【皮膚科医監修】BHA(サリチル酸)の正しい選び方と併用禁忌|論文と規制に基づく毛穴・ニキビへの最適解
皮膚科疾患

【皮膚科医監修】BHA(サリチル酸)の正しい選び方と併用禁忌|論文と規制に基づく毛穴・ニキビへの最適解

「毛穴の黒ずみ、繰り返しできる大人ニキビ、肌のごわつき…鏡を見るたびに、ため息をついていませんか?」近年の調査では、日本人女性が抱える肌悩みの第1位は「毛穴」(52.1%)であり、特に10代から20代の若い世代では、「ニキビ・吹き出物」が最も深刻な悩みとして挙げられています12。もしあなたがこれらの悩みを抱えているなら、その解決の鍵は「BHA(サリチル酸)」という成分にあるかもしれません。
しかし、BHAに関する情報は玉石混交です。「どのくらいの濃度の製品を選べばいいの?」「レチノールと混ぜてはいけないって本当?」「日本の製品は効果が薄いって聞くけど…?」そんな疑問や不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、巷の曖昧な情報とは一線を画し、以下の点を網羅的に解説します。

  • 皮膚科学的な本当の作用機序
  • 日本国内の規制に基づいた正しい製品の選び方
  • 併用してはいけない成分とその科学的根拠
  • 効果を最大化するベストな組み合わせ

本記事は、日本皮膚科学会の診療ガイドライン、厚生労働省の公的文書、そしてPubMedに掲載されている質の高い学術論文など、信頼できる情報源のみを基に構成されています。あなたのBHAに関する疑問をすべて解消し、科学的根拠に基づいたスキンケアへの第一歩をサポートします。

この記事の科学的根拠

この記事は、インプットされた研究レポートで明示的に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下は、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示したものです。

  • 公益社団法人日本皮膚科学会(JDA): ニキビ治療におけるケミカルピーリングの位置づけや、安全性に関するガイダンスは、同学会発行の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」および「ケミカルピーリングガイドライン(改訂第3版)」に基づいています34
  • 厚生労働省(MHLW): 日本国内の製品におけるBHA(サリチル酸)の濃度規制(化粧品 vs. 医薬部外品)に関する解説は、厚生労働省が定める「化粧品基準」および「いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト」という公的文書を根拠としています56
  • 国際的な学術論文: BHAの作用機序、効果、および他の成分との併用に関する記述は、Arif, T. (2015)による包括的レビュー7、Chen, W. らによる2024年のランダム化比較試験8、そしてKawashima, M. らによる日本人女性を対象とした2025年の臨床研究9など、査読済みの複数の科学論文に基づいています。

要点まとめ

  • BHA(サリチル酸)は、毛穴の奥まで浸透する「脂溶性」の性質により、ニキビや毛穴の黒ずみに科学的根拠をもって有効です。
  • 日本では、角質ケア目的でBHA製品を選ぶなら「化粧品」(防腐目的で0.2%以下)ではなく、「医薬部外品」(有効成分として高濃度配合が可能)を選ぶことが極めて重要です。
  • BHAとレチノール、高濃度ビタミンCの自己流での同時併用は過剰刺激のリスクがあります。朝と夜で使い分けるなどの工夫が必要です。
  • BHAと「ナイアシンアミド」の組み合わせは、互いの効果を高め、刺激を緩和する科学的に推奨される「ゴールデンコンビ」です。
  • BHA使用後は肌が乾燥しやすくなるため、セラミドなどによる徹底した保湿ケアが成功の絶対条件です。

第1章 BHA(サリチル酸)とは?誤解されがちな「本当の働き」を科学する

BHAは単なる「角質を溶かす」成分ではない

BHA(ベータヒドロキシ酸)の代表であるサリチル酸は、しばしば「古い角質を溶かす(ピーリング)成分」と説明されます。これは間違いではありませんが、その作用の仕方は一般的に考えられているよりもずっと穏やかで、洗練されています。
T. Arif氏による2015年の包括的なレビュー論文によると、現在の皮膚科学では、サリチル酸の主な作用は、角質細胞そのものを破壊する「ケラトリティック(keratolytic, 角質溶解)」作用ではなく、細胞と細胞をつなぎとめている接着構造(デスモソーム)を緩める「デスモリティック(desmolytic, 角質解離)」作用であると理解されています7。これにより、肌に過度な負担をかけることなく、古くなった角質が自然に剥がれ落ちるのを助けるのです。この穏やかな作用が、サリチル酸が長年にわたりスキンケアに用いられてきた理由の一つです。

なぜBHAは「毛穴」と「ニキビ」に特に効くのか?

BHAが毛穴トラブルやニキビに対して特に優れた効果を発揮する理由は、その「脂溶性(油に溶けやすい)」というユニークな性質にあります。
多くの角質ケア成分、例えばAHA(アルファヒドロキシ酸)の代表であるグリコール酸は水溶性であり、主に肌表面で作用します。一方、脂溶性のBHAは皮脂になじみやすいため、皮脂で満たされた毛穴の奥深くまで浸透することができます10。これにより、毛穴の内部に詰まった角質や皮脂、汚れに直接アプローチし、ニキビの初期段階である「面皰(コメド)」を効果的に解消することができるのです。
さらに、Y. Li氏らが2019年に発表した研究では、BHAが持つもう一つの重要な働きが明らかになってきました。それは、皮脂を産生する細胞「セボサイト」に直接作用し、脂質の生成そのものを抑制する能力です。具体的には、細胞内の「AMPK/SREBP-1」というシグナル伝達経路を抑制することで、過剰な皮脂分泌を根本からコントロールする効果が期待されます11。これは、BHAが単に詰まりを取り除くだけでなく、ニキビができやすい肌質そのものに働きかける可能性を示唆する、非常に重要な発見です。

第2章 あなたの肌悩みに効く?BHAの効果をエビデンスレベルで徹底検証

BHAは具体的にどのような肌悩みに、どの程度の科学的根拠をもって有効なのでしょうか。ここでは、信頼性の高い研究結果(エビデンス)に基づいて、その効果を一つずつ検証していきます。

【効果◎】ニキビ(尋常性痤瘡)への有効性

BHAは、ニキビの原因となる毛穴の詰まり(面皰)を取り除く「コメドリティック作用」に優れており、その有効性は質の高い複数の研究によって支持されています。

  • 大規模な比較研究での評価: 2022年に英国皮膚科学会誌(British Journal of Dermatology)に掲載された、49種類のニキビ治療法に関する179のランダム化比較試験(RCT)を統合解析した大規模なネットワークメタアナリシスでは、軽度から中等度のニキビに対して、ケミカルピーリング(サリチル酸やマンデル酸など)が有効な選択肢の一つであると結論付けられています12
  • 面皰(コメド)への効果: 2018年のBMJ Openに掲載された12のRCTを対象としたレビューでは、サリチル酸ピーリングは他のピーリング剤(グリコール酸など)と同等の有効性を示し、特にニキビの初期段階である面皰(白ニキビ・黒ニキビ)の減少において優れている可能性が示唆されました13

【効果◎】毛穴の黒ずみ・開き・ざらつきへの有効性

毛穴の黒ずみの正体は、毛穴に詰まった皮脂や古い角質が混ざり合った「角栓」が、空気に触れて酸化したものです。ポーラチョイスなどの専門機関によると、BHAはその脂溶性の性質を活かして毛穴の内部を効果的に清掃し、角栓の元を取り除くことで、黒ずみを根本から改善します14。継続的にBHAを使用することで、毛穴が詰まりにくい状態を維持でき、結果として押し広げられていた毛穴の開きも目立ちにくくなります。また、肌表面のごわつきやざらつきの原因となる不要な角質が除去されるため、なめらかでキメの整った肌へと導きます15

【効果あり】光老化(シミ・小じわ)への有効性

BHAはニキビや毛穴ケアの成分というイメージが強いですが、紫外線ダメージの蓄積によって引き起こされる「光老化」(シミ、くすみ、小じわなど)の改善にも有効であることが、近年の研究で明らかになっています。

  • コラーゲン密度を高める最新研究: 2024年に学術誌Aesthetic Plastic Surgeryで発表された、信頼性の高い二重盲検ランダム化比較試験(RCT)では、光老化の兆候が見られる被験者の手に、30%の超分子サリチル酸を4ヶ月間使用しました。その結果、偽薬(プラセボ)を塗布した側と比較して、サリチル酸を塗布した側ではコラーゲン密度と肌の弾力性が有意に増加し、光老化のスコアが改善したことが報告されました8。これは、BHAが肌の奥深く(真皮)にまで影響を及ぼし、ハリや弾力を改善する可能性を示す画期的なエビデンスです。
  • 色素沈着への適応: 前述のArif, T.氏による2015年の包括的なレビュー論文においても、サリチル酸ピーリングの適応として、ニキビだけでなく、光老化、そばかす、そして肝斑(かんぱん)といった色素沈着も挙げられています10

第3章 【最重要】日本でのBHA製品の選び方:濃度と「化粧品 vs 医薬部外品」の真実

ここが、日本でBHA製品を選ぶ上で最も重要かつ、多くの人が誤解しているポイントです。海外の情報を鵜呑みにして製品を選ぶと、「思ったような効果が出ない」という結果になりかねません。その理由は、日本の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法)」に基づき、製品の分類によって配合できるサリチル酸の濃度と目的が厳密に定められているからです。
製品のパッケージ裏面にある「化粧品」または「医薬部外品」という表示を必ず確認してください。この分類の違いが、効果の期待値を大きく左右します。多くの消費者は「BHA 2%配合」といった濃度表記で製品を比較しようとしますが、日本ではその前に「分類」を確認する必要があります。

  • 「化粧品」の場合: 厚生労働省が定める「化粧品基準」によると、「化粧品」にサリチル酸を配合する場合、その主な目的は製品の品質を保つための「防腐剤」としてです。この目的での配合上限は0.2%と定められています5。この濃度では、積極的な角質ケア効果(ピーリング効果)を期待することは現実的ではありません。
  • 「医薬部外品」の場合: 一方、「医薬部外品」では、「ニキビを防ぐ」などの特定の効果(効能)を持つ「有効成分」としてサリチル酸を配合することが認められています。厚生労働省の「いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト」に基づき、「化粧品」よりも高い濃度での配合が可能です。例えば、洗い流すタイプの製品では最大2.0%までの配合が認められています616

この事実を知らないと、消費者は「化粧品」カテゴリのBHA製品に過度な期待を抱き、「効果がない」と誤解してしまう可能性があります。したがって、日本で角質ケアを目的としてBHA製品を選ぶ際の最も確実な方法は、「まず製品分類を確認し、『医薬部外品』の有効成分としてサリチル酸が記載されている製品を選ぶ」ことです。
以下の比較表で、その違いを明確に理解しましょう。

表1: BHA(サリチル酸)濃度の規制比較表(日本国内)
分類 主な目的 サリチル酸の配合上限(代表例) 期待できる効果 消費者への注意点 出典
医薬品 魚の目、イボ、たこの治療 5%~50% 強力な角質軟化・溶解作用 医師・薬剤師の指導の下で使用。顔への使用は原則として不可。 17
医薬部外品 ニキビ予防、殺菌 ~2.0%(製品種別による) 穏やかな角質ケア、ニキビの発生予防 パッケージの「有効成分:サリチル酸」という表示を確認することが重要。 6
化粧品 製品の防腐 0.2%以下 積極的な角質ケア効果は限定的。肌を整える補助的な役割。 この分類の製品に、高いピーリング効果やニキビ治療効果を期待するのは難しい。 5

第4章 併用注意・NGな成分は?皮膚科医が警告する組み合わせ

BHAは効果的な成分ですが、パワフルなだけに、他の成分との組み合わせには注意が必要です。間違った使い方をすると、肌のバリア機能を損ない、かえって肌トラブルを招くこともあります。ここでは、特に注意が必要な組み合わせを、その科学的理由と共に解説します。

表2: BHAと他成分の併用可否マトリクス
成分 併用評価 理由と対策
レチノール類(医薬品・化粧品) △ 注意 【理由】 共に肌のターンオーバーを促進する作用があるため、併用により角質層が薄くなりすぎ、過剰な刺激(赤み、乾燥、皮むけ)のリスクが増大します18
【対策】 ①時間を分ける(例:朝BHA・夜レチノール)、②日を分ける(例:月曜はBHA、火曜はレチノール)、③両成分が安定配合された専用処方の製品を選ぶ。安易な自己流の重ね付けは避けるべきです。
高濃度ビタミンC(純粋型:L-アスコルビン酸) △ 注意 【理由】 共に効果を発揮するpHが低い(酸性)ため、同時に使用すると肌への刺激が強まる可能性があります19。また、pHの変化で互いの安定性が損なわれ、効果が低下する可能性も指摘されています20
【対策】 ①時間を分ける(例:朝に抗酸化目的でビタミンC、夜に角質ケア目的でBHA)のが最も安全で効果的です21。②刺激の少ないビタミンC誘導体配合の製品を選ぶと、このリスクは低減します。
ナイアシンアミド ◎ 推奨 【理由】 BHAが角質ケアで攻める一方、ナイアシンアミドがバリア機能のサポート、抗炎症、皮脂コントロールで守るという、理想的な相乗効果が期待できます22。BHAによる刺激を緩和する働きもあります。
他の角質ケア成分(AHA, PHA) × 非推奨 【理由】 複数の角質ケア成分を同時に使用することは「オーバーピーリング」状態を招き、肌のバリア機能を著しく損なう危険性が非常に高いです。製品の処方として組み合わされている場合を除き、自己判断での併用は絶対に避けてください。
保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など) ◎ 必須 【理由】 BHAの使用後は、角質層が一時的に薄くなり、水分が蒸散しやすくなります(経皮水分蒸散量(TEWL)の増加)。バリア機能を補い、乾燥を防ぐための保湿ケアは、BHAのスキンケアを成功させるための絶対条件です。

【要注意】BHAとレチノール

「BHAとレチノールは併用NG」という情報は広く知られていますが、その真実は「無条件に禁止」ではなく、「賢い使い方が求められる」ということです18。主なリスクは、両成分が共に肌細胞の代謝回転を促進するため、過剰な刺激につながりやすい点にあります。しかし、専門家の管理下や、特殊な技術で処方された製品であれば、併用は可能であり、むしろ有益な場合もあります。実際に、サリチル酸ピーリングの後にレチノールを使用することで光老化が改善したという臨床研究や23、両成分を安定的に配合した処方がニキビに有効であったという報告も存在します24。したがって、本記事が提供する最も正確なアドバイスは、「自己流での安易な同時使用や重ね付けは危険です。しかし、①朝晩で使い分ける、②使用する日をずらす、③専門家が処方した併用を前提とした製品を選ぶ、といった『安全な併用戦略』が存在します」という、より高度で実践的な情報です。

【要注意】BHAと高濃度ビタミンC(L-アスコルビン酸)

ここでの主な懸念点は「pH」です。純粋なビタミンCであるL-アスコルビン酸もBHAも、その効果を最大限に発揮するためには低いpH環境(酸性)を必要とします19。これらを同時に肌に塗布すると、pHが下がりすぎることで刺激が強まったり、互いの処方の安定性を崩して効果を減弱させたりする可能性があります20。最も安全で効果的な方法は、それぞれの成分が最も効果を発揮する時間帯に分けて使用することです。一般的には、日中の紫外線ダメージから肌を守る抗酸化作用を期待して朝にビタミンCを、肌の修復と再生が行われる夜に角質ケアとしてBHAを使用することが推奨されています21

第5章 効果を最大化する!BHAとのベストな組み合わせ

BHAの効果を最大限に引き出し、かつ刺激を抑えるためには、適切な成分と組み合わせることが非常に重要です。

【最強の相棒】BHAとナイアシンアミド

この組み合わせは、特に脂性肌やニキビ肌、毛穴の悩みを抱える人々にとって「ゴールデンコンビ」と言えます。一部の古い情報源では「pHが異なるため併用はNG」という誤解が見られますが、最新の科学的エビデンスは、その逆、つまり非常に有益な相乗効果があることを明確に示しています。この「併用NG説」は、特定の不安定な条件下でナイアシンアミドがニコチン酸に変化し、刺激を引き起こす可能性があるという古い理論に基づくものですが、現代の適切に処方された化粧品では、この懸念はほとんどありません。
むしろ、近年の質の高い研究は、この組み合わせの有効性を強く支持しています。

  • 日本人女性での有効性を証明: 2025年にThe Journal of Clinical and Aesthetic Dermatologyで発表予定の研究では、日本人女性を対象としたランダム化比較試験が行われました。サリチル酸(0.2%)とナイアシンアミド(2%)を含む美容液を8週間使用した結果、炎症性ニキビの数が有意に減少し、毛穴の目立ちも改善しました。さらに、製品の忍容性(使い続けやすさ)は非常に高く、重篤な副作用は見られませんでした9。これは、日本人にとって最も直接的で価値のあるエビデンスです。
  • 肝斑治療での相乗効果: 2023年のJournal of Cosmetic Dermatologyに掲載された研究では、30%のサリチル酸ピーリングと10%のナイアシンアミドの外用を組み合わせた治療が、サリチル酸単独の治療と比較して、肝斑(シミの一種)を有意に改善することが示されました25

これらの研究結果は、BHAとナイアシンアミドの併用が安全かつ効果的であることを示しています。BHAが毛穴をクリアにし、角質を整える「攻め」の役割を担う一方で、ナイアシンアミドが抗炎症作用、皮脂分泌の正常化、そして肌のバリア機能強化といった「守り」と「サポート」の役割を担う、完璧な連携プレーが実現するのです22

【必須のサポート役】BHAと保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など)

BHAによるスキンケアを成功させるための、もう一つの鍵は「保湿」です。BHAは角質層に作用するため、使用後は一時的に肌のバリア機能が低下し、水分が蒸発しやすくなります。この状態を放置すると、肌は自らを守ろうとしてかえって皮脂を過剰に分泌したり、乾燥による刺激で肌トラブルが悪化したりする可能性があります。BHAを使用する際は、スキンケアの最後に必ず、肌のバリア機能の主成分であるセラミドや、高い水分保持能力を持つヒアルロン酸などが配合された保湿剤を使用してください。これにより、BHAの効果を享受しつつ、肌を健やかな状態に保つことができます。

第6章 肌質・悩み別 BHA実践ガイド

ここまでの知識を基に、あなたの肌質と悩みに合わせた具体的なBHAの実践方法を提案します。

脂性肌・ニキビ肌の方へ

  • 戦略: 「医薬部外品」に分類され、有効成分としてサリチル酸が配合された、洗い流すタイプの洗顔料や、拭き取り化粧水から始めることを推奨します。まずは週2〜3回の使用から開始し、肌に刺激や過度な乾燥がないかを確認しながら、徐々に頻度を調整してください。スキンケアの次のステップで、BHAとの相性が良いナイアシンアミド配合の美容液を併用すると、ニキビ予防と皮脂コントロールの効果をさらに高めることができます。
  • 根拠: 日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」においても、ケミカルピーリングはニキビ治療の選択肢の一つとして挙げられています3

混合肌・毛穴が気になる方へ

  • 戦略: Tゾーン(おでこ、鼻)など、皮脂分泌が多く毛穴の黒ずみや開きが特に気になる部分にのみBHA製品を使用する「部分使い」から試すのが安全です。全顔に使用する場合は、0.5%などの比較的低濃度から始め、肌の反応を見ながら使用範囲や頻度を調整していくのが良いでしょう。
  • 根拠: BHAの脂溶性という性質は、皮脂の多い部分で特にその効果を発揮しやすいため、部分的な悩みに的を絞ったケアが効率的です10

敏感肌・乾燥肌の方へ

原則として、敏感肌や乾燥肌の方がBHAを積極的に使用することは慎重になるべきです。もし試す場合は、以下の点を必ず守ってください。

  • 必ずパッチテストを行う: 使用前に、腕の内側などの目立たない場所で試してください。
  • 極低濃度から始める: 0.5%以下など、敏感肌向けに処方された製品を選びます。
  • 頻度を最小限に: 週に1回、夜のみの使用など、間隔を十分に空けてください。
  • 徹底的な保湿: 使用後は、高濃度のセラミドが配合されたクリームなどで、バリア機能を徹底的にサポートしてください。

BHAよりも刺激がマイルドとされるPHA(グルコノラクトンなど)から試すのも、一つの有効な選択肢です26

よくある質問

Q1: 日本で「BHA 2%」の製品を見かけますが、使っても大丈夫ですか?
A1: 日本の市場で「BHA 2%」として販売されている製品の多くは、海外からの個人輸入品や並行輸入品である可能性が高いです27。日本の薬機法の下で「化粧品」として正規に流通している製品のサリチル酸濃度は、防腐目的で0.2%以下に制限されています5。一方、「医薬部外品」であれば、ニキビ予防の有効成分として、洗い流す製品で最大2.0%まで配合が可能です6。購入の際は、製品が「化粧品」なのか「医薬部外品」なのか、そして正規の販売ルートであるかを必ず確認してください。不明な点があれば、安易な使用は避けるべきです。
Q2: BHAは毎日使っても良いのでしょうか?
A2: 製品の濃度や処方、そして個人の肌質によります。低濃度の洗顔料などであれば毎日使用できるものもありますが、高濃度の美容液やピーリング剤の場合は、週に数回の使用が推奨されることが一般的です。使い始めは週2〜3回程度からスタートし、肌に赤みや乾燥、つっぱり感などの刺激が出ないか注意深く観察しながら、最適な頻度を見つけることが重要です。肌のバリア機能を損なわないためにも、「やりすぎ」は禁物です。
Q3: BHAを使った後、日焼けしやすくなりますか?
A3: はい、その可能性があります。BHAには角質層を整える作用があるため、肌表面の古い角質が除去されます。これにより、肌は紫外線に対して通常より敏感になることがあります28。BHAを使用している期間中は、日中の紫外線対策が特に重要になります。季節や天候に関わらず、毎日必ず日焼け止め(SPF30以上、PA+++以上を推奨)を使用し、こまめに塗り直すことを徹底してください。

結論

本記事では、BHA(サリチル酸)について、科学的根拠に基づき多角的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認します。

  • BHAは科学的根拠のある有効成分: BHAは、デスモリティック作用と脂溶性という特性により、毛穴、ニキビ、さらには光老化に対しても有効性が証明されています7
  • 日本の規制を理解することが鍵: 日本では「化粧品」と「医薬部外品」の分類で配合できる濃度が全く異なります。角質ケアを主目的とするなら、「医薬部外品」で「有効成分:サリチル酸」と表示された製品を選ぶことが重要です56
  • 併用には知識が必要: レチノールや高濃度の純粋型ビタミンCとの自己流での同時併用は、過剰な刺激のリスクがあるため避けるべきです。朝晩で使い分けるなどの工夫が求められます1820
  • ナイアシンアミドは最高のパートナー: BHAとナイアシンアミドの組み合わせは、互いの効果を高め、刺激を緩和する理想的なコンビです925
  • 保湿は絶対条件: BHAを使用する際は、肌のバリア機能を守るために、セラミドなどによる保湿ケアが不可欠です。

BHAは、正しく理解し、賢く使えば、あなたの肌悩みを解決に導く強力な味方となります。しかし、この記事はあくまでもスキンケアに関する情報提供を目的としています。特に、重度のニキビや敏感な肌状態に悩んでいる場合、あるいは医療機関での高濃度ピーリングを検討している場合は、自己判断せず、必ず皮膚科専門医に相談してください。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合や、健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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