【科学的根拠に基づく】1歳の発達【完全版】運動・言葉・社会性の成長目安と「1歳半健診」に向けた家庭での関わり方
小児科

【科学的根拠に基づく】1歳の発達【完全版】運動・言葉・社会性の成長目安と「1歳半健診」に向けた家庭での関わり方

1歳の誕生日は、赤ちゃんの成長における大きな節目であり、家族にとって大きな喜びの時です。しかし、多くの保護者の方々にとって、この時期は「1歳6か月児健康診査」のお知らせが届き、新たな不安が芽生え始める時期でもあります。「うちの子は順調に発達しているのだろうか?」「健診で何か指摘されたらどうしよう?」といった心配は、子を想う親として自然な感情です。この記事は、そのような保護者の皆様の不安に深く寄り添い、米国疾病予防管理センター(CDC)や日本小児科学会などの信頼できる情報源に基づく科学的根拠と、具体的な家庭での関わり方を提供することを目的としています。本稿を通じて、お子様の成長を自信を持ってサポートし、この貴重な時期をより豊かに過ごすための一助となることをJAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心より願っております。

医学的レビュー担当者:
藤井 明子 (ふじい あきこ) 医師
どんぐり発達クリニック院長、小児科専門医、小児神経専門医


この記事の科学的根拠

この記事は、参考文献として明記された、質の高い医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本稿で提示される医学的指導の根拠となった主要な情報源とその関連性です。

  • 米国疾病予防管理センター(CDC): 本記事における子どもの発達段階(マイルストーン)に関するチェックリストや、「レッドフラッグ(専門家への相談を検討するサイン)」に関する指針は、CDCが公開する最新の知見に基づいています1
  • 米国小児科学会(AAP): 運動能力、言語能力、認知能力などの各発達項目に関する具体的な目安は、世界的な権威である米国小児科学会のガイドラインを参考にしています2
  • 日本国厚生労働省: 日本国内の状況に即した内容を提供するため、保育所保育指針や母子健康手帳に関する情報など、厚生労働省の公式な指針を重要な根拠としています34
  • 日本小児科学会: 子どもの健全な発達を促すための専門的な提言、特にメディア視聴時間に関する勧告などは、日本小児科学会の公式見解に基づいています5

要点まとめ

  • 1歳児の発達は「運動」「認知」「言葉」「社会性」の4分野で著しく、個人差が大きいことを理解することが重要です。
  • 「1歳6か月児健康診査」は子どもの発達を確認し、育児の悩みを専門家に相談する貴重な機会であり、「試験」ではありません。主なチェック項目は「指差し」や「積み木」などです。
  • 「言葉の遅れ」「癇癪(かんしゃく)」「分離不安」は多くの親が経験する3大不安ですが、その多くは正常な発達過程の一部です。
  • 絵本の読み聞かせや外遊びなど、親子の積極的な関わりが子どもの発達を促します。特に、テレビやスマートフォンの長時間視聴は言葉の発達に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
  • ほとんどの発達の遅れは個人差の範囲内ですが、呼びかけへの無反応や一度できたスキルを失うなどの「レッドフラッグ」が見られる場合は、早期に専門家へ相談することが推奨されます。

第1部:1歳児の発達、全体像を理解する (12ヶ月~18ヶ月)

この時期の子どもは、昨日できなかったことが今日できるようになるなど、驚異的なスピードで成長します。保護者としては、つい他の子と比較してしまいがちですが、発達のペースは一人ひとり異なります。ここでは、米国疾病予防管理センター(CDC)や米国小児科学会(AAP)といった国際的な基準と、日本の厚生労働省が示す基準を統合し、最も信頼性の高い発達の目安を4つの主要な分野に分けて詳しく解説します123

1.1. 運動能力の発達:最初の一歩から世界が広がる

1歳前後は、子どもの移動能力が飛躍的に向上する時期です。自分の意志で動けるようになることで、子どもの世界は格段に広がります。

粗大運動 (Gross Motor Skills)

体全体の大きな動きを指します。この時期の最も大きなイベントは「歩行」です。

  • つかまり立ちから伝い歩きへ: 家具や壁につかまりながら立ち上がり、カニ歩きのように横に移動します2
  • 最初の一歩: 支えなしで数秒間立ったり、最初の一歩を踏み出したりします。歩き始めの時期には非常に大きな個人差があるため、焦る必要はありません。早い子では1歳前に、ゆっくりな子では1歳半頃に歩き始めることも珍しくありません。
  • 多様な動き: しゃがんで物を拾ったり、立ち上がったり、低いソファや段差をよじ登ったりと、より複雑な動きができるようになります6

微細運動 (Fine Motor Skills)

手や指先の細かい動きを指します。脳の発達と密接に関連しています。

  • 指先でのつまみ(Pincer Grasp): 親指と人差し指の先を使って、パンくずのような小さなものを上手につまめるようになります。
  • 容器への出し入れ: ブロックや小さなおもちゃをカップや箱に入れたり、出したりする遊びを好みます。これは物の関係性を学んでいる証拠です7
  • なぐり描き: クレヨンを握り、紙に力強く線や点を描きます6。これは手の動きと描画結果の因果関係を学び始める第一歩です。

【専門家の視点】運動と認知能力の深い関係
2004年に発表されたある研究では、1歳時点での運動能力が、4歳時点での認知能力と関連していることが示唆されています8。活発な運動は、単に体を丈夫にするだけでなく、周囲の環境を探索し、新たな発見をすることで脳に多様な刺激を与え、認知的な発達にも不可欠な役割を果たすのです。

1.2. 認知・思考力の発達:世界は「なぜ?」で溢れている

この時期の子どもは、五感をフル活用して身の回りの世界を積極的に探求する小さな科学者です。ピアジェの発達段階説における「感覚運動期」の後半にあたり、様々な実験を通じて世界がどのように機能しているかを学んでいきます9

  • 物を様々な方法で探求する: おもちゃをただ眺めるだけでなく、振って音を確かめたり、叩いてみたり、投げたりして、その性質を探ります2。この行動は、物の多面的な特性を理解しようとする試みです。
  • 隠された物を見つける(対象の永続性の理解): 目の前で布の下におもちゃを隠すと、布をめくって探そうとします。これは「見えなくなっても物は存在し続ける」という「対象の永続性」という重要な概念を理解し始めた証拠です10
  • 簡単な指示を理解し、実行しようとする: 「ボールを取って」「バイバイして」などの簡単な言葉かけを理解し、行動に移そうとします。
  • 大人の仕草を真似する(模倣): 電話をかける真似をしたり、リモコンのボタンを押す真似をしたりと、大人の行動を観察し、模倣するようになります7。これは社会性を学ぶ上で非常に重要なスキルです。

1.3. 言葉とコミュニケーションの発達:「ママ」「パパ」そしてその先へ

言葉の発達は保護者が最も関心を寄せる分野の一つですが、これもまた個人差が非常に大きい領域です。言葉を話さなくても、子どもはたくさんの言葉を理解し、蓄積しています。

  • 意味のある単語を話す: 「ママ」「パパ」「マンマ(ごはん)」「ワンワン」など、意味のある単語を1~3語ほど話すようになります11
  • 簡単なジェスチャーを使う: 手を振って「バイバイ」をしたり、首を横に振って「いや」という意思を示したりします。
  • 「だめ」を理解する: やってはいけないことを制止されたときに、一瞬動きを止めるなど、簡単な禁止の言葉を理解し始めます。
  • 指差しで要求する: 欲しいものや興味のあるものを指差して「あー、あー」と声を出し、親の注意を引いて要求を伝えようとします(要求の指差し)12

1.4. 社会性・情緒の発達:自我の芽生えと人との関わり

他者との関係の中で自分という存在を意識し始め、「自我」が芽生える重要な時期です。これにより、今までにない複雑な感情や行動が見られるようになります。

  • 人見知りや分離不安: 親しい人とそうでない人を区別し、知らない人に対して不安を感じたり、泣いたりすることがあります。また、親(特に母親)から離れることに強い不安を感じる「分離不安」が見られることもあります13。これは親との強い愛着関係が形成されている証拠であり、正常な発達過程です。
  • 注意を引く行動: わざと音を立てたり、同じ行動を繰り返したりして、親の注意を引こうとします7
  • 協力的な姿勢: 服を着替えるときに自ら腕を袖に通そうとしたり、足をズボンに入れようとしたりするなど、簡単な日常生活の場面で協力的な姿勢を見せるようになります。

【表1】ひと目でわかる!1歳児(12~18ヶ月)の発達目安 総合チェックリスト

以下のリストはあくまで一般的な目安です。全ての項目ができていなくても心配する必要はありません。お子様の成長を温かく見守るための参考としてご活用ください。

発達分野 具体的な行動例(目安) 情報源
粗大運動 ・支えなしで一人で立つ
・数歩、歩く
・しゃがんだり立ったりする
CDC1, AAP2
微細運動 ・親指と人差し指で小さい物をつまむ
・クレヨンでなぐり描きをする
・積み木を2つ積もうとする
AAP2, UNICEF7
認知・思考 ・簡単な指示に従う(例:「ボールをどうぞ」)
・隠された物を探す
・物の正しい使い方を真似る(例:コップで飲む真似)
CDC1, Piaget10
言葉・コミュニケーション ・「ママ」「パパ」など意味のある言葉を1語以上話す
・「バイバイ」など身振り手振りを使う
・欲しいものを指差す
MHLW11, LITALICO12
社会性・情緒 ・親から離れると不安になることがある(分離不安)
・親の注意を引くために行動する
・絵本を一緒に見たり、遊んだりすることに興味を示す
UNICEF7, MSD13

第2部:最重要イベント「1歳半健診」- 不安を自信に変えるための完全ガイド

1歳6か月児健康診査は、母子保健法に基づき市町村が実施する、子どもの発達を確認するための重要な機会です14。多くの保護者の方がこの健診にプレッシャーを感じ、「うちの子はクリアできるだろうか」と心配になりますが、これは子どもの能力を試す「試験」ではありません。その真の目的は、もし何か発達上の懸念があった場合にそれを早期に発見し、適切な支援やアドバイスにつなげることにあります15。保護者が育児に関する悩みを専門家(医師、歯科医師、保健師、心理相談員など)に直接相談できる貴重な場でもあるのです。

2.1. 健診では何を「見られて」いるのか?

健診の内容は自治体によって多少異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます1617

  • 問診 (Interview): 保健師などが母子健康手帳の記録を参考にしながら、日常生活の様子、食事、睡眠、排泄、予防接種の状況、そして保護者が日頃感じている育児の悩みや心配事について詳しく聞き取ります。
  • 身体測定 (Physical Measurement): 身長、体重、頭囲、胸囲を測定し、成長曲線と照らし合わせて順調な身体的発育がなされているかを確認します。
  • 内科診察 (Medical Exam): 医師が全身の状態(皮膚、心音、呼吸音など)を診察し、先天的な病気や発達上の問題がないかを確認します。
  • 歯科検診 (Dental Exam): 歯科医師が虫歯の有無、歯の生え方、噛み合わせなどをチェックし、歯磨きの指導なども行います18

これらの基本的な診察に加え、発達の状況を確認するために、特に注目されるのが以下のチェック項目です。

【表2】1歳半健診の主要発達チェック項目とその目的

チェック項目 具体的な内容 目的(なぜこれを確認するのか?) 家庭でできる準備・関わり方
指差し (Pointing) 絵カードなどを見せ、「ワンワンはどれ?」といった質問に対し、子どもが指で正しく差せるかを確認します19 単に物の名前を理解しているかだけでなく、他者と注意を共有し、意思疎通を図ろうとする「共同注意」という重要な社会性の発達を確認するためです12 日常的に絵本を読み聞かせ、「これはりんごだね」「ワンワンがいるね」と保護者が指を差して見せる遊びが効果的です。
積み木 (Stacking Blocks) 保健師や医師の前で、2~3個の積み木を積めるかを見ます15 物体の形を認識し、それを意図通りに操作する手と目の協応(Hand-eye coordination)や、指先の巧緻性(微細運動)の発達を確認するためです20 特別な練習は不要です。積み木や箱など、安全に積んだり重ねたりできるおもちゃで遊ぶ機会を日常的に作るだけで十分です。親が楽しそうに積んで見せるのが一番の促しになります。
言葉 (Language) 「ママ」「ブーブー」など、意味のある単語をいくつか言えるか、また簡単な指示を理解しているかなどを確認します。 発語能力だけでなく、言葉を理解し、コミュニケーションの手段として使おうとする意欲が育っているかを確認します。 たくさん話しかけ、子どもの発する喃語や言葉に「そうなのね」「楽しいね」と積極的に応答してあげることが、話す意欲を育てます。
歩行 (Walking) 診察室の中を一人で安定して歩けるか、その様子を観察します。 粗大運動能力の基本的な発達と、バランス感覚が順調に育っているかを確認します。 公園や児童館など、安全が確保された環境で自由に歩き回れる時間を十分に作ってあげましょう。

2.2. 健診で「様子を見ましょう」と言われたら?

健診の結果、「要観察」や「様子を見ましょう」という言葉をかけられることがあります。多くの保護者はこの言葉に大きな不安を感じますが、パニックになる必要はありません。これは「異常」という診断ではなく、「現時点でははっきりとした判断は難しいものの、今後の成長を注意深く見守っていきたい」という専門家の丁寧な見解であることがほとんどです21
重要なのは、その場で具体的な質問をすることです。「具体的にいつまで、何を様子見するのですか?」「家庭ではどのような点に注意すればよいですか?」と確認しましょう。また、必要であれば、地域の保健センターや児童発達支援センターといった専門の相談窓口の情報を教えてもらい、利用することもできます22。一人で悩みを抱え込まず、専門家のサポートを積極的に活用することが大切です。


第3部:親が抱える「3大不安」と専門家による解決策

1歳児の子育てでは、多くの保護者が共通の悩みに直面します。ここでは特に多い3つの不安について、その背景と専門家のアドバイスに基づいた解決策を解説します。

3.1. 不安①:「言葉が遅いのでは?」

  • 現状の理解: 言葉の発達には非常に大きな個人差があります23。同年代の子が話しているのを見ると焦るかもしれませんが、言葉を話さなくても、大人の言うことをどの程度理解しているか(言語理解)がこの時期はより重要です。「ボールちょうだい」と言われてボールを渡そうとするか、「お風呂だよ」と言うと浴室の方を見るか、といった行動に注目しましょう24
  • 考えられる原因: 原因は、おっとりした性格や内気な気質、きょうだいの有無といった環境要因から、聴力の問題、あるいは発達障害の可能性まで多岐にわたります25
  • 家庭でできること:
    • テレビやスマートフォンは避ける: 日本小児科学会は、2歳以下の子どもに長時間テレビやビデオを見せることが、言葉の発達を遅らせる危険性があると明確に指摘しています5。一方的なメディアからの情報ではなく、人との双方向のコミュニケーションが言葉を育みます。
    • 絵本の読み聞かせ: 指差しをしながら、「これはワンワンだね」と言葉と物を具体的に結びつけてあげることは、語彙を増やす上で非常に効果的です。
    • たくさん話しかける: 「お花がきれいだね」「車が通ったね」など、日常の出来事を実況中継するように話しかけ、豊かな言語環境を作ってあげましょう。

3.2. 不安②:「イヤイヤ期?癇癪(かんしゃく)がひどい」

  • 行動の背景: 1歳半頃から見られることがある癇癪は、「第一次反抗期」の始まりであり、自我が順調に芽生えている成長の証です26。「自分でやりたい」という強い気持ちと、それがうまくできないもどかしさや、自分の思い通りにならないことへの怒りが、言葉でうまく表現できないために癇癪という行動として現れるのです。
  • 対応のポイント:
    • まずは気持ちを受け止める: 「これがやりたかったんだね」「うまくできなくて悔しかったね」と、まずは子どもの気持ちを代弁し、共感を示しましょう。
    • 危険でない限りは見守る: 自分で靴を履こうとしている時など、危険がなく、時間に余裕がある時は、少し手を出さずに子どもの挑戦を見守ることも大切です。
    • 選択肢を与える: 「赤い服と青い服、どっちにする?」のように、子どもが自分で決められる選択肢を与えると、自己主張が満たされ、癇癪が収まることがあります。

3.3. 不安③:「ママから離れない!」(分離不安)

  • 正常な発達段階: 分離不安は、一般的に生後8ヶ月頃から始まり、1歳から1歳半頃にピークを迎える、ごく正常な発達段階です13。これは、特定の人(主に母親)との間に強い愛着関係(アタッチメント)が形成された証拠であり、喜ばしい成長のサインと捉えることができます。
  • 対応のポイント:
    • こっそりいなくならない: 子どもが気づかないうちにこっそり外出すると、かえって不安を煽ってしまいます。離れるときは「お買い物に行って、すぐに帰ってくるね」と笑顔で伝え、約束通りに戻ることが信頼関係を築きます。
    • 「いないいないばあ」遊び: この遊びは、「今、目に見えなくても、ママは存在している」という対象の永続性の理解を助け、分離不安を和らげるのに役立つと言われています13
    • 再会を喜ぶ: 戻ってきたときに、「ただいま!待っててくれてありがとう」と愛情を込めて抱きしめてあげることで、子どもは安心感を得ることができます。

第4部:発達を促す!親子のベストな関わり方

子どもの発達を促すために、特別な知育玩具や早期教育が必要なわけではありません。最も大切なのは、日常生活の中での温かい親子の触れ合いです。ここでは、科学的な根拠に基づき、子どもの発達を自然にサポートする遊びや関わり方を紹介します。

【表3】科学的根拠に基づく!発達を促す遊びと関わり方

遊び・関わり方 促される能力 ポイントと科学的根拠
絵本の読み聞かせ 言語能力、認知能力、社会性 言葉とイメージを結びつけ、語彙力を豊かにします。親子の膝の上で絵本を見る時間は、共同注意を育み、情緒的な安定にもつながります23
積み木・型はめパズル 微細運動、問題解決能力 手と目の協応動作を鍛え、「大きい・小さい」「丸い・四角い」といった概念の理解を助けます。試行錯誤する過程で、論理的思考力の基礎を養います27
ごっこ遊び(おままごと等) 社会性、想像力、言語能力 他者の役割を演じることで、相手の視点に立つ練習になります。大人の行動を模倣し、言葉でのやり取りを学ぶ絶好の機会です28
外遊び・公園遊び 粗大運動、感覚統合 歩く、走る、登る、滑るといった多様な全身運動は、身体能力だけでなくバランス感覚も養います。土や砂、草木に触れることは、脳に多様な感覚刺激を与え、健全な発達を促します29
簡単なお手伝い 自立心、自己肯定感 「ティッシュを取ってきて」「ゴミをポイして」といった簡単なお手伝いを頼み、「ありがとう、助かったよ」と褒めることで、「自分は役に立つ存在だ」という自己肯定感が育まれます26

第5部:いつ専門家に相談すべきか?- 発達の「レッドフラッグ」

繰り返しになりますが、子どもの発達には個人差があり、ほとんどの場合は心配いりません。しかし、一部には医学的なサポートや療育が必要なケースも存在します。以下のサイン(レッドフラッグ)は、米国疾病予防管理センター(CDC)などが示している、専門家への相談を検討する目安です130。これらは診断基準ではありませんが、保護者の皆様が早期に気づき、行動を起こすための大切な情報です。過度に不安を煽るものではなく、あくまで冷静な観察のための指標としてください。

【表4】専門家への相談を検討するサイン(レッドフラッグ)

領域 相談を検討するサイン(目安)
運動 ・1歳6ヶ月になっても、つかまり立ちをしない
・1歳6ヶ月になっても、歩き出さない
・歩き方が極端に不安定、または左右非対称
言葉・コミュニケーション ・名前を呼んでも、ほとんど振り向かない
・簡単な身振り(バイバイなど)を真似しない
・1歳6ヶ月になっても意味のある言葉を全く話さない
社会性・対人関係 ・他人にほとんど興味を示さない、目が合わない
・指差しをしない(興味の指差し・要求の指差しともに)
全般 ・一度できていたスキル(お座り、ハイハイ、喃語など)ができなくなる(スキルの退行)

責任ある行動喚起
もし、これらのサインのいずれかについて強いご心配がある場合は、決して一人で悩まず、かかりつけの小児科医や地域の保健センター、児童相談所などに相談してください。早期の相談と適切な介入は、お子様の可能性を最大限に引き出すための最も重要な一歩です。

結論:子どものペースを信じ、親として自信を持つこと

1歳という時期は、子どもの発達が目覚ましく、親にとっては喜びと同時に不安が入り混じる複雑な時期です。しかし、最も大切なのは、他の誰かと比べるのではなく、昨日のお子様より今日の、今日のお子様より明日の、その子自身の成長を信じて見守ることです。発達は一直線の右肩上がりではなく、進んだり、少し立ち止まったりを繰り返しながら、一人ひとり全く違う曲線を描いていきます。
小児神経専門医の藤井明子医師も、個性を尊重することの重要性を強調しています31。日々の生活の中で見られる小さな成長、新しい発見を心から喜び、子どもの「やってみたい」という好奇心を安全な範囲で応援してあげることが、何よりも優れた発達のサポートになります。この情報が、保護者の皆様の不安を和らげ、自信を持って子育てという素晴らしい旅を楽しんでいただくための一助となれば幸いです。

よくある質問

Q1: 1歳半健診は必ず受けなければなりませんか?
はい。1歳6か月児健康診査は、母子保健法第12条および第13条の規定に基づき、お住まいの市町村が実施する義務のある法定健診です32。費用は無料で、お子様の健康と発達の状態を専門家が確認し、育児上の不安について相談できる非常に重要な機会ですので、必ず受診するようにしてください。
Q2: 男の子は女の子より言葉が遅いというのは本当ですか?
一般的に「男の子の方が言葉の発達が少しゆっくりである」という傾向が見られるという研究報告は確かに存在します33。しかし、これはあくまで集団で見た場合の統計的な傾向に過ぎず、科学的に全ての男の子に当てはまる事実として断定されているわけではありません。言葉の発達には性差以上に個人差が非常に大きいため、「男の子だから」と安易に判断せず、その子自身の発達ペースを見守り、必要であれば専門家に相談することが大切です。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  25. LITALICO Junior. 1歳半の言葉の発達の目安は?言葉が出ない原因やトレーニング方法なども解説します (What are the milestones for language development at 1.5 years old? We also explain the causes of not speaking and training methods). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://junior.litalico.jp/column/article/047/
  26. Meiji. 1歳6ヵ月~2歳のお子さまの発育と発達 (Growth and development of children from 1.5 to 2 years old). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://www.meiji.co.jp/baby/club/category/study/grow_child/st_grow_child45.html
  27. CHACHACHA. 1歳児の成長・発達とは?適切な接し方や室内遊びのポイントを徹底解説 (What is the growth and development of a 1-year-old? A thorough explanation of appropriate interaction and points for indoor play). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://chachacha-toy.com/column/819/
  28. Baby Park. 1歳児の幼児教育はどうすればいい?できること・成長を促すためのポイントを紹介 (What should I do for early childhood education for a 1-year-old? Introducing what they can do and points to promote growth). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://www.babypark.jp/column/1-year-old-childhood-education/
  29. Benesse Tamahiyo. 【1歳・2歳】運動が得意な子に育てるための遊び方&かかわり方 (How to play and interact to raise a child who is good at sports [1-2 years old]). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=28096
  30. LITALICO Developmental Navi. 1歳で自閉症は分かる?特徴や症状、チェックリストも【小児科医監修】 (Can autism be identified at age 1? Features, symptoms, and a checklist [Supervised by a pediatrician]). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://h-navi.jp/column/article/35029840
  31. LITALICO Developmental Navi. 藤井明子先生 | 執筆・監修いただいている専門家の先生方のご紹介ページ (Dr. Akiko Fujii | Introduction page for our expert authors and supervisors). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://h-navi.jp/experts/34
  32. National Institute of Public Health. 母子健康手帳の交付・ 活用の手引き (Guide to Issuance and Utilization of the Maternal and Child Health Handbook). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://www.niph.go.jp/soshiki/07shougai/hatsuiku/index.files/koufu.pdf
  33. Baby Park. 1歳8ヶ月でまだしゃべらないのは発達の遅れ?言葉の遅れの対処法や発達障害との関係を解説 (Is it a developmental delay if a 1-year-8-month-old is not talking yet? Explaining coping methods for language delay and its relationship with developmental disorders). [cited 2025 Jul 10]. Available from: https://www.babypark.jp/column/what-to-do-1-year-and-8-months-old-wont-talk/
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