この記事の科学的根拠
この記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下に、本稿で提示される医学的ガイダンスに直接関連する主要な情報源を記載します。
- 日本皮膚科学会(JDA): 本記事におけるニキビ(尋常性痤瘡)の定義、重症度分類、治療推奨(ケミカルピーリングやステロイド注射の推奨度など)、およびセルフケア(洗顔や食事指導)に関するガイダンスの多くは、日本皮膚科学会が発行した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」に基づいています34。
- 学術論文(黒川一郎医師ら): ニキビ跡の各種類(炎症後紅斑、炎症後色素沈着など)に対する治療選択肢や、スキンケア成分(ビタミンCなど)に関する記述は、日本のニキビ研究の第一人者である黒川一郎医師らの論文で示された知見を参考にしています5。
- 学術論文(Fabbrocini G, et al.): 萎縮性瘢痕(クレーター)の病態生理、すなわち炎症による真皮の破壊とコラーゲン再構築の異常に関する詳細な解説は、皮膚科学術誌に掲載された複数のレビュー論文、特にFabbrocini Gらの研究に基づいています67。
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA): フラクショナルレーザー「PicoSure Pro」が「にきび痕」の改善で日本の規制当局から承認を得ているという事実は、治療法の信頼性を示す重要な根拠となります8。同様に、色素レーザー「Vbeam」が血管性病変の治療で承認されていることも、その有効性を裏付けています9。
要点まとめ
- ニキビ跡の最善の治療は「予防」です。炎症のあるニキビを早期に皮膚科で治療することが、瘢痕化を防ぐ最も効果的な方法です1。
- ニキビ跡には「赤み(PIE)」「色素沈着(PIH)」「凹み(クレーター)」「盛り上がり(肥厚性瘢痕・ケロイド)」など様々な種類があり、それぞれ原因と治療法が異なります10。
- 凹みや盛り上がりのある瘢痕を自力で完全に治すことは困難であり、専門的な医療が必要です。フラクショナルレーザーやTCA CROSS、サブシジョンなどの治療が選択肢となります611。
- ニキビ跡治療の多くは、審美目的と見なされるため「自由診療」となります。例外的に、ケロイド治療などは「保険診療」の対象となる場合があります12。
- 治療成功の鍵は、自身の瘢痕タイプを正確に診断し、科学的根拠に基づいた治療計画を立てられる信頼できる専門医を見つけること、そして忍耐強く治療を続けることです。
ニキビ跡の正体:なぜ、どのようにしてできるのか?
ニキビ跡を正しく治療するためには、まずその成り立ちを理解することが不可欠です。ニキビは、顔や胸、背中などの毛包と皮脂腺からなる「毛包脂腺系」を舞台とする慢性的な炎症性疾患です1。そしてニキビ跡は、この炎症が鎮静化した後に残る、皮膚構造の変化に他なりません。
炎症から瘢痕へ:皮膚の奥深くで起きていること
重度のニキビでは、炎症が皮膚の表面(表皮)を越え、その下の構造を支える「真皮」にまで達します。この深い部分での炎症が組織を破壊することが、瘢痕形成の引き金となります6。私たちの皮膚には本来、傷を修復する「創傷治癒」の仕組みが備わっていますが、このプロセスが正常に機能しない場合にニキビ跡が残ります。
具体的には、真皮の主成分であるコラーゲン線維や、それを分解・再構築する酵素群(マトリックスメタロプロテアーゼ:MMPs)と、その働きを抑制する因子(TIMPs)のバランスが、激しい炎症によって崩れてしまうのです6。この「異常な創傷治癒プロセス」を道路工事に例えるなら、炎症は道路に開いた穴です。修復工事の際にアスファルト(コラーゲン)が不足すれば窪み(萎縮性瘢痕)となり、逆に過剰に盛り過ぎれば段差(肥厚性瘢痕)となってしまう、とイメージすると分かりやすいでしょう。
瘢痕化を防ぐ最大の鍵:ニキビの早期治療
複数の研究が、炎症の重症度と期間が瘢痕形成のリスクと強く関連していることを示しています6。この事実は、ニキビ跡を防ぐための最も重要な戦略を指し示しています。それは、「ニキビを早期に、かつ適切に治療し、炎症をコントロールすること」です。
この点について、日本皮膚科学会(JDA)の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」は、「軽症のニキビでも瘢痕を残しうる」と指摘し、「早期の治療により瘢痕は予防できる」と明確に推奨しています3。日本のニキビ治療は、かつての抗菌薬を中心とした対症療法から、アダパレンや過酸化ベンゾイルといった薬剤を用いてニキビの初期段階である面皰(めんぽう)から治療し、再発を防ぐ「維持療法」へと進化しました1。これは、医学界全体のコンセンサスが、できてしまったニキビを治すだけでなく、瘢痕という不可逆的な結果を防ぐ「予防」へと大きくシフトしていることを示しています。
あなたのニキビ跡はどのタイプ?写真でわかる見分け方
適切な治療法を選択するためには、まずご自身のニキビ跡がどのタイプに分類されるかを知ることが第一歩です。ニキビ跡は、大きく「色の変化」「皮膚の凹み」「皮膚の盛り上がり」の3つに大別されます。
A. 色の変化が気になるタイプ
これらは厳密には瘢痕ではありませんが、ニキビの後にしばしば見られる皮膚の変化です。
- 炎症後紅斑(えんしょうごこうはん / Post-Inflammatory Erythema: PIE): 炎症性のニキビが治った後に残る、平坦な赤みや紫色の斑点です。これは、炎症によって真皮の毛細血管が拡張し、血液がうっ血している状態が原因です10。通常、3ヶ月から半年ほどで自然に薄くなることが多いですが、それ以上持続することもあります10。
- 炎症後色素沈着(えんしょうごしきそちんちゃく / Post-Inflammatory Hyperpigmentation: PIH): ニキビの炎症によってメラノサイト(色素細胞)が刺激され、メラニンが過剰に作られて皮膚に沈着した結果生じる、平坦な茶色いシミです10。紫外線に当たることで色が濃くなりやすいため、徹底した紫外線対策が不可欠です13。
B. 皮膚が凹んでしまったタイプ(クレーター・萎縮性瘢痕)
ニキビ跡の中で最も多く、全体の80〜90%を占めるのがこのタイプです6。炎症による真皮のコラーゲンが純粋に減少・欠損することで生じ、その形状からさらに3つに分類されます。
- アイスピック型 (Ice-pick Scars): 氷のピックで刺したような、深く狭い(直径2mm未満)V字型の点状の凹みです。萎縮性瘢痕の約60〜70%を占めるとされています7。
- ボックスカー型 (Boxcar Scars): 辺縁がはっきりとした垂直な壁を持つ、円形から卵型の広い(直径1.5〜4mm)凹みで、まるで箱のようなU字型をしています。萎縮性瘢痕の約20〜30%を占めます7。
- ローリング型 (Rolling Scars): なだらかな辺縁を持つ、幅の広い(直径4〜5mm以上)波打つような形状の凹みです。真皮と下の皮下組織が線維性に癒着し、皮膚表面を下に引き込んでいることが原因です。萎縮性瘢痕の約15〜25%を占めます7。
C. 皮膚が盛り上がったタイプ
これは、創傷治癒の過程でコラーゲンが過剰に産生されることで生じます。
- 肥厚性瘢痕 (Hypertrophic Scars): 元のニキビの範囲内に留まる、硬く赤い盛り上がった瘢痕です6。
- ケロイド (Keloids): 元の傷の範囲を越えて周囲にまで増殖していく、より強い盛り上がりです。しばしば痒みや痛みを伴い、遺伝的な素因が関与することもあります10。
提案テーブル1:ニキビ跡の種類別 特徴早見表
種類 | 見た目の特徴 | 主な原因 | 好発部位 | セルフケアでの改善 |
---|---|---|---|---|
炎症後紅斑 (PIE) | 平らな赤み・紫み | 炎症による毛細血管の拡張・うっ血10 | 頬、あご10 | 時間経過で薄くなる可能性あり10 |
炎症後色素沈着 (PIH) | 平らな茶色いシミ | 炎症によるメラニンの過剰産生・沈着10 | 頬、あご10 | 時間経過で薄くなる可能性あり |
アイスピック型 | 深く狭いV字型の点状の凹み | 真皮深層に及ぶ強い炎症による組織破壊10 | 頬、こめかみ10 | 困難 |
ボックスカー型 | 辺縁が明瞭な四角いU字型の凹み | 真皮組織の欠損10 | 頬、こめかみ10 | 困難 |
ローリング型 | なだらかで波打つような広い凹み | 真皮と皮下組織の線維性癒着10 | 頬10 | 困難 |
肥厚性瘢痕 | 元の傷の範囲内の赤い盛り上がり | コラーゲンの過剰産生10 | あご、体10 | 困難 |
ケロイド | 元の傷を越えて広がる赤い盛り上がり | コラーゲンの異常な過剰産生10 | あご、体10 | 困難 |
科学的根拠に基づくニキビ跡治療のすべて
ここからは、本記事の中核となる治療法の解説です。各治療法のエビデンスレベル、作用機序、そして日本の医療制度における位置づけを明確にしながら、網羅的に見ていきましょう。
A. 治療の第一歩:知っておくべき「保険診療」と「自由診療」の違い
ニキビ跡治療を検討する上で、まず理解すべきは日本の医療制度における「保険診療」と「自由診療」の区別です。この違いを知らないまま医療機関を受診すると、期待と現実のギャップに戸惑うことになりかねません14。
- 保険診療: 国民健康保険が適用される治療で、患者の自己負担は原則3割です。主に、病気の治療を目的としています。一般的な皮膚科では、炎症を起こしている活動性のニキビを、この保険診療の範囲で治療します12。
- 自由診療: 保険適用外の治療で、費用は全額自己負担となります。主に、審美的な改善(美容)を目的としています。美容皮膚科や美容クリニックが提供する治療の多くがこれに該当します14。
レーザー、ケミカルピーリング、注入治療といったニキビ跡の治療のほとんどは、美容目的と見なされるため自由診療となります。ただし、将来の瘢痕化を防ぐための活動性ニキビの治療や、ケロイドに対する一部の治療(ステロイド注射など)は保険適用となる場合があります15。この区別を事前に理解しておくことで、最初から目的に合った適切な医療機関(活動性ニキビなら皮膚科、できてしまったニキビ跡なら美容皮膚科)を選ぶことができ、時間と労力の節約につながります。これは読者の皆様にとって非常に有用な情報であり、JHO編集委員会が強くお伝えしたい点です。
B. 【種類別】専門医が解説する治療法の選択肢
ここでは、前章の分類に対応させ、各ニキビ跡タイプに対する主要な治療法を、作用機序、保険適用の有無、費用の目安、リスクといった観点から詳しく解説します。
1. 赤み (PIE) の治療
持続する赤みの主な原因は、炎症によって拡張したままになった毛細血管です。治療はこれらの血管をターゲットにします。
- Vbeam(色素レーザー): 拡張した血管内のヘモグロビンに選択的に吸収される波長の光を照射し、血管を熱で収縮・破壊することで赤みを改善します16。この機器は血管性病変の治療において、日本の医薬品医療機器等法(PMDA)の承認を得ており、標準的な治療法の一つです9。通常、月1回ペースで3〜5回程度の治療が推奨されます16。【自由診療】
- IPL(光治療): 幅広い波長の光を照射する治療法で、赤みの改善にも効果が期待できます5。【自由診療】
- 外用薬: ビタミンC誘導体など、抗炎症作用を持つ成分が補助的に用いられることがありますが、これだけで持続する赤みを根本的に治療するのは難しいのが現状です5。
2. 色素沈着 (PIH) の治療
過剰に産生されたメラニンへのアプローチが治療の中心となります。
- 外用薬: 第一選択となります。メラニン生成を抑制するハイドロキノン、アゼライン酸、あるいは皮膚のターンオーバーを促進するレチノイド(トレチノイン)などが用いられます5。【自由診療】
- ケミカルピーリング: グリコール酸やサリチル酸マクロゴールなどの薬剤を皮膚に塗布し、メラニンを含む古い角質を剥がすことで、肌の再生を促します17。日本皮膚科学会のガイドラインでは、活動性ニキビに対してグリコール酸ピーリングが推奨度C1(選択肢の一つとして推奨)とされており、これが間接的にPIHの改善にも寄与する可能性があります18。【自由診療】
- レーザートーニング/ピコレーザー: 低出力のQスイッチレーザーや、より短いパルス幅を持つピコ秒レーザーを照射する方法です。熱によるダメージを抑えながら衝撃波でメラニン色素を細かく砕くため、炎症後の色素沈着治療に適しています17。【自由診療】
3. 凹み・クレーター (萎縮性瘢痕) の治療
失われた真皮組織の再生、すなわちコラーゲンの産生を促すことが治療の核となります。
- フラクショナルレーザー: 萎縮性瘢痕治療のゴールドスタンダードとも言える治療法です。レーザーで皮膚に目に見えないほどの微細な熱損傷の柱を無数に作り、その傷を治そうとする自己治癒能力を利用して、コラーゲンの再構築と皮膚全体の再生を強力に促します6。特に、サイノシュア社のPicoSure Proは「にきび痕」の改善でPMDAの承認を得ており、その有効性と安全性が公的に認められています8。【自由診療】
- TCA CROSS: 特に深いアイスピック型の瘢痕に有効な専門的治療法です。高濃度のトリクロロ酢酸(TCA)を綿棒などで瘢痕の底にピンポイントで塗布し、強力な化学反応によって真皮深層からのコラーゲン産生を促します6。【自由診療】
- マイクロニードリング(ダーマペンなど): 「コラーゲン誘導療法」とも呼ばれます。極細の針で皮膚に微小な穴を多数開けることで創傷治癒反応を引き起こし、コラーゲンやエラスチンの増生を促します11。【自由診療】
- サブシジョン: 特に、癒着が原因であるローリング型の瘢痕に適した治療法です。特殊な針を皮下に挿入し、瘢痕を下に引き込んでいる硬い線維性の癒着を物理的に剥離・切断することで、皮膚の凹みを持ち上げます11。【自由診療】
- 注入剤(ヒアルロン酸など): ボックスカー型やローリング型の凹みの下に直接ヒアルロン酸などを注入し、物理的に皮膚を持ち上げて平坦にする治療法です。即時的な効果が得られますが、吸収されるため効果は永続的ではありません。日本皮膚科学会ガイドラインでは推奨度C2(行ってもよいが、科学的根拠が十分でない、または保険適用外)とされています4。【自由診療】
4. 盛り上がり (肥厚性瘢痕・ケロイド) の治療
過剰に増殖したコラーゲン線維と、それに伴う炎症を抑制することが治療の目的です。
- ステロイド局所注射: 最も標準的な治療法の一つです。炎症を強力に抑え、線維芽細胞の活動を抑制することで瘢痕を平坦化させます。日本皮膚科学会ガイドラインでも推奨度C1(選択肢の一つとして推奨)とされています4。ケロイドの治療では保険適用となる場合があります。
- その他の選択肢: シリコンジェルシートによる圧迫療法、色素レーザー(赤みに対して)、トラニラストの内服、難治例に対する外科的切除と術後の放射線治療の組み合わせなどがあります11。
提案テーブル2:ニキビ跡の種類別 治療法マトリックス
瘢痕タイプ | 治療法 | 作用機序 | 保険適用 | JDA推奨度 | PMDA承認 | 費用目安(自由診療) | ダウンタイム・注意点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
赤み (PIE) | Vビーム(色素レーザー) | 拡張した毛細血管を収縮・破壊16 | 自由診療 | 記載なし | あり(血管病変)9 | 1万5千円~/回 | 軽度の赤み、内出血のリスク |
色素沈着 (PIH) | 外用薬(ハイドロキノン等) | メラニン生成抑制、ターンオーバー促進5 | 自由診療(一部処方薬あり) | 記載なし | – | 5千円~ | 皮膚刺激、赤み |
ケミカルピーリング | 角質層を剥離しターンオーバー促進17 | 自由診療 | C1(活動性ニキビに)18 | – | 1万円~/回 | 赤み、乾燥、皮むけ | |
ピコレーザー(トーニング) | 衝撃波でメラニンを微細に破壊17 | 自由診療 | 記載なし | あり(色素性病変)8 | 2万円~/回 | 軽度の赤み、ダウンタイムは短い | |
アイスピック型 | TCA CROSS | 高濃度TCAで瘢痕底からコラーゲン造成6 | 自由診療 | 記載なし | – | 5千円~/箇所 | 点状のかさぶた、色素沈着リスク |
ボックスカー型 | フラクショナルレーザー | 微細な熱損傷でコラーゲン再構築を促進6 | 自由診療 | 記載なし | あり(PicoSure Pro等)8 | 3万円~/回 | 赤み、腫れ、点状のかさぶた |
ローリング型 | サブシジョン | 皮下の線維性癒着を剥離し凹みを改善11 | 自由診療 | 記載なし | – | 4万円~/部位 | 内出血、腫れ |
肥厚性瘢痕・ケロイド | ステロイド局所注射 | 炎症と線維芽細胞の増殖を抑制4 | 保険適用あり | C14 | – | – | 皮膚萎縮、毛細血管拡張のリスク |
ニキビ跡を悪化させない・増やさないためのセルフケア
専門的な治療と並行して、日々のセルフケアを徹底することは、新たなニキビ跡の形成を防ぎ、治療効果を高める上で非常に重要です。
A. 紫外線対策:色素沈着を防ぐための絶対ルール
セルフケアにおける最も重要なステップは、紫外線対策です。紫外線は、炎症後色素沈着(PIH)を濃くする最大の要因であるだけでなく、皮膚の炎症を悪化させる可能性もあります19。季節や天候を問わず、毎日、広域スペクトル(UVAとUVBの両方を防ぐ)のSPF30以上の日焼け止めを使用することを強く推奨します20。
B. 保湿とバリア機能:肌の回復力を支える
乾燥して皮膚のバリア機能が低下した肌は、外部からの刺激に弱くなり、炎症が長引いたり、治癒が遅れたりする傾向があります19。特に、レチノイドや過酸化ベンゾイルなど、乾燥を伴いやすい医薬品による治療中は、ニキビの原因になりにくい「ノンコメドジェニック」処方の保湿剤を使用することが不可欠です4。
C. 摩擦を避ける・優しい洗顔
肌をゴシゴシと強くこする洗顔や、頻繁に顔を触る習慣は、物理的な刺激となり、炎症後色素沈着(PIH)を悪化させる原因になりえます19。日本皮膚科学会のガイドラインでは、1日2回の洗顔が推奨されています18。洗顔料をよく泡立て、優しくなでるように洗い、ぬるま湯で丁寧にすすぎましょう。
D. 注目すべきスキンケア成分
医学的治療を補完し、肌の健康をサポートする可能性のある成分がいくつか報告されています。
- ビタミンC: 強力な抗酸化作用を持ち、コラーゲン産生を助け、メラニン生成を抑制する効果が期待できます5。
- ナイアシンアミド: 抗炎症作用や、皮膚のバリア機能をサポートする効果が知られています。
- アゼライン酸: 穏やかな抗炎症作用と、色素沈着を改善する効果が報告されています5。
- 植物由来成分: ホワイトティーエキス21やシーウィップエキス22など、一部の植物抽出物には抗炎症作用が示唆されていますが、これらはあくまで補助的な役割であり、医学的治療の代替にはならないことを理解しておく必要があります。
E. 食事と生活習慣:科学的根拠に基づくアドバイス
「チョコレートや揚げ物がニキビの原因」といった俗説が広く信じられていますが、これには注意が必要です。日本皮膚科学会のガイドラインは、特定の食品を一律に制限することに対し、科学的根拠が乏しいとして推奨度C2(行うことを推奨しない)としています4。これは、特定の食品が「誰にでも」悪影響を与えるというエビデンスはない、ということを意味します。
ただし、近年の研究では、血糖値を急激に上げる高GI(グリセミック・インデックス)食が、一部の人のニキビを悪化させる可能性を示唆するものもあります23。権威ある情報源からのアドバイスは、「もしご自身の経験上、特定の食べ物でニキビが悪化すると感じるものがあれば、それを避けるのが賢明である」という、科学的かつバランスの取れた、より個人に寄り添った視点を提供しています。
よくある質問
ニキビ跡は自力で完全に消せますか?
治療にはどのくらいの期間と回数がかかりますか?
治療は痛いですか?
皮膚科と美容皮膚科、どちらに行くべきですか?
- 皮膚科(保険診療中心): 現在、炎症を起こしている赤いニキビや膿を持ったニキビ(活動性ニキビ)がある場合は、まずはこちらを受診してください。将来のニキビ跡を防ぐための、保険が適用される治療(抗菌薬、アダパレン、過酸化ベンゾイルなど)が中心となります。
- 美容皮膚科(自由診療中心): 活動性のニキビは落ち着いており、主に関心があるのが「できてしまったニキビ跡」の改善である場合は、こちらが専門です。レーザーやケミカルピーリングなど、審美的な改善を目的とした保険適用外の治療を専門的に行っています。
治療費はどのくらいかかりますか?
結論
ニキビ跡との闘いは、時に長く、根気のいる道のりです。しかし、科学技術の進歩により、かつては不可能と考えられていた瘢痕の改善も、今日では現実的な目標となりました。この記事を通じて、JHO編集委員会が皆様に最もお伝えしたい核心的なメッセージを、改めてここに要約します。
- 予防が最善の治療: 最も効果的で、最も賢明な戦略は、ニキビ跡が定着する前に、活動性のニキビを早期に、そして積極的に皮膚科医のもとで治療することです1。
- 自分の瘢痕を知る: あなたのニキビ跡は赤みですか、凹みですか?その形状は?自身の瘢痕タイプを正しく見極めることが、無駄のない適切な治療法を見つけるための、不可欠な羅針盤となります。
- 専門家への相談: 万能な治療法は存在しません。ニキビ跡治療の成功は、あなたの肌と瘢痕の状態を正確に診断し、科学的根拠に基づいた個別の治療計画を立ててくれる、信頼できる専門医との出会いにかかっています。
- 忍耐と継続: 瘢痕治療は短距離走ではなく、マラソンです。一度の治療で劇的に変わることを期待するのではなく、現実的な期待値を持ち、日々の紫外線対策といったセルフケアを含めた治療を根気強く続けることが、最終的に最良の結果へとつながります。
この記事が、ニキビ跡に悩むあなたの不安を和らげ、希望を持って次の一歩を踏み出すための一助となることを心から願っています。
本記事は、医学的な情報提供を目的としており、専門的な医学的アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、または治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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