【科学的根拠に基づく】大腸がんの完全ガイド:日本の現状、原因、最新治療、そして予防と早期発見のすべて
がん・腫瘍疾患

【科学的根拠に基づく】大腸がんの完全ガイド:日本の現状、原因、最新治療、そして予防と早期発見のすべて

大腸がん(だいちょうがん)は、現代の日本において最も深刻な公衆衛生上の課題の一つとなっています。国の統計データは、この問題の深刻さを明確に示しています。国立がん研究センターが公表した2024年のファクトシートによると、2019年には15万人以上が新たに大腸がんと診断されました。さらに憂慮すべきことに、2022年のデータでは、大腸がんは肺がんに次いで日本人のがんによる死亡原因の第2位であり、女性においては死亡原因の第1位となっています1。日本の医療は先進的であり、診断後5年相対生存率は71.4%と高い水準にありますが、年齢調整死亡率は他の先進国と比較して依然として高いグループに属しており、この事実はシステムの根本的な課題を示唆しています1。それは、多くのがんが、治癒の可能性が著しく低下する進行した段階で発見されているという現実です。しかし、この厳しい現実の中にも希望はあります。大腸がんは、生活習慣の改善によって予防可能性が高く、そして何よりも、定期的な検診によって早期に発見すれば極めて効果的に治療できるがんの一つです。本稿の目的は、単に情報を提供するだけでなく、国民一人ひとりが自らの健康を守るための知識と行動指針を提示することにあります。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したリストです。

  • 国立がん研究センター: 本記事における日本の大腸がん統計、危険因子、予防、および検診に関する指針の大部分は、同センターが公表した「大腸がんファクトシート」およびその他の公式発表に基づいています12
  • 米国予防医学専門委員会(USPSTF): 大腸がん検診の開始年齢に関する国際的な動向として、同委員会の推奨(45歳開始)を引用しています3
  • 絹笠祐介医師、金光幸秀医師らの臨床実践: 直腸がんに対するロボット支援手術の利点や、機能温存と根治性の両立を目指す日本の高度な外科技術に関する記述は、これらの専門家の見解や実績に基づいています5
  • NPO法人キャンサーネットジャパン: 治療後の生活や患者さんの声に関するセクションは、同法人が提供する患者さんの実体験に関する情報源を参考にしています6

要点まとめ

  • 大腸がんは日本人女性のがん死亡原因の第1位ですが、早期発見により治癒率が非常に高いがんです。
  • 食生活の改善(赤肉・加工肉を控える、食物繊維を増やす)、運動、禁煙、節酒は、発症の危険性を下げる効果的な予防策です。
  • 40歳からは症状がなくても、毎年必ず便潜血検査(FIT)による大腸がん検診を受けることが極めて重要です。
  • 検診結果が「要精密検査」となっても、必ずしもがんではありません。多くは前がん病変のポリープであり、内視鏡で切除することでがんを未然に防ぐ絶好の機会です。
  • 治療法は大きく進歩しており、内視鏡治療、腹腔鏡・ロボット手術など、根治を目指しつつも体への負担が少なく、生活の質を保つ方法が主流となっています。

大腸がんを理解する:原因と危険因子

大腸がんの予防と早期発見のためには、まずその危険因子を正しく理解することが不可欠です。これらは「変更不可能な因子」と「生活習慣によって変更可能な因子」の二つに大別されます。

変更不可能な危険因子

これらは個人では管理できない生来の要素ですが、これらを認識することで、ご自身の危険性の度合いを把握し、検診の重要性をより深く理解することができます。

  • 年齢: 大腸がんの危険性は年齢と共に著しく増加します。ほとんどの症例は50歳以上で発生しますが、日本では40代から罹患率が上昇し始めるため、国の検診プログラムも40歳から開始されます。
  • 家族歴と遺伝: 遺伝的要因は重要な役割を果たします。大腸がん患者の約20~30%は、家族にも同じ病気の人がいると報告されています。さらに、約5%はリンチ症候群や家族性大腸腺腫症(FAP)といった特定の遺伝性症候群が原因です。ご自身の家族(両親、兄弟姉妹、子)の病歴を把握することは極めて重要です。
  • ポリープやがんの既往歴: 過去に大腸がんや特定の種類のポリープ(特に腺腫)を切除した経験がある方は、再発や新たながんが発生する危険性が高まります。
  • 炎症性腸疾患(IBD): 潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性の炎症性腸疾患は、長期間にわたり大腸がんを発症する危険性を高めます。

変更可能な危険因子

これらは、一人ひとりが積極的に介入し、危険性を低減させることができる領域であり、予防の中心となります。日本人の食生活の「欧米化」は、罹患率増加の主要な原因の一つと考えられています。

  • 食生活: 食事と大腸がんの危険性には非常に強い科学的根拠が存在します。
    • 赤肉・加工肉: 牛肉や豚肉などの赤肉や、ハム・ソーセージなどの加工肉の過剰な摂取は、危険性を著しく高めます。国立がん研究センターは、この関連性を日本人男性において「確実」、女性において「可能性あり」と評価しています1
    • 食物繊維: 全粒穀物、野菜、果物から食物繊維を豊富に摂取する食事は、逆に危険性を減少させる保護的な効果があります1
  • 喫煙と飲酒: 両者ともに明確に証明された危険因子です。
    • 喫煙: 喫煙は、日本人において「確実」な危険因子と分類されています。日本の研究をまとめた分析によると、1日に20本以上喫煙する男性は約20%、女性では最大40%も大腸がんの危険性が高まります1
    • 飲酒: 飲酒もまた「確実」な危険因子です。危険性は摂取量に比例して増加します。例えば、1日あたり日本酒に換算して1合から2合未満のアルコールを摂取する男性は、非飲酒者に比べて危険性が1.4倍高くなるとされています1
  • 肥満と運動不足:
    • 肥満: BMI(体格指数)で測定される過体重や肥満は、特に男性において危険性を高めることが「ほぼ確実」と評価されています1
    • 運動不足: 定期的な身体活動は腸の動きを活発にし、発がん性物質が腸の粘膜に接触する時間を短縮します。運動が結腸がんの危険性を下げることが「ほぼ確実」とされています1

ご自身の危険性を簡単に評価できるよう、以下のチェックリストをご活用ください。

表1:大腸がん危険因子セルフチェックリスト
危険因子 危険度 はい/いいえ 注記・推奨される行動
年齢が45歳以上 推奨される定期検診を開始または継続する。
近親者(親、兄弟、子)に大腸がんの罹患者がいる 非常に高い より早期かつ頻繁な検診について医師と相談する(便検査ではなく大腸内視鏡検査が必要な場合がある)。
自身に大腸ポリープや大腸がんの既往歴がある 非常に高い 医師の指示に従い、定期的な再検査と内視鏡検査を遵守する。
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)を患っている 定期的な監視内視鏡検査のスケジュールについて医師と相談する。
赤肉や加工肉の多い食生活 中~高 摂取量を減らし、野菜、果物、全粒穀物を増やすことを検討する。
日常的な飲酒習慣がある 中~高 男性は1日2ドリンク、女性は1日1ドリンク以下に制限する。
喫煙している(現在または過去) 禁煙のための支援を求める。禁煙は多くの健康上の危険性を低減させる。
定期的な運動をしていない 週に少なくとも150分の中強度の運動を目標にする。
過体重または肥満(BMI≥25) 食事と運動による健康的な減量計画について医師と相談する。

これらの危険因子を認識することは、不安を煽るためではなく、ご自身に力を与えるためです。何を管理できるかを理解することで、健康を守るための具体的な一歩を踏み出すことができます。


体の声に耳を傾ける:警戒すべき兆候と症状

大腸がんの最も危険な特徴の一つは、早期段階では沈黙していることです。国立がん研究センターは「早期の大腸がんは無症状のことが多いです」と強調しており、このことは体が完全に健康だと感じていても定期的な検診が不可欠であることを裏付けています。しかし、がんが進行するにつれて、様々な兆候や症状が現れることがあります。これらを早期に認識し、速やかに医療機関を受診することが重要です。

一般的な症状

大腸がんの症状は多岐にわたりますが、注意すべき一般的な警告サインには以下のようなものがあります。

  • 排便習慣の変化: 最も一般的で早期の兆候の一つです。長期にわたる下痢や便秘、あるいはその両方を交互に繰り返すといった形で現れます。便が鉛筆のように細くなることもあります。
  • 血便: 便の表面やトイレットペーパーに付着する鮮やかな赤色の血液、あるいは大腸の上部で出血した血液が酸化して黒くなったタール状の便として現れます。
  • 持続的な腹部の不快感や痛み: 原因不明のけいれん、ガス、膨満感が続き、改善しない。
  • 残便感: 排便直後にもかかわらず、まだ便が残っているような感覚。これは特に直腸がんに多い症状です。
  • 原因不明の体重減少: 食事や運動習慣を変えていないのに、著しく体重が減少する。
  • 疲労感と貧血: 肉眼では見えない腫瘍からの慢性的な微量出血により、鉄欠乏性貧血が起こり、常にだるさや息切れを感じることがあります。

腫瘍の位置による症状の違い

腫瘍が大腸のどの部分にあるかによって、現れる症状の種類が異なる場合があります。

  • 右側結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸): 大腸の始まりの部分では便がまだ液体状であるため、腫瘍が閉塞を引き起こすことは稀です。症状はより曖昧で、原因不明の鉄欠乏性貧血が最も一般的な兆候です。これは、目に見えない持続的な出血によるもので、患者は原因のわからない疲労感や息切れを感じることがあります。
  • 左側結腸(下行結腸、S状結腸)と直腸: 大腸の終わりの部分に近づくと便は固形化するため、この領域の腫瘍はより明確な機械的症状を引き起こします。便が細くなる、便秘、便に鮮血が混じるといった症状が見られます。特に残便感は、腫瘍が直腸内を占拠することによる典型的な症状です。

よくある誤解を解く

症状を軽視したり、誤って解釈したりすることは、早期診断の大きな障害となります。

  • 「ただの痔だろう」: これは最も一般的で危険な誤解です。鮮血便は痔と直腸がんの両方の症状です。自己判断で放置し、がんが進行するケースが後を絶ちません。原則として、直腸からのいかなる出血も、深刻な原因を除外するために医師の診察を受ける必要があります。
  • 「便秘ががんを引き起こす」: 国立がん研究センターの研究では、便秘自体が直接大腸がんを引き起こすという因果関係は示されていません。しかし、慢性的な便秘につながる生活習慣(食物繊維の少ない食事、運動不足など)は、まさに大腸がんの証明された危険因子です。したがって、便秘は不健康な生活習慣への警告と捉えるべきです。

大腸がんの巧妙さは、その症状が非特異的であったり、見過ごされやすかったりする点にあります。症状だけに頼ることはできません。積極的な検診こそが、治癒の可能性が最も高い早期段階で病気を発見するための、唯一信頼できる戦略なのです。


早期発見が命を救う:検診の重要性

検診は、症状のない人々の中から病気を探し出すプロセスです。大腸がんの場合、検診は病気を早期に発見するだけでなく、前がん病変であるポリープを発見し切除することで、がんそのものを予防することができます。これは、この病気による死亡率を減少させるための最も強力な手段です。

日本の国家がん検診プログラム

日本政府は、厚生労働省を通じて全国的な大腸がん検診プログラムを展開しています。推奨される方法は、一般的にFITとして知られる便潜血検査免疫法です。

  • 対象者: 40歳から74歳までのすべての人々が対象です2
  • 方法: FITは、便のサンプル中に肉眼では見えない微量のヒトの血液(ヘモグロビン)を抗体を用いて検出する、簡単で非侵襲的な検査です。
  • 頻度: 年に1回の実施が推奨されています。
  • 利点: この検査は非常に便利で、自宅で自己採便ができ、事前の食事制限や服薬の中止も必要ありません。

「要精密検査」—恐れず、行動を

日本の検診プログラムの効果を低下させている最大の障壁の一つが、「要精密検査」という結果を受け取った際の躊躇や恐怖です。ここで理解すべき最も重要なことは、「FIT陽性」は「がんである」という意味ではないということです。

実際、厚生労働省のデータによると、精密検査を受けた陽性者のうち、がんと診断されるのは約2.9%、つまり約35人に1人です。陽性という結果は、単に便中に微量の血液が検出されたことを意味し、その原因を突き止める必要があるというサインに過ぎません。原因の多くは良性のポリープであり、これらを発見することは、将来のがん化を防ぐ絶好の機会です。ポリープは大腸内視鏡検査の際に完全に切除することができ、がんへの進行を未然に防げます。したがって、「要精密検査」の通知は、宣告ではなく、予防の機会と捉えるべきです。精密検査を先延ばしにすることは、検診の最大の利点を自ら放棄することに他なりません。

国際的な指針と新たな動向

日本が40歳からの検診を推奨している一方、米国予防医学専門委員会(USPSTF)や米国がん協会(ACS)などの国際的な権威ある組織は、近年、平均的な危険性の人々に対する検診開始年齢を45歳に引き下げました3。この変更は、世界的に若年層(50歳未満)で大腸がんが増加しているという憂慮すべき傾向を反映しています。この情報を日本の読者に提供することは、より若い世代、特に危険因子を持つ人々が医師と検診について積極的に話し合うきっかけとなるでしょう。

将来的には、血液中の腫瘍DNA(ctDNA)を検出する血液検査(リキッドバイオプシー)など、新しい検診方法が開発されています4。これらはさらなる利便性が期待されますが、既存のがんを発見する感度は高いものの、前がん病変であるポリープの発見感度はFITに劣るという課題があります。ポリープは断続的に出血することがあり、これをFITは捉えられますが、血液検査で検出できるほどのctDNAを放出していない可能性があるためです。現時点では、FITと大腸内視鏡検査が日本で推奨される標準的な方法です。

表2:大腸がんの検診・診断方法の比較
方法 目的 頻度 手順 利点 欠点
便潜血検査(FIT) 検診 毎年 自宅で便を採取し、検査機関に提出。 非侵襲的、低コスト、便利、準備不要。 出血しないポリープやがんを見逃す可能性。陽性の場合、内視鏡による追加検査が必要。
大腸内視鏡検査 診断、検診(高危険度群)、経過観察 10年(検診)、または医師の指示による 肛門からカメラ付きの軟性スコープを挿入し、全大腸を観察。事前の腸管洗浄が必要。 「黄金標準」。ポリープとがんの両方を発見可能。検査中にポリープを切除できる。 侵襲的、腸の準備が必要、わずかな合併症(出血、穿孔)の危険性、費用が高い。
注腸X線検査 診断 医師の指示による バリウム(造影剤)と空気を大腸に注入し、X線撮影を行う。 内視鏡より侵襲性が低い。 内視鏡より感度が低い。生検やポリープ切除は不可。腸の準備は必要。
大腸3D-CT検査(CTコロノグラフィ) 検診、診断 5年(検診) CTスキャナで大腸の3D画像を撮影。腸の準備は必要。 非侵襲的、迅速。 生検やポリープ切除は不可。異常発見時は結局、内視鏡が必要。X線被ばくがある。

この表からわかるように、各検査は相互補完的な役割を担っています。FITは効果的な集団検診のツールであり、大腸内視鏡検査は確定診断と早期段階での根治治療のツールです。


包括的かつ個別化された治療戦略

大腸がんと診断された場合、治療計画は日本大腸癌研究会(JSCCR)などの最新のガイドラインに基づき、多専門分野の医療チームによって策定されます。現代の治療は、腫瘍の除去だけでなく、機能の温存と患者の生活の質の最大化を目指します。

病期(ステージ)の理解

治療法を決定する最も重要な要素は病期です。これはがんの広がり具合を示し、TNM分類に基づいて0期からIV期に分類されます。

  • 0期: がんが粘膜の最内層にとどまっている状態(上皮内がん)。
  • I期: がんが大腸の壁に浸潤しているが、リンパ節には達していない。
  • II期: がんが大腸の壁を越えて広がっている可能性があるが、リンパ節には達していない。
  • III期: 腫瘍の深さに関わらず、近くのリンパ節にがんが転移している。
  • IV期: がんが肝臓、肺、腹膜など、遠くの臓器に転移している。

病期に応じた治療

日本の臨床現場では、病期ごとに治療戦略が個別化されます。

  • 0期およびI期(早期がん): 治療の主役は内視鏡による切除です。小さなポリープ状のがんには内視鏡的粘膜切除術(EMR)、より大きく平坦な病変には内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が行われ、体への負担を最小限に抑えながら根治を目指します。
  • II期およびIII期(局所進行がん):
    • 外科治療: 治療の基本です。腫瘍を含む大腸の一部と、転移の可能性のある周辺のリンパ節を一緒に切除(リンパ節郭清)します。
    • 補助化学療法: 手術後、すべてのIII期の患者と、再発の危険性が高い一部のII期の患者に推奨されます。目に見えない微小ながん細胞を根絶し、再発を防ぐことが目的です。
  • IV期(転移性がん): 治療は全身にわたるアプローチが中心となります。
    • 全身療法: 化学療法(薬物療法)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが主軸です。どの薬を選択するかは、患者の全身状態やがんの遺伝子特性によって決まります。
    • 転移巣の切除: 肝臓や肺への転移が限定的で切除可能な場合、手術によって治癒や長期生存が期待できることがあります。

外科手術の進歩:開腹からロボットへ

大腸がん手術は劇的に進化しました。腹腔鏡手術やロボット支援手術といった低侵襲手術が日本で広く普及し、従来の開腹手術に比べて傷が小さく、痛みが少なく、回復が早いという大きな利点をもたらしています。

特に、骨盤の奥深く、排尿や性機能を司る重要な神経の近くに位置する直腸がんの手術において、ロボット支援手術は絶大な威力を発揮します。ロボットアームの柔軟な動きと拡大3D画像により、執刀医は極めて精密な剥離操作が可能となり、これらの神経を最大限温存できます。この分野の第一人者である絹笠祐介医師などの専門家は、ロボット手術が肛門温存率を90%にまで高め、機能障害の発生率を大幅に低下させることを示しています。金光幸秀医師のようなトップサージャンが追求するのは、がんを完全に取り除く「根治性」と、患者の生活の質を維持する「機能温存」という二つの目標の絶妙な両立です5

個別化医療:遺伝子に基づく治療

進行大腸がんに対しては、個別化医療が新たな道を切り拓いています。治療開始前に、腫瘍の遺伝子検査を行い、特定のバイオマーカーを調べることが一般的です。

  • MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性): この特徴を持つ腫瘍は、免疫チェックポイント阻害薬に非常によく反応します。
  • BRAFおよびRAS(KRAS, NRAS)遺伝子変異: これらの変異の有無を調べることで、最適な分子標的薬を選択できます。例えば、RAS野生型の患者は抗EGFR抗体薬の効果が期待できます。

これらのバイオマーカー検査は、医師が個々の患者に最適な治療法を「オーダーメイド」するのに役立ち、効果を最大化し、不要な副作用を回避します。


治療後の人生:回復、支援、そして希望

大腸がんとの闘いは、手術や化学療法が終了した時点で終わりではありません。治療後の期間は、回復、経過観察、そして新しい生活への適応という重要な道のりです。

回復と社会復帰への道のり

治療後の経過観察(サーベイランス): 治療が成功しても、再発の危険性は常に存在します。そのため、定期的な経過観察が不可欠です。通常、血液検査(CEAマーカー)、定期的な大腸内視鏡検査、CTスキャンなどが含まれます。

健康的な生活習慣: 治療後は、健康的な生活を築く「第二の機会」です。定期的な運動は死亡率を大幅に低下させることが研究で示されています。バランスの取れた食事、禁煙、節酒も、全体的な健康を改善し、再発の危険性を低減させるのに役立ちます。

人工肛門(ストーマ)との共生: 特に低い位置の直腸がんの場合、人工肛門(ストーマ)の造設が必要になることがあります。これは多くの患者さんにとって大きな恐怖ですが、正しい知識とサポートがあれば、活動的で充実した生活を送ることは十分に可能です。現代のストーマ装具は非常に進化しており、目立たず、臭いや漏れを防ぎます。患者さんは専門の看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師)からケア方法について詳細な指導を受けられます。仕事、旅行、スポーツ、さらには水泳さえも可能です。公益社団法人日本オストミー協会のような団体は、同じ境遇の人々と経験を分かち合い、支援を得られる貴重な場です。


患者さんの声と支援システム

大腸がんの影響を完全に理解するには、実際にそれを経験した人々の声に耳を傾けることが何よりも重要です。彼らの物語は、回復力、恐怖、そして希望についての深い教訓を与えてくれます。

実体験から学ぶ

NPO法人キャンサーネットジャパンなどから集められた患者さんの声は、彼らの多様な旅路を示しています6

  • 家族への想い: 診断を受けた50代の女性は、自分自身の病気よりも「入院中に子供たちの生活はどうなるのか」ということが最大の心配事だったと語ります。家族や友人の支えが大きな力となりました。
  • 希望を見出す: 28歳でステージIVと診断された若い女性は、インターネットの情報を見て「絶望した」と言います。しかし、5年間の治療を経て、今ではマラソンを走れるまでに回復しました。「ステージIVと診断されても、希望を捨てないでほしい」と彼女は語ります。
  • 体の変化への適応: 47歳の男性は、ストーマの管理や性機能障害といった副作用と向き合うのに約1年かかったと述べています。彼は「デリケートな問題でも医師と躊躇なく話し合うこと」の重要性を強調します。

これらの物語は、情報が力にもなり、重荷にもなるという現実を示しています。信頼できる情報源や支援コミュニティにアクセスすることが、力と楽観主義をもたらします。

日本の支援システム

幸いなことに、日本にはがん患者を支える強固なシステムがあります。これらのリソースを知り、活用することが非常に重要です。

  • がん相談支援センター: 全国の「がん診療連携拠点病院」に設置されており、誰でも無料・匿名で利用できます。専門の相談員が、病気や治療に関する信頼できる情報を提供し、費用や仕事といった実際的な問題の相談に乗り、精神的なサポートも行います。
  • 高額療養費制度: 患者の経済的負担を軽減する重要な公的医療保険制度です。この制度により、患者が1か月に支払う医療費の自己負担額には上限が設けられます。例えば、平均的な所得(年収約370~770万円)の70歳未満の方の場合、月の自己負担上限額は約8万円強となります。これにより、高額な治療を受ける場合でも、患者は経済的な心配を大幅に減らして治療に専念できます。

よくある質問

40歳になったら、症状がなくても大腸がん検診を受けるべきですか?

はい、絶対に受けるべきです。早期の大腸がんはほとんど症状がありません。症状が出てからでは、がんが進行している可能性があります。日本の検診プログラムは40歳から始まります。毎年の便潜血検査は、命を救う簡単で重要な第一歩です。

検診で「要精密検査」と判定されました。これはがんだということですか?

いいえ、そうとは限りません。実際、精密検査を受けた人のうち、がんと診断されるのはごく一部(約3%)です。陽性反応の多くは、痔や良性のポリープが原因です。特にポリープは、放置するとがん化する可能性があるため、この段階で発見・切除することは、がんを未然に防ぐ絶好の機会です。恐れずに、必ず大腸内視鏡検査を受けてください。

大腸内視鏡検査は痛いですか?

不安に思われるかもしれませんが、多くの医療機関では患者さんの苦痛を和らげるために鎮静剤や鎮痛剤を使用しています。これにより、うとうとと眠っているような状態で検査を受けることが可能です。検査前に医師や看護師に不安な点を伝え、よく相談することが大切です。

人工肛門(ストーマ)になると、普通の生活は送れませんか?

これは大きな誤解です。現代のストーマケアは非常に進歩しており、ストーマを持つ人々も、仕事、旅行、スポーツ、入浴など、以前とほとんど変わらない日常生活を送っています。ストーマは病気ではなく、命を救うための解剖学的な変化です。専門の看護師や患者会からのサポートも充実しており、慣れれば問題なく管理できます。


結論

大腸がんは手ごわい敵ですが、決して無敵ではありません。本稿で詳述したように、知識と主体的な行動こそが、この病気に対抗する最も強力な武器です。ご自身の危険因子を理解し、健康的な生活習慣を実践し、そして何よりも40歳からの定期的な検診を欠かさず受けること。もし「要精密検査」の通知を受けたら、それは予防のチャンスと捉え、恐れずに行動してください。万が一、がんと診断されたとしても、現代医学には優れた治療法があり、あなたを支える包括的なサポートシステムが日本には存在します。今日の行動が、明日の健康な未来を築きます。この情報が、あなた自身とあなたの大切な人々を守るための一助となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  2. 国立がん研究センター. 科学的根拠に基づくわが国の大腸がん検診を提言 「有効性評価に…. [インターネット]. [引用日: 2025年7月9日]. Available from: https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/1127/index.html
  3. U.S. Preventive Services Task Force. Recommendation: Colorectal Cancer: Screening. [インターネット]. [引用日: 2025年7月9日]. Available from: https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/colorectal-cancer-screening
  4. EurekAlert!. Clinical study of a blood test shows 83% accuracy for detecting…. [インターネット]. [引用日: 2025年7月9日]. Available from: https://www.eurekalert.org/news-releases/1037242
  5. QLife. 患者さんに対するときは「よい話、悪い話をバランスよく」金光…. [インターネット]. [引用日: 2025年7月9日]. Available from: https://cancer.qlife.jp/colon/colon_feature/article454.html
  6. NPO法人キャンサーネットジャパン. Patient’s Voice ~大腸がん患者さんの声~. [インターネット]. [引用日: 2025年7月9日]. Available from: https://www.cancernet.jp/cancer/colon/colon-voice
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