因でないか検査します。 |
強い倦怠感、急激な体重変化、動悸など | 内科・内分泌内科 | 甲状腺機能の異常や、鉄欠乏性貧血など、全身性の疾患が原因でないかを血液検査などで調べます。 |
自分で髪を抜く癖がやめられない、強い不安や抑うつ気分を伴う | 心療内科・精神科 | 抜毛症や、ストレスが深刻な場合の心理的サポートおよび治療を行います。 |
診察で何が行われるか
専門医による診察では、通常、以下のようなステップで診断が進められます。
- 問診: いつから、どの程度、どのように抜けているか、家族歴、生活習慣、ストレスの有無、既往歴などについて詳しく質問されます。
- 視診・触診: 脱毛のパターン、頭皮の色や状態、髪の毛の太さや密度を直接観察します。
- ダーモスコピー(トリコスコピー): 特殊な拡大鏡を用いて毛穴の状態、毛幹の太さ、頭皮の血管の様子などを詳細に観察し、脱毛症の種類の鑑別に役立てます。
- 血液検査: 必要に応じて、貧血の有無(フェリチン値)、甲状腺ホルモン、男性ホルモン値などを調べるために行われます13。
10代のための医学的治療法:選択肢と限界
診断が確定した後、原因に応じた治療が検討されますが、10代の治療には成人とは異なる重要な注意点があります。
重要:未成年者への治療に関する注意点
最も強調すべき点は、未成年者への薬物治療は選択肢が限られ、必ず医師の厳格な監督下で行われなければならないということです。日本皮膚科学会が発行する「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」では、AGA治療薬として知られるフィナステリドやデュタステリドの内服薬について、20歳未満の男性に対する安全性と有効性が確立されていないため、投与を行うべきではないと明確に勧告しています2。インターネット通販などで安易にこれらの薬を入手し、自己判断で使用することは、予期せぬ副作用を招く可能性があり、絶対に避けるべきです。
原因別の治療アプローチ
- 男性型・女性型脱毛症(AGA/FPHL):
国際的な研究では、外用ミノキシジル(塗り薬)が思春期のAGAに対しても有用である可能性が示唆されており、医師の判断で選択肢となり得ます47。これは局所的に作用するため、全身への影響が少ないと考えられています。 - 円形脱毛症:
日本皮膚科学会の2024年版ガイドラインに基づき、治療法が選択されます3。軽症の場合は、ステロイド外用薬が第一選択です。脱毛範囲が広く、重症な12歳以上の患者さんには、免疫の過剰な働きを抑える新しい内服薬(JAK阻害薬:リトレシチニブ)が承認され、治療の選択肢が広がりました14。 - 鉄欠乏:
血液検査で鉄欠乏が確認された場合、医師の処方による鉄剤の内服または注射が行われます。食事だけで改善するのは難しいため、適切な医療介入が不可欠です。 - 牽引性脱毛症:
治療の基本かつ最も効果的な方法は、原因となっている髪型をやめることです。髪への負担が少ないヘアスタイルに変えることで、多くの場合、自然な回復が期待できます。
今日からできる!生活習慣とセルフケアによる抜け毛対策
専門的な治療と並行して、あるいは軽度の抜け毛に対する基本的な対策として、日々の生活習慣を見直すことは非常に重要です。これらは、健康な髪が育つための土台作りに他なりません。
1. 栄養:髪を育てる食事
髪は、私たちが食べたものから作られます。特に以下の栄養素を意識した、バランスの良い食事を心がけましょう15。
- タンパク質: 髪の主成分であるケラチンの材料。肉、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆)などをしっかり摂る。
- 亜鉛: ケラチンの合成を助けるミネラル。牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類に豊富。
- 鉄分: 髪に栄養を運ぶ血液の材料。レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじきなどを積極的に。
- ビタミン類: 頭皮の血行を促進し、健康に保つ。特にビタミンB群、C、Eが重要。緑黄色野菜や果物を毎日食べる。
コンビニ食やファストフードに偏りがちな場合は、意識してこれらの食材を取り入れることが大切です。
2. 睡眠:成長ホルモンを味方につける
睡眠中、特に深いノンレム睡眠の間に、体の成長や修復を促す「成長ホルモン」が最も多く分泌されます。このホルモンは毛母細胞の分裂も活性化させるため、髪の健康に不可欠です。塾や部活で忙しい毎日でも、最低7〜8時間の質の良い睡眠を確保することを目指しましょう。就寝前のスマートフォンの使用は、ブルーライトが脳を覚醒させ、眠りの質を下げるため、控えるのが賢明です16。
3. ストレス管理:心と髪の健康を守る
過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて頭皮への血流を悪化させる可能性があります。自分なりのストレス解消法を見つけることが重要です。
- 適度な運動(ウォーキング、ジョギング)
- 趣味への没頭(音楽鑑賞、読書、絵を描く)
- ゆっくりと湯船に浸かる入浴
- 友人や家族との会話
リラックスできる時間を持つことで、心と体の緊張を和らげましょう。
4. 正しいヘアケア:頭皮をいたわる洗い方
間違ったヘアケアは、頭皮や髪にダメージを与え、抜け毛を悪化させる原因になります。以下のポイントを参考に、優しく丁寧に洗いましょう17。
- 洗髪前のブラッシング: 乾いた髪を優しくブラッシングし、ほこりや絡まりを取り除きます。
- 予洗い: 38℃程度のぬるま湯で、髪と頭皮を十分に濡らし、汚れを浮かします。
- シャンプー: シャンプーは手のひらでよく泡立ててから髪につけます。爪を立てず、指の腹を使って頭皮をマッサージするように優しく洗います。
- すすぎ: シャンプー剤が残らないよう、時間をかけて丁寧にすすぎます。
- 乾燥: 洗髪後は、タオルでゴシゴシ擦らず、優しく押さえるように水分を拭き取ります。ドライヤーは頭皮から15cm以上離し、温風と冷風を使い分けながら乾かします。
抜け毛の悩みとの向き合い方:心のケアとサポート体制
抜け毛は、単なる身体的な問題ではありません。それは自尊心やアイデンティティを揺るがし、深い心の痛みを伴います。医学的な治療と同じくらい、心のケアは重要です。
一人で抱え込まないで:家族や友人への相談
最も大切なことは、悩みを一人で抱え込まないことです。信頼できる家族や友人に打ち明けることは、心理的な負担を大きく軽減します。保護者の方へ:お子様から相談された際は、決して「気にしすぎだ」と軽視せず、まずはその不安な気持ちを真摯に受け止め、共感を示してください。「一緒に解決策を探そう」という姿勢が、お子様にとって何よりの支えとなります18。
日本国内のサポート団体とリソース
同じ悩みを持つ仲間と繋がったり、専門的な情報を得たりできる場があります。これらは、孤独感を和らげ、前向きな気持ちを取り戻すための大きな助けとなります。
- NPO法人 円形脱毛症の患者会(通称:ひどりがも): 円形脱毛症の患者さんとその家族のためのNPO法人です。交流会や情報提供を通じて、当事者同士が支え合うコミュニティを運営しています19。
- NPO法人 マイフェイス・マイスタイル(MFMS): 脱毛症に限らず、様々な「見た目問題」を抱える人々を支援する団体です。講演会やメディアを通じて、「見た目は一つの個性であり、人の価値を決めるものではない」というメッセージを発信しています20。
外見との向き合い方:ウィッグやスタイリングの活用
治療には時間がかかる場合もあります。その間のQOL(生活の質)を維持するために、ウィッグ(かつら)やヘアスタイルの工夫は非常に有効な手段です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、ウィッグの使用は患者の心理的苦痛を和らげる上で有用であると認められています3。これは「隠す」ためのネガティブな行為ではなく、自分らしく、自信を持って毎日を過ごすための「積極的な選択」と捉えることができます。
よくある質問(FAQ)
15歳の女子ですが、抜け毛が多いのは病気ですか?
思春期のホルモンバランスの変化による一時的なものである可能性もありますが、鉄欠乏や甲状腺の問題、あるいは何らかの脱毛症の初期症状である可能性も否定できません。特に、抜け毛の量が急に増えて続く、地肌が透けて見える、他に体調不良がある、といった場合は、一度皮膚科を受診して正確な原因を調べてもらうことが重要です4。
若ハゲ(若年性脱毛症)は完全に治りますか?
原因によります。ストレスや栄養不足、牽引などが原因の休止期脱毛症や牽引性脱毛症は、原因を取り除くことで多くの場合回復します。しかし、遺伝的な要因が強い男性型脱毛症(AGA)の場合、現在の医療では「完治」させる方法は確立されていません。ただし、早期に適切な治療(例えば外用ミノキシジルなど)を開始することで、進行を大幅に遅らせ、現状の髪を維持し、ある程度の発毛を促すことは十分に可能です21。
どのビタミンが不足すると抜け毛になりますか?
特定のビタミン一つだけが原因となることは稀ですが、いくつかのビタミンやミネラルの欠乏は抜け毛に関与します。特に重要なのは、髪への栄養運搬に関わる鉄と、髪の主成分の合成を助ける亜鉛です。その他、ビタミンDやビタミンB群(特にビオチン)も毛包の健康に重要な役割を果たします。これらをサプリメントで安易に補うのではなく、まずは日々の食事をバランス良く摂ることが最も安全で効果的な方法です15。
結論
思春期の抜け毛は、多くの若者が直面しうる、決して珍しくない悩みです。しかし、その背後には、ホルモンバランスの変化といった生理的なものから、遺伝的素因が関わるAGA、自己免疫疾患である円形脱毛症まで、様々な医学的背景が隠されている可能性があります。最も重要なメッセージは、「一人で悩まず、早期に専門家へ相談すること」です。皮膚科医による正確な診断は、不必要な不安を取り除き、あなたにとって最適で安全な道筋を示してくれます。
未成年者への治療には成人と異なる配慮が必要であり、特に自己判断での医薬品の使用は絶対に避けるべきです。一方で、栄養、睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善は、誰もが今日から取り組める、健康な髪を育むための普遍的で強力な土台となります。そして、忘れてはならないのは、心のケアです。この問題がもたらす精神的な苦痛は計り知れません。家族や友人、そして専門のサポート団体を頼ることは、弱さではなく、自分自身を大切にするための賢明な行動です。あなたの価値は、髪の量によって決まるものでは決してありません。この記事が、あなたが自信を取り戻し、前向きな一歩を踏み出すための一助となることを心から願っています。
参考文献
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- 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版. 2017 [引用日: 2025年7月10日]. Available from: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
- 日本皮膚科学会. 円形脱毛症診療ガイドライン 2024. 2024 [引用日: 2025年7月10日]. Available from: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/AAGL2024.pdf
- Griggs J, et al. Adolescent hair loss: A guide to evaluation and management. Am Fam Physician. 2017;96(6):371-376. PMID: 28925667. Available from: https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2017/0915/p371.html
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