【肛門痛】痔だけじゃないおしりの痛みの原因と受診の目安・セルフケアを徹底解説
消化器疾患

【肛門痛】痔だけじゃないおしりの痛みの原因と受診の目安・セルフケアを徹底解説

「トイレのたびに肛門がピリッと痛む」「座るとおしりがズキズキして仕事に集中できない」「血が出るけれど、恥ずかしくて誰にも相談できない」──。 肛門まわりの痛み(肛門痛)は、多くの人が一度は経験するありふれた症状でありながら、「場所が場所だけに」人に打ち明けにくく、一人で悩みを抱え込みやすい不調です。

日本の大腸肛門病専門医の団体である日本大腸肛門病学会は、痔核(いわゆる痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻を「三大肛門疾患」として挙げており、日本人成人の約半数が痔で悩んだ経験があるとする資料もあります1。 一方で、肛門痛の原因は痔だけではなく、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう:肛門の周りのうみ)、性感染症、炎症性腸疾患、さらには肛門がん・直腸がんなど、多岐にわたります2

また、検査をしても明らかな病気が見つからないのに、肛門の奥や骨盤のあたりに慢性的な痛みが続く「機能性直腸肛門痛」というグループの病気もあり、痛みの背景には筋肉や神経、心理社会的ストレスが複雑に関わっていることもわかっています3

本記事では、日本大腸肛門病学会の診療ガイドラインや国立がん研究センター、Cleveland ClinicやNHSなどの海外の公的情報、Rome IV基準やシステマティックレビューなどの科学的根拠に基づき123、 Japanese Health(JHO)編集部が肛門痛の原因・症状・検査・治療・セルフケア・受診の目安を、できるだけわかりやすく整理しました。 「自分の痛みは痔なのか?」「放置しても大丈夫なのか?」「どのタイミングでどこを受診すればよいのか?」といった疑問に、読み進めながら一つずつ答えていきます。

なお、本記事はあくまで一般的な情報であり、個別の診断や治療方針を決めるものではありません。 強い痛みや不安な症状がある場合は、ここで得た知識を参考にしつつ、迷わず医療機関に相談してください。

Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について

Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。

本記事の内容は、日本大腸肛門病学会が公開している「痔核・痔瘻・裂肛・直腸脱診療ガイドライン」や、国立がん研究センターのがん情報、Cleveland Clinic・NHSなど海外医療機関の解説ページ、Rome IV基準、システマティックレビュー・メタアナリシスなどの一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています123

  • 厚生労働省・自治体・公的研究機関:日本大腸肛門病学会のガイドラインや国立がん研究センターなど、日本人向けの公式情報を優先して参照しています。
  • 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本大腸肛門病学会、Rome Foundation、Cleveland Clinic、NHS、PLOS One、Am J Gastroenterolなどのエビデンスをもとに要点を整理しています345
  • 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:肛門疾患の症状解説や、受診の目安、検査・治療の実際に関する情報として、JCHOや国立病院機構などの資料も活用しています67

AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。

私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会の紹介ページをご覧ください。

要点まとめ

  • 肛門痛(肛門のまわりや肛門の奥の痛み)は、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、肛門周囲膿瘍、痔瘻、感染症、炎症性腸疾患、肛門がん・直腸がん、筋肉や神経のトラブルなど、さまざまな原因で起こります12
  • ほとんどの肛門痛は命にかかわらない良性疾患ですが、「急に強い痛みと腫れが出た」「発熱を伴う」「大量の出血がある」「体重減少や貧血が続く」といった場合は、肛門周囲膿瘍やがんなど緊急性の高い病気のサインであることがあり、早めの受診が重要です28
  • 日本大腸肛門病学会のガイドラインでは、三大肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)に対して、生活習慣の見直し(食物繊維・水分・排便習慣)、外用薬、日帰り処置(ゴム輪結紮術など)、手術などを組み合わせて治療することが推奨されています1
  • 検査ではっきりした異常が見つからないのに肛門や骨盤の痛みが続く場合は、Rome IV基準で定義される「機能性直腸肛門痛」(肛門挙筋症候群や一過性直腸肛門痛)などが考えられ、骨盤底リハビリテーションや薬物療法、心理的サポートが役立つことがあります39
  • トイレでスマートフォンを長時間見る習慣は、便座に座る時間を延ばし、痔核のリスクを約46%高める可能性があると報告されており10、肛門痛・痔の予防のためには「トイレは用を足したら早めに立つ」ことが大切です。
  • 妊娠中や出産後、加齢とともに肛門疾患は増えますが、多くの場合は適切なセルフケアと医療機関での治療により、痛みや生活への影響を大きく減らすことができます16
  • 本記事のチェックリストや受診の目安を参考にしながらも、「心配なときは早めに相談」を合言葉に、自己判断に頼りすぎず医療機関のサポートを活用することが大切です。

第1部:肛門痛の基本と日常生活の見直し

まずは、「肛門痛とは何か」「どの部分が痛んでいるのか」といった基本的なところから整理していきます。 肛門の痛みは、体の構造と生活習慣の両方が関わるため、仕組みをざっくり理解しておくと、自分の症状を客観的に振り返りやすくなります23

1.1. 肛門・直腸の構造と「痛み」を感じる場所

肛門は、直腸の一番下にある出口の部分で、内側の粘膜と外側の皮膚が出会う、とてもデリケートなエリアです。 簡単にいうと、体の内側から順に「直腸」「肛門管」「肛門周囲の皮膚」がつながっており、それぞれで痛みの感じ方や原因となる病気が少しずつ異なります2

肛門管の内側、特に「歯状線」と呼ばれる境目より上の部分は、痛みを感じる神経が比較的少なく、ここにできる痔核(内痔核)は小さいうちはほとんど痛みを伴いません。 一方、歯状線より外側の皮膚部分には、触覚や痛覚をつかさどる神経が密集しており、ここに血栓性外痔核(血豆のような痔)ができると、座ることもつらいほどの鋭い痛みが出ます16

さらに、肛門の奥には肛門挙筋などの骨盤底筋群があり、ここが過度に緊張したりけいれんしたりすると、検査で異常が見つからないのに肛門の奥や骨盤のあたりに重く痛い感覚が続く「機能性直腸肛門痛」につながることがあります39

1.2. 肛門痛のタイプ(急性・慢性、局所疾患・機能性・神経障害性)

肛門痛は、痛みの続く期間や原因の種類によって大きく分類することができます。 Cleveland Clinicの解説やRome IVの分類では、次の3つの観点から整理することが推奨されています23

  • 急性 vs 慢性:数日〜数週間で治まる急性の痛みか、3か月以上続く慢性の痛みか。
  • 局所の病気(器質的疾患)かどうか:痔核、裂肛、痔瘻、肛門周囲膿瘍、がんなど、目に見える病変があるか。
  • 機能性・神経障害性の痛み:検査で明らかな病変は見つからないが、筋肉や神経の働き方の変化によって痛みが続いているか。

特に慢性的な肛門痛では、「検査で何もないと言われたから大したことはない」と片付けてしまうと、痛みと不安が長引き、生活の質(QOL)が大きく低下してしまうことが報告されています9。 後半の章では、機能性直腸肛門痛や神経障害性疼痛についても詳しく解説します。

1.3. 悪化させてしまうNG習慣 ― スマホトイレ・長時間座位など

肛門痛の背景には、「肛門の血管や筋肉に負担をかけ続ける生活習慣」が隠れていることが少なくありません。 日本大腸肛門病学会や海外のレビューでは、次のような習慣が痔核や裂肛のリスクを高めると指摘されています14

  • 慢性的な便秘や、硬い便を無理に出そうとする「いきみ」:肛門に大きな圧力がかかり、痔核の悪化や裂肛の原因になります。
  • 水分や食物繊維の不足:便が硬くなり、排便時に粘膜や皮膚を傷つけやすくなります。
  • デスクワークや運転などによる長時間の座り姿勢:肛門周囲の血管が圧迫され、うっ血しやすくなります。
  • トイレでの長居(特にスマートフォン使用):PLOS Oneの観察研究では、トイレでスマートフォンを使う人は、そうでない人に比べて痔核のリスクが約46%高いことが報告されています10
  • 辛いものやアルコールの過剰摂取:人によっては肛門粘膜を刺激し、痛みやかゆみを悪化させることがあります。

特にスマートフォンと肛門痛の関係は、近年注目されているトピックです。 上記の研究では、トイレでスマートフォンを使用する人の37.3%が1回の排便で5分以上便座に座るのに対し、スマートフォンを使わない人では7.1%にとどまっていました10。 「ついSNSや動画を見ているうちに10分以上座っていた」という習慣が、肛門の血管に負担をかけ続けている可能性があります。

表1:肛門痛を悪化させやすい生活習慣とその背景
こんな習慣はありませんか? 考えられる背景・肛門への影響
トイレにスマートフォンを持ち込み、10分以上座っている 長時間の座位で肛門周囲の静脈がうっ血し、痔核や肛門痛のリスクが高まる10
便が硬く、毎回強くいきまないと出ない 直腸・肛門の粘膜が傷つきやすく、裂肛や痔核の悪化につながる14
デスクワークや運転で1日中座りっぱなし 肛門周囲の血管が圧迫され続け、うっ血や炎症、痛みを招きやすくなる4
妊娠中・産後で、運動不足かつ便秘気味 おなかの圧力が高まり、血流の変化や便秘により痔核・裂肛が生じやすくなる16
辛いものやアルコールをよくとり、翌日に肛門のヒリヒリ感が出る 粘膜や皮膚への刺激により、炎症や痛み、かゆみが一時的に強くなることがある2

こうした習慣は、どれか一つだけでも肛門痛のきっかけになりますが、複数が重なるとリスクはさらに高まります。 後半の「改善アクションプラン」の章では、具体的な生活習慣の見直し方法をご紹介します。

第2部:身体の内部要因 — 三大肛門疾患とその他の原因

生活習慣を見直しても痛みが続く場合、背景には「三大肛門疾患」と呼ばれる痔核・裂肛・痔瘻をはじめとする、具体的な病気が隠れていることが多くあります。 ここでは、日本大腸肛門病学会のガイドラインや国立病院機構の解説をもとに、代表的な病気とその特徴を整理します167

2.1. 痔核(内痔核・外痔核・血栓性外痔核)

痔核(じかく)は、いわゆる「痔」と呼ばれるものの中で最も多い病気です。 直腸と肛門の境目にあるクッション状の血管の集まり(痔核)が、うっ血して膨らんだり、下にずれてきたりすることで、出血や違和感、痛みが生じます14

日本大腸肛門病学会の資料やJCHOの解説では、痔核は大きく次の3つに分けられます16

  • 内痔核:肛門管の内側(歯状線より上)にできる痔核。神経が少ないため、初期は痛みがほとんどなく、排便時の鮮血(便や紙につく赤い血)で気づかれることが多いです。
  • 外痔核:肛門の外側の皮膚の下にできる痔核。神経が豊富な部分のため、腫れや痛み、違和感が出やすいです。
  • 血栓性外痔核:外痔核の中でも、血の塊(血栓)が急にできて強く腫れ上がった状態。突然のおしりの激しい痛みや、触ると硬いしこりとして感じることが特徴です。

大規模な疫学研究によると、痔核は中年以降で増加し、男女ともによく見られる病気です。 海外のデータでは、症状のある痔核の有病率は一般人口で約4.4%、一部の外来患者では13.3%と報告されており、日本でも生涯のどこかで痔に悩む人が3〜5割程度いると推定されています14

2.2. 裂肛(切れ痔) ― 排便時のピリッとした激痛

裂肛(れっこう、切れ痔)は、肛門の出口に近い粘膜が裂けてしまう病気です。 便が硬いときや、強くいきんだときに、紙で指を切ったような小さな傷が肛門の縁に生じるイメージです6

日本大腸肛門病学会の患者向け情報によると、裂肛の典型的な症状は次の通りです6

  • 排便時に「ピリッ」「ビリッ」と裂けるような痛みが走る。
  • 排便後もしばらく(数分〜数時間)ズキズキとした痛みが続くことがある。
  • 便やトイレットペーパーに少量の鮮血が付着する。

裂肛は若い人や女性、とくに出産後の女性に多く、慢性的な便秘や硬い便が主な原因とされています6。 痛みを恐れて排便を我慢すると、さらに便が硬くなり、また裂けてしまう──という悪循環に陥りやすい点が大きな問題です。

2.3. 肛門周囲膿瘍と痔瘻 ― 強い痛みと発熱を伴う緊急疾患

肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)は、肛門の内側にある小さな腺(肛門腺)に細菌が入り込み、うみがたまる病気です。 京都医療センターやJCHO東京城東病院の解説によると、肛門周囲膿瘍の特徴は次のようなものです7

  • 肛門の周りが急に赤く腫れ、触ると強い痛みがある。
  • 歩いたり座ったりするのがつらく、夜も眠れないほどの痛みになることがある。
  • 発熱、寒気、全身のだるさを伴うことがある。

膿が皮膚の近くまでたまると、表面からも赤く腫れた「できもの」として触れるようになります。 放置すると膿が自壊して皮膚から出てくることもありますが、その後に肛門内と皮膚をつなぐトンネル状の通り道(痔瘻)が残り、痛みや分泌物が続く原因になります17

肛門周囲膿瘍は、抗生物質だけでは完治せず、多くの場合で外科的な切開・排膿が必要になる「緊急性の高い肛門疾患」です1。 強い痛みと腫れ、発熱がある場合は、我慢せず早めに救急外来や肛門科を受診することが重要です。

2.4. 肛門がん・直腸がんなどの悪性腫瘍

肛門の痛みは、多くの場合は痔などの良性疾患によるものですが、まれに肛門がんや直腸がんなど悪性腫瘍のサインであることもあります。 国立がん研究センターの解説によると、肛門がんでは次のような症状がみられることがあります8

  • 肛門の痛みや違和感、しこり。
  • 出血や分泌物、肛門周囲の腫れ。
  • 排便時の圧迫感や「何かが詰まっている」ような感覚。

直腸がんや大腸がんでも、血便や下痢・便秘のくり返し、体重減少、貧血、腹痛などがみられることがあり、「痔だと思い込んでいたが、検査をしたらがんだった」というケースも報告されています8

特に40〜50代以降で、出血が続く・便の形が細くなってきた・体重が減ってきた・貧血を指摘されたといった場合には、痔だけでなく大腸がん・直腸がんの可能性も視野に入れて、大腸内視鏡検査を検討することが推奨されています1

2.5. 感染症(性感染症を含む)・炎症性腸疾患・皮膚炎など

肛門痛の原因は、三大肛門疾患やがんだけではありません。 Cleveland ClinicやNHSの解説では、次のような疾患も肛門痛の原因として挙げられています25

  • 性感染症(STI):淋菌やクラミジア、梅毒、ヘルペスウイルスなどが肛門・直腸に感染すると、痛みや出血、分泌物、かゆみなどを引き起こすことがあります。
  • 炎症性腸疾患(IBD):クローン病や潰瘍性大腸炎では、肛門周囲の潰瘍や痔瘻、狭窄、膿瘍などが生じ、慢性的な肛門痛や分泌物の原因となります。
  • 放射線性直腸炎:骨盤部のがんに対する放射線治療後に、直腸粘膜が炎症を起こし、痛みや出血が続くことがあります。
  • 皮膚炎・湿疹:アレルギーやかぶれ、汗や分泌物による刺激で肛門周囲の皮膚が炎症を起こし、ヒリヒリした痛みやかゆみを伴うことがあります。

これらの疾患では、肛門だけでなく全身状態や排便の変化、発熱など他の症状を伴うことが多く、自己判断が難しい場合は専門的な評価が必要です。

2.6. アナルセックス・外傷・医療行為に伴う肛門痛

肛門はもともと繊細な組織であるため、アナルセックスや大きな浣腸、座薬の誤った挿入などにより、粘膜や皮膚が傷ついて痛みが出ることがあります2。 特に潤滑剤を使わない、十分な時間をかけない、痛みを無視して続けてしまう、といった状況では、裂肛や出血、感染症のリスクが高まります。

大腸内視鏡検査や肛門周囲の手術後など、医療行為に伴って一時的な痛みが生じることもありますが、多くは数日〜1週間程度で軽快します。 ただし、「痛みがどんどん強くなる」「発熱が出てきた」「腫れが増してきた」といった場合には、感染や膿瘍などの合併症が隠れている可能性があるため、早めに医療機関へ連絡しましょう17

第3部:機能性直腸肛門痛と神経のトラブル

「検査では異常がないと言われたのに、肛門の奥がずっと痛い」「レントゲンや内視鏡も問題ないのに、座ると骨盤まわりが重くつらい」──。 このような場合に考えられるのが、Rome IV基準で定義される「機能性直腸肛門痛」と、神経障害性の疼痛です39

3.1. 機能性直腸肛門痛とは?(肛門挙筋症候群・一過性直腸肛門痛)

機能性直腸肛門痛(functional anorectal pain)とは、内視鏡や画像検査で明らかな病変が見つからないにもかかわらず、肛門や直腸のあたりに痛みが続く状態の総称です。 Rome FoundationがまとめたRome IV基準では、主に次の2つの病型に分けられています3

  • 肛門挙筋症候群(levator ani syndrome):肛門の奥や骨盤のあたりに、30分以上続く重い痛みや圧迫感が繰り返し起こるタイプ。診察時に肛門挙筋を押すと痛みが再現されることがあります。
  • 一過性直腸肛門痛(proctalgia fugax):突然、肛門の奥に鋭い痛みが数秒〜数分だけ出現し、その後は何事もなかったように治まるタイプ。夜間に起こることもあり、「目が覚めるほどの激痛がたまに走るが、病院に行くと異常がないと言われる」という方も少なくありません。

これらの痛みの背景には、骨盤底筋群の過緊張や自律神経のバランス、ストレスや不安などが絡み合っていると考えられています。 日本のPain Clinic誌の総説や慢性肛門痛の研究でも、心理的要因と筋機能の変化が密接に関係していることが指摘されています9

3.2. 仙骨・尾骨痛、陰部神経痛などの神経障害性疼痛

肛門の痛みとして感じられるものの中には、実際には骨(尾骨・仙骨)や神経(陰部神経)などのトラブルが関与しているケースもあります3。 例えば、転倒しておしりを強く打った後に尾骨が痛む場合や、長時間の自転車・デスクワークで骨盤底の神経が圧迫され、肛門や会陰部に焼けるような痛みやしびれが出る陰部神経痛などが挙げられます。

神経障害性疼痛では、ピリピリ・ジンジンといったしびれ感、触れていないのに痛む、服がこすれただけでつらい、という特徴的な症状がみられることがあります。 痛み止めの中でも、抗うつ薬や抗てんかん薬など「神経の興奮を抑えるタイプの薬」が効きやすいことがあり、一般的な鎮痛薬だけでは十分に改善しない場合もあります3

3.3. 慢性肛門痛と不安・うつ・ストレスの関係

慢性的な肛門痛は、それ自体がつらいだけでなく、「がんだったらどうしよう」「人に話せない」という不安や孤立感を強め、心理的な負担を大きくします。 日本のリハビリテーション関連の研究でも、慢性肛門痛の患者さんでは、不安やうつ症状、睡眠障害の合併が多いことが報告されています9

一方で、不安やうつ状態が続くと、痛みの感じ方が敏感になったり、筋肉がこわばりやすくなったりすることも知られており、「痛み → 不安・抑うつ → 筋緊張 → さらに痛み」という悪循環に陥ることがあります。 そのため、慢性肛門痛の治療では、単に肛門だけを見るのではなく、睡眠、ストレス、働き方、人間関係なども含めた全体像を一緒に整理していくことが大切です39

3.4. 「検査しても異常なし」と言われたときの向き合い方

「内視鏡もCTも問題ないと言われたのに、痛みは現に存在する」「『気のせい』と言われたようでつらかった」という声は、慢性肛門痛の方からよく聞かれます。 しかし、Rome IV基準や慢性疼痛の研究では、「検査で異常が見つからない痛み」も、筋肉や神経、脳の痛みの処理の仕方が変化することで生じる「れっきとした病態」であると位置づけられています39

大切なのは、「命に関わる重い病気が隠れていないか」をきちんと除外したうえで、「痛みとうまく付き合うための治療・リハビリ・生活の工夫」を組み合わせていくことです。 後半の「改善アクションプラン」の章では、骨盤底リハビリテーションやストレッチ、呼吸法など、今日から試せる方法もご紹介します。

第4部:症状チェックリストと受診の目安・検査の流れ

ここまで見てきたように、肛門痛の原因はさまざまです。 「自分の場合は様子を見てもよいのか」「今すぐ病院に行くべきか」を判断するには、痛みの特徴や伴う症状を整理することが役立ちます。

4.1. こんな肛門痛は要注意 ― チェックリスト

以下は、UbieやNHS、Cleveland Clinicなどの症状解説を参考にまとめた、肛門痛に関する注意サインの一例です2511。 あくまで目安であり、当てはまるからといって必ず重い病気というわけではありませんが、受診を迷う際の参考にしてください。

表2:肛門痛の自己チェックリスト
症状・状況 考えられる主な背景・受診の目安
排便のときだけピリッと痛み、少量の鮮血が付く 裂肛や初期の内痔核が考えられます。数日〜1週間セルフケアをしても改善しない場合は、肛門科・消化器内科の受診を検討しましょう。
肛門の外側に硬いしこりができて、とても痛い 血栓性外痔核などが疑われます。痛みが強い場合は、早めに肛門科を受診すると、痛みを和らげる処置や薬が提案されることがあります。
肛門の周りが赤く腫れ、触れなくてもズキズキ痛む。発熱や寒気がある 肛門周囲膿瘍の可能性があります。救急外来を含め、早急な受診が推奨されます7
数か月以上、肛門の奥に重い痛みや違和感が続くが、検査で異常がないと言われた 機能性直腸肛門痛などが考えられます。痛み外来や骨盤底リハビリを行う施設で相談すると、治療の選択肢が広がることがあります39
血便が続く、便が細くなってきた、体重が減ってきた、貧血を指摘された 痔だけでなく大腸がん・直腸がんの可能性もあり、大腸内視鏡検査を含む精査が推奨されます18

4.2. 救急受診が必要なケース

次のような場合は、自己判断で様子を見続けるのではなく、救急外来や時間外診療の受診を検討してください2511

  • 肛門の周りが急に強く腫れて、じっとしていても耐えがたいほど痛い。
  • 発熱(38℃以上)、寒気、全身のだるさを伴う。
  • トイレのたびに大量の血が出る、便器が真っ赤になる、立ち上がるとふらつく。
  • 重い基礎疾患(糖尿病、免疫不全、がん治療中など)があり、軽いと思っていた肛門痛が急激に悪化した。

日本では、急激な体調の悪化がある場合、119番通報や救急相談センターの利用も選択肢になります。 「こんなことで救急車を呼んでいいのか」と迷ったときは、一人で抱え込まず、地域の救急相談窓口に電話してみるのも一つの方法です。

4.3. 病院で行う検査の流れ

肛門の診察は「恥ずかしい」「痛そう」というイメージから、受診のハードルが高くなりがちです。 しかし、日本大腸肛門病学会や国立病院機構の解説によると、実際の診察はできるだけ痛みと羞恥心に配慮しながら進められます17。 ここでは、一般的な流れを簡単にご紹介します。

  • 問診:いつから痛いのか、どのようなときに痛むか(排便時・座るとき・歩くときなど)、出血の有無、便の状態、既往歴や内服薬などを詳しく聞かれます。
  • 視診:横向きに寝た状態などで肛門周囲を観察し、腫れやしこり、傷、瘻孔(穴)などがないか確認します。
  • 直腸診(指診):医師が手袋をして潤滑剤をつけた指を肛門からそっと入れ、内部のしこりや痛みの場所、筋肉の緊張具合を確かめます。
  • 肛門鏡検査:細い筒状の器具(肛門鏡)を用いて、肛門管内部や直腸下部の様子を観察します。痔核や裂肛、炎症の有無などがより詳しくわかります。
  • 大腸内視鏡検査:出血や体重減少など、大腸がん・炎症性腸疾患などが疑われる場合には、大腸全体を観察する内視鏡検査が行われることがあります。
  • 画像検査(超音波・CT・MRIなど):痔瘻の範囲を詳しく調べたいときや、深部まで広がる膿瘍、腫瘍の広がりなどを評価する際に用いられます。

検査前に不安な点があれば、遠慮なく医療者に質問して構いません。 「特に痛みが心配」「できるだけ露出を少なくしてほしい」といった希望も、言葉にして伝えることで、検査の方法を工夫してもらえる場合があります。

4.4. 何科を受診すべき?

肛門痛でまず相談できる診療科としては、次のような選択肢があります2511

  • 肛門外科・大腸肛門病専門医:痔核・裂肛・痔瘻・肛門周囲膿瘍など、肛門疾患全般を専門的に診る診療科です。三大肛門疾患が疑われる場合や、慢性的な肛門痛で悩んでいる場合に特に適しています。
  • 消化器内科:肛門痛に加えて腹痛や下痢・便秘、血便などの消化器症状がある場合に相談しやすい診療科です。必要に応じて大腸内視鏡検査などが行われます。
  • 婦人科:女性で、月経周期や妊娠・出産、更年期との関連が気になる場合には、婦人科との連携が役立つことがあります。
  • ペインクリニック・心療内科:検査で器質的な異常がみつからない慢性肛門痛や、ストレス・不安が強い場合には、痛みの専門外来や心療内科が選択肢になります。

日本大腸肛門病学会のサイトなどでは、「大腸肛門病専門医」を地域ごとに検索できるページも用意されています1。 通いやすさや自分との相性も大切にしながら、気軽に相談できる医療機関を見つけていきましょう。

第5部:今日から始める改善アクションプラン

肛門痛の治療は、「原因となる病気への医療的なアプローチ」と、「日常生活の見直し」の両輪で進めていくことが重要です。 ここでは、日本大腸肛門病学会のガイドラインや国際的なシステマティックレビューをもとに、代表的な治療・セルフケアのポイントを整理します1412

表3:肛門痛の改善アクションプラン
ステップ アクション 具体例
Level 1:今夜からできること 便通と肛門への負担を少しでも軽くする トイレでのスマホをやめて5分以内に済ませる/水分をこまめにとる/お風呂で肛門まわりを温める(シットツ浴)など
Level 2:今週から意識したい生活習慣 食物繊維と運動を増やし、座りっぱなしを避ける 毎食野菜や海藻、豆類を取り入れる/1日20〜30分のウォーキング/1時間に1回は立ち上がってストレッチなど
Level 3:数週間〜数か月かけて取り組むこと 医療機関での治療とリハビリを組み合わせる 痔核に対するゴム輪結紮術や手術の検討/裂肛に対するニトログリセリン軟膏やボツリヌス毒素注射/機能性肛門痛に対する骨盤底リハビリテーションなど

5.1. 生活指導と保存的治療(食物繊維・便秘対策・シットツ浴)

痔核や軽度の裂肛など、多くの肛門疾患に共通して重要なのが「便通のコントロール」と「肛門周囲を清潔かつ温かく保つこと」です14

  • 食物繊維の増量:Am J Gastroenterolのメタアナリシスでは、食物繊維の補給により痔核の症状や出血が有意に減少し、症状が残るリスク比が約0.47に低下したと報告されています4。これは、便通を整え、いきみを減らすことで肛門への負担を軽くすることに役立ちます。
  • 十分な水分摂取:1日を通してこまめに水やお茶を飲み、便が硬くなりすぎないようにします(ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、主治医の指示を優先してください)。
  • シットツ浴(座浴):ぬるめのお湯(38〜40℃程度)を洗面器や専用の座浴器にため、おしり全体を5〜10分ほど温める方法です。肛門周囲の血行を良くし、痛みや筋肉のこわばりを和らげる効果が期待されています1
  • 肛門周囲のスキンケア:香料やアルコールを含む強い石けん・ボディソープは避け、ぬるま湯でやさしく洗う程度にとどめます。トイレットペーパーで強くこする代わりに、洗浄機能付き便座や濡れたやわらかい紙を使う方法もあります。

5.2. 外用薬・座薬の役割と限界

市販薬を含む外用薬や座薬は、痔核や裂肛による痛み・出血・かゆみを一時的に和らげるのに役立つことがあります。 日本大腸肛門病学会のガイドラインやNHSの解説では、ステロイドや局所麻酔薬、血行改善成分などを含む薬が一定期間使用されることがあるとされています15

ただし、外用薬だけで根本原因が治るわけではありません。 症状が数週間以上続く、悪化してきた、再発をくり返す、といった場合には、自己判断で市販薬を続けるのではなく、医療機関で原因を確認することが大切です。

5.3. 痔核の日帰り治療と手術

痔核が進行して出血や脱出(いきむと痔が飛び出す)が目立つ場合には、日帰りでできる処置や手術が検討されます。 日本大腸肛門病学会のガイドラインや国際的なレビューによると、代表的な治療として次のようなものがあります112

  • ゴム輪結紮術(RBL):内痔核の根元をゴム輪で縛り、血流を止めて小さくしていく方法。痛みが比較的少なく、外来で施行できるため、痔核の第一選択となることが多いとされています。
  • 硬化療法:痔核に硬化剤を注入し、血管をつぶして出血や脱出を抑える方法です。
  • 従来型の痔核手術:症状の強い痔核に対して、痔の部分を切除する手術(Milligan–Morgan法、Ferguson法など)が行われます。痛みはありますが、長期的な再発率は低いとされています12
  • HAL-RARやPPHなど:痔核の血流を遮断したり、脱出部分を持ち上げて固定したりする新しい術式もあり、短期的な痛みが少ない一方で、施設や症例により再発率などの評価が分かれるところもあります。

5.4. 裂肛の治療 ― ニトログリセリン軟膏、カルシウム拮抗薬、ボツリヌス毒素注射、LIS

慢性化した裂肛では、肛門の内側の筋肉(内肛門括約筋)が常に強く緊張し、血流が悪くなって傷が治りにくくなっていることが多いとされています113。 このような場合には、筋肉をゆるめて血流を改善する治療が検討されます。

  • ニトログリセリン軟膏:血管を広げ、内肛門括約筋の緊張を和らげる外用薬です。プラセボと比較して裂肛の治癒率を高める一方で、頭痛などの副作用が出やすいことが報告されています13
  • カルシウム拮抗薬軟膏(ジルチアゼムなど):ニトログリセリンと同様に筋肉をゆるめる働きがあり、頭痛などの副作用が少ないとする報告もあります13
  • ボツリヌス毒素注射:内肛門括約筋にボツリヌス毒素を注射して、一時的に筋肉の緊張を抑える方法です。裂肛の治癒率向上とQOL改善が報告されていますが、ガスや便の一時的なもれが起こることもあります14
  • 側方内括約筋切開術(LIS):内肛門括約筋の一部を外科的に切開して緊張を和らげる手術で、長期的な痛みの再発率が低いとされています。Dis Colon Rectum誌の研究では、ニトログリセリン治療と比較して再発率が低く、失禁のリスクも長期的には大きく増加しないと報告されています15

5.5. 機能性直腸肛門痛へのアプローチ

機能性直腸肛門痛や神経障害性疼痛に対しては、「痛みをゼロにする」というよりも、「日常生活を取り戻すこと」を目標に、多角的なアプローチが推奨されています39

  • 骨盤底リハビリテーション・バイオフィードバック:骨盤底筋群の緊張を和らげたり、排便の仕方をトレーニングしたりする方法です。専門の理学療法士や看護師が、筋電図や圧測定装置を使いながら指導することもあります。
  • 薬物療法:神経の興奮を抑える薬(神経障害性疼痛薬)や、筋肉の緊張を和らげる薬、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬などが組み合わされることがあります。
  • 神経ブロック:陰部神経や仙骨神経の近くに局所麻酔薬やステロイドを注射し、一時的に痛みの伝わり方をリセットするような治療が行われることもあります。
  • 心理社会的サポート:認知行動療法やセルフコンパッション(自分への思いやり)を取り入れたカウンセリングなどが、痛みと不安の悪循環を断ち切るのに役立つ場合があります。

第6部:妊娠・出産、高齢期と肛門痛 — 仕事や生活への影響

肛門痛は、単なる「おしりの痛み」にとどまらず、仕事や家事、育児、介護、性生活など、日々の生活に大きな影響を及ぼすことがあります。 ここでは、ライフステージごとの特徴や、QOL(生活の質)との関係について触れておきます1916

6.1. 妊娠中・産後に多い肛門痛

妊娠中や産後は、ホルモンバランスの変化やおなかの圧力の上昇、運動量の低下、便秘などが重なり、痔核や裂肛が非常に起こりやすい時期です1。 出産時のいきみや会陰切開の影響で、産後しばらく肛門の痛みや出血が続く方も少なくありません。

授乳中は薬の使用に慎重になる必要がありますが、食物繊維や水分の調整、シットツ浴、肛門周囲のスキンケアなど、体への負担が少ない対策から優先して取り組むことが推奨されます。 市販の痔の薬を使う場合でも、成分や使用期間について、産科や小児科、薬剤師に相談しておくと安心です5

6.2. 高齢期に増える肛門疾患とフレイル

加齢とともに、筋力の低下や便秘、持病や服用薬の影響により、肛門疾患のリスクは高まります1。 また、歩行やトイレ動作の負担が増えると、「痛いからトイレに行きたくない」「転んだら怖い」と排便を我慢してしまい、さらに便秘や肛門痛が悪化する悪循環に陥ることもあります。

高齢のご家族が肛門痛を訴えたとき、「年のせい」と片付けず、痔核や裂肛だけでなく、肛門がん・直腸がん・炎症性腸疾患・薬剤性の便秘など、さまざまな可能性を念頭に置きながら、受診をサポートしていくことが大切です8

6.3. 仕事・学業・対人関係への影響

肛門痛があると、長時間座り続ける会議や授業、電車通勤、長距離運転などがつらくなり、「仕事に行きたくない」「人前でトイレに立つのが恥ずかしい」といった悩みにつながることがあります16。 痔核や裂肛の患者さんを対象としたQOL研究では、症状が重くなるほど、身体面だけでなく精神面(気分の落ち込み、不安)や社会生活(仕事・家事・対人関係)のスコアも低下することが報告されています1617

一方で、適切な治療や生活習慣の見直しにより、QOLが大きく改善することも明らかになっています。 「我慢すればそのうち慣れる」ではなく、「できる限り痛みを軽くして、自分らしい生活を取り戻す」という視点を大切にしていきましょう。

よくある質問

Q1: 肛門が痛いとき、必ず痔なのでしょうか?大腸がんの可能性もありますか?

A1: 肛門痛の原因として最も多いのは、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)、肛門周囲膿瘍、痔瘻などのいわゆる「痔」の仲間です16。 しかし、国立がん研究センターや海外のガイドラインによると、肛門がんや直腸がん、炎症性腸疾患、性感染症、機能性直腸肛門痛など、痔以外の病気が原因となることもあります28

特に、「出血が続く」「便が細くなってきた」「体重が減ってきた」「貧血を指摘された」といった場合は、痔だけでなく大腸がん・直腸がんの可能性も視野に入れて、大腸内視鏡検査を含めた精査が推奨されています18。 不安な症状があるときは、自己判断で「痔だろう」と決めつけず、早めに消化器内科や肛門科に相談しましょう。

Q2: 排便時だけ肛門がピリッと痛み、少し血が付きます。どんな病気が考えられますか?

A2: 排便時の一瞬の「ピリッ」とした痛みと少量の鮮血は、裂肛(切れ痔)の典型的な症状として知られています6。 一方で、初期の内痔核でも、排便時の出血が主な症状となることがあり、痛みがあまりないこともあります1

数日程度で落ち着く軽い症状であれば、食物繊維と水分の調整、シットツ浴、肛門まわりをこすりすぎないなどのセルフケアで様子を見ることもあります4。 ただし、痛みや出血が1〜2週間以上続く、悪化してきた、頻度が増えてきた、といった場合には、一度肛門科や消化器内科で診察を受けることをおすすめします。

Q3: 肛門の外側にしこりができて、とても痛いです。これは何ですか?

A3: 肛門の縁に急に硬いしこりができて強い痛みが出た場合、血栓性外痔核(血の塊ができた外痔核)が疑われます6。 座ったり歩いたり、衣服が触れただけでも痛みが強く、数日のうちに少しずつ軽くなっていくこともあれば、痛みが続いてつらいこともあります。

また、肛門周囲膿瘍の初期でも「痛みを伴うしこり」が見られることがあり、発熱や全身のだるさを伴う場合は特に注意が必要です7。 強い痛みや発熱、赤い腫れがあるときは、早めに肛門科や救急外来を受診してください。

Q4: トイレでスマホを見ると痔になりやすいって本当ですか?

A4: PLOS One誌に掲載された研究では、トイレでスマートフォンを使用する人は、使用しない人に比べて痔核のリスクが約1.46倍(約46%増)であると報告されています10。 これは、スマホを見ることでトイレに長居し、便座に座っている時間が長くなることが、大きな要因と考えられています。

実際、この研究ではスマホ使用者の約37%が5分以上便座に座る一方、非使用者では約7%にとどまっていました10。 肛門の血管への負担を減らすためには、「トイレにはスマホを持ち込まない」「用を足したら5分以内に立ち上がる」といったルールを決めておくとよいでしょう。

Q5: 検査で異常がないと言われましたが、肛門の奥がずっと痛みます。気のせいなのでしょうか?

A5: 「検査で異常がない=問題がない」というわけではありません。 Rome IV基準では、検査で明らかな病変が見つからないにもかかわらず、肛門や直腸の痛みが続く状態を「機能性直腸肛門痛」として位置づけており、筋肉や神経、ストレスなどの要因が関わる病態であるとされています39

痛みは主観的なものであり、「気のせい」と片付けるべきものではありません。 痛み外来や骨盤底リハビリを行う施設などで相談すると、薬物療法やリハビリ、神経ブロック、心理的サポートなど、痛みとうまく付き合うための選択肢が見つかることがあります。

Q6: 妊娠中・授乳中に肛門が痛いとき、市販の痔の薬を使っても大丈夫ですか?

A6: 妊娠中・授乳中は、薬が赤ちゃんに与える影響も考慮する必要があるため、自己判断で市販薬を長期間使用するのは避けたほうが安心です15。 一方で、食物繊維と水分の調整、シットツ浴、肛門周囲のスキンケアなど、副作用の少ないセルフケアは積極的に取り入れられることが多いとされています。

痛みや出血がつらい場合は、産科や肛門科、小児科、薬剤師などに相談し、妊娠中・授乳中でも比較的安全性が確認されている成分や使用期間についてアドバイスを受けてください。 我慢しすぎるとストレスや睡眠不足が強まり、育児にも影響してしまうため、「一人で抱え込まない」ことが何より大切です。

Q7: 手術をすると一生トイレのコントロールが悪くなると聞いて不安です。

A7: 痔核や裂肛の手術では、肛門の筋肉(括約筋)に近い部分を扱うことが多いため、「失禁が起こるのでは」と不安に感じる方は少なくありません。 しかし、適切な術式の選択と経験豊富な術者による手術であれば、長期的に重い失禁が起こるリスクは比較的低いとする報告が多くあります1215

例えば、裂肛に対する側方内括約筋切開術(LIS)では、長期フォローアップ研究において、ニトログリセリン治療群よりも再発率が低く、失禁のリスクも大きく増加しなかったと報告されています15。 もちろん、個々のリスクは年齢や既往症、筋力などによって変わるため、手術を検討する際には、メリットとリスクを主治医とじっくり話し合うことが大切です。

Q8: 肛門の痛みがあっても、運動やスポーツをしても大丈夫ですか?

A8: 多くの場合、軽いウォーキングやストレッチなどの適度な運動は、便通の改善やストレス軽減につながり、肛門痛の予防・改善に役立つとされています4。 ただし、痛みが強い急性期や、肛門周囲膿瘍などの感染症が疑われる場合は、無理をせず安静と受診を優先しましょう7

重いものを持ち上げる筋トレや、長時間サドルにまたがる自転車競技など、肛門や骨盤底に強い負荷がかかるスポーツは、一時的に控えたほうがよい場合もあります。 運動の可否について不安があるときは、主治医に具体的なメニューを伝えたうえで相談してください。

結論:この記事から持ち帰ってほしいこと

肛門痛は、「恥ずかしい」「きっと痔だろう」と軽く見られがちな一方で、ときに肛門周囲膿瘍や大腸がんなど、命に関わる病気のサインであることもあります18。 また、検査では異常が見つからなくても、機能性直腸肛門痛や神経障害性疼痛として、生活を大きく制限する痛みが続いてしまうこともあります39

日本大腸肛門病学会のガイドラインや国内外の研究は、「早めの相談」と「生活習慣の見直し」によって、多くの肛門痛が軽減できることを示しています1412。 トイレでの長居を避ける、便通を整える、シットツ浴で温めるなど、今日からできる小さな一歩も、痛みの悪循環を断ち切る大切なきっかけになります。

「誰にも言えない」と一人で抱え込まず、気になる症状や不安があれば、肛門科や消化器内科、かかりつけ医に相談してみてください。 本記事で得た知識が、あなたが自分の体のサインに耳を傾け、必要なサポートを受け取るための一助となれば幸いです。

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参考文献

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