【科学的根拠に基づく】卵白パックのすべて:美白と引き締め効果の科学的真実と、サルモネラ感染および重篤なアレルギー誘発の危険性についての徹底解説
皮膚科疾患

【科学的根拠に基づく】卵白パックのすべて:美白と引き締め効果の科学的真実と、サルモネラ感染および重篤なアレルギー誘発の危険性についての徹底解説

近年、自宅で行う美容法が広く普及し、その中でも「卵白パック」は自然で安価、そして効果的と謳われる解決策として注目を集めています。特にソーシャルメディアや個人のブログなどを通じて、肌を明るく引き締め、髪に輝きを与えるという約束が拡散されています1。この流行は、「自然なものはより良い」という一般的な信念を反映していますが、同時に民間伝承と皮膚科学・微生物学の現実との間に深刻な乖離を生み出しています。本報告書は、生の卵白を皮膚や髪に塗布することに関連する効果の主張、作用機序、そして重大な危険性について、科学的根拠に基づいた包括的な検証を行うものです。一般に信じられている効果に関する神話を体系的に分析・反証し、一時的な利益の「錯覚」と、文書化された深刻な健康被害との間に明確な境界線を引きます。最終的に明らかにされるのは、この実践に伴う危険性が、存在しない利益をはるかに上回るという事実であり、より安全で実証済みの代替策が常に利用可能であるという結論です。

この記事の科学的根拠

本稿は、入力された研究報告書において明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針への直接的な関連性を示します。

  • 複数の皮膚科学・微生物学論文および公衆衛生機関の指針: 本記事における「卵白パックの美容効果は科学的根拠に乏しく、物理的な錯覚に過ぎない」との指摘は、HealthlineやMedical News Todayなどの医療情報サイトでレビューされた科学的コンセンサスに基づいています567
  • 日本皮膚科学会および日本アレルギー学会のガイドライン: 「損傷した皮膚へのアレルゲン塗布が経皮感作を引き起こし、新たな食物アレルギーを発症させる危険性」に関する警告は、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインなどで示されている「二重アレルゲン曝露仮説」に基づいています2425
  • 日本国厚生労働省(MHLW)および食品安全委員会の指針: 「生の鶏卵に含まれるサルモネラ菌による感染症リスク」に関する記述は、これらの公的機関が定める食品安全基準と衛生管理指針に準拠しています2829
  • 臨床症例報告: 「卵白パックの使用により、これまでアレルギーがなかった成人が重篤な鶏卵アレルギーを発症した事例」は、実際に報告された症例研究に基づいています20

要点まとめ

  • 卵白パックによる「美白」や「肌の引き締め」効果は、科学的根拠のない物理的な錯覚に過ぎません。タンパク質が乾燥する際の収縮による一時的な感覚であり、生物学的な改善ではありません。
  • 生の卵白を皮膚に塗る行為は、サルモネラ菌による深刻な細菌感染症の危険性を伴います。特に、にきびや微小な傷がある皮膚からは、菌が体内に侵入する可能性があります。
  • 最大の危険性は「経皮感作」です。これまで鶏卵アレルギーがなかった人でも、皮膚を通して卵のタンパク質に感作されることで、生涯にわたる重篤な食物アレルギーを新たに発症する可能性があります。
  • 卵白に含まれるアルブミンなどのタンパク質は分子が大きすぎて皮膚のバリアを通過できないため、「肌に栄養を与える」ことは生物学的に不可能です。
  • 肌の美白、引き締め、にきび対策には、ビタミンC誘導体、レチノイド、サリチル酸など、臨床的に有効性が証明され、安全性が確立された化粧品成分を使用することが強く推奨されます。

第I部:主張される肌への利益の批判的検証:錯覚と現実

本セクションでは、卵白パックに関して最も一般的に主張される効果を体系的に取り上げ、伝聞に基づく信念と科学的原則とを対比させます。

「美白・美肌」という主張:科学的根拠の欠如

一般的な主張
この方法の支持者の多くは、卵白パックが肌を「白くする」または「明るくする」効果があると主張し、中にはメラニン合成を抑制できると示唆する者さえいます4。これは最も魅力的な約束の一つであり、肌の色調改善を期待して多くの人々がこの方法を試す動機となっています。

科学的反論
皮膚科学および生化学の文献を徹底的に調査した結果、この主張を裏付ける科学的証拠は完全に欠如していることが明らかになりました5。卵白に含まれるいかなる化合物も、局所的に塗布した場合にチロシナーゼ(メラニン生成における主要酵素)を阻害したり、皮膚の色素を薄くしたりする能力を持つとは証明されていません。報告されている「肌が明るくなった」という効果は、一時的な皮膚のつっぱり感や、表面の汚れが取り除かれたことに対する誤った解釈である可能性が高く、実際の肌の色調の変化ではありません。信頼できる医療情報源は、美白効果を含め、卵白が肌にもたらすとされる利益を裏付ける科学的証拠は存在しないと断言しています5。これに反する主張は、ほとんどが逸話的なものであり、科学的な裏付けを欠いています4

これは、「美白」という主張が、健康・美容分野における確証バイアス(自らの期待に沿う情報ばかりを集めてしまう心理現象)の典型例であることを示唆しています。利用者は、肯定的な結果を期待するあまり、パック後のつっぱり感や一時的な清浄感を「肌が明るくなった」と主観的に解釈してしまうのです。これは生理学的な根拠のない知覚であり、特定の成果を望む心が生み出した錯覚に他なりません。

「肌の引き締めと毛穴縮小」という錯覚:タンパク質凝固の物理現象

一般的な主張
これは、最も一般的に体感される利益です。ソーシャルメディアやブログの利用者は、卵白パックを使用した後に「リフトアップ」効果や「ボトックスのような」効果、そして毛穴が目に見えて小さくなったと頻繁に報告しています1

物理的なメカニズム
この引き締め感は、皮膚の弾力性やコラーゲンに対する生物学的な作用によるものではありません。それは完全に物理的な現象です。卵白に含まれる水分が蒸発すると、タンパク質であるアルブミンが凝固・乾燥し、皮膚の表面に収縮する薄い膜を形成します7。この膜が物理的に皮膚を引っ張り、一時的なつっぱり感と毛穴が縮んだかのような錯覚を生み出すのです。この効果は完全に一時的かつ表面的であり、しばしば真の効果と誤解されます7

逆効果と負の結果
この引き締め効果は一時的なもので、パックを洗い流すとすぐに消えてしまいます6。さらに、この乾燥プロセスは皮膚から水分を奪い、脂性肌タイプでは皮脂の過剰分泌を引き起こす可能性があります(リバウンド効果)7。乾燥した膜がひび割れる際には、微細なしわを生成または悪化させることさえあり得ます3。毛穴が「閉じる」という主張は生物学的に不可能です。なぜなら、毛穴は開閉するための筋肉を持たない固定された構造だからです7。一部の料理関連の情報源も、卵白タンパク質が凝固する際の保水(および失水)特性を説明しており、皮膚上での乾燥プロセスとの有益な類似性を提供しています9

ここには深い逆説が存在します。支持者が賞賛する主要な利益は、実際には皮膚科学的に望ましくないプロセス(脱水と膜形成)の直接的な結果なのです。肯定的な効果の錯覚を生み出すメカニズムそのものが、皮膚のバリア機能を損ない、否定的な結果につながる可能性のあるメカニズムであるということです。これは、この自家製療法の危険性を浮き彫りにする根本的な矛盾です。

皮脂吸収とにきび抑制の神話:皮脂と細菌に関する誤解

一般的な主張
卵白パックは、過剰な皮脂を吸収し、にきびと戦うための抗菌特性を持つと主張され、しばしば脂性肌やにきびができやすい肌に推奨されます5

皮脂吸収能力の否定
卵白にはその乾燥性から軽度の収れん作用があり、表面のテカリを一時的に減少させるかもしれません。しかし、化粧品用の粘土(例:ベントナイト、カオリン)や活性炭のような実証済みの成分が行うような方法で、皮脂と化学的に相互作用したり吸収したりすることはありません7。前述の通り、過度の乾燥はリバウンド効果を引き起こし、最終的に脂性の状態を悪化させる可能性があります7

リゾチームに関する誤解
抗菌性の主張は、卵白に含まれる酵素であるリゾチームに焦点を当てています10。リゾチームが抗菌特性を持つことは事実ですが、その効果は主にグラム陽性菌に対して、そのペプチドグリカン細胞壁を分解することによって発揮されます12。グラム陰性菌に対する効果ははるかに弱いものです12

にきび菌への無効性
尋常性ざ瘡(にきび)に関連する主要な細菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes、旧名Propionibacterium acnes)はグラム陽性菌ですが、局所的に塗布された卵白パック中のリゾチーム濃度が、臨床的に意味のある効果を及ぼすほど十分であるという信頼できる証拠はありません7。アクネ菌に対するリゾチームの効果を示したある研究では、特殊な製剤(マイクロバブル)中で超音波と組み合わせて使用しており、これは単純な自家製パックとは全く異なる状況です14

より大きな危険性
重要なことは、炎症を起こした、あるいは傷のある皮膚(すなわち活動性のにきび)に生の卵を塗布することは、サルモネラ菌のような病原性細菌にとって完璧な侵入経路を作り出すということです。これにより、証明されていない潜在的な利益よりもはるかに危険な二次感染のリスクが生じます6

第II部:生化学的現実:なぜ卵白タンパク質は皮膚を「養う」ことができないのか

本セクションでは、分子科学の観点から、なぜ利益に関する主張が生物学的に成り立たないのかを掘り下げて解説します。特に、皮膚が持つ保護バリア機能に焦点を当てます。

アルブミン:皮膚を透過できない巨大タンパク質

分子のバリア機能
皮膚、特にその最外層である角質層(stratum corneum)は、異物、病原体、そして巨大分子の侵入を防ぐ効果的な保護バリアとして機能します5。この構造は、体を外部環境から守るために設計されています。

アルブミンの真の役割
アルブミンは卵白およびヒト血漿中に最も豊富に存在するタンパク質です5。体内におけるその生理学的役割は極めて重要であり、膠質浸透圧の維持、ホルモンや薬物の輸送、抗酸化物質としての機能などが挙げられます15

局所的利益の不可能性
アルブミンは巨大なタンパク質です(ヒト血清アルブミンの質量は約66.5 kDa)。このサイズの分子は、皮膚の保護バリアを透過してコラーゲンが生成される真皮層に到達することはできません5。したがって、局所的にアルブミンを塗布することが肌を「養い」、「コラーゲンを増強し」、あるいは「弾性線維を若返らせる」2といった主張には、いかなる生物学的根拠もありません。

誤解を招く研究の分析
卵白パックの宣伝は、しばしば科学コミュニケーションにおける文脈の崩壊に依存しています。ある物質の全身的な利益に関する正当な科学研究が、その本質的な文脈(投与方法、生物学的環境)を剥奪され、全く異なる非効率的な文脈(局所塗布)に誤って適用されるのです。PubMedに掲載されているいくつかの研究はアルブミンの利点を示していますが、それらは経口摂取17、注射・血清濃度15、または先進的なナノ粒子送達システム19に関するものです。これらの文脈は、単純な自家製パックとは全く無関係です。これらを自家製パックの証拠として引用することは、科学的知見の深刻な誤用です。正確な文脈に置かれた場合、科学的証拠は実際には外用パックの主張を否定します。

リゾチーム:標的を誤り、免疫学的に不適切な抗菌兵器

自然免疫におけるリゾチームの機能
リゾチームは自然免疫系の基盤であり、涙や唾液などの分泌物中に見られ、細菌に対する第一線の防御を提供します12。その機能は細菌の細胞壁を分解し、溶菌を引き起こすことです。

局所的なにきび治療として失敗する理由
1.3節で述べたように、パック中のリゾチームの効果は証明されておらず、取るに足らない可能性があります7。さらに、その活性はpHに依存するため20、皮膚上の条件は最適ではないかもしれません。それは、体の制御されたシステム内部に属する強力な生物学的薬剤であり、化粧品として顔に塗布するためのものではありません。

免疫調節の役割
直接的な殺菌作用に加え、リゾチームは免疫応答の調節において複雑な役割を果たします。細菌を破壊し、パターン認識受容体を活性化する細胞断片(ペプチドグリカンなど)を放出し、炎症を促進または解消する可能性があります13。外部から非ヒト由来のリゾチームを皮膚に塗布することは、この精巧に調節されたシステムの誤用であり、理論的には予測不能な免疫学的結果をもたらす可能性がありますが、依然として主要なリスクはアレルギーです。

第III部:皮膚科学的および微生物学的リスクの包括的評価

これは本報告書の最も重要な部分であり、支持者がしばしば見過ごす、証拠に基づいた重大な危険性を詳述します。

アレルギー誘発の危険性:接触皮膚炎から生命を脅かすアナフィラキシーまで

鶏卵アレルギーは一般的な病状
鶏卵アレルギーは、特に小児において最も一般的な食物アレルギーの一つです21。反応は、軽度の皮膚発疹(じんましん、湿疹)から、生命を脅かす重篤なアナフィラキシーまで多岐にわたります21

局所塗布の危険性
危険な誤解の一つに、アレルゲンは摂取した場合にのみ問題となるというものがあります。局所的な接触もまた、既にアレルギーを持つ人において反応を引き起こす可能性があります6

経皮感作の深刻な脅威
これは最も重要かつ最も理解されていないリスクです。
メカニズム: 潜在的なアレルゲン(卵タンパク質など)が皮膚、特にバリア機能が損なわれた皮膚(例:湿疹・アトピー性皮膚炎、にきび、微小な傷)に塗布されると、皮膚内の免疫細胞がそれに「感作」されることがあります24
結果: このプロセスは、以前は問題なく卵を食べることができた人に、新たな全身性の食物アレルギーを誘発する可能性があります。その後の卵の摂取が、本格的なアレルギー反応を引き起こすことがあるのです。
証拠: この現象は「二重アレルゲン曝露仮説」によって裏付けられています24。ある説得力のある症例研究では、卵アレルギーの既往歴がなかった51歳の女性が、長年卵白パックを使用した後に、医療処置を必要とする重篤なアレルギーを発症したことが報告されています20。日本皮膚科学会および日本アレルギー学会のガイドラインは、アトピー性皮膚炎(損なわれた皮膚バリア)と食物アレルギー発症との間の関連性を強く強調し、経皮感作による食物アレルギーを予防するために湿疹の早期治療を推奨しています24。「パッチテスト」4の助言はこのリスクを危険なほど軽視しており、一度のテストでは感作の長期的な進展を予測することはできません。

目に見えない微生物の脅威:サルモネラ菌と二次感染

生卵におけるサルモネラ菌の現実
生の鶏卵は、重篤な食中毒を引き起こす可能性のあるサルモネラ菌のよく知られた媒介源です1

パックからの感染経路
偶発的な摂取: パックが口に流れ込むことは容易に起こり得ます6
皮膚からの侵入: 細菌は、切り傷、擦り傷、または活動性のにきびなど、皮膚の開いた傷口から体内に侵入する可能性があります6。これは、二次的な皮膚感染症や、さらには全身感染症につながる恐れがあります。

公衆衛生上の警告
卵白パックの実践は、あらゆる食品安全の原則に違反しています。日本の厚生労働省(MHLW)や食品安全委員会のような公衆衛生機関は、料理の文脈で生の卵を取り扱うための厳格な手順(冷蔵保存、ひびの入った卵を避ける、十分な加熱、速やかな消費)を定めています2829。生の卵を体温で、しばしば損傷した皮膚の上で長時間(15分以上)放置することは、これらの安全指導のすべてに完全に反する行為です5。「新鮮な」または「有機栽培の」卵を使用するという助言3は、安全性の誤った感覚を生み出す危険な誤解です。サルモネラ菌の汚染は、鮮度や飼育方法とは、局所使用の安全性を保証できるような形では関連していません。

交差汚染
非調理環境(例:浴室)で生の卵を使用することは、洗面台やカウンターなどの表面への交差汚染のリスクを高くし、使用者本人や同居する他の家族を危険にさらします6

表1:生の卵白の局所塗布に関するリスク・ベネフィット分析
この表は、本報告書の核心的な知見を要約し、根拠のない主張と文書化されたリスクを直接対比させるものです。

主張される利益 科学的現実 関連するリスク リスクレベル 主要な証拠
美白効果 証拠なし。既知のメカニズムなし。「明るく見える」効果は錯覚。 経皮感作による新たな食物アレルギー発症。 5
毛穴縮小・肌の引き締め 一時的な物理的乾燥膜効果。洗い流せば消える錯覚。 脱水、皮脂のリバウンド分泌、微小なしわの形成、皮膚刺激。 中〜高 3
にきび抑制 効果なし。リゾチーム濃度が不十分。にきび病変部での二次感染リスク。 損傷皮膚からのサルモネラ菌感染、アレルギー性接触皮膚炎。 7
肌への「栄養補給」 タンパク質(アルブミン)が大きすぎて皮膚バリアを透過できない。生物学的利益なし。 経皮感作、細菌の交差汚染。 5

第IV部:「輝く髪」という主張への対処

主張

利用者の検索クエリは、髪を「サラサラにする」ことにも言及しています。一部の口承では、卵白が髪をコンディショニングできると示唆されています26

髪におけるタンパク質の現実

髪も皮膚と同様に、外側に保護的なキューティクル層を持っています。コンディショナーに含まれる一部のタンパク質は、キューティクルの隙間を一時的に埋めて滑らかにすることができますが、卵白はその目的のために処方されていません。

害を及ぼすリスク

卵白のような未加工のタンパク質を塗布すると、「タンパク質の過剰蓄積」につながり、毛幹にタンパク質が蓄積して、髪を乾燥させ、硬く、もろくする可能性があります。アルブミン膜の乾燥効果は、皮膚への影響と同様に、髪の水分を奪う可能性があります。

証拠の欠如と内在するリスク

卵白をヘアコンディショナーとして使用することを支持する科学的証拠はありません。アレルギーや細菌感染に関する同様のリスクはすべて適用され、混合物が顔や頭皮に流れ落ちる可能性はさらに高くなります。

第V部:結論と証拠に基づく推奨:輝く肌と髪への真の秘訣

卵白パックに関する最終判断:医学的根拠がなく、容認できないリスク

調査結果を統合すると、卵白パックの利点とされるものは、生物学的なものではなく、物理的な効果に基づく一時的な錯覚に過ぎないと結論付けられます。これらの主張は科学的に証明されていません。対照的に、生涯にわたる食物アレルギーを引き起こす可能性(経皮感作)、サルモネラ菌による重篤な細菌感染、接触皮膚炎などのリスクは、科学的に文書化されており、非常に重大です。したがって、最終的かつ断固たる推奨は、この実践を完全に避けることです。これは無害な「自然」療法ではなく、証明された利益をもたらさない高リスクな行為です。卵は台所に属し、適切な食品安全対策をもって取り扱われ、その栄養価から利益を得るためにバランスの取れた食事の一部として消費されるべきものです2

美容目標へのより安全で効果的な道

根拠のない方法を追求する代わりに、証明された解決策に焦点を当てることが、美容目標を達成するための賢明で安全な道です。

  • 美白・肌のトーンアップには:ビタミンC(L-アスコルビン酸)、ナイアシンアミド、アゼライン酸、レチノイドなど、臨床的に証明された成分を使用します。これらの物質は、メラニン生成を抑制し、細胞のターンオーバーを促進し、抗酸化作用を提供することによって機能します。
  • 肌の引き締めと毛穴の目立ち改善には:レチノイドやペプチドなど、コラーゲン生成を促進する成分を使用します。毛穴をきれいにし、目立たなくするためには、サリチル酸(BHA)や化粧品用粘土などの成分が効果的な選択肢です。
  • にきびができやすい肌には:過酸化ベンゾイル、サリチル酸、レチノイドなどの実証済みの治療法があります。これらの成分は、細菌を殺し、角質を除去し、細胞のターンオーバーを正常化することで、にきびの根本原因に対処します。
  • 輝く健康的な髪には:加水分解タンパク質(効果を発揮するのに十分小さい)や、キューティクルを滑らかにして輝きを与えるシリコンベースの製品を含む、適切に処方されたコンディショナーやヘアマスクを使用します。

健康的な生活習慣の重要性:最終的に、真の肌と髪の健康は、バランスの取れた食事(卵の摂取が有益である可能性がある2)、紫外線からの保護、そして一貫した証拠に基づくスキンケア習慣を含む、包括的なアプローチから生まれます。これにより、本報告書は出発点に戻り、摂取された場合の卵の栄養価を肯定しつつ、その局所使用を非難することで締めくくります。

よくある質問

卵白パックは本当に肌を引き締める効果があるのですか?

その引き締め感は、卵白の水分が蒸発し、タンパク質が乾燥して皮膚表面に膜を形成することによる、純粋に物理的で一時的なものです7。肌の弾力性を改善したり、コラーゲンを増やしたりするような生物学的な効果はありません。洗い流せば、その効果は完全に失われます。

にきび肌に卵白パックを使っても安全ですか?

安全ではありません。実際には非常に危険です。卵白には、にきびの主原因であるアクネ菌に対して臨床的に意味のある抗菌効果はありません7。それどころか、活動性のにきびや微小な傷は、生の卵に含まれる可能性のあるサルモネラ菌の侵入経路となり、深刻な二次感染を引き起こす可能性があります6

「オーガニック」や「新鮮な」卵を使えば安全ですか?

いいえ、安全ではありません。サルモネラ菌の汚染リスクは、卵の鮮度や「オーガニック」であるかどうかによって排除されるものではありません35。どのような生の卵でも、皮膚に塗布することは公衆衛生上の安全基準に反する行為であり、推奨されません。

卵アレルギーがない人なら、卵白パックを使っても問題ありませんか?

問題ないとは言えません。最大の懸念は、現在アレルギーがない人でも、皮膚を通して卵タンパク質に感作される「経皮感作」によって、新たに重篤な鶏卵アレルギーを発症する可能性があることです24。実際に、卵白パックの使用が原因で成人が鶏卵アレルギーを発症した症例も報告されています20。このリスクは、証明されていない僅かな美容効果をはるかに上回ります。

では、肌を明るくし、毛穴を目立たなくするにはどうすればよいですか?

科学的に有効性が証明されている化粧品成分に頼ることが最善です。肌を明るくするにはビタミンC誘導体やナイアシンアミド、毛穴の目立ちや肌のハリにはレチノイドやサリチル酸(BHA)が効果的です。これらは、皮膚科医によって推奨され、安全性が確認された成分です。

結論

総合的な科学的分析の結果、卵白パックは美容法として推奨できない、という結論に達します。主張されている利益は、生物学的な改善ではなく、物理的な錯覚に過ぎません。その一方で、サルモネラ菌感染症や、生涯にわたる食物アレルギーを誘発しかねない経皮感作といった、深刻かつ現実的な健康リスクが存在します。卵の栄養的価値は、安全な調理法で摂取することによってのみ得られるものです。真の美しさと健康は、科学的根拠に基づいた安全なスキンケアと、バランスの取れた生活習慣を通じて育まれるべきです。

免責事項

本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  27. Vietnam.vn. 生卵の白身を顔につけるのは危険ですか? [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://www.vietnam.vn/ja/dap-long-trang-trung-song-len-mat-co-bi-nhiem-khuan
  28. 食品安全委員会. 卵の安全性;サルモネラについて – Q&A詳細 [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://www.fsc.go.jp/fsciis/questionAndAnswer/show/mob20110900008
  29. 厚生労働省. 卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1007/h0722-1.html
  30. RESTA[レスタ]. サルモネラ属菌による食中毒を防ごう 過去の事例と飲食店が取るべき対策を紹介 [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://inuki-ichiba.jp/resta/inshokuten-syokuhin-eisei-salmonella/
  31. 一般社団法人新潟県食品衛生協会. 卵の衛生的な取扱いについて [インターネット]. [引用日: 2025年6月27日]. 入手先: https://www.n-shokuei.jp/eisei/sfs_egghandling.html
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