【科学的根拠に基づく】小児肝臓がんの完全ガイド:原因、最新治療、日本の支援制度のすべて
がん・腫瘍疾患

【科学的根拠に基づく】小児肝臓がんの完全ガイド:原因、最新治療、日本の支援制度のすべて

小児肝臓がん、すなわち日本の医学用語で言うところの「小児肝臓がん(しょうにかんぞうがん)」は、乳児、幼児、そして思春期の子どもの肝臓内の細胞から発生する、稀な悪性腫瘍の一群です。これは、いかなる家族にとっても恐ろしい診断ですが、小児の肝臓がんは、成人に多く見られる肝臓がんと比較して、その生物学的性質、治療法、そして予後において著しく異なる点を理解することが極めて重要です1。成人がんはアルコールの過剰摂取や慢性ウイルス性肝炎といった長期にわたる生活習慣要因に関連することが多いのに対し、小児肝臓がんは多くの場合、胎児期の発生過程におけるエラー、あるいは特定の遺伝的症候群に関連して発症します1

この記事の科学的根拠

本記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示したリストです。

  • 厚生労働省(MHLW):本記事における日本国内の発生率や統計データに関する記述は、厚生労働省が公表した公式データに基づいています。
  • 国際小児がん学会(SIOPEL):化学療法と手術のタイミング、特に術前化学療法の重要性に関する指針は、SIOPELが提唱・確立した治療戦略に基づいています。
  • 日本の小児肝腫瘍研究グループ(JPLT)および日本小児がんグループ(JCCG):日本国内の標準的な治療プロトコル、特にJPLT-2試験に関する詳細な分析や治療成績は、これらの国内研究グループによる研究成果と発表に基づいています。
  • 米国国立がん研究所(NCI):疾患の定義、症状、標準的な治療選択肢に関する基本的な医学情報は、NCIが提供する専門家向け情報(PDQ®)を参考にしています。
  • 国際小児肝腫瘍共同研究(CHIC):予後を予測するためのリスク分類システムに関する記述は、世界中の数千人の患者データを統合したCHICの画期的な研究に基づいています。

要点まとめ

  • 小児肝臓がんは稀な疾患で、日本では年間約50〜70例が診断されます。最も一般的な種類は肝芽腫(HB)で、全症例の80%以上を占め、化学療法への反応が非常に良好です。
  • 完全な外科的切除が治癒の最も重要な鍵です。術前の化学療法で腫瘍を縮小させ、手術の成功率を高めることが現代の標準的な戦略です。
  • 血液検査によるAFP(アルファ・フェトプロテイン)値の測定は、診断、治療効果のモニタリング、再発の発見において極めて重要な役割を果たします。
  • 治療は、小児がん専門医、小児外科医、放射線科医などから成る多専門職チームによって、指定された「小児がん拠点病院」で行われるべきです。
  • 日本には、「小児慢性特定疾病医療費助成制度」や「特別児童扶養手当」など、治療に伴う経済的負担を軽減するための手厚い公的支援制度が存在します。

第I部:小児肝臓がんの理解


第1章:小児肝臓がんの包括的概要

統計的に見ると、小児肝臓がんは非常に稀な疾患であり、小児の悪性腫瘍全体の約1%を占めるに過ぎません2。日本では、年間約50から70人の新規患者が診断されており、これは世界的な発生率である14歳未満の子供10万人あたり約2.4例と一致しています3。厚生労働省のデータによると、肝臓がんの発生率は1歳から5歳のグループで最も高く、記録された小児肝臓がん全体の52.2%を占めています4
この疾患の稀少性ゆえに、専門外の医療機関での初期診断は困難を伴うことがあります。しかし、まさにその稀少性が、世界のトップクラスの研究グループ間での緊密かつ卓越した国際協力を促進する原動力となっています。国際小児がん学会の小児肝腫瘍戦略研究グループ(SIOPEL)、北米のチルドレンズ・オンコロジー・グループ(COG)、そして日本の小児がんグループ(JCCG)の一部である日本の小児肝腫瘍研究グループ(JPLT)といった組織が、数十年にわたり協力してきました5。彼らは、数千人の患者から得られたデータを統合し、分類システムを統一し、より効果的な治療プロトコルを開発するために、小児肝腫瘍国際共同研究(CHIC)と呼ばれる世界的な連合体を設立しました6。これは家族にとって非常に重要な意味を持ちます。この病気は稀ですが、お子さんはこの戦いにおいて決して孤独ではないのです。日本の小児がん拠点病院で治療を受けることは、世界中から集められた知識と経験に基づいて構築された、最先端の治療プロトコルへのアクセスを意味します7

第2章:小児における主要な肝がんの種類

子供が罹患している肝臓がんの種類を正確に特定することは、治療の道のりにおける最初の、そして最も重要なステップです。なぜなら、それぞれの種類で特徴、治療への反応、予後が全く異なるからです。小児の原発性肝がんは、主に二つの主要なタイプと、その他いくつかの非常に稀なタイプに分類されます1

肝芽腫(Hepatoblastoma – HB)

これは小児で最も一般的な肝臓がんであり、全症例の80%以上を占めます2。肝芽腫(HB)は未熟な肝細胞(胎児性細胞)から発生するため、主に非常に幼い子供に見られ、ほとんどの症例は3歳までに診断されます1。HBの最も重要な特徴の一つは、化学療法に非常によく反応することであり、これが現代の治療戦略の基盤となっています8
組織学的(顕微鏡下での組織構造の研究)には、HBはいくつかの異なるサブタイプに分類され、これが予後と治療計画に影響を与えます3

  • 胎児型(Fetal histology):細胞が胎児の肝細胞に似ています。「純粋胎児型(pure fetal)」は非常に良好な予後を持ちます7
  • 胎児様型(Embryonal histology):細胞の分化度がより低いです。
  • 混合上皮型(Mixed epithelial):胎児型と胎児様型の両方の細胞を含みます。
  • 小細胞未分化型(Small cell undifferentiated):稀なサブタイプで、予後がより悪いとされています7

肝細胞癌(Hepatocellular Carcinoma – HCC)

肝細胞癌(HCC)は成人に多い肝臓がんですが、HBほど一般的ではありませんが、子供にも発生することがあります1。小児のHCCは通常、より年長の子供、典型的には10歳以上で診断されます1。HBとは異なり、小児のHCCは、慢性B型肝炎ウイルスの感染や、チロシン血症などの遺伝性代謝異常といった、既存の肝疾患を背景に発症することが多いです1
HCCとHBの最も重要な違いは、治療への反応性です。小児のHCCは、成人と同様に、通常、化学療法にあまりよく反応しません9。このため、腫瘍を完全に外科的に切除することがより重要となり、通常は主要な治療選択肢となります。小児におけるHCCの予後は、HBに比べて一般的にかなり悪く、5年生存率はHBの70%以上に対し、約25〜30%にとどまります10。この明確な違いは、生検によって正確な組織学的診断を得ることの重要性を強調しています。なぜなら、それが治療戦略全体を決定するからです。

その他の稀な種類

包括的な視点を提供するために、子供における他の非常に稀な肝臓がんについても触れておく必要がありますが、家族がこれらに遭遇する可能性は非常に低いです:

  • 未分化胚性肉腫(Undifferentiated Embryonal Sarcoma of the Liver):悪性度の高い、攻撃的な腫瘍です1
  • 乳児絨毛癌(Infantile Choriocarcinoma of the Liver):非常に稀なタイプの癌です11
  • 悪性血管性肝腫瘍(Vascular Liver Tumors):血管内皮腫(hemangioendothelioma)や血管肉腫(angiosarcoma)などを含みます1

第3章:既知の原因と危険因子

子供ががんと診断されたとき、親が抱く最初の、そして最も胸を痛める質問の一つが「なぜ?」です。小児肝臓がんの場合、その答えはしばしば非常に複雑です。ほとんどの場合、正確な原因は不明であり、散発性(sporadic)、つまり誰のせいでもなく偶然に起こると考えられています1。しかし、研究により、病気の発症リスクを高めるいくつかの要因が特定されています。

肝芽腫(Hepatoblastoma – HB)に関連する危険因子

HBの危険因子は、主に子供の非常に早い発育段階で起こる出来事に関連しています:

  • 早産および低出生体重:早産児、特に極低出生体重児(1500グラム未満)は、HBを発症するリスクが著しく高いです1
  • 遺伝的症候群:いくつかの稀な遺伝的症候群がHBと密接に関連しています:
    • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS):先天性の過成長症候群で、巨舌や腹壁の異常などの特徴があります。BWSの子供は、HBを含むいくつかの小児がんを発症するリスクが高いです1
    • 家族性腺腫性ポリポーシス(FAP):結腸に数百ものポリープが発生し、大腸がんのリスクを高める遺伝性疾患です。FAPを持つ家族は、HBのリスクも高いです1

肝細胞癌(Hepatocellular Carcinoma – HCC)に関連する危険因子

HBとは対照的に、小児におけるHCCの危険因子は、成人のメカニズムと同様に、慢性的な肝障害の状態に関連していることが多いです:

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染:これは重要な危険因子です。出生時に母親からHBVに感染した子供は、HCCを発症するリスクが高くなります1
  • その他の慢性肝疾患:チロシン血症、ウィルソン病、α1-アンチトリプシン欠乏症、I型糖原病、長期にわたる完全静脈栄養による肝障害など、さまざまな遺伝性・代謝性疾患が慢性的な肝障害を引き起こし、HCCにつながる可能性があります1

遺伝子研究における進歩

近年、科学者たちは小児肝臓がん、特にHBの分子的基盤を理解する上で大きな進歩を遂げました。これにより、私たちの理解は「原因不明」の病気から、明確な生物学的基盤を持つ病気へと徐々に移行しており、新しい治療法への希望が開かれています。

  • Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路:研究により、HB症例の約90%がこのシグナル伝達経路、特にβ-カテニン遺伝子に変異を持つことが示されています。この経路は胎児の発生に非常に重要であり、活性化状態で「固定」されると、腫瘍の増殖を促進する可能性があります1。これが、FAPのような症候群(Wnt経路に関連)がHBの高いリスクを持つ理由です。
  • 新たな標的遺伝子:日本および国際的な最近の研究により、HBの発症に重要な役割を果たす新しい遺伝子が特定されています。
    • ASCL2:Nature Communications誌に掲載された研究では、腸の幹細胞に重要なこの遺伝子がHBで過剰に活性化されていることが示されました。予後を予測するための潜在的なバイオマーカーと見なされています12
    • GREB1:大阪大学の研究グループは、GREB1をHBにおける新しいがん遺伝子として特定しました。彼らはGREB1を標的とする試験的な薬剤(アンチセンス核酸)の開発に成功し、マウスモデルで腫瘍の増殖を抑制できることを示しました13

これらの発見は、家族にとって二つの重要な意味を持ちます。第一に、この病気は親のせいではなく、多くの場合、不運な生物学的出来事であることを裏付けています。第二に、この分野が急速に進歩していることを示しています。特定の分子標的を特定することは、将来的にはより効果的で副作用の少ない標的療法への道を開きつつあります。

第4章:兆候と症状の認識

小児肝臓がんの早期診断における最大の課題の一つは、初期症状が非常に曖昧で非特異的であるか、あるいは全くないことです。腫瘍は、顕著な兆候を引き起こす前にかなり大きくなることがあります14。したがって、親が子供の微妙な変化に気づくことが非常に重要です。

最も一般的な症状:腹部のしこり

小児肝臓がんの最も一般的で、しばしば最初の兆候は、腹部、特に右上腹部のしこりや腫れです2。注意すべき重要な点は、このしこりは初期には通常、痛みを伴わないことです。子供は活動的で、遊び、食事も普通にできるかもしれません。多くの場合、親が子供を入浴させたり、抱きしめたりしているとき、あるいは定期的な健康診断で医師が腹部を触診した際に偶然発見されます2
この曖昧さこそが危険です。子供が「病気」に見えない場合、親は腹部の腫れを簡単に見過ごしてしまうかもしれません。したがって、家族への核となるメッセージは、「あなたの直感を信じてください」ということです。もし子供の腹部が異常に大きく見える、硬く感じる、あるいはしこりを触知した場合は、ためらわずにすぐに医師の診察を受けてください。

注意すべきその他の症状

腫瘍が大きくなるにつれて、他の症状を引き起こすことがあります。家族は以下のいずれかの兆候に警戒すべきです14

  • 腹痛または腹部の不快感:腫瘍が他の臓器を圧迫するため。
  • 食欲不振または早期満腹感:腫瘍が腹部のスペースを占めるため。
  • 原因不明の体重減少。
  • 吐き気や嘔吐。
  • 原因不明の持続する発熱。

稀だが重要な症状

あまり一般的ではありませんが、重要な指標となりうる症状もいくつかあります:

  • 男児の思春期早発症:一部の肝腫瘍(特にHB)は、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)と呼ばれるホルモンを産生することがあり、これにより陰毛の発生や声変わりなどの思春期の兆候が早期に現れることがあります15
  • 皮膚や目の黄疸(おうだん):初期段階では一般的ではありませんが、腫瘍が胆汁の流れを妨げると発生することがあります16
  • 肝不全の症状:病気が非常に進行した場合には、極度の疲労、あざができやすい、皮膚のかゆみ、錯乱などの肝不全の症状が現れることがあります17

緊急事態:腫瘍破裂

稀なケースでは、腫瘍が破裂し、腹腔内に大量出血を引き起こすことがあります。これは医療上の緊急事態です。腫瘍破裂は自然に、あるいは腹部への軽い外傷によって起こる可能性があります2。症状には、突然の激しい腹痛、腹部の膨満、蒼白な皮膚、そして出血性ショックの兆候(頻脈、速い呼吸、意識混濁)が含まれます。これらの症状が発生した場合は、直ちに子供を救急病院に連れて行く必要があります。

第II部:診断への道のり


第5章:詳細な診断プロセス

家族が前述の症状に関する懸念を持って医師を訪れると、体系的な診断プロセスが開始されます。このプロセスは、ジグソーパズルを組み立てるようなもので、各検査が重要な情報を提供し、子供の状態の全体像を構築します。この過程はストレスが多く、時間がかかるかもしれませんが、正確な診断と最善の治療計画を立てるためには、各ステップが必要です。

臨床診察と病歴聴取

最初のステップは常に、丁寧な問診と診察です。医師は症状、その開始時期、子供と家族の健康歴について詳しく尋ねます14。その後、臨床診察を行い、特に腹部を触診して、感じられる可能性のある腫瘍の大きさ、位置、硬さ(硬いか柔らかいか)を評価します。

血液検査

少量の血液サンプルから、非常に貴重な情報が得られます:

  • 全血球計算(CBC):この検査は血液細胞の種類を測定します。一部のHB症例では、腫瘍が血小板産生を刺激する因子を産生し、血小板数の増加(血小板増多症)を引き起こすことがあります18
  • 肝機能検査:肝臓の酵素やビリルビンの濃度を測定することで、肝臓全体の健康状態を評価します19
  • アルファ・フェトプロテイン(AFP):これは小児肝臓がんの診断において最も重要な血液検査です。AFPは通常、胎児の肝臓で産生されるタンパク質で、出生後その濃度は急速に低下します。肝芽腫(HB)のほとんどの子供では、腫瘍が大量のAFPを産生し、血中濃度が急上昇します15。AFPは強力な診断ツールであるだけでなく、以下のような非常に価値のある腫瘍マーカーでもあります:
    • 治療反応のモニタリング:化学療法が効果的であれば、AFP濃度は低下します。
    • 再発の検出:治療終了後にAFPが再び上昇することは、病気の再発の最初の兆候である可能性があります20
    • 予後予測:初期のAFPレベルも重要な予後因子です。国際的な研究では、非常に低いAFPレベル(100 ng/mL未満)または極端に高いレベル(1,200,000 ng/mL超)の症例は、予後が悪い可能性があることが示されています6

画像診断

画像診断技術により、医師は体内の「様子を窺い」、腫瘍の位置、大きさ、広がりを特定することができます。

  • 腹部超音波検査(エコー):通常、最初に行われる画像検査です。迅速で痛みがなく、電離放射線を使用せず、肝臓内の腫瘍の存在とその主要な血管との関係を特定するのに非常に効果的です21
  • コンピュータ断層撮影(CT):CTスキャンはX線を使用して、体の詳細な断層像を作成します。肝臓内の腫瘍の広がり、血管への関与、そして最も重要なこととして、HBの最も一般的な転移部位である肺への転移の有無を確認するために特に重要です22。通常、血管や腫瘍を際立たせるために、造影剤を静脈に注射します。
  • 磁気共鳴画像法(MRI):MRIは強力な磁場と電波を使用して、軟部組織の非常に詳細な画像を作成します。肝臓の内部構造を評価し、腫瘍の境界を正確に特定するための最良の方法と見なされており、外科医が手術計画を立てるのに役立ちます22。CTと同様に、MRIも通常、造影剤(ガドリニウム)の注射を必要とします。

生検(せいけん)

AFP検査と画像診断によって肝臓がんが強く疑われる場合でも、生検は診断を確実に確定するための「ゴールドスタンダード」です。生検は、腫瘍から小さな組織サンプルを採取し、病理医が顕微鏡で検査して、がん細胞の種類を正確に特定するプロセスです18
前述の通り、HBとHCCの治療戦略は全く異なるため、これは非常に重要です。国際的な研究グループは生検のタイミングについて若干異なる見解を持っていますが、日本の小児肝腫瘍研究グループ(JPLT)は非常に強い推奨をしています:ほとんどの小児肝腫瘍は、腫瘍破裂や心臓への浸潤など生命を脅かす緊急事態を除き、生検サンプルからの確定診断の後に治療されるべきです15。この見解は、いかなる治療を開始する前にも、可能な限り最も正確な組織学的情報を得ることの重要性を強調しています。

第6章:病期分類とリスク分類:治療計画の鍵

肝臓がんの診断が確定した後、次の、そして同様に重要なステップは、病気の「程度」を決定することです。これは単に腫瘍が「大きい」か「小さい」かを判断することではありません。医師は、腫瘍の広がりや予後に影響を与える可能性のある他の要因を正確に評価するために、複雑な分類システムを使用します。このプロセスはリスク分類(risk stratification)と呼ばれます。
リスク分類の目標は、治療を個別化することです。それは医師が各患者に適した治療強度を決定するのに役立ちます:高リスクの症例には病気を治癒させるのに十分強力な治療法を提供し、同時に、より侵襲性の低い方法で治癒可能な低リスクの患者には、不要な副作用や長期的な毒性を避けることができます15

PRETEXT(治療前病巣進展度)システム

これは、治療を開始する前に肝腫瘍の広がりを評価するために世界中で最も広く使用されている分類システムです。SIOPELグループによって開発されたPRETEXTシステムは、日本を含む世界中の小児腫瘍医の共通言語となっています9
このシステムは肝臓の解剖学に基づいています。肝臓は主要な血管に基づいて4つの区域(section)に分けられます22

  • 左葉は、外側区域(Left Lateral Section)と内側区域(Left Medial Section)に分けられます。
  • 右葉は、前区域(Right Anterior Section)と後区域(Right Posterior Section)に分けられます。

PRETEXTの病期は、CTまたはMRI画像に基づき、腫瘍に占拠されていない肝区域の数によって決定されます9

  • PRETEXT I:腫瘍が1つの区域にのみ存在し、隣接する他の3つの区域に腫瘍がない。
  • PRETEXT II:腫瘍が1つまたは2つの区域に存在し、隣接する他の2つの区域に腫瘍がない。
  • PRETEXT III:腫瘍が2つまたは3つの区域に存在し、腫瘍のない区域が1つだけ残っている。
  • PRETEXT IV:肝臓の4つの区域すべてが腫瘍に占拠されている。

注釈因子(Annotation Factors)

PRETEXT病期だけでは不十分です。完全な全体像を得るために、医師は腫瘍の他の重要な特徴を記述するために文字による「注釈因子」を追加します。これらの因子を理解することは、家族が病気の複雑さを把握するのに役立ちます6

  • V (Venae hepaticae):腫瘍が主要な肝静脈(肝臓から心臓へ血液を送る大きな血管)に浸潤または圧迫している。
  • P (Portal vein):腫瘍が門脈(腸から肝臓へ血液を送る大きな血管)に浸潤または圧迫している。
  • E (Extrahepatic contiguous extension):腫瘍が肝臓の外に広がり、隣接する臓器に浸潤している。
  • M (Metastasis):がんが体の遠隔部位、最も一般的には肺に転移している。
  • C (Caudate lobe involvement):腫瘍が尾状葉(肝臓の深部にあり、手術が困難な部分)に関与している。
  • F (Multifocal):肝臓内に複数の独立した腫瘍が存在する。
  • R (Rupture):診断時に腫瘍が破裂している。

例えば、診断は「PRETEXT III, V+, M+」と記述されるかもしれません。これは、肝臓の3つの区域を占める大きな腫瘍で、肝静脈への浸潤があり、肺に転移していることを意味します。これは明らかに「PRETEXT I」の腫瘍よりもはるかに高リスクな症例です。

CHICリスク分類システム

世界的なリスク分類システムを作成するために、小児肝腫瘍国際共同研究(CHIC)は、世界中の1,600人以上の患者データを分析しました22。彼らは、最も重要な予後因子を組み合わせて患者を4つのリスクグループに分ける新しい階層化システムを開発しました:超低リスク、低リスク、中間リスク、高リスク6
CHICシステムは複雑ですが、それが使用する主要な因子には以下が含まれます:

  • PRETEXT病期と注釈因子(特にM、V、P、E、F、R)。
  • 診断時の患者の年齢。
  • 血中のAFP濃度。

以下の表は、リスクグループを決定する主要な因子を簡潔にまとめたもので、家族が子供の病気のスペクトラムにおける位置を理解するのに役立ちます。
表1:肝芽腫リスク分類システム(CHIC)の要約

リスクグループ 主要な因子 臨床的意義(治療強度の目安)
超低リスク PRETEXT IまたはII、純粋胎児型組織型、初回で完全切除済み。 手術のみで、化学療法が不要な場合や、非常に低用量の化学療法で済む可能性がある6
低リスク(標準リスク) PRETEXT I, II, またはIII。転移なし(M-)。高リスク注釈因子なし(VPEFR-)。AFPが低すぎない。 標準的な化学療法(通常はシスプラチン単剤)と手術の組み合わせ15
中間リスク 転移のないPRETEXT IV。または、より低いPRETEXTだが、年齢が高い、V, P, E, F, R因子があるなどのリスク因子を持つ。 より強力な併用化学療法。手術がより複雑になる可能性。肝移植の可能性を評価する必要がある6
高リスク 遠隔転移がある(M+)任意の症例。またはAFPが非常に低い(<100 ng/mL)。または年長児のPRETEXT IV症例。 強化された多剤化学療法。早期の肝移植を検討。肺転移の切除などの追加治療が必要な場合がある。臨床試験への参加を推奨6

子供の病期とリスクグループを明確に理解することは、家族が医療チームとの話し合いに積極的に参加し、治療決定の背後にある理由を理解し、前途の道のりにより良く備えるのに役立ちます。

第III部:包括的な治療戦略


第7章:多専門職医療チームと小児がん拠点病院の役割

小児肝臓がんの治療は、一人の医師の仕事ではありません。それは多専門職医療チーム(multidisciplinary team)による協調的な努力であり、各メンバーが専門知識を提供して、子供が可能な限り最高のケアを受けられるようにします9。診断後に家族が下さなければならない最も重要な決定は、治療場所の選択です。日本では、医療システムがこれらの複雑で稀な疾患を扱うための専門施設のネットワークを確立しています。
医療チームには通常、以下の専門家が含まれます:

  • 小児腫瘍医(Pediatric Oncologist):小児がんの専門家で、化学療法の計画と管理を主導します。
  • 小児外科医(Pediatric Surgeon):肝切除や肝移植を含む、子供に対する複雑な手術を行う専門家です。
  • 放射線科医(Radiologist):CTやMRIの画像を読影・解釈し、病期分類や治療反応の評価を支援します。
  • 病理医(Pathologist):生検サンプルを検査し、正確な診断を確定します。
  • 小児がん専門看護師:日々のケア、薬剤管理、家族支援を提供します。
  • 心理士、ソーシャルワーカー、チャイルドライフスペシャリスト:子供と家族全員に精神的・社会的支援を提供し、治療のストレスに対処するのを助けます。

日本では、厚生労働省がいくつかの病院を「小児がん拠点病院(しょうにがんきょてんびょういん)」として指定しています23。これらの病院は、専門家チーム、近代的な設備、そして肝臓がんを含む稀な小児がんの治療に関する豊富な経験を持つ、卓越したセンターです22。国立成育医療研究センター(NCCHD)はその典型的な例であり、このネットワークの中心的な組織としての役割を果たしています23
小児がん拠点病院での治療は、大きな利点をもたらします:

  • 経験:ここの医師は多くの同様の症例を治療しており、病気のニュアンスに精通しています。
  • チーム連携:専門家が緊密に連携し、定期的にカンファレンスを開いて最善の治療決定を下します。
  • 先進的プロトコルへのアクセス:これらの病院はJCCGなどの国内研究グループの積極的なメンバーであり、患者が最新かつ最も効果的なプロトコルで治療されることを保証します5
  • 臨床試験への参加機会:高リスクまたは再発症例に対して、これらのセンターは有望な試験的治療法へのアクセスを提供する可能性があります7

したがって、家族にとって最初の、そして最も重要な行動の一つは、小児がん拠点病院への紹介を求めることです。これは患者の権利であり、最適な治療結果を確保するための鍵となる要素です。

第8章:手術:治癒の基盤

小児肝臓がんのすべての治療法の中で、手術は中心的かつ代替不可能な役割を担っています。治療プロセス全体の最終的かつ最も重要な目標は、腫瘍を完全に切除すること(complete surgical resection)です。これは、長期的な治癒を達成するための前提条件と見なされています15。主に使用される手術方法は三つあります。

肝部分切除術(Partial Hepatectomy)

これは、腫瘍を含む肝臓の部分を、がん細胞が残らないように周囲の健康な肝組織の縁を含めて切除する手術です14。この手術には、小さな部分(楔状切除)、亜区域(区域切除)、あるいは肝葉全体(葉切除)の切除が含まれることがあります18
肝臓の驚くべき能力の一つに、その非凡な再生能力があります。肝臓の一部が切除された後、残りの部分は数ヶ月以内にほぼ元の大きさにまで再生します24。これにより、外科医は安全に肝臓の体積の70〜80%まで切除することが可能です。

肝移植(Orthotopic Liver Transplantation)

腫瘍が大きすぎる、複雑な中心部に位置している、または肝臓全体に多数の病巣がある(多発性)ために部分切除では安全に腫瘍をすべて取り除くことができない場合、肝移植が救済策となります。この手術では、子供の病的な肝臓をすべて取り除き、ドナーから提供された健康な肝臓と置き換えます25
肝移植の主な適応は以下の通りです:

  • PRETEXT IVの腫瘍:腫瘍が肝臓の4区域すべてを占めている26
  • 中心部に位置する腫瘍:肝門部(門脈と肝動脈が流入する場所)または主要な肝静脈(血液が肝臓から流出する場所)の重要な血管構造に浸潤している26
  • 切除不能な多発性腫瘍。

かつて、肝移植はしばしば最後の手段と考えられていました。しかし、SIOPELグループの勧告に導かれた現代の治療哲学は変わりました。SIOPELは、腫瘍組織が残るリスクの高い「英雄的切除(heroic resections)」を避けることを推奨しています。代わりに、これらの複雑な症例に対しては、化学療法が効果を示した後に、早期に初回肝移植を検討すべきです26。このアプローチは、腫瘍の完全な除去を保証するため、優れた生存率を示しています。
日本では、脳死ドナーからの肝臓提供が限られているため、生体肝移植(living donor liver transplantation)が一般的な方法です18。この方法では、健康な親族(通常は父または母)が自分の肝臓の一部を子供に提供します。提供された肝臓と提供者の残りの肝臓は、どちらも再生します24

転移巣の切除手術

がんが転移している子供(通常は肺)に対しても、「完全切除」の戦略が適用されます。化学療法が転移結節の大部分を減少または除去した後、外科医は胸部手術を行い、残存する病変を取り除くことがあります14。神奈川県立こども医療センターなどの専門施設では、肺転移が多発性であったり両肺に存在する場合でも、積極的に手術を行い、これらの患者の生存機会を大幅に改善することに貢献しています27

第9章:化学療法:全身のがん細胞を攻撃する

化学療法は、強力な薬剤を用いてがん細胞を破壊したり、その増殖・分裂を阻止したりする治療法です。肝芽腫(HB)に対して、化学療法は非常に効果的な武器であり、多角的治療プロトコルの不可欠な部分です。それには二つの主要な役割があります:

  • 術前化学療法(Neoadjuvant Chemotherapy):これは手術前に行われる化学療法です。主な目的は腫瘍を縮小させ、より安全かつ容易に切除できるようにすることです。多くの場合、当初は手術不能とされた腫瘍が、数サイクルの化学療法後に切除可能になることがあります22。これはSIOPELグループの核となる哲学であり、世界中でますます広く採用されています。
  • 術後化学療法(Adjuvant Chemotherapy):これは手術後に行われる化学療法です。目的は、体内に残存している可能性のある微小ながん細胞を破壊し、病気の再発リスクを減少させることです22

主要な化学療法薬

HBに対する化学療法の基盤は、プラチナ製剤です。最も一般的に使用される薬剤には以下があります19

  • シスプラチン:HBに対して最も重要かつ効果的な薬剤です。
  • ドキソルビシン(アドリアマイシン)/ピラルビシン:標準的なプロトコルでシスプラチンと組み合わせて使用されることが多いです。ピラルビシンは、日本のプロトコル(JPLT)で一般的に使用されるドキソルビシンの誘導体です15
  • カルボプラチン:別のプラチナ製剤で、強化プロトコルやシスプラチンに耐えられない患者に使用されることがあります。
  • その他の薬剤:5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンクリスチン、イホスファミド、エトポシド、イリノテカンは、再発または難治性の疾患に対するプロトコルで使用されることがあります14

化学療法の副作用

化学療法はがん細胞だけでなく、体内で急速に増殖している健康な細胞にも影響を与え、副作用を引き起こします。これらの副作用の管理は、ケアプロセスの重要な部分です。

  • 短期的な副作用(通常、薬剤中止後に回復)
    • 骨髄抑制:化学療法は骨髄での血液細胞の産生を低下させ、白血球減少(感染リスクの増加)、血小板減少(出血リスクの増加)、貧血(疲労感の原因)を引き起こします9
    • 吐き気と嘔吐:現在では、この症状を管理するための効果的な制吐剤が多数あります。
    • 脱毛
    • 口内炎
  • 長期的または重篤な副作用(長期的な経過観察が必要): これらは治療終了後何年も経ってから現れる可能性のある副作用であり、長期ケアプログラムで慎重に監視する必要があります。
    • 聴器毒性(Ototoxicity):シスプラチンは内耳の有毛細胞に永久的な損傷を与え、特に高周波域での聴力損失を引き起こす可能性があります。これは最も一般的な晩期合併症の一つです9
    • 腎毒性(Nephrotoxicity):シスプラチンとイホスファミドは腎臓に損傷を与える可能性があります。治療中および治療後は、腎機能を綿密に監視する必要があります9
    • 心毒性(Cardiotoxicity):ドキソルビシンやピラルビシンのようなアントラサイクリン系薬剤は心筋に損傷を与え、何年も後に心不全を引き起こす可能性があります。このリスクを最小限に抑えるため、これらの薬剤の総投与量は慎重に制限されます9
    • 二次がん(Second Malignant Neoplasms – SMNs):一部の化学療法薬は、将来的に別の種類のがんを発症するリスクをわずかに高める可能性があります9
    • 生殖能力に関する問題:化学療法は将来の生殖能力に影響を与える可能性があります9

以下の表は、一般的な薬剤とその注意点について、家族のためのクイックリファレンスを提供します。
表2:一般的な化学療法薬、目的、および注意すべき副作用

薬剤名 主な役割 一般的な短期副作用 注意すべき晩期/重篤な副作用
シスプラチン HBに対する基幹薬、最も効果的。 吐き気/嘔吐、骨髄抑制、疲労感。 聴力損失(聴器毒性)、腎障害(腎毒性)。
ドキソルビシン / ピラルビシン 標準プロトコルでシスプラチンと併用。 骨髄抑制、脱毛、口内炎、尿が赤くなる。 心筋障害(心毒性)。
カルボプラチン 代替のプラチナ製剤、強化プロトコルで使用。 骨髄抑制(特に血小板減少)、吐き気。 シスプラチンより聴器・腎毒性が少ない。
イリノテカン 再発または難治性疾患に主に使用。 重度の下痢、骨髄抑制、吐き気。 下痢の積極的な管理が必要。
イホスファミド / エトポシド 二次治療(セカンドライン)または強化プロトコルで使用。 骨髄抑制、吐き気/嘔吐。 イホスファミドは腎臓および膀胱毒性を引き起こす可能性。

第10章:国際および日本の標準治療プロトコル

小児肝臓がん治療の最終目標は世界共通—腫瘍を完全に切除し、病気を治癒させること—ですが、主要な研究グループは、特に手術のタイミングに関して、アプローチの哲学に若干の違いがあるプロトコルを開発してきました。これらの違いと、世界的な文脈における日本のプロトコルの位置づけを理解することは、家族が子供の治療計画により信頼を寄せるのに役立ちます。

主要研究グループの哲学の比較

  • SIOPEL(国際/ヨーロッパ):このグループは、すべての患者に対する術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy)の哲学の先駆者であり、最も強力な支持者です15。彼らの主張は、これにより以下のことが可能になるというものです:
    • ほとんどの腫瘍を縮小させ、完全切除の可能性を高め、より侵襲の少ない手術を可能にする。
    • 腫瘍の化学療法への反応を評価でき、これは重要な予後因子となる。
    • 潜在的な微小転移を早期に治療する。

    SIOPELの有名なプロトコルには、PLADO(シスプラチン+ドキソルビシン)や、カルボプラチンを追加した高リスク群向けの強化プロトコルがあります28

  • COG(北米):伝統的に、COGグループは、診断時に安全に切除可能と評価された腫瘍(通常は複雑な因子がないPRETEXT IおよびII症例)に対して、初回切除(primary resection)を許可しています15。初回切除不能な腫瘍に対しては、彼らも術前化学療法を使用します。
  • JPLT(日本):JPLT-1およびJPLT-2といった試験で示される日本のアプローチは、上記二つの哲学の組み合わせと見なすことができます。COGと同様に、JPLTは一部の低リスク症例に対して初回手術を許可しています15。しかし、彼らはSIOPELと同様に、大部分の症例に対して術前化学療法の利点を強調し、推奨しています15

近年、CHIC連合の登場により、これらの見解は徐々に収束しつつあります。非常に小さく、限局性で、リスクなく容易に切除できる腫瘍を除き、ほとんどの患者にとって術前化学療法が標準的なアプローチであるという国際的なコンセンサスが高まっています15

日本のJPLT-2プロトコルの詳細な分析

1999年から2012年にかけて実施されたJPLT-2試験は、日本におけるHBに関する最も重要な研究の一つであり、そのプロトコルは国内の治療法を形作ってきました29

  • 主要薬剤:このプロトコルでは、CITAと呼ばれる組み合わせを使用します。これはシスプラチンとテトラヒドロピラニル-アドリアマイシン(ドキソルビシンの誘導体であるピラルビシン)から成ります29
  • 適応的治療層別化:JPLT-2の特徴は、初期のPRETEXT病期、そしてより重要なことに、患者の化学療法への反応に基づいて調整される適応的治療戦略です:
    • 低リスク群(Stratum 1 & 2):PRETEXT I/IIの患者は、手術後に低用量化学療法を受けるか、または低用量化学療法後に手術を受けます29
    • 高リスク群(Stratum 3 & 4):PRETEXT III/IVまたは転移のある患者は、2サイクルのCITA化学療法から開始します。
      • 腫瘍が良好に反応した場合(responders)、手術前にCITAプロトコルを継続します(Stratum 3)。
      • 腫瘍が反応しなかった場合(non-responders)、腫瘍を縮小させるために、ITEC(イホスファミド、ピラルビシン、エトポシド、カルボプラチン)と呼ばれるより強力な二次プロトコルに切り替えられます(Stratum 4)29

このアプローチは、非常に洗練された個別化された治療戦略を示しています。それは初期の因子だけに頼るのではなく、個々の子供の腫瘍が薬剤にどのように反応するかに基づいて継続的に評価し、調整します。これにより、日本の患者への治療プロトコルが、国内での長年の研究に基づいて開発され、国際基準との比較・対照が行われた先進的なものであることが保証され、日本の医療システムへの確固たる信頼を築くのに役立ちます。

第11章:先進的およびその他の治療法

手術や全身化学療法に加えて、医師は他にもいくつかのツールを武器庫に持っています。これらの治療法は通常、腫瘍に直接的または肝臓領域を標的とし、特に通常の手術で切除できない腫瘍に対して戦略的に重要な役割を果たします。これらは単独で治癒をもたらす治療法ではなく、多くの場合、患者が手術や肝移植といった治癒を目指す治療法を受ける資格を得るための「橋渡し」として使用されます。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEは、インターベンショナルラジオロジストによって行われる低侵襲な手技です。この処置では、太ももや腕の動脈から非常に細いカテーテルを挿入し、腫瘍に血液を供給する主要な血管である肝動脈まで逆行させます30。カテーテルを通して、腫瘍を栄養する動脈の分枝に直接、二つのものが注入されます:

  • 化学療法薬:高用量の化学療法薬が直接腫瘍に送達され、局所的な効果を最大化し、全身的な副作用を最小限に抑えます。
  • 塞栓物質:微小な粒子が注入され、腫瘍への血流を遮断します。

血液と酸素の供給を断ち、同時に腫瘍を高濃度の化学物質に「浸す」ことで、腫瘍を壊死させ、大幅に縮小させることができます14。TACEは切除不能な腫瘍に対する重要な選択肢であり、手術前に腫瘍を縮小させるため、または肝臓ドナーを待つ間に病気をコントロールするために使用されることがあります14

放射線塞栓療法(TAREまたはSIRT)

TAREはTACEと同様の原理ですが、化学物質の代わりに放射線を使用します。放射性物質(通常はイットリウム90)を含む極小の微小球が、腫瘍を栄養する動脈に注入されます30。これらの粒子は腫瘍の微小血管に留まり、非常に短い範囲で高線量の放射線を放出し、周囲の健康な肝組織への影響を最小限に抑えながら、内部から腫瘍を照射して破壊します31。TAREは切除不能なHCCの治療や症状の緩和に使用されることがあります17

ラジオ波焼灼療法(RFA)

RFAは熱によって腫瘍を破壊する方法です。超音波またはCTのガイド下で、特殊な針を皮膚を通して直接腫瘍に挿入します。針の先端から高周波の交流電流が流され、高温(60℃以上)を発生させて腫瘍組織を「焼灼」します31。RFAは、小さな腫瘍(通常は3〜4cm未満)や、再手術が不可能または望ましくない場合の単独の再発病変の治療に特に有用です32

放射線療法

従来の放射線療法(体外から高エネルギーのビームを照射)は、子供の肝臓が放射線に比較的敏感であるため、HBの初期治療ではあまり使用されません。しかし、他の治療法に反応しない切除不能な腫瘍の治療や、骨転移による症状の緩和など、特定の状況では役割を果たすことがあります32
これらの局所/領域療法は、現代医学の洗練さを示しています。これらは治療の失敗の兆候ではなく、困難な状況を制御可能な状況に変え、治癒への道を開くために賢明に使用される戦略的なツールです。

第IV部:予後、研究、そして治療後の生活


第12章:予後と生存率:統計数値を正しく理解する

「私の子供は助かりますか?」これはすべての家族にとって最も重要な質問です。小児肝臓がんの予後(回復の見込み)は、効果的な化学療法、先進的な手術、そして国際的な協力の組み合わせのおかげで、過去数十年で劇的に改善しました。しかし、予後は多くの要因に依存し、統計数値をその文脈の中で理解することが重要です。

予後に影響を与える要因

子供の予後は単一の要因によって決まるのではなく、患者と腫瘍の多くの特徴の組み合わせによって決まります6

  • がんの種類:前述の通り、肝芽腫(HB)は肝細胞癌(HCC)よりもはるかに良好な予後を持ちます10
  • 腫瘍の完全切除の可能性:これは最も重要な予後因子です。もし腫瘍全体(原発巣と転移巣の両方)が手術で切除できれば、治癒の可能性は最も高くなります15
  • 転移の有無(Metastasis – M):診断時に体の他の部分(通常は肺)に腫瘍が転移している患者は、病気が肝臓に限局している患者よりも予後が悪くなります27
  • PRETEXT病期と注釈因子:PRETEXT IVの腫瘍や、主要な血管に浸潤している(V+, P+)腫瘍は、治療がより困難になることが多いです6
  • 初期のAFP濃度:非常に低いAFPレベル(100 ng/mL未満)は、既知の悪い予後因子です6
  • 組織学的タイプ:HBの場合、「純粋胎児型(pure fetal)」は優れた予後を持ちますが、「小細胞未分化型(small cell undifferentiated)」は予後が劣ります7

生存率

「5年生存率」は統計用語であり、診断後少なくとも5年間生存している患者の割合を意味することに注意が必要です。HBのような小児がんの場合、子供が5年以内に再発しなければ、完全に治癒した可能性が非常に高いです33

  • 肝芽腫(HB):現代の治療プロトコルのおかげで、HB全体の5年生存率は一般的に約70〜80%以上に上昇しています10
    • 限局性疾患を持つ標準リスク群では、この率は90%以上に達することがあります34
    • 転移性疾患を持つ患者では予後はより困難ですが、転移巣の切除手術を含む積極的な治療法により、5年生存率は依然として50%から60%に達する可能性があります35
  • 肝細胞癌(HCC):予後は依然として大きな課題であり、5年生存率は約25〜30%にとどまります10

日本の研究からの具体的データ:JPLT-2プロトコル

日本の読者に最も具体的で適切な情報を提供するために、国内の臨床試験の結果を検討することは非常に価値があります。以下の表は、JPLT-2試験から得られた5年生存率データを、診断時のPRETEXT病期別に分類して示しています。このデータは、檜山英三教授が率いるJPLT研究グループによる米国臨床腫瘍学会(ASCO)の会議での発表から引用したものです36
表3:JPLT-2プロトコルによる肝芽腫の5年生存率(PRETEXT別分類)

患者群(PRETEXT) 患者数 (n) 5年無イベント生存率 (5y-EFS %) 5年全生存率 (5y-OS %)
PRETEXT I(転移なし) 22 75.2% 95.5%
PRETEXT II(転移なし) 108 83.5% 90.5%
PRETEXT III(転移なし) 113 80.0% 91.5%
PRETEXT IV(転移なし) 56 65.4% 74.6%
転移あり(Metastatic, M+) 61 44.3% 60.9%

データ出典:Hiyama E et al. J Clin Oncol 36, 2018 (suppl; abstr 10524)36 およびその後の更新29。EFS(無イベント生存率)は再発、病気の進行、死亡などのイベントが発生しなかった患者の割合。OS(全生存率)は生存している患者の割合です。
このデータは明確な状況を示しています:限局性疾患(PRETEXT I-III)の予後は非常に良好ですが、PRETEXT IV症例、特に転移のある症例では依然として大きな課題が残ります。しかし、最も困難なグループでさえ、60%以上の子供が5年後も生存しており、これは医学の進歩の証です。日本の大規模な研究からの具体的なデータを提示することは、正確な情報を提供するだけでなく、地域の医療状況に関する深い理解と信頼性を示すものです。

第13章:最先端の研究:日本の新しい治療法と臨床試験

小児肝臓がんとの戦いは、現在のプロトコルで終わりではありません。世界中、そして日本国内で、科学者や医師は、より効果的で毒性の少ない新しい治療法を絶えず探求しています。高リスクの病気や再発した病気を持つ子供の家族にとって、これらの研究は真の希望をもたらします。

分子研究と標的療法

がん治療の分野は、「分裂しているすべての細胞を攻撃する」化学療法から、標的療法へと革命を遂げつつあります。これらの治療法は、がん細胞が生存し増殖するために依存する特定の分子やシグナル伝達経路を攻撃するように設計されています。

  • GREB1を標的とする治療:前述の通り、菊池章教授らが率いる大阪大学の研究チームは、GREB1遺伝子がHBの増殖を促進する重要な因子であることを特定しました。さらに重要なことに、彼らはGREB1を抑制し、動物モデルで腫瘍の増殖を遅らせることができる試験的な薬剤(アンチセンス核酸)を開発しました13。これは、基礎研究が直接的に新しい潜在的な治療法の開発につながる典型的な例です。
  • ASCL2を標的とする治療:JPLT-2試験のサンプルを用いて行われた別の研究では、ASCL2遺伝子がもう一つの重要な因子として特定されました。このようなバイオマーカーの発見は、医師がどの患者が高い再発リスクを持ち、より積極的な治療が必要になるかをより良く予測するのに役立つ可能性があります12

臨床試験(りんしょうしけん)

臨床試験は、新しい治療法、診断法、または予防法の安全性と有効性を評価するために人に対して行われる研究です。過去50年間の小児がん治療におけるほとんどすべての進歩は、臨床試験の直接的な結果です7
小児肝臓がん、特に高リスクまたは難治性の症例に対して、臨床試験への参加は合理的であり、時には最良の治療選択肢となることがあります9。これらの試験は、まだ市販されていない先進的な薬剤や治療法へのアクセスを提供する可能性があります。
現在進行中の試験の種類には以下があります:

  • 免疫療法:がんに対抗するために体自身の免疫システムを利用する治療法。例えば、患者の免疫細胞を研究室で改変してがん細胞を認識・攻撃するようにするT細胞療法などが、HBに対して研究されています37
  • 低分子阻害剤:Tegavivint(Wnt経路を標的)やCabozantinibなどの、がん細胞内の特定のシグナル伝達経路を標的とする新しい薬剤が、肝腫瘍を含む様々な小児固形腫瘍で試験されています37
  • 国際協力:稀な症例の治療における課題を認識し、研究者たちはRELIVEコンソーシアムのような国際的な連合体を設立しました。このイニシアチブは、再発または難治性のHBおよびHCC症例に関する包括的なデータを世界中から収集し、最も効果的な救済療法(salvage therapy)を特定することを目的としています38

日本で臨床試験を探すには? 関心のある家族は、担当の医療チームと相談することができます。また、信頼できる情報源を通じて情報を探すことも可能です:

  • 国立がん研究センターがん情報サービスのウェブサイト:日本で進行中の臨床試験を検索するツールを提供しています2
  • 日本小児がんグループ(JCCG):日本におけるほとんどの小児がん臨床試験を調整する組織です。情報は会員病院を通じて入手できる場合があります5
  • 国際的なデータベース:ClinicalTrials.gov(米国国立衛生研究所のサイト)なども、日本で患者を募集している試験をリストアップしています39

臨床試験への参加は完全に自発的な決定です。家族は、決定を下す前に、試験の目的、手順、潜在的な利益とリスクについて十分な情報を提供される必要があります。

第14章:再発と難治性疾患:次の選択肢

小児肝臓がんの治癒率はますます高くなっていますが、一部の子供は残念ながら、初期治療が完了した後に病気が再発したり、初回治療プロトコルに腫瘍が反応しなかったりする状況に直面します。これらは最も困難で挑戦的な状況です。

  • 再発性疾患:完全寛解の期間の後にがんが再び現れる状態です31。再発は肝臓(局所再発)または肺など体の他の部分(遠隔再発)で起こる可能性があります。
  • 難治性疾患:初期治療中にがんが反応しない、または増殖し続ける状態です31

最大の課題の一つは、再発または難治性疾患に対する単一の標準治療プロトコルが存在しないことです38。次の治療法の選択は、以前に受けた治療の種類、治療終了から再発までの期間、再発の場所と程度、そして子供の全体的な健康状態など、多くの要因に依存します。
治療選択肢(しばしば救済療法 – salvage therapy と呼ばれる)には、以下の方法の一つまたは組み合わせが含まれる場合があります:

  • 手術:再発が単一または少数の孤立した腫瘍(例:肝臓や肺)である場合、それらを切除する手術が依然として治癒の機会を得るための最良の選択肢です14
  • 二次化学療法:初回プロトコルで使用されたものとは異なる化学療法薬を使用します。SIOPELグループの試験では、イリノテカンが再発HB、特に肺転移のみの患者に対して顕著な活性を示すことが示されました14
  • 肝移植:病気の再発が肝臓内に限局しているが切除不能な場合、肝移植が選択肢となることがあります14
  • 局所療法:ラジオ波焼灼療法(RFA)は、肝臓内の小さな再発病変の治療に使用されることがあります32
  • 臨床試験:前の章で議論したように、これは再発/難治性症例にとって非常に重要な選択肢であり、最新かつ最も有望な治療法へのアクセスを提供します9

この状況に直面している家族への重要なメッセージは、再発は大きな挑戦ですが、希望が尽きたわけではないということです。再発疾患の治療には、非常に個別化されたアプローチと、大規模な小児がんセンターの多専門職医療チームによる慎重な評価が必要です。臨床試験を含むすべての可能な選択肢について、医師とオープンかつ徹底的に話し合うことが極めて重要です。

第15章:長期フォローアップと晩期合併症

がんを治癒することは、新しい旅の始まりに過ぎません。がんを生き抜いた子供たち(サバイバー)は、生涯にわたって健康状態を綿密に監視する必要があります7。彼らを救った強力な治療法は、晩期合併症(ばんきがっぺいしょう)として知られる長期的な影響を残す可能性もあります。
晩期合併症に対する認識は高まっており、治療計画の重要な部分となっています。現代の研究では、低リスク群に対する治療強度を減らし、高い治癒率を維持しつつ長期的な健康問題を最小限に抑えるという明確な目標を持って、積極的に取り組んでいます15
小児肝臓がん治療後の最も一般的な晩期合併症には以下が含まれます:

  • 聴力低下:これは最も頻繁に見られる晩期合併症の一つで、主にシスプラチンの毒性によるものです。損傷は通常、高周波域で起こり、騒がしい環境での会話の聞き取り能力に影響を与える可能性があります。子供は定期的な聴力検査を受け、補聴器が必要になる場合があります9
  • 心臓障害:アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、ピラルビシン)は心筋を弱める可能性があります。この影響は受けた薬剤の総投与量に依存し、治療後何年、あるいは何十年も経ってから現れることがあります。サバイバーは心エコーによる定期的な心機能の監視が必要です9
  • 腎臓障害:シスプラチンとイホスファミドは腎機能を低下させる可能性があります。定期的な血圧測定と血液/尿検査が必要です9
  • 二次がん:一部の化学療法薬や放射線療法は、後年に別の種類のがんを発症するリスクをわずかに高める可能性があります。このリスクは低いものの、健康的な生活習慣を維持し、定期的な健康診断を受けることの重要性を強調しています9
  • 成長と内分泌の問題:化学療法や放射線療法(もしあれば)は、成長や内分泌腺の機能に影響を与え、ホルモン補充療法が必要になることがあります40
  • 生殖能力の問題:高用量の化学療法薬は生殖能力に影響を与える可能性があります。思春期の患者に対しては、治療開始前に生殖能力温存の選択肢(精子や卵子の凍結保存など)について話し合うべきです9

日本の多くの小児がん拠点病院には現在、小児がんサバイバー専用の長期フォローアップ外来があります。これらの外来では、包括的なケア、晩期合併症のモニタリング、健康的なライフスタイルに関するカウンセリング、心理社会的支援を提供しています。長期フォローアッププログラムに参加することは、がんを勇敢に乗り越えたすべての子供にとって、生涯にわたるヘルスケア計画の不可欠な部分です。

第V部:行動計画:日本のサポートシステムを navigated する


第16章:政府の財政支援制度に関するガイダンス

がん治療の経済的負担は非常に大きくなる可能性があります。日本政府には、この負担を軽減するために設計された多くのプログラムがあります。

1. 小児慢性特定疾病医療費助成制度

これは、がんの子供を持つ家族にとって最も重要な財政支援制度です。

  • 内容:この制度は、18歳未満(治療が必要な場合は20歳まで延長可能)で、「悪性新生物」(肝臓がんを含む)を含む指定された慢性疾患を持つ子供の自己負担医療費の一部を助成します41
  • 仕組み:登録後、各家庭には世帯収入に基づいた月額自己負担上限額が設定されます。1ヶ月の医療費がこの上限額を超えた場合、その超過分は政府が負担します。これにより、医療費が耐え難いものになるのを防ぎます41
  • 申請手続き
    1. 「医療意見書」の取得:担当医にこのフォームへの記入を依頼し、診断と治療の必要性を証明してもらいます。
    2. その他の書類の準備:通常、申請書、住民票、所得課税証明書、子供の健康保険証のコピーなどが含まれます42
    3. 申請:完成した書類一式を、居住する地方自治体の担当窓口(通常は保健所または福祉事務所)に提出します43

注意:診断後、できるだけ早く申請することをお勧めします。場合によっては、申請が承認される前に支払った費用の払い戻しを請求できることがあります43

2. 特別児童扶養手当

  • 内容:これは、20歳未満で重度の身体的または精神的な障害や疾患を持つ子供を介護している家庭に支給される月額の現金給付です。小児がんおよびその後遺症は、この手当の対象となる可能性があります44
  • 給付額:給付額は2つの等級に分かれており、1級(より重度)は月額約51,100円、2級は月額約34,030円が支給されます(金額は変動する可能性があります)44
  • 手続き:同様に、医師の診断書が必要で、地方自治体に申請します。申請者とその家族の所得には制限があります44

3. その他の支援制度

  • 医療費控除:年間医療費の合計(通常10万円超)を年末調整で申告することで、所得税の一部が還付される可能性があります45
  • 生活福祉資金貸付制度:低所得世帯を対象に、生活費や医療費を賄うための低利または無利子の貸付を提供します43

第17章:コミュニティからの支援を求める

政府の支援に加えて、非営利団体(NPO)やコミュニティグループは、精神的、社会的、そして時には財政的な面で家族を支援する上で非常に貴重な役割を果たしています。

1. 主要な非営利団体(NPO)

  • がんの子どもを守る会(CCAJ):この分野で日本で最も古く、最大の組織です。彼らは以下のような貴重なサービスを幅広く提供しています46
    • 相談:専門のソーシャルワーカーが電話または対面で無料相談を提供します。
    • 財政支援:経済的に困窮している家庭に助成金を提供します47
    • 滞在施設:遠方から治療に来る家族のために、主要な病院の近くに低価格の宿泊施設「アフラックペアレンツハウス」を運営しています。
    • コミュニティ活動:サマーキャンプ、病院でのレクリエーションイベント、家族同士をつなぐための自助グループなどを開催しています。
  • ゴールドリボン・ネットワーク:この組織は、小児がんサバイバーと治療中の家族の支援に重点を置いています。彼らの重要なプログラムの一つに、専門病院への遠距離移動(通常100km以上)が必要な家族の交通費や宿泊費を支援する制度があります48

2. 専門・研究グループ

  • 日本小児がんグループ(JCCG):これは医療専門家向けの組織ですが、その存在を知っておくことは重要です。JCCGは、日本におけるほとんどすべての主要な小児がん病院と専門家を結集し、臨床試験を調整し、全国で最高の治療水準を保証しています5

3. 滞在施設(ファミリーハウス)

故郷を離れて大都市で治療を受けなければならない家族にとって、宿泊場所の確保は大きな負担です。CCAJの施設に加えて、他の選択肢もあります:

  • ドナルド・マクドナルド・ハウス:近くの小児病院で治療中の子供を持つ家族に、非常に低価格の宿泊施設を提供しています44
  • 認定NPO法人ファミリーハウス:同様の宿泊施設を提供する別のNPOです44

4. その他の支援リソース

  • ピアサポートグループ:同様の道のりを歩んでいる、または歩んできた他の家族と会い、共有することは、大きな慰めと力を与えてくれます。病院のソーシャルワーカーがこれらのグループに関する情報を提供できます44
  • ホスピタル・クラウン:日本ホスピタル・クラウン協会などの団体は、病院の子供たちに笑いと喜びをもたらし、治療のストレスを和らげる手助けをしています44

第18章:よく使われる医学用語集

医療チームとのコミュニケーションは、家族がいくつかの主要な用語に慣れていれば、よりスムーズになることがあります。以下は、この報告書で使用された一般的な用語の解説です。

日本語(漢字) 読み方(ローマ字) 意味
小児肝臓がん Shōni Kanzōgan 小児に発生する肝臓がんの総称。
肝芽腫 Kangashu 小児で最も一般的な肝臓がんの種類。
肝細胞癌 Kansaibōgan より稀な肝臓がんの種類で、年長児に多い。
PRETEXT分類 PRETEXT Bunrui 治療前の肝臓内腫瘍の進展度を分類するシステム。
α-フェトプロテイン Arufa-fetopurotein 血液中の重要な腫瘍マーカー。
化学療法 Kagaku Ryōhō 薬剤を用いてがん細胞を破壊する治療法。
手術 Shujutsu 腫瘍を外科的に取り除く介入。
肝移植 Kan Shoku 病的な肝臓を健康な肝臓と置き換える手術。
転移 Ten’i がんが体の他の部位に広がること。
晩期合併症 Banki Gappeishō 治療後何年も経ってから現れる健康問題。
小児がん拠点病院 Shōni-gan Kyoten Byōin 政府によって指定された小児がん治療の専門病院。
生検 Seiken 組織サンプルを採取して顕微鏡で調べること。

よくある質問

子供の肝臓がんの最も一般的な初期症状は何ですか?
最も一般的な初期症状は、腹部、特に右上腹部の痛みを伴わないしこりや腫れです。子供は元気で、食欲も普通に見えることが多いため、親が子供を入浴させたり抱きしめたりしている時に偶然発見されることがよくあります。腹部が異常に大きい、硬いと感じた場合は、すぐに医師の診察を受けることが重要です2
化学療法の最も注意すべき長期的な副作用は何ですか?
最も注意すべき長期的な副作用(晩期合併症)には、シスプラチンによる聴力低下(特に高音域)、ドキソルビシンなどによる心臓への影響、腎機能の低下などがあります。これらのリスクがあるため、治療終了後も専門のフォローアップ外来で定期的に健康状態をチェックすることが極めて重要です9
治療費が高額になりそうですが、日本で利用できる公的な経済支援はありますか?
はい、日本には手厚い支援制度があります。最も重要なのは「小児慢性特定疾病医療費助成制度」で、世帯の所得に応じて医療費の自己負担額に上限が設けられます。これに加えて、重度の状態にある子供を介護する家庭には「特別児童扶養手当」が支給される場合もあります。まずは、病院のソーシャルワーカーやお住まいの自治体の窓口に相談することをお勧めします4144
診断されたら、どの病院で治療を受けるべきですか?
小児肝臓がんのような稀な疾患の治療は、必ず「小児がん拠点病院」として指定されている施設で行うべきです。これらの病院には、小児がん専門医、小児外科医、放射線科医などからなる多専門職チームがあり、豊富な経験と最新の治療プロトコルへのアクセスが保証されています。かかりつけの医師に紹介を依頼することが最初の重要なステップです23

結論

小児肝臓がんの診断は、家族にとって計り知れない衝撃であり、困難な道のりの始まりです。しかし、この包括的な報告が示すように、希望は確かに存在します。過去数十年にわたる国際的な研究協力、特にSIOPEL、COG、そして日本のJCCG/JPLTといったグループの努力により、治療成績は劇的に向上しました。特に、小児肝臓がんの大多数を占める肝芽腫は、化学療法と手術を組み合わせた現代的な治療戦略により、高い治癒率が期待できる病気となっています。
治癒への鍵は、正確な診断、適切なリスク分類、そして「小児がん拠点病院」における多専門職チームによる集学的治療にあります。術前化学療法による腫瘍の縮小、完全な外科的切除の達成、そして術後のフォローアップは、治療の三本柱です。同時に、私たちは治療がもたらす可能性のある晩期合併症から目をそむけてはなりません。聴力、心臓、腎臓への影響などを生涯にわたって注意深く観察し、サバイバーの生活の質を維持することが、現代の小児がん治療におけるもう一つの重要な目標です。
最後に、日本の家族は決して一人ではありません。治療に伴う経済的負担を軽減するための手厚い公的支援制度、そして精神的・社会的な支えとなるNPOやコミュニティグループの広範なネットワークが存在します。この困難な時期を乗り越えるためには、これらの支援を積極的に活用し、医療チームと緊密に連携することが不可欠です。科学の進歩と社会の支えが、小児肝臓がんと闘うすべての子供たちとその家族に、明るい未来への道筋を照らしています。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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