【肘関節置換術】適応・効果と術後生活を解説
筋骨格系疾患

【肘関節置換術】適応・効果と術後生活を解説

肘の痛みが強く、曲げ伸ばしができない。肘が不安定で物を持つのが怖い。関節リウマチや骨折の後遺症で、日常生活が立ち行かない――そんなときに検討される治療の一つが、肘関節置換術(人工肘関節置換術/Total Elbow Arthroplasty: TEA)です。米国Mayo Clinicは、肘の関節面を人工関節で置き換えて痛みを軽減し機能改善を目指す手術である一方、肘は構造が複雑で合併症も起こり得るため、適応判断が重要だと説明しています。1

この記事では、「肘関節置換術とは何か」「どんな場合に必要になるのか」「最新の手術・設計の考え方」「術後に守るべき生活上の注意(特に“重さ制限”)」「合併症のサイン」を、国内の大学病院・病院資料や国際的な一次情報に基づき、できるだけ具体的に整理します。たとえばAAOS(米国整形外科学会)は、人工肘関節は負荷に弱く、術後の活動制限(持ち上げ重量の上限など)を守ることが長期成績に関わると明記しています。2

なお、突然の強い腫れ・赤み・熱感、発熱、傷口からの浸出液、指のしびれの急な悪化、胸痛や息切れなどがある場合は、自己判断で様子を見ず、早急に医療機関へ連絡してください(状況により119)。勤医協中央病院の説明文書でも、人工関節手術後は感染や血栓症などのリスクに注意し、異変があれば速やかに相談するよう求めています。3

Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について

Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。

本記事は、厚生労働省の情報提供サイト(e-ヘルスネット、eJIM)国内の大学病院・病院の説明資料、およびAAOS(米国整形外科学会)やMayo Clinic、NHS(英国の公的医療機関)などの一次情報、さらに査読付き論文(システマティックレビュー等)に基づき、JHO編集部が内容を整理しました。

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要点まとめ

  • 肘関節置換術(人工肘関節置換術)は、肘の関節面を人工関節に置き換え、痛みの軽減と機能改善を目指す手術です(Mayo Clinic、AAOS)。12
  • 主な適応は、関節リウマチによる高度な破壊や、重度の粉砕骨折・外傷後変形などで、生活動作が大きく制限される場合に検討されます(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)。4
  • 人工肘関節には“連結型(linked)”と“非連結型(unlinked)”などがあり、靱帯の状態や不安定性により選択が変わります(東京女子医科大学病院)。5
  • 術後は「重い物を持たない」などの生活制限が長期成績に直結します。AAOSは持ち上げ重量に上限を設ける必要があると説明しています(一般に数kg程度が目安として提示されることが多い)。2
  • 合併症(感染、神経障害、ゆるみ、骨折など)はゼロではありません。勤医協中央病院の資料では、感染(例:術後の感染率の目安)や血栓症などに注意するよう記載があります。3
  • 「いつ受診すべきか」は明確に線引きできます。発熱、強い腫れ・熱感、急な神経症状などがあれば早急に医療機関へ(勤医協中央病院、NHS)。3

第1部:肘の症状の基本と、まずできる見直し

肘関節置換術の検討は、いきなり手術から始まりません。多くの場合、痛みの原因・不安定性の程度・日常生活への影響を整理し、保存療法で改善の余地があるかを確認したうえで、手術適応を判断します。慶應義塾大学病院KOMPASは、肘の変形性関節症では症状や画像所見に応じて保存療法から手術まで幅広い選択肢があると説明しています。6

1.1. 基本的なメカニズム・体の仕組み

肘は「曲げ伸ばし(屈曲・伸展)」だけでなく「前腕を回す(回内・回外)」動きにも関与する、複数の骨と関節面が組み合わさった関節です。Mayo ClinicやAAOSの説明でも、肘は複雑な構造であり、痛みや変形が進むと日常動作(食事、整容、着替え、PC作業など)に直結しやすいと整理されています。12

関節面の軟骨がすり減る(変形性関節症など)、滑膜の炎症が続く(関節リウマチなど)、骨折や靱帯損傷で関節の形が崩れる(外傷後変形、粉砕骨折など)と、痛み・可動域制限・不安定性が組み合わさって悪化します。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は、関節リウマチによる関節症や高度な粉砕骨折で人工肘関節が検討されると説明しています。4

1.2. 悪化させてしまうNG習慣

痛みがある肘に「繰り返し強い負荷」をかけ続けることは、症状悪化の引き金になり得ます。特に、体重を腕で支える動作(腕立て伏せ、重い荷物を肘を伸ばしたまま持つ、手すりに強く体重を預けるなど)は、肘へのストレスが大きくなります。慶應義塾大学病院KOMPASは、肘の変形性関節症に対して症状に応じた生活指導や治療が必要になることを示しています。6

人工肘関節置換術後はさらに重要です。AAOSは、人工肘関節には負荷の制限が必要で、重い物を持つ・押す・引くといった動作は長期的に避けるべき行為として整理しています。2

  • 「痛いのに我慢して使い続ける」:炎症や組織損傷を長引かせ、夜間痛や可動域低下につながることがあります(Mayo Clinic)。1
  • 痛み止めだけで無理をする:痛みは軽くなっても関節の状態が改善するとは限りません。症状と活動量のバランス調整が重要です(AAOS、慶應義塾大学病院KOMPAS)。26
  • 自己流で強いストレッチを繰り返す:不安定性や神経症状がある場合、悪化させることがあります。違和感が強いときは専門家に相談しましょう(勤医協中央病院の注意喚起:神経症状や異常感覚は報告する)。3
表1:セルフチェックリスト(肘の症状整理)
こんな症状・状況はありませんか? 考えられる主な背景・原因カテゴリ
肘の痛みで、髪を洗う/口に食べ物を運ぶ動作がつらい 関節リウマチの肘病変、変形性関節症、外傷後変形など(Mayo Clinic、聖マリアンナ医科大学)。14
肘が伸びきらない・曲がりきらない(拘縮)、夜間痛が続く 炎症・変形の進行、拘縮(慶應義塾大学病院KOMPAS)。6
肘がぐらつく、不安定で物を持つのが怖い 靱帯不全を伴う関節破壊、外傷後の不安定性(聖マリアンナ医科大学、東京女子医科大学)。45
小指・環指のしびれ、肘の内側を叩くと響く 尺骨神経の刺激・障害が関与する可能性。術前後に症状の確認が重要(勤医協中央病院:尺骨神経領域のしびれに言及)。3
転倒後に肘が腫れて変形し、動かせない 粉砕骨折などの外傷。高齢者では骨粗鬆症が背景になりやすい(e-ヘルスネット、聖マリアンナ医科大学)。74

保存療法(手術以外)としては、薬物療法、装具、リハビリ、注射などが検討されます。慶應義塾大学病院KOMPASは、肘の変形性関節症に対して保存療法と手術療法の両面を示し、状態により人工肘関節を含む手術が選択肢になると説明しています。6

第2部:背景にある「内部要因」— リウマチ・骨の弱さ・隠れたリスク

肘関節置換術が必要になる背景は一つではありません。関節そのものの破壊(関節リウマチなど)だけでなく、骨の質(骨粗鬆症)や全身状態、既往歴が、骨折の起こりやすさや手術後の経過に影響します。e-ヘルスネット(厚生労働省)は、骨粗鬆症が進むと骨がもろくなり骨折しやすくなること、栄養や運動不足が要因になり得ることを説明しています。8

2.1. 【特に女性】ライフステージと関節リウマチ・骨折リスク

関節リウマチ(RA)は女性に多く、関節の痛み・腫れ・こわばりが生じ、免疫が関節を覆う膜を攻撃する病気だと厚生労働省eJIMは説明しています。9 肘に高度な破壊が生じると、痛みと機能障害が強くなり、人工肘関節が検討されることがあります(聖マリアンナ医科大学)。4

また、閉経後などで骨が弱くなっている場合、転倒などを契機に肘周囲の骨折が重症化しやすく、骨折型によっては人工肘関節(または関連手術)が選択肢になることがあります(e-ヘルスネット、聖マリアンナ医科大学)。84

2.2. 骨の弱さ・欠乏状態(骨粗鬆症、フレイルなど)

骨粗鬆症は「骨の代謝バランスが崩れて骨がもろくなる状態」で、骨折しやすくなるとe-ヘルスネット(厚生労働省)が解説しています。8 肘の手術では、骨の状態がインプラント固定や骨折リスクに影響するため、術前に骨密度や栄養・運動習慣を含めた全身評価が重要になります(慶應義塾大学病院KOMPAS:画像評価や病状に応じた治療選択の考え方、NHSの患者ガイド:術後の注意と長期管理)。610

「食事や運動の見直しだけで手術が不要になる」という意味ではありませんが、骨と筋力の基盤を整えることは、術前準備・術後回復の“土台”になり得ます。e-ヘルスネットは、カルシウムやビタミンDなどの栄養、適度な運動が骨粗鬆症の要因と関連し得ると説明しています。8

第3部:専門的な診断が必要な状態 — 「肘関節置換術」を検討する目安

肘関節置換術は、誰にでも行う治療ではありません。痛み・拘縮・不安定性が強く、保存療法では生活が成り立たない場合に、画像検査と機能評価を踏まえて検討されます。慶應義塾大学病院KOMPASは、変形性関節症において症状と画像所見に応じて治療法を選択し、重症例では人工肘関節置換術が選択肢となることを示しています。6

3.1. 代表的な適応A:関節リウマチで「痛い・動かない・不安定」な肘

関節リウマチで肘関節が高度に障害されると、痛みと機能低下が強くなります。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は、関節リウマチにおける「疼痛を伴う拘縮肘」「疼痛を伴う不安定肘」「強直肘」などが人工肘関節の主な適応になると具体的に説明しています。11

ただし、同じ「リウマチ」でも、薬物療法(DMARDsなど)で炎症が抑えられ、手術が先送りできるケースもあります。厚生労働省eJIMは、早期治療が関節障害と進行を防ぐ鍵であり、DMARDsなどを組み合わせて痛み・炎症を抑え、関節損傷を遅らせることが目的だと述べています。9

近年のリウマチ治療の進歩により手術の役割が変化している点については、J-STAGE掲載の国内論文でも、薬物療法の進歩と手術の位置づけ、人工肘関節の改良や手術支援技術の進展が論じられています。12

3.2. 代表的な適応B:高度粉砕骨折・外傷後変形(高齢者を含む)

肘周囲の高度粉砕骨折(例:上腕骨遠位端骨折)では、骨質や骨折型によっては人工肘関節が選択肢になります。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は、高度な粉砕骨折で人工肘関節が行われると明記しています。11

国際的にも、高齢者の上腕骨遠位端骨折に対し、プレート固定(ORIF)と人工肘関節(TEA)を比較したメタアナリシスがあり、治療選択の議論が続いています。たとえばSeokらのシステマティックレビュー/メタアナリシスは、高齢(60歳以上)の上腕骨遠位端骨折でORIFとTEAを比較し、研究を統合して評価しています。13

国内でも、急性期骨折に対して人工肘関節を用いた症例報告・症例集積があり、患者背景(高齢、骨質)を踏まえた適応判断が示されています(J-STAGE掲載の症例報告)。14

「人工肘関節=最新で万能」ではありません。人工関節は耐久性に限界があり、合併症や再手術のリスクもあるため、患者の年齢、活動量、骨と靱帯の状態、感染リスク、他関節の障害などを総合して決める必要があります(Mayo Clinic、AAOS、慶應義塾大学病院KOMPAS)。126

3.3. 「最新の治療法」とは何を指す?— インプラント設計と手術戦略の進歩

肘関節置換術の“最新”は、流行の新技術というより「適応の精密化」「インプラント設計の最適化」「合併症を減らすための周術期戦略」の積み重ねです。東京女子医科大学病院は、人工肘関節置換術の方式として、非連結型(unlinked)連結型(linked)を説明し、関節を構成する骨や靱帯の状態により選択されることを示しています。15

一般に、非連結型(unlinked)は靱帯機能が保たれた肘で安定性を期待できる一方、不安定性が強い場合は難しくなり得ます。連結型(linked)は機械的に安定性を得やすい一方、負荷が集中しやすく、ゆるみなどのリスク評価が重要です(東京女子医科大学病院、国際的なRA患者データのメタ解析:設計や患者要因と失敗率の関連を検討)。1516

さらに、国内論文では、人工肘関節の改良に加え、術前の画像評価や手術支援技術(コンピュータ支援など)を用いた精度向上の方向性が述べられています。12

3.4. 手術はどんな流れ?— 受診から術後までを「絵が浮かぶように」整理

受診・診断では、症状(痛み、可動域、ぐらつき、しびれ)と、X線などの画像所見を合わせて評価します(慶應義塾大学病院KOMPAS)。6 関節リウマチが背景にある場合は、炎症コントロールや全身状態(感染リスク、薬剤)も重要になるため、整形外科とリウマチ内科の連携が有用です(厚生労働省eJIMのRA解説)。9

手術当日は、全身麻酔で行うことが一般的です(聖マリアンナ医科大学)。11 勤医協中央病院の説明資料では、肘の後方を切開し、関節面を切除して人工関節を挿入・固定する流れが説明され、切開長(例)や、尺骨神経(小指側の感覚に関わる神経)を確認・保護する必要性にも触れています。17

術後直後~数週間は、腫れと痛みの管理、創部管理、神経症状のチェックが中心です。勤医協中央病院は、術後の感染徴候(熱感、疼痛、発赤、腫脹、浸出液など)に注意し、疑わしい場合はすぐ連絡するよう求めています。17 また血栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)への注意や予防(早期離床、運動、弾性ストッキング等)にも言及しています。17

固定(シーネ等)とリハビリは施設・病態で異なります。東京女子医科大学病院は、術後約1週間でリハビリを開始し、入院期間の目安を2〜3週間程度と説明しています。18 勤医協中央病院の資料には、術後の固定や段階的な訓練(例:夜間シーネの扱い)に関する記載があります。17 ただし、骨折の治療として実施した場合や神経症状がある場合など、計画は個別化されます(NHSの患者ガイドも、術後経過は個々で異なることを前提にリハビリ計画を示しています)。10

第4部:今日から始める改善アクションプラン(手術の有無にかかわらず)

肘関節置換術を検討している段階でも、今日からできる準備はあります。ポイントは「症状の見える化」「無理な負荷を避ける」「受診で伝える情報を整える」「術後を見据えた生活設計」です。AAOSは、人工肘関節は負荷に弱く、術後の活動制限が重要だと強調しています。2

表2:改善アクションプラン(肘関節置換術の検討者向け)
ステップ アクション 具体例
Level 1:今日から 症状と負荷の関係を記録する 「痛み(0〜10)」「腫れ」「しびれ」「できない動作(洗顔、箸、PC)」をメモ。受診時の説明が具体的になります(慶應義塾大学病院KOMPAS:症状と所見に基づく評価の重要性)。6
Level 2:今週 肘への“強い負荷”を減らす 重い荷物を肘を伸ばして持たない、体重を腕で支えない。人工肘関節を視野に入れる場合は特に重要(AAOS)。2
Level 3:受診までに 薬・既往歴・感染リスクの整理 お薬手帳、抗リウマチ薬やステロイド歴、糖尿病などを整理。RA背景では治療全体の最適化が重要(厚生労働省eJIM)。9
Level 4:術前〜術後を見据えて 生活の動線を整える 片手でできる家事手順に変更、よく使う物の位置を腰〜胸の高さへ、家族・職場の調整。術後は段階的に機能回復を目指す(NHS患者ガイド、Cleveland Clinic:回復は時間がかかり得る)。1920

「よくある勘違い」として多いのが、「痛みが引いた=関節が治った」「人工関節にしたら何でもできる」です。Mayo Clinicは、肘の人工関節は他関節の人工関節と比べて歴史的に合併症が多い傾向があること、近年の改善があることを説明しつつ、適応と術後管理の重要性を示しています。1 AAOSも、術後の活動制限が不可欠であることを具体的に述べています。2

第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?

肘の問題は「我慢して悪化しやすい」領域です。特に日本では「迷惑をかけたくない」「もう少し耐えれば…」と受診を遅らせがちですが、早めに状況を整理して相談することが、結果的に治療の選択肢を広げます(厚生労働省eJIM:RAは早期治療が鍵)。9

5.1. 受診を検討すべき危険なサイン

  • 発熱、傷の周囲の強い赤み・熱感・腫れ、浸出液、悪臭(感染の可能性:勤医協中央病院は感染徴候があれば速やかに連絡するよう記載)。17
  • 小指・環指のしびれが急に悪化、手の力が入らない(神経障害の可能性:勤医協中央病院は尺骨神経領域の症状に言及)。17
  • 息切れ、胸痛、片脚の急な腫れ(血栓症・肺塞栓症の可能性:勤医協中央病院は深部静脈血栓症・肺塞栓症に注意を促す)。17
  • 転倒後に変形・強い腫れ・激痛で動かせない(骨折の可能性)。骨が弱い場合は重症化しやすい(e-ヘルスネット)。8

5.2. 症状に応じた診療科の選び方

  • 肘の痛み・変形・骨折後:まず整形外科(必要に応じて肘関節専門外来)。
  • 関節リウマチが疑われる/診断されている:整形外科に加え、リウマチ内科(治療全体の最適化が重要:厚生労働省eJIM)。9
  • 骨折リスクが高い(骨粗鬆症が心配):整形外科受診時に骨評価も相談(e-ヘルスネット)。8

5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安

  • 症状メモ(いつから、どの動作が困る、痛みの強さ、しびれの有無)。
  • お薬手帳(抗リウマチ薬、ステロイド、抗凝固薬など)。RAでは治療薬の情報が特に重要(厚生労働省eJIM)。9
  • 画像検査のCDや紹介状があれば持参。
  • 費用は保険の自己負担割合や高額療養費制度の対象などで変わります。病院の医事課・加入保険へ確認しましょう(制度は個人条件で異なるため、ここでは一般論に留めます)。

よくある質問

Q1: 肘関節置換術(人工肘関節置換術)とは何ですか?

A: 肘の傷んだ関節面を人工関節で置き換え、痛みを軽減し、日常生活に必要な動きを取り戻すことを目指す手術です。Mayo Clinicは、肘の関節面を人工関節に置き換える手術であると説明しています。1

ただし、肘は構造が複雑で、他の人工関節(股・膝)と同じ感覚で「何でもできる」わけではありません。AAOSは、術後は活動制限(特に負荷)を守ることが重要だと明記しています。2

Q2: どんな人が手術の対象になりますか?

A: 代表的には、関節リウマチで肘が強く痛み、動きが悪い(拘縮)・不安定・強直で生活動作が困難な場合、または高度粉砕骨折などで関節再建が難しい場合です(聖マリアンナ医科大学)。11

一方で、RAでは薬物療法の進歩により手術の位置づけが変化しており、早期治療が重要だと厚生労働省eJIMは述べています。9 「今の肘の状態」と「全身の治療状況」を合わせて判断するのが基本です。

Q3: 連結型(linked)と非連結型(unlinked)は何が違うのですか?

A: 東京女子医科大学病院は、人工肘関節には非連結型(unlinked)と連結型(linked)があることを説明しています。15

簡単に言うと、非連結型は靱帯など周囲組織の安定性が保たれた肘で機能しやすく、連結型は機械的に安定性を得やすい一方で、負荷・摩耗・ゆるみなどを意識した管理がより重要になります(設計や患者要因と失敗率の関連を検討したメタ解析もあります)。1516

Q4: 入院はどれくらい必要ですか?

A: 目安は施設や病態で異なります。東京女子医科大学病院は、術後約1週間でリハビリを開始し、入院期間の目安を2〜3週間程度と説明しています。18

一方、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は、術後早期に可動域訓練を行い、術後1週程度で退院可能としています。11 骨折の治療として行う場合や合併症リスクが高い場合は、これより長くなることもあります。

Q5: 術後、重い物は一生持てませんか?

A: 「一生まったく持てない」という意味ではありませんが、持ち上げる重量や動作に上限を設ける必要があると考えられています。AAOSは、人工肘関節の負荷制限(重い物を持つ/押す/引く動作の制限)を明確に示しています。2

NHSの患者ガイドでも、人工肘関節の保護のために負荷制限を設ける考え方が整理されています。10 具体的な重量の上限は個別に指示されるため、退院時の指導を必ず確認してください。

Q6: 人工肘関節は何年もちますか?

A: 個人差はありますが、長期成績をまとめた研究があります。Evansらは「肘の人工関節はどれくらいもつのか」を患者目線で検討し、10年時点の生存率などを統合して報告しています。21

ただし、活動量、適応(リウマチか外傷か)、インプラント設計、合併症の有無で大きく変わり得ます。長期的には再手術(再置換)が必要になる可能性も視野に入れることが大切です(再置換の原因をまとめたシステマティックレビューもあります)。22

Q7: 合併症はどのくらい起こりますか?

A: 合併症は一定割合で起こり得ます。Parkerらのシステマティックレビューは、現代のTEAにおける合併症を整理し、深部感染、神経障害、ゆるみなどの頻度を報告しています。23

また、再置換(revision)の理由としては、ゆるみ、感染、周囲骨折などが主要因としてまとめられています(TEA再置換の適応をまとめたシステマティックレビュー)。22 重要なのは、異常のサインを早期に見逃さず、医療者に相談することです(勤医協中央病院)。17

Q8: 術後の回復にはどれくらい時間がかかりますか?

A: 早期に動かすリハビリを開始する施設もありますが、機能回復は段階的です。NHSの患者ガイドは、術後経過とリハビリの考え方を示し、個別計画で進める前提を強調しています。10

Cleveland Clinicは、完全な回復には時間がかかり得ることを説明しています。19 実際のスケジュールは、手術理由(リウマチか骨折か)、術式、合併症リスクで変わるため、担当医・リハビリスタッフの指示を優先してください。

結論:この記事から持ち帰ってほしいこと

肘関節置換術は、肘の強い痛みと機能障害に対して有力な選択肢になり得ますが、「適応の見極め」と「術後の生活管理(負荷制限・合併症サインの早期対応)」が成否を左右します。適応としては、関節リウマチの拘縮肘・不安定肘・強直肘や、高度粉砕骨折などが代表例です(聖マリアンナ医科大学)。11

一方で、人工肘関節は負荷に弱く、AAOSが示すように術後の活動制限が重要です。2 「自分は手術が必要なのか」「どのタイプが合うのか」「術後の生活をどう組み立てるのか」を、医療者と一緒に具体的に詰めていきましょう。迷った場合は、説明を受けた上でセカンドオピニオンを検討するのも一つの方法です(勤医協中央病院の同意書にもセカンドオピニオンの選択肢が示されています)。17

この記事の編集体制と情報の取り扱いについて

Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。

本記事は、厚生労働省(e-ヘルスネット、eJIM)国内の大学病院・病院の説明資料、およびAAOS、Mayo Clinic、NHSなどの一次情報を参照し、JHO編集部が内容を整理しました。運営方針は運営者情報ページをご覧ください。

ただし、本サイトの情報は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。痛みが強い、急な腫れ・発熱・神経症状があるなど、気になる症状がある場合は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。

免責事項 本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言や診断、治療に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、治療内容の変更・中止等を検討される際には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  5. 東京女子医科大学病院. 人工肘関節置換術. https://www.twmu.ac.jp/TWUH/medical-care/departments/orthopedic-surgery/services/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%82%98%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%BD%AE%E6%8F%9B%E8%A1%93/(最終アクセス日:2025-12-23)

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